(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた半導体デバイス用基板は、高周波かつ高出力で動作するパワー素子等に用いられている。特に、マイクロ波、準ミリ波、ミリ波等の高周波帯域において増幅を行うのに適したものとして、例えば高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor:HEMT)等が知られている。
【0003】
このようなHEMT等で用いられる半導体デバイス用基板が、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1において、半導体デバイス用基板は、
図12に示すように、シリコン基板111上に形成され、AlNから構成される第1の半導体層112と、GaNから構成されFeがドーピングされた第2の半導体層113とを交互に積層して形成されるバッファ層114と、バッファ層114上に形成され、GaNから構成されるチャネル層115と、チャネル層115上に形成され、AlGaNから構成されるバリア層116を有している。
なお、半導体デバイス用基板上にソース電極S、ドレイン電極D、ゲート電極Gを設けることにより、半導体デバイスが得られる。
【0004】
特許文献1に開示されている半導体デバイス用基板は、バッファ層114に鉄をドープすることにより、縦方向の耐圧を向上させている。
【0005】
しかしながら、Feのドーピングにおいては、表面偏析等により急峻な制御ができないため、上部の層(すなわち、チャネル層)へのFeの混入が起こることが知られている(特許文献2参照)。このFeは、チャネル層に入ってしまうと移動度の低下等の順方向特性に悪影響が及ぶことが知られており、チャネル層に混入させないような構造、製法を用いることが好ましい。
高抵抗化に用いたFeが上部のチャネル層に導入されないようにする構造が、例えば、特許文献2−4に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Feをドープしたバッファ層を備える半導体デバイス用基板上に電極を設けた半導体デバイスにおいて、ソース電極Sをシリコン基板111と電気的に接続してOFF状態で所定の電圧をソース・ドレイン間に印加した場合、縦方向リークは抑制できる。しかし、高温動作時には、バッファ層114を介して流れる横方向(ドレイン電極Dとソース電極Sとの間)のリークが増加することが、本発明者らによって見出された。
また、上記の問題を解決するために、バッファ層に炭素を含有させることで、高温動作時の横方向のリーク電流を抑制できるが、炭素の平均濃度を上げ過ぎると、バッファ層の結晶性が低下し、電流コラプス現象が悪化しやすくなるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、縦方向リーク電流を抑制しつつデバイスの高温動作時の横方向リーク電流を抑制できるとともに、電流コラプス現象を抑制することができる半導体デバイス用基板、半導体デバイス、及び、半導体デバイス用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、基板と、該基板上に設けられ、窒化物半導体からなるバッファ層と、前記バッファ層上に設けられた窒化物半導体層からなるデバイス能動層とを有する半導体デバイス用基板であって、前記バッファ層は炭素と鉄を含む第1の領域と、前記第1の領域上にあって、前記第1の領域よりも鉄の平均濃度が低く、前記第1の領域よりも炭素の平均濃度が高い第2の領域とを有し、前記第2の領域の炭素の平均濃度は前記第1の領域の鉄の平均濃度より低いことを特徴とする半導体デバイス用基板を提供する。
【0010】
このようにすることで、縦方向のリーク電流を抑制しつつ、バッファ層を介してソース・ドレイン間を流れるデバイスの高温動作時の横方向のリーク電流を抑制できる。また、電流コラプス現象を抑制することができる。
【0011】
このとき、前記第1の領域は前記バッファ層の下面を含み、前記第2の領域は前記バッファ層の上面を含むことが好ましい。
