(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の不織布濾過材によってもなお、吸気脈動に対抗してダスト抜けを完全に防止することには難しく、脈動によるダスト抜けをより効果的に抑制できる不織布濾過材が求められるに至っている。単純にダスト抜けを抑制しようとしても、通気抵抗や寿命と両立することが難しい。
本発明の目的は、濾過材の通気抵抗や寿命との性能バランスを保ちながら、脈動によるダスト抜けを効果的に抑制できる濾過材不織布濾過材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、自動車の内燃機関に供給する空気のろ過に適した不織布濾過材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、鋭意検討の結果、多層構造の不織布濾過材において、
ニードルパンチまたは水流交絡処理した不織布層の下流側に、特定の
スパンボンド不織布層や
メルトブロー不織布層を設けると、吸気脈動に対抗してダストを保持する性能が向上し、上記課題が解決されることを知見し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、スパンボンド不織布層を有する多層構造の不織布濾過材であって、前記
スパンボンド不織布層の上流側には、ドライ層である不織布層が設けられており、
前記ドライ層である不織布層は、原料繊維のウェブをニードルパンチまたは水流交絡処理によって交絡させた不織布層であり、前記
スパンボンド不織布層の目付は5〜50g/平方メートルであって、かつ、前記
スパンボンド不織布層は、複数のドットが散在する形態にエンボス加工されていて、ドットの部分で繊維が熱溶着されており、前記ドット部分が
スパンボンド不織布層に2〜50個/平方センチメートルの密度で設けられ、ドット部分の面積が
スパンボンド不織布層の面積の5〜25%となるように設けられている、内燃機関用の不織布濾過材である(第1発明)。
【0009】
第1発明においては、
スパンボンド不織布層(以下「スパンボンド層」とも記載する)に含まれる繊維の平均繊維径が5〜30μmであることが好ましい(第2発明)。
【0010】
また、本発明は、メルトブロー不織布層を有する多層構造の不織布濾過材であって、前記
メルトブロー不織布層の上流側には、ドライ層である不織布層が設けられており、
前記ドライ層である不織布層は、原料繊維のウェブをニードルパンチまたは水流交絡処理によって交絡させた不織布層であり、前記
メルトブロー不織布層の目付は5〜30g/平方メートルであって、かつ、前記
メルトブロー不織布層は、複数のドットが散在する形態にエンボス加工されていて、ドットの部分で繊維が熱溶着されており、前記ドット部分が
メルトブロー不織布層に4〜100個/平方センチメートルの密度で設けられ、ドット部分の面積が
メルトブロー不織布層の面積の5〜25%となるように設けられている、内燃機関用の不織布濾過材である(第3発明)。
【0011】
第3発明においては、
メルトブロー不織布層(以下「メルトブロー層」とも記載する)に含まれる繊維の平均繊維径が1〜15μmであることが好ましい(第4発明)。
また、本発明は、第1発明ないし第4発明のいずれかの不織布濾過材を有する、自動車の内燃機関用のエアクリーナエレメントである(第5発明)。
【発明の効果】
【0012】
第1発明においてはスパンボンド層が、第3発明においてはメルトブロー層が、上流に配置されたドライ層である不織布層から脈動により透過してくるダストを効果的に捕捉し、濾過材の通気抵抗や寿命との性能バランスを保ちつつ、吸気脈動によるダスト抜けが抑制される。
【0013】
また、第2発明や第4発明の不織布濾過材は、吸気脈動に対するダスト抜けの抑制効果が特に高い。また、第5発明のエアクリーナエレメントは、吸気脈動によるダスト抜けが抑制されており、自動車の内燃機関に好ましく使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下図面を参照しながら、自動車の内燃機関(エンジン)に供給する空気をろ過するためのエアクリーナのフィルタ材として利用可能な不織布濾過材を例として、発明の実施形態について説明する。発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。
