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特許6616002低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616002
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20191125BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20191125BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20191125BHJP
   C21D 1/28 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   C22C38/00 301A
   C22C38/58
   C21D8/02 B
   C21D1/28
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-528629(P2018-528629)
(86)(22)【出願日】2016年12月15日
(65)【公表番号】特表2019-504187(P2019-504187A)
(43)【公表日】2019年2月14日
(86)【国際出願番号】KR2016014734
(87)【国際公開番号】WO2017105109
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2018年7月31日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0178977
(32)【優先日】2015年12月15日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オム,ギョン グン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウー ギョム
(72)【発明者】
【氏名】リ,ホン ジュ
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2013−0076569(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
C21D 1/28
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、炭素(C):0.04〜0.14%、シリコン(Si):0.05〜0.60%、マンガン(Mn):0.6〜1.8%、可溶性アルミニウム(Sol.Al):0.005〜0.06%、ニオブ(Nb):0.005〜0.05%、バナジウム(V):0.01%以下(0%は除く)、チタン(Ti):0.001〜0.015%、銅(Cu):0.01〜0.4%、ニッケル(Ni):0.01〜0.6%、クロム(Cr):0.01〜0.2%、モリブデン(Mo):0.001〜0.3%、カルシウム(Ca):0.0002〜0.0040%、窒素(N):0.001〜0.006%、リン(P):0.02%以下(0%は除く)、硫黄(S):0.003%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不可避な不純物からなり
微細組織として、フェライト、パーライト、ベイナイト、及びMA(マルテンサイト−オーステナイト複合相)の混合組織を含み、前記MAの分率が3.5%以下(0%は除く)であることを特徴とする低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材。
【請求項2】
前記鋼材は、ニオブ(Nb)を0.02〜0.05%含むことを特徴とする請求項1に 記載の低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材。
【請求項3】
前記鋼材は、フェライト以外の残りの相分率の和が18%以下(0%は除く)であるこ とを特徴とする請求項1に記載の低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材。
【請求項4】
前記鋼材は、フェライト結晶粒の平均粒子径が15μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材。
【請求項5】
前記鋼材は、平均粒子径が300nm以下の炭・窒化物を重量比率で0.01%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材。
【請求項6】
