(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溝加工が、レーザー加工、切削加工、加熱加工、研削加工、塑性加工、放電加工、3D加工、ウォタージェット加工、射出成型加工、鋳造加工、エッチング加工またはそれらの組み合わせである請求項1〜4のいずれか1項に記載の保護膜の製造方法。
溝加工が、レーザー加工、切削加工、加熱加工、研削加工、塑性加工、放電加工、3D加工、ウォタージェット加工、射出成型加工、鋳造加工、エッチング加工またはそれらの組み合わせである請求項6〜9のいずれか1項に記載の保護膜の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、機械部品等の保護膜として、長寿命で信頼性が高く、安心して使用できる材料表面の硬質膜被覆技術の開発が求められている。この硬質膜被覆技術の分野において、硬質炭素膜、特にダイヤモンド状カーボン(DLC)は、部品表面に形成することで、部品の摺動性を高める材料として高い評価を受けている。DLCは、炭素を主成分とし、炭素原子がグラファイトのsp
2結合、ダイヤモンドのsp
3結合を有しながら、全体として非晶質の材料で、グラファイトとダイヤモンドとの中間の物性を示す材料である。そして、その膜特性と表面平滑性から、摩擦係数が低く、耐摩耗性が高いことが知られており、摺動性を高める表面被膜として、各種機械、工具および内燃機関等の摺動面に対し、広く利用されている。
【0003】
しかしながら、耐摩耗性向上のためにDLC等の硬質膜が堆積されている基材表面に外部応力が加えられると、基材自体が変形して硬質膜に大きなひずみが加わり、硬質膜が基材から剥離することがある。これを解決するものとして、基材上に、セグメントに分割して形成された膜を堆積してなる、セグメント形態の保護膜が提案されている(特許文献1)。
【0004】
そのようなセグメント形態の保護膜を得るには、基材をタングステン線等の金網を用いてマスキングした後に、保護膜の堆積を行うことが知られている(特許文献1)。より具体的には、タングステン線等の金網を用いてマスキングすることにより金網の目に相当する部分がセグメントを構成し、格子状のセグメント膜が得られ、金網部分、すなわち金網の網線に相当する部分が隣接するセグメント保護膜間の間隔を構成する。
【0005】
金網を用いたマスキングによるセグメント形状は、金網の加工性(曲げやすさなどの金網変形の自由度)に制限される。例えば、通常の金網の網線は太さが均一であるので、金網の目に堆積する膜の厚みは一定のものしかできない。また、通常の金網のメッシュは均一であるので、セグメントの形状を成膜する箇所ごとに変化させることが難しい。また、マスキングをする基材が平面状の場合金網のマスクでも比較的容易に適用可能であるが、基材が3次元形状であり、その表面が曲面の場合は、金網のマスクは適用が困難である。例えば、3次元曲面を覆うには、3次元物体を構成する曲面ごとに平面状の金網を細かく分割し、それらをつなぎ合わせることを要し、非常に手間暇がかかる上に、バッチごとのセグメント形状の同一性維持が困難となり、保護膜の品質管理が一層難しくなる。
【0006】
本発明者は、金網を用いたマスキングの代りに、描画材によるマスキングまたは機械的切削工具による溝加工後に堆積する保護膜およびその方法も提案している(特許文献2)。この方法は、金網マスキングを用いるよりも、セグメント形態の保護膜の形成が容易であり、複雑な表面へのセグメント形態を可能とする。しかしながら、一般的な印刷装置での線描画速度は20mm/秒程度であり、マイクロリューターでの切削速度は0.1mm/秒程度であり、さらに高速且つ自由度の高い生産技術が求められている。また、描画材でのマスキングにより作製されるセグメント構造の保護膜では、膜厚に相当する分の溝深さ、つまり数ナノメータから数百マイクロメートルの溝深さしか得られない。機械的切削工具を用いて基材に溝加工をする方法によれば、1mm程度の深さを有する溝を作製できるが、被加工面が凹面やパイプ内面等であると機械的切削工具のアクセスが困難な場合がある。
