特許第6615029号(P6615029)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6615029
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】油圧制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/00 20060101AFI20191125BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20191125BHJP
   F16H 37/02 20060101ALI20191125BHJP
   F16H 63/04 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   F16H61/00
   F16H61/66
   F16H37/02 Q
   F16H63/04
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-64422(P2016-64422)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-180536(P2017-180536A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】土田 建一
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 芳充
(72)【発明者】
【氏名】林 利明
(72)【発明者】
【氏名】相川 史壮
(72)【発明者】
【氏名】芹口 祐太
(72)【発明者】
【氏名】森山 修司
(72)【発明者】
【氏名】二谷 啓允
(72)【発明者】
【氏名】曽我 吉伸
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 貴文
【審査官】 横山 幸弘
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/013441(WO,A1)
【文献】 特開平10−184880(JP,A)
【文献】 特開昭63−210445(JP,A)
【文献】 特開2015−218757(JP,A)
【文献】 特開2016−023800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、前記入力部材と前記出力部材とを結ぶ動力伝達経路に互いに並列に設けられた無段変速機構及び前後進切替機構と、前記無段変速機構と前記出力部材との間に設けられた切離用係合装置と、前記前後進切替機構と前記出力部材との間に設けられた常開型の噛み合い式係合装置と、を備え、前記前後進切替機構が、前進用係合装置と後進用係合装置とを含み、前記前進用係合装置の係合状態で前記車輪を前進方向に回転させる状態と、前記後進用係合装置の係合状態で前記車輪を後進方向に回転させる状態と、に切替可能に構成された車両用変速装置を制御対象とする油圧制御装置であって、
前記噛み合い式係合装置と、前記前進用係合装置、前記後進用係合装置、及び前記切離用係合装置の中からいずれか1つ選択される特定係合装置とが、共通リニアソレノイドバルブからの油圧供給を受ける油圧サーボによりそれぞれ動作するように構成されているとともに、
切替バルブにより、人為操作によるシフトレンジ切替に応じて、前記共通リニアソレノイドバルブからの油圧の供給先が切り替えられるように構成され、
(1)前記切替バルブと前記噛み合い式係合装置の油圧サーボとを接続する油路に設けられた絞り部、及び
(2)前記切替バルブにおける前記共通リニアソレノイドバルブとの連通ポートと、前記噛み合い式係合装置の油圧サーボとの連通ポートとの軸方向間隔を広くした構成、
の少なくとも一方を備え
前記共通リニアソレノイドバルブからの油圧を前記特定係合装置の油圧サーボに供給する場合には、当該供給油圧を一旦低下させてから上昇させる緩係合制御を実行し、
前記切替バルブが前記共通リニアソレノイドバルブからの油圧の供給先を前記噛み合い式係合装置から前記特定係合装置に切り替え、前記緩係合制御において前記共通リニアソレノイドバルブからの供給油圧が低下している間に、前記切替バルブが前記共通リニアソレノイドバルブからの油圧の供給先をさらに前記特定係合装置から前記噛み合い式係合装置に切り替える際に、前記噛み合い式係合装置の油圧サーボに作用する油圧が当該噛み合い式係合装置を係合状態とするのに必要な係合必要圧以上に維持されるように、前記絞り部の開口径及び前記軸方向間隔の少なくとも一方が設定されている油圧制御装置。
【請求項2】
前記切替バルブによる前記共通リニアソレノイドバルブからの油圧の供給先の前記特定係合装置から前記噛み合い式係合装置への切替時からの経過時間が予め定められた設定時間に達した後に、前記共通リニアソレノイドバルブからの供給油圧を前記係合必要圧以上に上昇させる請求項に記載の油圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速装置を制御対象とする油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用変速装置には各種の態様が存在し、例えば入力部材の回転を複数の変速段のいずれかに対応する変速比で変速して出力部材に伝達する有段変速装置や、入力部材の回転を無段階に変速して出力部材に伝達する無段変速装置等が例示される。また、入力部材の回転を予め定められた固定変速比(前進用と後進用とが別々に設定されていても良い)で変速して出力部材に伝達する固定比変速装置も存在する。さらに、特開2016−23800号公報(特許文献1)には、入力部材と出力部材とを結ぶ動力伝達経路に、上記の無段変速装置に相当する無段変速機構と上記の固定比変速装置に相当する前後進切替機構とが互いに並列に設けられた構成の車両用変速装置が開示されている。
【0003】
