(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616133
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】押出成形板のひび割れの補修方法及び補修構造体
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20191125BHJP
【FI】
E04G23/02 B
【請求項の数】29
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-175883(P2015-175883)
(22)【出願日】2015年9月7日
(65)【公開番号】特開2017-53099(P2017-53099A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】菊地 郁夫
【審査官】
西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭63−086235(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3154937(JP,U)
【文献】
特開2007−040065(JP,A)
【文献】
特開2008−163695(JP,A)
【文献】
特開2002−349006(JP,A)
【文献】
特開2011−099209(JP,A)
【文献】
特開2013−234489(JP,A)
【文献】
特開平08−189141(JP,A)
【文献】
特開平09−250188(JP,A)
【文献】
特開2004−084459(JP,A)
【文献】
特開平03−008954(JP,A)
【文献】
特開平11−286998(JP,A)
【文献】
特公平04−040504(JP,B2)
【文献】
特開2005−146569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04B 2/02
E04B 2/56
E04B 2/94
E04B 5/43
E04C 2/30
E01D 19/12
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平行に配された一対の略長方形状の表面板と、前記表面板の長手方向に延びて該一対の表面板を所定間隔で一体的に結合する複数の隔壁部と、隣接する前記隔壁部の間に画成される中空部とを有し、長手方向が略水平方向となるように建築物の躯体に取り付けられた押出成形板において、略長手方向に発生したひび割れの補修方法であって、
前記ひび割れの発生している箇所の前記中空部において、前記表面板の所定位置に注入孔をあけ、該注入孔から前記中空部にモルタルを注入充填し硬化させることにより、前記ひび割れ発生箇所の該中空部に、密実な柱状のモルタル固着部を形成すること、を特徴とするひび割れの補修方法。
【請求項2】
前記ひび割れの発生している箇所の前記中空部において、該ひび割れ発生箇所の全体に亘って、連続した前記モルタル固着部を形成する、請求項1に記載のひび割れの補修方法。
【請求項3】
前記ひび割れの発生している箇所の前記中空部において、該ひび割れ発生箇所の全体に亘って断続的に、複数の前記モルタル固着部を形成する、請求項1に記載のひび割れの補修方法。
【請求項4】
前記ひび割れの発生している箇所の前記中空部の略全体に亘って連続的に、前記モルタル固着部を形成する、請求項1に記載のひび割れの補修方法。
【請求項5】
前記注入孔の左右方向の所定位置に確認孔をあけ、該注入孔から該確認孔までの間に、前記モルタル固着部を形成する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のひび割れの補修方法。
【請求項6】
前記注入孔から、前記ひび割れの左右の一方あるいは両方の先端部を超え、該先端部の近傍の位置までの間に、密実な柱状の前記モルタル固着部を形成する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のひび割れの補修方法。
【請求項7】
前記ひび割れの左右の一方あるいは両方の先端部を超え、該先端部の近傍の位置に確認孔をあけ、前記注入孔と該確認孔までの間に、前記モルタル固着部を形成する、請求項6に記載のひび割れの補修方法。
