(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アンビル上に重ねて載置された複数の板状部材に振動するホーンを押付けて前記板状部材を超音波接合する度に、前記アンビルへのエネルギー伝達率を測定する測定段階と、
同一の前記アンビルにおいて測定された複数の前記エネルギー伝達率を用いて、変動閾値を算出する算出段階と、
同一の前記アンビルで超音波接合する度に、前記エネルギー伝達率と、前記変動閾値のうち一つ前の超音波接合で算出された変動閾値との大きさを比較することにより、前記板状部材の接合状態の良否を判定する判定段階と、
を有し、
前記測定段階は、
前記板状部材を超音波接合する度に、
前記アンビルの振動振幅を振動センサにより測定する振動測定段階と、
前記振動測定段階において前記アンビルの振動振幅を測定して得られた振動データを積分する積分段階と、
前記振動データの積分値を積分時間で除算して、前記エネルギー伝達率を求める段階と、
を行う、ことを特徴とする接合状態検査方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照しながら、〔実施形態1〕と〔実施形態2〕とに分けて、本発明の接合状態検査方法を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
〔実施形態1〕
[接合状態検査方法を適用する検査装置]
図1は、実施形態1に係る接合状態検査方法を適用する検査装置100の概略構成を示す図である。
【0012】
検査装置100は、超音波接合装置200により超音波接合される板材Wの接合状態を検査する。超音波接合装置200は、板材Wを押付けて振動を付与するホーン210と、板材Wが載置されるアンビル220とを有する。超音波接合装置200上に対向配置されるホーン210とアンビル220の先端部には、角錐形状を有する複数の突起が碁盤目状にそれぞれ形成されている。
【0013】
検査装置100は、
図1に示すとおり、超音波接合装置200のアンビル220の振動振幅を測定する振動センサ110と、振動センサ110からの信号に基づいて板材Wの接合状態の良否を判定する解析装置120とを備える。
【0014】
振動センサ110は、アンビル220の側面に配置され、超音波接合時におけるアンビル220の振動振幅を測定する。振動センサ110は、A/Dコンバータ(不図示)を介して、解析装置120に接続されている。振動センサ110としては、渦電流センサやレーザードップラー変位計等の非接触式変位センサを採用できる。
【0015】
解析装置120は、超音波接合される板材Wの接合状態の良否を判定する。解析装置120は、振動センサ110がアンビル220の振動振幅を測定して得られる振動波形データを解析して、アンビル220へのエネルギー伝達率を測定する。解析装置120は、また、超音波接合する度に測定されたエネルギー伝達率を用いて、変動閾値を算出する。解析装置120は、さらに、測定されたエネルギー伝達率と一つ前の超音波接合において算出された変動閾値との大きさを比較することにより、超音波接合された2枚の板材Wの接合状態の良否を判定する。解析装置120は、たとえば、一般的なパーソナルコンピュータである。
【0016】
図2は、解析装置120の概略構成を示すブロック図である。解析装置120は、CPU121、ROM122、RAM123、ハードディスク124、ディスプレイ125、入力部126、およびインタフェース127を有する。これらの各部は、バスを介して相互に接続されている。
【0017】
CPU121は、プログラムにしたがって上記各部の制御および各種の演算処理を行う。ROM122は、各種プログラムおよび各種データを予め格納する。RAM123は、作業領域として一時的にプログラムおよびデータを記憶する。
【0018】
ハードディスク124は、OS(オペレーティングシステム)を含む各種プログラムおよび各種データを格納する。ハードディスク124には、接合状態を検査するためのプログラムが格納されている。
【0019】
ディスプレイ125は、たとえば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。入力部126は、たとえば、キーボード、タッチパネル、およびマウス等のポインティングデバイスであり、各種情報の入力に使用される。
【0020】
インタフェース127は、解析装置120と振動センサ110とを電気的に接続する。インタフェース127は、振動センサ110からの信号を受信する。