特許文献1の車両用変速装置では、前進用係合装置〔C1〕の係合状態且つ噛み合い式係合装置〔S1〕の係合状態で前進非無段モードが実現され、切離用係合装置〔C2〕の係合状態で前進無段モードが実現される。また、後進用係合装置〔B1〕且つ噛み合い式係合装置〔S1〕の係合状態で後進非無段モードが実現される。なお、特許文献1には明記されていないが、前進用係合装置〔C1〕及び後進用係合装置〔B1〕の非係合状態であって噛み合い式係合装置〔S1〕の係合状態で中立モードが実現されると理解される。
【0004】
特許文献1の車両用変速装置の油圧制御装置は、前進用係合装置〔C1〕に対応するリニアソレノイドバルブ〔SL1〕と、切離用係合装置〔C2〕に対応するリニアソレノイドバルブ〔SL2〕と、噛み合い式係合装置〔S1〕に対応するリニアソレノイドバルブ〔SLG〕とを備えている。なお、後進用係合装置〔B1〕には、リニアソレノイドバルブを介することなくリバースレンジ圧が直接供給されている。
【0005】
特許文献1において、噛み合い式係合装置とそれ以外の係合装置のうちのいずれか1つ(例えば後進用係合装置)とを、共通リニアソレノイドバルブと切替バルブとを用いて、共通リニアソレノイドバルブからの供給油圧によってそれぞれ動作するように構成することが考えられる。かかる構成では、例えば中立モードから後進非無段モードに切り替える際には、共通リニアソレノイドバルブからの油圧の供給先が噛み合い式係合装置の油圧サーボから後進用係合装置の油圧サーボに切り替えられる。このとき、後進用係合装置をショックなく係合させるためには、共通リニアソレノイドバルブからの供給油圧を、ある程度低い状態から次第に上昇させることが好ましい。
【0006】
しかし、例えばその後、後進非無段モードからさらに中立モードへの切り替えを行う場合には、一旦低下した共通リニアソレノイドバルブからの供給油圧が噛み合い式係合装置の油圧サーボに供給されるため、その時の共通リニアソレノイドバルブからの供給油圧が噛み合い式係合装置の係合必要圧未満である場合には、噛み合い式係合装置が解放されてしまう。噛み合い式係合装置が解放されると、再係合するまで待機しなければならず、ヘジテーションが発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016−23800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
噛み合い式係合装置とそれ以外の係合装置のうちのいずれか1つである特定係合装置とを共通リニアソレノイドバルブと切替バルブとを用いてそれぞれ制御する構成の油圧制御装置において、噛み合い式係合装置の係合状態で実現されるモードから特定係合装置の係合状態で実現されるモードに切り替えられる場合にも、噛み合い式係合装置を係合状態に維持することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る油圧制御装置は、
内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、前記入力部材と前記出力部材とを結ぶ動力伝達経路に互いに並列に設けられた無段変速機構及び前後進切替機構と、前記無段変速機構と前記出力部材との間に設けられた切離用係合装置と、前記前後進切替機構と前記出力部材との間に設けられた常開型の噛み合い式係合装置と、を備え、前記前後進切替機構が、前進用係合装置の係合状態で前記車輪を前進方向に回転させる状態と、後進用係合装置の係合状態で前記車輪を後進方向に回転させる状態と、に切替可能に構成された車両用変速装置を制御対象とする油圧制御装置であって、
前記噛み合い式係合装置と、前記前進用係合装置、前記後進用係合装置、及び前記切離用係合装置の中からいずれか1つ選択される特定係合装置とが、共通リニアソレノイドバルブからの油圧供給を受ける油圧サーボによりそれぞれ動作するように構成されているともに、
切替バルブにより、人為操作によるシフトレンジ切替に応じて、前記共通リニアソレノイドバルブからの油圧の供給先が切り替えられるように構成され、
(1)前記切替バルブと前記噛み合い式係合装置の油圧サーボとを接続する油路に設けられた絞り部、及び
(2)前記切替バルブにおける前記共通リニアソレノイドバルブとの連通ポートと、前記噛み合い式係合装置の油圧サーボとの連通ポートとの軸方向間隔を広くした構成、
の少なくとも一方を備える。
【0010】
この構成によれば、(1)の絞り部を備えることで、噛み合い式係合装置の係合状態で実現されるモード(以下、「第一モード」と言う。)において噛み合い式係合装置の油圧サーボに供給されていた油圧が、特定係合装置の係合状態で実現されるモード(以下、「第二モード」と言う。)に切り替えられた後、緩やかに低下する。このため、第一モードから第二モードへの切替後も噛み合い式係合装置の油圧サーボに作用する油圧が比較的高く維持される。よって、共通リニアソレノイドバルブからの供給油圧の大きさによらずに、第二モードへの切替後もしばらくの間は噛み合い式係合装置を係合状態に維持することができる。
或いは、(2)の構成を備えることで、第一モードから第二モードへの切り替えのために切替バルブが共通リニアソレノイドバルブからの油圧の供給先を噛み合い式係合装置の油圧サーボから特定係合装置の油圧サーボへと切り替える際に、共通リニアソレノイドバルブと噛み合い式係合装置の油圧サーボとが連通する時期を遅らせることができる。このため、噛み合い式係合装置の油圧サーボに作用する油圧の低下開始時期を遅らせることができ、第一モードから第二モードへの切替後も噛み合い式係合装置の油圧サーボに作用する油圧が比較的高く維持される。よって、第二モードへの切替後もしばらくの間は噛み合い式係合装置を係合状態に維持することができる。
【0011】
本開示に係る技術のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る車両用変速装置の模式図
図2】車両用変速装置の係合表
図3】油圧制御装置の回路図
