(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6615087
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】摩擦圧接接合体
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20191125BHJP
【FI】
B23K20/12 G
B23K20/12 D
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-510415(P2016-510415)
(86)(22)【出願日】2015年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2015059096
(87)【国際公開番号】WO2015147041
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2018年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-69059(P2014-69059)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 新
(72)【発明者】
【氏名】新村 仁
【審査官】
岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−035306(JP,A)
【文献】
特開2011−173163(JP,A)
【文献】
特開平06−218562(JP,A)
【文献】
特開平05−123876(JP,A)
【文献】
特開2003−247405(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0180587(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト体の外周面とフランジ体に設けた孔の内周面とが摩擦圧接接合方法による接合層で接合してあり、
前記接合層の厚みが0.3μm以上で1μm以下の均一層であることを特徴とする摩擦圧接接合体。
【請求項2】
前記シャフト体とフランジ体との接合体が自動車用部品であることを特徴とする請求項1記載の摩擦圧接接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦圧接接合方法に関し、特にシャフト体とフランジ体との接合方法及びそれにより得られる摩擦圧接接合体に係る。
【背景技術】
【0002】
2つの部材を相対摩擦回転させることで摩擦熱を発生させる摩擦工程の後に回転を停止し相互に加圧するアプセット工程からなる摩擦圧接接合方法は公知である。
例えば特許文献1,2には、シャフト部とプーリー部とを摩擦圧接接合するに当たり、軟化した軽合金の一部を充填する周溝部を設けたり、内周面と外周面との間に空間を設ける技術を開示する。
しかし、これらの摩擦圧接方法は、軟化,溶融した金属を溝部や空間に流し込むものであり、シャフト部とプーリー部との2つの金属間化合物の厚い層が形成されるものであり、接合強度が不充分となる恐れがあった。
【0003】
【特許文献1】日本国特開2004−138209号公報
【特許文献2】日本国特許第4059650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、接合強度に優れ、生産性の高い摩擦圧接接合体及びそれを製造するための摩擦圧接接合方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る摩擦圧接接合体は、シャフト体の外周面とフランジ体に設けた孔の内周面とが摩擦圧接接合方法による接合層で接合してあり、前記接合層の厚みが0.3μm以上で1μm以下の均一層であることを特徴とする。
このような接合体は強度に優れ、自動車部品に適用でき、軽量化を図るのに有効で信頼性が高い。
また、本発明に係る摩擦圧接接合方法は、シャフト体とフランジ体との接合方法であって、シャフト体は外周部に円錐台状の接合テーパー部を有し、フランジ体は内周面が円筒状の接合孔を有し、前記接合テーパー部の最小外径L
MIN,最大外径L
MAXに対して、前記接合孔の内径がL
MIN+(L
MAX−L
MIN)×2/3以下であり、前記シャフト体の接合テーパー部をフランジ体の接合孔に摩擦接触させた状態に押し込み、相対回転させ、その後に相対回転を停止しシャフト体をフランジ体に向けてさらに押し込み、摩擦圧接させることを特徴とする。