【0016】
図1は、発明の第1実施形態の不織布濾過材1の断面構造を示す模式図である。本実施形態の不織布濾過材はシート状の不織布であって、自動車エンジンのエアクリーナ用に供される場合には、通常、襞折りされた状態で枠に固定されたエアクリーナエレメント2として使用される。
図2にエアクリーナエレメントの構造を模式的に断面図で示す。エアクリーナエレメント2は襞折りされた不織布濾過材1の周囲を枠体21で囲って一体化し、枠体21の周囲にシール部材22、22を設けて構成される。エアクリーナエレメントの具体的構成としては、公知の構成が採用でき、特に限定されない。エアクリーナエレメント2は、枠体21やシール材22を有しない構成であってもよい。
【0017】
不織布濾過材1は、複数の不織布層を積層した多層構造の不織布濾過材である。そして、不織布層の一つとして、スパンボンド不織布層13を有している。
図1に不織布濾過材が使用される際の気流の流れを矢印で示すように、本不織布濾過材においては、上流側で使われるべき層と、下流側で使われるべき層があらかじめ定められている。スパンボンド層13の上流側には、ドライ層である不織布層11,12が設けられている。不織布濾過材1では、ダストの大部分が、これらドライ層である不織布層11,12により捕捉される。
【0018】
ドライ層である不織布層11,12について説明する。本実施形態の不織布濾過材1は、上流側に位置する粗層部11と下流側に位置する密層部12とを有する。粗層部11は、密層部12よりも、不織布層のかさ密度が低い。換言すると、粗層部11は、密層部12よりも、不織布層の空間率が高い。すなわち、不織布濾過材1は、上流側に粗層部11を有し、下流側に密層部12を有し、密度勾配を持っている。
【0019】
ここで不織布層の空間率とは、不織布層の単位体積当たりに占める空間体積(不織布層全体が占める体積から繊維が占める体積を除いた体積)を百分率で示した値である。不織布層が粗であるとは、空間率が大きいことを意味し、不織布層が密であるとは、空間率が小さいことを意味する。粗層部11の好ましい空間率は90〜99.5%程度である。また、密層部12の好ましい空間率は80〜95%程度である。本実施形態においては、粗層部11の空間率が99.3%、密層部12の空間率が93.5%とされている。
【0020】
不織布濾過材の粗層部11と密層部12の不織布層の目付は特に限定されないが、粗層部11の目付が、40〜200g/平方メートル程度、密層部12の目付が、70〜300g/平方メートル程度であることが好ましい。本実施形態においては、粗層部11の目付が75g/平方メートル、密層部12の目付が110g/平方メートルとされている。
【0021】
不織布濾過材1は、ドライ層である粗層部11、密層部12以外の層を有していてもよい。例えば、粗層部11よりも上流側に、プレフィルタ層を有していてもよい。あるいは、粗層部11と密層部12の間に中間層を設けてもよい。これら他の層を設けることは必須ではない。
あるいは、単一の不織布層で、スパンボンド層の上流に位置するドライ層を構成してもよい。
【0022】
ここで、ドライ層とは、不織布層に実質的にオイルが含浸・塗布されていない層のことである。これら層がドライ層であることにより、これら不織布層の内部に多量のダストを保持する体積濾過が実現されるとともに、微粒子ダストの捕捉性能が向上する。
なお、粗層部の上流側にビスカス層を設けてもよいが、その場合は、粗層部11や密層部12が確実にドライ層となるように、オイルの付着や移行を防止することが好ましい。
【0023】
粗層部11や密層部12を構成する繊維の材質や平均繊維径や捲縮の度合い、不織布化の方式などは、公知の技術が利用できる。芯鞘繊維や複合繊維を用いてもよい。本実施形態の不織布濾過材のように、粗層部と密層部を設ける場合には、両者を比較して、粗層部を太い繊維で高い空間率に構成し、密層部12を細い繊維で低い空間率となるように構成することが好ましい。
