(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
太陽電池(以下、光電変換装置という。)は、発電量当たりの二酸化炭素排出量が少なく、発電時の燃料が不要という利点を有している。そのため、様々な種類の光電変換装置に関する研究が盛んに進められている。現在、実用化されている光電変換装置の中では、単結晶シリコン又は多結晶シリコンを用いた、一組のpn接合を有する単接合タイプの光電変換装置が主流となっている。
【0003】
従来の単接合タイプの光電変換装置は、光電変換層を形成する材料としてシリコンを用いていることから、実用上の光電変換効率はせいぜい15%程度に止まっている。
【0004】
近年、地球温暖化対策や原発事故の教訓から火力発電や原子力発電を見直す動きがあり、これに伴って、自然エネルギーを利用した発電が推進されているが、太陽電池に代表される光電変換装置については、光電変換効率のさらなる向上が待ち望まれている。
【0005】
このような課題に対し、本出願人は、以前、シリコンの半導体基板上に、シリコンよりもバンドギャップの大きい量子ドット集積膜105を積層した、
図5に示すような光電変換装置100を提案した(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0006】
図5(a)は、従来の光電変換装置100の一例を示す断面模式図であり、(b)は、(a)の構成における回路図である。101は第1の導体層、103はシリコン基板、105はシリコン基板よりもバンドギャップの大きい光電変換層(この場合、量子ドット集積膜)、107は第2の導体層である。第2の導体層107が光の入射側に位置する場合には、第2の導体層107として透明導電膜が用いられる。
【0007】
図6は、
図5に示した光電変換装置の電流−電圧線の概念図である。
図6において、実線はシリコン基板の電流−電圧曲線、破線はシリコン基板よりもバンドギャップの大きい量子ドットの集積膜105の電流−電圧曲線に対応する。
【0008】
光電変換装置100の光電変換効率は、開放電圧をVoc、短絡電流密度(短絡電流Iscを太陽電池の受光面積で割った値)をJscとしたときに、おおかた、これらの積を入射光強度で割った値として示される。また、吸収できる光の波長領域は光吸収層(光電変換層という場合がある。)を構成する材料のバンドギャップ(シリコン基板の場合、約1.1eV)を上限とする領域に限られる。このため光電変換装置100の光電変換効率を向上させるには、より高いバンドギャップを有し、自ずと開放電圧(Voc)を高めることのできる光吸収層の形成が必要になってくる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1〜
図3に示した光電変換装置は、センサー部だけが異なるものである。そこで、センサー部以外の回路構成については、センサー部として光量センサーを適用した
図1において説明することにする。
【0016】
図1は、本発明の光電変換装置の一実施形態として、センサー部に光量センサーを適用したときの構成を示す回路図であり、(a)は、バイパス回路がオープン状態にある場合、(b)は、同バイパス回路がショート状態にある場合である。
【0017】
図1に示す光電変換装置は、バンドギャップの異なる複数の光電変換層1、3を有しており、光電変換層1、3は直列に接続されている。また、光電変換層1の下側および光電
変換層3の上側にはそれぞれ電極層5および透明導電膜7が設けられている。この場合、透明導電膜7側が太陽光の入射面側となる。
図1(a)(b)では、便宜上、光電変換層3のバンドギャップを光電変換層1のバンドギャップよりも大きいものとする。ここで、バンドギャップが異なるというのは、複数の光電変換層1、3を比較したときに、両層間においてバンドギャップの差が0.2eV以上ある場合をいう。
【0018】
この光電変換装置では、バンドギャップの大きい光電変換層3側にバイパス回路9が設けられている。バイパス回路9は、
図1(a)(b)に示しているように、光電変換層3を迂回する配線11によって、その両主面間の電位差を計測できるように接続されている。つまり、バイパス回路9を構成する配線11の一方端13は光電変換層1と光電変換層3との間に接続され、他方端15は光電変換層3と透明電極層7との間に接続される構成となっている。