【請求項8】
前記ひび割れの左右の先端部を超え、該先端部の近傍の位置まで注入されたモルタルの端部位置から、前記ひび割れの先端部までの寸法が、0cm以上、30cm以下である、請求項6または7に記載のひび割れの補修方法。
【請求項9】
前記ひび割れの左右の先端部を超える近傍の位置にあけられる前記確認孔の位置が、前記ひび割れの略延長線上である、請求項7に記載のひび割れの補修方法。
【請求項10】
前記モルタルを注入する前に、前記注入孔から前記中空部に線状の補強材を挿入し、該補強材を前記モルタル固着部に内在させる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のひび割れの補修方法。
【請求項11】
前記補強材は、線状の補強材本体と、該補強材本体から該補強材本体の軸と略垂直方向に突出した2箇所以上の突起部とを有している、請求項10に記載のひび割れの補修方法。
【請求項12】
前記突起部は、前記補強材本体の両端部近傍に設けられている、請求項11に記載のひび割れの補修方法。
【請求項13】
前記補強材は、線状の補強材本体と、該補強材本体の中央部付近に取り付けられた紐状体とを有し、
前記補強材本体を前記中空部に挿入後に、該紐状体を前記注入孔の外側から引き寄せることにより、前記補強材本体の中央部と前記孔の位置とを略一致させた状態で前記モルタルを注入充填し、前記モルタル固着部を形成する、請求項10〜12のいずれか一項に記載のひび割れの補修方法。
【請求項14】
前記モルタルには、主剤と硬化剤とを含む反応硬化型のエポキシ樹脂からなる結合材が混和されている、請求項1〜13のいずれか一項に記載のひび割れの補修方法。
【請求項15】
前記モルタルには、ガラス粉末、ガラスバルーン又は硅石紛体が混和されている、請求項1〜14のいずれか一項に記載のひび割れの補修方法。
【請求項16】
前記モルタルには、グラスファイバー、カーボンファイバー又はスチールファイバーが混和されている、請求項1〜15のいずれか一項に記載のひび割れの補修方法。
【請求項17】
エポキシ樹脂からなる前記結合材が混和された前記モルタルを混練した後、硬化が進まぬよう−5℃以下の低温状態で冷凍保存しておき、使用場所で解凍し、柔らかくなった状態で注入充填する、請求項14に記載のひび割れの補修方法。
【請求項18】
前記注入孔の大きさが10mm以上、50mm以下である、請求項1〜17のいずれか一項に記載のひび割れの補修方法。
【請求項19】
前記確認孔の大きさが5mm以上、30mm以下である、請求項5、7または9のいずれか一項に記載のひび割れの補修方法。
【請求項20】
前記モルタル固着部の長さが50mm以上である、請求項1〜19のいずれか一項に記載のひび割れの補修方法。
【請求項21】
前記モルタル固着部が、前記注入孔を中心に左右に略均等に形成されている、請求項1〜20のいずれか一項に記載の補修方法。
【請求項22】
前記注入孔から前記モルタルを注入充填した後、該注入孔を塞ぎ材で塞ぐ、請求項1〜21のいずれか一項に記載のひび割れの補修方法。
【請求項23】
前記注入孔から前記モルタルを注入充填した後、前記確認孔を塞ぎ材で塞ぐ、請求項5、7、9または19のいずれか一項に記載のひび割れの補修方法。
【請求項24】
前記塞ぎ材で塞がれた前記注入孔と前記確認孔に、さらに不定形の充填材を充填し、前記表面板の表面を平坦に仕上げる、請求項22または23に記載のひび割れの補修方法。
【請求項25】
前記不定形の充填材が、モルタル、シーリング材又はエポキシ樹脂系のパテ材である、請求項24に記載のひび割れの補修方法。
【請求項26】
前記ひび割れに対し、前記表面板の表面を該ひび割れに沿ってVカット又はUカットすることにより凹部を形成し、該凹部に不定形の充填材を充填し、前記表面板の表面を平坦に仕上げる、請求項1〜25のいずれか一項に記載のひび割れの補修方法。
【請求項27】
前記不定形の充填材が、モルタル、シーリング材又はエポキシ樹脂系のパテ材である、請求項26に記載のひび割れの補修方法。
【請求項28】
略平行に配された一対の略長方形状の表面板と、前記表面板の長手方向に延びて該一対の表面板を所定間隔で一体的に結合する複数の隔壁部と、隣接する前記隔壁部の間に画成される中空部とを有し、長手方向が略水平方向となるように建築物の躯体に取り付けられた押出成形板において、略長手方向に発生したひび割れの補修構造体であって、