図4】中立モードでの作動油の流れを示す模式図
図5】後進モードでの作動油の流れを示す模式図
図6】中立モード→後進モード→中立モードの切替時のタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
油圧制御装置の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態の油圧制御装置1は、車両用変速装置7(以下、単に「変速装置7」と言う。)を制御対象とする。油圧制御装置1は、変速装置7に備えられる油圧駆動要素(例えば、後述する第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及びドグクラッチD等)に供給される油圧を制御するために設けられている。
【0014】
図1に示すように、変速装置7は、入力部材71と、第一クラッチC1及び第一ブレーキB1を有する前後進切替機構74と、無段変速機構76と、第二クラッチC2と、ドグクラッチDと、出力部材77とを備えている。前後進切替機構74と無段変速機構76とは、入力部材71と出力部材77とを結ぶ動力伝達経路に、互いに並列に設けられている。また、変速装置7は、ロックアップクラッチ73を有する流体継手72と、減速ギヤ機構75と、カウンタギヤ機構78と、出力用差動歯車機構79とを備えている。これらは、図示が省略されたケース(駆動装置ケース)内に収容されている。
【0015】
入力部材71は、内燃機関EGに駆動力を伝達可能に連結(以下、単に「駆動連結」と言う。)されている。流体継手72は、入力部材71と前後進切替機構74及び無段変速機構76(以下、前後進切替機構74と無段変速機構76とを包括して「変速機構」と言う場合がある。)とに駆動連結されている。本実施形態の流体継手72は、例えば入力部材71に駆動連結されたポンプインペラと、変速機構に駆動連結されたタービンランナと、これらの間に配置されたステータとを備えるトルクコンバータである。なお、流体継手72は、ポンプインペラとタービンランナとだけを備えるフルードカップリングであっても良い。流体継手72は、ロックアップクラッチ73の解放状態で、その内部における作動油を介した流体伝動により、入力部材71に入力される内燃機関EGのトルクを変速機構に伝達する。一方、ロックアップクラッチ73の係合状態では、入力部材71に入力される内燃機関EGのトルクがそのまま変速機構に伝達される。
【0016】
前後進切替機構74は、差動歯車機構74Aと、第一クラッチC1と、第一ブレーキB1とを含む。差動歯車機構74Aは、サンギヤ、キャリヤ、及びリングギヤを有するダブルピニオン型の遊星歯車機構で構成されている。キャリヤに入力部材71が駆動連結され、リングギヤが第一ブレーキB1によって選択的に固定可能とされている。サンギヤは、当該差動歯車機構74Aの出力ギヤに駆動連結されているとともに、第一クラッチC1によって選択的にキャリヤ及び入力部材71に駆動連結される。本実施形態では、第一クラッチC1及び第一ブレーキB1は、いずれも、互いに係合する2つの回転部材どうしの摩擦力によって駆動力を伝達可能な摩擦係合装置である。
【0017】
前後進切替機構74は、第一クラッチC1の係合状態で、入力部材71の回転をそのまま出力ギヤに伝達して、車輪Wを前進方向に回転させる状態(前進状態)となる。一方、前後進切替機構74は、第一ブレーキB1の係合状態で、入力部材71の回転を反転させて出力ギヤに伝達して、車輪Wを後進方向に回転させる状態(後進状態)となる。このように、前後進切替機構74は、前進状態と後進状態とに切替可能に構成されている。本実施形態では、第一クラッチC1が「前進用係合装置」に相当し、第一ブレーキB1が「後進用係合装置」に相当する。
【0018】
本実施形態では、前後進切替機構74と出力部材77との間に、ドグクラッチDを有する減速ギヤ機構75が設けられている。減速ギヤ機構75は、第一ギヤ81と第二ギヤ82との歯数比に基づき、差動歯車機構74Aの出力ギヤの回転を減速して出力部材77側に伝達する。ドグクラッチDは、第一噛合部83と、第二噛合部84と、噛合選択部材85とを有する。第一噛合部83は、第一ギヤ81に駆動連結されている。第二噛合部84は、第二ギヤ82に駆動連結されている。噛合選択部材85は、油圧駆動式のシフトフォーク86により軸方向に移動自在となっている。
【0019】
噛合選択部材85は、第一噛合部83と第二噛合部84との両方に噛み合う状態で、第一ギヤ81と第二ギヤ82とを一体回転させる(以下、この状態をドグクラッチDの「係合状態」と言う。)。ドグクラッチDの係合状態で、前後進切替機構74と出力部材77とが駆動連結される。一方、噛合選択部材85は、第一噛合部83又は第二噛合部84だけに噛み合う状態で、第一ギヤ81と第二ギヤ82とを相対回転させる(以下、この状態をドグクラッチDの「解放状態」と言う。)。ドグクラッチDの解放状態で、前後進切替機構74と出力部材77とが分離されて、これらの間で駆動力が伝達されなくなる。本実施形態では、ドグクラッチDが「噛み合い式係合装置」に相当する。
【0020】
なお、本実施形態では、シフトフォーク86はスプリング87によって常時解放側に付勢されており、油圧が供給されない状態で、ドグクラッチDは解放状態となる。すなわち、本実施形態のドグクラッチDは、常開型(ノーマルオープン型)に構成されている。
【0021】
無段変速機構76は、第一シーブと、第二シーブと、伝動ベルトとを有する。第一シーブは、入力部材71に駆動連結されている。第二シーブは、第二クラッチC2を介して出力部材77に駆動連結されている。第二シーブは、第二クラッチC2によって選択的に出力部材77に駆動連結される。本実施形態では、第二クラッチC2も、第一クラッチC1及び第一ブレーキB1と同様に摩擦係合装置である。本実施形態では、第二クラッチC2が「切離用係合装置」に相当する。伝動ベルトは、第一シーブと第二シーブとに架け渡されている。無段変速機構76は、第一シーブが有するV字状溝の溝幅及び第二シーブが有するV字状溝の溝幅をそれぞれ変化させることにより、第一シーブ及び第二シーブのそれぞれの有効径を連続的に変化させる。こうして、無段変速機構76は、入力部材71の回転を、変速比を無段階に変化させつつ出力部材77側に伝達する。
