【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様によれば、石造アーチと、この石造アーチの各端部に位置するスパンドレル(窓小間)壁とを備える石造アーチ橋の下方のスペースを拡大する方法は、スパンドレル壁を切断して石造アーチの各側に切断部を形成することにより石造アーチ橋に移動可能部分を形成するステップと、移動可能部分に持ち上げ力を加えて石造アーチを持ち上げ位置まで持ち上げるステップと、石造アーチを持ち上げ位置に固定させるステップとを含んでいる。
持ち上げ前に強化手段が石造アーチに設けられないようになっていてもよい。
【0005】
或いは、持ち上げ前に強化手段が石造アーチに設けられてもよい。
本記載の文脈では、強化手段とは、石造アーチを強化するために持ち上げ前に石造アーチ橋に設けうる手段のことである。当該手段は、石造アーチの構造の外側の手段であってもよい。
【0006】
本発明の他の態様によれば、石造アーチと、この石造アーチの各端部に位置するスパンドレル壁とを備える石造アーチ橋の下方のスペースを拡大する方法は、石造アーチに強化手段を設けるステップと、石造アーチに持ち上げ力を加えて石造アーチを持ち上げ位置まで持ち上げるステップと、石造アーチを持ち上げ位置に固定させるステップとを含んでいる。
かかる方法は、持ち上げ力を加える前に、スパンドレル壁を切断して石造アーチの各側に切断部を形成することにより石造アーチ橋に移動可能部分を形成するステップをさらに含んでいる。
【0007】
本発明の他の態様によれば、上面と、各端部に位置するスパンドレル壁と、石造アーチに設けられる強化手段とを備える石造アーチ橋が提供されている。
強化手段を設けるステップは石造アーチに圧縮力を加えるステップを含んでもよい。強化手段は、石造アーチの上方に設けられてもよい。
強化手段は、石造アーチに対して1つ以上の紐状構造体(tendon)を固定し、紐状構造体に張力を加えることにより設けられるようになっていてもよい。
【0008】
石造アーチの頭頂部の上方の領域において第1及び第2の紐状構造体が横方向にオーバーラップするようになっていてもよい。紐状構造体は一般的に石造アーチの上方に位置決められている。このような位置決めにより、適切な圧縮力の提供が可能となることに加えて、強化手段が設けられている間、乗り物または他の交通手段が石造アーチ橋の下を通過することが可能となる。
【0009】
紐状構造体はスパンドレル壁、欄干または石造アーチに固定されてもよい。紐状構造体の一方の端部は頭頂部の一方側に固定され、紐状構造体の他方の端部は頭頂部の他方側に固定されるようになっていてもよい。紐状構造体は、内側横方向に向けて上方に傾斜するようになっていてもよい。紐状構造体は、持ち上げ力が加えられているときに石造アーチ内で十分に安定な圧縮力を維持するような方向に位置決めされてもよい。1つの(または、一組の)紐状構造体が頭頂部の第1の側の上側固定位置から延び、他の(または、他の組の)紐状構造体が第1の側とは反対側の頭頂部の第2の側の上側固定位置から延びるようになっていてもよい。これらの(これらの組の)紐状構造体はそれぞれ下側固定位置に延びるようになっていてもよい。上側固定位置は行き止まりでなく(ライブエンド、live end)、下側固定位置は行き止まり(デッドエンド、dead end)であってもよい。各紐状構造体の水平方向に対する角度はほぼ等しくなっていてもよい。
【0010】
石造アーチ橋は1つ以上の内側スパンドレル壁を備えていてもよい。さらなる紐状構造体が内側スパンドレル壁に設けられていてもよい。