【0024】
スパンボンド層13について説明する。スパンボンド層13は、ドライ層である不織布層(粗層部11、密層部12)の下流側に設けられた、スパンボンド不織布からなる層である。このスパンボンド層13が、粗層部11や密層部12から吸気脈動により透過してくるダストを食い止める働きをする。スパンボンド層の目付は5〜50g/平方メートルとされる。好ましくは、スパンボンド層の目付は10〜30g/平方メートルとされる。
【0025】
スパンボンド層13は、複数のドットが散在する形態にエンボス加工されている。エンボス加工によって、ドットの部分で繊維が熱溶着されている。熱溶着は、繊維同士の交点が固定される程度であってもよいが、繊維が溶けて圧着され、エンボスされたドットの部分が通気性のない板状になる程度であってもよい。ドットの部分で繊維がしっかりと固定されていればよい。ドットの形状は円形であっても矩形状であってもよく、特に限定されない。大きさの異なるドットが散在していてもよい。ドット同士がくっついていてもよい。
【0026】
スパンボンド層13は、ドット部分がスパンボンド層の表面に2〜50個/平方センチメートルの密度で設けられている。好ましくは、ドット部分が、5〜30個/平方センチメートルの密度で設けられる。また、スパンボンド層の表面で、ドット部分の面積がスパンボンド層の面積の5〜25%となるように設けられている。好ましくは、ドット部分の面積がスパンボンド層の面積の8〜22%となるように設けられる。
【0027】
スパンボンド層13におけるエンボスは、ドット部分の間隔が1〜10mmとされることが好ましく、間隔が2〜6mmとされることが特に好ましい。間隔が狭い方が、ダスト抜けの抑制効果が高くなる。ここで、ドットの間隔とは、それぞれのドットの重心同士の間隔を言い、ドットが周期的に設けられるのであれば、ドットの間隔とは、ドットが設けられるピッチを意味する。縦横の直交する方向によりドットの間隔が異なる場合には、両者の平均を取ってドットの間隔として扱えばよい。
【0028】
スパンボンド層13に使用される材料は、典型的には熱溶着が可能な化学繊維材料が用いられる。化学繊維の材料としては、典型的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂のようなポリエステル樹脂、ナイロン6のようなポリアミド樹樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂のようなアクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂のようなポリオレフィン樹脂が使用できる。内側がPET樹脂で外側がポリエチレン樹脂であるような芯鞘繊維をスパンボンド層に用いてもよい。
【0029】
スパンボンド層13に含まれる繊維の平均繊維径は、5〜30μmであることが好ましい。平均繊維径は、8〜25μmであることが特に好ましい。
【0030】
ここで、繊維の平均繊維径について説明する。繊維が単一の材料・種類である場合には、平均繊維径とは、デニールやデシテックスといったその繊維の繊度と、繊維を構成する材料の密度から、繊維が円断面であるとして直接計算される繊維径のことである。平均繊維径を求めたい繊維群の繊維が複数の種類である場合や、繊維が複数の構成材料からなる場合には、それぞれの繊維や構成材料について、繊度や密度からそれぞれの平均繊維径を求めたうえで、それぞれの繊維や構成材料の配合割合に応じて平均繊維径の加重平均を取ったものを、平均繊維径として扱えばよい。また、繊維が異形断面や中空構造を有する場合には、繊維の顕微鏡写真から複数個所で繊維の幅を測定し、それら幅の算術平均を取ったものを繊維の平均繊維径として扱えばよい。
【0031】
本実施形態においては、スパンボンド層13は、平均繊維径15μmのPET繊維を目付15g/平方メートルでスパンボンド不織布として、さらに、1.0mmx1.0mmの矩形状のドットが約3mmの間隔で、10個/平方センチメートルの密度で設けられ、ドット部分の面積がスパンボンド層の面積の10%となるようにされている。
