(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。同一の部材を示す複数の図面同士においても、形状等を誇張するために、寸法比率等は互いに一致していないことがある。
【0008】
[プリンタの全体構成]
図1(a)は、本開示の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2(以下で単にヘッドと言うことがある。)を含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタ1(以下で単にプリンタと言うことがある)の概略の側面図であり、
図1(b)は、概略の平面図である。プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pを給紙ローラ80Aから回収ローラ80Bへと搬送することにより、印刷用紙Pをヘッド2に対して相対的に移動させる。なお、給紙ローラ80A及び回収ローラ80B並びに後述する各種のローラは、印刷用紙Pとヘッド2とを相対移動させる移動部85を構成している。制御部88は、画像や文字等のデータである印刷データ等に基づいて、ヘッド2を制御して、印刷用紙Pに向けて液体を吐出させ、印刷用紙Pに液滴を着弾させて、印刷用紙Pに印刷などの記録を行なう。
【0009】
本実施形態では、ヘッド2はプリンタ1に対して固定されており、プリンタ1はいわゆるラインプリンタとなっている。記録装置の他の実施形態としては、ヘッド2を、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に往復させるなどして移動させ、その途中で液滴を吐出する動作と、印刷用紙Pの搬送を交互に行なう、いわゆるシリアルプリンタが挙げられる。
【0010】
プリンタ1には、印刷用紙Pとほぼ平行となるように、4つの平板状のヘッド搭載フレーム70(以下で単にフレームと言うことがある)が固定されている。各フレーム70には図示しない5個の孔が設けられており、5個のヘッド2がそれぞれの孔の部分に搭載されている。1つのフレーム70に搭載されている5つのヘッド2は、1つのヘッド群72を構成している。プリンタ1は、4つのヘッド群72を有しており、合計20個のヘッド2が搭載されている。
【0011】
フレーム70に搭載されたヘッド2は、液体を吐出する部位が印刷用紙Pに面するようになっている。ヘッド2と印刷用紙Pとの間の距離は、例えば0.5〜20mm程度とされる。
【0012】
20個のヘッド2は、制御部88と直接繋がっていてもよいし、間に印刷データを分配する分配部を介して接続してもよい。例えば、制御部88が印刷データを1つの分配部へ送付し、1つの分配部が印刷データを20個のヘッド2に分配してもよい。また、例えば、4つのヘッド群72に対応する4つの分配部へ制御部88が印刷データを分配し、各分配部は、対応するヘッド群72内の5つのヘッド2に印刷データを分配してもよい。
【0013】
ヘッド2は、
図1(a)の手前から奥へ向かう方向、
図1(b)の上下方向に細長い長尺形状を有している。1つのヘッド群72内において、3つのヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に沿って並んでおり、他の2つのヘッド2は搬送方向に沿ってずれた位置で、3つのヘッド2の間にそれぞれ一つずつ並んでいる。別の表現をすれば、1つのヘッド群72において、ヘッド2は、千鳥状に配置されている。ヘッド2は、各ヘッド2で印刷可能な範囲が、印刷用紙Pの幅方向、すなわち、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向に繋がるように、あるいは端が重複するように配置されており、印刷用紙Pの幅方向に隙間のない印刷が可能になっている。
【0014】
4つのヘッド群72は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って配置されている。各ヘッド2には、図示しない液体供給タンクから液体、例えば、インクが供給される。1つのヘッド群72に属するヘッド2には、同じ色のインクが供給されるようになっており、4つのヘッド群72で4色のインクが印刷できる。各ヘッド群72から吐出されるインクの色は、例えば、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。このようなインクを、制御部88で制御して印刷すれば、カラー画像が印刷できる。
【0015】
プリンタ1に搭載されているヘッド2の個数は、単色で、1つのヘッド2で印刷可能な範囲を印刷するのであれば、1つでもよい。ヘッド群72に含まれるヘッド2の個数や、ヘッド群72の個数は、印刷する対象や印刷条件により適宜変更できる。例えば、さらに多色の印刷をするためにヘッド群72の個数を増やしてもよい。また、同色で印刷するヘッド群72を複数配置して、搬送方向に交互に印刷すれば、同じ性能のヘッド2を使用しても搬送速度を速くできる。これにより、時間当たりの印刷面積を大きくすることができる。また、同色で印刷するヘッド群72を複数準備して、搬送方向と交差する方向にずらして配置して、印刷用紙Pの幅方向の解像度を高くしてもよい。
【0016】
さらに、色のあるインクを印刷する以外に、印刷用紙Pの表面処理をするために、コーティング剤などの液体を、ヘッド2で、一様に、あるいはパターンニングして印刷してもよい。コーティング剤としては、例えば、記録媒体として液体が浸み込み難いものを用いる場合において、液体が定着し易いように、液体受容層を形成するものが使用できる。他に、コーティング剤としては、記録媒体として液体が浸み込み易いものを用いる場合において、液体のにじみが大きくなり過ぎたり、隣に着弾した別の液体とあまり混じり合わないように、液体浸透抑制層を形成するものが使用できる。コーティング剤は、ヘッド2で印刷する以外に、制御部88が制御する塗布機76で一様に塗布してもよい。
【0017】
プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pに印刷を行なう。印刷用紙Pは、給紙ローラ80Aに巻き取られた状態になっており、給紙ローラ80Aから送り出された印刷用紙Pは、フレーム70に搭載されているヘッド2の下側を通り、その後2つの搬送ローラ82Cの間を通り、最終的に回収ローラ80Bに回収される。印刷する際には、搬送ローラ82Cを回転させることで印刷用紙Pは、一定速度で搬送され、ヘッド2によって印刷される。
【0018】
続いて、プリンタ1の詳細について、印刷用紙Pが搬送される順に説明する。給紙ローラ80Aから送り出された印刷用紙Pは、2つのガイドローラ82Aの間を通った後、塗布機76の下を通る。塗布機76は、印刷用紙Pに、上述のコーティング剤を塗布する。
【0019】
印刷用紙Pは、続いて、ヘッド2が搭載されたフレーム70を収納した、ヘッド室74に入る。ヘッド室74は、印刷用紙Pが出入りする部分などの一部において外部と繋がっているが、概略、外部と隔離された空間である。ヘッド室74は、必要に応じて、制御部88等によって、温度、湿度、および気圧等の制御因子が制御される。ヘッド室74では、プリンタ1が設置されている外部と比較して、外乱の影響を少なくできるので、上述の制御因子の変動範囲を外部よりも狭くできる。
【0020】
ヘッド室74には、5個のガイドローラ82Bが配置されており、印刷用紙Pは、ガイドローラ82Bの上を搬送される。5個のガイドローラ82Bは、側面から見て、フレーム70が配置されている方向に向けて、中央が凸になるように配置されている。これにより、5個のガイドローラ82Bの上を搬送される印刷用紙Pは、側面から見て円弧状になっており、印刷用紙Pに張力を加えることで、各ガイドローラ82B間の印刷用紙Pが平面状になるように張られる。2つのガイドローラ82Bの間には、1つのフレーム70が配置されている。各フレーム70は、その下を搬送される印刷用紙Pと平行になるように、設置される角度が少しずつ変えられている。
【0021】
ヘッド室74から外に出た印刷用紙Pは、2つの搬送ローラ82Cの間を通り、乾燥機78の中を通り、2つのガイドローラ82Dの間を通り、回収ローラ80Bに回収される。印刷用紙Pの搬送速度は、例えば、100m/分とされる。各ローラは、制御部88によって制御されてもよいし、人によって手動で操作されてもよい。
【0022】
