(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616151
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】プランジャー式加圧液給送装置
(51)【国際特許分類】
F04B 53/00 20060101AFI20191125BHJP
【FI】
F04B53/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-200662(P2015-200662)
(22)【出願日】2015年10月9日
(65)【公開番号】特開2017-72103(P2017-72103A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000187149
【氏名又は名称】昭和電工ガスプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088306
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮 良雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126343
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 浩之
(72)【発明者】
【氏名】那須 貴樹
【審査官】
岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−008747(JP,A)
【文献】
特開2004−060512(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダーに挿入され、前後に移動可能なプランジャーで加圧室が形成され、該シリンダーと該プランジャーとの隙間に嵌め込まれたシールにより該加圧室の圧漏れが防止されるプランジャー式加圧液給送装置であって、
該プランジャーが最前まで移動している加圧室内部に向かって、必要成分含有液化炭酸ガスの注入口、および該注入口とはシリンダー中心軸に関して放射方向に液化炭酸ガス排出口が配置され、
該プランジャーが後退移動したときに、該シリンダーの外周面に向かう位置であり、且つ該シールよりも該加圧室側に洗浄液化炭酸ガスの導入口が配置されており、
前記シリンダーの内部であって、前記プランジャーが最後退移動したときに、該プランジャーの外周面に対向し、該外周面にOリングからなる仕切り部材がとり囲んでいることを特徴とするプランジャー式加圧液給送装置。
【請求項2】
前記導入口から導入される前記洗浄液化炭酸ガスの導入圧力が、前記プランジャーにより加圧される加圧室の圧力よりも高いことを特徴とする請求項1に記載のプランジャー式加圧液給送装置。
【請求項3】
前記導入口から導入される前記洗浄液化炭酸ガスの導入量が、前記注入口から前記加圧室に注入される必要成分含有液化炭酸ガスの注入量に対して1〜10%であることを特徴とする請求項1または2に記載のプランジャー式加圧液給送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化炭酸ガスを溶媒または分散媒とし、固体の化学物質を溶質とする溶液または分散液を給送のためのプランジャー式加圧液給送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液化炭酸ガスや超臨界炭酸ガスの溶媒としての効果を利用して、微粒子の造粒、微粒子による機能性を付与することは一般に知られている。具体的には、金属錯体などの固体状の化学物質を液化炭酸ガスに分散させて加圧して無機材料や有機材料に吹付け、担持または反応させることなどである。さらに液化炭酸ガスの溶媒としての効果を利用し汚染微粒子の洗浄を行うことも知られている。
【0003】
上記のような吹付けを行うにあたり、加圧液給送装置は不可欠なものである。従来から加圧液給送装置としてはプランジャー式の加圧機構が採用されている。これら加圧機構は、シリンダー内の液をプランジャーの移動で押圧するものである。シリンダーとプランジャーの隙間にシール部を設けることにより液がシリンダーから漏れだすことを防止している。このようなプランジャー式加圧液給送装置で溶質である微粒子がシール部に混入したり、固体状の化学物質が析出してシール部や、プランジャー、シリンダーを損傷して加圧液給送装置としての性能を著しく低下させるという問題があった。
【0004】
