特許第6615577号(P6615577)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6615577細胞分離フィルターを用いた細胞濃縮液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6615577
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】細胞分離フィルターを用いた細胞濃縮液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/078 20100101AFI20191125BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20191125BHJP
【FI】
   C12N5/078
   C12N5/0775
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-212789(P2015-212789)
(22)【出願日】2015年10月29日
(65)【公開番号】特開2017-79660(P2017-79660A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】山下 敬太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸彦
【審査官】 小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−050976(JP,A)
【文献】 特開平11−056352(JP,A)
【文献】 特開2000−083649(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/161679(WO,A1)
【文献】 特開2013−034436(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/046501(WO,A1)
【文献】 JETI, 2010, Vol.58, No.8, p.83-85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
C12M 1/00−3/10
G01N 1/00−1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入口及び導出口を備えた細胞分離フィルターを用いて細胞含有液から細胞濃縮液を製造する方法であって、
前記導入口から前記細胞含有液を分割して導入し、前記細胞分離フィルターに細胞を捕捉させた後、前記導出口から回収液を分割して導入し、前記細胞濃縮液を前記細胞分離フィルターから回収する工程を有し、且つ、最初に前記細胞分離フィルターに通液する細胞含有液の処理量(mL)と細胞含有液の全量(mL)の比(最初に前記細胞分離フィルターに通液する細胞含有液の処理量(mL)/細胞含有液の全量(mL))が、0.5以上、0.94以下であり、最初に前記細胞分離フィルターに通液する回収液の処理量(mL)と回収液の全量(mL)の比(最初に前記細胞分離フィルターに通液する回収液の処理量(mL)/回収液の全量(mL))が、0.13以上、0.5以下であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記導入口から細胞含有液を分割して導入する回数が2又は3回であることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記導出口から回収液を分割して導入する回数が2又は3回であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記回収液が生理食塩水、細胞培養用培地、ヒドロキシエチルスターチ、及びデキストランの群より選択される1つ以上を含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