乾燥機78で乾燥することにより、回収ローラ80Bにおいて、重なって巻き取られる印刷用紙P同士が接着したり、未乾燥の液体が擦れることが起き難くできる。高速で印刷するためには、乾燥も速く行なう必要がある。乾燥を速くするため、乾燥機78では、複数の乾燥方式により順番に乾燥してもよいし、複数の乾燥方式を併用して乾燥してもよい。そのような際に用いられる乾燥方式としては、例えば、温風の吹き付け、赤外線の照射、加熱したローラへの接触などがある。赤外線を照射する場合は、印刷用紙Pへのダメージを少なくしつつ乾燥を速くできるように、特定の周波数範囲の赤外線を当ててもよい。印刷用紙Pを加熱したローラに接触させる場合は、印刷用紙Pをローラの円筒面に沿って搬送させることで、熱が伝わる時間を長くしてもよい。ローラの円筒面に沿って搬送させる範囲は、ローラの円筒面の1/4周以上がよく、さらにローラの円筒面の1/2周以上にするのがよい。UV硬化インク等を印刷する場合には、乾燥機78の代わりに、あるいは乾燥機78に追加してUV照射光源を配置してもよい。UV照射光源は、各フレーム70の間に配置してもよい。
【0023】
プリンタ1は、ヘッド2をクリーニングするクリーニング部を備えていてもよい。クリーニング部は、例えば、ワイピングや、キャッピングして洗浄を行なう。ワイピングは、例えば、柔軟性のあるワイパーで、液体が吐出される部位の面、例えば吐出孔面4−2(後述)を擦ることで、その面に付着していた液体を取り除く。キャッピングしての洗浄は、例えば、次のように行なう。まず、液体を吐出される部位、例えば吐出孔面4−2を覆うようにキャップを被せる(これをキャッピングと言う)ことで、吐出孔面4−2とキャップとで、ほぼ密閉されて空間が作られる。そのような状態で、液体の吐出を繰り返すことで、吐出孔8(後述)に詰まっていた、標準状態よりも粘度が高くなっていた液体や、異物等を取り除く。キャッピングしてあることで、洗浄中の液体がプリンタ1に飛散し難く、液体が、印刷用紙Pやローラ等の搬送機構に付着し難くできる。洗浄を終えた吐出孔面4−2を、さらにワイピングしてもよい。ワイピングや、キャッピングしての洗浄は、プリンタ1に取り付けられているワイパーやキャップを人が手動で操作して行なってもよいし、制御部88によって自動で行なってもよい。
【0024】
記録媒体は、印刷用紙P以外に、ロール状の布などでもよい。また、プリンタ1は、印刷用紙Pを直接搬送する代わりに、搬送ベルトを直接搬送して、記録媒体を搬送ベルトに置いて搬送してもよい。そのようにすれば、枚葉紙や裁断された布、木材、タイルなどを記録媒体にできる。さらに、ヘッド2から導電性の粒子を含む液体を吐出するようにして、電子機器の配線パターンなどを印刷してもよい。またさらに、ヘッド2から反応容器などに向けて所定量の液体の化学薬剤や化学薬剤を含んだ液体を吐出させて、反応させるなどして、化学薬品を作製してもよい。
【0025】
また、プリンタ1に、位置センサ、速度センサ、温度センサなどを取り付けて、制御部88が、各センサからの情報から分かるプリンタ1各部の状態に応じて、プリンタ1の各部を制御してもよい。例えば、ヘッド2の温度や、ヘッド2に液体を供給する液体供給タンクの液体の温度、液体供給タンクの液体がヘッド2に加えている圧力などが、吐出される液体の吐出特性、すなわち、吐出量や吐出速度などに影響を与えている場合などに、それらの情報に応じて、液体を吐出させる駆動信号を変えるようにしてもよい。
【0026】
[液体吐出ヘッドの概要]
次に、ヘッド2について説明する。
図2は、
図1に示されたヘッド2の要部であるヘッド本体2aを示す平面図である。
図3は、
図2の領域IIIの拡大平面図である。
図3では、説明のため、一部の流路を省略して描いている。
図4は、
図3と同じ位置の拡大平面図であり、
図3とは別の一部の流路を省略して描いている。
図5は、
図3のV−V線に沿った縦断面図である。なお、
図3および
図4においては、図面を分かり易くするために、紙面手前の部材(例えば後述するアクチュエータ基板21)に対して紙面奥手に位置して破線で描くべき流路など(例えば後述する加圧室10、しぼり6および吐出孔8)を実線で描いている。
【0027】
図2〜
図4の紙面奥手方向及び
図5の紙面下方は、ヘッド本体2aから印刷用紙Pへの方向に対応している。以下の説明では、ヘッド本体2aから印刷用紙Pへの方向を下方として、ヘッド本体2aに関して上面又は下面等の用語を用いることがある。
【0028】
ヘッド本体2aは、流路部材4と、複数の加圧部30が作り込まれているアクチュエータ基板21とを含んでいる。なお、液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体2a以外に、ヘッド本体2aに液体を供給するリザーバや、筐体を含んでいてもよい。
【0029】
流路部材4及びアクチュエータ基板21は、それぞれ印刷用紙Pに対する対向方向を厚さ方向とする概略平板状の部材とされている。流路部材4及びアクチュエータ基板21の平面形状は、ヘッド本体2aと印刷用紙Pとの相対移動の方向に直交する方向を長手方向とする長方形である。流路部材4の下面は、印刷用紙Pに対向する吐出孔面4−1となっている。流路部材4の上面は、アクチュエータ基板21が接合される加圧室面4−2となっている。
【0030】
流路部材4は、共通流路であるマニホールド5と、マニホールド5と繋がっている複数の加圧室10と、複数の加圧室10とそれぞれ繋がっている複数の吐出孔8とを備えている。マニホールド5の端部である開口5aは、加圧室面4−2に開口している。加圧室10は、加圧室面4−2にて開口し、また、アクチュエータ基板21に塞がれている。複数の吐出孔8は、吐出孔面4−1にて開口している。各加圧部30は、加圧室10上に位置している。
【0031】
液体は、開口5aからマニホールド5に供給されて加圧室10に流れ込む。そして、加圧部30によって加圧室10に圧力が付与されることによって、吐出孔8から液滴が吐出される。この際、複数の加圧部30を個別に制御することによって、任意の吐出孔8から液滴が吐出される。
【0032】
なお、マニホールド5から吐出孔8までの流路(マニホールド5を除き、吐出孔8を含む)を個別流路12と言うことがある。また、個別流路12及び加圧部30の組み合わせを吐出素子3と言うことがある。吐出素子3及び後述するダミー吐出素子の平面視における位置について説明する場合においては、加圧室10の位置を基準として述べることがある。
【0033】
アクチュエータ基板21には、各加圧部30に信号を供給する信号伝達部60が接続されている。
図2には、2つの信号伝達部60がアクチュエータ基板21に繋がる状態が分かるように、信号伝達部60のアクチュエータ基板21に接続される付近の外形を点線で示した。2つの信号伝達部60は、アクチュエータ基板21の短手方向の中央部にそれぞれの端が位置するようにアクチュエータ基板21に接続されている。
【0034】
以下では、まず、流路部材4及びアクチュエータ基板21のうち、液体の吐出に直接的に係る基本的な構成について説明する。次に、その液体の吐出には直接には関わらないダミー吐出素子について説明する。ダミー吐出素子は、例えば、加圧部30同士の相互干渉(構造クロストーク)に起因する濃度斑の低減に寄与する。
【0035】
[流路部材]
(マニホールド)
流路部材4の内部には2つのマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向の一端部側から、他端部側に延びる細長い形状を有しており、その両端部において、流路部材4の上面に開口しているマニホールド5の開口5aが形成されている。
【0036】
マニホールド5は、少なくとも長手方向における中央部分において、短手方向に間隔を開けて設けられた隔壁15で仕切られている。隔壁15は、マニホールド5と同じ高さを有し、マニホールド5を複数の副マニホールド5bに完全に仕切っている。副マニホールド5bは、加圧室10に繋がっている。平面視において隔壁15と重なる位置には、加圧室10から吐出孔8へ延びるディセンダ7と、吐出孔8とが設けられている。
【0037】
マニホールド5は独立して2本設けられており、それぞれの両端部に開口5aが設けられている。また、1つのマニホールド5には、7つの隔壁15が設けられており、8つの副マニホールド5bが設けられている。副マニホールド5bの幅は、隔壁15の幅より大きくなっており、これにより副マニホールド5bに多くの液体を流すことができる。
【0038】
(加圧室)
複数の加圧室10は、平面視において2次元的に広がって形成されている。加圧室10は、一定の厚さを有している薄型の中空領域である。加圧室10の平面形状は、角部にアールが施されたほぼ菱形(図示の例)、楕円又は円形である。加圧室10の平面方向の一端は、しぼり6を介して1つの副マニホールド5bに接続されている。他端は、ディセンダ7を介して吐出孔8に接続されている。
【0039】
1つの副マニホールド5bに沿うようにして、この副マニホールド5bに繋がっている加圧室10の行である加圧室行11が、副マニホールド5bの両側に1行ずつ、合計2行設けられている。したがって、1つのマニホールド5に対して、16行の加圧室行11が設けられており、ヘッド本体2a全体では32行の加圧室行11が設けられている。1つのマニホールド5に接続されている加圧室行11のピッチは一定である。各加圧室行11における加圧室10のピッチは一定であり、また、当該ピッチは複数の加圧室行11同士で同じである。
