(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616095
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】可動マグネット型ピックアップカートリッジ
(51)【国際特許分類】
H04R 11/12 20060101AFI20191125BHJP
【FI】
H04R11/12
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-86465(P2015-86465)
(22)【出願日】2015年4月21日
(65)【公開番号】特開2016-208213(P2016-208213A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】宮田 光雄
【審査官】
須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭51−021802(JP,A)
【文献】
実開昭54−005401(JP,U)
【文献】
特開昭49−065202(JP,A)
【文献】
特開昭54−014202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/16
H04R 11/08 − 11/12
G11B 3/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンチレバーと、前記カンチレバーの長手方向の前端部に取り付けられたスタイラスチップと、前記カンチレバーの長手方向の基端部に配置されて前記カンチレバーを揺動可能に支持するダンパーと、前記スタイラスチップの直後におけるカンチレバーの前端部内に配置され、前記スタイラスチップの振動に応答して振動するマグネットと、コ字状に形成されて発電コイルが巻回され両脚部の磁極がカンチレバー内の前記マグネットに対峙して配置されたヨークとが備えられ、
前記カンチレバーには、前端部に向かって軸に直交する厚みを減少させるテーパー面が形成され、前記テーパー面にスタイラスチップを取り付けると共に、前記マグネットの前端部が前記テーパー面の形成部分の後端部に内側から接した状態で、カンチレバーの前端部内に配置され、
前記マグネットには、前記カンチレバーの長手方向に沿って各磁極が着磁されていることを特徴とする可動マグネット型ピックアップカートリッジ。
【請求項2】
前記可動マグネット型ピックアップカートリッジは45−45方式のステレオレコード盤を再生するのに適用され、
コ字状に形成されて発電コイルが巻回された一対のヨークが、前記カンチレバーを中央にしたカンチレバーの上部左右に配置され、前記各ヨークの両脚部の磁極が、前記マグネットに対して前記45−45方式の最大感度軸の方向にそれぞれ対向配列されていることを特徴とする請求項1に記載の可動マグネット型ピックアップカートリッジ。
【請求項3】
前記マグネットは、前記ヨークの両脚部の磁極にそれぞれN極およびS極が対峙するように着磁されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の可動マグネット型ピックアップカートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レコード盤に刻設された音溝の振幅から信号を抽出する可動マグネット型ピックアップカートリッジに関し、特に出力信号を大きく取ることができると共に、歪みの少ない忠実な再生音を得ることができるピックアップカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
可動マグネット型ピックアップカートリッジ(以下、単にMM型カートリッジとも言う。)は、例えば特許文献1に記載されているように、先端部にスタイラスチップを備えたカンチレバーの振動支点付近に、マグネットを配置した構成が採用されている。
そして、前記マグネットは、発電コイルが巻回されたヨークの両脚部(磁極)に対峙するように配置される。
【0003】
したがって、カンチレバーの先端部の前記スタイラスチップがレコード盤の音溝をトレースした場合、カンチレバーを介してカンチレバーの振動支点付近に配置されたマグネットを揺動させる。これにより、ヨークの両脚部(磁極)に与える磁束密度を変化させことができ、前記発電コイルに音声再生信号としての電気信号を得るように作用する。
【0004】
また特許文献2には、同じくMM型カートリッジにおいて、音声再生信号の発電効率を高めるために、ヨークの磁極に工夫を加えてE字型に成形し、マグネットの首振り運動に伴い、中央の磁極を共通に使い、前後の磁極に磁束を振り分けることで、磁路を交互に形成させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61−31679号公報
【特許文献2】特公昭61−47040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この種のMM型カートリッジは、前記した特許文献1および2に開示されているように、カンチレバーの基端部における振動支点付近にマグネットが配置された構成であるため、カンチレバーの前端部に配置されたスタイラスチップの動きに対して、前記マグネットの動きは極めて小さい。
【0007】
したがって、スタイラスチップの動きに比較して、ヨークに与えることができる磁束密度の変化が小さく、音声信号としての発電効率は低い。そこで特許文献2には、音声信号の発電効率の低い点を補うために、ヨークの形状に工夫を施しているものの、これは発電効率を上げるための根本的な解決策には至らない。