特許文献1及び特許文献2では、有機溶媒に溶質を溶解させた溶液のプランジャー式加圧機構について、プランジャーのシール部へ洗浄溶媒を導入することが示されている。しかし、これらの文献には液化炭酸ガスの加圧機構に関するものは示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−89243号公報
【特許文献2】特許第2807509号公報
【特許文献3】特開平3−246383号公報
【特許文献4】実公昭48−5283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記特許文献に示された従来の装置の問題に鑑みて、課題を解決するためになされたもので、液化炭酸ガスを溶媒または分散媒とし固体の化学物質を溶質とする溶液または分散液を圧力給送するために極めて適したプランジャー式加圧液給送装置である。プランジャーのシール部に溶質である微粒子固体が混入すること防止し、プランジャーに液化炭酸ガスに溶解乃至は分散している固体溶質の析出を抑制して、シール部の損傷を低減することができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたプランジャー式加圧給送装置は、シリンダーに挿入され、前後に移動可能なプランジャーで加圧室が形成され、該シリンダーと該プランジャーとの隙間に嵌め込まれたシールにより該加圧室の圧漏れが防止されるプランジャー式加圧液給送装置であって、該プランジャーが最前まで移動している加圧室内部に向かって、必要成分含有液化炭酸ガスの注入口、および該注入口とはシリンダー中心軸に関して放射方向に液化炭酸ガス排出口が配置され、該プランジャーが後退移動したときに、該シリンダーの外周面に向かう位置であり、且つ該シールよりも該加圧室側に洗浄液化炭酸ガスの導入口が配置されていることを特徴とする。
【0008】
さらに請求項1に記載されたプランジャー式加圧給送装置
は、前記シリンダーの内部であって、前記プランジャーが最後退移動したときに、該プランジャーの外周面に対向し、仕切り部材がとり囲んでい
る。
【0009】
さらにまた、請求項1に記載されたプランジャー式加圧給送装置
は、前記仕切り部材がOリングであ
る。
【0010】
請求項
2に記載されたプランジャー式加圧給送装置は、請求項
1に記載の装置であって、前記導入口から導入される前記洗浄液化炭酸ガスの導入圧力が、前記プランジャーにより加圧される加圧室の圧力よりも高いことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載されたプランジャー式加圧給送装置は、請求項1
または2に記載の装置であって、前記導入口から導入される前記洗浄液化炭酸ガスの導入量が、前記注入口から前記加圧室に注入される必要成分含有液化炭酸ガスの注入量に対して1〜10%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプランジャー式加圧給送装置によれば、注入口から液化炭酸ガスとともに必要成分である溶質、例えば金属塩微粒子や金属錯体などの固体状の化学物質が加圧室内に注入される。この微粒子等は、プランジャーに付着するが、導入口から導入される純粋な洗浄液化炭酸ガスにより洗い流される。導入口は、プランジャーが後退移動したときにシリンダーの外周面に向かう位置であって、且つシールよりも加圧室側にあるから、洗浄液化炭酸ガスは微粒子等を洗い流しつつ加圧室側に向かい、加圧室内にある必要成分を含む液化炭酸ガスとともにプランジャーの作動加圧により液化炭酸ガス排出口から排出される。
【0013】
したがって、洗浄液化炭酸ガスにより洗い流されつつある微粒子等がシールに到達することはなく、シールに付着したり、析出したりすることがないため、シールの損傷が低減される。この種のプランジャー式加圧給送装置で最も破損しやすいシールが保護されることにより、装置の大幅な長寿命化につながる。
【0014】
仕切り部材があると、注入口から液化炭酸ガスとともに注入される微粒子等の必要成分はプランジャー側に回ることが少なく、シールに到達することが一層妨げられる。したがって、シールの損傷がさらに低減される。
【0015】
洗浄液化炭酸ガスの導入圧力がプランジャーにより加圧される加圧室の圧力よりも高いので、加圧室内にある微粒子等は洗浄液化炭酸ガスの導入口の方向に進むことなく、シールに到達することが一層妨げられる。したがって、シールの損傷がさらに低減される。
【0016】
加圧室に注入される必要成分含有液化炭酸ガスの注入量に対して洗浄液化炭酸ガスの導入量を1〜10%にすることで、必要成分の溶質濃度が必要以上に薄まることが避けられ、排出口から排出されて目的物へと給送される必要成分の本来の機能が維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明を適用するプランジャー式加圧給送装置の一実施例を示す部分断面図。