前記ひび割れの発生している箇所の前記中空部の前記表面板の所定位置にあけられた注入孔と、前記ひび割れ発生箇所の該中空部に密実に形成された柱状のモルタル固着部とを有すること、を特徴とするひび割れの補修構造体。
【請求項29】
請求項28に記載の補修構造体を、前記躯体に横積みで取り付けたこと、を特徴とする建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の躯体に横積みで取り付けられた押出成形板のひび割れの補修方法及び補修構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物にひび割れが発生した場合の一般的な補修方法としては、(1)ひび割れ内にエポキシ樹脂を注入し補強する方法、(2)ひび割れの表面部をVカット又はUカットすることにより凹部を形成し、該凹部にエポキシ樹脂パテ等を充填し平坦化する方法、等が知られている(例えば特許文献1参照)。
押出成形板からなる壁パネルにひび割れが発生している場合、そのひび割れは表側の表面板だけではなく、裏側の表面板にも発生している可能性が高い。そうすると、横積みの押出成形板に、概してパネルの長さ方向(水平方向)のひび割れが発生した場合、壁パネルは帳壁として必要な基本性能である曲げ性能、せん断性能が確保できなくなり、そのまま放置すると地震、強風等の際にパネルが脱落する可能性がある。特に横積みの押出成形板にパネル全長にわたるような長めの水平方向のひび割れが発生した場合の対策としては、パネルを交換することが理想的である。しかし実際の建物でパネルを交換するためには内装側にも影響し工事も大がかりになることから、やむを得ず上記のような方法で補修、補強対応されることが多い。
【0003】
しかしながら、(1)の方法では、押出成形板の表面板の厚さが10〜20mm程度と薄いため、注入するエポキシ樹脂が注入部からひび割れ沿いの面方向に広がる前に、表面板の裏面側(中空部側)にすぐに漏れ出してしまう。そのため、ひび割れ沿いに連続的にエポキシ樹脂を充填するためには注入部の間隔を狭くしなくてはならず、注入箇所数が多くなり手間がかかり不経済であるという問題があった。一方、ひび割れの幅が0.3mm以下で狭い場合には、この方法ではエポキシ樹脂がひび割れの深部まで充填されにくいため、十分な補強効果を期待出来ないという問題があった。また、この方法では、ひび割れの幅が広い場合にはエポキシ樹脂がだれてしまい、エポキシ樹脂がひび割れ内部に密実に充填されず欠陥部ができるため十分な強度が期待出来ないという問題があった。
したがって、押出成形板にひび割れが発生した場合の補修、補強方法としては、どちらかというと(2)の方法が一般的である。しかし、上記(1)、(2)どちらの方法も押出成形板の表側の表面板のみを補修、補強するものであり、隔壁部、及び裏側の表面板のひび割れは補強出来ないため、パネルに必要な曲げ性能、せん断性能が十分に確保出来ないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−28063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、ひび割れが発生した横積みの押出成形板において、裏側の表面板も補強することができ、パネルに必要な曲げ性能、せん断性能が十分に確保できる、ひび割れの補修方法及び補修構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を進めた結果、ひび割れの発生している箇所の中空部の表面板の所定位置に注入孔をあけ、該注入孔から中空部にモルタルを注入充填し、硬化させることにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
略平行に配された一対の略長方形状の表面板と、前記表面板の長手方向に延びて該一対の表面板を所定間隔で一体的に結合する複数の隔壁部と、隣接する前記隔壁部の間に画成される中空部とを有し、長手方向が略水平方向となるように建築物の躯体に取り付けられた押出成形板において、略長手方向に発生したひび割れの補修方法であって、
