特許第6615097号(P6615097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6615097
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】FCC法におけるホウ素酸化物
(51)【国際特許分類】
   C10G 11/18 20060101AFI20191125BHJP
   B01J 29/14 20060101ALI20191125BHJP
   B01J 29/16 20060101ALI20191125BHJP
   B01J 23/847 20060101ALI20191125BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   C10G11/18
   B01J29/14 Z
   B01J29/16 Z
   B01J23/847 Z
   B01J23/83 Z
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-541431(P2016-541431)
(86)(22)【出願日】2014年12月11日
(65)【公表番号】特表2017-506270(P2017-506270A)
(43)【公表日】2017年3月2日
(86)【国際出願番号】US2014069793
(87)【国際公開番号】WO2015094916
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2017年12月11日
(31)【優先権主張番号】14/134,629
(32)【優先日】2013年12月19日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505470786
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ロバート マクガイア ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ゲアリー エム. スミス
(72)【発明者】
【氏名】ビルジ イルマズ
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−110750(JP,A)
【文献】 特開平09−104875(JP,A)
【文献】 特表平05−502009(JP,A)
【文献】 特開昭54−122692(JP,A)
【文献】 特開平10−212486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動接触分解(FCC)条件下に炭化水素フィードをクラッキングする方法であって、前記方法が、FCC適合性無機粒子上の1種以上のホウ素酸化物成分をFCC装置内のクラッキング粒子に添加することを含み、ここで、1種以上のホウ素酸化物成分が、FCC適合性無機粒子の0.005質量%〜20質量%の範囲内の量で存在し、
クラッキング粒子が60〜99質量%の範囲内で存在し、かつFCC適合性無機粒子が1〜40質量%の範囲内で存在し、
前記FCC適合性無機粒子は、第1の種類の粒子であり、前記第1の種類の粒子は、前記第1の種類の粒子とは異なる組成を有する第2の種類の粒子と共にFCC装置内に配置されており、
前記第1の種類の粒子は、ゼオライト材料を含まず、1種以上のホウ素酸化物成分と第1のマトリックス成分とを含み、ここで、前記第1の種類の粒子は、FCC炭化水素のクラッキングに対して不活性であり、かつ金属の捕捉において活性であり、
前記第2の種類の粒子は、前記第1の種類の粒子とは異なる組成を有し、第2のマトリックス成分を含み、かつ炭化水素のクラッキングに対して活性であり、かつ、前記第1の種類の粒子と前記第2の種類の粒子とを一緒に混合する、前記方法。
【請求項2】
1種以上のホウ素酸化物成分がFCC装置内で金属を捕捉する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1種以上のホウ素酸化物成分が金属と共に錯体を形成する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
金属がニッケルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
1種以上のホウ素酸化物成分がクラッキング粒子上に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第1のマトリックス成分および第2のマトリックス成分が非ゼオライト系材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
さらに、第1の種類の粒子および第2の種類の粒子とは組成が異なる付加的な種類の粒子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
1種以上のホウ素酸化物成分が流動接触分解条件下に移動性である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
第1のマトリックス材料および第2のマトリックス材料が、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アタパルジャイト、カオリン、非晶質カオリン、メタカオリン、ムライト、スピネル、含水カオリン、クレー、ギブサイト(アルミナ三水和物)、ベーマイト、チタニア、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、マグネシアおよびセピオライトからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
第1のマトリックス材料および第2のマトリックス材料がアルミノケイ酸塩材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
クラッキング粒子が、マトリックス材料と連晶をなしている分子ふるい成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
クラッキング粒子が、マトリックス材料と混合された分子ふるいを含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動接触分解法に関する。より具体的には、本発明は、1種以上のホウ素酸化物をFCC装置に供給する流動接触分解法に関する。
【0002】
背景
接触分解は、極めて大規模に商業的に適用される石油精製法の一つである。接触分解、特に流動接触分解(FCC)は、重質炭化水素原料を例えばガソリンや蒸留範囲の留分といったより軽質の生成物に転化するために日常的に用いられている。FCC法では、炭化水素原料がFCCリアクターのライザー部に注入され、このライザー部において、触媒再生装置からこのライザーリアクターへと循環された高温の触媒との接触時にこの原料がクラッキングされて、より軽質でより価値の高い生成物となる。
【0003】
流動接触分解触媒が商業的な成功を収めるためには、該触媒が商業的に許容される活性、選択性および安定性を有しなければならないとの認識が持たれている。こうした触媒は、経済的に魅力的な収率をもたらすのに十分な活性を示す必要があり、所望の生成物を生成しかつ望ましくない生成物を生成しないように十分な選択性を示す必要があり、また商業的に有用な寿命を有するのに十分な水熱安定性や耐摩損性を示す必要がある。
【0004】
過度のコークや水素は、商業的な接触分解法においては望ましくない。ガソリンの収率に対するこうした生成物の収率の増加がわずかであっても、これによって重大な実用上の問題が生じる可能性がある。例えば、コークの生成量の増加によって、高い発熱を伴う触媒再生時にコークを燃焼除去することで生じる熱が不所望にも増加しうる。逆に、不十分なコーク生成によってクラッキング法の熱収支が崩れることもある。さらに、商業的な製油所においては、水素等の高体積ガスの処理に高価な圧縮機が使用されている。従って、生成される水素の体積が増加することによって、製油所の資本的支出が大幅に増える場合がある。
【0005】