前記鋼材は、降伏比(YS(下部降伏強度)/TS(引張強度))が0.65〜0.80であることを特徴とする請求項1に記載の低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材。
【請求項7】
質量%で、炭素(C):0.04〜0.14%、シリコン(Si):0.05〜0.60%、マンガン(Mn):0.6〜1.8%、可溶性アルミニウム(Sol.Al):0.005〜0.06%、ニオブ(Nb):0.005〜0.05%、バナジウム(V):0.01%以下(0%は除く)、チタン(Ti):0.001〜0.015%、銅(Cu):0.01〜0.4%、ニッケル(Ni):0.01〜0.6%、クロム(Cr):0.01〜0.2%、モリブデン(Mo):0.001〜0.3%、カルシウム(Ca):0.0002〜0.0040%、窒素(N):0.001〜0.006%、リン(P):0.02%以下(0%は除く)、硫黄(S):0.003%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不可避な不純物からなる鋼スラブを1080〜1250℃の温度範囲で再加熱する段階と、
前記再加熱されたスラブを圧延終了温度が780℃以上になるように制御圧延し、熱延鋼板に製造する段階と、
前記熱延鋼板を空冷又は水冷で冷却する段階と、
前記冷却後に、熱延鋼板を850〜960℃の温度範囲で焼ならし熱処理する段階と、を含み、
微細組織として、フェライト、パーライト、ベイナイト、及びMA相(マルテンサイト−オーステナイト複合相)の混合組織を含み、前記MA相の分率が3.5%以下(0%は除く)であることを特徴とする低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記鋼スラブは、ニオブ(Nb)を0.02〜0.05%含むことを特徴とする請求項 7に記載の低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記焼ならし熱処理は、{(1.3×t)+(10〜60)}分(ここで、「t」は、鋼材厚さ(mm)を意味する)間行うことを特徴とする請求項7に記載の低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記再加熱された鋼スラブは、前記ニオブ(Nb)の50質量%以上が再固溶されることを特徴とする請求項7に記載の低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、圧力容器、海洋構造用などの素材として使用される鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー資源の枯渇によって、採掘地が、次第に深海や極寒冷地に移動しており、これに伴い、採掘及び貯蔵設備が大型化且つ複雑化している。これに使用される鋼材は、重量を減少するために高強度が求められ、設備安定性を確保するために低温靭性に優れることが求められる。
一方、上記の強度及び靭性が確保された鋼材を鋼管やその他の複雑な構造物を作製する過程で、冷間変形されることが大幅に増加しており、そのため、鋼材は、冷間変形による歪み時効に伴う靭性の減少を最小化する必要がある。
歪み時効によって靭性が減少するメカニズムは、以下のとおりである。
シャルピー衝撃試験で測定される鋼材の靭性は、その試験温度での降伏強度と破壊強度との相互関係で説明される。仮に試験温度で鋼材の降伏強度が破壊強度よりも大きい場合には、鋼材に延性破壊は発生せず脆性破壊が発生して衝撃エネルギーの値が劣位であるのに対し、降伏強度が破壊強度よりも小さい場合には、鋼材は延性変形されて加工硬化することで、衝撃エネルギーを吸収し、降伏強度が破壊強度に至ると、脆性破壊に変化する。すなわち、降伏強度と破壊強度との差が大きいほど、鋼材が延性に変形する量が増加し、吸収する衝撃エネルギーは増加する。したがって、鋼材を鋼管やその他の複雑な構造物への作製のために冷間変形すると、変形が続くにつれて鋼材の降伏強度が増加し、その結果、破壊強度との差が小さくなり、衝撃靭性の低下を伴う。
【0003】
そのため、冷間変形による靭性の低下を防止するために、従来、変形後、時効現象による強度の増加を抑制するために、鋼材内に固溶される炭素(C)又は窒素(N)の量を最小化するか、又はこれらを析出させる元素(例:チタン(Ti)、バナジウム(V)など)を最小量以上添加する方法や、冷間変形後、SR(Stress Relief)熱処理を施して鋼材の内部に生成された転位などを減少させることで、加工硬化によって増加した降伏強度を低減する方法、低温で鋼材の延性を増加させるために、積層欠陥エネルギー(Stacking fault energy)を低減して転位の移動を容易にする元素(例:ニッケル(Ni)など)を添加する方法などが提案され、適用されてきた。
