特許第6615079号(P6615079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6615079核磁気共鳴を利用した電気特性測定装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6615079
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】核磁気共鳴を利用した電気特性測定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20191125BHJP
【FI】
   A61B5/055 382
【請求項の数】15
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-191281(P2016-191281)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-51009(P2018-51009A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2018年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 幸生
(72)【発明者】
【氏名】越智 久晃
(72)【発明者】
【氏名】五月女 悦久
【審査官】 伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−515179(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/116545(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01R 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体から核磁気共鳴信号を計測する計測部と、
前記被検体の組織構造の方向に関する情報を記憶する記憶部と、
前記計測部が、前記組織構造を含む領域を計測することにより得た計測データを用いて、前記領域の電気特性を算出する計算部と、を備え、
前記計算部は、前記計測データから回転磁界を算出し、当該回転磁界を用いて電気特性を算出する電気特性算出部を備え、
前記計測データは、前記組織構造の方向を装置座標系における所定の方向に設定して計測した計測データであり、
前記電気特性算出部は、前記記憶部に記憶された前記組織構造の方向と前記装置座標系における所定の方向との関係を用いて、異方性を含む前記電気特性を算出することを特徴とする核磁気共鳴を利用した電気特性測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気特性測定装置であって、
前記記憶部に記憶された前記組織構造の方向に関する情報は、前記計測部が前記組織構造を含む領域を計測することにより取得した拡散係数であることを特徴とする電気特性測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電気特性測定装置であって、
前記記憶部に記憶された前記組織構造の方向に関する情報は、前記組織構造の画像から抽出した情報であることを特徴とする電気特性測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電気特性測定装置であって、
前記電気特性算出部は、前記組織構造に対し、予め設定された電気特性の異方性モデルを決定し、電気特性を算出することを特徴とする電気特性測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電気特性測定装置であって、
前記異方性モデルは、2軸異方性又は3軸異方性のモデルであることを特徴とする電気特性測定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電気特性測定装置であって、
前記電気特性算出部は、電気特性として導電率を算出することを特徴とする電気特性測定装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電気特性測定装置であって、
前記計算部は、前記計測部が、前記組織構造の方向を装置座標系における第一の方向に設定して、前記組織構造を含む領域を計測することにより得た第一の計測データと、前記組織構造の方向を装置座標系における第二の方向に設定して、前記組織構造を含む領域を計測することにより得た第二の計測データと、を用いて、前記領域の電気特性を算出することを特徴とする電気特性測定装置。
【請求項8】
請求項1に記載の電気特性測定装置であって、
前記所定の方向は、前記座標系において,電気特性を高精度に計測したい軸方向であることを特徴とする電気特性測定装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電気特性測定装置であって、
前記所定の方向は、前記計測部が備える静磁場発生装置の静磁場方向であることを特徴とする電気特性測定装置。
【請求項10】
請求項7に記載の電気特性測定装置であって、
前記第一の方向は、前記計測部が備える静磁場発生装置の静磁場方向であり、前記第二の方向は、前記計測部が備える静磁場発生装置の静磁場方向と交差する方向であることを特徴とする電気特性測定装置。
【請求項11】
請求項1に記載の電気特性測定装置であって、
前記計算部は、前記組織構造の連続方向と、前記座標系において前記回転磁界を最も高精度に検出可能な軸方向とがなす角度を用いて、前記回転磁界を用いて算出した電気特性を補正する補正部をさらに備えることを特徴とする電気特性測定装置。
【請求項12】
請求項1に記載の電気特性測定装置であって、
複数の組織構造について、前記電気特性算出部が算出した電気特性と、その算出に用いた組織構造の連続方向との関係を格納するデータベースをさらに備え、