【0022】
出力部材77は、カウンタギヤ機構78と出力用差動歯車機構79とを介して、左右一対の車輪Wに駆動連結されている。
【0023】
図2に示すように、本実施形態の変速装置7は、第一前進モード、第二前進モード、後進モード、及び中立モードを実現可能となっている。第一前進モードは、第一クラッチC1及びドグクラッチDの係合状態(、且つ、他の係合装置の解放状態;以下同様)で実現される。この第一前進モードは、入力部材71の回転が、前進状態となる前後進切替機構74を介して出力部材77及び車輪Wに伝達される走行モードであり、“前進固定変速比モード”とも称することができる。第二前進モードは、第二クラッチC2の係合状態で実現される。この第二前進モードは、入力部材71の回転が、無段変速機構76を介して出力部材77及び車輪Wに伝達される走行モードであり、“前進無段変速モード”とも称することができる。後進モードは、第一ブレーキB1及びドグクラッチDの係合状態で実現される。この後進モードは、入力部材71の回転が、後進状態となる前後進切替機構74を介して出力部材77及び車輪Wに伝達される走行モードであり、“後進固定変速比モード”とも称することができる。中立モードは、ドグクラッチDの係合状態で実現される。この中立モードは、入力部材71の回転が出力部材77及び車輪Wには伝達されないモードであり、“停車中モード”とも称することができる。
【0024】
変速装置7で実現される動作モードは、制御装置91(図1を参照)からの制御信号に従って動作する油圧制御装置1によって切替可能となっている。制御装置91は、シフトレバー92の操作位置を検出するシフト位置検出部93の検出信号を取得するように構成されている。制御装置91は、検出されるシフトレバー92の操作位置に応じて、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及びドグクラッチDのそれぞれの係合の状態(係合状態/解放状態)を制御するための制御信号を出力する。油圧制御装置1は、受け取った制御信号に基づき、第一クラッチC1用の第一油圧サーボ41(図3を参照)、第二クラッチC2用の第二油圧サーボ42、第一ブレーキB1用の第三油圧サーボ43、及びドグクラッチD用の第四油圧サーボ44に供給される油圧をそれぞれ制御する。
【0025】
例えばシフトレバー92の検出位置が「1」レンジである場合には、第一前進モードを実現するべく、油圧制御装置1は、第一油圧サーボ41及び第四油圧サーボ44に油圧を供給する。例えばシフトレバー92の検出位置が「2」レンジ又は「D」レンジである場合には、第二前進モードを実現するべく、油圧制御装置1は、第二油圧サーボ42に油圧を供給する。例えばシフトレバー92の検出位置が「R」レンジである場合には、後進モードを実現するべく、油圧制御装置1は、第三油圧サーボ43及び第四油圧サーボ44に油圧を供給する。例えばシフトレバー92の検出位置が「N」レンジである場合には、中立モードを実現するべく、油圧制御装置1は、第四油圧サーボ44に油圧を供給する。なお、第一前進モードと第二前進モードとの切り替えは、アクセル開度や車速等に応じて制御装置91(図1を参照)によって実行される構成であっても良い。
【0026】
図3に、油圧制御装置1の油圧回路(具体的には、図示が省略されたバルブボディに形成されている油圧回路)を、本開示に係る技術の要部に関わる部分のみを抜き出して模式的に示す。この図に示すように、油圧制御装置1は、モジュレータバルブ20と、マニュアルバルブ25と、第一リニアソレノイドバルブ31と、第二リニアソレノイドバルブ32と、第三リニアソレノイドバルブ33と、切替バルブ50とを備えている。
【0027】
モジュレータバルブ20は、スプール21と、スプリング22とを備えている。スプール21は、バルブボディ内に軸方向にスライド移動自在に配置されている。スプリング22は、バルブボディ内に配置されてスプール21を軸方向に付勢している。また、モジュレータバルブ20は、入力ポート20aと出力ポート20bとを備えている。入力ポート20aには、ライン圧PLが供給される。ここで、変速装置7には、入力部材71に駆動連結されたオイルポンプ(図示せず)が設けられている。オイルポンプは、入力部材71に駆動連結された内燃機関EGのトルクによって駆動されて、ケース下部に設けられたオイルパンから油(作動油、ATF;Automatic transmission fluid)を吸引して、所定圧に高めて吐出する。オイルポンプから吐出される油は、レギュレータバルブ(図示せず)によってライン圧PLに調圧されて、モジュレータバルブ20に供給される。
【0028】
モジュレータバルブ20は、ソレノイド部に印加される電流に応じて元圧としてのライン圧PLを調整して、ライン圧PLよりも低圧のモジュレータ圧PMを生成する。モジュレータバルブ20の出力ポート20bは、マニュアルバルブ25の入力ポート25aと、切替バルブ50の第一入力ポート50aとに連通している。
【0029】
マニュアルバルブ25は、シフトレバー92の操作に連動して軸方向にスライド移動自在なスプール26を備えており、シフトレバー92の操作位置に応じて、モジュレータバルブ20から供給されるモジュレータ圧PMの供給経路を切り替える。マニュアルバルブ25は、シフトレバー92で「1」レンジ、「2」レンジ、又は「D」レンジが選択されている場合には、入力ポート25aに供給されるモジュレータ圧PMを第一出力ポート25bからドライブレンジ圧PDとして出力する。また、マニュアルバルブ25は、シフトレバー92で「R」レンジが選択されている場合には、入力ポート25aに供給されるモジュレータ圧PMを第二出力ポート25cからリバースレンジ圧PRとして出力する。また、マニュアルバルブ25は、シフトレバー92で「N」レンジが選択されている場合には、第一出力ポート25b及び第二出力ポート25cを図示が省略されたドレンポートと連通させる。