【0021】
なお、解析装置120は、上記した構成要素以外の構成要素を含んでいてもよく、あるいは、上記した構成要素のうちの一部が含まれていなくてもよい。
【0022】
以上のとおり構成される検査装置100は、超音波接合装置200により板材Wを超音波接合する度に測定されるエネルギー伝達率と、一つ前の超音波接合において算出された変動閾値との大きさを比較することにより、板材Wの接合状態の良否を判定する。
【0023】
[接合状態検査方法]
以下、実施形態1に係る接合状態検査方法について詳細に説明する。
図3は、超音波接合する度に、解析装置120により実行される接合状態検査処理の手順を示すフローチャートである。なお、
図3のフローチャートにより示されるアルゴリズムは、解析装置120のハードディスク124にプログラムとして記憶されており、CPU121によって実行される。
【0024】
まず、エネルギー伝達率測定処理が実行される(ステップS101)。具体的には、解析装置120が振動センサ110により測定されたアンビル220の振動波形データを解析することにより、アンビル220へのエネルギー伝達率(以下、「伝達率」とも称する。)を算出する。エネルギー伝達率測定処理の詳細については、後述する。
【0025】
続いて、ステップS101に示す処理において算出されたエネルギー伝達率が固定閾値を超えているか否かが判断される(ステップS102)。ここで、固定閾値は、たとえば、引っ張り試験により接合状態が良好である複数セットの板材について、伝達率についてのデータをとることにより予め統計的に求められた値である。固定閾値は、超音波接合において使用される工具および超音波接合される板材の材質や形状などの規格ごとに、予めハードディスク124に記憶されている。
【0026】
伝達率が固定閾値を超えない場合(ステップS102:NO)、さらに、伝達率が変動閾値を超えているか否かが判断される(ステップS103)。ここで、変動閾値は、一つ前の超音波接合において算出され、超音波接合の接合回数に応じて経時的に変動する値である。なお、変動閾値の初期値は、固定閾値と同様の値を有してよい。
【0027】
伝達率が固定閾値を超える場合(ステップS102:YES)、または、伝達率が固定閾値を超えないが変動閾値を超える場合(ステップS102:NO、かつ、ステップS103:YES)、接合状態が良好であると判断される(ステップS104)。
【0028】
一方、伝達率が固定閾値も変動閾値も超えない場合(ステップS102:NO、かつ、ステップS103:NO)、接合状態が良好でないと判断される(ステップS105)。
【0029】
続いて、変動閾値算出処理が実行される(ステップS106)。具体的には、超音波接合する度に、ステップS101に示す処理において測定された伝達率を用いて、変動閾値を算出する。変動閾値算出処理の詳細については、後述する。算出された変動閾値は、同一のアンビル220を用いた超音波接合の次回の接合状態の良否の判断に用いられる。
【0030】
以上のように、超音波接合する度に解析装置120は
図3のフローチャートに示した処理を実行することにより、板材Wの接合状態の良否を判定する。
【0031】
(エネルギー伝達率測定処理)
図4は、
図3のステップS101に示されるエネルギー伝達率測定処理の手順を示すフローチャートである。
図5〜
図13は、
図4に示されるフローチャートに応じて処理した場合に得られるアンビル220の振動波形データの解析結果を示す図である。以下、
図4〜
図13を参照しながら、エネルギー伝達率測定処理を詳細に説明する。
【0032】
まず、振動波形データが収録される(ステップS201)。具体的には、超音波接合装置200が板材Wを超音波接合する間、アンビル220の振動振幅が振動センサ110により測定され、振動センサ110の出力が振動波形データとして収録される。
【0033】
続いて、バンドパスフィルタ(以下、「BPF」と称する)が適用される(ステップS202)。具体的には、ステップS201に示す処理において収録された振動波形データに対してBPFが適用され、所定の周波数帯域のデータが抽出される。BPFは、ホーン210の振動周波数(たとえば、20kHz)を中心周波数とし、中心周波数から一定の帯域幅(たとえば、±500Hz)を有するFIRフィルタである。
【0034】
図5は、振動波形データの一例を示す図であり、
図6は、BPFが適用された振動波形データを示す図である。