前記電気特性算出部は、前記データベースに格納された、前記電気特性と前記組織の連続方向との関係を用いて、電気特性の異方性モデルを決定し、電気特性を算出することを電気特性測定装置。
【請求項13】
請求項1に記載の電気特性測定装置であって、
前記被検体の所定の部位を、前記装置座標系における所定の方向に沿って配置させることを支援するユーザーインターフェイスを備えることを特徴とする電気特性測定装置。
【請求項14】
静磁場空間に配置された被検体の所定の領域から計測した核磁気共鳴信号を用いて、当該領域の電気特性を測定する電気特性測定方法であって、
前記核磁気共鳴信号からなる計測データから前記領域の回転磁界マップを作成し、
当該回転磁界マップを用いて電気特性を算出し、その際、前記静磁場の方向に対し、前記被検体の向きが異なる2以上の配置で計測した計測データを用いて、異方性を含む前記電気特性を算出することを特徴とする電気特性測定方法。
【請求項15】
請求項14に記載の電気特性測定方法であって、
前記電気特性を算出する際に、前記静磁場の方向と前記被検体の所定の組織構造の方向とがなす角度を用いて、算出した電気特性を補正することを特徴とする電気特性測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体等の導電率、誘電率などの電気特性を測定する装置及び方法に係り、特に核磁気共鳴信号を計測し、当該核磁気共鳴信号から異方性を含む電気特性を算出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人の導電率等の電気特性は、人体に微弱な電流を流すことにより測定されているが、この方法では組織毎の電気特性すなわち電気特性の画像を得ることはできない。これに対し、近年、磁気共鳴装置(MRI装置)を利用して電気特性を測定する手法が開発されている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
特許文献1に記載された技術では、微弱な高周波電流を通電したときと通電しないときで、それぞれ、被検体の組織を構成するスピンを励起する高周波磁場の位相を異ならせた測定を行い、得られた4枚の画像からピクセル毎の演算により導電率と誘電率の画像を生成する。この方法は、通電を要するという点で侵襲的である。また生体深部に電流を流すことは困難であるという問題もある。これに対し、特許文献2に記載された技術は、磁気共鳴信号を発生させるために与えられる電磁場の電場強度分布と、それにより誘導される磁気誘導場の強度分布を用いて、マクスウェル方程式を解くことにより誘電率及び導電率の分布を算出する。この技術によれば、非侵襲的に電気特性の画像を得ることができる。また非特許文献1には、MRI装置により拡散係数を計測し、拡散係数から導電率を推定する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−119204号公報
【特許文献2】特表2009−504224号公報
【非特許文献1】Tuch D.S.他、Conductivity tensor mapping of the human brain using diffusion tensor MRI, PNAS, 2001, vol.98, No.20, pp.11697−11701
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生体の導電率や誘電率は、組織の構造とも関わっており必ずしも等方的ではない。異方性を含む電気特性を知ることは組織の構造や各種機器や測定装置が発生する電磁場に対する組織の反応の詳細を知る上で重要である。
【0006】
非特許文献1に記載された技術では、導電率が拡散係数と関連性があるとの推定に基き、異方性を含む導電率を算出するが、この技術で得られる導電率は間接的な推定であり、対象とする被検体の生体組織に対し一律に推定式が成り立つかどうかにの妥当性については不明確性が残る。一方、特許文献2に記載された技術は、基本的に電気特性の等方性を仮定している。特許文献2には異方性について簡単な言及はあるものの、異方性を精度よく計測する手法について具体的な提案はなされていない。
【0007】
そこで本発明は、導電率や誘電率などの電気特性の異方性を精度よく計測することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、核磁気共鳴信号から算出した回転磁界から電気特性を算出する技術に基本を置くものであり、このように算出される電気特性は、磁気共鳴装置の座標系の所定の軸の成分が最も精度よく計測されるという発見に基く。そこで本発明は、組織構造の向きと座標系の所定の軸との関係を記録し、当該関係に基いて異方性を含む電気特性を算出する。或いは組織構造の向きが座標系の所定の軸に対し異なる向きとなる2以上の計測データを得て、これら計測データ間の計算を行うことにより異方性を含む電気特性を算出する。
【0009】
すなわち本発明の電気特性測定装置は、被検体から核磁気共鳴信号を計測する計測部と、前記被検体の組織構造の方向に関する情報を記憶する記憶部と、前記計測部が、前記組織構造を含む領域を計測することにより得た計測データを用いて、前記領域の電気特性を算出する計算部と、を備え、前記計算部は、前記計測データから回転磁界を算出し、当該回転磁界を用いて電気特性を算出する電気特性算出部を備え、前記計測データは、前記組織構造の方向を装置座標系における所定の方向に設定して計測した計測データであり、前記電気特性算出部は、前記記憶部に記憶された前記組織構造の方向と前記装置座標系における所定の方向との関係を用いて、異方性を含む前記電気特性を算出することを特徴とする。
【0010】