クラッキング触媒のクラッキング活性の向上とガソリン選択性の向上とは、必ずしも相伴うというわけではない。従って、クラッキング触媒が格段に高いクラッキング活性を示すことは可能ではあるものの、こうした活性によって、ガソリンを犠牲にしてコークおよび/またはガスへの転化率が高水準となる場合には、その触媒が示す有用性は限定的であろう。現在のFCC触媒での接触分解は、ゼオライト成分と非ゼオライト(例えば、マトリックス)成分との双方によるものである。ゼオライトクラッキングがガソリン選択性の傾向を示すのに対して、マトリックスクラッキングはガソリン選択性の傾向をそれほど示さない。
【0006】
近年では、石油精製工業は、原油の価格構造や入手可能性の変化から、より大量の残渣油や残渣油含有フィードを処理するようにシフトしてきている。多くの製油業者は自社の装置において残渣油の少なくとも一部を処理しており、いくつかの製油業者では今や全ての残渣油クラッキングプログラムの運転が行われている。残渣油のフィードを処理することで、有価生成物の収率が軽質フィードに対して不利な方向に大幅に変わる場合がある。作業上の最適化の他に、触媒は生成物分布に大きな影響を与える。残渣油触媒の設計にとって重要な因子はいくつかある。触媒が、コークや水素の生成を最小限に抑えることができ、触媒安定性を最大化することができ、かつ残渣油原料中の金属汚染物質に基づく有害な汚染物質の選択性を最小限に抑えることができれば、それは非常に好ましい。
【0007】
残渣油フィードは、典型的には、例えばNi、V、Fe、Na、Ca等の汚染金属を含む。高度のNiおよびVの汚染物質を含有する重質残渣油フィードを転化させるための残渣油FCCによって、FCC分野の世界的な急成長が成り立っている。NiもVもどちらも望ましくない脱水素反応を触媒するが、特に活性の高い脱水素触媒の一つがNiである。Niは、Hやコークの収率を大幅に増加させる。望ましくない脱水素反応に関与することに加えて、Vには他の主要な懸念事項が付随している。例えば、VはFCC条件下で高度に移動性を示し、またVとゼオライトとの相互作用によってその骨格構造が破壊される。このことは、Hやコークの収率の増加やゼオライト表面積保持率の低下といった点に顕れる。触媒上に累積的に堆積したフィード中の汚染金属が少量(例えば、1〜5ppm)であっても、その触媒が最適化された金属不動態化系を備えていない場合には、FCC運転時のHやコークの収率が高くなりうる。このことは、製油業にとっての主要な懸念事項の一つである。
【0008】
1960年代以降、商業的な流動接触分解触媒の多くは活性成分としてゼオライトを含んでいる。こうした触媒は微小球と呼ばれる小粒子の形態をとっており、これは活性ゼオライト成分と、高アルミナ、シリカ−アルミナ(アルミノケイ酸塩)マトリックスの形態の非ゼオライト成分との双方を含んでいる。活性ゼオライト成分は、2つの一般的技術のうちの一方によってこの触媒の微小球中に組み込まれている。一方の技術においては、ゼオライト成分が結晶化され、次いで別個のステップで微小球中に組み込まれる。第二の技術、すなわちインサイチュ技術においては、まず微小球が形成され、次いでこの微小球自体の中でゼオライト成分が結晶化され、それによってゼオライト系成分と非ゼオライト系成分との双方を含む微小球が得られる。長年にわたり、世界中で使用されている商業的なFCC触媒のかなりの割合が、様々な過酷さで焼成されたカオリンを含む前駆体微小球からインサイチュ合成を行った後に噴霧乾燥により微小球にすることによって作製されてきた。米国特許第4,493,902号明細書(「’902特許」)には、フォージャサイトのY型ゼオライトを含む耐摩損性微小球を含む流動分解触媒の製造が開示されており、ここで、この微小球は、メタカオリンとスピネルとを構成要素とする多孔質微小球中でナトリウムY型ゼオライトを結晶化させることにより形成されたものである。ここに本明細書の一部を構成するものとして該特許明細書の内容全体を援用する。この’902特許における微小球は、約40質量%超、例えば50〜70質量%のY型ゼオライトを含む。こうした触媒は、化学反応性を示す焼成クレー、すなわちメタカオリン(焼成され、それによって脱ヒドロキシル化に伴って強力な吸熱反応を経たカオリン)と、カオリンをメタカオリンに転化させるのに用いられた条件よりも過酷な条件下に焼成されたカオリンクレー、すなわち焼成によって特徴的なカオリン発熱反応を経たカオリンクレー(焼成カオリンのスピネル形態と呼ばれることもある)という2つの異なる形態の混合物を構成要素とする多孔質微小球中で約40%超のナトリウムY型ゼオライトを結晶化させることにより製造されることができる。この特徴的なカオリン発熱反応は、その「特徴的な発熱」を経て焼成されたカオリンと呼ばれることもある。これらの焼成カオリンクレーの2つの形態を含む微小球がアルカリ性のケイ酸ナトリウム溶液中に浸漬される。この溶液は、得ることのできる最大限の量のY型ゼオライトがこの微小球中で結晶化されるまで加熱される。
【0009】
シリカ−アルミナやアルミナのマトリックスを含む流動分解触媒は、「活性マトリックス」を有する触媒と呼ばれる。この種の触媒を、「非活性マトリックス」触媒と呼ばれる未処理のクレーや多量のシリカを含む触媒と比較することができる。接触分解に関連して、選択性の点では明らかに不利であるにもかかわらず、アルミナやシリカ−アルミナを含めることは特定の状況においては有益となっている。例えば、水素化精製/脱金属化された減圧軽油(水素化精製されたVGO)を処理する場合に、クラッキングが非選択的であるという欠点は、クラッキングの利点によって、または(最初は大きすぎてゼオライトの細孔の厳密な範囲内には収まらない)比較的大きなフィード分子の「アップグレーディング」によって、相殺される。アルミナやシリカ−アルミナの表面上で「予備クラッキングされる」と、比較的小さい分子が触媒のゼオライト部分の上でさらにクラッキングされてガソリン材料となることができる。この予備クラッキングというシナリオは残渣油フィードにとって有利であるかもしれないとの期待を持つ人もいるであろうが、残念ながらこれは、例えばニッケルやバナジウムや、そしてそれほどではないにせよ鉄といった金属で重度に汚染されるという特徴を有する。典型的なFCC触媒において見られるように、例えばニッケルのような金属が高表面積のアルミナ上に堆積している場合、これは分散されており、かつ接触反応のための高活性中心として関与する。その結果、汚染コーク(汚染コークとは、汚染金属により触媒される反応により離散的に生成されるコークを指す)が生成される。この付加的なコークは、製油業者の許容範囲を超える。触媒上に炭化水素原料からの金属汚染物質(例えば、Ni、V)が堆積すると、該触媒の活性や選択性の損失も生じうる。こうした金属汚染物質は、標準的な再生(燃焼)によっては除去されず、高レベルの水素や乾性ガスやコークの一因となり、また製造可能なガソリンの量を大幅に減少させる。
【0010】
米国特許第4,192,770号明細書は、接触分解運転時に金属で汚染されるクラッキング触媒の選択性を復元する方法を記載している。新たに作製された触媒かまたは運転中の触媒のいずれかにホウ素を添加することによって、触媒が再生される。このアプローチの問題点の一つに、触媒上に直にホウ素を配置することが挙げられる。これは触媒材料に悪影響を与える場合がある。さらに、このようなアプローチは、すでに汚染された後の触媒を処理することによって、問題が生じた後にその問題に対処するものである。米国特許第4,295,955号明細書は、金属で汚染された触媒を再生することによる同様のアプローチを採用している。また米国特許第4,295,955号明細書は、新鮮な触媒をホウ素で処理することによって、この新鮮な触媒上の、水素の望ましくない収率に寄与する残留金属を減じることができることを実施例において示している。米国特許第5,5151,394号明細書および同5,300,215号明細書は、分子ふるい材料とリン酸ホウ素マトリックスとを含む触媒組成物を開示している。実施例では、マトリックスにリン酸ホウ素を添加しても物理的特性や耐摩損性は変化しないと記載されているが、リン酸ホウ素の添加によって、クラッキング法においてオクタンをより高度に含むガソリンが生成された。
【0011】
前述の特許は、汚染された触媒を処理しかつ触媒材料上の残留金属を減じることに関してホウ素化合物が有用であることを示しているが、動的でかつ変化する条件下にFCC法やFCC装置にホウ素を添加することを可能にする材料が提供されることが望ましい。様々なFCC装置条件や炭化水素フィード、例えば残渣油フィードのような高レベルの遷移金属を含むフィードでコークや水素の収率を低下させることができるFCC法やFCC触媒組成物が提供されることが望ましい。