【0019】
バイパス回路9は、センサー部17とスイッチ部19とから構成されている。ここで、センサー部17には光量センサー17aが適用されている。光量センサー17aは、光電変換層3における太陽光の受光面側に置かれ、太陽光の輻射量を計測し、光のエネルギーを電気のエネルギーに変換して起電力を得る機能を有している。光量センサー17aとしては、例えば、InGaAs、GaAsなどの化合物半導体が好適なものとして挙げられる。
【0020】
一方、スイッチ部19は、バイパス回路9を構成する配線11に設けられた切断箇所11aと、その切断箇所11a間を結線させたり、断線させたりするための接触部材21を有するとともに、この接触部材21に隣接するように設けられたコイル23とを備えた構成となっている。この場合、コイル23は、光量センサー17aからの電流によって磁界を発生させ、この磁界によって接触部材21を切断箇所11aに接触させたり、離したりすることで電気的なスイッチングを行うようになっている。つまり、このスイッチ部19は、光電変換層3を迂回するように設けられたバイパス回路9の中で、配線11の接続の状態を光電変換層3に照射される太陽光の照射量によってオンオフさせるリレー回路の機能を有するものとなっている。
【0021】
図1(a)(b)に示すように、例えば、高、低、2つの太陽光の照射量を設定し、高い方の照射量を第1照射量S
1とし、第1照射量S
1よりも低い照射量を第2照射量S
2とする。スイッチ部19を含む光電変換装置が、例えば、高い方の照射量である第1照射量S
1に達した場合、光量センサー17aからの起電力が増加し、センサー部17の計測した測定値がセンサー部17に設定した規定値以上となる。これに基づき、スイッチ部19のコイル23に大きな磁界を発生させ、接触部材21を切断箇所11aから離れた状態とし、バイパス回路9をオープン状態とする。太陽光の照射量が多い場合には、バンドギャップの大きい光電変換層3は高い発電量を示すものとなるため、光電変換装置としては、光電変換層1および光電変換層3の両層からの発電を行うことができる。
【0022】
反対に、バイパス回路9を含む光電変換装置が受ける太陽から光の照射量が少なくなり、いわゆる第2照射量S
2の状態に変化した場合には、
図1(b)に示すように、光量センサー17aからの起電力が小さくなることから、センサー部17の計測した測定値はそのセンサー部17に設定した規定値を下回ることになる。これに基づき、コイル23に発生する磁界の強度を低下させ、スイッチ部19を構成する接触部材21が配線11の切断箇所11aを結線するように接触した状態とする。こうしてバイパス回路9をショート状態(短絡した状態)に変化させる。これにより、光電変換層1と透明導電膜7との間を流れる電流(または、キャリア(電子、ホール))は、主として、バイパス回路9の配線11を流れるようになる。太陽からの光の照射量が少ない場合には、バンドギャップの大きい光電変換層3は発電量が小さく、いわゆる絶縁体に近い状態となるが、バイパス回路9
を機能させることにより光電変換層3を経ることなく光電変換層1からの発電を行うことができる。この場合、スイッチ部19に上述のようなリレー回路を用いると、バイパス回路9を小型かつ安価に形成することができる。
【0023】
図2は、本発明の光電変換装置の一実施形態として、センサー部に電流センサーを適用したときの構成を示す回路図であり、(a)は、バイパス回路がオープン状態にある場合、(b)は、同バイパス回路がショート状態にある場合である。
【0024】
図2に示す光電変換装置は、太陽光の照射量の変化によって発生する光電変換層1、3からの発電による電流量の変化を利用して、バイパス回路9のオンオフを行うものである。この場合、センサー部17としては、コイル型の電流センサー17bを一例として挙げることができる。
【0025】
光電変換装置に照射される太陽からの光の照射量が多くなると、光電変換層3と透明導電膜7との間を流れる電流量が増加する。このとき、光電変換装置では、電流センサー17bからの起電力も増加する。これにより、