強化手段は、石造アーチに力を加えるように配置されかつ方向付けされる1つ以上のデバイス、例えばジャッキであってもよい。この力は少なくとも水平方向の成分を有している。かかるデバイスは圧縮状態で作用してもよい。かかるデバイスは力が少なくとも石造アーチの横方向の成分を有するように方向付けされてもよい。かかるデバイスは、石造アーチに対して実質的に水平かつ横方向のみの力を加えるようになっていてもよい。かかるデバイスは石造アーチに対して水平かつ横方向に延びていてもよい。1つ以上のデバイスが石造アーチの切断部にまたは切断部内に配置されていてもよい。切断部が石造アーチの軸方向に延びている場合(下記記載を参照)、かかるデバイスは切断部に沿って等間隔に並べられてもよい。また、コアードホールが形成され、かかるデバイスがコアードホールの中に挿入されるようになっていてもよい。かかるデバイスは切断部が形成される前または後に装着されるようになっていてもよい。切断部が形成される前に装着されるようになっている場合、このことは、切断の間、石造に対するストレスを減らすことができる。コアードホールは、約400〜500mm、好ましくは450mmの直径を有していてもよい。隣接するコアードホールの中心は約1mだけ離れていてもよい。コアードホールは、少なくとも1つのレンガ造りの構造物がコアードホールの下(例えば、コアードホールと石造アーチの下面との間)に残されうるようなサイズ及び間隔で形成及び配置されるようになっていてもよい。1つ以上のデバイスは、アーチ作用に起因する元から存在するスラストを少なくとも部分的に維持するようになっていてもよいしまたは増大させるようになっていてもよい。
【0011】
強化手段はサドルであってもよい。サドルは石造アーチの上面に配置されるようになっていてもよい。サドルは石造アーチと結合されるようになっていてもよい。
サドルを石造アーチの上面に設けるステップは、強化コンクリート製サドルを石造アーチの上面に打設成形してコンクリートを硬化させるステップを含んでいてもよい。さらに、サドルを石造アーチの上面に設けるステップは、強化コンクリート製サドルに後張力(post-tensioning)を加えるステップを含んでいてもよい。粘着性を有するコンクリートと後張力を加えることとにより、サドルを石造アーチの上面に堅固に固定することが可能となる。固定を改善する目的で、サドルを設ける前に、石造アーチの上面が例えばジェット洗浄により洗浄されるようになっていてもよい。サドルと石造アーチとの間で機械的アンカーを用いることにより固定をもたらしかつ/または固定を強化するようにしてもよい。
【0012】
強化手段を設けることにより、持ち上げ力を加える際に生じる恐れのある石造アーチの不安定化が削減される。持ち上げ力を加えると、石造アーチ内に通常存在している重力による圧縮力及びひいてはアーチ作用が削減されてしまう恐れがある。
サドルを石造アーチの上面に設けると石造アーチの持ち上げ高さを最大化する助けとなり、サドルを石造アーチの下側に設けると石造アーチの下方のスペースを削減させてしまうことになる。さらに、サドルのこの位置により、持ち上げ手段へのアクセスの改善が可能となる。さらに、この位置で、サドルは、石造アーチの外部をなにも覆わないので石造アーチ橋の外観に大きな影響を与えることはない。さらに、かかる方法のほとんどのステップは今までどおり乗り物が石造アーチ橋の下を通過している間に実行することができる。したがって、輸送ネットワークのダウンタイムを最小限に抑えられることになる。このことは、非常に長い期間にわたって輸送ネットワークを中断してしまうことになる地面掘り下げ技術または再建技術とは対照的である。
【0013】
スパンドレル壁は石造アーチの軸方向の端に位置している。スパンドレル壁は、隣接する石造アーチ、石造アーチ橋の頂部かつ/または石造アーチ橋の基礎部まで広がるものであってもよい。また、スパンドレル壁は石造アーチ橋の端壁であると考えられてもよい。
横方向は、石造アーチ橋の軸方向(縦方向)に対して直角かつ水平な方向として定義されてもよい。
【0014】