【0012】
第1の領域と第2の領域の鉄と炭素の平均濃度プロファイルがこのようになっていることにより、縦方向のリーク電流を抑制しつつ、高温動作時の横方向のリーク電流をより効率よく抑制することができる。
【0013】
このとき、前記第1の領域における炭素の平均濃度と鉄の平均濃度の和は、前記第2の領域における炭素の平均濃度と鉄の平均濃度の和よりも大きいことが好ましい。
【0014】
第1の領域および第2の領域の炭素及び鉄の濃度プロファイルがこのようになっていれば、縦方向のリーク電流を抑制しつつ、電流コラプス現象をより確実に抑制することができる。
【0015】
このとき、前記第1の領域は前記第2の領域よりも厚いことが好ましい。
【0016】
このように鉄を高濃度で含む第1の領域を第2の領域よりも厚くすることで、縦方向のリーク電流をより効果的に抑制することができる。
【0017】
このとき、前記第1の領域は組成の異なる複数の窒化物半導体層を含むことができる。
【0018】
バッファ層を構成する第1の領域として、このような積層構造を好適に用いることができる。
【0019】
また、前記第2の領域は組成の異なる複数の窒化物半導体層を含むことができる。
【0020】
バッファ層を構成する第2の領域として、このような積層構造を好適に用いることができる。
【0021】
このとき、前記第1の領域及び前記第2の領域はAl又はGa又はその両方を含み、前記第1の領域の平均Al濃度は、前記第2の領域の平均Al濃度より低いことが好ましい。
【0022】
このようにバッファ層の上部領域の平均Al濃度を、バッファ層の下部領域の平均Al濃度より高くすることで、基板の反りを低減させることができ、外周クラックを低減させつつ、内部クラックの発生を抑制することができる。
【0023】
このとき、前記第2の領域の炭素の平均濃度と鉄の平均濃度の和、及び、前記第1の領域の炭素の平均濃度と鉄の平均濃度の和より小さい炭素の平均濃度と鉄の平均濃度の和を有する第3の領域を前記第1の領域と前記第2の領域との間に備えることが好ましい。
【0024】
このような第3の領域を備えることで、半導体層の結晶性を高めつつ、バッファ層の上面の平坦性をより改善させることができる。
【0025】
このとき、前記第1の領域及び前記第2の領域の厚さは、それぞれ400nm以上であることが好ましい。
【0026】
鉄を高濃度で含んでいる第1の領域が400nm以上であれば、縦方向のリーク電流をより効果的に抑制することができる。また、第1の領域より鉄の平均濃度が低く、炭素の平均濃度が高い第2の領域が400nm以上であれば、デバイス能動層へのFeの混入をより効果的に抑制でき、電流コラプス現象もより効果的に抑制できる。
【0027】
このとき、前記第2の領域における鉄の平均濃度は1×10
16atoms/cm
3以下であり、前記第1の領域における鉄の平均濃度は1×10
18atoms/cm
3以上であることが好ましい。
【0028】
第2の領域における鉄の平均濃度が1×10
16atoms/cm
3以下であれば、デバイス能動層へのFeの混入をより確実に抑制できる。また、第1の領域における鉄の平均濃度が1×10
18atoms/cm
3以上であれば、確実に縦方向のリーク電流をより効果的に抑制することができる。
【0029】
このとき、前記デバイス能動層は、前記第2の領域よりも炭素の平均濃度が低く、前記第1の領域よりも鉄の平均濃度が低い窒化物半導体からなるチャネル層を含み、前記デバイス能動層と前記バッファ層との間に、炭素の平均濃度が前記第2の領域以上であり、前記第1の領域よりも鉄の平均濃度が低い窒化物半導体からなる高抵抗層を備えることが好ましい。
【0030】
半導体デバイス用基板のデバイス能動層として、このようなチャネル層を好適に含むことができる。また、このような高抵抗層をデバイス能動層とバッファ層との間に設けることで、電流コラプス現象の悪化と高温時の横方向リーク電流をより確実に抑制することができるとともに、チャネル層へのFeの混入をより確実に抑制できるので、移動度の低下等の順方向特性の劣化をより確実に防止することができる。
