(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下で述べる形状、寸法、個数等は、説明のための一例であって、油圧エレベータ用のシールリングキットの仕様等に応じ、適宜変更が可能である。また、以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、保守作業においてシールリングの交換対象となる油圧エレベータ10の構成図である。最初に、油圧エレベータ10の基本構成等を述べ、その後に、シールリングの交換を支援するシールリングキット130を説明する。
【0022】
油圧エレベータ10は、巻上機を用いるエレベータと同様に、乗りかご12に乗客を乗せ、乗客の要求に応じて昇降路14内で乗りかご12を昇降させる乗客運搬装置である。昇降路14は、建物の上下方向に縦貫する空間で、建物の各階の乗場16に対応する乗降口を有する。昇降路14の底面はピット18である。昇降路14には上下方向にガイドレール20が立設される。乗りかご12は、上部案内部22と下部案内部24とを用いて、ガイドレール20に沿って昇降路14内を上下方向に移動する。
【0023】
図1以下において、直交する3方向として、昇降路14の上下方向、上下方向に垂直な奥行方向、上下方向と奥行方向とに直交する幅方向を示す。上下方向は、昇降路14の上層階側を上層階方向とし、下層階側を下層階方向とする。奥行方向は、
図1の例においては、紙面に向かって左側である各階の乗場16側を乗場方向とし、反対側を反乗場方向とする。幅方向は、乗りかご扉が開閉する方向に沿った方向で、乗場16から昇降路14に向かって左側が左方向で、右側が右方向である(
図3参照)。
【0024】
油圧エレベータ10は、昇降路14内における乗りかご12を昇降させる駆動源として油圧ジャッキ30を用いる。油圧ジャッキ30は、シリンダ32とプランジャ34とを含む。シリンダ32は、昇降路14の底面であるピット18の床に垂直に配設された筒状部材で、精密に加工された内壁面を有する。プランジャ34は、シリンダ32の内壁面に対応して精密に加工された外周面を有する軸状部材で、シリンダ32の内壁面に沿って摺動する。
図1では、乗りかご12とプランジャ34等が奥行方向に並んで配置されるが、油圧エレベータ10の仕様によっては、乗りかご12とプランジャ34等を幅方向に並べて配置してもよい。
【0025】
滑車36は、プランジャ34の上端部に回転可能に保持され、プランジャ34の上下方向の移動と一体的に上下方向に移動する。主ロープ38は、滑車36に懸架され、一端が昇降路14の底面であるピット18の床に対して固定され、他端が乗りかご12に接続される。したがって、プランジャ34の上下方向の移動によって滑車36が上下方向に移動するとき、滑車36の上下方向移動量の2倍に相当する移動量で、乗りかご12は昇降路14内を昇降する。
【0026】
昇降路14のピット18側に設けられる機械室40は、油圧ジャッキ30を駆動するパワーユニット42と、パワーユニット42の動作を制御する制御装置44とが設置される。制御装置44は、乗客の要求に応じて、所定の各階の乗場16の間を所定の移動速度で乗りかご12を移動させる制御を行う。制御の内容としては、乗りかご12の上層階方向への移動、下層階方向への移動、それぞれの移動における加速制御と減速制御とが含まれる。
【0027】
パワーユニット42は、オイルポンプ48、ポンプ駆動モータ50、オイルタンク52、油圧バルブ60を含む。オイルタンク52は、内部に油圧ジャッキ30の作動油54が貯留される油槽である。オイルポンプ48の駆動軸とポンプ駆動モータ50の出力軸との間には適当な動力伝達ベルトが懸架される。ポンプ駆動モータ50は、制御装置44の制御の下で動作する。オイル供給管56は、一端がオイルタンク52の底面に開口し、他端はオイルポンプ48の吸込口に接続される。
【0028】
油圧バルブ60は、ポンプポート管62、ジャッキポート管64、タンクポート管66の3つの管路が接続される3つのポートを有する複合三方弁である。油圧回路ブロック68は、油圧バルブ60の3つのポートの間の油圧回路を構成する複数の油路、オリフィス、開閉弁等を内部に含む油圧部品ブロックである。コントロールブロック70は、油圧回路ブロック68に含まれる開閉弁を駆動するコイル等を収納する電気部品ブロックである。コントロールブロック70は、制御装置44と適当な制御信号線で接続される。