また本発明の電気特性測定方法は、静磁場空間に配置された被検体の所定の領域から計測した核磁気共鳴信号を用いて、当該領域の電気特性を測定する電気特性測定方法であって、前記核磁気共鳴信号からなる計測データから前記領域の回転磁界マップを作成し、当該回転磁界マップを用いて電気特性を算出し、その際、前記静磁場の方向に対し、前記被検体の向きが異なる2以上の配置で計測した計測データを用いて、異方性を含む前記電気特性を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、異方性を含む導電率等の電気特性を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】電気特性測定装置として用いるMRI装置の全体概要を示す図。
図2】電気特性測定装置の計算部の構成を示す機能ブロック図。
図3】電気特性が最大となる軸を求めるためのシミュレーションを説明する図で、(a)はシミュレーションに用いるファントムとRF照射コイルとの関係を示す図、(b)はファントムの設定導電率を示す表である。
図4】(a)〜(d)は、シミュレーション結果を示す図。
図5】電気特性測定方法の手順を示す図。
図6】(a)〜(c)は、導電率の異方性モデルの例を示す図。
図7】第一実施形態による電気特性測定方法の手順を示す図。
図8】組織(神経線維)と導電率の異方性モデルとの関係を示す図。
図9】(a−1)、(b−1)は、それぞれ、電気特性測定時の姿勢を示す図、(a−2)、(b−2)は、姿勢1及び姿勢2において、最も精度よく計測できる導電率の軸を示す図。
図10】(a)、(b)は、それぞれ、被検体のセッティングのためのGUI例を示す図。
図11】(a)、(b)は、それぞれ、第一実施形態の電気特性測定装置における導電率の表示例を示す図。
図12】第二実施形態による電気特性測定方法の手順を示す図。
図13】第二実施形態における主軸方向の導電率補正を説明する図。
図14】第二実施形態における主軸方向と交差する方向の導電率補正を説明する図。
図15】第四実施形態の電気特性測定装置の計算部の構成を示す機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
<装置構成>
まず電気特性測定装置の概要を、図1のブロック図を参照して説明する。この電気特性測定装置100は、基本的に、磁気共鳴イメージング(MRI)装置と同様の構成を有し、大きく分けて、静磁場発生装置101等を備えた計測部110と、信号処理部120と、操作部130とを備える。
【0015】
計測部110は、被検体150が置かれる空間に均一な静磁場を発生する静磁場発生装置101、静磁場空間内で被検体を取り囲むように配置され、被検体を構成する組織の原子核スピンを励起する高周波(電磁波)を送信するRF照射コイル102、静磁場に磁場勾配を与える傾斜磁場コイル103、及び、RFコイル102が発生する電磁波に応答して被検体から発生される核磁気共鳴信号(NMR信号)を受信するRFプローブ104を備える。被検体150は、例えば寝台105に寝かせられた状態で、静磁場空間に配置される。
【0016】
静磁場発生装置101には、水平方向に静磁場を発生する水平磁場方式のものや、垂直方向に静磁場を発生する垂直磁場方式のものが一般的に知られているが、被検体の体軸方向に対し静磁場方向を傾斜させた方式のものも考えられ、本発明はいずれの方式のものでもよい。また静磁場を発生させる方式についても永久磁石方式、常電導磁石方式、超電導磁石方式があり、いずれでもよい。
【0017】
傾斜磁場コイル103は、NMR信号に対し場所によって異なる位相回転を与え、位置情報を付与するためのもので、通常、X、Y、Zの3軸方向の傾斜磁場コイルのセットからなる。これら傾斜磁場コイルはそれぞれ傾斜磁場電源112に接続され、駆動する電流の比率を3軸で異ならせることで任意の方向について傾斜磁場を発生させることができる。
【0018】
RF照射コイル102は、計測する対象である原子核スピンの磁気共鳴周波数に調整された周波数の高周波信号を発生するもので、磁気共鳴周波数の高周波を発生する高周波発振器、高周波増幅器などを備えた送信部113に接続されている。高周波信号は通常パルスとして被検体に印加される(以下、RF照射コイル102が発生する高周波信号をRFパルスという)。一般的なMRI装置では計測の対象は水素原子核であり、磁気共鳴周波数はプロトンの磁気共鳴周波数に調整されている。但し、計測の対象は水素に限定されず他の核種の磁気共鳴周波数に調整される場合もある。
【0019】
RFプローブ104は、高周波信号である核磁気共鳴信号を受信するように調整されたアンテナであり、被検体150の近傍に設置される。RFプローブ104は、増幅器、直交検波回路及びA/D変換器などを備えた受信部114に接続されており、RFプローブ104が検出したNMR信号は、受信部114を介して信号処理部120に渡され、ここで画像再構成や各種計算に用いられる。なおRF照射コイル102がRFプローブ104を兼ねる場合もあり、その場合は送信部113と受信部114とを切り替えて、高周波信号の送信とNMR信号の受信が行われる。
【0020】
信号処理部120は、主としてCPUとメモリからなり、外部記憶装置(不図示)や操作部130が接続されている。本明細書では、信号処理部120の内部メモリと外部記憶装置をまとめて記憶部230という。信号処理部120には、上述した受信部114から送られるNMR信号を用いた画像再構成、画像処理、補正等の計算を行う計算部200と、計測部110や計算部200の動作を制御する制御部210とが含まれる。制御部210には、計測部110によるRFパルス及び傾斜磁場パルスの印加のタイミングやNMR信号の計測のタイミング等を決めたパルスシーケンスが予めプログラムとして組み込まれている。パルスシーケンスは撮像方法に応じて種々のものが知られており、制御部210は撮像方法に応じたパルスシーケンスに従って計測部110の動作を制御する。
【0021】
計算部200が行う処理には、NMR信号を用いた電気特性の計算、電気特性画像の作成、必要に応じて行われる補正処理などが含まれる。電気特性は主なものとして、導電率と誘電率があるが、それらに限定されず、それらから導出される諸量も含むものとする。計算部200における計算や処理は、CPUに予め組み込まれたプログラムを実行することで実現される。但し、処理の一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field−programmable Gate Array)などのハードウェアで実現してもよい。