【0031】
また、本発明は、上記の半導体デバイス用基板を有し、前記デバイス能動層は、前記チャネル層とバンドギャップの異なる窒化物半導体からなるバリア層を前記チャネル層上に含み、前記チャネル層と、前記バリア層との間の境界面の近傍に形成される2次元電子ガス層に電気的に接続される電極をさらに有することを特徴とする半導体デバイスを提供する。
【0032】
このような半導体デバイスであれば、縦方向リーク電流を抑制しつつデバイスの高温動作時の横方向リーク電流を抑制できるとともに、電流コラプス現象を抑制することができる半導体デバイスを供給することができる。
【0033】
また、本発明は、基板上に窒化物半導体からなるバッファ層を形成する工程と、前記バッファ層上に窒化物半導体からなるデバイス能動層を形成する工程とを有する半導体デバイス用基板の製造方法であって、前記バッファ層を形成する工程は、炭素と鉄を含む第1の領域を形成する工程と、前記第1の領域上に、前記第1の領域よりも鉄の平均濃度が低く、前記第1の領域よりも炭素の平均濃度が高い第2の領域を形成する工程とを含み、前記第2の領域の炭素の平均濃度を、前記第1の領域の鉄の平均濃度より低くすることを特徴とする半導体デバイス用基板の製造方法を提供する。
【0034】
このような半導体デバイス用基板の製造方法を用いれば、縦方向リーク電流を抑制しつつデバイスの高温動作時の横方向リーク電流を抑制できるとともに、電流コラプス現象を抑制することができる半導体デバイス用基板を製造することができる。
【0035】
このとき、前記第2の領域の成長温度を、前期第1の領域の成長温度よりも低くすることができる。
【0036】
第2の領域の炭素の平均濃度を第1の領域の炭素の平均濃度より高くするために、第2の領域の成長温度を好適な範囲で第1の領域の成長温度よりも低くすることができる。
【発明の効果】
【0037】
以上のように、本発明の半導体デバイス用基板であれば、縦方向リーク電流を抑制しつつデバイスの高温動作時の横方向リーク電流を抑制できるとともに、電流コラプス現象を抑制することができる。また、本発明の半導体デバイスであれば、縦方向リーク電流を抑制しつつデバイスの高温動作時の横方向リーク電流を抑制できるとともに、電流コラプス現象を抑制することができる半導体デバイスとすることができる。さらに、本発明の半導体デバイス用基板の製造方法を用いれば、縦方向リーク電流を抑制しつつデバイスの高温動作時の横方向リーク電流を抑制できるとともに、電流コラプス現象を抑制することができる半導体デバイス用基板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
前述したように、Feをドープしたバッファ層構造において、縦方向のリーク電流は抑制できるものの、高温動作時には、横方向のリーク電流が増加することが、本発明者らによって見出された。
【0040】
そこで、本発明者らは、縦方向のリーク電流を抑制しながら、高温動作時の横方向のリーク電流を低減させることができる半導体デバイス用基板について鋭意検討した。その結果、高温動作時の横方向のリーク電流については鉄よりも炭素の濃度を高めた方がよいことを見出し、バッファ層の上部領域の炭素の平均濃度をバッファ層の下部領域の炭素の平均濃度より高くした。さらに、鉄の縦方向のリーク電流抑制効果は炭素より室温動作時及び高温動作時ともに高いので、バッファ層の下部領域の鉄の平均濃度をバッファ層の上部領域の鉄の平均濃度より高くした。その結果、室温動作時や高温動作時の縦方向のリーク電流の上昇を抑制しながら、高温動作時の横方向のリーク電流を低減させることができることを見出した。
【0041】
ところで、炭素は鉄よりも急峻に濃度変化させることができるが、バッファ層の上部領域で炭素濃度を上げるために、例えば、バッファ層の上部領域の膜形成の際に成長温度を下げる。すると、半導体層中の炭素濃度が温度によってバラツキが大きくなり、基板の反りが大きくなり、又、クラックが発生しやすくなる。さらに、バッファ層の上部領域で炭素濃度を上げ過ぎると、バッファ層の上面近傍の結晶性が低下し、電流コラプス現象が悪化しやすくなる。