移動可能部分を形成することにより持ち上げる必要のある質量が削減される。切断部は石造アーチの頭頂部の横方向外側に形成されてもよい。さらに、切断部は石造アーチ全体の横方向外側に形成されてもよい。切断部は、石造アーチの頭頂部と石造アーチの横方向外側の周縁との中間に形成されてもよい。このようにすることにより、石造アーチ橋全体または石造アーチ全体を持ち上げる必要がなくなる。良好な切断部を提供するために、石造アーチ橋の切断はワイヤーソー、好ましくはダイヤモンドソーまたはくりぬき技術を用いて達成されてもよい。また、石造アーチ橋の切断は、例えば石造用のウエッジを用いて石造アーチ橋を分割することにより達成されてもよい。
【0015】
かかる方法は、スパンドレル壁の切断部に隣接する石造アーチの部分を切断して移動可能部分を形成するステップをさらに含みうる。これらの切断部は石造アーチに沿って軸方向に延びていてもよい。このことは、例えば、スパンドレル壁の切断部が頭頂部と石造アーチの横方向外側の端部との中間に形成されるときに必要となりうる。
持ち上げの間、石造アーチを支えるためにシムウエッジ(shim wedges)が切断部及び/またはジャックポケットの中に挿入されるようになっていてもよい。このようなシムウエッジは、持ち上げ時にギャップが切断部に形成される時に石造アーチを支えるために本発明にかかる実施形態のうちのいずれの実施形態においてでも用いることができる。好ましくは、これらのシムウエッジは厚みが約50mmでありうる。
【0016】
本発明の態様によっては、強化手段を必要としない場合もある。
持ち上げの間、石造アーチがその構造的完全性を維持することを担保するために石造アーチのアーチ作用が十分に維持されるように持ち上げ力が加えられるようになっていてもよい。
持ち上げ力は石造アーチの下側部分に加えられてもよい。
持ち上げ力の少なくとも1つの成分が石造アーチを圧縮するように作用するようになっていてもよい。
このようにすると、持ち上げの間外部からの強化する必要がなくなる。もっと正確にいえば、かかる方法は、石造アーチの自然なアーチ作用及び/または持ち上げ力に起因する圧縮に依存するようになっていてもよい。
持ち上げ力は1つ以上の持ち上げデバイスによって提供されるようになっていてもよい。
【0017】
持ち上げ力は、石造アーチを該石造アーチの上方に配置される支持構造体に接続する1つ以上の引張り部材によって提供されるようになっていてもよい。さらに、この支持構造体は石造アーチに沿って延在するようになっていてもよい。好ましくは、支持構造体は石造アーチを横方向に延びるようになっていてもよい。支持構造体は、石造アーチをその軸方向に延びるようになっていてもよい。引張り部材は持ち上げ用のストランドまたは持ち上げ用の棒であってもよい。支持構造体はトラスまたは支持ビームであってもよい。好ましくは、引張り部材は、石造アーチ、好ましくは石造アーチの下側部分に直接接続されてもよい。引張り部材は強化手段に接続されてもよい。支持構造体は、石造アーチ橋の横側の土手に設置されうる支持構造体用の基礎により支えられるようになっていてもよい。トラスはモジュールトラスであってもよい。トラスは上側筋交い部及び下側筋交い部を有するようになっていてもよい。下側筋交い部は、石造アーチへのアクセスを容易にするためにトラスから取り除き可能となっていてもよい。持ち上げ力が加えられる前にトラスに下側筋交い部が設けられるようになっていてもよい。
【0018】
持ち上げ力はジャッキにより加えられてもよい。ジャッキを支持構造体の基礎に配置することにより支持構造体、引張り部材及び移動可能部分を持ち上げるようにしてもよい。ジャッキはラムジャッキであってもよい。それに代えてまたはまたそれに加えて、ジャッキを石造アーチ橋の切断部内に配置してもよい。ジャッキは傾けられていてもよい。