【0022】
操作部130は、制御部210や計算部200の処理に必要な条件を設定したり、GUIや処理結果を表示するためのもので、キーボード、マウス等の入力デバイスを備えた入力部132と、CRTや液晶パネル等の表示部131とを備える。
【0023】
以上の構成を踏まえ、本実施形態の電気特性計測装置による電気特性計測の概要を説明する。まず図2を参照して計算部200の構成と、計算部200が用いるデータについて説明する。なお図2では、以下詳述する各実施形態の計算部200が備え得る要素を列挙したものであり、実施形態によって省くことができるものも含んでいる。また図2には示していない要素が付加されることもあり得る。
【0024】
図示するように計算部200は、電気特性算出部201を備える。計算部200には、電気特性の計測を目的として計測部110により実行されたパルスシーケンスで得た計測データ400と、記憶部230に記憶された被検体の組織構造の方向性に関する情報500とが入力される。組織構造の方向性に関する情報とは、組織の長手方向がどの方向に延びているか、という情報であり、所定の基準となる方向、例えば体軸方向に対する角度であってもよいし、組織自体の所定の点(端部或いは中心)を基準とする方向であってもよい。典型的な例として、繊維組織では繊維が並ぶ方向である。また血管であればその走行方向である。
【0025】
記憶部230に記憶される方向性に関する情報500の取得方法は、特に限定されず、MRI装置とは別の撮像装置等で得たものでもよいし、MRI装置であれば形態画像から取得したものでもよいし、拡散強調撮像などで得た拡散係数などを利用することもできる。拡散係数を利用する電気特性測定装置の場合には、計算部200は、拡散強調撮像で取得した計測データを用いて拡散係数を算出する拡散係数算出部202を備える。MRI装置で取得した形態画像(プロトン密度画像やT1或いはT2強調画像など)を用いる場合には、計算部200は当該画像データを用いて組織構造を抽出する構造抽出部203を備えることが好ましい。
【0026】
計測データ400は、組織構造の方向が装置の静磁場方向に揃う或いは静磁場方向に対し所定の角度となる条件で計測したデータであり、静磁場方向に対する角度が異なる複数の計測データである場合を含む。計測データ400を取得するための撮像方法(パルスシーケンス)は特に限定されないが、例えば高速で3Dデータを計測することが可能なGE(Gradient Echo)系のパルスシーケンスを用いることができる。
【0027】
計算部200は、さらに電気特性算出部201が算出した導電率に対し、必要に応じて補正を行う補正部205や、UI(ユーザーインターフェイス)を表示したり、導電率をマップや画像として表示するための表示画像作成部207などを備えることができる。
【0028】
次にこのような構成の電気特性計測装置(MRI)を用いた電気特性計測について説明する。
【0029】
最初に、前提として電気特性の異方性と電気特性計測装置の座標軸、特に静磁場方向との関係について説明する。この関係は、以下のような撮像或いはシミュレーションにより見出されたものである。
【0030】
異方性の電気特性を持つファントムを用意する。例えば、図3(a)に示すような均質な柱状のファントムPh1〜Ph4を4つ組み合わせた直方体のファントム300を用意する。各ファントムは誘電率が、図3(b)に示すように、y方向に隣接するものどうしは同一、x方向に隣接するものどうしは異なる、また導電率はx方向に隣接するものどうしは同一、x方向に隣接するものどうしは異なる、となるように設定する。さらに図中、右上のファントムPh2については、導電率をx、y、z方向のいずれか1軸のみを他の軸の導電率と異ならせて異方性のある導電率に設定する。
【0031】
このようなファントム300を設定し、シミュレーションによって画素毎の導電率を算出する。シミュレーションでは、核磁気共鳴周波数のRF照射パルスを設定して、回転磁界を算出し、画素毎の導電率を算出する。
【0032】
導電率及び誘電率は、算出した回転磁界(H)から、次式(1)及び(2)を用いて、導電率σ及び誘電率εを算出することができる。
【数1】
式(1)、(2)において、ωは角周波数(核磁気共鳴周波数)、μは真空の透磁率で、既知の値である。Hは計測した回転磁界で、rは画素の座標である。
【0033】
ファントムPh2の導電率を異ならせる方向(軸)を変えて、それぞれ電気特性を算出し、電気特性を最も精度よく測定可能な方向(軸)について考える。
【0034】
図3に例示したファントムを用いてシミュレーションにより導電率を算出して得た導電率マップを図4に示す。図4において、紙面に垂直な方向が静磁場方向(z方向)であり、右上のファントムPh2のx、y、z方向いずれか1軸のみ導電率を他の軸の導電率の1/10にしてシミュレーションした結果である。図4の(a)はx方向の導電率σxが、(b)はy方向導電率σy、(c)はz方向の導電率σzが、それぞれ他方向の導電率の1/10である。また(d)は、4つのファントム全てを等方的な電気特性に設定したものである。この結果からわかるように、z方向の導電率を1/10にした(c)のみで、z方向の導電率が小さい値となっており、z方向の導電率の精度が高いことがわかる。つまりこの例では、導電率の異方性を考慮したとき、静磁場方向と同方向の導電率σzが、最も精度よく計測できることが確認された。なお、このシミュレーションでは、最も精度よく計測できる方向は、静磁場方向と一致する方向であったが、静磁場方向に限定されるものではない。その方向は、例えば、電気特性と導電率を異ならせる方向との関係を求める際に、導電率を異ならせる方向のきざみを小さくすることで確定することが可能である。
【0035】