前記ひび割れの発生している箇所の前記中空部において、前記表面板の所定位置に注入孔をあけ、該注入孔から前記中空部にモルタルを注入充填し硬化させることにより、前記ひび割れ発生箇所の該中空部に、密実な柱状のモルタル固着部を形成すること、を特徴とするひび割れの補修方法。
[2]
前記ひび割れの発生している箇所の前記中空部において、該ひび割れ発生箇所の全体に亘って、連続した前記モルタル固着部を形成する、[1]に記載のひび割れの補修方法。
[3]
前記ひび割れの発生している箇所の前記中空部において、該ひび割れ発生箇所の全体に亘って断続的に、複数の前記モルタル固着部を形成する、[1]に記載のひび割れの補修方法。
[4]
前記ひび割れの発生している箇所の前記中空部の略全体に亘って連続的に、前記モルタル固着部を形成する、[1]に記載のひび割れの補修方法。
[5]
前記注入孔の左右方向の所定位置に確認孔をあけ、該注入孔から該確認孔までの間に、前記モルタル固着部を形成する、[1]〜[4]のいずれかに記載のひび割れの補修方法。
[6]
前記注入孔から、前記ひび割れの左右の一方あるいは両方の先端部を超え、該先端部の近傍の位置までの間に、密実な柱状の前記モルタル固着部を形成する、[1]〜[5]のいずれかに記載のひび割れの補修方法。
[7]
前記ひび割れの左右の一方あるいは両方の先端部を超え、該先端部の近傍の位置に確認孔をあけ、前記注入孔と該確認孔までの間に、前記モルタル固着部を形成する、[6]に記載のひび割れの補修方法。
[8]
前記ひび割れの左右の先端部を超え、該先端部の近傍の位置まで注入されたモルタルの端部位置から、前記ひび割れの先端部までの寸法が、0cm以上、30cm以下である、[6]または[7]に記載のひび割れの補修方法。
[9]
前記ひび割れの左右の先端部を超える近傍の位置にあけられる前記確認孔の位置が、前記ひび割れの略延長線上である、[7]に記載のひび割れの補修方法。
[10]
前記モルタルを注入する前に、前記注入孔から前記中空部に線状の補強材を挿入し、該補強材を前記モルタル固着部に内在させる、[1]〜[9]のいずれかに記載のひび割れの補修方法。
[11]
前記補強材は、線状の補強材本体と、該補強材本体から該補強材本体の軸と略垂直方向に突出した2箇所以上の突起部とを有している、[10]に記載のひび割れの補修方法。
[12]
前記突起部は、前記補強材本体の両端部近傍に設けられている、[11]に記載のひび割れの補修方法。
[13]
前記補強材は、線状の補強材本体と、該補強材本体の中央部付近に取り付けられた紐状体とを有し、
前記補強材本体を前記中空部に挿入後に、該紐状体を前記
注入孔の外側から引き寄せることにより、前記補強材本体の中央部と前記孔の位置とを略一致させた状態で前記モルタルを注入充填し、前記モルタル固着部を形成する、[10]〜[12]のいずれかに記載のひび割れの補修方法。
[14]
前記モルタルには、主剤と硬化剤とを含む反応硬化型のエポキシ樹脂からなる結合材が混和されている、[1]〜[13]のいずれかに記載のひび割れの補修方法。
[15]
前記モルタルには、ガラス粉末、ガラスバルーン又は硅石紛体が混和されている、[1]〜[14]のいずれかに記載のひび割れの補修方法。
[16]
前記モルタルには、グラスファイバー、カーボンファイバー又はスチールファイバーが混和されている、[1]〜[15]のいずれかに記載のひび割れの補修方法。
[17]
エポキシ樹脂からなる前記結合材が混和された前記モルタルを混練した後、硬化が進まぬよう−5℃以下の低温状態で冷凍保存しておき、使用場所で解凍し、柔らかくなった状態で注入充填する、[14]に記載のひび割れの補修方法。
[18]
前記注入孔の大きさが10mm以上、50mm以下である、[1]〜[17]のいずれかに記載のひび割れの補修方法。
[19]
前記確認孔の大きさが5mm以上、30mm以下である、[5]、[7]または[9]のいずれかに記載のひび割れの補修方法。
[20]
前記モルタル固着部の長さが50mm以上である、[1]〜[19]のいずれかに記載のひび割れの補修方法。
[21]
前記モルタル固着部が、前記注入孔を中心に左右に略均等に形成されている、[1]〜[20]のいずれかに記載の補修方法。
[22]
前記注入孔から前記モルタルを注入充填した後、該注入孔を塞ぎ材で塞ぐ、[1]〜[21]のいずれかに記載のひび割れの補修方法。
[23]