それに代えて、引張り部材がジャッキであってもよい。例えば、引張り部材がストランドである場合に当該ストランドがストランド型ジャッキであってもよい。この場合、支持構造体は持ち上げの間静止したままであってもよい。
【0019】
サドルは持ち上げビームを有していてもよい。引張り部材は持ち上げビームに接続される。持ち上げビームはサドルの軸方向に延びるビームであってもよい。持ち上げビームは引張り部材を取り付けうるアンカーポイントを有していてもよい。サドルの頭頂部の各側に1個ずつ2つの持ち上げビームが設けられるようになっていてもよい。これら2つの持ち上げビームはサドルの頭頂部の各側に対称的に配置されるようになっていてもよい。
【0020】
移動可能部分及び引張り部材は石造アーチの頭頂部を中心として対称になっていてもよい。移動可能部分が回転しないように持ち上げ力の合力が移動可能部分の重心を通って作用するようになっていてもよい。
サドルは2組の紐状構造体を有し、各組の紐状構造体は第1及び第2のライブエンドと第1及び第2のデッドエンドとの間を延びるようになっていてもよい。これら紐状構造体は、軸(縦)方向に間隔をおいて並べられ、おおむね横方向に延びているようになっていてもよい。これら紐状構造体は、横方向に等間隔に並べられていてもよい。
【0021】
各組の紐状構造体の第1及び第2のライブエンドは軸方向に並べられていてもよい。これらの第1及び第2のライブエンドはサドルの頭頂部に配置されるようになっていてもよい。こうすることにより、張力を加えるためにライブエンドにアクセスすることが容易となる。第1及び第2のデッドエンドはサドルの両側の下側部分に配置されてもよい。第1のライブエンドは第1のデッドエンドよりも第2のデッドエンドの方により近い位置に配置され、第2のライブエンドは第2のデッドエンドよりも第1のデッドエンドの方により近い位置に配置されるようになっていてもよい。このことにより、二組の紐状構造体にサドルの頭頂部でオーバーラップさせることが可能となる。このように配置することにより、サドルの後張力の質及びサドルの固定が良好なものとなる。
【0022】
石造アーチが石造アーチの両側の橋脚により支えられ、持ち上げ力が橋脚で加えられるようになっていてもよい。持ち上げ力はジャッキ、好ましくはラムジャッキを用いて加えられてもよい。ジャッキは橋脚のジャッキ用ポケットに収容されてもよい。ジャッキ用ポケットは橋脚を切断または抜き加工することにより形成可能である。
石造アーチを持ち上げ位置に固定することは石造アーチを持ち上げた時に形成されるギャップを充填するまたはギャップにグラウトを詰めることを含んでいてもよい。いったん石造アーチが固定されたならば、持ち上げ力が削除されてもよい。
【0023】
1つの実施形態では、石造アーチ橋の移動可能部分は、持ち上げ時、線形の垂直方向の移動、すなわち回転なしの移動を行うようになっていてもよい。この実施形態では、移動可能部分は、石造アーチと石造アーチ橋のうちの石造アーチの実質的に垂直方向上方の部分とを含むようになっていてもよい。
またこの実施形態では、切断部が実質的に垂直方向のものであってもよい。この場合、石造アーチの両側と垂直方向の切断部との間に水平方向の切断部が形成されてもよい。このような切断部が形成され、石造アーチが持ち上げられると、水平方向の切断部の位置にそれぞれギャップが生じることになる。石造アーチを持ち上げ位置に固定するために、このギャップが充填されるまたはこのギャップにグラウトが詰められるようになっていてもよい。
【0024】
切断部が横方向外側に向けて上方に傾斜するようになっていてもよい。この場合、水平方向の切断部を必要としない場合もある。このような切断部が形成され、石造アーチが持ち上げられると、上方に傾斜する切断部のそれぞれの位置にギャップが生ずることになる。石造アーチを持ち上げ位置に固定するために、このギャップが充填されるまたはこのギャップにグラウトが詰められるようになっていてもよい。
【0025】