【0029】
結合部72は、油圧エレベータ10の昇降用の油圧回路の途中において、油圧バルブ60と油圧回路ブロック68の間に設けられ、油圧バルブ60の上面と油圧回路ブロック68の下面とを液密として結合する部分である。油圧バルブ60の上面を第1結合面74とし、油圧回路ブロック68の下面を第2結合面76とすると、第1結合面74も第2結合面76も共に平坦面で、外形輪郭は同じ形状である。平坦面である第1結合面74と第2結合面76とを密接させて結合することで、油圧バルブ60と油圧回路ブロック68とが一体化し、全体として油圧エレベータ10の昇降用の油圧回路を形成する。
【0030】
図2は、油圧バルブ60と油圧回路ブロック68とが一体化して形成される油圧エレベータ10の昇降用の油圧回路80の一部を示す断面図である。昇降用の油圧回路80は、油圧ジャッキ30のプランジャ34の上層階方向への移動と下層階方向の移動について、それぞれ加速移動と減速移動を制御する。そのために、油圧バルブ60は、内部にブリードオフ形式によるスプール型の流量制御弁82,84を含む。ブリードオフ形式によるスプール型の流量制御弁とは、流体排出口を側壁に有するスプールの変位をピストンの移動で制御することで、流体排出口からの流量を制御する弁である。
図2において、スプール型の流量制御弁82は、主としてプランジャ34が下層階方向に移動するときに、スプールの流体排出口からの流量を制御することでプランジャの下降速度を制御する。もう1つのスプール型の流量制御弁84は、主としてプランジャ34が上層階方向に移動するときに、スプールの流体排出口からの流量を制御することでプランジャの上昇速度を制御する。以下では、油圧回路80について、主にスプール型の流量制御弁84に関する部分を述べる。
【0031】
プランジャ34を上昇させるには、オイルタンク52の作動油54をオイル供給管56を経てオイルポンプ48が吸込み、吸い込んだ作動油54をポンプポート管62から油圧バルブ60に送り、ジャッキポート管64から油圧ジャッキ30に供給する。このとき、スプール型の流量制御弁84のスプール86の軸方向に沿った位置は、付勢ばね85の付勢力、背圧室90とスプール86の受圧面積等の条件の下で、ポンプポート管62側の油圧室63の油圧と、ピストン88の背圧室90における油圧とで定まる。
【0032】
背圧室90における油圧が高いほど、スプール86の流体排出口87の位置が下層階方向に移動し、スプール86に対して固定されているスリーブの流体排出口89とスプール86の流体排出口87の重なり合いで定まる開口部の開口面積が狭くなる。ポンプポート管62から供給された作動油54の一部は、この開口部を通ってタンクポート管66を経てオイルタンク52に戻される。その作動油流量をQ
Bとすると、ジャッキポート管64から油圧ジャッキ30のシリンダ32に供給される作動油流量Q
Aは、{(ポンプポート管62から供給された作動油54の全流量)−Q
B}となる。
【0033】
背圧室90における油圧が高いほどQ
Bが少なくなり、油圧ジャッキ30のシリンダ32に供給される作動油流量Q
Aが多くなって、プランジャ34及び乗りかご12の上昇速度が速くなる。これに対し背圧室90における油圧が低くなるとQ
Bが多くなり、油圧ジャッキ30のシリンダ32に供給される作動油流量Q
Aが少なくなって、プランジャ34及び乗りかご12の上昇速度が速くなる。油圧回路80は、開閉弁118の制御によって、背圧室90における油圧を変更し、プランジャ34及び乗りかご12の上昇速度を制御する。
【0034】
油圧回路80は、油圧バルブ60における複数の油路と、油圧回路ブロック68の複数の油路、オリフィス、開閉弁等とを含む。油圧バルブ60と油圧回路ブロック68とは、結合部72によって液密に結合されるが、その際、油圧バルブ60における複数の油路開口部と、油圧回路ブロック68における複数の油路開口部とが向い合うようにして、相互の油路の間を連通させる。
図2の例では、油圧バルブ60側の第1結合面74側に3つの油路開口部91,93,95が示され、油圧回路ブロック68側の第2結合面76側には、これらに対応して3つの油路開口部101,103,105が示される。