しかし、構造物などが大型化及び複雑化し続けるにつれて、鋼材に求められる冷間変形量が増加しており、使用環境の温度も北極海程度の水準に下がっているため、従来の方法では、鋼材の歪み時効による靭性低下を効果的に防止することが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】低炭素鋼線材のひずみ時効におよぼすTi添加の影響(落合征雄、大羽浩、鉄と鋼第75年(1989)第4号、P.642〜)
【非特許文献2】The effect of processing variables on the mechanical properties and strain ageing of high−strength low−alloy V and V−N steels(V.K.Heikkinen and J.D.Boyd,CANADIAN METALLURGICAL QUARTERLY Volume15 Number 3(1976),P.219〜)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高強度及び高靭性の確保は言うまでもなく、冷間変形による強度の増加を最小化することができ、圧力容器、海洋構造用などの素材として好適に適用することができる鋼材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材は、重量%で、炭素(C):0.04〜0.14%、シリコン(Si):0.05〜0.60%、マンガン(Mn):0.6〜1.8%、可溶性アルミニウム(Sol.Al):0.005〜0.06%、ニオブ(Nb):0.005〜0.05%、バナジウム(V):0.01%以下(0%は除く)、チタン(Ti):0.001〜0.015%、銅(Cu):0.01〜0.4%、ニッケル(Ni):0.01〜0.6%、クロム(Cr):0.01〜0.2%、モリブデン(Mo):0.001〜0.3%、カルシウム(Ca):0.0002〜0.0040%、窒素(N):0.001〜0.006%、リン(P):0.02%以下(0%は除く)、硫黄(S):0.003%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、微細組織として、フェライト、パーライト、ベイナイト及びMA(マルテンサイト−オーステナイト複合相)の混合組織を含み、MAの分率が3.5%以下(0%は除く)であることを特徴とする。
【0007】
本発明の低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材の製造方法は、上記の成分組成を満たす鋼スラブを1080〜1250℃の温度範囲で再加熱する段階と、再加熱されたスラブを圧延終了温度が780℃以上になるように制御圧延し、熱延鋼板に製造する段階と、熱延鋼板を空冷又は水冷で冷却する段階と、冷却後に、熱延鋼板を850〜960℃の温度範囲で焼ならし熱処理する段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、低温での歪み時効衝撃特性に優れるだけでなく、高強度を兼ね備えた熱処理鋼材を提供することができ、上記鋼材は、大型化且つ複雑化の傾向にある圧力容器、海洋構造用などの素材として好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一側面による鋼材の引張曲線で下部降伏強度と引張強度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、圧力容器、海洋構造物などの素材として使用される鋼材に対する冷間変形量が増加し続けるにつれて、歪み時効による鋼材の靭性低下を防止し、且つ高強度及び高靭性を有する鋼材の開発のために鋭意研究を重ねた結果、鋼成分組成及び製造条件の最適化により上記の物性を確保するのに有利な微細組織を有する鋼材を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
特に、本発明の鋼材は、鋼成分組成のうちMA相(マルテンサイト−オーステナイト複合相)の形成に影響を及ぼす元素の含有量を最適化し、鋼の靭性が確保される範囲にMA相を最小化することで、歪み時効による靭性の低下を有効に防止することができる。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の一側面による低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材は、重量%で、炭素(C):0.04〜0.14%、シリコン(Si):0.05〜0.60%、マンガン(Mn):0.6〜1.8%、可溶性アルミニウム(Sol.Al):0.005〜0.06%、ニオブ(Nb):0.005〜0.05%、バナジウム(V):0.01%以下(0%は除く)、チタン(Ti):0.001〜0.015%、銅(Cu):0.01〜0.4%、ニッケル(Ni):0.01〜0.6%、クロム(Cr):0.01〜0.2%、モリブデン(Mo):0.001〜0.3%、カルシウム(Ca):0.0002〜0.0040%、窒素(N):0.001〜0.006%、リン(P):0.02%以下(0%は除く)、硫黄(S):0.003%以下(0%は除く)を含むことが好ましい。