他の実施形態では、石造アーチ橋の移動可能部分は、持ち上げられる時に回転移動を行うようになっていてもよい。このことはサドルを用いて達成されてもよいしまたはサドルを用いないで達成されてもよい。
サドルを用いる場合、サドルは第1のサドル部及び第2のサドル部を有し、第1のサドル部は石造アーチの第1の部分に設けられ、第2のサドル部分は石造アーチの第2の部分に設けられるようになっていてもよい。石造アーチは、石造アーチの第1の部分及び第2の部分からなっていてもよい。好ましくは、第1のサドル部及び第2のサドル部は石造アーチの頭頂部で合流するようになっていてもよい。第1のサドル部及び第2のサドル部はそれぞれ石造アーチの上面の半分側の面、すなわち石造アーチの基端から頭頂部までの面に設けられてもよい。
【0026】
第1のサドル部及び第2のサドル部はそれぞれライブエンドとデッドエンドとの間を延びる1組の紐状構造体を有していてもよい。これら紐状構造体は軸方向に間隔をおいて並べられ、横方向で延びるようになっていてもよい。これら紐状構造体は均等に間隔をおいて並べられていてもよい。
一組の紐状構造体のライブエンド及びデッドエンドは軸方向に並べられていてもよい。デッドエンドがサドルの頭頂部に配置されるようになっていてもよい。ライブエンドがサドル部の横方向の周縁に配置されるようになっていてもよい。紐状構造体は、サドルの頭頂部の外側周縁から横方向内側に向けて上方に傾斜するようになっていてもよい。このように配置することにより、サドルの後伸張の質及び固定が向上する。
【0027】
サドルの上面がほぼ元の道路レベルの位置に来るようにコンクリート製サドルが打設成形されてもよい。このように配置することにより、いったん石造アーチ橋を持ち上げた後で道路面を削正(re-profiling)する必要がなくなる。
サドルが用いられるか否かにかかわらず、かかる方法は、持ち上げ力を加える前に、スパンドレル壁のうちの石造アーチの横方向外側の部分にウエッジ形状のギャップを形成するステップと、石造アーチを切断して第1及び第2の移動可能部分を形成するステップとをさらに含んでいてもよい。
【0028】
好ましくは、サドルが用いられる場合、石造アーチは第1のサドル部と第2のサドル部と交わる位置で切断されるようになっていてもよい。
好ましくは、サドルが用いられるか否かにかかわらず、石造アーチは石造アーチの頭頂部で切断されるようになっていてもよい。さらに、水平方向の切断部が橋脚に形成されてもよい。
【0029】
第1及び第2の移動可能部分が形成され、持ち上げ力が加えられる時、第1及び第2の移動可能部分がそれぞれ第1及び第2の支点を中心として枢動するようになっていてもよい。第1及び第2の支点は石造アーチから横方向外側の位置に配置されていてもよい。この位置は、例えば石造アーチ橋が土手と交わる位置であってもよい。この位置は、石造アーチが橋脚と交わる位置またはその近傍であってもよい。この位置は、石造アーチの横方向外側にあるさらなる石造アーチ内であってもよい(以下を参照)。例えば3重アーチ式石造アーチ橋では、この位置は、外(側)の石造アーチ内における、当該外側石造アーチの横方向外側の端から当該外側石造アーチのスパンの約4分の1の位置のところであってもよい。第1及び第2の移動可能部分を枢動させるためには、持ち上げ力を第1及び第2の移動可能部分の重心の横方向内側の位置で第1及び第2の移動可能部分に加える必要がある。
【0030】
当該支点にウエッジ形状のギャップの先端が位置すべきである。ウエッジ形状のギャップの角度は、石造アーチ橋の下方のスペースを必要とする分だけ拡大させるのに十分なだけ第1及び第2の移動可能部分を回転させるのを可能とするのに十分に足りるものである必要がある。