【0012】
概要
本発明の一態様は、流動接触分解(FCC)条件下に炭化水素フィードをクラッキングする方法を対象とする。様々な実施形態を以下に列挙する。以下に列挙する実施形態は、以下に列挙する通りにしか組み合わせることができないものではなく、本発明の範囲に応じた他の適切な組み合わせで組み合わせることができるものと理解されたい。
【0013】
第1の実施形態において、前記方法は、FCC適合性無機粒子上の1種以上のホウ素酸化物成分をFCC装置内のクラッキング粒子に添加することを含む。
【0014】
第2の実施形態は第1の方法の実施形態の一変形例を対象とし、その際、1種以上のホウ素酸化物成分がFCC装置内で金属を捕捉する。
【0015】
第3の実施形態は第1または第2の方法の実施形態の一変形例を対象とし、その際、1種以上のホウ素酸化物成分が金属と共に錯体を形成する。
【0016】
第4の実施形態は第1〜第3の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、金属がニッケルである。
【0017】
第5の実施形態は第1〜第4の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、FCC適合性無機粒子上の1種以上のホウ素酸化物成分をFCC装置に添加する。
【0018】
第6の実施形態は第1〜第5の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、FCC適合性無機粒子上の1種以上のホウ素酸化物成分を、クラッキング粒子を含む再生装置に添加する。
【0019】
第7の実施形態は第1〜第6の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、FCC適合性無機粒子が、マトリックス材料を含み、かつゼオライト材料を含まない。
【0020】
本発明の第8の実施形態は第1〜第7の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、1種以上のホウ素酸化物成分がクラッキング粒子上に存在する。
【0021】
第9の実施形態は第1〜第8の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、FCC適合性無機粒子が第1の種類の粒子であり、前記第1の種類の粒子は、前記第1の種類の粒子とは異なる組成を有する第2の種類の粒子と共にFCC装置内に配置されている。
【0022】
第10の実施形態は第1〜第9の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、
第1の種類の粒子が1種以上のホウ素酸化物成分と第1のマトリックス成分とを含み、かつ、
第2の種類の粒子が、前記第1の種類の粒子とは異なる組成を有し、第2のマトリックス成分を含み、かつ炭化水素のクラッキングに対して活性であり、
その際、前記第1の種類の粒子と前記第2の種類の粒子とを一緒に混合する。
【0023】
第11の実施形態は第1〜第10の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、第1のマトリックス成分および第2のマトリックス成分が非ゼオライト系材料を含む。
【0024】
第12の実施形態は第1〜第11の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、さらに、第1の種類の粒子および第2の種類の粒子とは組成が異なる付加的な種類の粒子を含む。
【0025】
第13の実施形態は第1〜第12の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、1種以上のホウ素酸化物成分が、FCC適合性無機粒子の0.005質量%〜20質量%の範囲内の量で存在する。
【0026】
第14の実施形態は第1〜第13の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、クラッキング粒子が60〜99質量%の範囲内で存在し、かつFCC適合性無機粒子が1〜40質量%の範囲内で存在する。
【0027】
第15の実施形態は第1〜第14の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、1種以上のホウ素酸化物成分が流動接触分解条件下に移動性である。
【0028】
第16の実施形態は第1〜第15の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、1種以上のホウ素酸化物がニッケルの捕捉において活性である。
【0029】
第17の実施形態は第1〜第16の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、第1のマトリックス材料および第2のマトリックス材料が、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アタパルジャイト、カオリン、非晶質カオリン、メタカオリン、ムライト、スピネル、含水カオリン、クレー、ギブサイト(アルミナ三水和物)、ベーマイト、チタニア、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、マグネシアおよびセピオライトからなる群から選択される。
【0030】
第18の実施形態は第1〜第17の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、第1のマトリックス材料および第2のマトリックス材料がアルミノケイ酸塩材料を含む。
【0031】
第19の実施形態は第1〜第18の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、クラッキング粒子が、マトリックス材料と連晶をなしている分子ふるい成分を含む。
【0032】
第20の実施形態は第1〜第19の方法の実施形態のいずれかの一変形例を対象とし、その際、クラッキング粒子が、マトリックス材料と混合された分子ふるいを含む。
【0033】
詳細な説明
本発明のいくつかの例示的な実施形態の説明に当たり、本発明は以下の説明に記載された構成または方法ステップの詳細に限定されないものと理解されたい。本発明は他の実施形態が可能であり、また様々な方法で実施または実行されることができる。
【0034】
各FCC装置は固有の容量や炭化水素フィードを有している。このことは、異なる量のホウ素を含む様々なホウ素含有触媒材料が必要であることを意味する。例えば、残渣油フィードが他の種類の炭化水素フィードよりも高い金属含分を有しており、この残渣油フィードはより低い金属含分を有する他の炭化水素フィードよりも多くのホウ素を必要とする場合がある。さらに、同一のFCC装置内であっても装置内の触媒は時間の経過と共に劣化し、特定の時点で特定のプロセスの金属含分に対処するために装置内のホウ素の量を増加または減少させることが望ましい場合がある。また、炭化水素フィードの品質も時間の経過と共に変化することがあり、いくつかの炭化水素フィードにおいては異なる金属含分を処理するために異なるホウ素含分が必要とされる。さらに、装置に添加される材料にホウ素が施与される際にホウ素がクラッキング粒子上のゼオライトと直に接して配置されることのないような方法が提供されることが望ましい。ホウ素は、ゼオライトに対して、例えば脱アルミニウムおよび/または結晶性の部分的な損失を引き起こすといった悪影響を及ぼしうる。様々な条件下での金属含分に対処する様々なFCC触媒組成物と共に使用できるホウ素含有添加剤が提供されることが望ましい。特に次のような方法が提供されることが望ましく、すなわち、ホウ素を含有する固体で不活性でかつFCC適合性の無機粒子を利用することによって様々なFCCフィードに様々なホウ素含分が供給され、さらにクラッキング粒子へのホウ素材料の直接的な施与が回避される方法が提供されることが望ましい。
【0035】