以下では、本発明で提供する高強度鋼材の合金成分を上記のように制御する理由について詳細に説明する。この際、特に言及しない限り、各成分の含有量は、重量%を意味する。
【0012】
C:0.04〜0.14%
炭素(C)は、鋼の強度の確保に有利な元素であり、パーライト又はニオブ(Nb)、窒素(N)などと結合して炭・窒化物として存在し、引張強度を確保するために重要な元素である。かかるCの含有量が0.04%未満の場合には、基地(matrix)上の引張強度が低下する虞があるため好ましくない。一方、Cの含有量が0.14%を超える場合には、パーライトが過剰に生成され、低温での歪み時効衝撃特性を劣化させる虞がある。
したがって、本発明において、Cの含有量は、0.04〜0.14%に制限することが好ましい。
【0013】
Si:0.05〜0.60%
シリコン(Si)は、鋼の脱酸、脱硫効果とともに固溶強化の目的で添加される元素であり、降伏強度及び引張強度の確保のためには、0.05%以上添加されることが好ましい。ただし、Siの含有量が0.60%を超えると、溶接性及び低温衝撃特性が低下し、鋼の表面が酸化しやすく、酸化被膜が過剰に形成され得るため好ましくない。
したがって、本発明において、Siの含有量は、0.05〜0.60%に制限することが好ましい。
【0014】
Mn:0.6〜1.8%
マンガン(Mn)は、固溶強化による強度増加の効果が大きいため、0.6%以上添加することが好ましい。ただし、かかるMnの含有量が過剰になると、鋼板の厚さ方向の中心部に偏析(segrigation)が激しくなり、かつ偏析されたSとともに非金属介在物であるMnSの形成が助長される。中心部に生成されたMnS介在物は、圧延によって延伸されて、その結果、低温靭性及び耐ラメラティア(Lamella tear)の特性を大きく損なうという問題があるため、上記Mnの含有量を1.8%以下に制御することが好ましい。
したがって、本発明において、Mnの含有量は、0.6〜1.8%に制限することがよい。
【0015】
Sol.Al:0.005〜0.06%
可溶性アルミニウム(Sol.Al)は、上記のSiとともに製鋼工程において強力な脱酸剤として使用され、単独あるいは複合脱酸の際に少なくとも0.005%以上添加されることが好ましい。ただし、Sol.Alの含有量が0.06%を超えると、上記の効果が飽和となり、脱酸の結果生成される酸化性介在物のうちAlの分率が必要以上に増加し、そのサイズも粗大になり、精錬中に容易に除去されなくなる。これは、結果的に低温靭性を大幅に低下させるため好ましくない。
したがって、本発明において、Sol.Alの含有量は、0.005〜0.06%に制限することが好ましい。
【0016】
Nb:0.005〜0.05%
ニオブ(Nb)は、スラブの再加熱時にオーステナイトに固溶されてオーステナイトの硬化能を増大し、熱間圧延時に微細な炭・窒化物(Nb,Ti)(C,N)として析出して、圧延又は冷却中の再結晶を抑制することで、最終の微細組織を微細に形成させる効果が大きい。また、Nbの添加量が増加するほど、ベイナイト又はMAの形成を促進して強度を増加させる効果がある。一方、Nbの含有量が0.05%を超えると、過剰なMA及び厚さ方向の中心部に粗大な析出物を形成しやすくなり、鋼材の中心部の低温靭性を低下させる問題があるため、好ましくない。
したがって、本発明において、Nbの含有量は、0.005〜0.05%に制限することが好ましく、より有利には0.02%以上、さらに有利には0.022%以上に制限することがよい。
【0017】
V:0.01%以下(0%は除く)
バナジウム(V)は、スラブの再加熱時にほぼ全てが再固溶されるため、圧延、焼ならし(normalizing)熱処理後の状態では、析出又は固溶による強度増加の効果がほとんどない。また、バナジウム(V)は、高価な元素であることから、多量添加の際にコスト上昇を誘発するという問題があるため、これを考慮して、0.01%以下に添加することが好ましい。
【0018】
Ti:0.001〜0.015%
チタン(Ti)は、高温で主にTiNの形態で六面体の析出物として存在するか、又はNbなどのように炭・窒化物(Nb,Ti)(C,N)の析出物を形成することで、溶接熱影響部の結晶粒の成長を抑制する効果がある。このためには、Tiを0.001%以上添加することが好ましいが、Tiの含有量が過剰になって0.015%を超えると、鋼材の厚さ方向の中心部に粗大なTiNを形成し、これは、破壊亀裂の開始点として作用し、歪み時効衝撃特性を大幅に低下させるという問題がある。