【0040】
1つのマニホールド5に繋がっている加圧室10は、矩形状のアクチュエータ基板21の各外辺に沿った行および列を成す格子状に配置されている。換言すれば、隣り合う加圧室行11同士において、加圧室10の位置は互いに同一であり、複数の加圧室10は、副マニホールド5bに直交する加圧室列13を構成している。なお、加圧室列13は、副マニホールド5bに対して傾斜するように交差していてもよい。
【0041】
1つのマニホールド5に繋がっている複数の加圧室10により加圧室群が構成されており、マニホールド5が2つあるため、加圧室群は2つある。加圧室群内における加圧室10の配置は、2つの加圧室群同士で同じであり、2つの加圧室群をヘッド本体2aの短手方向に平行移動させると両者の加圧室10の位置は一致する。
【0042】
(吐出孔)
1行の加圧室行11に属する加圧室10に繋がっている吐出孔8は、1行の吐出孔行9を成している。1つの副マニホールド5bに2行の加圧室行11が繋がっているから、1つの副マニホールド5bに2行の吐出孔行9が繋がっている。1つの副マニホールド5bに繋がっている2行の吐出孔行9は、その副マニホールド5bに対して互いに反対側に位置している。
図4では隔壁15には、2行の吐出孔行9が設けられているが、それぞれの吐出孔行9に属する吐出孔8は、吐出孔8に近い側の副マニホールド5bに繋がっている。
【0043】
複数行の吐出孔行9同士は、ヘッド本体2aと印刷用紙Pとの相対移動の方向に見て、吐出孔8の位置が互いに重複していない。例えば、
図4に示すように、ヘッド本体2aと印刷用紙Pとの相対移動の方向に直交する仮想直線(範囲R)を仮定し、この仮想直線に複数の吐出孔行9の吐出孔8を投影する。このとき、仮想直線上の範囲Rには、32個の副マニホールド5bに繋がっている32個の吐出孔8が等間隔で収まる。このような吐出孔8の配置により、各吐出孔行9における吐出孔8のピッチを吐出孔行9の行数で分割したピッチで仮想直線の方向に並ぶドットを印刷用紙P上に形成することが可能になる。
【0044】
これにより、例えば、各吐出孔行9において吐出孔8が37.5dpiで配列されている場合、すべてのマニホールド5に同じ色のインクを供給することで、全体として長手方向に1200dpiの解像度で画像が形成可能となる。また、1つのマニホールド5に繋がっている1個の吐出孔8は、仮想直線の範囲Rで600dpiの等間隔になっている。これにより、各マニホールド5に異なる色のインクを供給することで、全体として長手方向に600dpiの解像度で2色の画像が形成可能となる。この場合、2つの液体吐出ヘッド2を用いれば、600dpiの解像度で4色の画像が形成可能となり、600dpiで印刷可能な液体吐出ヘッドを4つ用いるよりも、印刷精度が高くなり、印刷のセッティングも簡単にできる。
【0045】
上記のように吐出孔8の、仮想直線の方向における位置が吐出孔行9同士で異なるのに対して、加圧室行11同士においては、加圧室10の、仮想直線の方向における位置は互いに同一である。従って、互いに繋がっている加圧室10及び吐出孔8の相対位置は加圧室行11毎に異なり、また、各加圧室行11内で例えば一定である。このような相対位置の相違は、加圧室10と吐出孔8とを結ぶディセンダ7の形状を加圧室行11同士において互いに異ならせることにより実現されている。
【0046】
(流路部材の積層構造)
流路部材4は、複数のプレートが不図示の接着剤層を介して積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、プレート4a、プレート4b、プレート4c、プレート4d、プレート4e、プレート4f、プレート4g、プレート4h、プレート4i、プレート4j、プレート4k、プレート4mの順に積層されている。各プレートの厚さは、10〜300μm程度である。流路部材4の厚さは、500μm〜2mm程度である。
【0047】
これらのプレートには多数の孔が形成されている。これらの孔が互いに連通して個別流路12およびマニホールド5を構成している。加圧室10は、流路部材4の上面側(例えば流路部材4の厚さ方向中央よりも上面側)に位置している。副マニホールド5bは、加圧室10よりも下面側に位置している。しぼり6は、副マニホールド5bの上面と加圧室10の下面とを接続している。ディセンダ7は、加圧室10の下面から下方へ延びて吐出孔8に至っている。
【0048】
プレートにおいて、流路となる孔あるいは溝には、次のようなものがある。第1に、加圧室10となる孔であり、この孔は、プレート4aに形成されている。第2に、しぼり6となる孔であり、この孔は、プレート4bからプレート4eまでの各プレートに形成されている。第3に、ディセンダ7となる孔であり、この孔は、プレート4bからプレート4kまでの各プレートに形成されている。第4に、吐出孔8となる孔であり、この孔は、プレート4mに形成されている。第5に、マニホールド5を構成する孔であり、この孔は、プレート4a〜プレート4jに形成されている。プレート4f〜プレート4jには、副マニホールド5bを構成する孔が隔壁15となる仕切り部が残るように形成されている。プレート4f〜プレート4jにおける仕切り部は、ハーフエッチングした支持部(図では省略してある)でプレート4f〜プレート4jと繋がった状態にされる。
【0049】
[アクチュエータ基板]
アクチュエータ基板21は、圧電体である2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。また、アクチュエータ基板21は、圧電セラミック層21a、21bの間に位置している共通電極24と、圧電セラミック層21bの上面に位置している個別電極25とを有している。
【0050】
圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電セラミック層21aの下面から圧電セラミック層21bの上面までの厚さは40μm程度である。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の加圧室10を跨ぐように延在している。圧電セラミック層21a、21bは、例えば、強誘電性を有する、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系、NaNbO
3系、BaTiO
3系、(BiNa)NbO
3系、BiNaNb
5O
15系などのセラミックス材料からなる。なお、圧電セラミック層21aは、振動板として働いており、必ずしも圧電体である必要はなく、代わりに、圧電体でない他のセラミック層や金属板を用いてもよい。
【0051】
共通電極24は、Ag−Pd系などの金属材料からなる。個別電極25は、Au系などの金属材料からなる。共通電極24の厚さは2μm程度であり、個別電極25の厚さは1μm程度である。
【0052】
複数の個別電極25は、複数の加圧室10に対して個別に対向している。個別電極25は、平面形状が加圧室10より一回り小さく、加圧室10とほぼ相似な形状を有している個別電極本体25aと、個別電極本体25aから引き出されている引出電極25bとを含んでいる。引出電極25bの一端の、加圧室10と対向する領域外に引き出された部分には、接続電極26が配置されている。接続電極26は例えば銀粒子などの導電性粒子を含んだ導電性樹脂であり、5〜200μm程度の厚さで形成されている。接続電極26は、信号伝達部60に設けられた不図示の電極と接合されている。
【0053】
共通電極24は、圧電セラミック層21b、21aのほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極24は、すべての加圧室10を覆うように延在している。共通電極24は、圧電セラミック層21b上に個別電極25からなる電極群を避ける位置に形成されている共通電極用表面電極28(
図3)に、圧電セラミック層21bを貫通する不図示の貫通導体を介して繋がっている。また、共通電極24は、共通電極用表面電極28を介して接地され、グランド電位に保持されている。共通電極用表面電極28は、信号伝達部60に設けられた不図示の電極と接合されている。
【0054】
圧電セラミック層21bの個別電極25と共通電極24とに挟まれている部分は、厚さ方向に分極されている。そして、個別電極25を共通電極24と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加することにより、アクチュエータ基板21は変形する。具体的には、分極と同方向となるように電界が印加されると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21aは加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。逆に、分極と逆方向に電界が印加されると、圧電セラミック層21aは加圧室10側へ凹となるように変形する。