図5および
図6の縦軸はアンビル220の振動振幅(振動センサ110の出力電圧)を示し、横軸は時間(サンプリングポイント数)を示す。
【0035】
実施形態1では、
図5に示すとおり、振動センサ110の出力が振動波形データとして収録される。振動波形データには、超音波接合装置200が超音波接合を開始する前および超音波接合を終了した後のデータも含まれている。収録された振動波形データにBPFが適用されれば、
図6に示すとおり、振動波形データから、たとえば、中心周波数20kHzかつ帯域幅±500Hzの振動波形データが抽出される。
【0036】
続いて、全波整流が行われる(ステップS203)。具体的には、ステップS202に示す処理においてBPFが適用された振動波形データに対して全波整流が行われる。全波整流が行われれば、
図7に示すとおり、振動波形データのマイナス側の振幅値が反転される。
【0037】
続いて、ローパスフィルタ(以下、「LPF」と称する)が適用される(ステップS204)。具体的には、ステップS203に示す処理において全波整流が行われた振動波形データに対してLPFが適用される。LPFが適用されれば、
図8に示すとおり、振動波形データのエンベロープが抽出される。
【0038】
続いて、切り出しポイントが特定される(ステップS205)。具体的には、ステップS204に示す処理においてLPFが適用された振動波形データに基づいて、振動波形データの中から、アンビル220が振動している時間のデータを切り出すための開始ポイントおよび終了ポイントが特定される。
【0039】
図9および
図10は、切り出しポイント特定処理を説明するための図である。
図9は、
図8の破線で囲まれる部分Aの拡大図であり、
図10は、
図8の破線で囲まれる部分Bの拡大図である。
【0040】
開始ポイントを特定する場合、
図9に示すとおり、まず、振動波形データの振幅値が所定の閾値V
1を最初に超える時点(サンプリングポイント1)が認識される。続いて、振幅値が閾値V
1を超えている状態が所定時間T
1(所定のサンプリングポイント数)継続していることが確認される。振幅値が閾値V
1を超えている状態が所定時間継続していることが確認されれば、サンプリングポイント1から所定時間T
2(所定のサンプリングポイント数)遡った時点(サンプリングポイント2)が開始ポイントに特定される。
【0041】
一方、終了ポイントを特定する場合、
図10に示すとおり、まず、振動波形データの振幅値が所定の閾値V
2を最初に下回る時点(サンプリングポイント3)が認識される。続いて、振幅値が閾値V
2を下回っている状態が所定時間T
3継続していることが確認される。振幅値が閾値V
2を下回っている状態が所定時間継続していることが確認されれば、サンプリングポイント3から所定時間T
4進んだ時点(サンプリングポイント4)が終了ポイントに特定される。
【0042】
続いて、対象区間の波形が切り出される(ステップS206)。具体的には、ステップS202に示す処理においてBPFが適用された振動波形データから、ステップS205に示す処理において特定された2つの切り出しポイントにより画定される時間のデータが切り出される。その結果、
図11に示すとおり、接合状態の良否の判定に無関係なデータが取り除かれた振動波形データが得られる。
【0043】
続いて、全波整流が行われる(ステップS207)。具体的には、ステップS206に示す処理において切り出された振動波形データに対して全波整流が行われる。全波整流が行われれば、
図12に示すとおり、振動波形データのマイナス側の振幅値が反転される。
【0044】
続いて、累積積分が行われる(ステップS208)。具体的には、ステップS207に示す処理において全波整流が行われた振動波形データの累積積分が行われる。より具体的には、振動波形データの各サンプリングポイントの振幅値が累積される。
【0045】
続いて、積分カーブの傾きが算出される(ステップS209)。具体的には、ステップS208に示す処理において累積積分が行われた振動波形データの累積積分値を積分カーブの開始点から終了点までの時間(積分時間)で割ることにより、振動波形データの積分カーブの傾きが算出される。
【0046】
図13は、振動波形データの累積積分結果を示す図である。実施形態1では、振動波形データの累積積分値Vを、積分カーブの開始点から終了点までの時間Tで割ることにより、振動波形データの積分カーブの傾き(V/T)が算出される。なお、累積積分値Vは、