したがって、本発明において、Tiの含有量は、0.001〜0.015%に制限することがよい。
【0019】
Cu:0.01〜0.4%
銅(Cu)は、固溶及び析出により強度を大幅に向上させることができ、歪み時効衝撃特性を大きく害さない効果のある元素であるが、過剰に添加される場合には、鋼の表面に亀裂を誘発し、また、高価な元素であるため、これを考慮して、0.01〜0.4%にその含有量を制限することが好ましい。
【0020】
Ni:0.01〜0.6%
ニッケル(Ni)は、強度増大の効果はほとんどないが、低温での歪み時効衝撃特性の向上に効果的であり、特にCuを添加する場合に、スラブの再加熱時に発生する選択的酸化による表面亀裂を抑制する効果がある。このためには、Niを0.01%以上添加することが好ましいが、高価な元素であるため、経済性を考慮して、0.6%以下に制限することが好ましい。
【0021】
Cr:0.01〜0.2%
クロム(Cr)は、固溶による降伏強度及び引張強度を増大させる効果は小さいが、焼戻し(tempering)又は溶接後の熱処理の間のセメンタイト分解速度を遅延することで、強度低下を防止する効果がある。このためには、Crを0.01%以上添加することが好ましい。ただし、Crの含有量が0.2%を超えると、製造コストが上昇するだけでなく、溶接熱影響部の低温靭性を阻害するという問題があるため、好ましくない。
【0022】
Mo:0.001〜0.3%
モリブデン(Mo)は、熱処理後に、冷却過程で変態を遅延し、結果として強度を大幅に増加させる効果があり、また、Crのように焼戻し又は溶接後の熱処理の間の強度低下の防止に有効であり、Pなどの不純物の粒界偏析による靭性低下を防止する効果がある。このためには、Moを0.001%以上添加することが好ましいが、これもまた高価な元素であることから、過剰に添加する場合には経済的に不利であるという欠点があるため、Moの含有量を0.3%以下に制限することが好ましい。
【0023】
Ca:0.0002〜0.0040%
Alの脱酸後、カルシウム(Ca)を添加すると、MnSとして存在するSと結合してMnSの生成を抑制するとともに、球状のCaSを形成して、鋼材の中心部の亀裂を抑制する効果がある。したがって、本発明において添加されるSをCaSに十分に形成させるためには、Caを0.0002%以上添加することが好ましい。ただし、Caの含有量が0.0040%を超えると、CaSを形成して残ったCaがOと結合し、粗大な酸化性介在物が生成され、これは、圧延で延伸、破折し、亀裂開始点として作用するという問題がある。
したがって、本発明において、Caの含有量は、0.0002〜0.0040%に制限することが好ましい。
【0024】
N:0.001〜0.006%
窒素(N)は、添加されたNb、Ti、Alなどと結合して析出物を形成することで、鋼の結晶粒を微細化し、母材の強度及び靭性を向上させる効果がある。ただし、窒素(N)の含有量が多すぎる場合には、析出物を形成して残ったNが原子状態で存在し、冷間変形後に時効現象を起こし、低温靭性を低下させる最も代表的な元素として知られている。また、連続鋳造によるスラブの製造時に高温での脆化によって表面部の亀裂を助長するという問題がある。
したがって、これを考慮して、本発明では、Nの含有量を0.001〜0.006%に制限することが好ましい。
【0025】
P:0.02%以下(0%は除く)
リン(P)は、添加時に強度を増加させる効果があるが、本発明の熱処理鋼においては、上記の強度増加の効果に比べて粒界偏析によって低温靭性を大きく害する元素であるため、できるだけ低く管理することが好ましい。ただし、製鋼工程において、リン(P)を大幅に除去するためには相当な費用がかかるため、物性に影響を及ぼさない範囲、すなわち、0.02%以下に制限することが好ましい。
【0026】
S:0.003%以下(0%は除く)
硫黄(S)は、Mnと結合して主に鋼板の厚さ方向の中心部にMnS介在物を生成させ、低温靭性を低下させる代表的な要因である。したがって、低温での歪み時効衝撃特性を確保するためには、硫黄(S)の含有量をできるだけ低く管理することが好ましいが、かかる硫黄(S)を大幅に除去するためには、相当な費用がかかるため、物性に影響を及ぼさない範囲、すなわち、0.003%以下に制限することが好ましい。
【0027】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。ただし、通常の鉄鋼製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入されることがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の鉄鋼製造に携わる技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容は特に言及しない。