【0042】
そこで、本発明者らは縦方向のリーク電流を抑制しつつ、高温時の横方向リーク電流を抑制できるとともに、電流コラプス現象を抑制することができる半導体デバイス用基板についてさらに鋭意検討した。その結果、バッファ層の上側となる第2の領域の炭素の平均濃度を第1の領域の鉄の平均濃度より低くする本発明をなすに至った。
【0043】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
まず、
図1−3を参照しながら、本発明の半導体デバイス用基板の実施態様の一例を説明する。
【0045】
図1に示す半導体デバイス用基板10は、基板(例えば、シリコン系基板)12と、シリコン系基板12上に設けられた窒化物半導体からなるバッファ層15と、バッファ層15上に設けられた窒化物半導体からなるデバイス能動層29を有している。デバイス能動層29は、例えば、チャネル層26とチャネル層26とバンドギャップの異なるバリア層27で構成される。
ここで、シリコン系基板12は、例えば、Si又はSiCからなる基板である。
シリコン系基板12と、バッファ層15の間にAlNからなる初期層13を設けてもよい。
【0046】
バッファ層15は、
図2(a)に示すように、第1の層17と、第1の層17と格子定数が異なっている第2の層18とが交互に積層されたバッファ層15’とすることができ、各層の厚さは異なっていてもよい。
【0047】
また、バッファ層15は、
図2(b)に示すように、第1の層17と、第1の層17と格子定数が異なっている第2の層18とが交互に積層された積層体19と、GaN挿入層20とが交互に積層されたバッファ層15”とすることができる。なお、第1の層17、第2の層18、GaN挿入層20で濃度が異なる場合があるが、繰り返し積層する場合の平均濃度は、繰り返される積層体19とGaN挿入層20を合わせた平均濃度とする。
【0048】
バッファ層15は、不純物として炭素及び鉄を含む第1の領域15aと、第1の領域15a上にあって、第1の領域15aより鉄の平均濃度が低く、第1の領域15aより炭素の平均濃度が高い第2の領域15bを有し、第2の領域15bの炭素の平均濃度は第1の領域15aの鉄の平均濃度より低い。
ここで、第1の領域15aを、鉄がガスドーピングされた領域とすることができる。
【0049】
このように、バッファ層15の第2の領域15bの鉄の平均濃度をバッファ層15の第1の領域15aの鉄の平均濃度より低くし、バッファ層15の第2の領域15bの炭素の平均濃度をバッファ層15の第1の領域15aの炭素の平均濃度より高くする。これにより、デバイスの高温動作時の横方向リーク電流を抑制できる。また、バッファ層15の第2の領域15bの炭素の平均濃度を5×10
17atoms/cm
3以上、より好ましくは、1×10
18atoms/cm
3以上であって2×10
19atoms/cm
3以下とし、バッファ層15の第1の領域15aの鉄の平均濃度より低くすることで、バッファ層15の上面近傍の結晶性の悪化を抑制し、電流コラプス現象を抑制することができる。
バッファ層15を高耐圧化するためには、炭素よりも鉄を混入させた方がよい。しかしながら、鉄濃度は炭素濃度よりも急峻に降下させることはできない。そこで、バッファ層15の上面での鉄濃度を十分低下させるため、第1の領域の鉄濃度を第2の領域の鉄濃度より高くする。一方、炭素濃度は比較的急峻に濃度変化させることができるので、第2の領域の炭素濃度を第1の領域の炭素濃度より高くする。これにより、第2の領域で鉄の濃度を下げたことによって耐圧の低下を抑制できる。
【0050】
本発明の実施態様の一例の半導体デバイス用基板において、第1の領域15aはバッファ層15の下面を含み、第2の領域15bはバッファ層15の上面を含むことが好ましい。第1の領域と第2の領域の鉄と炭素の平均濃度プロファイルがこのようになっていることにより、縦方向のリーク電流を抑制しつつ、高温動作時の横方向のリーク電流をより効率よく抑制することができる。
【0051】