【0032】
第1実施形態の不織布濾過材1の製造方法について説明する。不織布濾過材1は、粗層部11、密層部12、スパンボンド層13になるべきそれぞれの繊維集合体(ウェブあるいはスパンボンド不織布)を積層させる第1の工程と、その積層体にニードルパンチや水流交絡処理や熱処理やバインダ処理を施して一体化する第2の工程を含む、不織布製造方法により製造される。この製造方法は公知である。
【0033】
第1の工程においては、まず、粗層部を構成する原料繊維を開繊・混紡し、計量・給綿工程を経て粗層部となるべきウェブを得る。同様に、密層部を構成する原料繊維を開繊・混紡し、計量・給綿工程を経て密層部となるべきウェブを得る。スパンボンド層としては、あらかじめ製作しておいたエンボス加工済みのスパンボンド不織布を用いることができる。次いで、スパンボンド層となるスパンボンド不織布の上に、密層部となるべきウェブおよび、粗層部となるべきウェブをこの順序で積層する。以上が第1工程である。
【0034】
次いで、得られた積層体をニードルパンチ工程に供し、粗層部や密層部が所定の空間率となるように制御しながら一体化する。ニードルパンチ工程に引き続き、バインダ液に浸漬し、熱処理して、粗層部や密層部における繊維の交点部分を固定することが好ましい(第2工程)。この一体化工程を経ることで、不織布濾過材1が得られる。
【0035】
上記実施形態の不織布濾過材1の作用および効果について説明する。
不織布濾過材1においては、スパンボンド層13の上流側に設けられた、ドライ層である不織布層としての粗層部11と密層部12が、ダストの捕捉に関する基本機能を果たす。不織布濾過材に要求される、ダストの捕捉性能(清浄効率)や寿命(ダスト保持量)、通気抵抗、および、微粒子ダストに対する捕捉性能や寿命といった種々の特性が満足されるよう、粗層部11と密層部12の構成が調整される。なお、微粒子ダストに対する捕捉性能や寿命を向上させる観点から、粗層部11や密層部12はドライ層とされている。
【0036】
粗層部11や密層部12がドライ層とされているため、濾過材に吸気脈動が作用すると、脈動により、捕捉されたダストが粗層部11から密層部12へ、密層部12から下流側へと移動しうる。本実施形態の不織布濾過材1では、密層部12から吸気脈動により漏れ出してくるダストを、下流側に配置されたスパンボンド層13により捕捉する。これによって、不織布濾過材1では、吸気脈動によるダスト抜けが抑制される。
【0037】
特に、不織布濾過材1では、目付が5〜50g/平方メートルであって、かつ、複数のドットが散在する形態にエンボス加工されていて、ドットの部分で繊維が熱溶着されており、ドット部分がスパンボンド層に2〜50個/平方センチメートルの密度で設けられ、ドット部分の面積が全体の面積の5〜25%となるように設けられた、特定のスパンボンド層を設けており、吸気脈動によるダスト抜けの抑制効果が高い。しかも、濾過材の通気抵抗や寿命との性能バランスを保ちつつ、吸気脈動によるダスト抜けが抑制できる。このようなドットを、所定の密度や面積で設けることにより、内燃機関用の濾過材として好ましい特性を備えた不織布濾過材となるのである。
【0038】
上記スパンボンド層により、バランスよく吸気脈動に対するダスト抜け抑制を高めることができる理由は、以下のものであると推定する。特定の目付のスパンボンド不織布を特定のドット密度でエンボス加工することにより、スパンボンド不織布中の繊維が、ドットとドットの間で固定された弦のように、平面的に重畳して配置されることになり、いわば、スパンボンド不織布部分が網のような働きをするようになる。この網は、ドット部分で強固に固定された平面的な構造であるため、吸気脈動が作用しても、繊維同士が動くことが少なく、網の構造がそのまま維持されやすく、スパンボンド層により一旦捕捉したダストを脈動で通過させてしまうことが抑制される。また、網が平面的であるため通気性能が悪化しにくく、このような構造のスパンボンド不織布は目詰まりしにくくなって濾過材寿命の低下が抑えられるものと推定される。
【0039】