本明細書で使用する場合、「クラッキング粒子」とは、より選択的な炭化水素のクラッキング反応を達成することによって例えばガソリンやプロピレンやLPGといった所望の生成物をより多く製造するために慣例的に存在してる活性クラッキング成分を含む粒子を指す。通常は、より選択的な炭化水素のクラッキング反応を達成するためのこの活性クラッキング成分は、例えばゼオライトのような分子ふるいを含む。活性クラッキング成分が例えばシリカやアルミナといったマトリックス材料やクレーと組み合わされることによって、例えば耐摩損性等の所望の機械的特性がもたらされる。マトリックス材料はある程度のクラッキング活性を有してはいるものの、クラッキングにおいてはあまり選択的でないものと理解されたい。本明細書で使用する場合、「FCC適合性無機粒子」とは、例えばガソリンやプロピレンやLPGといったより価値の高い生成物の製造においてあまり選択的でない粒子である。粒子は微小球の形態であることができる。
【0036】
1つ以上の実施形態によれば、FCC適合性無機粒子とクラッキング粒子とが混合されることによって、FCC装置内で所望の量の1種以上のホウ素酸化物がもたらされる。従って、FCC適合性無機粒子はFCC触媒組成物の1質量%〜40質量%の範囲内で存在することができる。従って、FCC触媒組成物の60〜99質量%のクラッキング粒子が存在する。FCC触媒組成物の総質量を基準とするFCC適合性無機粒子の量の例としては、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%および40%が挙げられる。FCC触媒組成物の総質量を基準とするクラッキング粒子の量の例としては、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、85%、80%、75%、70%、65%および60%が挙げられる。1つ以上の実施形態において、FCC適合性無機粒子は、該FCC適合性無機粒子の0.005質量%〜20質量%の範囲内の1種以上のホウ素酸化物を含む。クラッキング粒子に添加された際に、FCC触媒組成物中に存在するホウ素の量は、FCC装置内のFCC適合性無機粒子およびクラッキング粒子の総質量を基準として酸化物ベースで0.005〜8%の範囲内である。
【0037】
本発明の第1の態様は、流動接触分解(FCC)条件下に炭化水素フィードをクラッキングする方法に関する。前記方法は、FCC適合性無機粒子上の1種以上のホウ素酸化物成分をFCC装置内のクラッキング粒子に添加することを含む。一実施形態において、FCC適合性無機粒子は、マトリックス材料と非ゼオライト材料とを構成要素とする固体粒子である。1種以上のホウ素酸化物成分を、FCC装置内の、流動接触分解法の選択性を妨害する1種以上の金属と接触させる。1つ以上の実施形態において、1種以上のホウ素酸化物成分は流動接触分解条件下に移動性である。本明細書中で使用する場合、「移動性」とは、FCC装置内の複数の種類の粒子の内部および間でホウ素が移動する能力を指す。特定の実施形態によれば、1種以上のホウ素酸化物成分は1種以上の金属と共に錯体を形成する。本明細書中で使用する場合、「錯体」とは、1種以上のホウ素酸化物成分が、ファンデルワールス力または化学結合のいずれかによる何らかの種類の化学的相互作用によって1種以上の金属と結びつくことを意味する。従って、本明細書中で使用する場合、1種以上のホウ素成分は金属と共に化合物または化学組成物を形成することができるが、本発明は金属と結合する1種以上のホウ素成分に限定されるべきではない。1種以上のホウ素成分は例えばニッケルのような金属と次のように相互作用することが望ましく、すなわち、ニッケルが所望の反応に悪影響を及ぼさず、かつ選択性の向上とコークおよび水素の形成の低減とを伴う触媒プロセスが提供されるように相互作用することが望ましい。従って、「錯体」の形成によって1種以上のホウ素酸化物は金属の捕捉において活性である。これは、金属の捕捉において不活性であるかまたは活性を示さないホウ素成分とは対照的である。
【0038】
従って本明細書に記載の方法によれば、1種以上のホウ素酸化物成分がFCC装置に添加される。装置への添加は様々な形態であってよい。さらに本明細書に記載されるように、例えば1種以上のホウ素酸化物成分は粒子上に含まれている。従って、1種以上のホウ素酸化物成分は粒子形態の流動接触分解組成物の一部として含まれることができ、その際、ホウ素酸化物はこの粒子上に含まれている。1種以上のホウ素酸化物成分は、さらに以下に記載されるように、粒子形成時に同時に形成されてもよいし、粒子に添加されてもよい。
【0039】
本発明の他の態様は、金属、特にニッケルの不動態化のために1種以上のホウ素酸化物成分を使用するFCC触媒組成物を提供する。流動接触分解触媒中に捕捉材料/不動態化材料としてホウ素酸化物が存在することによって、重質炭化水素フィード、特に遷移金属で汚染された残渣油フィードを処理する際の水素およびコークの収率が低下する。不動態化とは、(ニッケルなどの)有害金属の活性がFCC法の選択性に悪影響を与えるのを低減または防ぐホウ素成分の能力を指す。本明細書で提供されるのは、FCC触媒、FCC触媒の製造方法、および炭化水素フィードをクラッキングする方法である。
【0040】
本発明の一態様は、炭化水素をクラッキングするための流動接触分解(FCC)触媒組成物、FCC適合性無機粒子と1種以上のホウ素酸化物成分とを含む前記FCC触媒組成物、炭化水素のクラッキング時のコークおよび水素の収率を低下させるのに有効な前記FCC触媒組成物に関する。水素収率を低下させることは、湿式ガス圧縮機に制約を受ける方法において有益である。1つ以上の実施形態において、FCC適合性無機粒子はマトリックス材料または非ゼオライト系成分を含むことができる。FCC触媒組成物は典型的には粒子の形態であり、より具体的には以下にさらに記載されるように微小球として存在する。
【0041】
以下でさらに論じるように、非ゼオライト系成分はマトリックス材料と呼ばれることもある。本発明の一実施形態において、FCC触媒組成物は、実質的にマトリックス材料と1種以上のホウ素酸化物とからなる粒子を含む。この実質的にマトリックス材料と1種以上のホウ素酸化物とからなる組成物は、第1の種類の粒子を提供する。一実施形態において、この第1の種類の粒子を既存のFCC触媒組成物と一緒に使用することにより、クラッキング処理時のコークおよび水素の収率を低下させることができる。例えば、第1の種類の粒子を第2の種類の粒子と共にFCC装置に導入することができ、ここで、この第2の種類の粒子は非ゼオライト系成分とゼオライト成分とを含む。第2の種類の粒子は、任意に、遷移アルミナ成分および希土類成分のうちの1つ以上を含むことができる。1つ以上の実施形態によれば、付加的な種類の粒子を第1の種類の粒子および第2の種類の粒子と混合することができる。一実施形態では、付加的な種類の粒子は第1の種類の粒子および第2の種類の粒子とは異なる組成を有する。付加的な種類の粒子は、付加的な機能やクラッキング活性を提供することができる。例えば、付加的な種類の粒子はV捕捉能力を有する粒子であることができる。
【0042】
第1の種類の粒子および第2の種類の粒子を準備する代わりに、非ゼオライト系成分とゼオライト成分と任意に希土類成分および/または遷移アルミナ成分とを含む粒子を含むFCC触媒組成物において、1種以上のホウ素酸化物を使用することができる。この代替的なアプローチでは、ホウ素と活性FCC触媒とが一体型の粒子に組み込まれる。本発明の実施形態によれば、ゼオライト成分が組成物中に存在する場合、このゼオライト成分は触媒組成物を基準として20質量%〜95質量%の範囲内で存在する。
【0043】
従って本発明の実施形態は、非ゼオライト系成分と1種以上のホウ素酸化物成分とを含む粒子を含むFCC触媒組成物を提供する。2つの別個の種類の粒子を提供することによって、ホウ素酸化物含有粒子を必要に応じて装置内のFCC触媒組成物に添加することができ、それによって高い金属含分を有するフィードが不動態化される。
【0044】
従って、本発明の実施形態はホウ素酸化物で修飾された粒子を用いたFCC触媒組成物を提供し、ここで、このホウ素酸化物で修飾された粒子は、1つ以上の実施形態によれば、下記の通り、ムライトと含水カオリンと適したバインダー、例えばケイ酸塩バインダーとの混合物を噴霧乾燥させ、その後にこの粒子を1種以上のホウ素酸化物成分で修飾することにより作製することができる。1つ以上の実施形態において、ホウ素を噴霧乾燥の間に添加することができる。触媒組成物がホウ素を含む単一の種類の粒子を含むという実施形態においては、この粒子は遷移アルミナおよびゼオライトをも含むことができる。ゼオライトは噴霧乾燥時に組成物に別個の粒子として添加されてもよく、またゼオライトはゼオライトのインサイチュでの結晶化により粒子組成物中で連晶をなしていてもよい。粒子はさらに希土類成分を含むことができる。従って本発明の一実施形態において、非ゼオライト系成分、ゼオライト、遷移アルミナ、希土類成分および1種以上のホウ素酸化物成分を含む粒子が提供される。