細胞含有液が血液、骨髄液、臍帯血、月経血、細胞培養液、又はそれらの希釈液のいずれか1つである請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記導入口から細胞含有液を分割して導入する前に、前記導入口からプライミング液を導入し、前記細胞分離フィルターをプライミングする工程を含む、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記導出口から回収液を分割して導入する前に、前記導入口から洗浄液を導入し、前記細胞分離フィルターを洗浄する工程を含む、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分離フィルターを用いて、細胞含有液から効率的に細胞濃縮液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液学や科学テクノロジーの急速な進歩に伴い、全血・骨髄・臍帯血・組織抽出物をはじめとする体液から必要な血液分画のみを分離して患者に投与することで治療効果を高め、さらに、治療に必要のない分画は投与しないことで副作用を抑制するという治療スタイルが広く普及している。
【0003】
例えば、血液輸血がその1つである。赤血球製剤は、出血及び赤血球が不足する場合又は赤血球の機能低下により酸素が欠乏している場合に使用される血液製剤である。赤血球製剤には、異常な免疫反応や移植片対宿主病(GVHD)などの副作用を誘導する白血球は不要なため、フィルターで白血球を除去する必要があり、場合によっては白血球に加えて血小板も除去することもある。
【0004】
加えて、近年、白血病や癌治療に向けた造血幹細胞移植が盛んに行われるようになり、治療に必要な造血幹細胞を含む白血球群を分離し投与する方法がとられている。この造血幹細胞のソースとしては骨髄、末梢血又は臍帯血が知られており、ドナーの負担が少ないこと、増殖能力が優れていること等の利点から注目を浴びている。
【0005】
その他、骨、軟骨、筋肉、脂肪など様々な組織に分化できる間葉系幹細胞を用いた治療方法も注目されているものの、間葉系幹細胞は成人の骨髄や臍帯血中に104から106個に1つの割合であり非常に存在頻度が少ないため、効率的に製造することが望まれている。
【0006】
そこで、細胞を効率的に分離・濃縮でき、且つ操作性が簡便である細胞濃縮液の製造方法として、不織布を積層したフィルターを用いた細胞濃縮液の製造方法が開示されている(特許文献1)。また、不織布の目詰まりを抑制するために、特定の穴面積率で加工した不織布を異なる不織布の間に積層したフィルターを用いて白血球を除去する方法や(特許文献2)、顆粒球のみが選択的に捕捉される細胞分離フィルターを用いて、単核球を効率良く回収する方法が開示されている。(特許文献3)。しかし、当該方法においては、回収率の向上や不要な細胞の混入率を抑制するために、目的細胞に適した不織布を適時設計しなければならず、細胞種ごとに不織布を開発しなければならない。
【0007】
上記のように、効率的に細胞濃縮液を製造するためには、操作性が簡便である細胞分離フィルターを用いた分離・濃縮方法が好ましいが、細胞分離フィルターの性能を上げようとすれば、特定細胞に適した細胞分離フィルターとなり汎用性が乏しく、細胞種ごとに不織布を開発しなければならないという問題点が挙げられ、その解決方法は未だ見出されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−329034号
【特許文献2】特開2004−215875号
【特許文献3】国際公開第06/093205号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、細胞分離フィルターを用いて細胞含有液から細胞濃縮液を製造する方法における上記問題点を解決することを目的とする。具体的には、回収する目的の細胞種に適した細胞分離フィルターを設計せずとも、効率的に細胞含有液から細胞濃縮液を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、製造方法の処理工程に着目し、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、細胞含有液を分割して細胞分離フィルターに通液し細胞分離材に細胞を捕捉させた後、回収液を分割して細胞分離フィルターに通液し細胞を回収することで、細胞分離フィルターを最適化せずとも有核細胞の回収率を向上させることができ、且つ細胞分離材を細胞種に応じて変更しなくても良いことから、汎用性に富むことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
