(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、高架橋上を列車が走行することに起因する周辺地盤の振動を解析し、地盤振動対策工を選定するために、着目点と周辺の高架橋柱を結ぶ複数の鉛直断面をモデル化し解析することにより振動を予測する手法が提案されている(例えば非特許文献1)が、予測にあたって、橋脚の振動測定値の他、着目点近傍の振動測定値が必要である。ところが、振動測定点は道路や民有地であることが大半であり、振動測定の実施には多くの労力を要する。そのため、予測作業の実施までに時間を要する点が課題となっている。
【0006】
さらに、従来、複数の橋脚からの振動波の伝達による振動レベルを求める場合、振動波同士の干渉による相殺によって振動レベルが低くなるのを考慮して振動レベルを算出するのが良いと考えられていたが、本発明者らが実地測定で検証したところ、実際には振動波同士の干渉による相殺はほとんど起きていないことが明らかとなった。これは実際の地盤は、モデル化した地盤とは異なり非常に複雑であることに起因するものと考えられるためである。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたもので、列車が走行する高架橋周辺の任意の地点の地盤振動について、精度の高い振動レベルを求めることができる地盤振動予測方法を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、列車が走行する高架橋周辺の任意の地点の地盤振動を、地盤物性値、橋脚基部の振動の加速度波形より、モデル化が容易で解析時間が比較的短い、軸対称モデルによる複素応答解析を活用することができる地盤振動予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、
複数の橋脚で支持された橋梁周辺の地盤振動を予測する地盤振動予測方法であって、
事前に行なった地盤調査の結果に基づいて地盤の構造解析(モデル化)を行う第1工程と、
対象となる橋脚および基礎の形式、形状の調査の結果に基づいて橋脚のモデル化を行う第2工程と、
振動に伴う橋脚の加速度に基づいて、前記第1工程の構造解析で得られた地盤モデルおよび前記第2工程で得られた橋脚モデルを用いた計算により、各橋脚から伝播する加速度波形を算出する第3工程と、
前記第3工程で得られたそれぞれの加速度波形から
加速度のパワー(エネルギー)の和を求める第4工程と、
前記第4工程で得られたパワーの和を用いて着目点の振動レベルの予測値を算出する第5工程と、を含むようにした。
【0009】
より具体的には、複数の橋脚で支持された橋梁周辺の地盤振動を予測する地盤振動予測方法であって、
事前に行なった地盤調査の結果に基づいて地盤の構造解析を行う第1工程と、
対象となる橋脚および基礎の形式、形状の調査の結果に基づいて橋脚のモデル化を行う第2工程と、
前記第1工程の構造解析で得られた地盤モデルおよび前記第2工程で得られた橋脚モデルを用いて着目点までの伝達関数を算出する第3工程と、
前記第3工程で得られた伝達関数を用いて各橋脚について着目点の加速度波形を算出する第4工程と、
前記第4工程で得られたそれぞれの加速度波形から
加速度のパワーの和を求める第5工程と、
前記第5工程で得られたパワーの和を用いて着目点の振動レベルの予測値を算出する第6工程と、を含むようにする。
【0010】
上記のような手法によれば、各橋脚について着目点の加速度波形を算出して、該加速度波形を用いて着目点のパワーの和(正の値)を算出し、算出されたパワーの和に基いて着目点の振動レベルの予測値を算出するので、計算過程で複数の橋脚からの振動波の干渉により振動が相殺されて実際よりも低い振動レベルが算出されてしまうのを回避して、精度の高い振動レベルを求めることができる。
【0011】
また、事前に行なった地盤調査の結果に基づいて地盤の構造解析(モデル化)を行う第1 工程と、
対象となる橋脚および基礎の形式、形状の調査の結果に基づいて橋脚のモデル化を行う第2工程と、
対象となる複数の橋脚の実効質量をそれぞれ推定し、該実効質量に基づいて橋脚の加速度波形を算出する第3工程と、