【0055】
圧電セラミック層21a、21b及び共通電極24のうちの1つの加圧室10に概ね重なる部分、及び1つの個別電極25は、1つの加圧部30を構成している。加圧部30は、加圧室10毎に設けられるものであり、特に断りがない限りは、複数の加圧室10同士の大きさ及び位置の相対関係は、複数の加圧部30同士の大きさ及び位置の相対関係に反映されている。また、加圧部30は、その一部である個別電極25の引出電極25bが加圧室10の外側に引き出されているが、疑似的に加圧室10と同じ平面形状で加圧室10と同じ位置に配置されていると捉えられてよい。従って、平面視における加圧室10の形状及び大きさについての前述又は後述の説明において、加圧室10は加圧部30に読み替えられてもよい。後述するダミー加圧室16及びダミー加圧部36についても同様である。
【0056】
信号伝達部60は、FPC(Flexible printed circuits)によって構成されており、アクチュエータ基板21の上面に対向するように配置される。信号伝達部60は、特に図示しないが、複数の接続電極26及び複数の共通電極用表面電極28に対して対向するとともに接合される複数の電極と、当該複数の電極と制御部88とを仲介する複数の配線とを有している。なお、信号伝達部60は、1つのヘッド本体2aに対して2つ設けられているから、1つのヘッド本体2aに対して1つの信号伝達部60が設けられる態様(この態様も本開示に係る技術に含まれる)に比較して、配線密度が半分に低減されている。
【0057】
[吐出動作]
制御部88からの制御でドライバICなどを介して、個別電極25に供給される駆動信号により、加圧部30が駆動(変位)させられる。駆動信号は、印刷用紙Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。本実施形態では、様々な駆動信号で液体を吐出させることができるが、ここでは、いわゆる引き打ち駆動方法について説明する。
【0058】
あらかじめ個別電極25を共通電極24より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極25を共通電極24と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極25が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、21bが元の(平らな)形状に戻り(始め)、加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。これにより、加圧室10内の液体に負圧が与えられる。そうすると、加圧室10内の液体が固有振動周期で振動し始める。具体的には、最初、加圧室10の体積が増加し始め、負圧は徐々に小さくなっていく。次いで加圧室10の体積は最大になり、圧力はほぼゼロとなる。次いで加圧室10の体積は減少し始め、圧力は高くなっていく。その後、圧力がほぼ最大になるタイミングで、個別電極25を高電位にする。そうすると最初に加えた振動と、次に加えた振動とが重なり、より大きい圧力が液体に加わる。この圧力がディセンダ7内を伝搬し、吐出孔8から液体を吐出させる。
【0059】
つまり、高電位を基準として、一定期間低電位とするパルスの駆動信号を個別電極25に供給することで、液滴を吐出できる。このパルス幅が、加圧室10の液体の固有振動周期の半分の時間、すなわち、AL(Acoustic Length)にされる場合、原理的には、液体の吐出速度および吐出量が最大になる。加圧室10の液体の固有振動周期は、液体の物性、加圧室10の形状の影響が大きいが、それ以外に、アクチュエータ基板21の物性や、加圧室10に繋がっている流路の特性からの影響も受ける。
【0060】
なお、パルス幅は、吐出される液滴を1つにまとめるようにするなど、他に考慮する要因もあるため、実際は、0.5AL〜1.5AL程度の値にされる。また、パルス幅は、ALから外れた値にすることで、吐出量を少なくすることができるため、吐出量を少なくするためにALから外れた値にされる。
【0061】
[ダミー吐出素子]
図6は、
図3のVI−VI線における断面図である。
図3のV−V線における断面図である
図5と
図6との比較から明らかなように、ヘッド本体2aは、吐出素子3と類似した構成のダミー吐出素子14を有している。ダミー吐出素子14は、あたかも、吐出素子3の配列を外側に拡張したかのように吐出素子3の配列に続いて並んでいる。ただし、ダミー吐出素子14は、吐出素子3とは異なり、液滴を吐出しない。
【0062】
具体的には、ダミー吐出素子14は、流路部材4に設けられたダミー個別流路18と、アクチュエータ基板21に設けられたダミー加圧部36とを有している。ダミー個別流路18は、例えば、ダミー加圧室16及びダミーディセンダ17を有している。ダミー加圧部36は、ダミー加圧室16上に位置している。ダミー個別流路18は、個別流路12とは異なり、マニホールド5に繋がっていない(隔離されている)。また、ダミー個別流路18は、個別流路12とは異なり、吐出孔8を有していない。従って、ダミー加圧部36によってダミー加圧室16に圧力を付与しても、ダミー吐出素子14からは液滴が吐出されない。
【0063】
このようなダミー吐出素子14を設けることによって、複数の吐出素子3の全体に亘って吐出特性を均一にすることができる。具体的には、例えば、以下のとおりである。
図3に示すように、複数の吐出素子3が配置されている領域を領域A1とすると、領域A1の中央側に位置する吐出素子3は、その周辺の吐出素子3と、加圧部30において力学的に相互に干渉する。すなわち、構造クロストークが生じる。その結果、例えば、中央側の吐出素子3は、周囲に他の吐出素子3が設けられていない場合に比較して吐出性能が低下する。一方、領域A1の端に位置する吐出素子3は、その外側に他の吐出素子3が位置しないことから、中央側の吐出素子3に比較して、構造クロストークの影響が小さく、ひいては、吐出性能の低下量が小さい。その結果、複数の吐出素子3の吐出特性にばらつきが生じる。このばらつきは、例えば、印刷した画像に縞状の濃淡として現れることがあり、特に印刷用紙Pの搬送方向に直交する方向の端に、中央側に比較して濃い線として現れやすい。しかし、領域A1の外側にダミー吐出素子14を設けることによって、端に位置する吐出素子3に対しても、中央側の吐出素子3と同様に構造クロストークの影響を及ぼすことができる。その結果、複数の吐出素子3の吐出特性のばらつきが低減される。
【0064】
ダミー吐出素子14の具体的な構成は、液滴が吐出されないようにすることを除いては、吐出素子3と同様とされてよい。従って、例えば、加圧室10、ディセンダ7及び加圧部30の構成、形状及び寸法等に係る既述の説明は、ダミー加圧室16、ダミーディセンダ17及びダミー加圧部36の構成、形状及び寸法等に係る説明に読み替えられてよい。換言すれば、例えば、ダミー加圧室16及びダミー加圧部36の構成、形状及び寸法等は加圧室10及び加圧部30の構成、形状及び寸法等と同一とされてよい。ダミーディセンダ17は、吐出孔8に向かって延びている必要は無いから、該ダミーディセンダ17が延びる方向は、適宜に設定されてよく、例えば、複数の加圧室行11のいずれかの加圧室行11に繋がっているディセンダ7と同様とされてよい。
【0065】
図6に示す例では、ダミー個別流路18は、個別流路12から、しぼり6の全体及び吐出孔8を無くした構成とされている。ただし、ダミー個別流路18は、この例に限定されない。例えば、ダミーディセンダ17は、その全部又は吐出孔面4−1側の一部が無くされてもよい。また、例えば、ダミー個別流路18は、個別流路12のしぼり6からマニホールド5側の一部を無くしたダミーしぼりを有していてもよい。
【0066】
ダミー吐出素子14は、既に述べたように、あたかも吐出素子3が更に外側に配列されたかのように配置されている。従って、例えば、ダミー加圧室16は、全ての加圧室行11に対して設けられており、かつ各加圧室行11における加圧室10の配列に続いて並んでいる。各加圧室行11の両端それぞれにおけるダミー加圧室16の数は、1又は複数であり、図示の例では3つである。また、例えば、ダミー加圧室16は、全ての加圧室列13に対して設けられており、かつ各加圧室列13における加圧室10の配列に続いて並んでいる。各加圧室列13の両端それぞれにおけるダミー加圧室16の数は、1又は複数であり、図示の例では3つである。
【0067】
別の観点では、複数のダミー加圧室16は、加圧室行11に対して直列又は並列なダミー加圧室行31を構成している。また、複数のダミー加圧室16は、加圧室列13に対して直列又は並列なダミー加圧室列32を構成している。すなわち、ダミー加圧室16は、格子状に配列されている。ダミー加圧室16は、ダミー加圧室行31及びダミー加圧室列32がその行数及び列数を維持しつつ交差するように、加圧室10の行列の各角部の外側においても設けられている。