【0007】
そこで、セグメント形態の保護膜の形成をさらに高速に行い、保護膜の品質管理をさらに向上させ、さらに自由度の高い(複雑な)セグメント形態を可能とし、二次元形状のみならず三次元形状の曲面にも適用可能な、DLC膜などの保護膜、およびそれを成膜する方法を提供するために、セグメント形態の保護膜を基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるようにレーザーを用いて該基材に溝加工をした後に、該保護膜を堆積してセグメント間の間隔を形成することも提案した(特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、保護膜を堆積させる基材において形成する溝構造に関し、特に溝の側面から溝の底部に繋がる構造および溝の底部の構造に関して、内外力の負荷変形応力により溝構造(基材と保護膜により形成された構造)が破壊・破損するのを防止し、強度的に安定なセグメント構造の保護膜を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記の課題を解決するために、以下の発明が提供される。
(1)基材上に膜を堆積したセグメント構造の保護膜
を形成するに際し、該基材に溝加工した後に該保護膜を堆積してセグメント保護膜間の間隔を形成
し、溝側面と溝の底部が交差する部分の縦断面が下に凸の曲線で繋がり、かつ溝の底部の縦断面が下に凸の曲線、または直線であり、基材表面から溝の底部への溝側面の傾斜角αが25±20度である保護膜
を得ることを特徴とする保護膜の製造方法。
(2)溝が流路または池である上記(1)に記載の保護膜
の製造方法。
(3)保護膜が、ダイヤモンド状カーボン膜、ダイヤモンド膜、BN膜、W
2C膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al
2O
3膜、ZnO膜、SiO
2膜およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる上記(1)または(2)に記載の保護膜
の製造方法。
(4)保護膜が、金属メッキ膜、アルマイト膜および樹脂膜およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる上記(1)〜(3)のいずれかに記載の保護膜
の製造方法。
(5)溝加工が、レーザー加工、切削加工、加熱加工、研削加工、塑性加工、放電加工、3D加工、ウォタージェット加工、射出成型加工、鋳造加工、エッチング加工またはそれらの組み合わせである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の保護膜
の製造方法。
(6)基材上に膜を堆積したセグメント構造の保護膜
を形成するに際し、該基材上に該保護膜を堆積した後に保護膜および基材に溝加工してセグメント保護膜間の間隔を形成
し、溝側面と溝の底部が交差する部分の縦断面が下に凸の曲線で繋がり、かつ溝の底部の縦断面が下に凸の曲線、または直線であり、保護膜表面から溝の底部への溝側面の傾斜角αが25±20度である保護膜
を得ることを特徴とする保護膜の製造方法。
(
7)溝が流路または池である上記(
6)に記載の保護膜
の製造方法。
(
8)保護膜が、ダイヤモンド状カーボン膜、ダイヤモンド膜、BN膜、W
2C膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al
2O
3膜、ZnO膜、SiO
2膜およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる上記(
6)または(
7)に記載の保護膜
の製造方法。
(
9)保護膜が、金属メッキ膜、アルマイト膜および樹脂膜およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる上記(
6)〜(
8)のいずれかに記載の保護膜
の製造方法。
(