図2(a)に示すように、スイッチ部19内のコイル23に発生する磁界によって、接触部材21を切断箇所11aから離れた状態とし、バイパス回路9をオープン状態とする。
【0026】
反対に、太陽からの光の照射量が少ない場合には、光電変換層3と透明導電膜7との間を流れる電流量が減少することから、電流センサー17bからの起電力も小さくなる。この場合には、
図2(b)に示すように、スイッチ部19内のコイル23に発生する磁界の強度が小さいことから、接触部材21は配線11の切断箇所11aを結線するように接触した状態となり、バイパス回路9はショート状態(短絡した状態)となる。
【0027】
図3は、本発明の光電変換装置の一実施形態として、センサー部に温度センサーを適用したときの構成を示す回路図であり、(a)は、バイパス回路がオープン状態にある場合、(b)は、同バイパス回路がショート状態にある場合である。この光電変換装置では、センサー部17に光電変換層3付近の温度を検知する温度センサー17cを有している。
【0028】
光電変換層1、3が、例えば、ガラス板上に積み重ねられて、有機樹脂など熱伝導率の低い部材で覆われて固定されている場合には、光電変換装置の温度は外気温よりも光電変換層1、3の発電による自己発熱の方が支配的となる。このため、光電変換層1、3の温度もセンサー部17を機能させる要素となり得る。つまり、
図3に示す光電変換装置は、太陽光の照射量の変化によって発生する光電変換層3自体の温度変化を利用して、バイパス回路9のオンオフを行うものである。
【0029】
太陽からの光の照射量が多い場合には、高い発電量に依存して、光電変換層3の温度が高くなる。このとき、温度センサー17cからの起電力に応じてスイッチ部19のコイル23に大きな磁界を発生させる。こうして、接触部材21を切断箇所11aから離れた状態とし、バイパス回路9をオープン状態とする。
【0030】
反対に、太陽光の照射量が少なく、光電変換層3の発電量が低くなる場合には、温度センサー17cからの起電力も小さいことから、スイッチ部19内の接触部材21は配線11の切断箇所11aを結線するようになり、バイパス回路9はショート状態(短絡した状態)となる。
【0031】
なお、
図1〜
図3に示したスイッチ部19については、オンオフの動作機能を高めるという点から、センサー部17とコイル23との間に、センサー部17によって得られる起電力を増幅させるための増幅回路を設け、センサー部17が、スイッチ部19の制御を行
っても良い。さらに、センサー部17の測定値を基に、スイッチ部19を制御する制御部を別途設けても良い。
【0032】
図4は、本実施形態の光電変換装置の電流−電圧線の概念図であり、(a)は、センサー部の出力が大きく、バイパス回路がオープン状態にある場合、(b)は、センサー部の出力が小さく、同バイパス回路がショート状態にある場合である。
【0033】
図4(a)(b)を基に、
図1(a)(b)、
図2(a)(b)および
図3(a)(b)にそれぞれ示した2つの光電変換装置の電流−電圧特性を比較すると、光電変換層1とこれよりもバンドギャップの大きい光電変換層3とが組み合わせられた光電変換装置の場合、光電変換層1はバンドギャップが小さいことから、太陽からの光の照射量が少なくなっても短絡電流(Isc)の変化は小さい。一方、バンドギャップの大きい光電変換層3の方は、太陽からの光の照射量が低下すると短絡電流(Isc)が大きく低下してしまう。
【0034】
つまり、光電変換層3は、光電変換層1に比べて、バンドギャップが大きい分、太陽からの光の照射量に対する発電量の変化が大きいことから、太陽からの光の照射量の低い条件下では、光電変換層3としての機能を果たし難くなり絶縁性が高くなってしまう。このため、光電変換層1上に、これよりもバンドギャップの大きい光電変換層3を直列接続した光電変換装置では、光電変換層1から出力される電流を外部に出力させることが困難になる。
【0035】
これに対し、
図1〜
図3に示した光電変換装置では、バンドギャップの大きい光電変換層3が太陽からの光の照射量の低下によって絶縁体化するような条件下においても、光電変換層3に設けたバイパス回路9中を電流(または、キャリア(電子e、ホールh))が流れるようになることから、光電変換層1において生成したキャリア(電子e、ホールh)を外部へ容易に移動させることができる。