【0035】
第1結合面74の3つの油路開口部91,93,95の周囲にそれぞれ配置窪み121,123,125が設けられる。3つの配置窪み121,123,125にはそれぞれシールリング122,124,126が装着される。これによって、第1結合面74と第2結合面76とを向い合せて結合するときに、第1結合面74と第2結合面76との間の隙間から作動油54が漏れることが防止される。
【0036】
図2では、第1結合面74に配置窪み121,123,125が設けられるものとしたが、第2結合面76に配置窪み121,123,125を設けてもよい。場合によっては、第1結合面74と第2結合面76の双方に跨って配置窪み121,123,125を設けてもよい。配置窪み121,123,125に配置されるシールリング122,124,126は、経年劣化等が生じることがあるので、保守点検の際に、必要に応じ交換が行われる。複数のシールリングの交換作業の詳細については後述する。
【0037】
油圧回路ブロック68において、油路開口部101と油路開口部103との間には、油路102,104が設けられる。油路102,104は互いに並列に配置される。油路開口部101は油圧バルブ60側の油路開口部91と連通し、スプール型の流量制御弁84の背圧室90に接続される。油路開口部103は油圧バルブ60側の油路開口部93と連通し、油路92を経てスプール型の流量制御弁84のポンプポート管62側の油圧室63に接続される。したがって、油圧回路ブロック68における油路102,104は、スプール型の流量制御弁84のポンプポート管62側の油圧室63と、背圧室90との間に、互いに並列に配置される。
【0038】
油路102には、固定型オリフィス110と可変型オリフィス112とが直列に接続して配置される。油路104には、逆止弁114と可変型オリフィス116と開閉弁118とが直列に配置される。開閉弁118は、コントロールブロック70に配置される駆動コイル120の動作制御によって油路104を開閉する。ここでは、駆動コイル120がオフのときに油路104が遮断状態となり、駆動コイル120がオンすると油路104が連通状態となる。したがって、油圧室63と背圧室90との間は、駆動コイル120がオフのときに油路102で接続されるが、駆動コイル120をオンすると、油路102と油路104とが並列に接続される。これによって、油圧室63の油圧に対する背圧室90の油圧の大きさを2段階に変更できる。
図2において、駆動コイル120をオンすると、油路104の逆止弁114が作用して背圧室90から作動油54が流出して駆動コイル120がオフのときに比べて背圧室90の油圧がより低下し、スプール86の流体排出口87の位置がより上層階方向に移動する。これによって、オイルタンク52に戻される作動油流量Q
Bがより少なくなり、油圧ジャッキ30のシリンダ32に供給される作動油流量Q
Aがより多くなって、プランジャ34及び乗りかご12の上昇速度がより速くなる。
【0039】
上記では、1つの開閉弁118を用いて、プランジャ34及び乗りかご12の上昇速度を2段階に変更できる例を示した。開閉弁の数を2つとすると、オンオフ制御できる油路の数が2つとなるので、プランジャ34及び乗りかご12の上昇速度を4段階に変更できる。このように、複数の油路、複数のオリフィス、複数の開閉弁を含む油圧回路80を油圧バルブ60のスプール型の流量制御弁84と組み合わせることで、プランジャ34及び乗りかご12の上昇速度を複数段階に変更できる。同様に、複数の油路、複数のオリフィス、複数の開閉弁を含む油圧回路80を油圧バルブ60のスプール型の流量制御弁82と組み合わせることで、プランジャ34及び乗りかご12の下降速度を複数段階に変更できる。その他に、油圧バルブ60にクリープ速度制御用の弁機構を設け、油圧回路80にその弁機構と組み合わせる油路、オリフィス、開閉弁等を設けることで、プランジャ34の移動に関するクリープ速度の制御を行うこともできる。
図2の油路94は、プランジャ34の下降時のクリープ速度制御のために設けられるが、詳細な説明は省略する。
【0040】