〔1〕導入口及び導出口を備えた細胞分離フィルターを用いて細胞含有液から細胞濃縮液を製造する方法であって、
前記導入口から前記細胞含有液を分割して導入し、前記細胞分離フィルターに細胞を捕捉させた後、前記導出口から回収液を分割して導入し、前記細胞濃縮液を前記細胞分離フィルターから回収する工程を有し、且つ、最初に前記細胞分離フィルターに通液する細胞含有液の処理量(mL)と細胞含有液の全量(mL)の比(最初に前記細胞分離フィルターに通液する細胞含有液の処理量(mL)/細胞含有液の全量(mL))が、0.5以上、1未満であることを特徴とする方法。
〔2〕最初に前記細胞分離フィルターに通液する回収液の処理量(mL)と回収液の全量(mL)の比(最初に前記細胞分離フィルターに通液する回収液の処理量(mL)/回収液の全量(mL))が、0より大きく、0.61以下であることを特徴とする〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記導入口から細胞含有液を分割して導入する回数が2又は3回であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記導出口から回収液を分割して導入する回数が2又は3回であることを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕前記回収液が生理食塩水、細胞培養用培地、ヒドロキシエチルスターチ、及びデキストランの群より選択される1つ以上を含むことを特徴とする、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕細胞含有液が血液、骨髄液、臍帯血、月経血、細胞培養液、又はそれらの希釈液のいずれか1つである〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕前記導入口から細胞含有液を分割して導入する前に、前記導入口からプライミング液を導入し、前記細胞分離フィルターをプライミングする工程を含む、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕前記導出口から回収液を分割して導入する前に、前記導入口から洗浄液を導入し、前記細胞分離フィルターを洗浄する工程を含む、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の細胞分離方法を用いることにより、回収する細胞種及び細胞分離フィルターの材質に影響されずに、効率的に細胞含有液から細胞濃縮液を製造することが可能となる。また、効率的に細胞濃縮液を製造できるため、ドナー患者の負担低減が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、導入口及び導出口を備えた細胞分離フィルターを用いて細胞含有液から細胞濃縮液を製造する方法であって、
前記導入口から前記細胞含有液を分割して導入し、前記細胞分離フィルターに細胞を捕捉させた後、前記導出口から回収液を分割して導入し、前記細胞濃縮液を前記細胞分離フィルターから回収する工程を有し、且つ、最初に前記細胞分離フィルターに通液する細胞含有液の処理量(mL)と細胞含有液の全量(mL)の比(最初に前記細胞分離フィルターに通液する細胞含有液の処理量(mL)/細胞含有液の全量(mL))が、0.5以上、1未満であることを特徴とする。
【0014】
本発明の細胞分離フィルターとは、上部又は下部のいずれかに導入口、その反対側に導出口を備える容器の内部に細胞分離材を充填したものを指し、前記導入口とは前記容器外部から前記容器内部に細胞含有液を導入する口であり、前記導出口とは、前記導入口の上下方向に対して反対側に設けられ、細胞分離操作の際に細胞分離材を通過した液体を容器外部へ排出するための口である。
【0015】
前記導入口及び導出口の個数については特に限定はないが、それぞれ1つ以上備え付けられれば良い。また、前記導入口又は導出口が設けられる配置は特に限定されないが、例えば、デットエンドフローやクロスフローを採用することができ、当業者の目的によって設計される。
【0016】
前記容器の形状としては、前記細胞分離材を充填できる形状であればよく、細胞分離材が容器内部で固定できる構造であれば特に限定はないが、例えば、球、コンテナ、カセット、バッグ、チューブ等が挙げられる。
【0017】