ここで、シャフト体とは棒状の部材をいい、フランジ体とはシャフト体につば状に接合する部材をいう。
フランジ体の接合孔の内径をシャフト部の接合テーパー部のL
MIN+(L
MAX−L
MIN)×2/3以下に設定したのは、シャフト部の接合テーパー部をフランジ体の接合孔に挿入したプリセット状態で、接合孔の接触端部がテーパー部の内周面に接触する位置を最大径側よりにならないようにするためである。
この状態でシャフト体をフランジ体に向けて押し込み摩擦接触させながら相対的に回転させると摩擦熱で接触孔の接触端部が軟化し、シャフト体の押し込み方向とこのシャフト体の反押し込み方向の両方に向けて塑性流動させながら摩擦工程及びアップセット工程を経て相互に接合されることになるが、その流動層の厚みが均一になる。
ここで摩擦工程とは、相互の摩擦により摩擦熱を発生させる工程をいい、アップセット工程とは相対回転を止め、加圧する工程をいう。
シャフト体の接合テーパー部は、最大外径側と最小外径側とでは周速が異なる。
また、シャフト体とフランジ体との材質において、例えばシャフト体が鉄材であり、フランジ体がアルミ材である組合せの場合にフランジ体の方が流動性が高い。
このような組合せの場合に、アプセット工程におけるアルミ側の流れが均一になるように、接合孔の内径は前記接合テーパー部の最小外径L
MIN,最大外径L
MAXに対して、L
MIN+(L
MAX−L
MIN)×1/4以下であるように設定するのが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る摩擦圧接接合体及びその接合方法においては、シャフト体に従来技術のような溝加工が不要でかつ、フランジ体の接合孔は、円筒状に加工するだけで従来のようなテーパー加工が不要であることから、加工費の低減が可能である。
また、接合層の厚みが0.3μm以上で、1μm以内の概ね均一な層となり、シャフト体とフランジ体との接合面に形成された金属間化合物層や拡散層からなる接合層の強度が強い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係るシャフト体とフランジ体の構造例を示す。(a)は全体図、(b)は接触端部付近の拡大図を示す。
【
図3】比較例に示した接合形状を示し、(a)は比較例1,(b)は比較例2を示す。
【
図6】第2の接合例を示す。(A),(B),(C)はシャフト体とフランジ体との組合せ例を示す。
【符号の説明】
【0008】
1 シャフト体
1a 接合テーパー部
2 フランジ体
2a 接合孔
2b 接触端部
3 接合層
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る摩擦圧接接合体及びその接合方法を以下説明するが、本発明は本実施例に限定されない。
図1に示すようにシャフト体1は、第1シャフト部S
1とこれにより径の大きい第2シャフト部S
2との間に円錐台状の接合テーパー部1aを形成してある。
この接合テーパー部の傾斜角θを接合角と表現する。
フランジ体2は、厚みt
1方向に孔明した円筒状の内径D
1からなる接合孔2aを形成する。
シャフト体1は、棒状であり、フランジ体は板状であればその形状に制限はない。
フランジ体2の厚みt
1は、接合テーパー部の幅Lと同等又は接合テーパー部の幅Lの方が厚みt
1よりも少し大きい。
本発明において接合角θは、20〜60°の範囲がよく、好ましくは30〜45°の範囲である。
その範囲にて、
図1(b)に示すように接合孔2aの接触端部2bが接合テーパー部の中央部付近に当接するように接合孔の内径D
1と第1シャフト部の外径S
1を設定する。
より具体的には、接合テーパー部1aの最小径L
MIN,最大径L
MAXとの間を3等分し、L
2/3以下の最小外径側に接触端部2bが位置するようにする。
このようにプリセットし、シャフト体1をフランジ体2側に所定の力で押し込み、相互回転させることで摩擦熱を発生させる摩擦熱により接触端部が軟化すると回転を停止、直にシャフト体1の押し込み力をアップさせ、アップセットする。
このように設定し、摩擦圧接接合すると
図2に示すようにフランジ体の接合孔2aの接触端部2bがシャフト体1のフランジ体2への押し込みにより、接合孔の材料が押し込み方向とその反対方向の両方に向かって塑性流動し、シャフト体1の接合テーパー部1aに沿った接合層3が均一に形成される。
【0010】
シャフト体の第1シャフト部のシャフト径S
1(mm)と接合孔の内径D
1(mm)との関係を
図5の表に示すように設定し、接合角θを30,45°にて摩擦圧接接合した。
なお、フランジ体の肉厚(厚み)t