前記注入孔から前記モルタルを注入充填した後、前記確認孔を塞ぎ材で塞ぐ、[5]、[7]、[9]または[19]のいずれかに記載のひび割れの補修方法。
[24]
前記塞ぎ材で塞がれた前記注入孔と前記確認孔に、さらに不定形の充填材を充填し、前記表面板の表面を平坦に仕上げる、[22]または[23]に記載のひび割れの補修方法。
[25]
前記不定形の充填材が、モルタル、シーリング材又はエポキシ樹脂系のパテ材である、[23]に記載のひび割れの補修方法。
[26]
前記ひび割れに対し、前記表面板の表面を該ひび割れに沿ってVカット又はUカットすることにより凹部を形成し、該凹部に不定形の充填材を充填し、前記表面板の表面を平坦に仕上げる、[1]〜[25]のいずれかに記載のひび割れの補修方法。
[27]
前記不定形の充填材が、モルタル、シーリング材又はエポキシ樹脂系のパテ材である、[26]に記載のひび割れの補修方法。
[28]
略平行に配された一対の略長方形状の表面板と、前記表面板の長手方向に延びて該一対の表面板を所定間隔で一体的に結合する複数の隔壁部と、隣接する前記隔壁部の間に画成される中空部とを有し、長手方向が略水平方向となるように建築物の躯体に取り付けられた押出成形板において、略長手方向に発生したひび割れの補修構造体であって、
前記ひび割れの発生している箇所の前記中空部の前記表面板の所定位置にあけられた注入孔と、前記ひび割れ発生箇所の該中空部に密実に形成された柱状のモルタル固着部とを有すること、を特徴とするひび割れの補修構造体。
[29]
[28]に記載の補修構造体を、前記躯体に横積みで取り付けたこと、を特徴とする建築物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ひび割れの発生している箇所の中空部の表面板の所定位置に注入孔をあけ、該注入孔から中空部にモルタルを注入充填し、硬化させてモルタル固着部を形成することにより、裏側の表面板も補強することができ、ひび割れ発生箇所に、パネルに必要な曲げ性能、せん断性能を付与することが可能となる。したがって、本来であればパネル交換という大がかりな工事になりがちなところを簡易でローコストなパネル補強工事で済ませることが出来、工期も短く済み経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】押出成形板にひび割れが生じている状態を示す斜視図である。
【
図2】押出成形板の補修方法を説明するための平面透視図である。
【
図5】補強材を使用する場合の補強部の断面図である。
【
図8】ひび割れ補修部分を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、押出成形板にひび割れが生じている状態を示す斜視図であり、
図2〜5は、押出成形板の補修方法を説明するための図である。
図1に示すように、押出成形板1は、セメント等からなり、略平行に配された一対の略長方形状の表面板2,3と、表面板2,3の長手方向に延びて該一対の表面板2,3を所定間隔で一体的に結合する複数の隔壁部4と、隣接する隔壁部4の間に画成される中空部5とを有する。
押出成形板1からなる壁パネルは、表側の表面板2を露出させて長手方向が略水平方向となるように配置され、いわゆる横積みで建築物の躯体に取り付けられる(図示略)。この壁パネルには、表面板2において、中空部5に沿うように、壁パネルの長さ方向(略水平方向)にひび割れ6が発生している。なお、以下の説明において、横方向あるいは左右方向とは、略水平方向を示すものとする。
【0010】
本発明のひび割れ6の補修方法は、
図2および
図4に示すように、ひび割れの発生している箇所の中空部5の表面板2の、所定位置に注入孔10をあけ、該注入孔10から中空部5にモルタルを注入充填し硬化させることにより、ひび割れの発生している箇所の該中空部5に密実な柱状のモルタル固着部11を形成する。
押出成形板1のひび割れ6の発生している箇所の中空部5の所定位置に注入孔10をあけ、該注入孔10から押出成形板1の中空部5にモルタルを注入充填し、ひび割れ6の発生している箇所の中空部5に柱状の強固なモルタル固着部11を形成することで、ひび割れ6の発生箇所を補強する。
注入したモルタルが硬化することで押出成形板1の中空部5と注入されたモルタルとが一体化することで、ひび割れ6の発生箇所を強固に補強することが出来る。また、