10)溝加工が、レーザー加工、切削加工、加熱加工、研削加工、塑性加工、放電加工、3D加工、ウォタージェット加工、射出成型加工、鋳造加工、エッチング加工またはそれらの組み合わせである上記(
6)〜(
9)のいずれかに記載の保護膜
の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セグメント構造の保護膜において、特に溝の側面から溝の底部に繋がる構造および溝の底部の構造により、内外力の負荷変形応力により溝構造(基材と保護膜により形成された構造)が破壊・破損するのを防止し、強度的に安定なセグメント構造の保護膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の1つの態様において、保護膜は、基材上に膜を堆積したセグメント構造の保護膜であって、
図1の(a)に示されるように、基材に溝加工した後に保護膜を堆積してセグメント保護膜間の間隔を形成してなる。保護膜は、膜を破損・破壊する応力が集中しないで、応力を基材側に伝搬しやすくするために、溝側面と溝の底部が交差する部分の縦断面は下に凸の曲線で繋がり、かつ溝の底部の縦断面は下に凸の曲線、または直線である。
【0014】
すなわち、溝側面と溝の底部が交差する部分(コーナー部分)は、縦断面が下に凸の曲線で繋がっているように構成される。さらに、溝の底部の縦断面形状は、直線または下向きに凸状の曲線(たとえば楕円の一部に近似する)であるように構成され、直交する溝の縦断面形状は、たとえばU字型等が選ばれる。この場合でも端部の形状は溝の底に至る壁の角度や底に繋がる曲線形状は上述の形状に従うものである。
【0015】
「下向きに凸状の曲線」は、溝側面が溝底に至り、溝の底部を経て対向する昇りの溝側面に至るまでの下向きに凸状の曲線の形状であって、溝側面から底部に繋がるところは曲線で繋がり(R
1)、壁に近い所では曲線の曲率が大きく(すなわち、曲率半径が小さく、急に曲がる状態)であって、溝底中央部では曲率が小さい(曲率半径が大きく(R
2)、なだらかに曲がる)状態であるように曲率が次々に(暫次)変化しながら繋がっている線を理想とする。この曲線は楕円形の曲線の一部となる。しかしながら、厳密にこの様な曲線状に加工をすることは不可能であり、制御可能な範囲で楕円曲線の一部に近似する曲線である。
図1の(d)は、2つのR、すなわち溝側面と底部の交差部分のR
1および溝底中央部のR
2を示す。このような構成により、膜を破損・破壊する応力が集中しないで、応力を基材側に伝搬しやすくすることができる。
【0016】
溝の底部の縦断面形状が直線である場合、溝側面と底の間には曲線部分を有するのが好適である。たとえば、溝側面から底部に繋がるところは曲線(R
1)で繋がり、その延長部分の底部の縦断面形状は直線である。
【0017】
さらに、膜を破損・破壊する応力が集中しないで、応力を基材側に伝搬しやすくするために、好適には基材表面から溝の底部への溝側面の傾斜角αが60度以下である。さらに好適には、αは25±20度である。
【0018】
図1の(a)において、31は基材、311は基材表面、32は保護膜、321は保護膜表面、33は溝、331は溝の傾斜面、および332は溝の底部示す。αは、基材表面から溝の底部への溝側面の傾斜角を示す。
【0019】
溝側面の傾斜角αの測定に際しては、レーザー顕微鏡(たとえば、株式会社キーエンス製VK−9710)を用いて、水平面(基材表面または保護膜表面に相当する)から溝側面表面までの距離を順次測定して溝側面の傾斜を測定することができる。
【0020】
図2は、切削加工により基材に溝加工する一例を示す縦断面図を示し、αは、基材表面から溝の底部への溝側面の傾斜角を示す。
図2において、31は基材、311は基材表面、33は溝、331は溝の傾斜面、332は溝の底部、および34は切削工具を示す。基材31は、切削工具34を横方向に移動させながら下方に侵入させて所定の深さまで切削され、傾斜面が形成され、ついで切削工具4を所定の位置まで横方向に移動し、ついで進行方向はそのままに上方に引き上げることにより、もう1つの溝側面の傾斜面が形成される。奥行方向(図の垂直方向)も同様にして形成され得る。2つの傾斜面の肩部は、後述するように適宜所望の曲率を有するように加工されるのが好適である。ついで、基材31上に、保護膜が堆積される(図示せず)。