【0045】
他の一実施形態においては、上記の通り、第1の種類の微小球が非ゼオライト系成分および1種以上のホウ素酸化物成分を含み、かつ第2の種類の微小球が非ゼオライト系成分、ゼオライト並びに任意に遷移アルミナおよび希土類成分のうちの1つ以上を含む。
【0046】
1つ以上の実施形態によれば、汚染金属が触媒選択性を妨害することを移動性のホウ素酸化物種によって防ぎ、コークおよび水素の収率を低下させ、かつゼオライトの安定性に影響を与えないという、より高い性能を示す触媒組成物が提供される。
【0047】
本開示において使用する用語に対して、以下の定義が提供される。
【0048】
本明細書で使用する場合、「触媒」または「触媒組成物」または「触媒材料」という用語は、反応を促進する物質を指す。
【0049】
本明細書で使用される場合、「流動接触分解」または「FCC」という用語は、原油の高沸点の高分子炭化水素留分をより価値の高いガソリン、オレフィンガスおよび他の生成物へと転化させるという、製油所での転化プロセスの一つを指す。
【0050】
本明細書で使用する場合、「フィード」または「原料」という用語は、高沸点および高分子量を有する原油の部分を指す。FCC法では、炭化水素原料がFCC装置のライザー部に注入され、このライザー部において、触媒再生装置からこのライザーリアクターへと循環された高温の触媒との接触時にこの原料がクラッキングされて、より軽質でより価値の高い生成物となる。
【0051】
「クラッキング条件」または「FCC条件」とは、典型的なFCC法の条件を指す。典型的なFCC法は、600℃〜850℃の触媒再生温度で450℃〜650℃の反応温度で行われる。再生された高温の触媒が、ライザーリアクターの底部で炭化水素フィードに添加される。固体触媒粒子の流動化をリフトガスにより促進させることができる。触媒が蒸発し、これによってフィードが所望のクラッキング温度へと過熱される。触媒およびフィードが上向きに流れる間に該フィードがクラッキングされ、かつコークが該触媒上に析出する。コークが析出した触媒およびクラッキング生成物はライザーを出て、反応容器の上部の固−気分離系、例えば一連のサイクロンに入る。クラッキング生成物は、例えばガス、ガソリン、軽油およびヘビーサイクルガスオイルといった一連の生成物に分留される。いくつかのより重質の炭化水素をリアクターに再循環させることができる。
【0052】
本明細書で使用する場合、「残渣油」という用語は次のような原油の部分を指し、すなわち、高沸点および高分子量を有し、かつ典型的には例えばNi、V、Fe、Na、Ca等といった汚染金属を含む原油の部分を指す。汚染金属、特にNiおよびVは、触媒の活性や性能に悪影響を及ぼす。ある実施形態において、残渣油フィード操作中にNiおよびVの金属のうちの1つが触媒上に蓄積したら、FCC触媒組成物はクラッキング時にニッケルおよびバナジウムの悪影響を低減させるのに有効である。
【0053】
本明細書で使用する場合、「1種以上のホウ素酸化物成分」という用語は、複数種のホウ素酸化物の存在を指す。例えば、ホウ素酸化物成分には、三角形の環境(例えば、BO)におけるホウ素酸化物や四面体酸素環境(例えば、BO)におけるホウ素酸化物が含まれうる。Niおよび他の金属を含むFCC触媒との反応後のホウ素酸化物種の化学組成の相違は、ホウ素核磁気共鳴(11B NMR)解析におけるピークの変化により観察することができる。ホウ素酸化物は、例えばNiやVといった遷移金属と相互作用することができ、かつ金属ホウ酸塩(例えばホウ酸Ni)錯体の形成によりこの遷移金属の脱水素活性を阻害し、それによって炭化水素のクラッキング時のコークおよび水素の収率の低下がもたらされるものと考えられる。しかし、ホウ素酸化物は移動性であるため、捕捉機構は遷移アルミナのものとは異なる。
【0054】
本明細書で使用する場合、「粒子」は、噴霧乾燥によって得られる微小球の形態であることができる。当業者によって理解されるように、微小球は必ずしも形状が完全に球状であるとは限らない。
【0055】
本明細書で使用する場合、「非ゼオライト系成分」という語句は、ゼオライトでも分子ふるいでもないFCC触媒の成分を指す。本明細書で使用される場合、非ゼオライト系成分またはマトリックス材料には、バインダーおよび充填剤が含まれうる。「非ゼオライト系成分」という語句は「マトリックス材料」という語句と区別なく用いられることがある。1つ以上の実施形態によれば、「非ゼオライト系成分」は、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アタパルジャイト、カオリン、非晶質カオリン、メタカオリン、ムライト、スピネル、含水カオリン、クレー、ギブサイト(アルミナ三水和物)、ベーマイト、チタニア、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、マグネシアおよびセピオライトからなる群から選択することができる。1つ以上の実施形態によれば、非ゼオライト系成分はアルミノケイ酸塩であることができる。
【0056】
本明細書で使用する場合、「分子ふるい」という用語は、総じて四面体型の部位を含む酸素イオンの大規模な三次元網目構造に基づく骨格を含む材料を指す。本明細書で使用する場合、「ゼオライト」という用語は次のような分子ふるいを指し、すなわち、酸素イオンの大規模な三次元網目構造に基づく骨格を有する結晶質アルミノケイ酸塩であって、かつ実質的に均一な細孔分布を有する分子ふるいを指す。
【0057】
本明細書で使用する場合、「インサイチュで結晶化された」という用語は、例えば米国特許第4,493,902号明細書および同6,656,347号明細書に記載の通り、分子ふるいまたはゼオライトを微小球の直上/中で成長させるかまたは連晶にしてマトリックスまたは非ゼオライト系材料と密接に結びつける方法を指す。「遷移アルミナ」とは、スペクトルの一方の端部におけるギブサイト、バイヤライト、ベーマイト、擬ベーマイトおよびノルドストランダイトと、スペクトルの他方の端部におけるα−アルミナまたはコランダムとの熱力学的に安定な相の間にある中間体である任意のアルミナと定義される。このような遷移アルミナは、準安定相と見なすことができる。変態シーケンスのスキームは、教本:K.Wefers and C.Misra著,Oxides and Hydroxides of Aluminum;Alcoa Technical Paper No.19,revised;copyright Aluminum Company of America Laboratories,1987に記載されている。
【0058】
ゼオライト成分を含むFCC触媒組成物は、触媒活性結晶化アルミノケイ酸塩材料を有し、この材料は例えば、非ゼオライト系物質を含む微小球の上または中で結晶化された大細孔のゼオライトである。大細孔のゼオライトクラッキング触媒は、有効直径が約7Å超の細孔開口部を有する。従来の大細孔の分子ふるいとしては、X型ゼオライト;REX型;Y型ゼオライト;超安定化Y型(USY型);希土類交換Y型(REY型);希土類交換USY型(REUSY型);脱アルミニウム化Y型(DeAl Y型);超疎水性Y型(UHPY型);および/または脱アルミニウム化ケイ素富化ゼオライト、例えばLZ−210が挙げられる。1つ以上の実施形態によれば、FCC触媒は、Y型ゼオライト、ZSM−20、ZSM−5、ベータ型ゼオライト、L型ゼオライト;および天然起源のゼオライト、例えばフォージャサイト、モルデナイト等から選択される結晶質アルミノケイ酸塩材料と非ゼオライト系成分とを含むクラッキング粒子を含む。これらの材料を、例えば焼成や希土類とのイオン交換といった従来の処理に供することによって、安定性を高めることができる。
【0059】