算出された加速度波形と橋脚の振動情報に基づいて前記実効質量を修正する第4工程と、
前記第1工程で得られた地盤モデルおよび前記第2工程で得られた橋脚モデルを用いて着目点までの伝達関数を算出する第5工程と、
前記第5工程で得られた伝達関数を用いて各橋脚について着目点の加速度波形を算出する第6工程と、
前記第6工程で得られたそれぞれの加速度波形から
加速度のパワーの和を求める第7工程と、
前記第7工程で得られたパワーの和を用いて着目点の振動レベルの予測値を算出する第8工程と、
を含むようにしてもよい。
【0012】
上記のような手法によれば、計算過程で複数の橋脚からの振動波の干渉により振動が相殺されて実際よりも低い振動レベルが算出されてしまうのを回避して、精度の高い振動レベルを求めることができる。また、列車が走行する高架橋周辺の任意の地点の地盤振動を、地盤物性値、橋脚基部の振動の加速度波形より、モデル化が容易で解析時間が比較的短い、軸対称モデルによる複素応答解析により求めることができる。さらに、該解析に必要な橋脚における加振力を計算によって求めることができるという効果が得られる。
【0013】
ここで、望ましくは、
前記振動情報は振動計測装置により計測された各橋脚基部の振動レベルであり、
計算によって算出された橋脚の振動レベルをL
BC、計測された橋脚の振動レベルをL
BO、計算で仮定した橋脚の実効質量をm
BO、測定結果に見合う橋脚の実効質量をm
BCとしたとき、前記第4工程では、次式
m
BC=βm
BO, β=10
α/20 , α=L
BO−L
BC
を用いて実効質量を周波数ごとに修正する。
これにより、着目点におけるより精度の高い合成振動レベルの予測値を求めることができる。
【0014】
さらに、望ましくは、 計算の対象とする橋脚の数を増やしながら、
着目点の加速度波形を算出して加速度波形から
加速度のパワーの和を求め、該パワーの和を用いて着目点の振動レベルを算出する処理を繰り返し行ない、
算出された振動レベルの前回算出値との差が所定の値より小さくなった場合の振動レベルを予測値として出力するようにする。
これにより、最少量の計算で必要な精度の振動レベルの予測値を求めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、列車が走行する高架橋周辺の任意の地点の地盤振動について、各橋脚からの振動波のパワーの和を算出して振動レベルに変換するため、計算過程で複数の橋脚からの振動波の干渉により振動が相殺されて実際よりも低い振動レベルが算出されてしまうのを回避して、精度の高い振動レベルの予測値を求めることができる。
また、列車が走行する高架橋周辺の任意の地点の地盤振動を、地盤物性値、橋脚基部の振動加速度より、モデル化が容易で解析時間が比較的短い、軸対称モデルによる複素応答解析により求めることができる。さらに、該解析に必要な橋脚における加振力を計算によって求めることができるという効果が得られる。
また、振動レベルが所定のしきい値以下となる橋脚に関しては最終的な計算の対象から外すため、最少量の計算で必要な精度の振動レベルの予測値を求めることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る地盤振動予測方法の実施形態について、詳細に説明する。なお、本実施例の地盤振動予測方法は、CPU(マイクロプロセッサ)のような演算装置、ROMやRAMなどの記憶装置、キーボードのような入力装置および表示装置のような出力装置を備えたパーソナルコンピュータと、その記憶装置に記憶されるプログラムとによって実現することができることは言うまでもない。かかるパーソナルコンピュータのハードウェア構成自体は自明であるのでその図示は省略する。
【0018】
なお、以下の説明において、「振動レベル」なる用語は次のような規定の下で使用する。
ある測定時点t
mの振動レベルをLv(t
m)と表すと、Lv(t
m)は、その時点における周波数補正された加速度の実効値a
e(t
m)(m/s
2)および基準の加速度a
0(=1.0×10
-5 m/s
2)とすれば、JIS C 1510により次式[数1]