図3に示すように、中空部5の周囲と柱状のモルタルとが隙間なく密実に一体化することで、ひび割れ6からの水の浸入をモルタル固着部11で防ぐことが出来る。
【0011】
このようにして得られた、本発明のひび割れの補修構造体は、いわゆる横積みの押出成形板において、長さ方向(略水平方向)に発生したひび割れの補修構造体であって、ひび割れ6の発生箇所の中空部5の表面板2の所定位置にあけられた注入孔10と、注入孔10を跨ぐように、中空部5に形成された柱状のモルタル固着部11とを有するものとなる。
このような補修構造体では、裏側の表面板3も補強され、パネルに必要な曲げ性能、せん断性能を有するものとなる。
当然のことながら確認孔12の位置はモルタルを注入する注入孔10をあける位置の中空部と同一の中空部の表面板上の任意の所定位置であり、確認孔12をあける位置を決定することで、モルタルのおおよその注入長さも決定される。
【0012】
図2のパネル左下のひび割れのように、ひび割れ6の長さが短い場合にはひび割れの発生している箇所の中空部のひび割れ発生箇所全体に連続的な密実な柱状のモルタル固着部11を形成するのが最適である。
その場合、通常は注入孔10から注入されたモルタルは注入孔10からほぼ左右均等に拡散するための注入孔10の位置としては、ひび割れ長さのほぼ中央部付近にするとロスが少なく効率的である。
【0013】
図2のパネル上部側のひび割れのように、ひび割れ6の長さが長い場合には、ひび割れの発生箇所全体の中空部5に連続的な密実な柱状のモルタル固着部11を形成するのは手間もかかり、モルタルのコストが高価な場合には不経済であるため、強度上余裕があると判断される場合には、複数個所に分けて断続的に密実な柱状のモルタル固着部11を形成するのが好適である。
【0014】
ひび割れ6の長さが長くパネル全長にわたっているような場合には、ひび割れの発生している箇所の中空部のほぼ全体(パネル全長)に連続的な密実な柱状のモルタル固着部11を形成するのが好適である。また、同一の中空部に対して複数箇所で断続的にひび割れが発生しているような場合にも、その中空部のほぼ全体(パネル全長)に連続的な密実な柱状のモルタル固着部11を形成するのが好適である。
【0015】
注入孔10、確認孔12をあける位置としては、ひび割れ6の直上位置が最適であるが、注入孔10、確認孔12が中空部5に貫通するように、隔壁部4の位置は避ける必要がある。当然のことながら確認孔12の位置はモルタルを注入する注入孔10をあける位置の中空部と同一の中空部の表面板上の任意の所定位置であり、確認孔12をあける位置を決定することで、モルタルのおおよその注入長さも決定される。モルタルの注入量(注入長さ)は注入孔10の左右(横方向)の所定位置に確認孔12をあけ、注入孔10からモルタルを注入し、確認孔12にモルタルが到達した時点で注入を止めることで管理できる。通常は注入孔10から注入されたモルタルは注入孔10から左右均等に拡散するため、確認孔12は注入孔10の左右のどちらか一方に設けておけば、およその注入長さ、モルタル固着部11の位置は把握できる。
また、注入長さは注入する中空部の断面積が既知の場合、モルタルの注入量から算出できるため、モルタルの注入量が分かる場合には、およその注入長さ、モルタル固着部11の位置は確認孔を設けなくても予測できる。
【0016】
注入孔10とひび割れ6の左右の一方、あるいは左右の両方の先端部13を超える近傍の位置で、ひび割れの伸展する可能性のある部分までの間に密実な柱状のモルタル固着部11を形成すれば、ひび割れの伸展を抑制することが出来る。
【0017】
注入孔10とひび割れ6の左右の一方、あるいは左右の両方の先端部13を超える近傍の位置で、ひび割れの伸展する可能性のある部分の端部に確認孔12を設けておけば、注入孔10と確認孔12との間に密実な柱状のモルタル固着部11を確実に形成し、ひび割れの伸展を抑制することが出来る。
【0018】
ひび割れ6の左右の先端部13を超える近傍の位置まで注入されたモルタルの左右の端部位置とひび割れの左右の先端部13までの寸法は0~30cm程度が好適である。この寸法は大きい方がひび割れの伸展する可能性のある部分をモルタル固着部で強固に補強できるため、ひび割れの伸展を阻止する効果が期待できるが、不経済である。実用レベル寸法としては3〜10cm程度が最適である。