前記細胞分離材とは、細胞含有液から目的の細胞を捕捉できるものをいい、形態としては特に限定されず、連通孔構造の多孔質体、繊維の集合体、織物等が挙げられる。好ましくは繊維で構成されるものであり、より好ましくは不織布である。
【0018】
前記細胞分離材の材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエステル、塩化ビニル、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、レーヨン、ビニロン、ポリスチレン、アクリル(ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等)、ナイロン、ポリウレタン、ポリイミド、アラミド、ポリアミド、キュプラ、ケブラー、カーボン、フェノール、テトロン、パルプ、麻、セルロース、ケナフ、キチン、キトサン、ガラス、綿等を挙げることができる。中でも、ポリエステル、ポリプロピレン、アクリル、レーヨン、ナイロン、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンテレフタラート等の高分子を好適に用いることができる。前記細胞分離材は、これらの材質のうち、単一の材質からなってもよいし、複数の材質を組み合わせた複合材からなってもよい。
【0019】
細胞分離材の平均繊維径としては、目的の細胞の種類に合わせて適宜選択すればよく、特に限定はないが、例えば、目的の細胞が造血幹細胞であれば、2〜6μm、間葉系幹細胞であれば、3〜35μmの平均繊維径を選択することが好ましい。
【0020】
本発明の細胞含有液とは、幹細胞や白血球のように様々な治療で用いられる細胞を含有する液体であれば何でもよく、例えば血液、骨髄液、臍帯血、月経血、細胞培養液、又はそれらの希釈液や、細胞培養後の懸濁液などが挙げられる。
【0021】
前記細胞としては有核細胞が好ましく、前記有核細胞としては、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系細胞、脂肪由来間質幹細胞、多能性成体幹細胞、骨髄ストローマ細胞、造血幹細胞等の多分化能を有する生体幹細胞、T細胞、B細胞、キラーT細胞(細胞障害性T細胞)、NK細胞、NKT細胞、制御性T細胞などのリンパ球系の細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、顆粒球、神経細胞、筋細胞、線維芽細胞、肝細胞、心筋細胞などの体細胞又は前記有核細胞に遺伝子の導入や分化などの処理を行った細胞が挙げられる。
【0022】
本発明の細胞濃縮液とは、処理前の前記細胞含有液よりも、液中における目的の細胞の細胞濃度(cell/mL)が濃い液のことをいう。また、前記細胞含有液よりも目的の細胞以外の不要物(例えば、赤血球、血小板等)が除去された液である。
【0023】
本発明の分割とは、細胞分離フィルターに通液する所望の液体(例えば、細胞含有液、回収液等)の全量を、複数に細分化することを指す。分割の態様としては、液体の全量を細分化できる方法であれば特に限定されないが、例えば、所望の液体が全量入ったバッグを複数の異なるバッグに細分化してもよいし、所望の液体が全量入ったバッグから少量ずつ液体を細胞分離フィルター内に導入して、細分化してもよい。
【0024】
本発明において、前記細胞含有液を分割して導入する回数は、細胞含有液の液量に応じて設計すれば、特に限定されないが、処理時間の短縮及び操作性の簡素化の観点より、2又は3回で行うことが好ましく、2回で行うことがより好ましい。
【0025】
本発明において、前記回収液を分割して導入する回数は、回収液の液量に応じて設計すれば、特に限定されないが、前記細胞含有液の分割する回数と同様に、処理時間の短縮及び操作性の簡素化の観点より、2又は3回が好ましく、2回がより好ましい。
【0026】
前記細胞分離フィルターの導入口から前記細胞含有液を導入する形態としては、前記細胞含有液をポンプやシリンジ等で加圧したり、または細胞含有液をプールしたバック等から自然落下すればよい。
【0027】
前記回収液の導入において、細胞を捕捉した細胞分離フィルターの導出口から回収液を導入することで、細胞分離フィルターから細胞を回収液中に分離させ、この回収液を導入口から回収用のバッグなどに導入することで目的の細胞を回収することができる。
【0028】