【0021】
ここで、保護膜は、溝側面の傾斜面331と溝の底部332にも堆積するが、基材表面311への堆積レートに対しては堆積レートが低くなり、膜厚は比較して薄くなる。最外面の保護膜を堆積させる目的の面の保護膜表面に掛かる応力の一部はこの斜面にも掛かることがあるが、応力を受ける目的ではないため、溝側面と溝底部の膜厚が薄くなってもよく、さらには膜がなくても全体の耐摩耗性向上、低摩擦摺動に影響はない。
【0022】
溝加工方法は、レーザー加工、切削加工、加熱加工、研削加工、塑性加工、放電加工、3D加工、ウォタージェット加工、射出成型加工、鋳造加工、エッチング加工、またはこれらを組み合わせて使用され得る。さらに溝内や表面粗さを調整するために研磨も使用され得る。
【0023】
基材の溝加工に際しては、基材に予め各種の前処理を施すこともできる。たとえば、金属に窒素を浸み込ませ表面硬化させる窒化処理、金属に炭素を添加して表面硬化させる浸炭、鉄鋼を焼き入れ後、焼き戻して靱性を高める調質、金属にクロムを拡散浸透させて、耐食、耐摩耗性を高めるクロマイジング、鉄鋼の表面にリン酸亜鉛等の皮膜を形成させ、耐食性、密着性を高めるリン酸塩処理、等が挙げられる。
【0024】
レーザー加工においては、レーザーは加工対象や使用状況に応じて、YAGレーザー(基本波,第二高調波,第三高調波),CO
2レーザー,アルゴンレーザー,エキシマレーザー(ArF,KrF),ファイバーレーザー,フェムト秒レーザー、ピコ秒レーザーなどを好適に利用できる。
【0025】
保護膜が炭素系材料など(DLC、ダイヤモンドなど)の場合、300度(℃)以上の温度で結晶状態が変化し、グラファイト成分が多くなり、硬度低下を招くことがある。加工雰囲気を酸化環境(O
2ガス、大気、O
3ガス)にすると、CO
2となることがある。この変化を使うために、レーザービーム照射時に酸化環境とすれば、所定の部分を黒鉛や炭酸ガスなどに変化させ、除去しやすいものにすることができる。
【0026】
切削加工は、マイクロリューターなどの切削工具を使用し、被加工物の表面から内部に至る順序で削り取る加工であり、フライス加工、マシニング加工、多軸マシニング加工、ジグボーラー、NC旋盤加工、自動旋盤加工、などの工作機械を使用して溝摸様を彫り込むことができる。
【0027】
加熱加工は、保護膜を加工する時は保護膜を変化させる熱を使うことが可能であり、赤熱させた微細な金属を保護膜面に押し当てるだけで、その熱影響を受けた部分の保護膜の組成が変化することを使った加工も可能である。特にDLCやダイヤモンド膜などの炭素系保護膜では有効である。
【0028】
研削加工は、砥粒を利用した加工であり、研削盤、マシニング加工、溝入れ加工などが行われる。砥石や研磨工具の先端を設計し製作すれば、所定の角度を彫り込める。
【0029】
塑性加工は、金型や刃物・絞り型・工具など被加工物より硬い物質を相手基材に押し付け、基材表面形状が元に戻らない事を利用する加工法であり、プレス加工、ナノインプリント加工、ローレット加工、などの単発加工や、基材側を動かすことで連続加工が行われる。
【0030】
放電加工は、基材が通電する場合に基材と金型間で微細なア-ク放電による溶融を使用した金属加工であり、放電加工機による型彫り込み、ワイヤカット、などの工法により、目的の摸様を彫り込むことができる。
【0031】
3D加工は、3Dプリンターによる樹脂や金属などを使ったマスク摸様の堆積が可能であり、特徴的には摸様の高さを変化させることが可能である。通常知られている3Dプリンターは樹脂や金属を堆積しながら形を作るが、基本的にはYZ軸方向に動くベッドとX軸に動く樹脂などを吐出するプリンターヘッド、または金属粉を溶融させるレーザーがシンクロしながら動く機構を持つ。この機能にワーク(被加工物)を回転させる機構を組み合わせれば立体物に3Dプリント加工ができる。この方法で腐食性物質を含むインクなど基材を彫る要素をプリントし、所定時間経過させると腐食させたい部分が彫り込まれる。特徴としては別離した部分に彫り込み加工ができる。マスクを使うエッチングでは摸様に匹敵する彫り込まれた溝部が連続してしまうが、本方式によればマスクを使用しないため独立した溝(池状の窪み)を作成できる。大きな面積を一定時間で加工することも可能である。