【0068】
また、例えば、ダミー吐出素子14は、1つのマニホールド5に繋がっている複数の吐出素子3が配置されている領域A1の全周に沿って配置されている。
図3及び
図4では、2つのマニホールド5のうちの一方のみについて示しているが、他方のマニホールド5についても同様である。2つの領域A1の間においては、例えば、一方の領域A1に対応するダミー吐出素子14と、他方の領域A1に対応するダミー吐出素子14とは、加圧室列13内における加圧室10同士の間隔よりも大きな間隔を空けて配置されている。この間隔は、例えば、共通電極用表面電極28の配置に利用されている。
【0069】
ダミー加圧部36の個別電極25は、加圧部30の個別電極25と同様に、接続電極26によって信号伝達部60と接合される。そして、ダミー加圧部36は、加圧部30と同様に、制御部88から信号伝達部60を介して個別電極25に駆動信号が入力されることによって駆動される。
【0070】
ただし、加圧部30に入力される駆動信号は、印刷データの内容(画像の内容)に応じて制御されるのに対して、ダミー加圧部36に入力される駆動信号は、必ずしも印刷データの内容に応じて制御される必要は無い。ダミー加圧部36に入力される駆動信号の制御は、適宜なものとされてよい。
【0071】
例えば、各加圧部30に関しては、一定の周期で繰り返し到来する吐出時期から、液滴が吐出されるべき時期が印刷データの内容に応じて選択され、当該時期のみ駆動信号が入力される。ダミー加圧部36に関しては、例えば、印刷データの内容によらず、印刷が行われている間に亘って(印刷データが対象としている印刷範囲に吐出孔8が対向している時間に亘って)、上記の一定の周期で繰り返し到来する吐出時期において駆動信号が入力されてよい。
【0072】
また、例えば、印刷データの内容がダミー加圧部36に入力される駆動信号の制御に加味されてもよい。具体的には、例えば、上記の一定の周期で繰り返し到来する吐出時期のうち、複数の加圧部30の少なくとも1つに駆動信号が入力される時期のみ(又は当該時期及びその前後の時期のみ)、ダミー加圧部36に駆動信号が入力されてもよい。また、例えば、上記の一定の周期で繰り返し到来する吐出時期のうち、ダミー加圧部36からの構造クロストークの影響を受ける加圧部30に駆動信号が入力される時期のみ(又は当該時期及びその前後の時期のみ)、当該加圧部30に構造クロストークの影響を及ぼすダミー加圧部36のみに対して、又は全てのダミー加圧部36に対して、駆動信号を入力してもよい。
【0073】
ダミー加圧部36に入力される駆動信号の波形は、例えば、加圧部30に入力される駆動信号の波形と同様である。ただし、両者は異なっていてもよい。また、加圧部30に入力される駆動信号は、印刷データの内容に応じて波形が制御されることがある。この場合は、例えば、ダミー加圧部36に入力される駆動信号は、印刷データの内容によらず、加圧部30に入力される駆動信号の波形のうち、平均的と考えられる波形又は最も大量に液滴を吐出するときの波形とされてよい。
【0074】
[閉空間]
図7は、
図4の領域VIIに対応する領域について、流路部材4の一部の流路を示す平面図である。なお、ここでは加圧室10及びダミー加圧室16の形状及び配置を示しているが、加圧部30及びダミー加圧部36の形状及び配置も同様である。このことは、後述する変形例に係る
図10〜
図13についても同様である。
【0075】
複数のダミー加圧室16は、複数の連通路19(19A及び19B)によって互いに連通されている。これにより、各ダミー加圧室16の容積よりも容積が大きい閉空間20が構成されている。より詳細には、例えば、1つの領域A1の周囲の全てのダミー加圧室16は、互いに連通されている。従って、1つの領域A1を囲むように、枠状かつ網目状の1つの閉空間20が構成されている。本実施形態では、2つの領域A1それぞれに対して閉空間20が設けられている。なお、2つの閉空間20は、互いに隔離されていてもよいし、互いに連通されて更に容積が大きい1つの閉空間を構成していてもよい。
【0076】
閉空間20は、密閉されている。換言すれば、閉空間20は、マニホールド5及び個別流路12からなる液体が流れる流路から隔離されているとともに、大気に開放されていない。この密閉された閉空間20内には、例えば、気体が封入されている。気体は、例えば、空気である。気体の圧力は、大気圧と同等でもよいし、大気圧よりも低くてもよいし、大気圧よりも高くてもよい。
【0077】
複数のダミー加圧室16が連通されていない場合、ダミー加圧室16は比較的微小な密閉空間となる。その結果、例えば、ダミー加圧部36の変位に対するダミー加圧室16内の圧力の変化が相対的に大きくなり、ダミー加圧部36の変位が低下するおそれがある。しかし、複数のダミー加圧室16及び複数の連通路19を含む閉空間20を構成することによって、密閉空間を相対的に大きくして、上記のような不都合を解消することができる。特に、複数のダミー加圧部36の一部のみが必要に応じて駆動される態様においては、当該効果は向上する。
【0078】
複数の連通路19は、例えば、各ダミー加圧室行31内のダミー加圧室16同士を接続する連通路19Aと、各ダミー加圧室列32内のダミー加圧室16同士を接続する連通路19Bとを有している。連通路19Aは、例えば、各ダミー加圧室行31内において互いに隣り合うダミー加圧室16の、互いに最も近い位置同士を直線で結んでいる。すなわち、連通路19Aは、ダミー加圧室16同士を最短で結んでいる。同様に、連通路19Bは、例えば、各ダミー加圧室列32内において互いに隣り合うダミー加圧室16の、互いに最も近い位置同士を直線で結んでいる。すなわち、連通路19Bは、ダミー加圧室16同士を最短で結んでいる。
【0079】
複数の連通路19A及び19Bが設けられていることから、任意の2つのダミー加圧室16は、互いに並列な2以上の経路(一方が他方をバイパスする2つの経路)によって互いに連通されている。例えば、矢印で示す第1経路r1は、1つの連通路19Bを含み、互いに隣り合う2つのダミー加圧室16を連通している。一方、矢印で示す第2経路r2は、1つの連通路19A、1つのダミー加圧室16、1つの連通路19B、1つのダミー加圧室16及び1つの連通路19Aを順に含み、上記の互いに隣り合う2つのダミー加圧室16を連通している。
【0080】
なお、上記の互いに隣り合う2つのダミー加圧室16を連通する、第1経路r1及び第2経路r2と重複しない経路は他にも存在する。また、ダミー加圧室列32内で互いに隣り合う2つのダミー加圧室16を例に挙げたが、他の方向で隣り合う(例えばダミー加圧室行31内で隣り合う)ダミー加圧室16同士、及び隣り合わないダミー加圧室16同士においても、互いに並列な2以上の経路が存在する。従って、上位概念的に述べると、種々の2つのダミー加圧室16同士を接続する互いに並列な2つの経路は、一方は、少なくとも1つの連通路19を含み、他方は、他の少なくとも1つの連通路19と、少なくとも1つのダミー加圧室16とを含む。
【0081】
図8(a)及び
図8(b)は、ヘッド本体2aの上面側の一部の断面図であり、
図8(a)は、
図7のVIIIa−VIIIa線に対応し、
図8(b)は、
図7のVIIIb−VIIIb線に対応している。
【0082】
連通路19は、例えば、プレート4aの加圧室面4−2とは反対側の面に形成された凹溝によって構成されている。この凹溝は、例えば、プレート4aに対してハーフエッチングを行うことによって形成される。凹溝の深さは適宜に設定されよく、例えば、プレート4aの厚さの1/3以上2/3以下、又は1/2(公差が存在してよいことはもちろんである。)である。なお、プレート4aは、既に述べたように、加圧室10及びダミー加圧室16のうちの少なくとも加圧室面4−2側の一部(本実施形態では全部)を形成している。
【0083】
以上のとおり、本実施形態では、ヘッド2は、流路部材4と、アクチュエータ基板21とを有している。流路部材4は、吐出孔面4−1と、その反対側の加圧室面4−2とを有している。アクチュエータ基板21は、加圧室面4−2に重なっている。流路部材4は、吐出孔面4−1にて開口している複数の吐出孔8と、複数の吐出孔8に個別に通じており、加圧室面4−2の平面視において領域A1内で配列されている複数の加圧室10と、加圧室面4−2の平面視において領域A1の外側に位置している複数のダミー加圧室16と、を有している。アクチュエータ基板21は、複数の加圧室10を個別に加圧する複数の加圧部30と、複数のダミー加圧室16を個別に加圧する複数のダミー加圧部36と、を有している。複数のダミー加圧室16は、複数の連通路19によって互いに連通されている。複数のダミー加圧室16と複数の連通路19とを含んでいる閉空間20は密閉されている。
【0084】