【0008】
一方、従来のMM型カートリッジは、特許文献1および2に開示されているように、スタイラスチップが受ける音溝による振幅は、カンチレバーの長手方向の全体を介してマグネットに伝達される。したがって、信号の遅れが生ずると共に、カンチレバーの機械的な撓みが音声信号の歪みとなって現れる。
そこで、カンチレバーの素材として、硬質アルミニウム、ボロン、人工サファイヤなどを用いる工夫がなされるが、カンチレバーの軸方向に伝播することによる信号の遅れや、歪みの発生を押さえることは、基本的に困難である。
【0009】
この発明は、前記した従来のMM型カートリッジが持つ技術的な課題に着目してなされたものであり、特に出力信号を大きく取ることができると共に、歪みの少ない忠実な再生音を得ようとするものである。
加えてこの発明は、例えば45−45方式のステレオレコードからの再生音を、前記した作用効果を備えた状態で抽出することができるMM型ステレオピックアップカートリッジを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を達成するためになされたこの発明に係る可動マグネット型ピックアップカートリッジの第1の形態は、カンチレバーと、前記カンチレバーの長手方向の前端部に取り付けられたスタイラスチップと、前記カンチレバーの長手方向の基端部に配置されて前記カンチレバーを揺動可能に支持するダンパーと、前記カンチレバーの前端部におけるスタイラスチップの直上にカンチレバーの長手方向に沿って配置され、前記スタイラスチップの振動に応答して振動するマグネットと、コ字状に形成されて発電コイルが巻回され両脚部の磁極が前記マグネットに対峙して配置されたヨークを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、この発明に係る可動マグネット型ピックアップカートリッジの第2の形態は、カンチレバーと、前記カンチレバーの長手方向の前端部に取り付けられたスタイラスチップと、前記カンチレバーの長手方向の基端部に配置されて前記カンチレバーを揺動可能に支持するダンパーと、前記スタイラスチップの直後におけるカンチレバーの前端部内に配置され、前記スタイラスチップの振動に応答して振動するマグネットと、コ字状に形成されて発電コイルが巻回され両脚部の磁極がカンチレバー内の前記マグネットに対峙して配置されたヨークとが備えられ、前記カンチレバーには、前端部に向かって軸に直交する厚みを減少させるテーパー面が形成され、前記テーパー面にスタイラスチップを取り付けると共に、前記マグネットの前端部が前記テーパー面の形成部分
の後端部に内側から接した状態で、カンチレバーの前端部内に配置され、前記マグネットには、前記カンチレバーの長手方向に沿って各磁極が着磁されていることを特徴とする。
【0012】
この場合、好ましい形態においては、コ字状に形成されて発電コイルが巻回された一対のヨークが、前記カンチレバーを中央にしたカンチレバーの上部左右に配置され、前記各ヨークの両脚部の磁極が、前記マグネットに対して45°−45°方式の最大感度軸の方向にそれぞれ対向配列された構成が採用される。
【0013】
そして前記マグネットは、前記ヨークの両脚部の磁極にそれぞれN極およびS極が対峙するように着磁されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
前記した構成のMM型ピックアップカートリッジによると、カンチレバーの前端部におけるスタイラスチップの直上、もしくはスタイラスチップの直後におけるカンチレバーの前端部内にマグネットが配置された構成が採用される。したがって、前記マグネットは、レコード盤の音溝をトレースするスタイラスチップとほぼ同様な振幅をもって振動することになる。これにより両脚部の磁極が前記マグネットに対峙するヨークには、マグネットの大きな振幅移動に伴う大きな磁束密度の変化が与えられ、発電効率の高いMM型ピックアップカートリッジを提供することができる。
【0015】
また、スタイラスチップが受ける音溝による振幅は、カンチレバーの長手方向の全体を介することなく前記マグネットに伝達されるので、信号の遅れが生ずることなく、歪みの少ない忠実な再生音を得ることができるMM型ピックアップカートリッジが実現できる。
【0016】
加えて、前記MM型ピックアップカートリッジは45−45方式のステレオレコード盤を再生するのに適用され、前記カンチレバーを中央にしたカンチレバーの上部左右に配置された各ヨークの両脚部の磁極が、前記マグネットに対して45−45方式の最大感度軸の方向にそれぞれ対向配列した構成を採用することにより、前記した作用効果をそのまま享受したMM型ステレオピックアップカートリッジを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明に係るMM型ピックアップカートリッジの第1の形態について一部を透視状態で示した側面図である。
【
図2】カンチレバーの軸方向の前端部側から見たピックアップカートリッジの正面図である。
【
図3】左右ヨークの磁極とマグネットの位置関係を示した模式図である。
【
図4】ヨークの磁極とマグネットの配置状態を示した模式図である。
【
図5】第2の実施の形態におけるヨークの磁極とマグネットの配置状態を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明に係るMM型ピックアップカートリッジの第1の形態について、
図1〜
図4に基づいて説明する。
図1に示したとおり、このMM型ピックアップカートリッジは、ボディー1の前面側に若干鈍角となるL字状に屈曲成形されたホルダー2が、前記ボディー1に螺着されたボルト3によって取り付けられている。