以上説明した電気特性の異方性と装置座標軸との関係を前提として、本実施形態の電気特性計測の手順を図5に示す。まず被検体150の計測対象となる部位について、電気特性の異方性と関連する組織構造の情報を用いて、電気特性の異方性モデルを決定する(S501)。異方性モデルとしては、図6(a)〜(c)に示すように、2成分を考慮したモデル610、3成分を考慮したモデル620、6成分を考慮したモデル630などがある。モデル610は、例えばz方向の導電率σzが最も大きく、x方向及びy方向は等方的なモデルである。モデル620は、異方性モデルは、z方向の導電率σzが最も大きく、x方向及びy方向についても等方的ではないモデル(σx≠σy)であり、図示する例ではσx>σyである。モデル630は、x軸、y軸、z軸に、xy軸、yz軸及びxz軸を加えた一般化したモデルである。これらの異方性モデルのうちいずれを用いてもよく、予め所定のものを設定しておいてもよい。また,球面調和関数を用いて、異方性モデルを設定しても良い。電気特性算出部201は、記憶部230に記憶された組織構造に異方性モデルを当てはめる。
【0036】
次に異方性モデルの所定の軸が装置座標系に対し所定の方向となるように、被検体を静磁場空間に配置する(S502)。例えば、異方性モデルのz軸に沿った組織構造が電気特性測定装置の静磁場方向と一致するように、当該組織構造を含む被検体の部位を配置する。その後、計測部110にてNMR信号の計測を行う(S503)。NMR信号は少なくとも1枚の画像を再構成可能な数、計測し、k空間データ(計測データ)を得る。計算部200は、k空間データをフーリエ変換し、実空間データとする。
【0037】
次いで電気特性算出部201は、実空間データ(画像データ)の各画素の信号値から回転磁界(H)を算出する(S504)。z軸(静磁場方向)周りの回転磁界にはH、Hがあるが、水素原子核を対象とする場合、核磁気共鳴現象に寄与するのはHであるので、ここではHを算出する。Hを算出する手法には、任意のフリップ角のRFパルスを用いて撮像した画像と、その2倍のフリップ角のRFパルスを用いた画像との差分を取ることによりHの絶対値を算出する方法(Double Angle Method)や、プリパルスを用いて、プリパルス印加からの経過時間TIの異なる複数の計測を行い、TIの異なる画像データからB1の絶対値を計算する方法(例えば再公表特許WO2012/060192号記載の方法)などがあり、いずれを採用してもよい。Hの位相は、例えば、画像の位相情報を用いて推定することができる。また画素の信号強度(複素数)S(r)は、近似的に式(3)で表すことができるので、フリップ角を異ならせて取得した複数の画像の信号強度を用いて、式(3)を解くことで回転磁界Hを算出してもよい。
【数3】
式中、Mは縦磁化、cは装置依存の定数である。
【0038】
なおH算出の際に、被検体が存在しない部分或いは対象とする組織以外の部分については、マスクするなどの処理を施してもよい。次に回転磁界Hから、前掲の式(1)及び(2)を用いて、導電率σ及び誘電率εを算出する(S505)。
【0039】
必要に応じて、計測対象となる組織の向きを1回目と異ならせて、同様の計測を繰り返す(S506)。最終的にS505で算出した電気特性を表示部131に表示させる(S507)。
【0040】
本実施形態によれば、まず、電気特性異方性と関連性がある組織構造の方向を、電気特性が最も精度よく計測できる方向、例えば静磁場方向と同じ方向にセットして撮像を行うことにより、異方性のある電気特性を精度よく計測することができる。また組織構造の方向を異ならせて、少なくとも2回の撮像を行うことにより、詳細な異方性の情報を得ることができる。
【0041】
以下、本実施形態の電気特性測定装置による具体的な電気特性測定の実施形態を説明する。なお以下の実施形態では、電気特性のうち特に導電率を算出する場合を例に説明する。
【0042】
<第一実施形態>
本実施形態の電気特性測定装置は、記憶部230に、電気特性測定の対象である被検体について予め測定した拡散係数のデータが格納されており、計算部200は、この拡散係数のデータから組織構造で最も拡散係数が大きくなる軸についての情報を取得し、電気特性の異方性モデルを決定する。また計算部200は、被検体の配置で少なくとも2回の計測を行い、複数の計測データを用いて電気特性を算出する。被検体の配置は、拡散係数が最大となる軸と静磁場方向との関係及び電気特性の異方性モデルを考慮して決定される。
【0043】
以下、図7を参照して、本実施形態の電気特性測定装置を用いて測定方法の手順を説明する。
【0044】
まず拡散係数を測定し、結果を記憶部230に格納する(S701)。拡散係数の測定手法は、MRI装置を用いた公知の測定方法と同様である。簡単に説明すると、例えば、MPG(Motion Probing Gradient)パルスの印加を含むss−DWEPI(sinngle shot Diffusion weighted Echo Planar Imaging)等の拡散強調パルスシーケンスを実行し、核磁気共鳴信号を収集する。ここでMPGパルスの印加方向m及びその強度の指標であるb値を異ならせて複数回の計測を行い、得られた拡散強調画像の画素の信号値S(m、b)から,たとえば次式により拡散係数を算出する(拡散係数算出部202の機能)。
【0045】
【数4】
ここでSは、b値が0の信号強度(=S(m、0))、ADCは、MPGパルスの印加方向mの拡散係数である。AKCは印加方向mの尖度係数であり、式中では未知数であるが、複数の式を立てることで消去することができる。算出方法には、準ニュートン法や、Levenberg−Marquardt法などの制約条件なしの非線形最小二乗フィッティングなどが用いられる。算出した画素毎の拡散係数は、記憶部230に格納される。
【0046】