従って、まず、ダミー加圧室16及びダミー加圧部36が設けられていることによって、既に述べたように、構造クロストークに起因する吐出特性のばらつきを低減することができる。
【0085】
ここで、閉空間20が密閉されていると言うことは、換言すれば、閉空間20に含まれている複数のダミー加圧室16は、加圧室10とは異なり、マニホールド5側及び吐出孔8側が塞がれている(例えば、しぼり6及び吐出孔8が設けられていない)と言うことである。ダミー吐出素子14から液滴を吐出させないようにするためには、マニホールド5側及び吐出孔8側の一方が塞がれれば足りる。しかし、マニホールド5側を塞いだだけの場合においては、外部から吐出孔8に侵入した液体(インク)が固化して吐出孔8を塞ぎ、その結果、ダミー吐出素子14の特性が変化したり、当該変化に起因してダミー吐出素子14間の特性にばらつきが生じたりするおそれがある。また、吐出孔8側を塞いだだけの場合においては、ヘッド2の使用開始に際して、インクを開口5aから流路部材4に流し込み、加圧室10の空気を吐出孔8から抜いていくときに、ダミー加圧室16に空気が残る。この空気の量のばらつき及び/又は変化によって、ダミー吐出素子14の特性のばらつき及び/又は変化が生じてしまうおそれがある。しかし、本実施形態では、マニホールド5側及び吐出孔8側の双方が塞がれていることから、そのようなダミー吐出素子14の特性のばらつき及び/又は変化のおそれは低減される。
【0086】
このようにダミー加圧室16を密閉した場合において、本実施形態とは異なり、複数のダミー加圧室16が個別に密閉された場合においては、既に述べたように、ダミー加圧室16の圧力によってダミー加圧部36の変位が抑制されるおそれがある。しかし、本実施形態では、複数のダミー加圧室16を複数の連通路19によって互いに連通して閉空間20を構成していることから、そのような変位の抑制のおそれが低減される。複数のダミー加圧室16が連通されつつも、閉空間20の密閉は維持される。従って、依然として閉空間20にインクが侵入するおそれは低減される。ひいては、インクの詰まりによってダミー吐出素子14の特性のばらつき及び/又は変化が生じるおそれは低減される。
【0087】
また、本実施形態では、流路部材4は、吐出孔面4−1側から加圧室面4−2側へ積層されている複数のプレート4a〜4k及び4mを有している。複数のプレートは、加圧室面4−2を構成しているキャビティプレート(プレート4a)を有している。プレート4aは、複数の加圧室10及び複数のダミー加圧室16の少なくとも加圧室面4−2側の一部(本実施形態では全部)となる開口(孔)を有している。アクチュエータ基板21は、加圧室面4−2に重なって複数の加圧室10及び複数のダミー加圧室16を塞いでいる。複数の連通路19は、プレート4aの加圧室面4−2とは反対側の面に位置している凹溝によって構成されているものを含んでいる。
【0088】
この場合、例えば、ダミー加圧室16同士を直接に連通することになるので、ダミーディセンダ17同士を直接に連通してダミー加圧室16同士を間接的に連通する態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれる。)に比較して、連通路19を設けることが容易である。例えば、平面視においてマニホールド5に重なるダミー加圧室16同士を接続する連通路19をマニホールド5の上に任意の形状(例えば最短経路となる形状)で形成することができる。また、例えば、一般に、流路部材4は、マニホールド5よりも下側の厚みがマニホールド5よりも上側の厚みよりも薄いから、連通路19をマニホールド5の下に形成する態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれる)に比較して、連通路19の厚さを確保しやすい。また、これに関連して、マニホールド5の下側の薄い部分に連通路19及び不図示のダンパーを設けた場合には、連通路19がダンパーの作用に影響を及ぼすおそれがあるが、マニホールド5の上側の厚い部分に連通路19及び不図示のダンパーを設けた場合においては、そのような不都合が低減される。
【0089】
さらに、プレート4aのうち、加圧室面4−2とは反対側の面に凹溝が形成されていることから、加圧室面4−2に凹溝が形成されたり、プレート4aに孔(貫通溝)が形成されたりして連通路が構成された態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれる。)に比較して、加圧室面4−2のうちのダミー加圧室16上の領域における状態を加圧室面4−2のうちの加圧室10上の領域における状態と同様にすることができる。その結果、例えば、加圧室面4−2のうちのダミー加圧室16の周囲の領域がダミー加圧部36に及ぼす影響を加圧室面4−2のうちの加圧室10の周囲の領域が加圧部30に及ぼす影響に近づけることができる。ひいては、吐出素子3同士の構造クロストークをダミー吐出素子14によって再現しやすくなり、領域A1の外周付近における複数の吐出素子3の吐出特性のばらつきを低減することができる。具体的には、例えば、流路部材4とアクチュエータ基板21とを熱硬化性樹脂等によって接着する場合において、冷却時に流路部材4とアクチュエータ基板21との収縮量の差によって応力が生じる。この応力を領域A1とその外側とで同等にすることができる。
【0090】
また、本実施形態では、複数の連通路19は、互いに隣り合うダミー加圧室16の、互いに最も近い位置同士を直線で結ぶものを含んでいる。すなわち、連通路19は、最短の経路となる位置及び形状で構成されている。
【0091】
従って、例えば、複数の連通路19の形成による流路部材4の剛性低下を低減することができる。ここで、ダミー加圧室16は、複数の加圧室10が配置されている領域A1の外側に配置されるから、流路部材4は、外縁側において剛性低下が低減される。一方、ヘッド本体2aは、通常、その外縁側において他の部材に連結されて支持される。ひいては、外縁側に相対的に大きな力が加えられる。従って、流路部材4の外縁側の剛性低下が低減されることによって、例えば、ヘッド本体2aの変形のおそれが効果的に低減され、また、ヘッド本体2aの変形に起因するヘッド本体2aの位置決めの精度の低下のおそれも低減される。
【0092】
また、流路部材4は、第1経路r1及び第2経路r2を有している。第1経路r1は、少なくとも1つの連通路19を含んでおり、所定の、又は任意の2つのダミー加圧室16を連通している。第2経路r2は、他の少なくとも1つの連通路19を含んでおり、第1経路r1をバイパスして、上記の2つのダミー加圧室16を連通している。
【0093】
従って、例えば、流路部材4にインクが侵入して固化し、第1経路r1及び第2経路r2の一方が詰まってしまったとしても、他方の経路によって連通が維持されることが期待される。その結果、インクの浸入によって、1つ(又は少数)のダミー加圧室16のみからなる比較的微小な閉空間が構成されてしまうおそれが低減される。
【0094】
また、本実施形態では、第2経路r2は、上記の2つのダミー加圧室16以外の少なくとも1つのダミー加圧室16を含んでいる。
【0095】
従って、2つのダミー加圧室16を直接にかつ並列に繋ぐ2つの連通路19によって2つの経路を構成する態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれる)に比較して、連通路19の体積の増加を抑制しつつ並列な経路を増加させることができる。その結果、例えば、流路部材4の剛性低下のおそれを低減しつつ、インクの詰まりによる微小な閉空間の形成のおそれを低減できる。
【0096】
また、本実施形態では、流路部材4は、加圧室10が配列される領域A1を複数有している。複数のダミー加圧室16は、複数の領域A1それぞれを囲むように配列されている。
【0097】
従って、例えば、領域A1の外周側において吐出特性のばらつきが生じるおそれが低減されるから、任意の数及び/又は形状で領域A1を設けることができる。すなわち、領域A1の設計の自由度が向上する。その結果、例えば、複数の加圧室10が配列される範囲を適宜な数の領域A1に分けて信号伝達部60の配線密度を低くすることが容易化される。
【0098】
また、本実施形態では、ダミー加圧室16は、加圧室行11に続いて2つ以上(図示の例では3つ)並んで、及び/又は加圧室列13に続いて2つ以上(図示の例では3つ)並んで配置されている。
【0099】
このように、吐出素子3の配列に続いて2以上のダミー吐出素子14を配置することによって、構造クロストークに起因する吐出特性のばらつきを低減する効果が向上する。具体的には、以下のとおりである。
【0100】