前記回収液は、その後の用途に合わせて、適宜設計すればよいが、例えば、生理食塩水、細胞培養用培地、ヒドロキシエチルスターチ、及びデキストランより1つ以上を用いればよい。また、捕捉された細胞を回収する際、フィルターに対する細胞の接着性により回収液の効果が異なるため、例えば、フィルターと接着性の高い細胞を回収する場合には、粘度が高いヒドロキシエチルスターチやデキストランを好適に使用することができる。
【0029】
前記細胞分離フィルターの導出口から回収液を導入する形態としては、シリンジを用いてプランジャーを勢いよく押す方法やポンプを用いて送液する方法等が挙げられる。
【0030】
本発明は、細胞含有液の処理量(mL)と細胞含有液の全量(mL)の比(最初に前記細胞分離フィルターに通液する細胞含有液の処理量(mL)/細胞含有液の全量(mL))が、0.5以上、1未満にすることで、目詰まり(接着性の高い細胞の残存など)を低減し、効率的に細胞を回収することができる。ここで、細胞含有液の処理量(mL)と細胞含有液の全量(mL)の比が0.5未満であるとフィルターに分割して導入する細胞含有液量に偏りが生じ、フィルター内に凝集性の高い細胞やタンパク質が残存しやすくなる。さらに、細胞含有液の処理量(mL)と細胞含有液の全量(mL)の比(最初に前記細胞分離フィルターに通液する細胞含有液の処理量(mL)/細胞含有液の全量(mL))を、0.5以上、0.94以下に設定することで、処理時間の大幅な改善や細胞濃縮液中の有核細胞含有濃度(cell/mL)の向上といった効果が得られる。
【0031】
本発明において、前記細胞含有液の液量について特に制限はないが、処理時間の短縮やドナー患者の負担を軽減する観点より、上限として1000mL以下、900mL以下、800mL以下、700mL以下、600mL以下、500mL以下、400mL以下、300mL以下、200mL以下、150mL以下、下限として10mL以上、20mL以上、30mL以上、40mL以上、50mL以上、60mL以上、70mL以上、80mL以上、90mL以上、100mL以上の液量で行なってもよい。
【0032】
本発明は最初に前記細胞分離フィルターに通液する回収液の処理量(mL)と回収液の全量(mL)の比(最初に前記細胞分離フィルターに通液する回収液の処理量(mL)/回収液の全量(mL))が、0より大きく、0.61以下であることを特徴とする。最初に前記細胞分離フィルターに通液する回収液の処理量(mL)と回収液の全量(mL)の比(最初に前記細胞分離フィルターに通液する回収液の処理量(mL)/回収液の全量(mL))が、0より大きく、0.61以下に設定することで、単に回収液を分割して導入するよりも、さらに効率的に細胞を回収することができる。回収液を分割して導入するにあたっては、最初に導入する回収液量を少なくすることで、効率的に細胞を回収することできる。より好ましくは、最初に前記細胞分離フィルターに通液する回収液の処理量(mL)と回収液の全量(mL)の比が0.13以上、0.5以下に設計することで、より細胞濃縮液中の有核細胞含有濃度(cell/mL)の向上といった効果が得られる。
【0033】
本発明において、回収液の液量について特に制限はないが、回収液の用途に合わせて設計することが好ましく、例えば、回収液を培養に用いる場合は、培養容器の容積に応じて設計すれば良く、回収液を濃縮して治療に用いる場合には、前記細胞含有液の液量よりも少なく設計するか、あるいは点滴バック、注射器又はシリンジ等の容積に合わせて回収液の液量を設計すればよい。
【0034】
また、本発明は前記導入口から細胞含有液を分割して導入する前に、前記導入口からプライミング液を導入し、前記細胞分離フィルターをプライミングする工程を行なってもよい。前記導入口からプライミング液を導入し、プライミングすることで、細胞分離フィルター内の夾雑物や気泡を除去することができるため、より効率的に細胞を捕捉することができる。前記プライミング液は生理食塩水や緩衝液など、細胞に影響を与えない液が挙げられる。
【0035】
また、本発明は前記導出口から回収液を分割して導入する前に、前記導入口から洗浄液を導入し、前記細胞分離フィルターを洗浄する工程を行なってもよい。前記導入口から洗浄液を導入し、前記細胞分離フィルターを洗浄することで、フィルター内の夾雑物を除去することができるため、回収液中の夾雑物を低減することができる。
【0036】