石造アーチ橋を固定するステップは石造アーチ橋の第1の部分と第2の部分との間にウエッジを挿入または形成するステップを含んでもよい。さらに、水平方向の切断部の位置に形成されるギャップを充填するようになっていてもよいし、又はそこにグラウトを詰めるようになっていてもよい。
【0031】
例えば切断部、ギャップまたはウエッジ形状のギャップを充填するグラウトのような、石造アーチ橋を持ち上げ位置で固定するために用いられる任意の石造構造物、モルタル、コンクリートまたはグラウトは、設けられて、次いで、例えば約24時間硬化させられるようになっていてもよい。当該設けるステップ及び/または硬化させるステップは、持ち上げ力及び/または強化手段が石造アーチ橋に加えられているまたは設けられている間に行うようにしてもよい。いったん設けて/硬化させてしまえば、強化手段及び/または持ち上げ力を取り除いてもよい。
このように移動可能部分を枢動させる利点としては、石造アーチ橋の固定後、道路面を削正する必要がない点が挙げられる。というのは、回転により道路面が既に傾斜させられているからである。
【0032】
一実施形態では、石造アーチ橋は単一アーチ式石造アーチ橋であってもよい。
他の実施形態では、石造アーチ橋が1つ以上のさらなる石造アーチと、それに対応し、隣接する石造アーチ間に位置する1つ以上の橋脚とを備える多重アーチ式石造アーチ橋であり、当該さらなる石造アーチには強化手段が設けられるようになっている。
【0033】
以上のように、多重アーチ式石造アーチ橋は複数の石造アーチを備えている。隣接する石造アーチは、橋脚を共有し、ひいてはこの橋脚により分離されるようになっていてもよい。スパンドレル壁内のウエッジ形状のギャップは、最も外側の石造アーチの横方向外側に配置されるようになっていてもよい。最も外側の石造アーチとは、石造アーチ橋の中心から横方向に最も遠い2つの石造アーチのことである。それに代えて、ウエッジ形状のギャップが隣接する石造アーチ間に配置されるようになっていてもよい。それに代えて、ウエッジ形状のギャップが外側または最も外側の石造アーチ内に配置されてもよい。例えば3重アーチ式石造アーチ橋では、ウエッジ形状のギャップが、外側石造アーチにおける外側または最も外側の石造アーチの横方向外側の端から当該外側または最も外側の石造アーチ橋のスパンの約4分の1の位置に配置されるようになっていてもよい。
【0034】
本発明に関連して記載されている石造アーチは上述の複数の石造アーチのうちのいずれの1つであってもよい。また、上述の石造アーチのうちの1つ以上に本発明が適用されてもよい。
多重アーチ式石造アーチ橋は2つの石造アーチからなっていてもよい。これら2つの石造アーチは最も外側のアーチであると考えられてもよい。
多重アーチ式石造アーチ橋は奇数個の石造アーチからなっていてもよい。この場合、本発明に関連して記載されている石造アーチは中央の石造アーチであってもよい。
【0035】
多重アーチ式石造アーチ橋は、中央の石造アーチの一方側に1つ以上の第1の側の石造アーチと、中央の石造アーチの他方側に1つ以上の第2の側の石造アーチを備えていてもよい。第1の側の石造アーチの数と第2の側の石造アーチの数とは同じ数であってもよい。石造アーチ橋が中央の石造アーチの頭頂部を中心として対称となるように、第1の側の石造アーチと第2の側の石造アーチとが相互に対応するようになっていてもよい。橋脚が、隣接する石造アーチの間に位置し、当該隣接する石造アーチを支えるようになっていてもよい。当該技術分野では、これら横側の石造アーチはバックアーチとして知られている。
【0036】
切断部が中央のアーチ、好ましくは頭頂部に形成されるようになっていてもよい。
例えば、多重アーチ式石造アーチ橋は3重アーチ式石造アーチ橋であってもよい。3重アーチ式石造アーチ橋は、第1及び第2の側の石造アーチと、中央の石造アーチと第1の側の石造アーチとに隣接する第1の橋脚と、中央の石造アーチと第2の側の石造アーチとに隣接する第2の橋脚とを備えていてもよい。
【0037】