【0030】
第一出力ポート25bは、第一リニアソレノイドバルブ31の入力ポート31aと、第二リニアソレノイドバルブ32の入力ポート32aとに連通している。よって、マニュアルバルブ25は、シフトレバー92で「1」レンジ、「2」レンジ、又は「D」レンジが選択されている場合に、モジュレータ圧PMに等しいドライブレンジ圧PDを第一リニアソレノイドバルブ31及び第二リニアソレノイドバルブ32に供給する。第二出力ポート25cは、切替バルブ50の第二入力ポート50b及び第三入力ポート50cに連通している。よって、マニュアルバルブ25は、シフトレバー92で「R」レンジが選択されている場合に、モジュレータ圧PMに等しいリバースレンジ圧PRを切替バルブ50の2つの入力ポート50b,50cに供給する。
【0031】
第一リニアソレノイドバルブ31は、ソレノイド部に印加される電流に応じて元圧としてのドライブレンジ圧PDを調整して、第一供給油圧Psl1を生成する。第一リニアソレノイドバルブ31の出力ポート31bは、第一クラッチC1用の第一油圧サーボ41に連通している。第一リニアソレノイドバルブ31で生成された第一供給油圧Psl1は、第一油圧サーボ41に供給される。
【0032】
第二リニアソレノイドバルブ32は、ソレノイド部に印加される電流に応じて元圧としてのドライブレンジ圧PDを調整して、第二供給油圧Psl2を生成する。第二リニアソレノイドバルブ32の出力ポート32bは、第二クラッチC2用の第二油圧サーボ42に連通している。第二リニアソレノイドバルブ32で生成された第二供給油圧Psl2は、第二油圧サーボ42に供給される。
【0033】
第三リニアソレノイドバルブ33は、ソレノイド部に印加される電流に応じて、後述する切替バルブ50から供給される元圧としてのモジュレータ圧PM又はリバースレンジ圧PRを調整して、第三供給油圧Psl3を生成する。第三リニアソレノイドバルブ33の出力ポート33bは、切替バルブ50の第四入力ポート50dに連通している。第三リニアソレノイドバルブ33で生成された第三供給油圧Psl3は、切替バルブ50に供給される。
【0034】
切替バルブ50は、スプール51と、スプリング52とを備えている。スプール51は、バルブボディ内に軸方向にスライド移動自在に配置されている。スプリング52は、バルブボディ内に配置されてスプール51を軸方向に付勢している。また、切替バルブ50は、第一入力ポート50aと、第二入力ポート50bと、第三入力ポート50cと、第四入力ポート50dと、第一出力ポート50eと、第二出力ポート50fと、第三出力ポート50gとを備えている。第一入力ポート50aには、モジュレータ圧PMが供給される。第二入力ポート50b及び第三入力ポート50cには、リバースレンジ圧PRが供給される。第四入力ポート50dには、第三リニアソレノイドバルブ33で生成された第三供給油圧Psl3が供給される。
【0035】
第一出力ポート50eは、第三リニアソレノイドバルブ33の入力ポート33aに連通している。第二出力ポート50fは、第一ブレーキB1用の第三油圧サーボ43に連通している。第三出力ポート50gは、ドグクラッチD用の第四油圧サーボ44に連通している。
【0036】
本実施形態では、切替バルブ50の取付状態(初期状態であって、以下、「第一状態」と言う。)は、スプリング52によってスプール51が図3における上方に付勢された、同図中左側半分の状態とされている。この第一状態では、第二入力ポート50b及び第三入力ポート50cが閉塞され、第一入力ポート50aと第一出力ポート50eとが連通され、第四入力ポート50dと第二出力ポート50fとの連通が遮断され、第四入力ポート50dと第三出力ポート50gとが連通される。切替バルブ50は、第一状態で、第一入力ポート50aに供給されるモジュレータ圧PMを第三リニアソレノイドバルブ33に供給し、当該第三リニアソレノイドバルブ33での調圧によって生成された第三供給油圧Psl3を、第四油圧サーボ44に供給する(図4を参照)。本実施形態では、切替バルブ50は、シフトレバー92が「R」レンジ以外の位置(「非R」レンジ)にある場合に、第一状態となる。
【0037】
一方、切替バルブ50は、シフトレバー92が「R」レンジに操作されてリバースレンジ圧PRが信号圧として第三入力ポート50cに入力されると、スプール51が図3における下方に移動し、同図中右側半分の状態(以下、「第二状態」と言う。)となる。この第二状態では、第一入力ポート50aと第三出力ポート50gとが連通され、第二入力ポート50bと第一出力ポート50eとが連通され、第四入力ポート50dと第二出力ポート50fとが連通され、第四入力ポート50dと第三出力ポート50gとの連通が遮断される。切替バルブ50は、第二状態で、第一入力ポート50aに供給されるモジュレータ圧PMを第四油圧サーボ44に供給するとともに、第二入力ポート50bに供給されるリバースレンジ圧PRを第三リニアソレノイドバルブ33に供給し、当該第三リニアソレノイドバルブ33での調圧によって生成された第三供給油圧Psl3を第三油圧サーボ43に供給する(図5を参照)。
【0038】
このように、本実施形態では、ドグクラッチDと第一ブレーキB1とが、共通の第三リニアソレノイドバルブ33からの第三供給油圧Psl3によってそれぞれ動作するように構成されている。そして、第三リニアソレノイドバルブ33からの第三供給油圧Psl3の供給先が、切替バルブ50により、人為操作によるシフトレンジ切替(具体的には、シフトレバー92の操作による操作位置の切替)に応じて切り替えられるように構成されている。本実施形態では、第一ブレーキB1が「特定係合装置Es」に相当し、第三リニアソレノイドバルブ33が「共通リニアソレノイドバルブ」に相当する。
【0039】