さらに、スパンボンド層に含まれる繊維の平均繊維径が5〜30μmであると、平面的な網としてのスパンボンド層の働きがより顕著になり、吸気脈動に対するダスト抜けの抑制効果が特に高められる。
【0040】
また、不織布濾過材1は、自動車の内燃機関用のエアクリーナエレメントに好ましく使用できる不織布濾過材となる。自動車内燃機関用のエアクリーナにおいては、エアクリーナエレメントをコンパクトに実現する必要があることから、空気用フィルタ素材としては、比較的高い通過流速で濾過材が使用されることになり、しかも吸気脈動が与えられることになって、濾過材に求められる性能が特に厳しいものとなりがちである。上記不織布濾過材1は、このような厳しい性能が要求される用途においても、各種ダストを高い効率でかつ大量に捕捉することが可能となり、これら用途のエアクリーナエレメントに好ましく使用できる。
【0041】
発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0042】
第1実施形態の不織布濾過材1においては、スパンボンド不織布層を設けていたが、スパンボンド層に替えて、メルトブロー不織布層を設けてもよい。メルトブロー層を設ける場合には、メルトブロー層の目付は5〜30g/平方メートルにされる。目付は8〜24g/平方メートルであることが好ましい。また。メルトブロー層は、複数のドットが散在する形態にエンボス加工されていて、ドットの部分で繊維が熱溶着されており、ドット部分がメルトブロー層に4〜100個/平方センチメートルの密度で設けられ、ドット部分の面積がメルトブロー層の面積の5〜25%となるように設けられる。ドット部分の密度は、8〜80個/平方センチメートルの密度であることが好ましい。また、ドット部分の面積がメルトブロー層の面積の8〜22%となるように設けられることが好ましい。
【0043】
この様なメルトブロー層を設ければ、スパンボンド層を設けた不織布濾過材1と同様に、通気性能や寿命との性能バランスを保ちながら吸気脈動によるダスト抜けを抑制できる。
【0044】
また、メルトブロー層のドット部分の間隔が1〜7mmとされることが好ましく、2〜5mmとされることが特に好ましい。また、メルトブロー層に含まれる繊維の平均繊維径が1〜15μmであることが好ましく、2〜10μmであることが特に好ましい。メルトブロー層の構成において、メルトブロー層に含まれる繊維の平均繊維径が1〜15μmであるようにすれば、脈動によるダスト抜けを特に効果的に抑制できる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
また、以下に示す実施例や比較例において、いずれの例における濾過材も、相違する旨の記載のない繊維の材質や厚みや目付け量、積層された層の間の密度勾配等の構成は、実質的に同じであり、試験に供する際に成形したフィルタエレメントの形状や襞折りの仕様も同一としている。実施例及び比較例の繊維構成や性能評価結果を表1及び表2に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
(実施例1)
実施例1は、上記第1実施形態として説明した不織布濾過材1である。粗層部11はPET繊維製であり、目付は75g/平方メートル、空間率は99.3%、粗層部11を構成する繊維の平均繊維径は21μmである。密層部12はPET繊維製であり、目付は110g/平方メートル、空間率は93.5%、密層部12を構成する繊維の平均繊維径は14μmである。実施例1の不織布濾過材1は密層部12の下流側にスパンボンド不織布層13を有しており、スパンボンド不織布層13は、目付が15g/平方メートル、平均繊維径が15μm、エンボス加工のドットの密度が10個/平方センチメートル、ドットの部分の面積比が10%に調製されている。
【0049】
(実施例2)
実施例1に対し、スパンボンド層のエンボスパターンに関して、ドットの密度を高め、ドット部分の面積の比率を大きくした例である。スパンボンド層を、目付が15g/平方メートル、平均繊維径が15μm、エンボス加工のドットの密度が20個/平方センチメートル、ドットの部分の面積比が20%に調製されたものに変更し、他は同様の構成としている。
【0050】