図11に示す振動波形データの面積値に相当する。また、累積積分値Vおよび振動波形データの面積値は、超音波接合装置200により板材Wを超音波接合する際にアンビル220に伝達されたエネルギーに相当する。したがって、積分カーブの傾き(V/T)は、単位時間当たりのアンビル220へのエネルギー伝達率に相当する。
【0047】
(変動閾値算出処理)
図14は、
図3のステップS106に示される変動閾値算出処理の手順を示すフローチャートである。
【0048】
まず、伝達率が記憶される(ステップS301)。具体的には、
図3のステップS101に示す処理において測定されたエネルギー伝達率が、超音波接合に使用されるアンビル220ごとに必要な領域を確保してハードディスク124に記憶される。
【0049】
続いて、伝達率の平均値が算出され(ステップS302)、さらに、伝達率の標準偏差が算出される(ステップS303)。具体的には、ステップS301に示す処理において記憶された伝達率と、既にハードディスク124に記憶された同一のアンビル220の他の伝達率とに基づいて伝達率の平均値および標準偏差が算出される。
【0050】
続いて、変動閾値が算出される(ステップS304)。具体的には、ステップS302に示す処理において算出された平均値およびステップS303に示す処理において算出された標準偏差に基づいて変動閾値を算出する。たとえば、平均値から標準偏差の四倍を減算して変動閾値を算出できる。
【0051】
以上のように、実施形態1に係る接合状態検査方法によれば、超音波接合する度に測定されるアンビル220へのエネルギー伝達率と、一つ前の超音波接合において算出される変動閾値との大きさを比較することにより、板材Wの接合状態の良否を判定する。このため、アンビル220の振動の測定波形が標準波形と異なっていても正しく判定できる。つまり、板材Wの接合状態の良否を精度よく判定できる。
【0052】
上記実施形態1に係る接合状態検査方法では、超音波接合される板材Wの接合状態の良否に関係なく、接合状態が良好でないと判定される場合のエネルギー伝達率をも用いて、変動閾値を算出している。ただし、これに限定されず、接合状態が良好でないと判定される場合のエネルギー伝達率を用いず、接合状態が良好であると判定される場合のエネルギー伝達率だけで変動閾値を算出しても良い。たとえば、
図3のフローチャートにおいて、ステップS105が実行された後、ステップS106が実行されずに、処理が終了してもよい。接合状態が良好であると判定される場合のエネルギー伝達率だけで変動閾値を算出するため、算出される変動閾値の信頼性が高まる。
【0053】
また、上記実施形態1に係る接合状態検査方法では、超音波接合の接合回数に関係なく、超音波接合する度に測定されたすべてのエネルギー伝達率を用いて、変動閾値を算出している。ただし、これに限定されず、直前に測定された所定数のエネルギー伝達率を用いて、変動閾値を算出しても良い。たとえば、
図14のフローチャートにおいて、ステップS301に示す処理では、FIFO方式により所定数を上限にエネルギー伝達率が記憶されてもよい。変動閾値の算出に用いられるデータ数が比較的少なくなるため、変動閾値を算出するための処理負担(処理時間および使用メモリ)が低減される。
【0054】
さらに、上記実施形態1に係る接合状態検査方法では、超音波接合の接合回数に関係なく、超音波接合する度に変動閾値を算出し、伝達率が固定閾値を超えない場合には、一つ前の超音波接合において算出された変動閾値を超えるか否かを判定している。ただし、これに限定されず、接合回数が一定の回数に達していない場合には、伝達率を記憶するだけに止まり、接合回数が一定の回数に達してから変動閾値を算出してもよい。たとえば、
図14のフローチャートにおいて、ステップS301に示す処理で記憶された伝達率の数が一定の回数に達していない場合には、ステップS302〜304に示す処理が実行されずにリターンされてもよい。接合回数が少ない段階において、変動閾値を算出しなくてもよいため、変動閾値を算出するための処理負担(処理時間および使用メモリ)が低減される。
【0055】
〔実施形態2〕
上述の実施形態1では、アンビル220へのエネルギー伝達率が固定閾値を超えない場合、さらに、当該エネルギー伝達率を変動閾値と比較することにより、接合状態の良否が判定される。実施形態2では、超音波接合の接合回数をカウントし、接合回数が所定回数を超えていない場合には、伝達率を固定閾値と比較し、接合回数が所定回数を超える場合には、伝達率を変動閾値と比較することにより、接合状態の良否が判定される。