図9(a)は、吐出素子3の数が構造クロストークに及ぼす影響を示す図である。この図は、実験によって得られている。横軸nは、吐出素子3の数を示している。横軸の「1」は、1つの吐出素子3(以下、「着目素子」)のみが駆動されている状態を示している。横軸の「2」は、着目素子に加えて、着目素子の隣に位置する吐出素子3が駆動されている状態を示している。横軸の「3」は、着目素子及び上記「2」の吐出素子3に加えて、「2」の吐出素子3の隣に位置する吐出素子3が駆動されている状態を示している。このように、横軸のnは、着目素子と、着目素子に対して一方側に一定のピッチで配列されているn−1個の吐出素子3とが駆動されている状態を示している。縦軸dV(%)は、n=1のときの着目素子における吐出速度を基準として、着目素子における速度の低下率を示している。従って、例えば、n=1では、dV(%)=0である。また、例えば、n=2におけるdV(%)=0.4は、着目素子における吐出速度が、着目素子のみを駆動したときの着目素子における吐出速度に比較して、0.4%低下したことを意味している。
【0101】
この図に示されているように、着目素子における吐出速度は、着目素子の隣の1つの吐出素子3が駆動されると(n=2)低下し、さらに隣の吐出素子3が駆動されると(n=3)、さらに低下する。ただし、それ以上の数の吐出素子3を駆動しても、吐出速度は大きく変化しない。
【0102】
図9(b)は、
図9(a)と同様の図である。ただし、ここでは、着目素子の両側の吐出素子3を駆動している。例えば、横軸の「1」は、
図9(a)と同様に、着目素子のみを駆動している状態を示している。横軸の「3」は、着目素子に加えて、着目素子の両側の2つの吐出素子3が駆動されている状態を示している。横軸の「5」は、着目素子及び上記「3」の2つの吐出素子3に加えて、その両側に位置する2つの吐出素子3が駆動されている状態を示している。
【0103】
この図に示されているように、着目素子における吐出速度は、着目素子の両側の2つの吐出素子3が駆動されると(n=3)低下し、さらに両側の吐出素子3が駆動されると(n=5)さらに低下し、さらに両側の吐出素子3が駆動されると(n=7)さらに低下する。ただし、それ以上の数の吐出素子3を駆動しても、吐出速度は大きくは変化しない。
【0104】
これらの結果から、ダミー吐出素子14を吐出素子3の行又は列に続いて2以上設けることにより、構造クロストークの影響を低減する効果が向上することが確認できる。また、
図9(b)から、ダミー吐出素子14を吐出素子3の行又は列に続いて3つ設けると、領域A1の中央側の構造クロストークを十分に再現しつつ、ダミー吐出素子14の数を抑制することができる。以上から、ダミー吐出素子14を吐出素子3の行又は列に続いて設けるときの数は、例えば、2以上4以下、又は3とされてよい。
【0105】
なお、以上の実施形態において、吐出孔面4−1は第1面の一例である。加圧室面4−2は第2面の一例である。領域A1は所定領域の一例である。プレート4aはキャビティプレートの一例である。
【0106】
[変形例]
以下、種々の変形例について説明する。なお、変形例の説明では、基本的に、実施形態との相違部分のみについて述べる。特に言及がない事項については、実施形態と同様とされてよい。
【0107】
(第1変形例)
図10は、第1変形例に係るヘッドを示す模式図であり、
図7と概ね同等の範囲を示す図である。
【0108】
この変形例では、加圧室行11の端に位置する加圧室10と、当該加圧室10に加圧室行11の方向において隣り合うダミー加圧室16とのピッチPt1は、加圧室行11内における加圧室10のピッチPt0よりも小さくなっている。また、加圧室行11に続く(直列な)ダミー加圧室行31内におけるダミー加圧室16のピッチPt2は、加圧室行11内における加圧室10のピッチPt0よりも小さくなっている。なお、ピッチPt1及びピッチPt2は、いずれが大きくてもよく、例えば、ピッチPt2は、ピッチPt1以下である。
【0109】
このようにピッチPt1及び/又はピッチPt2をピッチPt0よりも小さくすると、ダミー吐出素子14が吐出素子3に近づくから、ダミー吐出素子14が吐出素子3に及ぼす構造クロストークの影響が大きくなる。その結果、例えば、加圧室行11に続くダミー加圧室16の数(別の観点では加圧室列13に並列なダミー加圧室列32の列数)を減らすことができる。図示の例では、加圧室列13に並列なダミー加圧室列32の列数は、実施形態における列数よりも1つ少ない2つとされている。
【0110】
なお、ピッチは、例えば、平面視における、加圧室10及び/又はダミー加圧室16の図心同士の、加圧室行11における加圧室10の配列方向及び/又はダミー加圧室行31におけるダミー加圧室16の配列方向における距離である。図心は、念のために記載すると、その点を通る任意の軸に対する断面一次モーメントが0になる点である。後述する他のピッチについても同様である。
【0111】
加圧室行11に続くダミー加圧室16のピッチについて述べたが、加圧室列13に続くダミー加圧室16のピッチについても同様の変形がなされてよい。例えば、加圧室列13の端に位置する加圧室10と、当該加圧室10に加圧室列13の方向において隣り合うダミー加圧室16とのピッチPt6は、加圧室列13内における加圧室10のピッチPt5よりも小さくなっている。また、加圧室列13に続く(直列な)ダミー加圧室列32内におけるダミー加圧室16のピッチPt7は、加圧室列13内における加圧室10のピッチPt5よりも小さくなっている。なお、ピッチPt6及びピッチPt7は、いずれが大きくてもよく、例えば、ピッチPt7は、ピッチPt6以下である。
【0112】
このようにピッチPt6及び/又はピッチPt7をピッチPt5よりも小さくした場合においても、ピッチPt1及び/又はピッチPt2をピッチPt0よりも小さくした場合と同様の効果が得られる。すなわち、ダミー吐出素子14が吐出素子3に及ぼす構造クロストークの影響を大きくすることができ、その結果、例えば、加圧室列13に続くダミー加圧室16の数(別の観点では加圧室行11に並列なダミー加圧室行31の行数)を減らすことができる。図示の例では、加圧室行11に並列なダミー加圧室行31の行数は、実施形態における行数よりも1つ少ない2つとされている。
【0113】
なお、図示の変形例では、ピッチPt1及びピッチPt2の双方がピッチPt0よりも小さくされたが、一方のみがピッチPt0よりも小さくされてもよい。また、加圧室行11に続いて3以上のダミー加圧室16が並んでおり、ひいては、ピッチPt2が2以上存在する場合においては、全てのピッチPt2がピッチPt0より小さくされてもよいし、一部(少なくとも1つ)のピッチPt2がピッチPt0より小さくされてもよい。ピッチPt5〜Pt7についても同様である。すなわち、ピッチPt6及びピッチPt7の一方のみがピッチPt5より小さくされてもよいし、複数のピッチPt7が存在する場合において、全てのピッチPt7がピッチPt5より小さくされてもよいし、一部(少なくとも1つ)のピッチPt7がピッチPt5より小さくされてもよい。図示の変形例では、行及び列の双方においてピッチが変えられたが、一方のみにおいてピッチが変えられてもよい。
【0114】
なお、第1変形例(及び後述する第2変形例)において、任意の加圧室行11内の加圧室10、及び前記加圧室行11に続くダミー加圧室16は、第1加圧室及び第1ダミー加圧室の一例である。また、任意の加圧室列13内の加圧室10、及び前記の加圧室列13に続くダミー加圧室16も、第1加圧室及び第1ダミー加圧室の一例である。
【0115】
(第2変形例)
図11は、第2変形例に係るヘッドを示す模式図であり、
図7と概ね同等の範囲を示す図である。
【0116】
この変形例では、加圧室行11に続いて並ぶ1以上(図示の例では2つ)のダミー加圧室16の、加圧室行11に平行な方向の幅w1及び幅w2は、加圧室10の、加圧室行11に平行な方向の幅w0よりも大きい。なお、加圧室行11に続く2以上のダミー加圧室16のうち、加圧室行11側のダミー加圧室16の幅w1と、加圧室行11とは反対側のダミー加圧室16の幅w2とは、いずれが大きくてもよく、例えば、幅w2は、幅w1以上である。
【0117】
このように幅w1及び/又は幅w2を幅w1よりも大きくすると、ダミー吐出素子14と吐出素子3との間隔(ピッチではなく、隙間の距離)が短くなるから、ダミー吐出素子14が吐出素子3に及ぼす構造クロストークの影響が大きくなる。その結果、例えば、加圧室行11に続くダミー加圧室16の数(別の観点では加圧室列13に並列なダミー加圧室列32の列数)を減らすことができる。図示の例では、加圧室列13に並列なダミー加圧室列32の列数は、実施形態における列数よりも1つ少ない2つとされている。
【0118】
なお、加圧室10及び/又はダミー加圧室16の、加圧室行11及び/又はダミー加圧室行31に平行な方向の幅は、例えば、当該方向の最大幅を基準として比較してよい。例えば、加圧室10及び/又はダミー加圧室16の形状が行方向及び列方向に対角線を有する菱形であれば、行方向の最大幅は、行方向に平行な対角線上の長さである。後述する他の方向の幅についても同様に、最大幅が基準とされてよい。
【0119】