(実施例3)
実施例1に対し、スパンボンド層の目付とドット密度を変更した例である。スパンボンド層を、目付が25g/平方メートル、平均繊維径が15μm、エンボス加工のドットの密度が20個/平方センチメートル、ドットの部分の面積比が10%に調製されたものに変更し、他は同様である。なお、スパンボンド層の目付の変更に際し、密層部の目付を、スパンボンド層と密層の目付の和が一定になるように100g/平方メートルに調整している。
【0051】
(実施例4)
実施例1に対し、スパンボンド層の目付とドット密度を変更した例である。スパンボンド層を、目付が45g/平方メートル、平均繊維径が15μm、エンボス加工のドットの密度が20個/平方センチメートル、ドットの部分の面積比が10%に調製されたものに変更し、他は同様である。なお、スパンボンド層の目付の変更に際し、密層部の目付を、スパンボンド層と密層の目付の和が一定になるように80g/平方メートルに調整している。
【0052】
(実施例5)
実施例1に対し、スパンボンド層の平均繊維径を太く変更した例である。スパンボンド層を、目付が15g/平方メートル、平均繊維径が33μm、エンボス加工のドットの密度が20個/平方センチメートル、ドットの部分の面積比が10%に調製されたものに変更し、他は同様である。
【0053】
(実施例6)
実施例1に対し、スパンボンド層をメルトブロー不織布層に変更した例である。メルトブロー層は、目付が8g/平方メートル、平均繊維径が9μm、エンボス加工のドットの密度が20個/平方センチメートル、ドットの部分の面積比が10%に調製されたもので構成した。なお、密層部の目付を、120g/平方メートルに調整している。
【0054】
(比較例1)
実施例1に対し、スパンボンド層をなくして、密層部の目付を125g/平方メートルにした例である。なお、スパンボンド層と密層の目付の和は実施例1と同じである。
【0055】
(比較例2)
実施例1に対しスパンボンド層を目付の小さなものに変更した例であり、スパンボンド層として、目付が3g/平方メートル、平均繊維径が15μm、エンボス加工のドットの密度が10個/平方センチメートル、ドットの部分の面積比が10%に調製されたものを密層部の下流側に設けた例である。
【0056】
(比較例3)
実施例1に対しスパンボンド層を目付の大きなものに変更した例であり、スパンボンド層を、目付が70g/平方メートル、平均繊維径が15μm、エンボス加工のドットの密度が20個/平方センチメートル、ドットの部分の面積比が10%に調製されたものに変更し、他は同様とした例である。なお、スパンボンド層の目付の変更に際し、密層部の目付を、スパンボンド層と密層の目付の和が一定になるように55g/平方メートルに調整している。
【0057】
(比較例4)
実施例1に対しスパンボンド層のドット密度とドット部分の面積比を変更した例であり、スパンボンド層を、目付が15g/平方メートル、平均繊維径が15μm、エンボス加工のドットの密度が0.5個/平方センチメートル、ドットの部分の面積比が2%に調製されたものに変更し、他は同様とした例である。
【0058】
(比較例5)
実施例1に対しスパンボンド層のドット密度とドット部分の面積比を変更した例であり、スパンボンド層を、目付が15g/平方メートル、平均繊維径が15μm、エンボス加工のドットの密度が70個/平方センチメートル、ドットの部分の面積比が30%に調製されたものに変更し、他は同様とした例である。
【0059】
実験:一般ダスト(JIS−8種ダスト)についての性能評価を行った。
得られた不織布濾過材を襞折り構造に形成して枠体を取り付けて、エアクリーナエレメントとし、試験に供した。各エアクリーナエレメントについて、JISD1612(自動車用エアクリーナ試験方法)に準じて、JIS−8種のダストについてダスト捕捉量試験、及び通気抵抗試験を行った。その試験条件を下記に示す。
【0060】
濾過材有効濾過面積:0.18平方m
試験ダスト:一般ダスト(JIS−8種ダスト)
ダスト供給量:4.2g/分
試験流量:4.2立方m/分
通気抵抗:濾過材の上流と下流の間の差圧(試験開始時)