【0036】
本実施形態の光電変換装置では、バイパス回路9は、太陽光を直接受ける光電変換層側に設けられていることが望ましい。例えば、
図1(a)(b)に示しているように、バイパス回路9が、太陽光を直接受ける光電変換層3側に設けられていると、光電変換層3を含めた光電変換装置の発電量の変化に光量センサー17aによる起電力の変化を同調させやすく、これにより太陽光の照射量の変化に敏感に対応できる光電変換装置を得ることができる。
【0037】
また、この光電変換装置においては、センサー部17が温度補償回路を備えていることが望ましい。例えば、光量センサー17aのセンシング性が温度依存性を持つような材料によって形成されている場合には、環境温度の変化よって光量センサー17aの感度が変化する。このため、バイパス回路9のオープン状態あるいはショート状態となるタイミングが太陽光の照射量だけでなく、環境温度によっても影響されることになる。このような場合に、光量センサー17aに温度補償回路を設けた構成にすると、環境温度が変化しても光量センサー17aの感度を一定の範囲内に保つことが可能になる。これにより外気の温度が大きく変化するような環境下においても高効率の光電変換装置を得ることができる。
【0038】
また、本実施形態の光電変換装置では、光電変換層3のうちの一方が量子ドット集積膜であることが望ましい。光電変換層3が量子ドット集積膜であると、量子ドットの粒径や成分を変化させることによって、光電変換層3のバンドギャップを容易に変化させることができるため、幅広い波長領域をカバーできる光電変換装置を得ることができる。
【0039】
この場合、光電変換層1、3の主成分としては、Si、GaAs、PbSe、CdSe、CuInGeSe、CuInGeS、CuZnGeSe、CuZnGeSの群から選ばれる1種が好適なものとなる。
【0040】
光電変換層1、3の主成分として、Siを用いた場合、例えば、光電変換層1をシリコン基板(バンドギャップ(約1.1eV))とし、一方の光電変換層3にSiの量子ドット集積膜を配置させる構成となる。この場合、光電変換層3側のバンドギャップを1.5eV以上、粒径によっては1.7eV以上にできることから、より高い開放電圧(Voc)を得ることができ、発電の最大出力(Pmax)をさらに高めることができる。
【0041】
また、光電変換層1、3がともにシリコンにより形成されたものであると、材料の格子定数の差がほとんど無いことから光電変換層1、3間の格子の不整合を減少させることができるため、光電変換層1、3間の境界付近のキャリアの移動度を高めることができる。
【0042】
以上、光電変換層1、3が2層積層された光電変換装置を基に本発明を説明したが、本発明はこれに限らず、光電変換層1、3が3層以上積層されている構成にも適用することができる。
【0043】
次に、
図1、
図2および
図3に示す光電変換装置を作製し評価した。ここでは、バンドギャップが1.1eVのシリコン基板の他、電極層5にアルミニウム、透明導電膜7にインジウム錫酸化物(ITO)を用い、さらに、光電変換層3として、シリコンの量子ドット(バンドギャップ:1.7eV)を、それぞれ適用させた。バイパス回路9を構成する光量センサー17aにはInGaAs製の光量センサーを用いた。電流センサーとしては銅線を巻回して作製したコイルを用いた。温度センサー17cには、白金抵抗温度計を用いた。また、
図5に示すようなバイパス回路を有しない光電変換装置を比較例として作製し、同様の評価を行った。
【0044】
得られた光電変換装置および比較例となるバイパス回路9を有しない光電変換装置について発電性能を評価した。評価方法としては、正午頃の日中と、朝夕に近い時間帯とに発電させて、そのときの短絡電流を測定して比較した。
【0045】
センサー部17として光量センサー17aを有し、かつバイパス回路9を備えた光電変換装置は、バイパス回路9を有しない光電変換装置に比べて、朝、夕時に測定した短絡電流(Isc)が5倍ほど高かった。また、センサー部17として、光量センサー17aの代わりに電流センサー17bまたは温度センサー17cを設けた場合にも同様の効果が得られた。