この場合、第1のサドル部は第1の側の石造アーチの上面及び中央の石造アーチ橋の一部分に設けられ、第2のサドル部は第2の側の石造アーチの上面及び中央の石造アーチのその他の部分に設けられるようになっていてもよい。
石造アーチに少なくとも水平方向の成分を有する力を加えるように配置及び方向付けされる1つ以上のデバイスが中央の石造アーチの切断部に配置されるようになっていてもよい。
【0038】
スパンドレル壁のウエッジ形状のギャップは、第1の側の石造アーチ及び第2の側の石造アーチの横方向外側に配置されるようになっていてもよい。それに代えて、ウエッジ形状のギャップは第1の側の石造アーチ及び第2の側の石造アーチの内部に設けられるようになっていてもよい。例えば、ウエッジ形状のギャップは、第1の側の石造アーチ及び/または第2の側の石造アーチにおける第1の側/第2の側の石造アーチの横方向外側の端から当該第1の側/第2の側の石造アーチのスパンの約4分の1の位置に形成されるようになっていてもよい。
それに代えて、スパンドレル壁が十分に小さい場合または石造アーチ橋の幾何学形状が許す場合には、ウエッジ形状のギャップは例えば切断部と交換されてもよい。
それに加えてまたはそれに代えて、かかる方法は切断部にベアリングを設けるステップを含んでいてもよい。
【0039】
1つ以上のベアリングが設けられてもよい。ベアリングは移動可能部分の横方向外側に設けられるようになっていてもよい。持ち上げの間、ベアリングは石造アーチの圧縮、ひいてはアーチ作用を維持するよう作用するようになっていてもよい。持ち上げの間、ベアリングは摩擦を削減するようになっていてもよい。ベアリングは、圧縮を提供してもしくはすることなく石造アーチ橋の構造形態を維持するようになっていてもよい(例えば、石造構造物の粉砕を防止することにより)。ベアリングは移動可能部分の第1の面と当該第1の面に隣接する石造アーチ橋のその他の部分に形成される第2の面との間に設けられてもよい。これらの面は平坦であってもよい。これらの面は垂直方向であってもよい。これらの面は石造アーチ橋の軸方向に延びるようになっていてもよい。これらベアリング面は実質的に切断部の軸方向の長さ全体にわたって設けられてもよいし設けられなくともよい。これらベアリング面は実質的に切断部の深さ全体にわたって延びていてもよいし延びていなくともよい。切断部の軸方向の長さとは、石造アーチの軸方向とおおむね平行な水平方向の長さのことである。
【0040】
切断部は1つ以上のコアードホールを有していてもよい。コアードホールは実質的に垂直方向であってもよい。コアードホールはおおむね円状の断面形状を有していてもよい。コアードホールは、互いに隣接するように配置され、実質的に切断部の軸方向の長さ全体を形成するようになっていてもよい。コアードホールは、互いに間隔をおいて並べられていてもよい。コアードホールは、個々別々のものであり、石造構造物を通る切断部により連結されるようになっていてもよい。
ベアリングは、コアードホールの各々に設けられてもよいし、または、コアードホールのうちの一部にのみ設けられてもよい。
【0041】
ベアリングは、互いに実質的に同一でありうる2つの平坦な部分を有していてもよい。 これらの平坦な部分の幅は実質的にコアードホールの直径と同じであってもよい。
これらの平坦な部分の長さは実質的にコアードホールの深さと同じであってもよい。
これらの平坦な部分の長さはコアードホールの深さよりも大きくてもよい。
これらの平坦な部分の長さはコアードホールの深さ未満であってもよい。使用時、これらの平坦な部分はコアードホールの下側部分に配置されてもよい。ベアリングは、平坦な部分からかつコアードホールから外へ延びるように構成される1つ以上の延長部をさらに有していてもよい。延長部により、ベアリングをコアードホールの中への挿入すること、コアードホールからの取り出すこと及びコアードホール内で位置決めすることが可能となる。使用時、延長部はおおむね垂直方向に延びるようになっていてもよい。