増加通気抵抗が2.94kPaに達したときをフルライフとし、それまでに捕捉したダストの量(ダスト捕捉量)を寿命(ダスト保持量)とする。
【0061】
また、吸気脈動に対するダスト抜けの評価実験を行い脈動透過率を測定した。
脈動性能評価試験は、上記ダスト捕捉量の測定試験を経て、フルライフに達するよう目詰まりするまでダストを付着させた状態のエアクリーナエレメントを用いて、定格流量(4.2立方m/分)の空気を流しながら、プラスマイナス33kPaの周期的な圧力変動を、周波数167Hzで30分間与えて行う脈動評価試験により行った。脈動評価試験を行うと、エアクリーナエレメントに捕捉されていたダストがダスト抜けにより下流側に流出し、エアクリーナエレメント捕捉されたダスト量が減少する。脈動評価試験前後のエアクリーナエレメントの重量変化から、脈動によりダスト抜けしたダストの重量を計算し、それを脈動評価試験開始時のダスト保持量(フルライフ時のダスト捕捉量)で除することにより、脈動透過率(%)を計算した。
【0062】
試験結果を評点で表1、表2に示している。なお、評点は、比較例1の試験値を基準(10点)として、各性能がどの程度向上/悪化したかを、段階的なレベルで示しており、点数が大きいほど好ましい性能(フルライフ捕捉量が増大する(寿命が長くなる)、脈動透過率が低くなる、通気抵抗が減少する)であることを表している。また、各性能の総合的な評価は、各性能における評点の和により評価することができる。
例えば、濾過材寿命の評点が10から15に上がることは、微粒子のフルライフ捕捉量が約1.5倍に増加することを表している。
脈動透過率の評点が10から15に上がることは、脈動透過率が半減することを表している。
通気性能の評点が10から11に上がることは、濾過材の通気抵抗が5%程度改善することを表している。
【0063】
いずれの実施例においても、比較例1に対し、濾過材の寿命や通気性能の評点をさほど悪化させずに、脈動透過率を改善できており、両者のトレードオフを克服してこれら性能を総合的に向上できていることがわかる。
また、これら実施例の中で、実施例1と実施例2を見ると、スパンボンド層のドットの密度や面積比が多い方が、脈動透過率の改善に効果的であることがわかる。
また、また、これら実施例の中で、実施例1と実施例3、実施例4を見ると、スパンボンド層の目付が大きい方が、脈動透過率の改善に効果的であることがわかる。
また、これら実施例の中で、実施例1と実施例5を見ると、スパンボンド層の平均繊維径が細い方が、脈動透過率の改善に効果的であることがわかる。
また、実施例6のように、スパンボンド不織布の代わりにメルトブロー不織布を用いても、同様に、濾過材の寿命や通気性能の評点をさほど悪化させずに、脈動透過率を改善できることがわかる。
【0064】
また、実施例1〜5と比較例2,3を比較すると、スパンボンド層の目付が5〜50g/平方メートルの範囲に入っていると、濾過材の寿命や通気性能の評点をさほど悪化させずに、脈動透過率を効果的に改善できて、両者のトレードオフを克服してこれら性能を総合的に向上できる一方で、スパンボンド層の目付がこの範囲を外れると、濾過材の寿命が犠牲になる割には、脈動透過率の改善代が小さかったり(比較例2)、脈動透過率を大きく改善できる一方で、濾過材寿命や通気性能が大きく損なわれたり(比較例3)といった弊害が出て、これら性能を総合的に向上させることが難しくなることがわかる。
【0065】
また、また、実施例1〜5と比較例4,5を比較すると、スパンボンド層のエンボスのドットの分布の密度が、2〜50個/平方センチメートルの範囲にあり、かつ、ドット部分の面積がスパンボンド層の面積の5〜25%となるようにされていれば、濾過材の寿命や通気性能の評点をさほど悪化させずに、脈動透過率を改善できて、両者のトレードオフを克服してこれら性能を総合的に向上できる一方で、スパンボンド層におけるドットの分布に密度やドット部分の面積比がこの範囲を外れると、脈動透過率の改善が小さくなったり(比較例4)、脈動透過率を大きく改善できる一方で濾過材寿命や通気性能が大きく損なわれたり(比較例5)、といった弊害が出て、これら性能を総合的に向上させることが難しくなることがわかる。