【0056】
実施形態2に係る接合状態検査方法を適用する検査装置は、実施形態1に係る接合状態検査方法を適用する検査装置100と同様のものであってよい。以下では、実施形態2に係る接合状態検査方法について詳細に説明する。
【0057】
図15は、実施形態2に係る接合状態検査処理の手順を示すフローチャートである。
【0058】
実施形態2のステップS401、S408に示す処理は、実施形態1のステップS101、S106に示す処理と、同様である。したがって、実施形態2において、実施形態1と同様の上記処理については、詳細の説明を省略する。
【0059】
まず、エネルギー伝達率測定処理が実行され(ステップS401)、続いて、接合回数が所定回数以上であるか否かが判断される(ステップS402)。具体的には、同一のアンビル220を用いた超音波接合の接合回数が所定回数以上であるか否かが判断される。接合回数が所定回数以上である場合(ステップS402:YSE)、変動閾値を比較閾値に代入する(ステップS403)。一方、接合回数が所定回数以上でない場合(ステップS402:NO)、固定閾値を比較閾値に代入する(ステップS404)。ここで、変動閾値も固定閾値も、実施形態1の場合と同様の定義を有する。
【0060】
続いて、ステップS401に示す処理において算出されたエネルギー伝達率が比較閾値を超えているか否かが判断される(ステップS405)。伝達率が比較閾値を超えない場合(ステップS405:NO)、接合状態が良好でないと判断される(ステップS407)。一方、伝達率が比較閾値を超える場合(ステップS405:YES)、接合状態が良好であると判断される(ステップS406)。
【0061】
続いて、変動閾値算出処理(ステップS408)が実行された後、接合回数が算出される(ステップS409)。具体的には、同一のアンビル220を用いた超音波接合が行われた回数をカウントアップし、カウント値を接合回数として算出することができる。また、接合状態が良好であると判断された場合だけ、接合回数をカウントしてもよい。ただし、これに限定されず、接合回数は、ハードディスク124に記憶されたアンビル220ごとのエネルギー伝達率の数から直接算出してもよい。なお、アンビル220が交換されると、接合回数は初期値、たとえば、0にリセットされる。
【0062】
以上のように、実施形態2に係る接合状態検査方法によれば、実施形態1と同様の効果を達成できる。
【0063】
また、実施形態2に係る接合状態検査方法によれば、超音波接合の接合回数に応じて、固定閾値および変動閾値を選択してアンビルへのエネルギー伝達率と大きさを比較する。したがって、エネルギー伝達率を固定閾値および変動閾値の両方とも比較する実施形態1よりも、解析装置120の処理負担が低減される。
【0064】
以下、
図16〜
図18を参照して、本発明に係る接合状態検査方法の作用効果について詳細に説明する。
【0065】
図16は、超音波接合時におけるアンビル220の挙動を示す図である。2枚の板材W
1,W
2のうち、板材W
2はアンビル220上に載置され、板材W
1は板材W
2上に重ねて載置される。超音波接合時、ホーン210は、予め定められた時間(タクトタイム)が経過するまで板材W
1を押付けながら振動し続け、自身の振動を板材W
1に付与する。なお、超音波接合装置200は、ホーン210の振幅と加圧力を一定に維持するように、ホーン210に電力を印加する。
【0066】
図16(A)に示すとおり、超音波接合の開始直後は、2枚の板材W
1,W
2は接合されておらず、ホーン210の振動は、上側の板材W
1にのみ伝達される。このため、アンビル220は振動せず、ホーン210と板材W
1との摺動による発熱、および、板材W
1と板材W
2との摺動による発熱が発生する。
【0067】
図16(B)に示すとおり、板材W
1と板材W
2とが接合し始めれば、ホーン210の振動がアンビル220にまで伝達され、アンビル220が振動し始める。
【0068】
図16(C)に示すとおり、板材W
1と板材W
2との接合が進めば、板材W
1と板材W
2とは摺動しなくなり、板材W
1と板材W
2との摺動による発熱がなくなる。一方で、アンビル220は、
図16(B)に示した場合よりも大きく振動する。
【0069】
以上のとおり、超音波接合では、2枚の板材W
1,W
2の接合界面の接合状態に応じて、タクトタイム内にホーン210から板材W