含水カオリンクレーおよび/またはメタカオリン、分散性ベーマイト、任意にスピネルおよび/またはムライト、およびケイ酸ナトリウムまたはシリカゾルバインダーを含む粒子(例えば、微小球)は、米国特許第6,716,338号明細書に記載の技術に従って作製することができ、ここに本明細書の一部を構成するものとして該特許明細書の内容を援用する。例えば、前記触媒は、化学反応性を示す焼成クレーの2つの異なる形態、すなわちメタカオリンとスピネルとの混合物を構成要素とする多孔質微小球中で所望の量のナトリウムY型ゼオライトを結晶化させることによって作製することができる。焼成カオリンクレーの2つの形態を含む微小球をアルカリ性ケイ酸ナトリウム溶液中に浸漬させ、この溶液を、得ることのできる最大限の量のY型ゼオライトがこの微小球中で結晶化されるまで加熱する。本発明の実施形態によるゼオライトの量は、FCC触媒組成物の質量を基準として、20質量%〜95質量%、または30質量%〜60質量%、または30質量%〜45質量%の範囲内である。
【0060】
ホウ素酸化物含有粒子の作製
上記の通り、第1の種類の粒子および第2の種類の粒子を利用したFCC触媒組成物が提供されうる。また、ホウ素が単一の種類の粒子(一体型の粒子 −1種以上のホウ素酸化物成分、非ゼオライト系成分、ゼオライト成分および任意に遷移アルミナおよび希土類成分のうちの1つ以上−)に組み込まれることができるFCC触媒組成物も提供されうる。単一の種類の粒子を利用したFCC触媒組成物においては、ホウ素を様々な様式で組み込むことができる。1つ以上の実施形態において、ホウ素は一体型の粒子上に配置されており、その結果、ホウ素は粒子上のゼオライトとは分離されている。
【0061】
例えば、マトリックスにホウ素を含浸させることによってホウ素酸化物含有粒子を作製することができる。本明細書で使用する場合、「含浸させる」という用語は、例えば非ゼオライト系成分やゼオライトといった材料の細孔中にホウ素含有溶液を導入することを意味する。1つ以上の実施形態において、第2の種類の粒子の製造において、以下にさらに記載される通り、米国特許第5,559,067号明細書および同6,716,338号明細書に記載の方法を利用して粒子が作製される。ホウ素酸化物は、粒子製造時に前記方法の様々な段階で組み込まれることができる。例えば、ホウ素酸化物は、粒子形成時に、例えば噴霧乾燥時に組み込まれてもよいし、粒子形成後に、例えば焼成時に組み込まれてもよいし、粒子形成後のゼオライトのイオン交換時に組み込まれてもよい。1種以上のホウ素酸化物成分は、FCC触媒組成物の質量を基準として酸化物ベースで0.005質量%〜20質量%の範囲内の量で存在しており、これには例えば、FCC触媒組成物の質量を基準として酸化物ベースで0.005質量%、0.001質量%、0.1質量%、0.2質量%、0.3質量%、0.4質量%、0.5質量%、0.6質量%、0.7質量%、0.8質量%、0.9質量%、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%、2.5質量%、3.0質量%、3.5質量%、4.0質量%、4.5質量%、5.0質量%、5.5質量%、6.0質量%、6.5質量%、7.0質量%、8質量%、9質量%、10質量%、15質量%および20質量%の量が含まれる。
【0062】
1つ以上の実施形態において、1種以上のホウ素酸化物成分がFCC適合性無機粒子と混合されかつ噴霧乾燥されることによって、粒子が形成される。他の実施形態において、1種以上のホウ素酸化物成分がFCC適合性無機粒子上に負荷される。この負荷は、例えば含浸やスプレーコーティング等の様々な技術により行われてよい。
【0063】
さらなる実施形態において、1種以上のホウ素酸化物成分は、FCC適合性無機粒子の焼成時に該FCC適合性無機粒子に添加される。噴霧乾燥された粒子を通常の様式で形成し、かつ1種以上のホウ素酸化物成分を焼成時に添加することができる。
【0064】
第1の種類の粒子と第2の種類の粒子とを含む触媒組成物の作製
上述の通り、実質的に1種以上のホウ素酸化物およびマトリックス材料からなる第1の種類の粒子と、マトリックス材料、ゼオライト、遷移アルミナおよび希土類成分を含む第2の種類の粒子とを利用して、触媒組成物を提供することができる。マトリックス成分(例えば、メタカオリン、スピネル、カオリン、ムライト等)をホウ素酸化物と混合することにより、ホウ素酸化物を含む第1の種類の粒子を作製することができる。微小球を焼成することによって、含水カリオン成分がメタカオリンへと転化される。ゾルバインダーが例えば硫酸ナトリウムのようなナトリウムの水溶性供給源を含む場合には、噴霧乾燥された微小球を洗浄した後に焼成することによってナトリウム含分を低下させることができる。その後、1種以上のホウ素酸化物成分が添加され、これは、FCC触媒組成物の質量を基準として酸化物ベースで0.005質量%〜20質量%の範囲内の量で存在し、これには例えばFCC触媒組成物の質量を基準として酸化物ベースで0.1質量%、0.2質量%、0.3質量%、0.4質量%、0.5質量%、0.6質量%、0.7質量%、0.8質量%、0.9質量%、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%、2.5質量%、3.0質量%、3.5質量%、4.0質量%、4.5質量%、5.0質量%、5.5質量%、6.0質量%、6.5質量%、7.0質量%、8.0質量%、9.0質量%、10質量%、15質量%および20質量%の量が含まれる。
【0065】
第2の種類の粒子の作製
1つ以上の実施形態によれば、米国特許第5,559,067号明細書(’067特許)および同6,716,338号明細書(’338特許)において確立された方法によるインサイチュ技術により、第2の種類の粒子を作製することができる。ここに本明細書の一部を構成するものとして該特許明細書の内容全体を援用する。総じて、まず微小球が形成され、次いでこの微小球自体の中/上でゼオライト系成分が結晶化されることによって、ゼオライト系成分と非ゼオライト系成分との双方を含む微小球がもたらされる。
【0066】
微粒状の含水カオリンと、その特徴的な発熱を経て焼成されたカオリンと、バインダーとの水性スラリーが調製される。このスラリーは、任意にベーマイトを含むことができる。特定の実施形態において、含水カオリンと焼成カオリンとバインダーとが1つの槽内で予備混合され、かつ噴霧乾燥機へと供給される。存在する場合、例えばギ酸で解膠された水性アルミナスラリーが、この混合物全てが噴霧乾燥機に入りきる直前に別個の導管から導入される。他の混合および注入のプロトコルも有用でありうる。例えば、ポリマー分散アルミナ、例えばFlosperse(登録商標)で分散されたものを、本方法において使用することができる。最終スラリーの固形分は、約30〜70質量%である。その後、この水性スラリーを噴霧乾燥させることにより、水和カオリンと、その特徴的な発熱を少なくとも実質的に経て焼成されたカオリン(スピネル、またはムライト、またはスピネルとムライトの双方)と任意にベーマイトとのシリカ結合混合物を含む微小球が得られる。
【0067】
’067特許および’338特許に記載されている通り、微小球を形成するためのこのスラリーの反応性カオリンは、水和カオリンから形成されてもよいし、含水カオリンを焼成したもの(メタカオリン)から形成されてもよいし、それらの混合物から形成されてもよい。
【0068】
スピネル成分として、発熱を経て焼成された粉末カオリンの商業的供給源を使用することができる。水和カオリンクレーは、カオリンを、’338特許に記載の条件下にその特徴的な発熱を少なくとも実質的に完全に経て焼成することによって、この状態へと転化される。(発熱は、従来の示差熱分析、DTAにより検出可能である)。焼成の完了後、焼成クレーを粉砕して微粒子にすることができ、その後でスラリーに導入し、これを噴霧乾燥機に供給する。噴霧乾燥された生成物を、再度粉砕する。典型的なスピネル型カオリンの表面積(BET)は低く、例えば5〜10m/gである。しかし、この材料が結晶化に使用されるような苛性の環境に置かれた場合には、シリカが浸出して、例えば100〜200m/g(BET)という高い表面積を有するアルミナリッチな残留物が残る。
【0069】
マトリックス成分としては、ムライトも使用可能である。ムライトは、約2000°F超の温度でクレーを焼成することにより作製される。例えば、M93ムライトは、スピネル成分の製造に使用された同一のカオリンクレーから作製されることができる。ムライトは、他のカオリンクレーから作製されることもできる。ムライトは、カイヤナイトクレーから作製されることもできる。カイヤナイトクレーを3000°Fの高温に加熱することにより、焼成生成物において、カオリンクレーから得られるものよりも、より結晶性が高くかつより純度の高いムライトが得られる。