【0032】
ウォタージェット加工は、水中に研磨材を導入し、たとえば2000気圧程度の高圧で吹き付けることにより被加工物を切削または彫り込みする加工法である。
【0033】
射出成形加工は、加熱熔融した樹脂等を金型内に射出流入させ、冷却固化させて所望の溝を有する成形品を得る加工法である。
【0034】
鋳造加工は、ワックスで原型を作製し、周りを鋳物砂で覆い、ワックスを溶かして除去して形成された空洞に金属を流し込む、いわゆるロストワックス法が好適に使用され得る。
【0035】
エッチング加工は、マスクを通した腐食液による型彫りであり、マスク摸様が様々に組合せられ、マスクを同時に複数個セットした複数同時加工が可能な模様彫りが出来る。彫り込み深さは腐食液との接触時間で変化させることが可能。また、腐食液を電解質として、外部電極と直流接続する事でエッチング速度を制御することも可能である(電解研磨)。
【0036】
溝はセグメント間隔部分に対応する大きさ、形状を有するように、加工される。以下、レーザー加工を主として説明する。レーザーの出力パワー、ビーム径、フォーカス等の調整により、溝部の幅(大きさ)や深さ等を容易に制御できる。また、レーザーの加工速度は、300mm/秒程度を容易に達成することができる。一般的な機械的切削工具であるマイクロリューターでの切削速度は0.1mm/秒程度であり、レーザーの加工速度はその3000倍である。また、レーザーによる溝の幅の下限は、ピコ秒レーザー加工による15μm程度が通常である。
【0037】
一般的な機械的切削工具であるマイクロリューターでの溝の幅の下限は70μm程度である。すなわち、レーザーは、より微細な溝加工が可能である。なお、溝の幅の上限は、レーザーをずらして溝加工を繰り返すことにより、無限に広げることができる。また溝部の深さは、1μm程度以上であれば任意に調整が可能である。溝部は、溝加工を繰り返すことで深さを調整可能である。溝加工はメッシュ(溝どうしの間隔)を2μm程度以上であれば随意的に変えられ、細かなセグメント構造と大きなセグメント構造をグラデーション的に設定可能である。
【0038】
レーザーを用いて該基材に溝加工をする場合、自由にパターン(図形)、溝幅、および溝深さを組み合わせることも可能である。そして、溝加工パターンは自由に設定する事が可能であり、すなわち溝切りの曲線の曲率半径も任意に設定することができる。したがって、一つの基材に異なるセグメントパターンをつけることができるので、用途に応じた最適なセグメント構造の保護膜を得ることが可能である。溝加工パターンを自在に設定することが可能と言うことは、セグメント構造保護膜を使ってマーキングやネーミングも可能である。さらに、セグメント構造の位置・大きさ・範囲を変化させることで、溝部の幅や曲がり方も自在に制御可能となり、溝を流路または閉鎖された溝(池)とし得、閉鎖された溝はオイルピット(油溜まり)として使うことも容易に行える。
【0039】
さらに、機械的接触を必要とする機械的切削工具では被加工物へのアクセスが困難な場合であっても、レーザーは被加工物と光学的に接触するためアクセスが容易である。レーザーは、鏡面反射や光ファイバーによる照射も可能であり、さらに自由度の高い加工が可能である。また、被加工物の表面形状による制限も受けにくい。
【0040】
レーザーを用いて基材に溝加工をした後に、保護膜を堆積してセグメント
保護膜間の間隔を形成する。溝の幅は、前記の隣接するセグメントの間隔0.1μm〜1mmの範囲から選択される。溝の深さは、1μm〜2mm程度の範囲から選択される。レーザーを用いた溝加工の精度で、1μm以下の溝を均一に導入するのは現状で困難であることから1μm程度が下限となる。
【0041】