【数1】
で定義される。
環境省からの通達「環境保全上緊急を要する新幹線鉄道振動対策について(勧告)」では,通過列車ごとの振動のピークレベルを読み取ることとしている。そこで、以下の説明では、振動レベルLvを1列車通過時に得られる時刻歴振動レベルLv(t
m)の最大値Lv,maxとする。また、以下に説明する実施形態では、加速度波形から振動レベルを求めるのに、振動レベル計を再現した数値計算ツールを使用することとした。
【0019】
図1は、本発明に係る地盤振動予測方法が適用される高架橋を構成する複数の橋脚と、振動伝達系としての橋脚周辺の地盤の概念図であり、
図1において、符号21〜24は振源としての橋脚、Oは振動を予測したい着目点である。なお、
図1においては、橋脚が4基分示されているが、以下の説明から明らかにされるように、解析対象の橋脚は4基に限定されるものでない。
また、
図2は実施の形態の地盤振動予測方法で使用する各橋脚ごとに生成されるモデルの一例を示す図、
図3は第1の実施例の地盤振動予測方法の手順を示すフローチャートである。
【0020】
第1の実施例の地盤振動予測方法は、橋脚の振動を橋脚への加振力を入力として解析する方法であり、
図3に示すように、ボーリング等によって、地盤振動を予測したい範囲の地盤の特性を調査し(ステップS1)、各橋脚ごとに着目点までの地盤のモデル化を行う(ステップS2)。また、これと並行して、予測対象地域の高架橋を構成する橋脚の形状と基礎の形式、形状を調査し(ステップS3)、各橋脚ごとに基礎のモデル化を行う(ステップS4)。
【0021】
さらに、上記地盤特性の調査(ステップS1)や橋脚と基礎の形式、形状の調査(ステップS3)と並行して、対象となる橋脚の基部の振動計測を行い(ステップS5)、加振力のモデル化を行う(ステップS6)。ステップS5における振動計測は、例えば加速度センサのような振動計測装置を橋脚の基部に取り付けることで行う。なお、加振力は、橋脚の加速度と線形関係にあるので、計測された加速度から換算することができる。
ステップS6における加振力のモデル化としては、例えば
図2に符号Fで示すように、モデル化した橋脚基礎の表面の中心に加振力が入力されると仮定することが考えられる。なお、
図2において、xが付された矢印は線路と平行な方向の力、yが付された矢印は線路と直交する方向の力、zが付された矢印は鉛直方向の力である。
【0022】
続いて、橋脚の実効質量を推定し、ステップS2,S4,S6で作成したモデルに対して、実効質量と加振力を用いて有限要素法などの数値計算手法によって橋脚基部の加速度を算出する(ステップS7)。有限要素法による橋脚基部の加速度の算出は、例えば伊藤忠テクノソリューションズ株式会社が提供している解析ソフト“SoilPlus”を使用して行うことができるので、詳しい説明は省略するが、実効質量は直接測定することができないので、先ず推定値を与えて加速度を算出することとした。また、列車の高架橋においては、ある橋脚に着目した場合、その近傍の他の橋脚から橋梁を介して伝達してくる振動も考えられるが、本発明者らが行なった測定結果では、そのような振動は橋脚で計測された振動レベルの最大値にほとんど影響を与えないことが分かったので、本実施例では他の橋脚からの振動は計算上無視することとした。
【0023】
その後、算出した加速度Acから求めた振動レベルLcが、ステップS5で計測された加速度Apから求めた振動レベルLpと一致するか否か判定し(ステップS8)、一致しないとき(No)は、ステップS7へ戻って実効質量を修正し、橋脚基部の加速度を再度算出する。これにより、加振力の実測値がなくても橋脚基部の適正な実効質量を求めることができる。なお、加速度に基づく具体的な実効質量の修正の仕方は、後に説明する。
ステップS8で、ステップS7で算出した加速度Acから求めた振動レベルLcが、ステップS5で計測された加速度Apから求めた振動レベルLpと一致した(Yes)と判定すると、ステップS9へ進み、ステップS2,S4で行なったモデルに関して、着目点までの地盤振動の伝達関数を求める(ステップS9)。
この実施例では、橋脚21〜24として、例えば