【0070】
1つ以上の実施形態によれば、微小球を作製するために使用されるアルミナは、高分散性ベーマイトである。アルミナ水和物の分散性とは、例えばpH約3.5未満のギ酸等の酸性媒体にアルミナが効果的に分散するという特性である。こうした酸処理は、アルミナの解膠として知られている。高分散とは、アルミナの90%以上が約1ミクロン未満の粒子に分散することを言う。この分散アルミナ溶液をカオリンおよびバインダーと共に噴霧乾燥すると、得られる微小球は、該微小球全体にわたって均一に分散されたアルミナを含む。
【0071】
噴霧乾燥後、この微小球は、該微小球の水和クレー成分をメタカオリンへ転化させるのに十分でかつ該微小球のスピネル成分は実質的に変化せずにそのままとなるような温度および時間で(例えば、マッフル炉中で約1500°F〜1550°Fのチャンバ温度で2〜4時間)洗浄および焼成される。特定の実施形態において、焼成された微小球は、メタカオリン約30〜70質量%、スピネルおよび/またはムライト約10〜50質量%、および遷移相アルミナ0.5〜約35質量%を含む。1つ以上の実施形態において、遷移相アルミナは、イータ相、カイ相、ガンマ相、デルタ相またはシータ相のうち1つ以上を含む。特定の実施形態において、結晶質ベーマイト(および遷移アルミナ)の表面積(BET、窒素)は、150m/g未満であり、特に125m/g未満であり、より具体的には100m/g未満であり、例えば30〜80m/gである。
【0072】
1つ以上の実施態様において、触媒は、約1質量%〜35質量%、または5質量%〜25質量%、または10質量%〜20質量%の遷移アルミナ成分(例えば、ベーマイト)を含む。微小球がゼオライトを含む場合には、前駆体微小球(これは、非ゼオライト系マトリックス成分および遷移アルミナの焼成により得られる微小球である)を、実質的に米国特許5,395,809号明細書に記載の通り、ゼオライトシードおよびアルカリ性ケイ酸ナトリウム溶液と反応させる。ここに本明細書の一部を構成するものとして該特許明細書の教示を相互参照により援用する。この微小球を、所望のゼオライト含分(例えば、20〜95質量%、または30〜60質量%、または30〜45質量%)まで結晶化させ、ろ過し、洗浄し、アンモニウム交換を行い、必要に応じて希土類カチオンと交換を行い、焼成し、アンモニウムイオンと2回目の交換を行い、かつ必要に応じて2回目の焼成を行う。バインダー用のケイ酸塩は、NaOに対するSiOの比が1.5〜3.5であり、より具体的には2.00〜3.22であるケイ酸ナトリウムによって提供されうる。
【0073】
特定の実施形態において、結晶化されたアルミノケイ酸塩材料は、結晶化されたナトリウムフォージャサイト型ゼオライトを基準として表すと、約20〜約95質量%のY型ゼオライトを含み、例えば、30〜60質量%、または30〜45質量%のY型ゼオライトを含む。1つ以上の実施形態において、結晶質アルミノケイ酸塩のY型ゼオライト成分は、そのナトリウム型で、24.64〜24.73Åの間の結晶単位格子サイズ範囲を有しており、これは、Y型ゼオライトのSiO/Alのモル比が約4.1〜5.2であることに相当する。
【0074】
シード添加されたケイ酸ナトリウム溶液中での反応による結晶化の後に、微小球は、結晶質Y型ゼオライトをナトリウム型で含む。微小球中のナトリウムカチオンは、より好ましいカチオンで置換されている。このことは、微小球と、アンモニウムカチオン、イットリウムカチオン、希土類カチオンまたはこれらの組み合わせを含む溶液との接触により達成することができる。1つ以上の実施形態において、1つ以上のイオン交換ステップが行われることによって、得られる触媒は、約0.7質量%未満、より具体的には約0.5質量%未満、さらに具体的には約0.4質量%未満のNaOを含む。イオン交換後、微小球を乾燥させる。希土類の水準は、0.1〜12質量%、具体的には1〜5質量%、より具体的には2〜3質量%の範囲内であることが企図される。より具体的には、希土類化合物の例は、ランタン、セリウム、プラセオジムおよびネオジムの硝酸塩である。典型的には、希土類酸化物として触媒に添加される希土類の量は、約1〜5質量%、典型的には2〜3質量%の希土類酸化物(REO)の範囲である。総じて、含浸溶液の温度は、pH約2〜5で約70〜200°Fの範囲である。
【0075】
希土類交換に続いて、微小球の形態の触媒組成物を乾燥させ、次いで800〜1200°Fの温度で焼成する。この焼成の条件は、ゼオライト結晶の単位格子サイズが大幅に低減されることのないような条件である。典型的には、希土類交換後の乾燥ステップによって、触媒内に含まれる水の大部分が除去され、かつ焼成はスチームを添加せずに行われる。希土類酸化物含有触媒は、焼成の後に、ここでさらに、典型的にはアンモニウムイオンにより酸交換され、それによって再びナトリウム含分が約0.5質量%未満のNaOに低下される。ナトリウム含分を確実に約0.5質量%未満のNaOに低下させるため、アンモニウム交換を繰り返すことができる。典型的には、ナトリウム含分は、NaOとして0.2質量%未満に低下される。
【0076】
本発明の触媒をさらなるVトラップと組み合わせて使用することもできる。従って、1つ以上の実施形態において、触媒はさらにV−トラップを含む。V−トラップは1つ以上の従来のV−トラップから選択されることができ、これらに限定されるものではないが、例えばMgO/CaOが挙げられる。理論に拘束されることを意図するものではないが、MgO/CaOは酸/塩基反応によりVと相互作用し、それによりバナジン酸塩が生成されるものと考えられる。
【0077】
本発明の他の態様は、流動接触分解条件下に炭化水素フィードをクラッキングする方法を対象とする。1つ以上の実施形態において、前記方法は、炭化水素フィードを、1つ以上の実施形態のホウ素酸化物含有FCC触媒組成物と接触させることを含む。1つ以上の実施形態において、炭化水素フィードは残渣油フィードである。1つ以上の実施形態において、残渣油フィード操作中にNiおよびVの金属のうちの少なくとも1つが触媒上に蓄積したら、FCC触媒組成物はクラッキング時にニッケルおよびバナジウムの悪影響を低減させるのに有効であり、このようにしてコークおよび水素の収率が低下する。
【0078】
本発明の触媒を利用したFCC装置の運転において有用な条件は、当該技術分野で公知であり、また本発明の触媒を使用する際に熟慮される。こうした条件は多数の刊行物に記載されており、これには例えばCatal.Rev.−Sci.Eng.,18(1),1−150(1978)が挙げられ、ここに本明細書の一部を構成するものとして該刊行物の内容全体を援用する。残渣油および残渣油含有フィードのクラッキングにおいて、1つ以上の実施形態の触媒が特に有用である。
【0079】
本発明のもう1つの態様は、FCC触媒組成物の製造方法を対象とする。1つ以上の実施形態において、前記方法は、非ゼオライト系成分と1種以上のホウ素酸化物とを含む粒子を形成することを含む。1種以上のホウ素酸化物を粒子に含浸させることができる。また、噴霧乾燥時に、または例えばコーティング等の他の技術を用いて、ホウ素を組み込むことができる。
【0080】
1つ以上の実施形態において、1種以上のホウ素酸化物が非ゼオライト系成分と混合されかつ噴霧乾燥されることによって、粒子が形成される。他の実施形態において、1種以上のホウ素酸化物が非ゼオライト系粒子上に負荷される。さらなる実施形態において、非ゼオライト系粒子の焼成時に該非ゼオライト系粒子に1種以上のホウ素酸化物が添加される。
【0081】
ある実施形態において、非ゼオライト系材料には、メタカオリン、カオリン、ムライト、スピネルおよびそれらの混合物が含まれる。米国特許第4,493,902号明細書および同6,656,347号明細書に記載の通り、粒子はさらに、遷移アルミナ、希土類成分、該粒子とインサイチュで連晶をなしている分子ふるいまたはゼオライト成分を含むことができる。1つ以上の実施形態において、イオン交換時に、連晶をなしている分子ふるいまたはゼオライトを含む粒子に1種以上のホウ素酸化物が添加される。1つ以上の実施形態によれば、分子ふるいまたはゼオライトおよびマトリックスは、分子ふるいとマトリックス材料とを混合するための慣用の技術を用いて作製されることもできる。例えば、ゼオライトまたは分子ふるい成分を一緒にドライブレンドまたは湿式ボールミル処理し、その後に適したマトリックスに添加してさらに混合することができる。このマトリックスとゼオライトとの混合物に対して押出成形、球状成形、油浴中への滴下等を行うことにより、比較的大きな粒子を形成することができる。流動層型接触分解装置において使用するためにこのマトリックス−ゼオライト混合物を噴霧乾燥させることができるが、流動可能な触媒粒子を製造するために、例えば比較的大きなサイズの押出物や球状物の破砕や粉砕といった他のいかなる手段をも用いることができる。ここで、本発明を以下の実施例を参照して説明する。