上記では、油圧バルブ60は、内部にブリードオフ形式のスプール型の流量制御弁82,84を含むものとした。これは油圧ジャッキ30の移動速度を制御する一例であり、これ以外の構成で、油圧回路と組み合わせて油圧ジャッキ30の移動速度を制御できる油圧バルブでもよい。
【0041】
以上が、油圧エレベータ10の基本構成と、油圧エレベータ10の昇降用の油圧回路80と油圧バルブ60に関する説明である。
図2の例では、油圧エレベータ10の昇降用の油圧回路80の途中に設けられる結合部72に、3つのシールリング122,124,126が配置される。これは油圧回路80の一部の説明であるので、結合部72の全体では、さらに多くのシールリングが配置される。以下では、多数のシールリングの交換を支援する油圧エレベータ用のシールリングキット130と、このシールリングキット130を用いた油圧エレベータ用のシールリング交換支援方法を述べる。以下において、特に断らない限り、油圧エレベータ用のシールリングキット130をシールリングキット130と呼び、油圧エレベータ用のシールリング交換支援方法をシールリング交換支援方法と呼ぶ。
【0042】
図3の各図は、シールリングキット130と油圧バルブ60の第1結合面74との関係を示す斜視図である。
図3(a)は、油圧バルブ60と油圧回路ブロック68との間の結合部72を開き、油圧バルブ60の第1結合面74に配置されていた古いシールリングを除去して、複数の配置窪みを露出させた図である。第1結合面74は平坦面で、その外形輪郭は、奥行方向に平行な辺と幅方向に平行な辺とを有する直方形である。外形輪郭が直方形であるのは一例であって、油圧バルブ60の仕様により、他の形状の外形輪郭でもよい。例えば、楕円形の外形輪郭であってもよい。以下では、第1結合面74は直方形の外形輪郭を有するものとする。
【0043】
第1結合面74には、合計で14個の配置窪みがあり、これらに対応して14個の油路開口部がある。14個の配置窪みの内9個は、円形の配置窪みである。残りの5個は、長円窪みである。
図2は、
図3(a)のD−D’線に沿った断面図に相当し、
図2における配置窪み121,123,125と、それらにおける油路開口部91,93,95が
図3(a)に示される。配置窪み121,123,125はいずれも円形の配置窪みである。
【0044】
第1結合面74における複数の配置窪みの配置関係は、予め設計図等で定められている。一例を挙げると、
図3(a)において、油圧バルブ60の第1結合面74の外形輪郭の1つの隅部Eの位置を基準位置とし、隅部Eを通る2つの直交軸を基準軸として、14個の配置窪みの配置関係がそれぞれ定められる。
【0045】
図3(b)は、シールリングキット130の斜視図である。シールリングキット130は、
図3(a)に示す14個の配置窪みに対応する14個のシールリングを、配置シート132の粘着シート面133の上に配置し、その周囲を額縁状の枠体134で囲み、その上に保護カバー136を被せて一体化したものである。シールリングキット130に配置された14個のシールリングを油圧バルブ60の第1結合面74の14個の配置窪みに配置する手順の詳細は、
図4以下を用いて後述するが、概略の手順は以下の通りである。
【0046】
まず、
図3(c)に示すように、保護カバー136を除去した状態のシールリングキット131とする。そして、
図3(d)に示すように、シールリングキット131の表裏を反転する。次に、配置シート132の粘着シート面133上の14個のシールリングを油圧バルブ60の14個の配置窪みに向い合わせて、第1結合面74の上にシールリングキット131を載置する。その状態で、配置シート132の上面を保守作業員が指先で押圧すると、配置シート132が撓む。配置シート132の上面は、粘着シート面133とは反対側の面である。撓み量が所定の撓み量を超えると、粘着シート面133からシールリングが剥落し、向い合っている配置窪みにシールリングが配置される。所定の撓み量は、枠体134の厚さとシールリングの厚さとの差に、配置窪みの深さを加えた値よりも小さく設定される。配置シート132の粘着力の強さは、配置シート132が所定の撓み量で撓んだときに粘着シート面133からシールリングが剥落し、配置シート132が撓んでいない平板状のときにシールリングが自重で落下しない範囲で設定される。
【0047】