図1に示されている直接基礎(フーチング)を想定することとした。また、各橋脚は、横断面が矩形である場合にも、
図2に示すように、橋脚基礎を軸対称モデルとした。
図2において、Aがモデル化領域である。橋脚基礎の表面は、周辺地盤の表面と一致しているものとする。
【0024】
伝達関数は、
図2に示す軸対称モデルに対して、ステップS1で取得した地盤の調査結果から地盤構成を把握し、各層ごとに地盤定数を設定し有限要素法で振動解析を行なって求めることができる。かかる有限要素法による伝達関数の算出は、例えば前述の非特許文献1等に記載されているように公知の手法であるので、詳しい説明は省略する。
続いて、ステップS7で算出した橋脚基部加速度に実効質量を乗じて加振力を求め、該加振力とステップS9で算出した地盤振動の伝達関数を使用して、各橋脚からの振動伝播に基づく着目点における地盤(舗装道路等の構造物を除く)の加速度(以下、地盤加速度と称する)を算出する。なお、このとき、各橋脚における列車の通過による位相差を考慮して加速度の時刻歴波形a
wi(t)(以下、加速度波形と称する)を算出する。加速度波形の詳しい算出の仕方については、後に詳しく説明する。
【0025】
その後、着目点の加速度のパワー和を算出する(ステップS11)。例えば、ステップS10で算出された橋脚ごとの加速度波形a
wi(t)に対して、JIS C 1510で定められている周波数補正を施した波形a
wci(t)の実効値a
ei(t)の二乗を求める。ここで、a
wi(t)は橋脚iから着目点へ伝播される加速度波形、a
wci(t)は橋脚iから着目点へ伝播される周波数補正後の加速度波形、a
ei(t)は橋脚iから着目点へ伝播される加速度波形の実効値である。ある測定時点t
mにおける加速度波形の実効値の二乗は、JIS C 1510で規定されている時定数τ(= 0.63 s)を用いて次式[数2]
【数2】
で、算出することができる。
【0026】
加速度の二乗は振動エネルギー(以下,加速度のパワーと称す)に比例する。算定したい振動レベルは基準加速度とのパワー比で評価される。よって、複数の橋脚から伝播される振動エネルギーはパワーの和で求めることができる。
具体的には、着目点の加速度のパワー和を、次式[数3]により算出する。
【数3】
これにより、算出された加速度のパワー和は、各橋脚における列車の通過による時間遅れを反映したものとなる。なお、本実施例では、各橋脚から伝播される加速度波形の実効値をそれぞれ求めてから[数3]よりパワー和を求めているが、[数4]から求められる各橋脚から伝播される加速度の二乗の和a
w2(t)から実効値の二乗を求め、パワー和としても結果は変わらない。
【数4】
【0027】
次に、着目点の合成振動レベル(複数の橋脚からの振動の和)ΣLvを、次式[数5]により算出する(ステップS12)。ここで、a
Oは、JIS C 1510で定めている基準加速度(=1.0×10
-5m/s
2)である。また,max(Lv(t))はLv(t)の最大値である。
【数5】
続いて、算出された合成振動レベルΣLvの前回算出値との差分ΔΣLvを求め(ステップS13)、該差分が予め設定されているしきい値Lthよりも小さいか否か判定し(ステップS14)、大きい(No)と判定したときは、ステップS7へ戻って、他の橋脚からの振動(加振力)に対して上記処理を繰り返し、着目点の振動レベルを算出する。
【0028】
一方、ステップS14で、前回算出値との差分ΔΣLvがしきい値Lthよりも小さい(Yes)と判定したときは、ステップS13へ進み、ステップS12で算出した合成振動レベルを、予測される振動レベルとして出力する(ステップS15)。本実施例では、着目点に近い橋脚から遠い橋脚に向かって順番に振動レベルを算出する。具体的には、
図7(A)に示すように、着目点O近い橋脚から順番に番号#1,#2,#3,#4……を付け、小さい番号の橋脚から順に地盤加速度を算出し、
図7(B)に示すように、着目点の合成振動レベルΣLvと差分ΔΣLvを求め、差分ΔΣLvが所定の値よりも小さくなった時点での振動レベルを予測値とし、計算を終了する。これにより、所望の精度の振動レベルを得るまでに実行する計算の量を減らすことができる。