上記のように、保護膜は、膜を破損・破壊する応力が集中しないで、応力を基材側に伝搬しやすくするために、溝側面と溝の底部が交差する部分の縦断面は下に凸の曲線で繋がり、かつ溝の底部の縦断面は下に凸の曲線、または直線であるように構成される。
【0042】
従来技術の描画材でのマスキングにより作製されるセグメント構造の保護膜では、膜厚に相当する分の溝深さ、つまり数ナノメータから数百マイクロメートルの溝深さしか得られないが、たとえばレーザーを用いて基材に溝加工をする本方法によれば、1mm程度の深さを有する溝を容易に作製できる。堆積される保護膜の膜厚が通常1nmから200μmに対して、溝の深さが1μm〜2mm程度と十分に深いので、基材に溝加工をした後に堆積される保護膜は、他物質と接触する・応力を受けるなど、耐摩耗性、摺動性などの関係する最表面の効果としてセグメント形態が得られる。なお、溝部では、膜厚が最表面に対して相対的に薄くなる。(溝深さ÷溝幅)が大きい場合には、膜は溝側面や底部において分断され得る。これにより、セグメント形態の保護膜が得られる。膜を分断するための溝の深さとしては、通常、所望の保護膜の厚さの5倍以上、好ましくは20倍以上、さらに好ましくは50倍以上、より好ましくは100倍以上、もっと好ましくは150倍以上である。
【0043】
レーザー加工によってできた残滓が、基材表面より突出した形状で生じることがある。すなわち、いわゆるバリが溝部の周縁に形成されることがある。必要に応じてこのバリは除去することが好ましい。バリの除去は、適当な物理的手法により、基材へのダメージを与えることなく実施することができる。
【0044】
バリを除去する方法として、再度レーザーを用いることができる。デフォーカスまたは出力を調整したレーザーを溝加工部に照射することにより、バリ部が加熱溶融されて変形し、溝の肩部(基材の表面と溝側面との交接する辺およびその近傍)がなだらかになる。例えば溝の肩部を、保護膜の膜厚より大きな曲率半径で彎曲させることができる。溝の肩部の形状が所望の形状になるまで、レーザーの焦点(デフォーカス)、出力、オフセット量、往復回数等を適宜調整することができる。
【0045】
また、バリを除去する方法として、基材の材質、所望の溝寸法・形状に応じて適当な工具・工法を使用することができ、例えば、サンドペーパーなどによる研磨、バフ研磨、流体研磨、磁気研磨、サンドブラスト、固体二酸化炭素粉末などによるブラスト、回転砥石などによる研削、等方性ドライエッチングなどのエッチング、電解質液を用いた電解研磨等も使用可能である。これらのバリを除去する方法は、組み合わせて用いてもよい。特に、レーザーでバリ取りした後にレーザー以外の方法でさらにバリ取りをすることにより、さらに肩部の曲率半径を精度よく揃えることができ、品質管理上有利である。
【0046】
本発明において用いられる基材としては、特に制限されず、たとえばアルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、耐熱合金、ステンレス合金、タングステン合金、鋼等の金属;プラスチックなどの高分子基材;ゴム;セラミック;CFRPなど炭素系材料およびこれらの複合材料等が挙げられ、目的により適宜選択しうる。
【0047】
保護膜を堆積させる基材表面が3次元曲面を形成してもよい。3次元曲面とは、プレス加工等の塑性加工などで作られた面、切削加工で作られた面、射出成型やダイキャスト、MIM(Metal Injection Mold)、焼結、焼成など立体物の表面、特に曲面である。
【0048】
基材に溝加工した後に、膜の堆積を行う。溝加工されている箇所を含めて膜が堆積されるが、膜厚に対して溝の深さが十分に深いので、膜は溝部で凹みを持ち、この溝加工部分が隣接するセグメント間の間隔を形成したセグメント状の保護膜が得られる。
【0049】