【
図2】本発明を適用するプランジャー式加圧給送装置の一実施例の細部を示す図。
【
図3】本発明を適用するプランジャー式加圧給送装置の別な実施例を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例をあげて図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
図1は本発明を適用するプランジャー式加圧給送装置の一実施例を示す部分断面図である。
【0019】
図1に示すように、シリンダー3にプランジャー1が嵌め込まれたプランジャー式加圧機構からなっている。プランジャー1は、図示しない前進後退駆動源に連結し、
図1の下半断面に実線示(上半に破線示)した状態で後退位置にあり、二点鎖線で示す前進位置に進みシリンダー3とで形成されている加圧室7内を加圧する。シリンダー3の内周にはOリングシール2a・2bが二連に嵌め込まれ、プランジャー1の外周に摺動可能に密接している。シリンダー3内のプランジャー1の前進位置における加圧室7に向けて必要成分含有液化炭酸ガスの注入口4が開口している。また、シール2a・2bよりも加圧室7側であって、シリンダー3が後退した位置であってもシリンダー3に対面する位置に洗浄液化炭酸ガス導入口5が開口している。さらに注入口4とはシリンダー中心軸に関して放射方向の対称位置に液化炭酸ガス排出口6が開口している。
【0020】
尚、必要成分含有液化炭酸ガスの注入口4と液化炭酸ガス排出口6とは、図示例ではシリンダー中心軸に関して放射方向の180°対称位置にあるが、180°対称位置に限られるとなく任意の角度に配置されたものであってよい。
【0021】
注入口4は配管11a、ボールによる逆止弁12、配管11bを経由して必要成分含有液化炭酸ガスの供給源である図示しない容器に接続されている。必要成分含有液化炭酸ガスの供給源の容器は、例えば炭酸ガスボンベに連結している撹拌付タンクである。撹拌付タンク内には必要成分、例えば金属塩が投入されている。
導入口5は配管13a、逆止弁14、配管13bを経由して洗浄液化炭酸ガスの供給源である図示しないボンベに接続されている。ボンベは純粋な液化炭酸ガスを定常的に送り出すことができる。
排出口6は配管15a、逆止弁16、配管15bを経由して必要成分の給送先(不図示)に向かっている。
注入口4の逆止弁12および排出口6の逆止弁16は、プランジャー1の往復運動と連動して開閉する自動弁であってもよい。尚、導入口5は、プランジャー1の往復運動中も一定圧の洗浄液化炭酸ガスの供給し続けるため、プランジャー1の往復運動に連動する弁は使用できない。
【0022】
注入口4から液化炭酸ガスとともに注入される必要成分には、必要成分の給送先にある目的物に吹付け、担持または反応させるものである。例えば金属塩、金属酸化物、セラミック、カーボンナノチューブ等のサブミクロンからナノオーダーの微粒子のように液化炭酸ガスに不溶なもの、および金属錯体など液化炭酸ガスに可溶な固体状の化学物質がある。したがって、必要成分含有液化炭酸ガスは、液化炭酸ガスを分散媒とする必要成分の分散液である場合、液化炭酸ガスを溶媒とする必要成分の溶液である場合がある。また必要成分が液化炭酸ガスに可溶な物質と不溶な物質が混じりあっていてもよい。
【0023】
必要成分含有液化炭酸ガスおよび洗浄液化炭酸ガスの圧力は、少なくとも1MPa以上に加圧されていることが好ましい。1MPa以上であることにより、液化炭酸ガスの三重点よりも上の圧力となるため、液相へ固相(ドライアイス)が混入することを避けられるからである。
【0024】
図1に示したプランジャー式加圧給送装置の動作を説明する。
動作前の予備状態で、洗浄液化炭酸ガスの供給源である図示外の加圧容器から配管13b→逆止弁14→配管13a→導入口5を経由して液化炭酸ガスが導入される。このように予め液化炭酸ガスを充填しておくことにより、残存空気による吸引不可状態を解消するためである。この状態から図示外の前進後退駆動源を作動させることにより予備動作を開始する。当初、シリンダー3内の実線の後退位置にあったプランジャー1は駆動源に押され、加圧室7内の液化炭酸ガスを押圧しながら鎖線の位置まで前進する。そして液化炭酸ガスは排出口6→配管15a→逆止弁16→配管15bを経て排出される。このとき液化炭酸ガスは、逆止弁12の働きにより必要成分の供給源に入ることはない。
【0025】
次いで本格動作に入り、前進後退駆動源が駆動され、プランジャー1がシリンダー3内の前進後退を繰り返して加圧給送装置が必要成分を給送先に給送する。プランジャー1がシリンダー3内の前進位置から後退すると加圧室7は減圧され、逆止弁12は開となる。すると、必要成分含有液化炭酸ガスは、ボンベから送られる液化炭酸ガスと必要成分が撹拌付タンク内で撹拌溶解して吸引され配管11b→逆止弁12→配管