図3(b)に戻り、シールリングキット130の構成を述べる。シールリングキット130は、粘着シート面133を有する配置シート132と、額縁状の枠体134と、保護カバー136とを含む。
図3(a)の14個の配置窪みに対応する14個のシールリングは、配置シート132の粘着シート面133上に配置される。ここでは、
図3(a)の配置窪み121,123,125に対応する3個のシールリング122,124,126にのみ符号を付した。なお、
図3(b)のシールリングキット130は、
図3(d)のシールリングキット131と表裏逆である。
図3(b)の紙面上の上方側は、上下方向の下層階方向側となる。
【0048】
配置シート132は、可撓性のプラスチックシートで、外形は枠体134の外形とほぼ同じであるが、部分的に張り出したつかみ部138が設けられる。つかみ部138には、保護カバー136に設けられるつかみ部140と区別するため、「B」のマークが付される。「B」のマークは、つかみ部138の表裏の片側の面にのみ「B」のマークを付す。場合によっては、表裏の両面に「B」のマークを付しても構わない。
【0049】
配置シート132において、いずれか片方の面は粘着性を有する粘着シート面133である。粘着シート面133は、つかみ部138において「B」のマークを付した面とは反対側の面とする。換言すれば、「B」のマークを付した面は粘着シート面133とは反対側の面で、
図3(d)においてシールリングを配置シート132の粘着シート面133から剥落させるために保守作業員が押圧する面である。これにより、保守作業員は「B」のマークを目印として、押圧作業を行う面を認識できる。
【0050】
かかる配置シート132は、透明または半透明なプラスチックシートを所定の形状に成形し、片面に粘着性材料を付加したものを用いることができる。プラスチックの材質としては、エポキシ樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレン樹脂を用いることができる。半透明のプラスチックシートを用いるときは、粘着性材料を付加した配置シート132を通して、複数のシールリングが視認できる程度の半透明の材質を用いる。粘着性材料の付加方法としては、粘着性フィルムをプラスチックシートに貼付する方法を用いることができる。これに代えて、粘着性を有する半硬化状態の樹脂等をプラスチックシートに塗布する方法を用いてもよい。
【0051】
額縁状の枠体134は、断面が矩形形状で適当な強度を有する材質の4つの棒材を用い、それぞれを互いに直交する周囲枠部として、直方形の外形輪郭を有する額縁状に成形したものである。材質として、プラスチック、アルミニウム等の軽金属を用いることができる。枠体134を直方形の外形輪郭を有する額縁状とするのは油圧バルブ60の第1結合面74の外形輪郭が直方形であることに合わせたもので、第1結合面74の外形輪郭が直方形以外の形状のときは、その外形形状に合わせた外形輪郭を有する額縁状に成形される。
【0052】
額縁状の枠体134の厚さ方向に関する一方側の面の周囲枠部は、配置シート132の周縁部を保持する。枠体134の「一方側の面」の周囲枠部とは、保護カバー136も枠体134の周囲枠部に取付けられるので、保護カバー136は枠体134の「他方側の面」の周囲枠部に取付けられるとして、これと区別するためである。枠体134が配置シート132の周縁部を保持するには、配置シート132の粘着シート面133を利用する。つまり、配置シート132の粘着シート面133に枠体134の周囲枠部を押し付けて粘着力によって配置シート132の周縁部を枠体134に固定する。
【0053】
枠体134は、油圧バルブ60の第1結合面74における複数の配置窪みの配置関係と、配置シート132における複数のシールリングの配置関係とを関連付ける位置合わせ手段を有する。油圧バルブ60の第1結合面74における複数の配置窪みの配置関係は、第1結合面74の外形輪郭の1つの隅部Eの位置を基準位置とし、隅部Eを通る2つの直交軸を基準軸とするので、枠体134の位置合わせ手段は、この基準位置と基準軸に対するものとなる。ここでは、枠体134の一方側の面における額縁状の外形輪郭を第1結合面74の外形輪郭と同じとし、位置合わせ手段として、枠体134の一方側の面における額縁状の外形輪郭と、その額縁状の外形輪郭の1つの隅部E’を用いる。隅部E’は、第1結合面74の隅部Eに対応する隅部である。