【0029】
なお、本実施例のように、軸対称モデルを用いた解析の場合、半径方向と円周方向と鉛直方向の3成分の加振力が地盤に作用するので、振動レベルに関してもこれらの3方向の加振力によって生じる鉛直成分の加速度をそれぞれ算出して合成し、振動レベルに変換することとなる。
従来の予測方法のように、着目点の振動を、加速度算出の段階で合成を行なった後に振動レベルを算出したとすると、複数の橋脚からの振動波同士の干渉による相殺によって振動レベルが実際よりも小さな値になってしまうおそれがある。一般に,複数橋脚にわたる範囲の現実の地盤はその構造や物性にばらつきがある。そのため,理想的な一様地盤では容易に起こり得る振動波同士の干渉による相殺で生じるような振動レベルの低減は非常に小さい。本実施例によれば、パワー和は加速度波形の2乗すなわち正の値であって負の値をとることがないので、パワー和で複数の橋脚からの振動を評価すれば、振動波同士の干渉による相殺のない振動レベルを得ることができる。この方法の妥当性は計測結果と比較から示されている。
【0030】
さらに、振動レベルが所定のしきい値以下となる橋脚に関しては最終的な計算の対象から外すため、計算量を減らしつつ精度の高い着目点の合成振動レベルを求めることができる。また、ステップS12の判定結果を対象の地盤の特性と関連して記憶してデータベース化し、新たな地点について振動レベルの予測を行う際に、対象の地盤の特性等に基づいて計算対象とする橋脚の数をデータベースの蓄積情報から決定するようにしても良い。
【0031】
[着目点の加速度の算定]
次に、上記ステップS10における着目点の加速度を算出する具体的な方法を説明する。
第1の実施例では、加振力を入力としているので、複素応答解析(周波数応答解析)を適用している。なお、複素応答解析には前述の解析ソフト“SoilPlus”を利用することができる。
【0032】
複素応答解析手法は、履歴減衰を複素合成で評価する手法である。この解析手法は周波数領域の解析で、加振点と着目点の間の伝達関数T(ω)を求めたのちに周波数領域に変換された加振力F(ω)を乗じて着目点の周波数応答A(ω)を計算する。この周波数領域の応答を時刻歴領域に変換すれば、求めたい着目点の加速度の時刻歴波形a(t)が得られる。
図4には、複素応答解析の計算フローが示されている(
図3のステップS9、S10に相当)。地盤を線形粘弾性体と仮定した場合、伝達関数T(ω)は加振力の大きさに関係しない。よって、伝達関数を一度計算すれば異なる加振力を計算する場合にもその伝達関数を使うことができる。
【0033】
図4に示すように、複素応答解析の計算では、加振点(橋脚基部)における加振力f(t) に対してフーリエ変換を行い、時刻歴領域の加振力f(t)から周波数領域の加振力F(ω)を得る(ステップS21)。次に、FEM(有限要素法)を用いて加振点(橋脚基部)から着目点までの伝達関数T(ω)を、
T(ω)=A(ω)/F(ω)
として算定する(ステップS22)。ここで、A(ω)は、着目点の加速度応答(周波数領域表示)である。続いて、着目点の加速度応答(周波数領域)を、
A(ω)=T(ω)×F(ω)
で算定する(ステップS23)。その後、着目点の加速度応答A(ω)に対してフーリエ逆変換を行い、周波数領域の加速度A(ω)から時刻歴領域の加速度a(t)を得る(ステップS24)。
【0034】
[加振力の設定]
ここで、橋脚基礎における加振力の具体的な設定の仕方について、橋脚の数が4本である場合を例にとって説明する。なお、4本の橋脚P
l〜P
4のすべてが同じ基礎形状で、各橋脚で測定された加速度波形もほぼ同じであるとする。
上記のような条件が満たされている場合に、橋脚の実効質量m
lが与えられたとすると、橋脚P
lで測定された加速度波形のフーリエ変換A
l(ω)と橋脚の実効質量m
lとから、橋脚P
lに作用する加振力F
l(ω)はm
l×A
l(ω)で与えられる。橋脚P
2以降は列車が走行してから加振力が載荷されるので、橋脚P
1よりも時間遅れが生じる。
【0035】
橋脚P
1に加振力が載荷した時点をt=0とし、橋脚P