一般に、筋繊維や神経線維は、繊維の長軸方向と短軸方向で組織構造が異なっており、その構造の違いによって拡散係数が異なる。また電気特性も組織の構造によって、即ち長軸方向か短軸方向であるかによって、異なると推定できる。本実施形態では、導電率の異方性モデルとして、図6(a)に示したような、拡散係数が最大である軸方向(主軸方向)で導電率が最大であり、主軸方向と直交する方向では等方的であるという異方性モデル610を用い、組織構造に当てはめる(S702)。図8は、神経線維について、導電率の異方性モデルを適用する様子を示す図である。なお拡散係数の主軸方向を決定するに際しては、所定の範囲における各画素の拡散係数の平均値から決定してもよいし、所定の範囲の中央に位置する画素の拡散係数から決定してもよい。
【0047】
次に電気特性計測を行う(S703〜S706)。計測は、被検体の目的部位の配置を異ならせて少なくとも2回行う。異なる配置の例を図9に示す。この例では、被検体の上肢にある神経線維が測定対象組織であり、拡散係数が最大である軸方向(=主軸方向)は、神経線維に沿った方向である。姿勢1では、図9(a−1)に示すように、主軸方向(神経線維の長手方向)を静磁場方向に一致させ、姿勢2では、図9(b−1)に示すように、主軸方向を静磁場方向と直交する方向に一致させている。ここで静磁場方向は、シミュレーションにより電気特性が最も精度よく計測できる方向として見出された方向とする。図9(a−2)、(b−2)は、それぞれ、姿勢1、姿勢2に対応する異方性モデルを示す図である。
【0048】
このような姿勢に被検体を精度よく配置するために、表示画像作成部207はそれを支援するGUIを作成し、表示部131に表示させてもよい。被検体の組織の方向を所定の方向(静磁場方向)に精度よく一致させるための、GUIの例を図10に示す。図10(a)は、位置決め用に撮像した画像を表示した画面を示し、撮像対象である部位の画像上に重ねて、記憶部230に格納されている拡散係数の主軸方向を矢印(ベクトル)等で表示する。図10では、静磁場方向(z方向)を含む2つの断面、zx面とzy面、の画像が表示され、各断面における静磁場方向と主軸方向との角度α、βの値と静磁場方向との一致度(accuracy)が画像の下側に表で表示される。一致度は、予め定めた閾値によって、「high」、「low」等の定性的な表現で表示してもよい。図示する例では、数度以内の一致であれば「high」(図10(b))、それ以上であれば「low」(図10(a))としている。操作者は、このようなGUIによる表示情報をもとに、被検体を静磁場空間内に配置または再配置し(S703)、電気特性測定のための計測(本撮像)を実施するか、再度位置決め画像を取得するかを決定する。
【0049】
電気特性測定では、特に限定されないが、例えば2D又は3DのGE系パルスシーケンスを実行し、2D或いは3Dの計測データを収集する(S704)。次いで電気特性計算部201が、このようなパルスシーケンスの実行により得られた計測データ(k空間データ)を用いて、電気特性の計算を行う(S705)。このため、まず姿勢1で得たk空間データをフーリエ変換して実空間データを得る。実空間データの各画素の信号値(複素数)から、例えば式(3)により回転磁界Hを算出する。次いで回転磁界Hから、上述した式(1)及び(2)を用いて、導電率σを算出する。z軸方向の導電率σzが最大、z軸と直交するx軸及びy軸の導電率が等方的であるモデル610では、導電率は次式(5)に示すテンソルで記述することができる。
【0050】
【数5】
姿勢1の計測では、最も大きな導電率の値を持つ軸と静磁場方向とを一致させているので、最も大きな導電率の値σ1を精度よく計測することができる。
【0051】
姿勢2で得た計測データについても同様の計算を行い、導電率を算出する。これにより、最も大きな導電率の軸方向と直交する軸方向の導電率σ2を取得することができる。2つの姿勢でそれぞれ得た導電率の値は、導電率が等方的である組織では、σ1=σ2となるが、神経線維では、σ1≠σ2(上記の例ではσ1>σ2)となり、異方性を含む導電率の情報を得ることができる。
【0052】
表示画像作成部207は、こうして得られた導電率を用いて表示部131に表示させる画像を作成すること(S707)。表示の形態は、特に限定されないが、例えば、図11に示すように、別に取得した組織の画像或いはその輪郭画像の上にベクトルや異方性モデルを示す楕円形として示したり、それと併せて導電率の値を表などで示したりすることができる。
【0053】
以上、説明したように本実施形態の電気特性測定装置は、計算部200が、組織構造の方向を装置座標系における第一の方向に設定して、組織構造を含む領域を計測することにより得た第一の計測データと、組織構造の方向を装置座標系における第二の方向に設定して、前記組織構造を含む領域を計測することにより得た第二の計測データと、を用いて、前記領域の電気特性を算出する。また本実施形態において、記憶部に記憶された前記組織構造の方向に関する情報は、計測部が前記組織構造を含む領域を計測することにより取得した拡散係数である。
【0054】
本実施形態によれば、電気特性測定とは別に取得した電気特性の異方性に関する情報と異方性モデルを用いて、電気特性装置の座標における主軸方向が異なる2つの姿勢で計測を行い、それら計測データを用いて導電率を測定することにより、異方性を含む電気特性を精度よく測定することができる。
【0055】
なお上記実施形態では、異方性モデルとして、図6(a)に示すような、x方向及びy方向については等方的な異方性モデル610を決定したが、異方性モデルとしては、図6(b)に示すようなxy平面についても異方性があるモデル(3成分を考慮したモデル)620を決定することも可能である。このようなモデルとして、例えば、長手方向と直交する断面が扁平な形状である組織構造などが考えられ、その形態から異方性モデルを決定することができる。この場合、被検体の姿勢として、主軸方向が静磁場方向と一致する姿勢1のほかに、主軸方向が静磁場方向に対し直交する第一の方向に一致する姿勢2と、静磁場方向及び第一の方向に対し直交する第二の方向に一致する姿勢3において、それぞれ電気特性を計測することで、3成分を含む異方性の情報を得ることができる。さらに図6(c)のような6成分を考慮したモデルを設定し、6方向の配置で計測を行ってもよい。球面調和関数を用いたモデルを設定した場合は、使用した球面調和関数の持つ変数の方向の配置で計測を行ってもよい。