加圧室行11に続くダミー加圧室16の加圧室行11に平行な方向の幅について述べたが、加圧室列13に続くダミー加圧室16の加圧室列13に平行な方向の幅についても同様の変形がなされてよい。例えば、加圧室列13に続いて並ぶ1以上(図示の例では2つ)のダミー加圧室16の、加圧室列13に平行な方向の幅w6及び幅w7は、加圧室10の、加圧室列13に平行な方向の幅w5よりも大きい。なお、加圧室列13に続く2以上のダミー加圧室16のうち、加圧室列13側のダミー加圧室16の幅w6と、加圧室列13とは反対側のダミー加圧室16の幅w7とは、いずれが大きくてもよく、例えば、幅w7は、幅w6以上である。
【0120】
このように幅w6及び/又は幅w7を幅w5よりも大きくした場合においても、幅w1及び/又は幅w2を幅w0よりも小さくした場合と同様の効果が得られる。すなわち、ダミー吐出素子14が吐出素子3に及ぼす構造クロストークの影響を大きくすることができ、その結果、例えば、加圧室列13に続くダミー加圧室16の数(別の観点では加圧室行11に並列なダミー加圧室行31の行数)を減らすことができる。図示の例では、加圧室行11に並列なダミー加圧室行31の行数は、実施形態における行数よりも1つ少ない2つとされている。
【0121】
なお、図示の変形例では、加圧室行11に続く2以上のダミー加圧室16の幅の全て(ここではw1及びw2)が加圧室10の幅w0よりも大きくされたが、一部の幅のみ(少なくとも1つの幅)が幅w0より大きくされてもよい。同様に、加圧室列13に続く2以上のダミー加圧室16の幅(ここではw6及びw7)のうち、一部の幅のみ(少なくとも1つの幅)が幅w5よりも大きくされてもよい。図示の変形例では、行及び列の双方において幅が変えられたが、一方のみにおいて幅が変えられてもよい。
【0122】
(第3変形例)
図12は、第3変形例に係るヘッドを示す模式図であり、
図7と概ね同等の範囲を示す図である。
【0123】
この変形例では、互いに隣り合う加圧室行11同士において、加圧室10の、加圧室行11に平行な方向の位置が互いに半ピッチずれている。すなわち、実施形態では、複数の加圧室10は格子状に配列されていたのに対して、この変形例では、複数の加圧室10は千鳥状に配列されている。また、ダミー加圧室行31についても同様に、隣り合うダミー加圧室行31同士において、ダミー加圧室16の、ダミー加圧室行31に平行な方向の位置は、互いに半ピッチずれている。
【0124】
複数の連通路19のうち、連通路19Aは、実施形態と同様に、ダミー加圧室行31内で互いに隣り合うダミー加圧室16同士を最短で結んでいる。連通路19Bは、蛇行するように(千鳥状に)ダミー加圧室行31に直交する方向に配列されている複数のダミー加圧室16を1つの列として見做したときに、この列内で互いに隣り合うもの同士を最短で結んでいる。
【0125】
(第4変形例)
図13は、第4変形例に係るヘッドを示す模式図であり、
図7と概ね同等の範囲を示す図である。
【0126】
この変形例において、加圧室10及びダミー加圧室16の配置は、第3変形例と同様である。また、複数の連通路19のうち連通路19Aは、第3変形例と同様に、ダミー加圧室行31内で互いに隣り合うダミー加圧室16同士を最短で結んでいる。一方、連通路19Bは、第3変形例とは異なり、ダミー加圧室行31に直交する方向に平行に配列されている複数のダミー加圧室16を1つの列と見做したときに、この列内で互いに隣り合うもの同士を最短で結んでいる。また、連通路19Aと連通路19Bとは互いに交差しており、かつ互いに連通されている。
【0127】
なお、この変形例では、斜め方向において互いに隣り合う2つのダミー加圧室16同士は、連通路19のみからなる並列な(一方が他方をバイパスする)2つの経路によって連通されている。このように、所定の2つのダミー加圧室16同士を連通する2つの並列な経路は、ダミー加圧室16を経由していなくてもよい。また、連通路19Aの半分及び連通路19Bの半分からなるL字を1つの連通路と見做せば、互いに並列な2つの経路は、それぞれ1つの連通路のみを有している例として捉えることができる。
【0128】
(第5変形例)
図14は、第5変形例に係るヘッドを示す模式図であり、
図7と概ね同等の範囲を示す図である。
【0129】
この変形例では、複数の隣り合うダミー加圧室16間におけるピッチが異なっている。ひいては、連通路19A同士の長さが異なっており、また、連通路19B同士の長さが異なっている。そして、複数の連通路19は、その長さに応じて互いに幅が異なっている。具体的には、複数の連通路19Aにおいて、相対的に長い連通路19Aの幅w3は、相対的に短い連通路19Aの幅w4よりも広くなっている。同様に、複数の連通路19Bにおいて、相対的に長い連通路19Bの幅w3は、相対的に短い連通路19Bの幅w4よりも広くなっている。なお、本変形例の説明における連通路19の幅の大小関係は、連通路19の横断面の面積の大小関係と同じであるものとする。
【0130】
このように、長い連通路19A,19Bの幅w3を短い連通路19A,19Bの幅w4よりも広くすることで、例えば、複数のダミー加圧室16の間でより均一に圧力を逃がすことができ、構造クロストークに起因する吐出特性のばらつきをより低減することができる。
【0131】
図示しないが、長さが3段階で異なる場合には、幅も3段階で異なるようにしてもよい。4段階以上についても同様である。上記のような長さと幅との関係は、連通路19Aの全てにおいて成立していてもよいし、一部において成立していてもよい。連通路19Bについても同様である。上記では、複数の連通路19Aにおける長さ及び幅の関係、複数の連通路19Bにおける長さ及び幅の関係について述べた。連通路19Aと連通路19Bとを比較したときにおいても、長い方が短い方よりも幅が広くなっていてもよい。
【0132】
なお、第5変形例において、幅w4を有する連通路19は第1連通路の一例であり、幅w3を有する連通路19は第2連通路の一例である。
【0133】
本開示に係る技術は、上述した実施形態及び変形例に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0134】
例えば、上述した変形例は適宜に組み合わされてもよい。例えば、第1変形例(
図10)に係るダミー加圧室のピッチと、第2変形例(
図11)に係るダミー加圧室の幅との双方が採用されてもよい。また、当該ピッチ及び/又は幅は、第3又は第4変形例(
図12又は
図13)に適用されてもよい。また、第5変形例(
図14)の説明では、第1変形例(
図10)における、加圧室10、ダミー加圧室16及び連通路19の配置を例に取って説明した。しかし、第5変形例における連通路の長さと幅との関係は、第2〜第4変形例のいずれか、又は第1〜第4変形例のいずれか2つ以上の組み合わせに適用されてもよい。
【0135】
実施形態で示した、共通流路(マニホールド)及び個別流路(しぼり、加圧室、ディセンダ及び貫通孔)の形状、並びに加圧室及び吐出孔の配列等は一例に過ぎない。例えば、共通流路は、ヘッドと記録媒体との相対移動の方向に直交する方向でなく、当該相対移動の方向に対して鈍角又は鋭角で傾斜する方向に延びていてもよい。共通流路に沿って配列されている加圧室についても同様である。また、加圧室の配列及び/又は吐出孔の配列は、意図的に(公差ではなく)、一定のピッチかつ直線的な配列からの微小なずれが設けられていてもよい。
【0136】
流路部材は、圧電セラミック層21aとは別に、加圧室を塞ぐプレートを有していてもよい。ただし、この場合、このプレートをアクチュエータ基板21の一部として捉え、加圧室はアクチュエータ基板によって塞がれていると捉えても構わない。
【0137】
ヘッドは、2次元的に配列された吐出素子を有するものに限定されず、1次元的に配列された吐出素子を有するものであってもよい。なお、この場合は、例えば、配列方向の両側にダミー加圧室が設けられる。また、ヘッドが所定領域内で2次元的に配列された吐出素子を有する場合において、ダミー加圧室は所定領域を囲むように設けられている必要は無い。例えば、行方向及び列方向のうち、構造クロストークの影響が大きい方向のみにおいて、両側にダミー加圧室が設けられていてもよい。
ヘッドにおいて、流路部材は、吐出孔面と、その反対側の加圧室面とを有している。アクチュエータ基板は、加圧室面に重なっている。流路部材は、吐出孔面にて開口している複数の吐出孔と、複数の吐出孔に個別に通じており、加圧室面の平面視において所定領域内で配列されている複数の加圧室と、加圧室面の平面視において所定領域の外側に位置している複数のダミー加圧室と、を有している。アクチュエータ基板は、複数の加圧室を個別に加圧する複数の加圧部と、複数のダミー加圧室を個別に加圧する複数のダミー加圧部と、を有している。複数のダミー加圧室は、複数の連通路によって互いに連通されている。複数のダミー加圧室と複数の連通路とを含んでいる閉空間は密閉されている。