【0019】
また、該確認孔12の位置をひび割れの略延長線上にすることで、ひび割れの伸展を確認孔12部で遮ることができるため、ひび割れの伸展を確認孔12部で止める効果が期待できる。
【0020】
モルタルの粘度は、特に限定されるものではないが、低過ぎると流れてしまい、中空部5周囲との間に隙間ができてしまう。一方、粘度が高過ぎると、硬くて注入しづらい。そのため、モルタルの粘度は、注入後にモルタルがその形状を保持できる程度であることが好ましい。
【0021】
図4に示すように、モルタル固着部11に線状の補強材20を内在させることが好ましい。モルタルを注入する前に、注入孔10から中空部5に線状の補強材20を挿入し、該補強材20をモルタル固着部11に内在させることが好ましい。モルタル固着部11が補強材20により補強される。これによりモルタル固着部11の強度をさらに高め、モルタル固着部11に靱性を持たせることができる。すなわち、この補強材20は、鉄筋コンクリートにおける鉄筋と同様の役割を担う。補強材20としては鉄筋のような鋼材、強化プラスチックの成形品等、高強度の材料が好適である。また、補強材20を小さな注入孔10から挿入する場合には、例えば針金のように変形可能な材料であれば挿入が容易となる。
【0022】
また、補強材20は、線状の補強材本体21と、該補強材本体21から該補強材本体21の軸と略垂直方向に突出した2箇所以上の突起部22とを有していることが好ましい。突起部22により、中空部5の周囲と補強材本体21との間にある程度の空間(かぶり)を確保することができ、この空間にモルタルが入り込むことによりモルタル固着部11と補強材20との付着力を確保することができる。線状の補強材本体21としては例えば長ボルト、突起部22としては例えばナット等が考えられる。例えば、長ボルト(補強材本体21)に複数個のナット(突起部22)を螺合させることで突起部22を有する線状の補強材20を容易に形成することができる。
また、突起部22の数および位置としては特に限定されるものではないが、突起部22のうちの2箇所を補強材20の両端付近にすることで、モルタルと補強材20との付着力を好適に確保することができる。なお、
図4に示す例では、モルタル固着部11に内在される線状の補強材20は4箇所の突起部22を有している。また、4か所の突起部22のうちの2箇所は補強材20の両端付近となっている。
【0023】
また、
図5に示すように、補強材20は、補強材本体21の中央部付近に取り付けられた紐状体23を有していることが好ましい。線状の補強材20を注入孔10に挿入後にその紐状体23の端部を注入孔10の外側から引き寄せ、線状の補強材20の中央部付近と注入孔10の位置とをほぼ一致させた状態でモルタルを注入充填する。これによりモルタル固着部11の中央付近に補強材20を配置することができ、強固なモルタル固着部11を形成することができる。
紐状体23の材料としては特に限定されるものではないが、例えば刺繍糸、凧糸、釣り糸、ゴム糸、番線等、細径の紐状材料が挙げられる。この紐状体23は、補強材20の設置位置を確定した後、強く引っ張ることで、注入孔10よりも内部側で切断させてもよいし、位置を確定した後、切断せずに注入孔10の奥側に詰め込んでしまってもかまわない。
【0024】
モルタルには、ガラス粉末、ガラスバルーン又は硅石紛体(シリカパウダー)が混和されていることが好ましい。これらを混和させることにより、硬化後のモルタル固着部11の線膨張率を押出成形板1の線膨張率に近づけることができるとともに、モルタルの軽量化をはかることが出来る。モルタル固着部11の線膨張率を押出成形板1の線膨張率に近づけることにより、中空部5の内壁側とモルタル固着部11との界面での、ヒートショック等によるディファレントムーブメントによる肌別れ(剥離)を防止できる。
さらに、モルタルには、グラスファイバー、カーボンファイバー又はスチールファイバーが混和されていることが好ましい。これらを混和させることにより、モルタル固着部11に靱性をもたせ、強度アップをはかることが出来る。
【0025】
また、モルタルには、モルタルを硬化させるための結合材として、主剤と硬化剤とからなる反応硬化型のエポキシ樹脂、あるいはセメント等が混和されており、特に、反応硬化型のエポキシ樹脂が好ましい。