【0054】
枠体134の周囲枠部には、一方側の面と他方側の面とを区別するために、「UP」と「DOWN」の目印文字が設けられる。「UP」は、枠体134の一方側の面に設けられる。これにより、
図3(d)に示すように、シールリングキット131を表裏反転した状態で、保守作業員は、配置シート132のつかみ部138の「B」のマークとともに、配置シート132を通して「UP」の目印文字を視認できる。「DOWN」は、枠体134の他方側の面において、一方側の面の隅部E’に対応する隅部の近傍に設けられる。これにより、
図3(b)に示すように、シールリングキット130において、保守作業員は、保護カバー136を通して「DOWN」の目印文字を視認でき、位置合わせ手段としての隅部E’の位置を認識できる。
【0055】
シールリング122,124,126を含む14個のシールリングは、枠体134の額縁状の内側領域内で、配置シート132の粘着シート面133の上の所定の配置関係に配置される。所定の配置関係とは、枠体134の一方側の面における額縁状の外形輪郭と、その額縁状の外形輪郭の1つの隅部E’を第1結合面74に対する位置合わせ手段として、第1結合面74における14個の配置窪みの配置関係に対応する配置関係である。なお、
図3(a),(b)に示すように、油圧バルブ60の第1結合面74上の複数の配置窪みの配置関係と、シールリングキット130の配置シート132の粘着シート面133上の複数のシールリングの配置関係とは、幅方向に関し互いに反対方向の関係となることに注意する。
【0056】
14個のシールリングは、油圧バルブ60の第1結合面74における14個の配置窪みに対応し、9個が円環状のOリングで、残りの5個が長円環状のシールリングである。かかるシールリングは、液密性で柔軟性を有する材質を用いて所定の円環状の形状に成形したものが用いられる。材質としては、合成ゴム等が用いられる。
図3(a)では、シールリング122,124,126が
図3(d)の円形の配置窪み121,123,125に対応する円環状のOリングである。シールリング128,129は、長円環状のシールリングの例である。長円環状のシールリング128,129は、円環状のOリングを潰し成形等で所定の長円形状に整形して用いられる。このように、シールリングキット130における複数のシールリングは、複数種類の配置窪みの形状に対応して整えられた形状を有する複数種類のシールリングで構成される。
【0057】
保護カバー136は、額縁状の枠体134の他方側の面の周囲枠部に保持されるカバーシートである。保持の方法としては、枠体134の他方側の面の周囲枠部に粘着性テープ等の粘着性材料を付加して行われる。これに代えて、保護カバー136の周縁部に粘着性テープ等の粘着性材料を付加してもよい。
【0058】
保護カバー136は、可撓性のプラスチックシートで、外形は枠体134の外形とほぼ同じであるが、部分的に張り出したつかみ部140が設けられる。つかみ部140は、
図3(b)において、保護カバー136を外すときに保守作業員がつかむ部分となる。つかみ部140には、「A」のマークが付される。「A」のマークは、つかみ部140の表裏の片側の面にのみ「A」のマークを付す。「A」のマークを付す面は、
図3(b)において保護カバー136を外すときに配置シート132と間違わないように、枠体134に保持される側の面とは反対側の面とする。場合によっては、表裏の両面に「A」のマークを付しても構わない。
【0059】
保護カバー136は、シールリングキット130の保管、運搬等において、配置シート132の粘着シート面133及びシールリングにごみ等が付着することを防止するために用いられる。保護カバー136を枠体134に保持した状態で、保護カバー136はシールリングに接触しないことがよい。このことから、枠体134の厚さは、複数のシールリングの内における最大厚さ以下の厚さとすることが好ましい。また、保護カバー136を枠体134に保持した状態で、シールリングの配置状態を確認できることが好ましい。したがって、保護カバー136は、透明またはシールリングの配置状態を確認できる程度の半透明のプラスチックシートとすることがよい。かかる保護カバー136の材質としては、エポキシ樹脂、スチレン樹脂を用いることができる。