セグメント保護膜の形状は特に制限されず、三角形、四角形等の多角形、円形等を適宜選択しうる。例えば、五角形と六角形を組み合わせたサッカーボール状のセグメント保護膜にも適応可能である。また、三角形の中心部を(辺部よりも)張り出させたものを組み合わせた、球面状のセグメント保護膜にも適応可能である。また、場所により異なる幅や深さの溝によって仕切られたセグメント保護膜にも適用可能である。これらのセグメント保護膜の大きさは1辺または外径1μm〜3mmから選ばれるのが通常である。隣接するセグメント保護膜の間隔は通常0.1μm〜1mmである。またセグメント保護膜の膜厚は1nm〜200μmであるのが通常である。
【0050】
さらに、溝の平面形状は、碁盤状、縞状、池状、またはこれらの組み合わせとすることもでき、これらは流路を形成していても閉鎖された池であってもよく、池の溝を油溜め部とすることもできる。さらに、これらの溝部に液体潤滑剤や固体潤滑剤を導入することにより、溝を液体または固体の潤滑剤層とすることもできる。
【0051】
図3は、基材上に種々の形状の溝を形成した保護膜の一例を示す平面図であり、図中、31は基材、32は保護膜、33は保護膜32に形成された種々の形状の溝(池状、格子状、ストライプ状)を示す。
【0052】
図4は、
図3において溝を構成する池の一例を示す平面図(a)ならびにそのA−A’切断面(b)およびB−B’切断面(c)を示す。
【0053】
本発明の1態様において、保護膜は、ダイヤモンド状カーボン膜、ダイヤモンド膜、BN膜、W
2C膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al
2O
3膜、ZnO膜、SiO
2膜およびこれらを組み合わせからなる群から選ばれる。
【0054】
保護膜の堆積法としては気相堆積法が好適であり、たとえば直流、交流もしくは高周波等を電源とするプラズマCVDまたはマグネトロンスパッタもしくはイオンビームスパッタ等のスパッタ法が挙げられる。PVD(物理的気相堆積法)も使用され、同様の効果を得ることができる。
【0055】
図5に、プラズマCVD成膜装置の一例の基本的構成を示す。チャンバー5、排気系10(ロータリーポンプ11、ターボ分子ポンプ12、真空計13、排気バルブ14等)、ガス導入系15(Ar、C
2H
2、Si(CH
3)
4)、H
2、O
2、N
2、CH
4、CF
4等のガス導入系および流量調整用バルブ)および電源系20(主電源16、基材加熱電源17、微細粒子捕獲フィルタ電源18、余剰電子収集電源19等)を備えた装置の概要を示す。
【0056】
本装置のチャンバー内の陰極電極に基材を接続し、基材には溝加工がされている。基材設置後に、真空排気機構によりチャンバー内を排気し、次いでプラズマガス源Ar、Si(CH
3)
4、C
2H
2等を供給し、パルス電源によりパルス電圧を印加して、前記プラズマガス源がプラズマ化される。プラズマ化されたガスが、基材上に堆積して膜を形成するが、膜厚に対して溝深さが十分に深いので、膜は溝部で分断されるか表面に対して相対的に薄くなり保護膜としての機能が小さくなり、同時に斜めの壁や溝の底に膜が付いても力学的な保護膜としての機能は低下しているが、化学的安定性が向上したセグメント形態の保護膜が得られる。
【0057】
溝部での成膜レートは、レーザー溝加工時の雰囲気を適当に選択することにより、調整することができる。具体的には、レーザー溝加工時に、酸化性雰囲気ガス、例えば酸素、オゾン等を使用すると、被加工面を酸化させることが容易になる。酸化物は概して導電性が低く、成膜時に酸化した溝部への導電が抑制されることから、溝内での成膜が抑制される。このため、溝のない箇所に保護膜が形成されやすくなり、セグメント状保護膜となる。
【0058】
また、導電性が低いと電流が流れにくくなり、基材の温度上昇を抑制できる。これは、基材の選択の幅を広げる上でも有用である。
【0059】
レーザー溝加工時の雰囲気は、不活性ガス、例えばアルゴン、窒素ガス等を選択してもよい。これにより、溝加工時に、溝部の面が酸化されることを抑制することも可能である。
【0060】
堆積される保護膜は好適には耐摩耗性を付与しうるものであり、たとえば、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド状カーボン膜、BN膜、W