また、エポキシ樹脂が混和されたモルタルを使用する場合、現場で材料を混練しようとすると、混和材料の計量、混練器材の準備、洗浄等の作業が必要となり、現場で行うことは大変である。そのためエポキシ樹脂混和モルタルを用いる場合には、予め工場等で所定の調合で混練し、混練後、硬化が進まぬように−5℃以下の低温状態で冷凍保存しておく。そして、エポキシ樹脂混和モルタルを使用場所で自然放置、或いは温水に浸ける等して解凍し、柔らかくなった状態で使用する方法が好適である。
【0026】
また、表面板2にあけられる注入孔10の大きさは、特に限定されるものではないが、小さすぎるとモルタルを注入する際の抵抗が大きくなり作業効率が悪くなる。また、注入孔10が小さすぎると補強材20も注入孔10から挿入しづらくなる。一方、注入孔10が大きすぎると、注入後に注入したモルタルが注入孔10から漏れやすく注入孔10を塞ぎづらくなる。したがって、注入孔10の大きさとしては10mm〜50mm程度が好ましい。
また、中空部5に形成されるモルタル固着部11の長さは、短すぎると十分な強度が確保出来ないため、50mm以上であることが好ましい。
【0027】
図6は、注入孔10を拡大して示す断面図である。
図7は、確認孔12を拡大して示す断面図である。注入孔10、確認孔12は、注入孔10からモルタルを注入充填した後、注入孔10、確認孔12から定形の塞ぎ材30を圧縮しながら挿入し、注入孔10、確認孔12の底部側(奥側)を定形の塞ぎ材30で塞いでいる。これにより注入孔10、確認孔12からのモルタルの逆流、漏れ出しを防ぐことが出来る。塞ぎ材30としては、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等の発泡体で、圧縮した状態で挿入した後、注入孔10、確認孔12と塞ぎ材30との間の摩擦力で滑らないものが好適である。
さらに、
図6、7に示すように、塞ぎ材30で塞がれた注入孔10、確認孔12に、さらに不定形の充填材31を充填し、表面板2の表面を平坦に仕上げてもよい。これにより補修後に塗装等の仕上げを支障なく施すことができる。不定形の充填材31は、例えば、モルタル、シーリング材、又は、エポキシ樹脂系のパテ材である。
【0028】
さらに、ひび割れ6の近傍を、上述したような方法で補強するとともに、
図8に示すように、表面板2の表面をひび割れ6に沿ってVカット又はUカット等することにより凹部32を形成し、凹部32に充填材33を充填することにより、パネル表面側を平坦に仕上げてもよい。充填材33は、例えばモルタル、シーリング材、エポキシ樹脂系のパテ材等の不定形充填材である。これにより、ひび割れの発生した箇所の中空部5の表面板2の所定位置に、注入孔10をあけてモルタル固着部11を形成させた部位、および、ひび割れを削って充填材33を充填させた部位を組み合わせて形成させることで、パネル性能(曲げ性能、せん断性能)を更に高めることが出来る。また、ひび割れ6の発生箇所からの漏水を阻止することが出来る。
【0029】
このように、本発明によれば、ひび割れが発生した横積みの押出成形板において、ひび割れの発生している箇所の中空部の表面板の所定位置に注入孔をあけ、該注入孔から中空部にモルタルを注入充填し、硬化させてモルタル固着部を形成することにより裏側の表面板も補強することができ、ひび割れ発生箇所に、パネルに必要な曲げ性能、せん断性能を付与することが可能となる。したがって、本来であればパネル交換という大がかりな工事になりがちなところを簡易でローコストなパネル補強工事で済ませることが出来、工期も短く済み経済的である。
【0030】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によるひび割れの補修方法を用いることで、パネルに必要な曲げ性能、せん断性能が十分に確保出来るものとなり、横積みされた押出成形板の補修方法として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 :押出成形板(壁パネル)
2,3 :表面板
4 :隔壁部
5 :中空部
6 :ひび割れ
10 :注入孔
11 :モルタル固着部
12 :確認孔
13 :ひび割れの先端部
20 :補強材
21 :補強材本体
22 :突起部
23 :紐状体
30 :塞ぎ材
31 :充填材
32 :凹部
33 :充填材