【0042】
ベアリングは摩擦低減手段を有していてもよい。摩擦低減手段は第1の面と第2の面との間に設けられていてもよい。摩擦低減手段は平坦な部分の面積と実質的に類似する面積を有していてもよい。摩擦低減手段は第1の面及び第2の面のうちの一方に設けられていてもよいしまたはどちらにも設けられていなくともよい。摩擦低減手段はグリースであってもよい。グリースは層として設けられてもよい。摩擦低減手段はPTFE層であってもよい。第1の面及び第2の面はステンレス鋼の面であってもよい。平坦な部分はステンレス鋼の層であってもよい。
【0043】
ベアリングは、当該ベアリングの面を保護するための手段(保護手段)を有していてもよい。当該保護手段は保護層であって、2つの面の間に配置されてもよい。保護手段は弾力性を有していてもよい。保護手段は上述の面を損傷から保護するようになっていてもよい。保護手段は摩擦低減手段を提供するようになっていてもよい。
【0044】
ベアリングは、グラウト/コンクリートにより移動可能部分及び/または石造アーチ橋のその他の部分に取り付けられるようになっていてもよい。ベアリングは、ペグを用いて移動可能部分及び/または石造アーチ橋のその他の部分に取り付けられるようになっていてもよい。ペグはコンクリート/グラウトに埋め込まれるようになっていてもよい。ベアリングは、コアードホール内に配置され、次いで、グラウト/コンクリートがコアードホールの中に注入され、ペグのまわりで硬化させられるようになっていてもよい。
各ベアリングは、約100mm〜4000mm、好ましくは500mmまたは4000mmの垂直方向の寸法と、約150mm〜500mm、好ましくは300mmの水平方向の寸法を有していてもよい。
移動可能部分は、約250mm〜1000mm、好ましくは500mmだけ持ち上げられるようになっていてもよい。
【0045】
ベアリングは、意図するすべり面に対するベアリングの僅かなずれに対処するとともに意図するすべり面に対する圧力を維持するための物質(例えば、ゴム)または液圧デバイスを有するようになっていてもよい。
強化手段を設ける前及び/又は移動可能部分を形成する前に、石造アーチ橋にシールドが設けられてもよい。また、破片用のネットが石造アーチ橋に設けられてもよい。このことは、作業全体の安全性を高め、行なわれるほとんどの作業の間、人、自動車、列車などが石造アーチ橋の下を通ることができるようになることを意味する。シールドは鋼から形成されてもよい。シールドは典型的な作業空間に収容可能となるように15mm未満の厚みを有していてもよい。シールド及び/または破片用のネットは、他の石造アーチ橋にさらに使用するために回収可能なものであってもよい。シールドは石造アーチの真下に配置されてもよい。シールドは石造アーチの下の地面により支えられてもよい。シールドはアーチ形状を有していてもよい。この形状は、石造アーチの形状におおむね沿ったものであるため、本発明にかかる方法が実行されている間、石造アーチの下の線路/車道を用いることが可能となる。石造アーチとシールドとを分離するための小さなギャップが存在していてもよい。シールドは石造アーチ橋の軸方向の端を越えて延びるようになっていてもよい。
【0046】
また、作業中、石造アーチ橋の欄干及びスパンドレル壁が無傷のままでいることを担保するために補強(brace)されるようになっていてもよい。それに代えて、欄干を取り除くようにしてもよい。さらに、既存の石造アーチ橋の充填材を掘り返して(excavate)石造アーチを掘り起こす(uncover、石造アーチのカバー(覆い)を取り除く)ようにしてもよい。掘り返されていない石造アーチ橋の充填材は斜面に戻す処理(battered back)が施されるようになっていてもよい。