2C膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al
2O
3膜、ZnO膜、SiO
2膜のいずれかまたはこれらを組み合わせたものを含んでもよい。これらの膜厚は通常1nm〜200μmから選択される。
【0061】
本発明の保護膜のもう1つの態様において、保護膜は、金属メッキ膜、アルマイト膜および樹脂膜およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれ得る。これらの膜の形成自体は常法によることができ、金属メッキ膜としては、ニッケルメッキ、クロムメッキ等の湿式法、アルマイト膜は陽極酸化による湿式法が好適であり、樹脂膜としてはフッ素樹脂コーティングが好適である。これらの保護膜の、膜厚は通常50nm〜500μmから選択される。保護膜は、溝により分割されていても、連続していてもよい。
【0062】
本発明のもう1つの態様において、保護膜は、基材上に膜を堆積したセグメント構造の保護膜であり、
図1の(b)に示されるように、基材31上に保護膜32を堆積(通常、基材表面311と保護膜表面321は平行である)した後に、保護膜32内に溝加工してセグメント保護膜間の間隔を形成する。保護膜は、膜を破損・破壊する応力が集中しないで、応力を基材側に伝搬しやすくするために、溝側面と溝の底部が交差する部分の縦断面が下に凸の曲線で繋がり、かつ溝の底部の縦断面が下に凸の曲線、または直線であるように構成される。好適には、保護膜表面321から溝の底部332への溝側面の傾斜角αが60度以下である。このような構成により、さらに膜を破損・破壊する応力が集中しないで、応力を基材側に伝搬しやすくすることができる。さらに好適には、αは25±20度である。保護膜表面が曲面である場合は該当する位置での接線からの角度となる。
【0063】
本発明のさらなるもう1つの態様において、
図1の(c)に示されるように、基材31上に膜を堆積したセグメント構造の保護膜であり、基材31上に保護膜32を堆積(通常、基材表面311と保護膜表面321は平行である)した後に、保護膜32および基材31に溝加工してセグメント保護膜間の間隔を形成する。保護膜は、膜を破損・破壊する応力が集中しないで、応力を基材側に伝搬しやすくするために、溝側面と溝の底部が交差する部分の縦断面が下に凸の曲線で繋がり、かつ溝の底部の縦断面が下に凸の曲線、または直線であるように構成される。好適には、保護膜表面321から溝の底部332への溝側面の傾斜角αが60度以下である。さらに好適には、αは25±20度である。保護膜表面が曲面である場合は該当する位置での接線からの角度となる。
【0064】
さらに、本発明の1つの態様において、溝加工された基材が提供され、その基材は、基材またはその表面に形成される膜を破損・破壊する応力が集中しないで、応力を基材側に伝搬しやすくするために、溝側面と溝の底部が交差する部分の縦断面が下に凸の曲線で繋がり、かつ溝の底部の縦断面が下に凸の曲線、または直線である。好適には、基材表面から溝の底部への溝側面の下り傾斜角αが60度以下である。さらに好適には、αは25±20度である。
【0065】
溝加工自体は、上記のとおり、レーザー加工、切削加工、加熱加工、研削加工、塑性加工、放電加工、3D加工、ウォタージェット加工、射出成型加工、鋳造加工、エッチング加工またはこれらの組み合わせから選択され得る。溝の平面形状は、好適には碁盤状、縞状、池状、またはこれらの組み合わせから選択され得、溝の底部の縦断面形状が、直線または下向きに凸状の曲線であるのが好適である。溝の幅、深さ等も上記のとおりである。
【0066】
本発明の基材は、この基材上に上記のセグメント形態の保護膜を形成するのに好適であり、保護膜表面から入る応力である外部応力や内部から与えられる応力である内部応力により、保護膜が破壊・破損するのを防止し、外部応力および内部応力に対して強度的に安定な保護膜を得ることができる。さらに、本発明の基材自体も、上記溝を種々組み合わせて、部分的に強度を変えることにより、表面強度の場所による制御を図ることができる。