1,W
2を介してアンビル220に伝達されるエネルギーが変化する。これに加え、板材W
1,W
2の変形や汚れ等の影響もあり、仮に、ホーン210の振動振幅を測定しても、板材W
1,W
2の接合界面の接合状態との相関は得られず、接合状態を正しく把握できない。
【0070】
また、超音波接合では、アンビル220は、2枚の板材W
1,W
2を介して加圧され振動される。このため、超音波接合する度に、板材W
2を載置するアンビル220の先端部の碁盤目状の突起が磨耗され、アンビル220の寿命が縮まる。超音波接合の接合回数が増え続けると、磨耗が深刻化し、アンビル220と板材W
2とが摺動する。超音波接合において、アンビル220と板材W
2との摺動は、ホーン210からアンビル220に伝達されるエネルギーを低減してしまう。このため、板材W
1,W
2の接合界面の接合状態が良好であっても、タクトタイム内にアンビル220に伝達されるエネルギーは、アンビル220の寿命に応じて経時的に変化する。したがって、磨耗が深刻化されたアンビル220の振動振幅を測定しても、振動波形の変化が2枚の板材W
1,W
2の接合界面の接合状態によるものか、アンビル220の寿命によるものか区別できず、接合状態を正しく把握できない場合がある。
【0071】
一方、本発明の接合状態検査方法では、アンビル220の振動振幅を測定することにより、超音波接合の真の要件であるアンビル220へのエネルギー伝達率を測定している。加えて、当該エネルギー伝達率と、一つ前の超音波接合において算出された変動閾値との大きさを比較することにより、板材Wの接合状態の良否を判定している。変動閾値は、超音波接合する度に測定されたアンビル220へのエネルギー伝達率を用いて算出されるため、エネルギー伝達率に対するアンビル220の寿命の影響が反映されている。したがって、超音波接合の真の要件であるアンビル220へのエネルギー伝達率からアンビル220の寿命の影響による変化が取り除かれ、接合状態の良否を精度よく判定できる。
【0072】
また、本発明の接合状態検査方法では、非接触式の振動センサ110によりアンビル220の振動振幅を測定している。したがって、接触式の振動センサのようにセンサの自重が振動状態に影響を与えることがなく、アンビル220の挙動を正しく測定できる。
【0073】
図17は、本発明に係る接合状態検査方法の効果を説明するための図である。
図17において実線および破線で示される振動波形は、引っ張り試験により接合状態(接合強度)が良好であると判断される良品の振動波形である。一方、
図17において一点鎖線で示される振動波形は、引っ張り試験により接合状態が不良であると判断される不良品の振動波形である。
【0074】
図17に示すとおり、不良品は、良品に比べて、アンビルに伝達されたエネルギーが小さい。一方、実線で示される良品の振動波形と破線で示される良品の振動波形とを比較すれば、波形が異なる。測定波形を標準波形と比較する従来のモニタ方法では、破線で示される振動波形の製品は、不良品と判定される。
【0075】
しかしながら、本発明の接合状態検査方法は、アンビルへのエネルギー伝達率に基づいて接合状態の良否を判定するため、測定波形に着目すれば不良品と判定される製品であっても、良品と判定できる。
【0076】
図18は、アンビルへのエネルギー伝達率に対するアンビルの寿命の影響を説明するための図である。
図18において、横軸は超音波接合回数(打点)を示し、縦軸は超音波接合する度に測定されるアンビル220へのエネルギー伝達率を示す。なお、破線Cは予め統計的に求められた固定閾値を示し、実線Dは超音波接合する度にアンビルへのエネルギー伝達率を用いて算出された変動閾値を示す。さらに、領域Eは固定閾値を超えていないが変動閾値を超えているエネルギー伝達率が発生する領域を示す。
【0077】
図18に示すとおり、超音波接合回数が増えると、アンビル220へのエネルギー伝達率は、経時的に低下する。これは、上述したように、超音波接合に使用されるアンビル220の磨耗により、アンビル220と板材Wとが摺動するため、タクトタイム内にアンビル220に伝達されるエネルギーが減少されたことに起因されると考えられる。すなわち、超音波接合回数が増えることにつれて、接合状態が良好である製品であっても、解析装置120により測定されるアンビル220へのエネルギー伝達率は、経時的に低下する。
【0078】