本発明の実施態様の一例の半導体デバイス用基板において、第1の領域15aは組成の異なる複数の窒化物半導体層を含むことができる。バッファ層を構成する第1の領域として、このような積層構造を好適に用いることができる。
【0052】
本発明の実施態様の一例の半導体デバイス用基板において、第2の領域15bは組成の異なる複数の窒化物半導体層を含むことができる。バッファ層を構成する第2の領域として、このような積層構造を好適に用いることができる。
【0053】
本発明の実施態様の一例の半導体デバイス用基板において、第1の領域15a及び第2の領域15bは、Al又はGa又はその両方を含み、第1の領域15aの平均Al濃度は、第2の領域15bの平均Al濃度より低いことが好ましい。このようにバッファ層の上部領域の平均Al濃度を、バッファ層の下部領域の平均Al濃度より高くすることで、基板の反りを低減させることができ、外周クラックを抑制することができる。
【0054】
本発明の実施態様の一例の半導体デバイス用基板において、第2の領域15bの炭素の平均濃度と鉄の平均濃度の和、及び、第1の領域15aの炭素の平均濃度と鉄の平均濃度の和より小さい炭素の平均濃度と鉄の平均濃度の和を有する第3の領域15cを第1の領域15aと第2の領域15bとの間に備えることが好ましい(
図3を参照)。このような第3の領域を備えることで、バッファ層の平坦性を改善させることができる。これは、以下の理由によるものである。半導体層内の炭素が高いと、半導体層の結晶性が低下する。鉄濃度を高くすると、高抵抗、高結晶性になる一方で凹凸が生じやすい。このような炭素濃度及び鉄濃度の低い第3の領域を第1の領域と第2の領域の間に挿入することで結晶性と平坦性が回復するからである。
【0055】
本発明の実施態様の一例の半導体デバイス用基板において、第1の領域15a及び第2の領域15bの厚さは、それぞれ400nm以上であることが好ましい。
【0056】
鉄を高濃度で含んでいる第1の領域が400nm以上であれば、縦方向のリーク電流をより効果的に抑制することができる。また、第1の領域より鉄の平均濃度が低く、炭素の平均濃度が高い第2の領域が400nm以上であれば、デバイス能動層へのFeの混入をより効果的に抑制でき、電流コラプス現象もより効果的に抑制できる。
さらに第2の領域15bの厚さは1.5μm以下とすることで、クラックを抑制しつつ、結晶性が高く、高温動作時の横方向リーク電流を良好に抑制できる。
【0057】
本発明の実施態様の一例の半導体デバイス用基板において、第2の領域15bにおける鉄の平均濃度は1×10
16atoms/cm
3以下であり、第1の領域15aにおける鉄の平均濃度は1×10
18atoms/cm
3以上であることが好ましい。第2の領域における鉄の平均濃度が1×10
16atoms/cm
3以下であれば、デバイス能動層へのFeの混入をより確実に抑制できる。また、第1の領域における鉄の平均濃度が1×10
18atoms/cm
3以上であれば、縦方向のリーク電流をより効果的に抑制することができる。
【0058】
本発明の実施態様の一例の半導体デバイス用基板において、デバイス能動層29は、第2の領域15bよりも炭素の平均濃度が低く、第1の領域15aよりも鉄の平均濃度が低い窒化物半導体からなるチャネル層26を含み、デバイス能動層29とバッファ層15との間に、第2の領域15bよりも炭素の平均濃度が高いか又は同等の炭素濃度であって、第1の領域15aよりも鉄の平均濃度が低い窒化物半導体からなる高抵抗層16を備えることが好ましい。半導体デバイス用基板のデバイス能動層として、このようなチャネル層を好適に含むことができる。また、このような高抵抗層をデバイス能動層とバッファ層との間に設けることで、電流コラプス現象の悪化と高温時の横方向リーク電流をより確実に抑制することができるとともに、チャネル層へのFeの混入をより確実に抑制できるので、チャネル層内の電子の移動度の低下等の順方向特性の劣化をより確実に防止することができる。
【0059】
次に、
図4を参照しながら、本発明の半導体デバイスの実施態様の一例を説明する。
図4に示す半導体デバイス11は、