【0056】
<第二実施形態>
第一実施形態の電気特性測定装置では、拡散係数が最大となる主軸方向として一つの方向を想定し、この方向を静磁場方向に一致させて電気特性を測定したが、本実施形態では、計算部200の機能として、画素毎に主軸方向が変化する場合に、測定した結果を補正する機能を追加し、直線的ではない組織構造に対応する。即ち、本変形例の電気特性測定装置は、計算部200に補正部205(図2)を備えている。
【0057】
以下、第一実施形態と異なる点を中心に本実施形態の動作を説明する。図12に処理手順を示す。図12において、図7と同じ処理は同じ符号で示し、詳しい説明は省略する。
【0058】
まず拡散係数を算出するためのデータを計測し、拡散係数が最大となる主軸方向を決定し(S710)、導電率の異方性モデルを決定する(S702)。ここで、S710では画素毎に主軸方向を決定するとともに、S702の異方性モデルを決定するための基準となる主軸方向を選択する。基準となる主軸方向は、第一実施形態の主軸方向と同様に、所定の範囲の平均でもよいし、中央値でもよい。
【0059】
次いで、異方性モデルが図6(a)に示すような異方性モデル610の場合、主軸方向を静磁場方向と一致させた姿勢1と、静磁場方向と直交させた姿勢2で、それぞれ電気特性測定のための計測を行い(S703、S704)、回転磁場の算出及び導電率の算出を行う(S705)。
【0060】
次に補正部205が、画素毎に算出された導電率(計測された導電率)σと、S710で決定した画素毎の主軸方向と静磁場方向との角度θとを用いて、次式(6)により画素毎の固有値の最大値となる導電率σ1を算出する(S720)。
【数6】
【0061】
この補正部205による処理の様子を図13に示す。図13に示すように概ねz方向に述べているが緩やかに曲がった組織(例えば神経線維)では、各点(画素)P1〜P3において、それぞれ、導電率の異方性モデルを決定すると、その主軸方向は、静磁場方向(z方向)に対し、P1では一致する。ここでP1を基準の主軸方向として、静磁場方向と一致するように計測を行った場合、P2、P3では、それぞれ主軸方向と静磁場方向(つまり基準となる主軸方向)とがθ2、θ3の角度を持つ。S603の計測では導電率σが最も精度よく信頼性の高い値として得られるが、これは主軸方向のσ1のz方向成分とみなすことができる。従って、式(6)のθにθ2、θ3をそれぞれ代入して、σを補正することにより、P2、P3における固有値の最大値を求めることができる。この補正を全画素について行うことにより、全画素のσ1を算出することができる。
【0062】
拡散係数の主軸方向を静磁場方向と直交する方向に一致させて計測した導電率σ2についても同様であり、図14に示す点P2、P3において、主軸方向と直交する方向と、静磁場方向とのなす角度をθ2、θ3とすると、計測によって得られる導電率σはこれらθ2、θ3を用いて、式(6)により補正することで、主軸方向と直交する方向の導電率σ2を算出することができる。この補正を全画素について行うことにより、全画素のσ2を算出することができ、図11に示した処理と合わせて、全画素のσ1、σ2が求められる。
【0063】
その後、得られた導電率σ1、σ2を所望の表示画像或いは数値として表示部131に表示してもよいことは第一実施形態と同様である。
【0064】
本実施形態の電気特性測定装置は、計算部が、前記組織構造の連続方向と、前記座標系において前記回転磁界を最も高精度に検出可能な軸方向とがなす角度を用いて、前記回転磁界を用いて算出した電気特性を補正する補正部をさらに備えることが特徴である。本実施形態によれば、測定の対象である組織構造の全画素について、異方性を含む導電率を精度よく得ることができる。
【0065】
<第二実施形態の変形例>
第一実施形態では、拡散係数の主軸方向を、電気特性を最も精度よく計測できる方向(例えば静磁場方向)に一致させる場合を説明したが、拡散係数の主軸方向と装置の所定の軸方向とがなす角度の情報を予め得ておくことにより、主軸方向と所定の軸方向とが一致しない場合にも第二実施形態の補正部の機能を利用して、主軸方向の導電率を算出することが可能である。
【0066】
すなわち本変形例では、図12のステップS710において、画素毎に主軸方向を決定するとともに、各画素の主軸方向と基準の主軸方向との角度θaを求めておく。所定の範囲の次に、位置決め画像を用いて被検体の測定対象組織の方向が例えば静磁場方向に概ね一致するように配置する。この位置決め画像において、図10に示したように、拡散係数の主軸方向を表示する。この主軸方向は基準の主軸方向であり、静磁場方向との角度θbも合わせて表示される。基準の主軸方向と静磁場方向との角度θbと、各画素の主軸方向と基準の主軸方向との角度θaとから、各画素の主軸方向と静磁場方向との角度θが得られる。
【0067】
電気特性測定は、θbを求めたときの位置決め画像を取得した被検体位置で行い、導電率σzを算出する。これを予め求めておいた各画素の主軸方向と静磁場方向との角度θを用いて、式(6)により補正することで、導電率が最大となる軸での導電率σ1を得られる。他の姿勢、例えば基準の主軸方向と静磁場方向と直交する方向とを概ね一致させた姿勢、でも同様の処理を行うことで導電率σ2を得ることができる。なお図12では省略したが、算出した導電率を表示部131に種々の表示形態で表示してもよいことは第一実施形態や第二実施形態と同様である。
【0068】
本変形例によれば、被検体を所望の姿勢となるように配置するステップで、再配置を繰り返すことなく、電気特性測定を行うことができる。これにより測定のスループットを向上し、且つ被検体や操作者の負担を軽減できる。
【0069】
<第三実施形態>
第一実施形態の電気特性測定装置では、拡散係数から得られる情報をもとに、導電率の異方性モデルを決定したが、本実施形態は予め取得した形態画像から電気特性の異方性モデルを決定する。このため、本実施形態の電気特性測定装置は、計算部200に構造抽出部203(図2)を備えている。