本発明の製造方法は、室温下で行ってもよいし、冷蔵温度下で行ってもよい。冷蔵温度下で行う場合、冷蔵された細胞含有液を導入することが挙げられる。細胞含有液の冷蔵方法としては、冷蔵庫、ウォーターバスまたはドライアイスによる冷蔵等が挙げられる。冷蔵温度としては、1℃以上6℃以下が好ましく、3℃以上5℃以下がより好ましい。
【0037】
本発明で製造された細胞濃縮液は、培養して増殖させてもよいし、治療用途として用いてもよい。具体的な治療用途としては、細胞濃縮液に含まれる有核細胞の治療効果にあわせて用いれば特に限定されないが、例えば、虚血性疾患、血管系疾患が挙げられる。さらに、細胞濃縮液に含まれる有核細胞を、分化誘導剤等によって所望の細胞に分化誘導することで、軟骨損傷、骨疾患、心筋疾患、血管疾患、神経疾患などの患者に移植する細胞として使用することができる。
【0038】
前記分化誘導剤としては、細胞を分化誘導できるものを使用することが好ましく、例えば、軟骨への分化誘導剤としてはデキサメタゾン、TGFβ、インシュリン、トランスフェリン、エタノールアミン、プロリン、アスコルビン酸、ピルビン酸塩、セレン等が挙げられ、骨への分化誘導剤としてはデキサメタゾン、β−グリセロリン酸、ビタミンC、アスコルビン酸塩等が挙げられ、心筋への分化誘導剤としてはEGF、PDGF、5−アザシチジン等が挙げられ、神経への分化誘導剤としてはEGF、bFGF、bHLH等が挙げられ、血管への分化誘導剤としてはbFGF、VEGF等が挙げられる。
【0039】
本発明の製造方法より得られた細胞濃縮液、有核細胞及び前記有核細胞を増殖させた細胞集団を凍結保存してもよい。細胞へのダメージを低減させる観点から、液体窒素を用いて凍結保存することが好ましい。なお、凍結保存した細胞は、ヒトや動物への移植、研究への使用、又は再度培養することができる。
【0040】
本発明の製造方法より得られた細胞濃縮液、有核細胞及び前記有核細胞を増殖させた細胞集団を用いて医薬品組成物も製造することができる。前記細胞濃縮液や細胞集団を薬学的に許容される添加剤と混合することで医薬品組成物を製造することができる。前記薬学的に許容される添加剤としては、凝固剤、ビタミン等の栄養源、抗生物質等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明を具体的に説明するために詳細な実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
直径52mmのポリカーボネート製の円筒状容器に、ポリブチレンテレフタラート製の円形の不織布(細胞分離材)105枚を、積層状態で充填し、上下の開口部にノズル付押え部材を差し込み、その上からキャップでネジ止めし、細胞分離フィルターを作製した。まず生理食塩水50mLを入口側よりシリンジを用いて手押し3回通液した。次にCPD抗凝固の新鮮ウシ血液150mL(CPD:血液=1:4で混合した20%CPDを含むウシ末梢血)を重力落下により導入口より通液した。前記血液の全量である150mLを最初が140mL、残りが10mLとなるように分割して細胞分離フィルターに通液した後、血液の通液とは逆方向から6%ヒドロキシエチルスターチを、それぞれ11.5mLずつシリンジを用いて手押しで流し、合計23mLの回収液を得た。その後、処理前血液の血算、回収した溶液の血算を血球カウンター(シスメックス、K−4500)により測定し、血球細胞の回収率を算出した。試験条件詳細及び結果を表1、2に示す。
【0043】
(実施例2)
実施例1と同様にして細胞分離フィルターを作製した。次に実施例1と同様に生理食塩水を3回通液し、CPD抗凝固の新鮮ウシ血液150mL(CPD:血液=1:4で混合した20%CPDを含むウシ末梢血)を全量として、75mLずつ2回に分割し、それぞれ自然落下により導入口より通液した。次に血液の通液とは逆方向から6%ヒドロキシエチルスターチを、それぞれ11.5mLずつシリンジを用いて流し、合計23mLの回収液を得た。その後、処理前血液の血算、回収した溶液の血算を血球カウンター(シスメックス、K−4500)により測定し、血球細胞の回収率を算出した。試験条件詳細及び結果を表1、2に示す。
【0044】
(実施例3)