ここで、一例として、シフトレバー92が「N」レンジから「R」レンジに切り替えられて、動作モードが中立モードから後進モードに切り替えられる場面を想定する。中立モードでは、切替バルブ50の第一状態で、ドグクラッチDを係合状態に維持するのに十分な大きさ(例えば、図6に示す係合必要圧Pe以上)の第三供給油圧Psl3が、第四油圧サーボ44に供給されている。係合必要圧Peは、ドグクラッチDを係合状態とする(具体的には、噛合選択部材85が第一噛合部83と第二噛合部84との両方に噛み合う状態となるようにスプリング87の付勢力に抗してシフトフォーク86を移動させる)のに必要な油圧である。
【0040】
この状態で、後進モードへの切り替えに伴って切替バルブ50の第三入力ポート50cにリバースレンジ圧PRが入力されると、切替バルブ50は第二状態となる。すると、切替バルブ50を介して、モジュレータ圧PMが第四油圧サーボ44に供給されるとともに第三供給油圧Psl3が第三油圧サーボ43にされるようになる。このとき、第四油圧サーボ44に供給される油圧は、十分な大きさの第三供給油圧Psl3からモジュレータ圧PMに変更されるだけなので、ドグクラッチDの係合状態が維持される。
【0041】
一方、第三油圧サーボ43に対しては、油圧が供給されていない状態から、第三リニアソレノイドバルブ33からの第三供給油圧Psl3が新たに供給されることになる。このとき、第一ブレーキB1は摩擦係合装置であるから、急係合による係合ショックの発生を回避するため、第三供給油圧Psl3は、一旦低下させてから上昇させることが好ましい。すなわち、第三供給油圧Psl3を例えば十分に小さい圧に低下させてから次第に上昇させることにより、第一ブレーキB1を緩やかに(徐々に)係合させる緩係合制御を実行することが好ましい。この場合、例えば第三供給油圧Psl3の指令値は、図6に示すように、ファストフィル期間以降は、所定期間、第一ブレーキB1の2つの係合部材間に伝達トルク容量が生じない程度の大きさを維持するように設定されることが好ましい。第三供給油圧Psl3は、例えば上述した係合必要圧Pe未満の圧に一旦維持されてから上昇するように設定される場合がある。
【0042】
ここで、一例として、シフトレバー92が「R」レンジからさらに「N」レンジに切り替えられて、動作モードが後進モードからさらに中立モードに切り替えられる場面を想定する。上記のとおり、最初に中立モードから後進モードに切り替えられた際には、第一ブレーキB1の急係合による係合ショックの発生を回避するため、第三供給油圧Psl3が低下されている。このため、この状態で中立モードへの切り替えに伴って切替バルブ50が第一状態に復帰すると、低圧(例えば、上述した係合必要圧Pe未満の圧)の第三供給油圧Psl3が第四油圧サーボ44に供給されることになる。
【0043】
その結果、本来的にはドグクラッチDが係合状態とされるべき中立モードにおいて、シフトフォーク86がスプリング87によって押し戻されて、ドグクラッチDが解放状態となってしまう。ドグクラッチDが一旦解放状態となると、係合状態に復帰するまでに一定時間を要するので、例えばその後に「1」レンジや「R」レンジが選択された場合に、ヘジテーションが発生する場合があって好ましくない。
【0044】
そこで本実施形態の油圧制御装置1は、中立モードから後進モードへの切替時に第三供給油圧Psl3が低下される場合にも第四油圧サーボ44に作用する油圧が係合必要圧Pe以上に維持されるように、異なる観点からの以下の2つの構成を備えている。
【0045】
第1の観点は、第四油圧サーボ44に作用する油圧の低下速度を小さくするというものである。この観点に基づき、本実施形態の油圧制御装置1は、切替バルブ50と第四油圧サーボ44とを接続する油路に設けられた絞り部60を備えている。絞り部60は、当該部位における油路断面積を、その前後の部位における油路断面積よりも小さくした部位である。このような絞り部60を切替バルブ50と第四油圧サーボ44とを接続する油路に設けることで、後進モードから中立モードへの切替時に、第四油圧サーボ44からの油の戻りによる排出量を少なく抑えることができる。よって、第三供給油圧Psl3の大きさによらずに、第四油圧サーボ44に作用する油圧を緩やかに低下させることができる。
【0046】
第2の観点は、第四油圧サーボ44に作用する油圧の低下開始時期を遅くするというものである。この観点に基づき、本実施形態の油圧制御装置1では、切替バルブ50における第三リニアソレノイドバルブ33との連通ポートである第四入力ポート50dと、第四油圧サーボ44との連通ポートである第三出力ポート50gとの軸方向間隔が広く設定されている。なお、ここで言う「軸方向」とは、切替バルブ50のスプール51の移動方向である。すなわち、切替バルブ50における第四入力ポート50dと第三出力ポート50gとの間の、スプール51の移動方向に沿う間隔が、通常の間隔に比べて広く設定されている。このようにすることで、中立モードから後進モードへの切替時に、第三リニアソレノイドバルブ33と第四油圧サーボ44とが連通する時期を遅らせることができ、第四油圧サーボ44への低圧の第三供給油圧Psl3の供給開始時期を遅らせることができる。よって、それに応じて、第四油圧サーボ44に作用する油圧の低下を遅らせることができる。
【0047】
絞り部60の開口径及び第四入力ポート50dと第三出力ポート50gとの軸方向間隔は、切替バルブ50が第一状態から第二状態に切り替えられ、さらに第二状態から第一状態に切り替えられる際に、第四油圧サーボ44に作用する油圧が係合必要圧Pe以上に維持されるように設定されている。よって、中立モード→後進モード→中立モードと切り替える場合に、第三供給油圧Psl3を低下させて係合ショックの発生を回避しつつ、第四油圧サーボ44からの油の抜けを遅延させることにより、第四油圧サーボ44に作用する油圧を係合必要圧Pe以上に維持して、ドグクラッチDを係合状態に維持することができる。ドグクラッチDが係合状態に維持されるので、その後に「1」レンジや「R」レンジが選択される場合にも、ヘジテーションを生じさせることなく、応答性良く車両を発進させることができる。
【0048】