上記の合金成分組成を満たす本発明の高強度鋼材は、微細組織として、フェライト、パーライト、ベイナイト、及びMA(マルテンサイト−オーステナイト複合相)の混合組織を含むことが好ましい。
上記組織のうちフェライトは、鋼材の延性変形を可能にする最も重要な組織であり、かかるフェライトを主相として含み、且つ平均粒子径を15μm以下に微細に制御することが好ましい。このように、フェライト結晶粒を微細にすることにより、結晶粒界を増加させて亀裂の伝播を抑制することができ、鋼材の基本的な靭性が向上するだけでなく、冷間変形時に加工硬化速度を下げる効果により強度増加を最小化することができるため、歪み時効衝撃特性もともに向上させることができる。
【0028】
フェライト以外のパーライト、ベイナイト、MAなどを含む硬質相は、鋼材の引張強度を増加させることで高強度を確保するのに有利であるが、高硬度が原因で破壊開始点又は伝播経路となり、歪み時効衝撃特性を阻害するという問題がある。したがって、その分率を制御することが好ましく、上記硬質相の分率の和を18%以下(0%は除く)に制限することが好ましい。
特に、MA相は、強度が最も高く、変形によって脆性が強いマルテンサイトに変態するため、低温靭性を最も大きく阻害する要素である。したがって、MA相の分率を3.5%以下(0%は除く)に制限することが好ましく、より好ましくは、1.0〜3.5%に制限することが好適である。
一方、上記のような微細組織を有する本発明の高強度鋼材は、添加された元素のうちNb、Ti、Alなどによって生成される炭・窒化物を含み、上記炭・窒化物は、圧延、冷却、熱処理過程中に結晶粒の成長を抑制して微細にする重要な役割を果たす。その効果を最大化するためには、300nm以下の平均粒子径を有する炭・窒化物を重量比率で0.01%以上、好ましくは0.01〜0.06%含むことが好ましい。
【0029】
以下、本発明の他の一側面である低温歪み時効衝撃特性に優れた高強度鋼材の製造方法について詳細に説明する。
先ず、上記の合金成分組成を満たす鋼スラブを製造した後、これを用いて、本発明において目標とする微細組織、炭化物条件などを満たす鋼材を得るためには、熱間圧延(制御圧延)、冷却及び焼ならし熱処理工程を行うことが好ましい。
それに先立って、製造された鋼スラブを再加熱する工程を行うことが好ましい。
【0030】
この際、再加熱温度は、1080〜1250℃に制御することが好ましい。再加熱温度が1080℃未満の場合には、連続鋳造中にスラブ内に生成した炭化物などの再固溶が難しくなる。したがって、本発明において添加されたNbが50%以上再固溶される温度以上とすることが好ましい。ただし、その温度が1250℃を超えると、オーステナイト結晶粒のサイズが粗大になりすぎて、最終的に製造された鋼材の強度及び靭性などの機械的物性が大幅に低下するという問題がある。
したがって、本発明において、再加熱温度は、1080〜1250℃に制限することが好ましい。
上記のように再加熱された鋼スラブを仕上げ圧延し、熱延鋼板を製造することが好ましい。この際、上記仕上げ圧延工程は、制御圧延であることがよく、圧延終了温度を780℃以上に制御することが好ましい。
【0031】
通常の圧延工程で圧延する場合、圧延終了温度は820〜1000℃程度であるが、これを780℃未満に下げると、圧延中にMnなどが偏析されていない領域で焼入性が低下して圧延中にフェライトが生成される。かかるフェライトが生成されるにつれて、固溶されているCなどは残留オーステナイト領域に偏析されて濃化する。これにより、圧延後に、冷却の間にCなどが濃化した領域は、ベイナイト、マルテンサイト又はMA相に変態し、フェライトと硬化組織で構成される強い層状構造が生成される。Cなどが濃化した層の硬化組織は、高硬度を有するだけでなく、MA相の分率も大幅に増加する。このように、硬化組織の増加と層状構造への配列によって低温靭性を低下させるため、圧延終了温度を780℃以上に制御することが好ましい。
上記のとおり制御圧延して得られた熱延鋼板を空冷又は水冷で冷却した後、所定の温度範囲で焼ならし熱処理を行い、目標とする物性を有する鋼材を製造することができる。
【0032】
上記の焼ならし熱処理は、850〜960℃の温度範囲で所定の時間維持した後、空気中で冷却させることが好ましい。焼ならし熱処理温度が850℃未満の場合には、パーライト、ベイナイト内のセメンタイトとMA相の再固溶が難しくなり固溶されたCが減少するため、強度を確保することが難しくなるだけでなく、最終的に残った硬化相が粗大に残留するようになるため、歪み時効衝撃靭性も大幅に悪化する。一方、その温度が960℃を超えると、結晶粒の成長が起こり、歪み時効衝撃特性を低下させるという問題がある。