図1を用いて上記で説明した半導体デバイス用基板10の上に、ソース電極30、ドレイン電極31、及び、ゲート電極32を設けたものである。半導体デバイス11は、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT)である。
ソース電極30及びドレイン電極31は、チャネル層26とバリア層27との間の境界面の近傍に形成される二次元電子ガス層28に電気的に接続され、ソース電極30から、二次元電子ガス層28を介して、ドレイン電極31に電流が流れるように配置されている。ソース電極30とドレイン電極31との間に流れる電流は、ゲート電極32に印加される電位によってコントロールすることができる。
【0060】
このような半導体デバイスであれば、縦方向リーク電流を抑制しつつデバイスの高温動作時の横方向リーク電流を抑制できるとともに、電流コラプス現象を抑制することができる半導体デバイスを供給することができる。
なお、本発明は、HEMT以外の横型デバイス(MOSFET等)にも適用することができる。
【0061】
次に、
図5、6を参照しながら、本発明の半導体デバイス用基板の製造方法の実施態様の一例を説明する。
【0062】
まず、シリコン系基板(基板)12を準備する(
図5(a)を参照)。
【0063】
具体的には、シリコン系基板12として、シリコン基板又はSiC基板を準備する。シリコン基板又はSiC基板は、窒化物半導体層の成長基板として一般的に用いられている。
【0064】
次に、シリコン系基板12上に、窒化物半導体層からなるバッファ層15を形成する(
図5(b)参照)。
このバッファ層15を形成する工程は、炭素と鉄を含む第1の領域15aを形成する工程と、第1の領域15a上に、第1の領域15aよりも鉄の平均濃度が低く、第1の領域15aよりも炭素の平均濃度が高い第2の領域15bを形成する工程とを含んでいる。
また、バッファ層15を形成する工程において、第2の領域15bの炭素の平均濃度を、前記第1の領域の鉄の平均濃度より低くする。
ここで、第1の領域15aの形成が終了した時点で、鉄のドーピングを止めて、これ以降に形成される膜中の鉄濃度を基板12側からデバイス能動層29側に向かって減少させることができる。鉄のドーピングを止めた後、成長温度を下げて炭素の平均濃度が高い第2の領域を形成する。なお、鉄のドーピングを止めてしばらく窒化物半導体層を形成
した後に成長温度を下げて第2の領域を形成することで、
図3の第3の領域15cを、第1の領域15aと第2の領域15bの間に設けることができる。
【0065】
なお、Feの濃度の制御は、偏析やオートドープの効果に加え、Cp
2Fe(ビスクロペンタジエニル鉄)の流量制御により行うことができる。
また、炭素の添加は、窒化物系半導体層をMOVPE(有機金属気相成長)法によって成長させるときに、原料ガス(TMG(トリメチルガリウム)等)に含まれる炭素が膜中に取り込まれることによって行われるものであるが、プロパン等のドーピングガスによって行うこともできる。
【0066】
なお、バッファ層15を形成する前に、AlN初期層13を形成してもよい(
図5(b)を参照)。
【0067】
次に、バッファ層15上に、高抵抗層16をエピタキシャル成長により形成する(
図5(c)を参照)。高抵抗層16は例えば、炭素濃度を1×10
18atoms/cm
3以上とすることができ、厚さを2μm以上とすることができる。なお、高抵抗層16を形成する工程は省略することができる。
【0068】
次に、高抵抗層16上に、窒化物半導体からなるデバイス能動層29をエピタキシャル成長により形成する(
図6を参照)。
具体的には、高抵抗層16上に、GaNからなるチャネル層26と、AlGaNからなるバリア層27をこの順にMOVPE法により形成する。チャネル層26の膜厚は例えば、50〜4000nmであり、バリア層27の膜厚は例えば、10〜50nmである。
このようにして、
図1の半導体デバイス用基板10が得られる。
【0069】