第三リニアソレノイドバルブ33からの第三供給油圧Psl3は、切替バルブ50による油圧供給先の第三油圧サーボ43から第四油圧サーボ44への切替時からの経過時間が予め定められた設定時間に達した後に、係合必要圧Pe以上に上昇される。設定時間は、油圧制御装置1の個体毎のバラツキによらずに、切替バルブ50が切替指令を受けてから実際に第三リニアソレノイドバルブ33と第四油圧サーボ44とを確実に連通させるまでに要する時間として、実験的に求められて設定されている。このように、設定時間の経過後に第三リニアソレノイドバルブ33からの第三供給油圧Psl3を係合必要圧Pe以上に上昇させることで、ドグクラッチDを確定的に係合状態とすることができる。
【0049】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、切替バルブ50と第四油圧サーボ44とを接続する油路に絞り部60が設けられるとともに、切替バルブ50における第四入力ポート50dと第三出力ポート50gとの軸方向間隔が広く設定されている構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば切替バルブ50における第四入力ポート50dと第三出力ポート50gとの軸方向間隔が広く設定されずに絞り部60だけが設けられても良い。或いは、絞り部60が設けられずに切替バルブ50における第四入力ポート50dと第三出力ポート50gとの軸方向間隔だけが広く設定されても良い。
【0050】
(2)上記の実施形態では、第三リニアソレノイドバルブ33からの第三供給油圧Psl3が、切替バルブ50による油圧供給先の切替後に設定時間以上経過した後に係合必要圧Pe以上に上昇される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば設定時間の経過前であっても、実際に「N」レンジが選択されたことがシフト位置検出部93によって検知された場合には、その時点で第三供給油圧Psl3が係合必要圧Pe以上に上昇されても良い。
【0051】
(3)上記の実施形態では、ドグクラッチDと第一ブレーキB1とが共通の第三リニアソレノイドバルブ33からの第三供給油圧Psl3によってそれぞれ動作する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えばドグクラッチDと第一クラッチC1とが共通の第一リニアソレノイドバルブ31からの第一供給油圧Psl1によってそれぞれ動作しても良い。この場合、第一クラッチC1が「特定係合装置Es」に相当する。或いは、ドグクラッチDと第二クラッチC2とが共通の第二リニアソレノイドバルブ32からの第二供給油圧Psl2によってそれぞれ動作しても良い。この場合、第二クラッチC2が「特定係合装置Es」に相当する。
【0052】
(4)上述した各実施形態(上記の実施形態及びその他の実施形態を含む;以下同様)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【0053】
〔実施形態の概要〕
以上をまとめると、本開示に係る油圧制御装置は、好適には、以下の各構成を備える。
【0054】
内燃機関(EG)に駆動連結される入力部材(71)と、車輪(W)に駆動連結される出力部材(77)と、前記入力部材(71)と前記出力部材(77)とを結ぶ動力伝達経路に互いに並列に設けられた無段変速機構(76)及び前後進切替機構(74)と、前記無段変速機構(76)と前記出力部材(77)との間に設けられた切離用係合装置(C2)と、前記前後進切替機構(74)と前記出力部材(77)との間に設けられた常開型の噛み合い式係合装置(D)と、を備え、前記前後進切替機構(74)が、前進用係合装置(C1)の係合状態で前記車輪(W)を前進方向に回転させる状態と、後進用係合装置(B1)の係合状態で前記車輪(W)を後進方向に回転させる状態と、に切替可能に構成された車両用変速装置(7)を制御対象とする油圧制御装置(1)であって、
前記噛み合い式係合装置(D)と、前記前進用係合装置(C1)、前記後進用係合装置(B1)、及び前記切離用係合装置(C2)の中からいずれか1つ選択される特定係合装置(Es)とが、共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)からの油圧供給を受ける油圧サーボ(44,41/42/43)によりそれぞれ動作するように構成されているともに、
切替バルブ(50)により、人為操作によるシフトレンジ切替に応じて、前記共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)からの油圧の供給先が切り替えられるように構成され、
(1)前記切替バルブ(50)と前記噛み合い式係合装置(D)の油圧サーボ(44)とを接続する油路に設けられた絞り部(60)、及び
(2)前記切替バルブ(50)における前記共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)との連通ポート(50d)と、前記噛み合い式係合装置(D)の油圧サーボ(44)との連通ポート(50g)との軸方向間隔を広くした構成、
の少なくとも一方を備える。
【0055】
この構成によれば、(1)の絞り部(60)を備えることで、噛み合い式係合装置(D)の係合状態で実現されるモード(以下、「第一モード」と言う。)において噛み合い式係合装置(D)の油圧サーボ(44)に供給されていた油圧が、特定係合装置(Es)の係合状態で実現されるモード(以下、「第二モード」と言う。)に切り替えられた後、緩やかに低下する。このため、第一モードから第二モードへの切替後も噛み合い式係合装置(D)の油圧サーボ(44)に作用する油圧が比較的高く維持される。よって、共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)からの供給油圧の大きさによらずに、第二モードへの切替後もしばらくの間は噛み合い式係合装置(D)を係合状態に維持することができる。