1=5mmとした。
(1)シャフト体の材質:S45C材
(2)フランジ体の材質:アルミニウム合金AC4C−T6材とした。
実施例1,2は、
図1に示すように接触端部2bがL
2/3以下の範囲になり、比較例1,2は接触端部2bの位置が
図3(a)比較例1,(b)比較例2の状態になるものである。
摩擦工程は、押し込み力(押付力)25kN,回転数1200rpm,摩擦時間0.6秒であり、アップセット工程は押し込み力(押付力)65kN,アップセット時間5秒とした。
測定した接合層3の厚みは、
図4に示すa,b,cの3点である。
フランジ体とシャフト体の接合部の剪断荷重を測定したところ、実施例1,2は26.3kN,30.8kNと高い値であった。
これに対して、比較例1,2は20kN以下の低い値であった。
これは、実施例1,2はa,b,c部位の接合層の厚みが0.3μmから1μm以下の範囲で均一であったのに対して、比較例はいずれも不均一であったためと思われる。
部分的に薄い部位や接合層が形成されていない部位があり、バラツキが大きかったためと思われる。
本発明においてシャフト体とフランジ体とは同質の材料でもよい。
また、異質の材料からなる場合は例えばシャフトが鉄材、フランジ体がアルミ材等フランジ体の方がシャフト体より塑性流動性に優れる組み合せがよい。
【0011】
シャフト体が鉄材でフランジ体がアルミ材である組合せにて接合形態をさらに検討したので、以下説明する。
図6(A),(B),(C)にそれぞれシャフト体1とフランジ体2の組合せを示し、(A),(B)は右側に接触端部2b付近の拡大図を示す。
シャフト体のシャフトS
3の外径は、(A),(B),(C)いずれも35mmで、フランジ体2の厚みは(A),(B),(C)いずれも5mmである。
フランジ体2の接合孔内径D
2は、(A)=26.0mm,(B)=28.0mm,(C)=24.0mmであり、(C)はシャフト体2の端面の中央部に凹部を形成し、(A),(B),(C)にて接合面積が概ね同一になるように調整した。
(A)は、フランジ体2の接触端部2bの位置が接合テーパー部の最小外径側から厚みの1/4以下に位置し、(B)は接触端部2bの位置がテーパー面の略中央に位置する。
摩擦工程は加圧力:20KNとし、アプセット工程は加圧力:55KN,加圧保持時間:55secとした。
摩擦工程における回転数と摩擦時間を
図7の表に示すように条件設定し、得られた接合体の評価結果を同
図7に示す。
界面近傍温度は、接合端部付近の温度を計測した。
静ねじりトルクは、フランジ体とシャフト体との相対的な破壊トルク、剥離強さはフランジ体からシャフト体を上方に引き抜く力をいう。
最大反応層の厚さは、金属間化合物及び拡散層の厚みを顕微鏡にて測定した。
この結果から実施例3〜5は、回転数2000rpm,摩擦時間0.2〜0.8secの間で安定した反応層(接合層)を形成し、静ねじりトルク,剥離強さの値も高く安定した。
これに対して参考例2は、2000rpm,摩擦時間0.2secで、実施例3と同じ条件でありながら、反応層(接合層)の厚みが1.2
μmと1.0
μm以上になっているので、接合強度が低下している。
これは、(A)の場合に接触端部2bの位置が接合テーパー部の最小外径側1/4以下であり、(B)はその位置がテーパー面の中央部付近であることから、摩擦工程におけるシャフト体の回転数が2000rpmと比較的高速であっても周速は(B)よりも(A)の方が遅く、摩擦面が高温になり過ぎることがなかったものと界面近傍温度の測定結果から推定される。
このこと及び比較例3,4からも接合層が1
μmを超え、厚くなり過ぎても逆に接合強度が低下することが分かる。
また、
図7の表の実施例3〜5と参考例2,3を比較すると、フランジ体の方がシャフト体よりも流動性の高い材質の場合には、接合孔の内径は前記接合テーパー部の最小外径L
MIN,最大外径L
MAXに対して、L
MIN+(L
MAX−L
MIN)×1/4以下にすることで、即ちフランジ体の接触端部2bの位置が接合するためのテーパー面の小径側から軸方向1/4以下にした方が、高速度,短時間で接合できるとともに接合可能な条件範囲が広い。
本実施例では、フランジ体の接合孔の内周面が円筒状であったが、接触端部の位置がテーパー面の所定の位置になるものであれば、必ずしも円筒状に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明は、シャフト体と接合孔を有する板状、又はつば状のフランジ体との組合せであれば強度に優れた摩擦圧接接合体が得られるので、車両部品,機械部品等、広い分野の要素部材として利用できる。