2に列車の加振力が載荷する時点の遅れをt
2とする。同様に、橋脚P
3およびP
4の時間遅れをそれぞれt
3とt
4とし、周波数領域で時間の遅れを与える関数をR(ω,t)とすると、各橋脚の加振力F(ω)は次のように表せる。
橋脚P
l:F
l(ω)=m
l×A
l(ω)
橋脚P
2:F
2(ω)=F
l(ω)×R(ω,t
2)
橋脚P
3:F
3(ω)=F
l(ω)×R(ω,t
3)
橋脚P
4:F
4(ω)=F
l(ω)×R(ω,t
4)
【0036】
[各橋脚から着目点Oまで伝播する加速度の算定]
橋脚P
l,P
2,P
3,P
4から着目点Oまでの伝達関数をそれぞれT
1c(ω),T
2c(ω),T
3c(ω),T
4c(ω)とすると、上記加振力F
i(ω)と伝達関数T
ic(ω)を用いることで、各橋脚から着目点Oまで伝播する加速度A
w1(ω), A
w2(ω), A
w3(ω), A
w4(ω)およびa
w1(t), a
w2(t), a
w3(t), a
w4(t)は、次のように表すことができる。ただし、A
wi(ω)は周波数領域の加速度、a
wi(t)はそれをフーリエ逆変換した時刻歴の加速度波形である。
橋脚P
l:A
wl(ω)=T
1c(ω)×F
l(ω) フーリエ逆変換→ a
w1(t)
橋脚P
2:A
w2(ω)=T
2c(ω)×F
2(ω) フーリエ逆変換→ a
w2(t)
橋脚P
3:A
w3(ω)=T
3c(ω)×F
3(ω) フーリエ逆変換→ a
w3(t)
橋脚P
4:A
w4(ω)=T
4c(ω)×F
4(ω) フーリエ逆変換→ a
w4(t)
【0037】
図3のフローチャートのステップS11における着目点Oのパワー和の算出は、上記の計算および変換により得られた加速度波形から、各時刻での加速度を前述の式[数3]に代入して計算することで行う。そして、
図3のステップS12では、ステップS11の計算で得られたパワー和のうち最大の値を、前述の式[数4]に代入して計算することで着目点Oの振動レベルLvを算出し出力することとなる。
【0038】
次に、
図3のステップS7における実効質量の計算方法について説明する。
加振力を入力とする
図4の複素応答解析の計算フローにおいては、計算で得られた橋脚の振動レベルL
BCと計測結果の振動レベルL
BOの間に明らかな差があれば、加振力(実効質量)を修正して再計算を行うことになる。ここで、a
Oは基準加速度(=1.0×10
-5m/s
2),a
BCは周波数補正された橋脚の計算加速度の実効値,a
BOは周波数補正された橋脚の測定加速度の実効値,m
BCは計算に使用した実効質量,m
BOは測定結果に見合う実効質量である。
【0039】
今、計算結果の振動レベルL
BCと計測結果の振動レベルL
BOとの間に次式[数6]のような関係があったとする。
【数6】
ここで、αは実数である。
計算結果の振動レベルL
BCと計測結果の振動レベルL
BOは、振動レベルの定義式より次式[数7]のように表わせる。
【0041】
上記[数7]の最後の式に[数6]の式を代入し、整理すると次式[数8]が得られる。
【数8】
これを変形すると、次式[数9]が得られる。
【数9】
【0042】
ここで、上記[数9]の中の「10
α/20」をβとおくと、上記[数9]の式は、計測結果の加速度a
BOが計算結果の加速度a
BCのβ倍であることを示している。このことは、計算に使用した加振力が本来の1/β倍であること、すなわち計算に使用した実効質量が1/β倍であることを意味する。よって、第1の実施例における橋脚基部の加速度や加振力の算定に用いるべき実効質量m
BOは、次式[数10]で与えることができる。
【数10】
従って、上記のような方法によれば、橋脚の質量が不明である場合にも計算によって橋脚の実効質量を求め、この実効質量を使用して橋脚基部の加速度や加振力を算定し、有限要素法を利用して着目点の加速度、振動レベルを予測することができる。
【0043】
また、上記の実効質量の修正では、所定の周波数帯ごとに計算を行う。周波数帯の設定の仕方としては、例えば振動分析の分野で一般的に行われているオクターブバンド分析における周波数帯とすることが考えられる。