【0070】
本実施形態における電気特性測定の手順は、図7のS701及び図12のS710以外の処理は、第一実施形態、第二実施形態或いはその変形例と同様である。以下、適宜、第一実施形態の動作説明に用いた図7を援用し、本実施形態の電気特性測定装置の動作を説明する。
【0071】
まず計測部110が、電気特性測定の対象である被検体の組織を含む領域を撮像し、当該領域の画像を取得する。撮像方法は、対象とする組織の構造が把握できるものであれば、特に限定されない。また3Dの電気特性を取得する場合には、3D撮像とする。次いで、構造抽出部203が撮像で得た画像から組織を抽出する。組織を抽出する手法は、特に限定されないが、操作者が表示部131に表示された画像を見ながら目的とする組織の輪郭を指定する方法や、T1強調画像とT2強調画像を取得し、それら画像の差分を利用して自動的に抽出する方法などを採用することができる。次いで、この組織の長軸や短軸の方向及び距離を算出する。これらの情報は組織構造に関する情報として記憶部230に保存される。
【0072】
なお本実施形態において組織の方向を画素毎に求める場合には、例えば、構造抽出部203において、組織構造の連続方向に沿った線を抽出し、線上の複数の点における接線方向を決定することで各点の方向を求めることができる。
【0073】
その後、この組織構造に関する情報を用いて、導電率の異方性モデルを決定し、電気特性の測定を行うこと、その際、必要に応じて組織の方向と静磁場方向との角度に応じた補正を行ってもよいことは第一実施形態或いは第二実施形態と同様である。
【0074】
本実施形態によれば、拡散係数の演算が不要であるため、比較的短時間で組織構造に関する情報を取得することができる。また直接組織の長軸方向或いは短軸方向を決定するので、例えば第二実施形態やその変形例のように組織の方向と静磁場方向との角度θに基く補正を行う場合、角度θを改めて算出する必要がない。
【0075】
<第四実施形態>
第一実施形態では、拡散係数の主軸方向と導電率の固有値が最大となる軸とが一致するとの前提で異方性モデルを決定したが、拡散係数の主軸方向と導電率との関係は、疾患の有無や組織や部位によって異なる可能性がある。そこで、本実施形態は、部位や組織毎に、予め計測した拡散係数のデータと電気特性データとの相関を求めてデータベース化し、データベースの情報を利用することが特徴である。即ち本実施形態の電気特性測定装置は、複数の組織構造について、前記電気特性算出部が算出した電気特性と、その算出に用いた組織構造の連続方向との関係を格納するデータベースをさらに備える。
【0076】
本実施形態の電気特性測定装置における計算部200の構成を図15に示す。図15において、図2と同じ要素は同じ符号で示し、詳細な説明は省略する。図15に示すように、信号処理部120にはデータベース(DB)を格納した記憶装置800が接続されている。記憶装置800は外部記憶装置であってもよし、電気特性測定装置が内蔵する記憶部230でもよい。データベースは、複数の組織や部位について、それぞれ複数の軸で電気特性測定装置により測定した導電率の情報と、拡散係数の情報とをテーブル化して格納している。これらデータは、例えば、人体ファントムや実際にヒトを対象として測定した値を用いて作成する。さらに正常モデルや疾患モデルを設定してもよい。
【0077】
測定対象である被検体についての電気特性測定は、上述した第一実施形態と同様の手順で行うが、拡散係数を計測した後、導電率の異方性モデルを決定する際に(図7:S702等)、データベースを参照し、測定対象組織のテーブルから対応する拡散係数と導電率との関係を取得する。例えば拡散係数の主軸方向と導電率の固有値が最大となる軸方向とが同じであれば第一実施形態と同様に、図8に示したように、導電率の異方性モデルを決定する。拡散係数の主軸方向と導電率の固有値が最大となる軸方向とが異なる場合には、導電率の異方性モデルの長軸方向が導電率の固有値が最大となる軸方向となるように異方性モデルを設定する。
【0078】
またデータベースを参照して、設定する異方性モデルを変更してもよい。例えば、所定の組織の拡散係数(テンソル)から図6に示す異方性モデル610、620及び630のうち、どの異方性モデルが適切かを判断し、最適な異方性モデルを決定することができる。
【0079】
こうして異方性モデルを設定した後、被検体を所定の姿勢となるように配置し、電気特性を測定することは他の実施形態と同様である。ここで、データベースの情報として複数の軸について導電率のデータと拡散係数のデータとの関係が求められている場合には、1軸方向のみで測定を行い、他の軸については、データベースに記録されている関係を用いて推定することも可能である。これにより複数の姿勢で計測するという被検体及び操作者の負担を軽減することができる。
【0080】
以上、本発明の電気特性測定装置及び方法の実施形態を説明したが、本発明は電気特性の異方性と装置座標系との関係を予め把握し、その関係を利用して高精度に異方性を有する電気特性を測定することを要旨とするものであり、これら実施形態に限定されることなく、種々の変更が可能である。例えば、上記本発明の要旨に直接関係しない要素を省略すること或いは追加するなどの変更、技術的に矛盾しない範囲で実施形態の各要素を組み合わせること、が可能である。また図2図15に示す機能ブロック図は、信号処理部或いは計算部の機能を示す便宜的なものであり、各機能部が一つのプログラムで実行されることや一つの機能部が複数のプログラムの組み合わせやハードウェアの組み合わせで実行されることを排除するものではない。
【符号の説明】
【0081】
110・・・計測部
120・・・信号処理部
130・・・操作部
131・・・表示部
132・・・入力部
230・・・記憶部
200・・・計算部
201・・・電気特性算出部
202・・・拡散係数算出部
203・・・構造抽出部
205・・・補正部
207・・・表示画像作成部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15