11a→注入口4を経て加圧室7内に注入される。
【0026】
一方、加圧容器から洗浄液化炭酸ガスが配管13b→逆止弁14→配管13a→導入口5を経由して液化炭酸ガスが加圧室7に導入され続ける。加圧室7内で洗浄液化炭酸ガスは、必要成分含有液化炭酸ガスと混じり合う。プランジャー1が最後退位置から転じて前進を始めると、加圧室7内で混じり合っている必要成分含有液化炭酸ガスと洗浄液化炭酸ガスは、押圧されて排出口6→配管15a→逆止弁16→配管15bを経て必要成分給送先へと給送される。
【0027】
一連のプランジャー動作の間、導入口5から洗浄液化炭酸ガスが高い圧力で導入され続け、一方ではシール2a・2bによりシリンダー3とプランジャー1との間は密閉されているので、シリンダー3とプランジャー1との隙間を加圧室7側に流れる。そのため、必要成分含有液化炭酸ガスは、シリンダー3とプランジャー1との間に流れ込むことがないから、シール2a・2bに付着することもない。
【0028】
図2は仕切り部材10としてOリングを設けた例である。シリンダー3内側、プランジャー1が最後退移動したときに(部分断面図(a)参照)、プランジャー1の外周面に対向し、外周面とは微小間隔を隔てて仕切り部材10がとり巻いている(A−A視図である(b)参照)。導入口5から導入された洗浄液化炭酸ガスは、ランジャー1の外周面を流れて洗浄しながらプランジャー1の外周面と仕切り部材10との微小間隔を通って加圧室7内に流れる。
【0029】
シール2a・2bは、Oリングを例示しておりゴム製、或いはポリマーや複合材料で構成された帯状パッキン、その他金属の弾性力を利用してシールとプランジャーの密着性を高めた金属と樹脂の複合シールが用いられる。また、1本であっても、3本以上であっても可能である。
【0030】
図3はプランジャー式加圧給送装置の別な実施例を示す部分断面図である。
この実施例では、プランジャー1は、中心に孔8が開けられており、先端近くで孔8は分離して洗浄液化炭酸ガス導入口5aおよび5bとなっている。中心に孔8にはチューブ9が挿入されており図示外の液化炭酸ガスボンベに繋がれている。そしてプランジャー1は、前進後退駆動源に連結している。下半断面に実線示(上半に破線示)した状態で後退位置にあり、二点鎖線で示す前進位置に進みシリンダー3とで形成されている加圧室7内を加圧する。シリンダー3の内周にはOリングシール2a・2b・2cが三連に嵌め込まれ、プランジャー1の外周に摺動可能に密接している。シリンダー3内のプランジャー1の前進位置における加圧室7に向けて必要成分含有液化炭酸ガスの注入口4が開口している。そして、注入口4とはシリンダー中心軸に関して放射方向の対称位置に液化炭酸ガス排出口6が開口している。
【0031】
この例でも分かるように、プランジャー1が後退したときでも洗浄液化炭酸ガス導入口5aおよび5bがOリングシール2a・2b・2cに到達しない位置へ取り付けられる。
【0032】
洗浄液化炭酸ガスの導入口5は、
図1の例では1箇所であるが、シリンダー3の中心軸に関して対称な位置、或いはそれ以外に複数設けても良い。
【0033】
仕切り部材10は、
図2に示すOリング以外でも、流路を絞る構造であればよく、プランジャーの前進後退によって必要成分を含む液化炭酸ガスがシールへ近づくことを抑制する性能が求められる。
【0034】
必要成分含有液化炭酸ガスの供給源の容器は、上記の液化炭酸ガスボンベに連結した撹拌付タンク以外に、液化炭酸ガスボンベに連結した筒状の容器に必要成分である金属塩等が充填されたものでもよい。液化炭酸ガスが必要成分の層を通過する際に取り込み、必要成分含有液化炭酸ガスとなる。また、液化炭酸ガスボンベの中に必要成分である金属塩等をいれて必要成分含有液化炭酸ガスを得てもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本願発明は、液化炭酸ガスや超臨界炭酸ガスの溶媒効果を利用して、微粒子の造粒や微粒子に対して洗浄や機能性追加を行うこと、また、金属錯体などの固体状の化学物質を液化炭酸ガスに溶解させて加圧し、無機材料や有機材料へ担持または反応させることを利用した多分野の産業で利用される。
【符号の説明】
【0036】
1:プランジャー
2a・2b・2c:シール
3:シリンダー
4:必要成分含有液化炭酸ガスの注入口
5・5a・5b:洗浄液化炭酸ガスの導入口
6:液化炭酸ガスの排出口
7:加圧室
8:孔
9:チューブ
10:仕切り部材
11a・11b、13a・13b、15a・15b:配管
12・14・16:逆止弁