或いは、(2)の構成を備えることで、第一モードから第二モードへの切り替えのために切替バルブ(50)が共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)からの油圧の供給先を噛み合い式係合装置(D)の油圧サーボ(44)から特定係合装置(Es)の油圧サーボ(41/42/43)へと切り替える際に、共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)と噛み合い式係合装置(D)の油圧サーボ(44)とが連通する時期を遅らせることができる。このため、噛み合い式係合装置(D)の油圧サーボ(44)に作用する油圧の低下開始時期を遅らせることができ、第一モードから第二モードへの切替後も噛み合い式係合装置(D)の油圧サーボ(44)に作用する油圧が比較的高く維持される。よって、第二モードへの切替後もしばらくの間は噛み合い式係合装置(D)を係合状態に維持することができる。
【0056】
一態様として、
前記共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)からの油圧を前記特定係合装置(Es)の油圧サーボ(41/42/43)に供給する場合には、当該供給油圧を一旦低下させてから上昇させる緩係合制御を実行し、
前記切替バルブ(50)が前記共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)からの油圧の供給先を前記噛み合い式係合装置(D)から前記特定係合装置(Es)に切り替え、前記緩係合制御において前記共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)からの供給油圧が低下している間に、前記切替バルブ(50)が前記共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)からの油圧の供給先をさらに前記特定係合装置(Es)から前記噛み合い式係合装置(D)に切り替える際に、前記噛み合い式係合装置(D)の油圧サーボ(44)に作用する油圧が当該噛み合い式係合装置(D)を係合状態とするのに必要な係合必要圧(Pe)以上に維持されるように、前記絞り部(60)の開口径及び前記軸方向間隔が設定されていることが好ましい。
【0057】
この構成によれば、第二モードから第一モードへの切替時に、共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)から特定係合装置(Es)の油圧サーボ(41/42/43)への油圧を供給する際に一旦油圧を低下させるので、特定係合装置(Es)の急係合に伴う係合ショックの発生を抑制することができる。このとき、係合ショックの発生を抑制できる一方で、例えば共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)からの供給油圧が係合必要圧(Pe)未満まで低下してしまうと、その後に第二モードに再度切り替わった場合には係合必要圧(Pe)未満に低下した油圧が共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)から噛み合い式係合装置(D)の油圧サーボ(44)に供給されて、噛み合い式係合装置(D)が解放される場合がある。しかし、この場合であっても、絞り部(60)の開口径及び2つの連通ポート(50d,50g)どうしの間の軸方向間隔を上記のように設定することで、噛み合い式係合装置(D)の油圧サーボ(44)からの油の抜けを遅延させ、第二モードへの再切替後に噛み合い式係合装置(D)を係合状態に維持することができる。
【0058】
一態様として、
前記切替バルブ(50)による前記共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)からの油圧の供給先の前記特定係合装置(Es)から前記噛み合い式係合装置(D)への切替時からの経過時間が予め定められた設定時間に達した後に、前記共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)からの供給油圧を前記係合必要圧(Pe)以上に上昇させることが好ましい。
【0059】
切替バルブ(50)による共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)からの油圧の供給先の切替時から設定時間以上が経過すると、油圧制御装置(1)の個体毎のバラツキによらずに、切替バルブ(50)がほぼ確実に共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)と噛み合い式係合装置(D)の油圧サーボ(44)とを連通させる状態になっていると推定できる。この点に鑑み、上記の構成によれば、設定時間の経過後に共通リニアソレノイドバルブ(31/32/33)からの供給油圧を係合必要圧(Pe)以上に上昇させることで、噛み合い式係合装置(D)を確定的に係合状態とすることができる。
【0060】
本開示に係る油圧制御装置は、上述した各効果のうち、少なくとも1つを奏することができれば良い。
【符号の説明】
【0061】
1 油圧制御装置
7 車両用変速装置
33 第三リニアソレノイドバルブ(共通リニアソレノイドバルブ)
43 第三油圧サーボ(特定係合装置の油圧サーボ)
44 第四油圧サーボ(噛み合い式係合装置の油圧サーボ)
50 切替バルブ
50d 第四入力ポート(共通リニアソレノイドバルブとの連通ポート)
50g 第三出力ポート(噛み合い式係合装置の油圧サーボとの連通ポート)
60 絞り部
71 入力部材
74 前後進切替機構
76 無段変速機構
77 出力部材
EG 内燃機関
W 車輪
Es 特定係合装置
C1 第一クラッチ(前進用係合装置)
C2 第二クラッチ(切離用係合装置)
B1 第一ブレーキ(後進用係合装置)
D ドグクラッチ(噛み合い式係合装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6