【0060】
上記「A」、「B」、「UP」、「DOWN」は、保守作業員の保守作業等に便利なように設けられる目印マークであるので、これら以外の表示であってもよい。例えば、保守作業において最初に「A」を用い次に「B」を用いる順序となるので、「A」,「B」に代えて、「1」,「2」としてもよい。あるいは、「A」,「B」に代えて、「除去」,「押圧」のように保守作業の内容を示す文字表示としてもよい。「UP」、「DOWN」についても、例えば、「裏側」、「表側」等の文字表示としてもよい。
【0061】
次に、上記構成のシールリングキット130を用いたシールリングの交換支援方法の詳細について、
図4から
図6を用いて説明する。
図4と
図5は、シールリングキット130の製作方法に関するもので、
図6と
図7は、シールリングの交換作業の支援方法に関するものである。
図4と
図6は、手順を示すフローチャートで、
図5と
図7は、
図3の各図におけるC−C’線に沿った断面図を用いて、各手順の内容を示す図である。
【0062】
シールリングキット130の製作方法の手順は、
図4に示すように、最初に、粘着シート面133を有する可撓性の配置シート132を準備する(S10)。
図5(a)に、
図3(b)のC−C’線の方向に沿った配置シート132と、粘着シート面133とを示す。なお、
図5の各図において、紙面の上方側は、油圧バルブ60における「下層階方向」である。したがって、
図5(a)において粘着シート面133は、配置シート132の上面として示されるが、油圧バルブ60の第1結合面74に向い合せるときにおける「下層階方向」を向く面に相当する。
【0063】
次に、額縁状の枠体134を準備し、配置シート132の粘着シート面133側に配置する(S12)。配置とともに、枠体134を粘着シート面133に押し付け、粘着力によって枠体134に配置シート132を固定する。額縁状の枠体134の外形は配置シート132の外形とほぼ同じ大きさであるので、額縁状の枠体の一方側の面の周囲枠部で配置シート132の周縁部を保持している状態となる。その状態を
図5(b)に示す。
【0064】
そして、予め整形した長円環状のシールリングの5個と、円環状のOリングであるシールリングの9個とを準備し、配置シート132の粘着シート面133の上に所定の配置関係で配置する(S14)。所定の配置関係とは、枠体134の一方側の面における額縁状の外形輪郭と、その額縁状の外形輪郭の1つの隅部E’を第1結合面74に対する位置合わせ手段として、第1結合面74における14個の配置窪みの配置関係に対応する配置関係である。S14におけるシールリングの配置状態を
図5(c)に示す。ここでは、
図2、
図3で述べたシールリング124が示される。
【0065】
その後、保護カバー136を額縁状の枠体134の他方側の面に取付ける(S16)。保護カバー136の取付は、保護カバー136の周縁部または枠体134の他方側の面に予め粘着性材料を付加しておき、粘着性材料を介して保護カバー136を枠体134の他方側の面に押し付け粘着力で固定する。S16の処理後の状態を
図5(d)に示す。枠体134の厚さは、複数のシールリングの最大厚さよりも厚いので、保護カバー136は各シールリングに接触しない。このようにして、シールリングキット130の製作が行われる。
図5(d)に対応する斜視図が
図3(b)である。
【0066】
シールリングキット130を用いるシールリング交換支援方法の手順は、
図5に示すように、最初に、油圧バルブ60の結合部72を開いて、第1結合面74における14個の古いシールリングを全部取り除き(S20)、複数の配置窪みを露出させる。全部取り除くのは、14個の古いシールリングのそれぞれの劣化状態が異なるが、交換を必要とするものを直ちには判別できないからである。S20の状態の斜視図が、
図3(a)である。
【0067】
次に、既に製作済みのシールリングキット130を準備し、保護カバー136を除去する(S22)。保守作業員は、枠体134の外形輪郭から張り出している保護カバー136のつかみ部140をつかみ、枠体134に粘着している保護カバー136を剥がす。これによって保護カバー136が除去される。