【0082】
実施例
実施例1−比較例
カウレス(Cowles)ミキサーを用いて混合しながら、固形分を49%とした焼成カオリン(ムライト)のスラリーを、固形分59%の含水カオリンに添加した。この混合物をスクリーンに通し、噴霧乾燥機の供給槽に移した。このクレースラリーを、アトマイザーに入る直前に列をなして注入されたケイ酸ナトリウムと共に噴霧乾燥した。ケイ酸ナトリウム(モル比3.22)を、目標となるSiOとして5質量%の計量比で使用した。微小球のための目標粒径は、80ミクロンであった。この微小球を処理することにより、インサイチュ結晶化法を用いてY型ゼオライト60〜65%を成長させた。結晶化されたNaY微小球の試料(250g)を硝酸アンモニウムを用いてイオン交換することにより、2.0%のNaOが達成された。その後、希土類(ランタン)を添加して1質量%のREOとした。この希土類交換された試料を1000°Fで2時間焼成することによって、触媒を安定化させ、かつゼオライトナトリウムの除去を促進した。焼成後、一連の硝酸アンモニウムイオン交換を行うことにより、NaOを<0.2質量%にした。最後に、ナトリウムが減少した状態で第2の焼成を1100°Fで2時間行うことによって、触媒をさらに安定化させ、かつ単位格子サイズを減少させた。この触媒組成物にさらに、3000ppmのニッケルを含浸させ、次いで1350〜1500°Fでスチームの存在下にエージング処理した。この触媒組成物の触媒の活性および選択性を、Advanced Cracking Evaluation(ACE)リアクターおよびプロトコルを用いて測定する。
【0083】
実施例2
実施例1に記載の触媒組成物を作製したが、但し、触媒が酸化物ベースでホウ素成分1.0質量%を含むまでホウ素酸化物を添加した。
【0084】
結果
【表1】
【0085】
これらの結果は、ホウ素酸化物がFCC触媒組成物に組み込まれた場合に、炭化水素フィード、特に例えばニッケルのような遷移金属で汚染された残渣油フィードを処理する際の水素収率が低下し、かつガソリン収率が向上することを示している。
【0086】
実施例3
カウレスミキサーを用いて混合しながら、固形分を49%とした焼成カオリン(ムライト)(36.6kg)のスラリーを、固形分59%の含水カオリン(25.9kg)に添加した。次に、混合下のこのクレースラリーに、固形分56%のベーマイトアルミナ(14kg)のスラリーをゆっくりと添加し、5分超にわたって混合した。この混合物をスクリーンに通し、噴霧乾燥機の供給槽に移した。このクレー/ベーマイトスラリーを、アトマイザーに入る直前に列をなして注入されたケイ酸ナトリウムと共に噴霧乾燥した。ケイ酸ナトリウム(20.2kg、モル比3.22)を、1.14リットル/分 スラリー:0.38リットル/分 ケイ酸塩の計量比で使用した。微小球のための目標粒径は、80ミクロンであった。この形成された微小球を30分間スラリー化し、かつ硫酸を用いて3.5〜4のpHを維持することによって、この微小球からバインダーナトリウムを除去した。最後に、この酸で中和された微小球を乾燥させ、かつ1350〜1500°Fで2時間焼成した。この微小球を処理することにより、インサイチュ結晶化法を用いてY型ゼオライト60〜65%を成長させた。結晶化されたNaY微小球の試料(250g)を硝酸アンモニウムを用いてイオン交換することにより、2.0%のNaOが達成された。その後、希土類を添加して3質量%のREOとした。この希土類交換された試料を1000°Fで2時間焼成することによって、触媒を安定化させ、かつゼオライトナトリウムの除去を促進した。焼成後、一連の硝酸アンモニウムイオン交換を行うことにより、NaOを<0.2質量%にした。最後に、ナトリウムが減少した状態で第2の焼成を1100°Fで2時間行うことによって、触媒をさらに安定化させ、かつ単位格子サイズを減少させた。この触媒組成物にさらに、ニッケルおよびバナジウムそれぞれ3000ppmを含浸させ、かつ1350〜1500°Fでのスチームの存在下での還元と酸化との周期的な条件下にエージング処理した。この触媒組成物の触媒の活性および選択性を、Advanced Cracking Evaluation(ACE)リアクターおよびプロトコルを用いて測定する。
【0087】
実施例4
実施例3に記載の触媒組成物を作製した。マトリックス材料と7質量%のホウ素酸化物とを含む粒子を作製し、その後、これらの粒子と実施例3に記載の触媒組成物とを、ホウ素酸化物粒子5%および実施例3の触媒組成物95%の比で混合することにより、酸化物ベースでホウ素成分0.35質量%を含む触媒組成物を生成させた。
【0088】
【表2】
【0089】
実施例4は上記表中で最も低いコーク収率を示し、かつ比較例3と比較して非常に低いH収率を示した。
【0090】
本明細書で引用される刊行物、特許出願および特許を含む全ての参考文献を、各々の参考文献が個々にかつ具体的に援用されることが示されかつその内容全体が本明細書に記載されるのと同程度に、あらゆる目的で、本明細書の一部を構成するものとしてその内容を援用する。
【0091】
本明細書で論じた材料および方法を説明する文脈における(特に以下の特許請求の範囲の文脈における)「ある」および「上記」という用語および同様の指示物の使用は、本明細書中に別段の記載がない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数および複数のいずれをも網羅するものと解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書中に別段の記載がない限り、単に、該範囲内に入るそれぞれ個々の値に個別に言及する略記法としての役割を果たすことを意図したものに過ぎず、それぞれ個々の値は、これらのそれぞれ個々の値が本明細書に個別に記載されているのと同様に本明細書に組み込まれる。本明細書中に別段の記載がない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、本明細書に記載のいずれの方法も任意の適切な順序で行われてよい。本明細書中で提供されるいかなる例または例示的な用語(例えば、「例えば〜など」)の使用も、単に材料および方法をより十分に明らかにするためだけのものであり、別段の記載がない限り範囲を限定するものではない。本明細書中のいかなる用語も、開示された材料および方法の実施に必須であって特許請求の範囲に記載されていない要素を示すものと解釈されるべきではない。
【0092】
本明細書全体を通じた「一実施形態」、「特定の実施形態」、「1つ以上の実施形態」または「ある実施形態」への言及は、該実施形態に関連して記載された特定の特徴、構造、材料または特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書全体を通した様々な箇所での、例えば「1つ以上の実施形態において」、「特定の実施形態において」、「一実施形態において」、または「ある実施形態において」等の語句の出現は、必ずしも本発明の同一の実施形態に言及したものではない。さらに、特定の特徴、構造、材料または特性を、1つ以上の実施形態において任意の適切な様式で組み合わせることができる。
【0093】
本明細書において本発明を特定の実施形態を参照して説明してきたが、これらの実施形態は本発明の原理および適用の単なる例示であるものと理解されるべきである。本発明の方法および装置に対して、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく様々な修正や変更を行えることは、当業者にとって自明である。従って、本発明には添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内にある修正形態および変形形態が含まれることが意図される。