実施例1と同様にして細胞分離フィルターを作製した。次に実施例1と同様に生理食塩水を3回通液し、CPD抗凝固の新鮮ウシ血液150mL(CPD:血液=1:4で混合した20%CPDを含むウシ末梢血)を全量として、75mLずつ2回に分割し、それぞれ自然落下により導入口より通液した。次に血液の通液とは逆方向から6%ヒドロキシエチルスターチを、最初を3mL、残りを20mLとなるようにそれぞれ分割して流し、合計23mLの回収液を得た。その後、処理前血液の血算、回収した溶液の血算を血球カウンター(シスメックス、K−4500)により測定し、血球細胞の回収率を算出した。試験条件詳細及び結果を表1、2に示す。
【0045】
(比較例1)
実施例1と同様にして細胞分離フィルターを作製し、生理食塩水を3回通液した。その後CPD抗凝固の新鮮ウシ血液150mL(CPD:血液=1:4で混合した20%CPDを含むウシ末梢血)を全量として、全量を分割せずに自然落下により導入口より通液した。次に血液の通液とは逆方向から6%ヒドロキシエチルスターチを分割せずに全量の23mLを流した。その後、処理前血液の血算、回収した溶液の血算を血球カウンター(シスメックス、K−4500)により測定し、血球細胞の回収率を算出した。試験条件詳細及び結果を表1、2に示す。
【0046】
(比較例2)
実施例1と同様にして細胞分離フィルターを作製し、生理食塩水を3回通液した。その後CPD抗凝固の新鮮ウシ血液150mL(CPD:血液=1:4で混合した20%CPDを含むウシ末梢血)を全量として、75mLずつ2回に分割し、それぞれ自然落下により導入口より通液した。次に血液の通液とは逆方向から6%ヒドロキシエチルスターチを分割せずに全量の23mL流した。その後、処理前血液の血算、回収した溶液の血算を血球カウンター(シスメックス、K−4500)により測定し、血球細胞の回収率を算出した。試験条件詳細及び結果を表1、2に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
(実施例4)
直径30mmのポリカーボネート製の円筒状容器に、レーヨン製の円形の不織布(細胞分離材)36枚を積層状態で充填し、ノズル、及び直径26mmの押さえ込み部材にて不織布を固定した細胞分離フィルターを作製した。生理食塩水30mLを導入口側より通液し、ヘパリンにより抗凝固した新鮮ブタ骨髄液合計60mL(ヘパリン50単位)を全量として、自然落下により導入口より30mLずつ2回に分割して通液した。次に骨髄液の通液と同方向からそれぞれ15mLの生理食塩水を流して洗浄し、その後それぞれ25mLずつのDMEM培地を骨髄液の通液とは逆方向から流し、合計50mLの回収液を得た。回収液をポリスチレン製シャーレ(直径10cm、IWAKI社)に移し、37℃、CO2インキュベーター内で培養を行った。2〜3日ごとに培地交換し、培養開始9日後にクリスタルバイオレットでコロニーを染色して出現したコロニー数を測定した。出現したコロニー数より間葉系幹細胞の総数を求めた。試験条件及び結果を表3及び4に示す。
【0050】
(比較例3)
実施例4と同様にして細胞分離フィルターを作製した。生理食塩水を導入口側より通液し、ヘパリンにより抗凝固した新鮮ブタ骨髄液60mL(ヘパリン50単位)を分割せずに自然落下により導入口より通液した。その後、骨髄液の通液と同方向からそれぞれ15mLの生理食塩水を流して洗浄し、分割せずに50mLのDMEM培地を骨髄液の通液した方向とは逆方向から流すことで回収液を得た。実施例4と同様の方法で回収できた総間葉系幹細胞(MSC)数をコロニー出現数より求めた。試験条件及び結果を表3及び4に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
実施例1〜3では、接着性を有する有核細胞の回収率は68%〜72%、接着性の弱い赤血球の回収率は12%〜13%となった。一方、比較例1、2では、赤血球の回収率は10%〜13%とほぼ変わらないものの、有核細胞回収率は60%〜62%と低い収率になった。実施例4では、回収液中の間葉系幹細胞(MSC)の総数は2160CFUとなった。一方、比較例3では、間葉系幹細胞の総数が1380CFUとなり、収率の低下が見られた。赤血球の収率に関しては両者とも差はほぼなかった。したがって、血液もしくは骨髄液、及び回収液をそれぞれある一定の割合で分割して導入した際に、特に治療効果の高い接着性を有する細胞をより効率良く回収・濃縮できる効果があることがわかる。
【0054】
上述とおり、本発明の製造方法を用いることで、処理できる細胞含有液量及び回収できる有核細胞数が増加し、それに伴って細胞濃度も増加するため、最終的に用いる細胞濃縮液の質の向上が期待できる。