【0019】
そして、前記ホルダー2には、ヨーク等を備えた磁気回路4が、前記ホルダー2の前端面における傾斜角度に対応して、若干下向きとなるように取り付けられている。
この実施の形態においては、45−45方式のステレオレコードからの信号をそれぞれ再生するために、
図2に示すように左右一対の磁気回路4L,4Rが備えられている。45−45方式とは、45度と45度に傾けたレコード盤の溝に、内側の壁(音溝)には左チャンネルの音を、外側の壁(音溝)には右チャンネルの音をそれぞれ独立に記録する方式である。
なお、左右の磁気回路4L,4Rの構成は同一であり、以下においては一方の磁気回路について説明し、重複する説明は省略する。
【0020】
図1には左チャンネルの磁気回路4Lが示されており、この磁気回路にはコ字状に形成されたヨーク5が備えられている。そしてヨーク5の両脚部は、その先端部の間隔が狭められて平行状態に対向し、一対の磁極5a,5bを構成している。この一対の磁極は、後述するカンチレバーに備えられたマグネットに対峙するものとなる。
【0021】
そして、ヨーク5のコ字状に曲げられた両脚部には、それぞれボビン6を介して発電コイル7が巻回されており、2つの発電コイル7は直列接続されて出力される。すなわち、前記ボディー1の後端部には、端子板8が取り付けられており、この端子板8に植設されたターミナルピン9a,9bに対して直列接続されて加算された信号が出力されるように構成されている。
【0022】
一方、前記ボディー1の下端部における肉厚部分を利用してカンチレバー等を含む振動部11が取り付けられている。この振動部11には、カンチレバー12と、前記カンチレバー12の長手方向の前端部に下向きに取り付けられたスタイラスチップ13と、前記カンチレバー12の長手方向の基端部に配置されて前記カンチレバー12を揺動可能に支持するダンパー14等が含まれる。
【0023】
前記カンチレバー12は、ストッパーピン15内に収容された図示せぬワイヤーを介してドーナツ状に形成されたダンパー14に向かって牽引されている。そしてダンパーの可撓性を利用してカンチレバー12はボディー1に対して揺動可能に支持されている。
前記ストッパーピン15は、前記ボディー1に形成された軸孔内に収容され、この軸孔に向かってボディー1に螺着されたビス16によって支持されている。
【0024】
そして、この実施の形態においては、前記カンチレバー12の前端部におけるスタイラスチップ13の直上に、カンチレバー12の長手方向に沿って棒状のマグネット18が取り付けられている。
このマグネット18は、
図4に示したように軸方向の両端部にそれぞれN極およびS極が着磁されており、軸方向に着磁されたマグネット18の各端部に、前記したヨーク5の磁極5a,5bがそれぞれ対峙するように配置されている。
【0025】
また、前記した左右一対のヨーク5は、
図3に示したように前記カンチレバー12を中央にしたカンチレバーの上部左右に配置されており、前記各ヨーク5の両脚部の各磁極5a,5bは、前記マグネット18に対して45−45方式の最大感度軸の方向にそれぞれ対向配列されている。
【0026】
図3は、レコード盤の左チャンネルの音溝によって、前記マグネット18が振動している様子を示しており、このマグネット18の振幅Laは、左チャンネル(
図3の右側)のヨーク5に対して磁束を増減させる作用を与えている。したがって、磁束の変化に対応した音声出力を左チャンネルのターミナルピン9a,9bにもたらすことができる。
【0027】
なお、前記したマグネット18の振幅動作においては、右チャンネルのヨーク5に対しては、磁極に対するマグネットの距離は変化しない。したがって、右チャンネルのターミナルピン9a,9bには音声出力は発生せず、これにより十分なチャンネルセパレーションを得ることができる。
【0028】
図5は、この発明に係るMM型ピックアップカートリッジの第2の形態について示したものである。この例においては、スタイラスチップ13の直後におけるカンチレバー12の前端部内に、棒状のマグネット18が収容されている。
このカンチレバー12内に収容されたマグネット18も、軸方向に着磁されており、軸方向に着磁されたマグネット18の各端部に、前記したヨーク5の磁極5a,5bがそれぞれ対峙している。
【0029】
そして、マグネット18を収容したカンチレバー12を中央にして、例えば
図3に示したように、その上部に左右のチャンネルを形成する発電コイル7を備えたヨーク5を配置することができる。これにより、前記した第1の形態と同様に、MM型ステレオピックアップカートリッジを提供することができる。
【0030】
以上説明した第1および第2の形態のいずれにおいても、マグネットはレコード溝をトレースするスタイラスチップの振動に直結した状態で振動することになる。したがって、マグネットの大きな振幅移動に伴う磁束密度の変化をヨークに与えることができ、発電効率の高いMM型ピックアップカートリッジを提供することができる。
【0031】
また、マグネットはスタイラスチップの振動に直結した状態で振動するので、カンチレバーを介することによる信号の遅れや、カンチレバーの撓みによる歪の発生を抑えることができるなど、前記した発明の効果の欄に記載したとおりの作用効果をもたらすことができる。
【符号の説明】
【0032】
1 ボディー
2 ホルダー
3 ボルト
4,4L,4R 磁気回路
5 ヨーク
5a,5b 磁極
6 ボビン
7 発電コイル
8 端子板
9a,9b ターミナルピン
11 振動部
12 カンチレバー
13 スタイラスチップ
14 ダンパー
15 ストッパーピン
16 ビス
18 マグネット