図7(a)は、保護カバー136を有するシールリングキット130を示し、(b)は、保護カバー136を除去した状態のシールリングキット131を示す。シールリングキット131の斜視図が
図3(c)である。
【0068】
そして、各シールリングの表面に潤滑剤が塗布される(S24)。潤滑剤は、交換作業の最後に結合部72を閉じる際、第1結合面74と第2結合面76の間にシールリングの一部が挟み込まれることを抑制し防止するために塗布される。潤滑剤としては、液密用グリース等を用いることができる。
図7(c)は、適当な塗布用治具を用いてシールリング124の表面にグリース150を塗布する作業が示される。
図7(d)は、全部のシールリングの表面に対して、潤滑剤であるグリース150の塗布作業が終了した状態を示す図である。
【0069】
全部のシールリングに潤滑剤が塗布されると、シールリングキット131の表裏反転が行われる(S26)。
図7(e)に、表裏反転されたシールリングキット131を示す。表裏反転によって、配置シート132の粘着シート面133の紙面上における向きが上向きから下向きに変わる。この状態に対応する斜視図が
図3(d)である。なお、
図7の各図のうち、
図7(a)から(d)の各図において、紙面の上方側は、油圧バルブ60における「下層階方向」であるが、
図7(e)以降は、紙面の上方側は、油圧バルブ60における「上層階方向」である。
【0070】
表裏反転後に、シールリングキット131の枠体134が有する位置合わせ手段を用いて、油圧バルブ60の第1結合面74とシールリングキット131との間の位置合わせが行われる(S28)。位置合わせは、シールリングキット131の枠体134の外形輪郭を第1結合面74の外形輪郭に合わせて行われる。このとき、シールリングキット131の枠体134の隅部E’を第1結合面74の隅部Eに対応させる。そのためには、S22,S24の段階で、
図3(c)に示すように、枠体134の「DOWN」の目印文字に最も近い隅部E’を、第1結合面74の隅部Eを通る幅方向の外形輪郭の延長上に配置する。その配置でS26において表裏反転すると、隅部E’が第1結合面74の隅部Eを通る幅方向の外形輪郭上に来るので、S28において、隅部E’を第1結合面74の隅部Eに対応させる位置合わせを行う。
図7(f)に、位置合わせ状態のシールリングキット131と第1結合面74を示す。
【0071】
位置合わせ後、シールリングキット131を第1結合面74の上に載置する。そして、保守作業員は、配置シート132を通して14個のシールリングを視認し、任意に定めた最初のシールリングに対応する位置で、配置シート132を押圧する(S30)。
図7(g)に、保守作業員の指先152が、シールリング124に対応する位置で、配置シート132を押圧し、それによってシールリング124が配置窪み123に押し込まれることを示す。さらに押圧すると、シールリング124が配置シート132の粘着シート面133から剥落し、指先152による押圧を止めても、シールリング124は配置窪み123の中に転置されて留まる(S32)。
【0072】
14個のシールリングについて、順次S30,S32の処理手順を行うことで、シールリングは対応する配置窪みの中に転置により配置される。すなわち、保守作業員が、シールリングキット130の配置シート132の上面を指先152でシールリングの数だけ押圧する簡単な作業で、全てのシールリングの交換が完了する。
図7(h)に、全てのシールリングが対応する配置窪みの中に配置された状態を示す。全てのシールリングについて配置窪みへの配置が完了すると、枠体134が第1結合面74から外される(S36)。保守作業員は、枠体134の外形輪郭から張り出している配置シート132のつかみ部138をつかみ、配置シート132と共に枠体134を第1結合面74から外す。
【0073】
これで、第1結合面74における14個の古いシールリングが全て新しいシールリングに交換されたので、油圧バルブ60の第1結合面74と油圧回路ブロック68の第2結合面76とを合わせ、結合部72を締結して閉じる(S38)。このようにして、シールリングキット130を用いたシールリング交換支援方法が実行される。