図8には、本発明者らが行なった計算例が示されている。
図8において、(A)は振動加速度レベルの初期値の誤差を示すものので、左から順に、1/3オクターブバンドの中心周波数の値、計測値、計算値、誤差、実効質量の調整値を表している。また、(B)は修正1回目の誤差を示すもので、左から順に、中心周波数の値、1回目の計算値、2回目の計算値、誤差の値を表している。
図8(B)の一番右側の欄の誤差の値をみると、誤差は充分に小さくなっていることから、修正計算は概ね1回やればよいことが明らかとなった。つまり、実効質量の修正処理を行うことに伴う計算機の負担は少なくて済む。
【0044】
次に、本発明に係る地盤振動予測方法の第2の実施例について説明する。
図5には、第2の実施例の地盤振動予測方法の手順の一例が示されている。
図3に示す実施例との差異は、ステップS10における着目点の加速度の算出において、橋脚への振動入力として、
図3の第1実施例では加振力を用いて複素応答解析(周波数応答解析)で算出しているのに対して、第2の実施例では、ステップS5で計測した橋脚の加速度をそのまま用いて時刻歴応答解析で算出する点にある。従って、第2の実施例では、
図3におけるステップS6,S7,S8は省略することができる。ステップS1〜S4およびステップS11〜S13の処理の内容は、第1の実施例(
図3)とほぼ同様であるので、説明を省略する。
【0045】
図6には、第2の実施例における着目点の地盤加速度を算出する計算フローが示されている(
図5のステップS9、S10に相当)。
上述したように第1の実施例では複素応答解析(周波数応答解析)を適用しているのに対し、第2の実施例では時刻歴応答解析を適用する。そして、この時刻歴応答解析は、例えばItasca社の解析ソフト“FLAC”を利用して実行することができる。
【0046】
なお、時刻歴応答解析は、橋脚の加速度を入力することで、求めたい着目点の加速度が計算できる手法であり、複素応答解析に比べ、入力加振動をモデル化する作業が無い分だけ分かり易い。しかし、そのままでは列車編成や走行速度を変えるたびに計算に長い時間を要する応答解析を行わなければならない。ただし、地盤を線形粘性体とみなした場合、入力される加速度の大きさは列車速度や走行速度によって変わるものではない。そこで、第2の実施例では、複素応答解析と同様に伝達関数T(ω)を求め、異なる加速度に対する着目点の加速度の計算に利用することとした。
【0047】
図6に示すように、時刻歴応答解析の計算では、加振点(橋脚基部)の加速度をa (t)、着目点の加速度をao(t)とおく(ステップS31)。次に、加振点(橋脚基部)の加速度a (t)と着目点の加速度をao(t)に対してフーリエ変換を行い、A(ω),Ao(ω)を得る(ステップS32)。その後、加振点(橋脚基部)から着目点までの伝達関数T(ω)を、
T(ω)=Ao(ω)/A(ω)
として算定する(ステップS33)。
【0048】
続いて、着目点の加速度応答(周波数領域)を、
Ao(ω)=T(ω)×A(ω)
で算定する(ステップS34)。その後、着目点の加速度応答Ao(ω)に対してフーリエ逆変換を行い、周波数領域の加速度Ao(ω)から時刻歴領域の加速度ao(t)を得る(ステップS35)。また、異なる入力加速度について解析する場合には、ステップS36,S37のように、異なる入力加速度a
1(t)に対してフーリエ変換を行い、A
1(ω)を求めてステップS34の計算を行う。
なお、前述したように、時刻歴応答解析は、橋脚の加速度を入力することで、求めたい着目点の加速度が計算できる手法であるので、
図5において伝達関数を算出するステップS9は省略することができる。
【0049】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、橋脚基礎のモデル化に軸対称モデルを適用した場合について説明したが、他のモデル化を適用しても良い。軸対称モデルを適用することで他のモデルに比べて計算量を減らすことができる。
また、上記実施形態では、高架橋から所定距離離れた着目点における地盤振動の予測に適用した場合について説明したが、対策工の評価にも適用することができる。