バッファ層15の第2の領域15bの鉄の平均濃度をバッファ層15の第1の領域15aの鉄の平均濃度より低くし、バッファ層15の第2の領域15bの炭素の平均濃度をバッファ層15の第1の領域15aの炭素の平均濃度より高くすることで、デバイスの高温動作時の横方向リーク電流を抑制できる。また、バッファ層15の第2の領域15bの炭素の平均濃度をバッファ層15の第1の領域15aの鉄の平均濃度より低くすることで、バッファ層15の上面近傍の結晶性が向上し、電流コラプス現象を抑制することができる。
【0070】
本発明の実施態様の一例の半導体デバイス用基板の製造方法において、第2の領域15bの成長温度を、第1の領域15aの成長温度よりも低くする。これにより、容易に第2の領域の炭素の平均濃度を第1の領域の炭素の平均濃度より高くすることができる。
【0071】
また、バッファ層15は、
図2(a)に示すように、第1の層(例えば、AlN層)17と、第2の層(例えば、GaN層)18とが交互に積層された積層構造とすることができる。その場合に、第2の領域15bの形成時に炭素濃度を高くする目的で成長温度を下げている。AlNは成長温度を下げると成長レートは大きくなり、一方GaNは成長温度を下げると成長レートは減少する。その結果、AlNとGaNの膜厚を第1の領域と第2の領域で同じ膜厚比とする場合、第1の領域と第2の領域で同じ成長時間とすると、所望の膜厚からのずれが発生する。これによりエピタキシャル成長中に発生するクラックやプロセス中に発生するクラックの発生が起こりやすくなるが、成長温度に合わせて成長レート変動を補正し、第2の領域15bにおける膜厚比率を第1の領域15aにおける膜厚比率と同じになるように調整することにより、クラックの発生を抑制することができる。なお、成長レート変動の補正は、成長時間を補正することにより行うことができる。
【0072】
また、バッファ層15は、
図2(b)に示すように、第1の層(例えば、AlN層)17と、第2の層(例えば、GaN層)18とが交互に積層された積層体19と、GaN挿入層20とが交互に積層された積層構造とすることができる。その場合に、第2の領域15bにおいて、平均Al濃度を第1の領域15aと同じ(又は、上げた)状態で、積層体19とGaN挿入層20のペア数を減らして、GaN挿入層20を薄くすることで、エピタキシャル成長中のクラック及びデバイス形成プロセス中のクラックの発生をより効果的に抑制することができる。
【0073】
上記で説明した半導体デバイス用基板の製造方法を用いれば、縦方向リーク電流を抑制しつつデバイスの高温動作時の横方向リーク電流を抑制できるとともに、クラックの発生を抑制でき、電流コラプス現象を抑制することができる半導体デバイス用基板を製造することができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
(実施例)
図5、6で説明した半導体デバイス用基板の製造方法を用いて、半導体デバイス用基板を作製した。ただし、初期層として基板12上にAlNからなる初期層13を形成し、初期層13上に第1の領域15aとして、Feドープした層(鉄濃度:1×10
18atoms/cm
3以上)を形成した。第1の領域15aは、
図2(b)に示すような積層構造とし、AlN層17とGaN層18とが8ペア交互に積層された積層体19と、GaN挿入層20が6ペア交互に積層された積層構造とした。
【0076】
第1の領域15aの上にFeアンドープ(undope)層(Cp
2Feを導入しないで形成した層:第3の領域15c及び第2の領域15b)を形成した。Feアンドープ層の上部の層(第2の領域15b)は、炭素濃度を1×10
18atoms/cm
3以上とし、かつ、第1の領域15aの鉄濃度より小さくした。また、
図2(b)に示すような積層構造とし、AlN層17とGaN層18とが8ペア交互に積層された積層体19と、GaN挿入層20が5ペア交互に積層された積層構造とした。Feアンドープ層の下部の層(第3の領域15c)は、炭素濃度を第2の領域15bの炭素鉄濃度より小さくし、
図2(b)に示すような積層構造とし、AlN層17とGaN層18とが8ペア交互に積層された積層体19と、GaN挿入層20が4ペア交互に積層された積層構造とした。