上記の温度範囲で焼ならし熱処理を行う場合、{(1.3×t)+(10〜60)}分(ここで、「t」は、鋼材の厚さ(mm)を意味する)間維持することが好ましい。維持時間が上記時間未満の場合には、組織の均一化が難しくなり、上記時間を超える場合には、生産性が阻害されるという問題がある。
上記の方法によって得られる高強度鋼材は、強度及び靭性に優れるだけでなく、冷間変形時に歪み時効による靭性低下を効果的に防止することができる。特に、熱処理以後の降伏比(YS(下部降伏強度)/TS(引張強度))を0.65〜0.80に確保することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない点に留意する必要がある。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載の事項と、それから合理的に類推される事項によって決定される。
下記表1の成分組成を有する鋼スラブに対して、下記表2に示した条件で再加熱、熱間圧延及び焼ならし熱処理を行い、最終厚さ6mm以上の熱延鋼板を製造した。
製造されたそれぞれの熱延鋼板に対して、微細組織の分率及びサイズと炭・窒化物の分率及びサイズを測定した。また、各熱延鋼板の強度(引張強度及び下部降伏強度)と歪み時効衝撃特性を代表する冷間変形量5%引張後、250℃で1時間時効させた状態でシャルピー衝撃遷移温度を測定し、下記表3に示した。
【0034】
各熱延鋼板の微細組織は、鋼板の断面を鏡面研磨した後、目的に応じて、ナイタル(Nital)又はレペラ(Lepera)でエッチングし、試験片の所定の面積を光学又は走査電子顕微鏡で倍率100〜500倍でイメージを測定した後、測定されたイメージから、イメージ分析プログラム(image analyzer)を使用して各相の分率を測定した。統計的に有意な値を得るために、同一の試験片に対して、位置を変更して繰り返して測定し、その平均値を求めた。
平均サイズ300nm以下の微細な炭・窒化物の分率は抽出残渣法で測定した。
引張特性値は、通常の引張試験で求められた公称歪み−公称応力曲線より、それぞれ下部降伏強度、引張強度、降伏比(下部降伏強度/引張強度)を測定した。また、歪み時効衝撃特性値は、引張変形率で0%、5%、8%を予め付加し、延伸された試験片を250℃で1時間時効させた後、シャルピーV−ノッチ(Charpy V−notch)衝撃試験を行って測定した。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
表1〜3に示したとおり、本発明の成分組成及び製造条件をすべて満たす発明例1〜3の熱延鋼板は、高強度であるだけでなく、冷間変形後にも優れた低温靭性を確保することで、大型化及び複雑化の傾向にある圧力容器、海洋構造物などに好適に使用することができる。
一方、鋼成分組成は、本発明の条件を満たすが、再加熱後、熱間圧延時に圧延終了温度が低すぎる比較例1の場合には、フェライトと硬化組織で構成される強い層状構造が生成されることにより、低温靭性が減少し、5%冷間変形後の衝撃遷移温度が−34℃と高く示された。
また、再加熱温度が低すぎる比較例2の場合には、添加されたNbが十分に再固溶することができず、Nbによる相変態の制御や析出による強化効果が著しく低く、下部降伏強度が350MPa未満、引張強度が500MPa未満であった。
【0039】
一方、比較例3〜7は、製造条件は本発明の条件を満たすが、鋼成分組成が本発明の条件を満たしていない場合であって、強度が低いか低温靭性が低下していることが確認できる。
このうち、比較例3は、Cの含有量が十分でない場合であって、圧延、熱処理時に、フェライト結晶粒が粗大に生成され、十分な強度を確保することができなかった。
比較例4は、Cの含有量が過剰な場合であって、硬化相の分率が18%を超え、MA相の分率も大幅に増加するにつれて降伏比が低くなり、その結果、5%冷間変形後の衝撃遷移温度が高く示された。
【0040】
比較例5は、Tiの含有量が過剰な場合であって、添加されたNに比べて過剰に添加されたTiが粗大なTiN析出物として生成され、これが5%冷間変形後の衝撃時に亀裂開始点として作用し、衝撃遷移温度を高める結果が導出された。
比較例6は、Nbの含有量が不十分な場合であって、Nbの再固溶による相変態遅延によって、結晶粒の微細化及び析出物の生成による強度強化の効果が発現されることができず強度が不足していた。
比較例7は、Cuの含有量が多すぎる場合であって、かかるCuが、焼ならし熱処理後、冷却時にオーステナイトのCの固溶度を高めて、最終変態後のMA相の分率を増加させ、これにより降伏比が低くなり、5%冷間変形後の衝撃遷移温度を高める結果が導出された。
図1