そこで、超音波接合の接合回数がアンビル220の寿命に近づけば近づくほど、領域Eに示すように、エネルギー伝達率が固定閾値を下回ることが多い。このため、領域Eにおいても、アンビル220へのエネルギー伝達率を固定閾値と比較することにより接合状態の良否を判定する方法では、接合状態が不良であると判定される製品が多く、不良品が過検知される。このような場合、製造現場では、歩留まりの関係上、アンビル220の本来の寿命に達していなくても、やむを得ずアンビル220を交換する。アンビル220が本来の寿命まで有効活用されていないため、製造コストのアップにつながる。
【0079】
しかしながら、本発明の接合状態検査方法は、アンビルへのエネルギー伝達率を変動閾値と比較して接合状態の良否を判定するため、領域Eにおいても、不良品の過検知が防止でき、アンビル220を本来の寿命まで使用し続けることができる。
【0080】
このように、本発明の接合状態検査方法によれば、板材の接合状態の判定精度が向上する。その結果、不良品と判定される製品が減少し、製品の歩留まりが向上され、製造コストも低減される。
【0081】
以上のとおり、説明した本実施形態は、以下の効果を奏する。
【0082】
(a)本発明の接合状態検査方法は、アンビルへのエネルギー伝達率と、一つ前の超音波接合において算出される変動閾値との大きさを比較することにより、板材の接合状態の良否を判定する。したがって、アンビルの振動振幅の測定波形が標準波形と異なっていても正しく判定できる。つまり、板材の接合状態の良否を精度よく判定できる。
【0083】
(b)本発明の接合状態検査方法は、アンビルへのエネルギー伝達率が変動閾値を超えない場合、板材の接合状態が良好でないと判定する。したがって、エネルギー伝達率に対するアンビルの寿命の影響が取り除かれ、寿命の近くまでアンビルを超音波接合に使用し続けても、板材の接合状態の良否を正しく判定できる。
【0084】
(c)本発明の接合状態検査方法は、超音波接合する度のアンビルへのエネルギー伝達率の平均値および標準偏差に基づいて変動閾値を算出する。したがって、エネルギー伝達率に対するアンビルの寿命の影響を精度よく反映した変動閾値を算出できる。
【0085】
(d)本発明の接合状態検査方法は、アンビルへのエネルギー伝達率のうち、接合状態が良好であると判定される場合のエネルギー伝達率を用いて、変動閾値を算出できる。この場合、算出された変動閾値の信頼性を高められる。
【0086】
(e)本発明の接合状態検査方法は、アンビルへのエネルギー伝達率のうち、直前に測定された所定数のエネルギー伝達率を用いて、変動閾値を算出できる。したがって、変動閾値を算出するための処理負担を低減できる。
【0087】
(f)本発明の接合状態検査方法は、超音波接合の接合回数に応じて、固定閾値および変動閾値を選択してアンビルへのエネルギー伝達率と大きさを比較できる。したがって、エネルギー伝達率を固定閾値および変動閾値の両方とも比較する場合より、解析装置の処理負担を低減できる。
【0088】
(g)超音波接合の接合回数は、板状部材の接合状態が良好であると判定された超音波接合の接合回数であって良い。したがって、接合状態が良好であると判定される場合のエネルギー伝達率を用いた変動閾値の算出を簡単にできる。
【0089】
(h)本発明の接合状態検査方法は、振動波形データの積分値を積分時間で割った値と変動閾値との大きさを比較して、板材の接合状態が良好であると判定する。したがって、接合時間のバラツキが吸収され、判定の安定性が向上する。
【0090】
(i)本発明の接合状態検査方法は、振動波形データの中から、アンビルが振動している時間のデータを切り出し、切り出したデータを積分する。したがって、データ量が低減され、接合状態の良否を短時間で判定できる。
【0091】
(j)本発明の接合状態検査方法は、ホーンの振動周波数により定まる周波数帯域のBPFを適用して振動波形データからデータを抽出する。したがって、振動波形データに含まれる外乱(ノイズ)を取り除くことができる。
【0092】
(k)本発明の接合状態検査方法は、BPFの中心周波数は、ホーンの振動周波数と一致している。したがって、ホーンから伝達されたエネルギーのみを選択的に抽出できる。
【0093】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これらは本発明の説明のための例示であり、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略することができることはいうまでもない。