【0077】
Feアンドープ層の上に高抵抗層16として、炭素濃度が1×10
18atoms/cm
3以上の層を2.7μmの厚さで形成し、その上に低炭素濃度の層、及びチャネル層26を形成し、その上にAlGaNからなるバリア層27及びGaNからなるキャップ層を形成した。
なお、第2の領域15bの炭素濃度を高くするために、第2の領域15bの成長温度を第1の領域15aの成長温度より50度低くした。このとき、第2の領域15bの成長温度に合わせて成長レート変動を補正し、第2の領域15bにおける膜厚比率を第1の領域15aにおける膜厚比率と同じになるように調整した。
【0078】
作製した半導体デバイス用基板の深さ方向の不純物プロファイルをSIMS分析により測定した。その結果を
図7に示す。
図7において、第2の領域の炭素の平均濃度は第1の領域の炭素の平均濃度より高くなっており、第2の領域の鉄の平均濃度は第1の領域の鉄の平均濃度より低くなっており、第2の領域の炭素の平均濃度は、第1の領域の鉄の平均濃度より小さくなっていた。また、第3の領域の炭素の平均濃度と鉄の平均濃度の和は、第2の領域の炭素の平均濃度と鉄の平均濃度の和、及び、第1の領域の炭素の平均濃度と鉄の平均濃度の和より小さくなっていた。また、第3の領域で炭素の平均濃度の立ち上がり勾配が鉄の平均濃度の立ち下り勾配よりも急峻になっている。
【0079】
図8に縦方向のリーク電流のバッファ層中の鉄濃度依存性を示す。
図8においてバッファ層中の鉄濃度を高くすると、縦方向のリーク電流が減っている。実施例では、第1の領域15aにおいて鉄の平均濃度を、第2の領域15bの鉄の平均濃度及び第2の領域15bの炭素の平均濃度より高くしているので、
図8に示されるように第1の領域15aにおいて縦方向のリーク電流を減らすことができ、バッファ層15全体として縦方向のリーク電流を減らすことができる。
【0080】
図9に表面の結晶性のバッファ層中の鉄濃度依存性を示す。
図9においてバッファ層中の鉄濃度を高くすると、その上面の結晶性が向上している。実施例では、第1の領域15aにおいて鉄の平均濃度を第2の領域15bの鉄の平均濃度より高くしているので、
図9に示されるように、第1の領域15aの表面の結晶性を向上させることができ、その結果、第1の領域15a上に形成される第2の領域15bの表面も向上させることができる。これによりバッファ層15の上面近傍の結晶性を改善することができる。
【0081】
図10に表面荒さのバッファ層中の鉄濃度依存性を示す。
図10においてバッファ層中の鉄濃度を低くすると、その表面荒さが低減している。実施例では、第2の領域15bにおいて鉄の平均濃度を第1の領域15aの鉄の平均濃度より低くしているので、
図10に示されるように、第2の領域15bの表面荒さを低減することができ、バッファ層15の上面の表面荒さを低減することができる。
【0082】
図11に電流コラプス及び高温動作時の横方向のリーク電流のバッファ層中の炭素濃度依存性を示す。なお、
図11の左側の縦軸はコラプス状態でない状態(通常状態)のオン抵抗R
ONとコラプス状態のオン抵抗R
ON’の比:R
ON’/R
ONで定義されるR
ON比であり、R
ON比でどの程度コラプスによりオン抵抗が上がったかが示されている。
図11においてバッファ層中の炭素濃度を高くすると、電流コラプスが抑制され、また、高温動作時の横方向のリーク電流が減っている。実施例では、第2の領域15bにおいて炭素の平均濃度を第1の領域15aの炭素の平均濃度より高くしているので、
図11に示されるように、電流コラプスを抑制することができる。また、実施例では、第2の領域15bにおいて炭素の平均濃度を第1の領域15aの炭素の平均濃度より高くしているので、
図11に示されるように、第2の領域15bにおいて高温動作時の横方向リーク電流を減らすことができ、バッファ層15全体として高温動作時の横方向リーク電流を減らすことができる。
【0083】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。