(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記離間部の周囲において、前記第1接着剤の逃がし溝と、前記第2接着剤の逃がし溝とは、互いに沿って配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の流路部材。
前記第1接着剤の逃がし溝内の空間は外部と繋がっており、前記第2接着剤の逃がし溝内の空間は、外部と繋がっていないか、あるいは、前記第1接着剤の逃がし溝内の空間を介して外部と繋がっていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の流路部材。
該離間部における前記第1接着剤の逃がし溝と前記第2接着剤の逃がし溝との間の距離が、前記接着剤層の厚さの1000倍以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の流路部材。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2を含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタ1(以下で単にプリンタと言うことがある)の概略の側面図であり、
図1(b)は、概略の平面図である。プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pをガイドローラ82Aから搬送ローラ82Bへと搬送することにより、印刷用紙Pを液体吐出ヘッド2に対して相対的に移動させる。制御部88は、画像や文字のデータに基づいて、液体吐出ヘッド2を制御して、記録媒体Pに向けて液体を吐出させ、印刷用紙Pに液滴を着弾させて、印刷用紙Pに印刷などの記録を行なう。
【0014】
本実施形態では、液体吐出ヘッド2はプリンタ1に対して固定されており、プリンタ1はいわゆるラインプリンタとなっている。本発明の記録装置の他の実施形態としては、液体吐出ヘッド2を、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に往復させるなどして移動させる動作と、印刷用紙Pの搬送を交互に行なう、いわゆるシリアルプリンタが挙げられる。
【0015】
プリンタ1には、印刷用紙Pとほぼ平行になるように平板状のヘッド搭載フレーム70(以下で単にフレームと言うことがある)が固定されている。フレーム70には図示しない20個の孔が設けられており、20個の液体吐出ヘッド2がそれぞれの孔の部分に搭載されていて、液体吐出ヘッド2の、液体を吐出する部位が印刷用紙Pに面するようになっている。液体吐出ヘッド2と印刷用紙Pとの間の距離は、例えば0.5〜20mm程度と
される。5つの液体吐出ヘッド2は、1つのヘッド群72を構成しており、プリンタ1は、4つのヘッド群72を有している。
【0016】
液体吐出ヘッド2は、
図1(a)の手前から奥へ向かう方向、
図1(b)の上下方向に細長い長尺形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。1つのヘッド群72内において、3つの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に沿って並んでおり、他の2つの液体吐出ヘッド2は搬送方向に沿ってずれた位置で、3つの液体吐出ヘッド2の間にそれぞれ一つずつ並んでいる。液体吐出ヘッド2は、各液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲が、印刷用紙Pの幅方向に(印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向に)繋がるように、あるいは端が重複するように配置されており、印刷用紙Pの幅方向に隙間のない印刷が可能になっている。
【0017】
4つのヘッド群72は、記録用紙Pの搬送方向に沿って配置されている。各液体吐出ヘッド2には、図示しない液体タンクから液体、例えば、インクが供給される。1つのヘッド群72に属する液体吐出ヘッド2には、同じ色のインクが供給されるようになっており、4つのヘッド群72で4色のインクが印刷できる。各ヘッド群72から吐出されるインクの色は、例えば、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。このようなインクを、制御部88で制御して印刷すれば、カラー画像が印刷できる。
【0018】
プリンタ1に搭載されている液体吐出ヘッド2の個数は、単色で、1つの液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲を印刷するのなら1つでもよい。ヘッド群72に含まれる液体吐出ヘッド2の個数や、ヘッド群72の個数は、印刷する対象や印刷条件により適宜変更できる。例えば、さらに多色の印刷をするためにヘッド群72の個数を増やしてもよい。また、同色で印刷するヘッド群72を複数配置して、搬送方向に交互に印刷すれば、同じ性能の液体吐出ヘッド2を使用しても搬送速度を速くできる。これにより、時間当たりの印刷面積を大きくすることができる。また、同色で印刷するヘッド群72を複数準備して、搬送方向と交差する方向にずらして配置して、印刷用紙Pの幅方向の解像度を高くしてもよい。
【0019】
さらに、色の付いたインクを印刷する以外に、印刷用紙Pの表面処理をするために、コーティング剤などの液体を印刷してもよい。
【0020】
プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pに印刷を行なう。印刷用紙Pは、給紙ローラ80Aに巻き取られた状態になっており、2つのガイドローラ82Aの間を通った後、フレーム70に搭載されている液体吐出ヘッド2の下側を通り、その後2つの搬送ローラ82Bの間を通り、最終的に回収ローラ80Bに回収される。印刷する際には、搬送ローラ82Bを回転させることで印刷用紙Pは、一定速度で搬送され、液体吐出ヘッド2によって印刷される。回収ローラ80Bは、搬送ローラ82Bから送り出された印刷用紙Pを巻き取る。搬送速度は、例えば、75m/分とされる。各ローラは、制御部88によって制御されてもよいし、人によって手動で操作されてもよい。
【0021】
記録媒体は、印刷用紙P以外に、ロール状の布などでもよい。また、プリンタ1は、印刷用紙Pを直接搬送する代わりに、搬送ベルトを直接搬送して、記録媒体を搬送ベルト上に置いて搬送してもよい。そのようにすれば、枚葉紙や裁断された布、木材、タイルなどを記録媒体にできる。さらに、液体吐出ヘッド2から導電性の粒子を含む液体を吐出するようにして、電子機器の配線パターンなどを印刷してもよい。またさらに、液体吐出ヘッド2から反応容器などに向けて所定量の液体の化学薬剤や化学薬剤を含んだ液体を吐出させて、反応させるなどして、化学薬品を作製してもよい。
【0022】
また、プリンタ1に、位置センサ、速度センサ、温度センサなどを取り付けて、制御部88が、各センサからの情報から分かるプリンタ1各部の状態に応じて、プリンタ1の各部を制御してもよい。例えば、液体吐出ヘッド2の温度や液体タンクの液体の温度、液体タンクの液体が液体吐出ヘッド2に加えている圧力などが、吐出される液体の吐出量や吐出速度などの吐出特性に影響を与えている場合などに、それらの情報に応じて、液体を吐出させる駆動信号を変えるようにしてもよい。
【0023】
次に、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2について説明する。
図2は、
図1に示された液体吐出ヘッド2の要部であるヘッド本体2aを示す平面図である。
図3は、
図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大平面図であり、ヘッド本体2aの一部である。
図3では、説明のため、一部の流路を省略して描いている。
図4は、
図3と同じ位置の拡大平面図であり、
図3とは別の一部の流路を省略して描いている。
図5は、
図3のV−V線に沿った縦断面図である。なお、
図3および
図4において、図面を分かり易くするために、圧電アクチュエータ基板21の下方にあって破線で描くべき加圧室10、しぼり6および吐出孔8などを実線で描いている。
【0024】
液体吐出ヘッド2には、ヘッド本体2a以外に、ヘッド本体2aに液体を供給するリザーバや、筐体を含んでいてもよい。また、ヘッド本体2aは、流路部材4と、加圧部である変位素子30が作り込まれている圧電アクチュエータ基板21とを含んでいる。
【0025】
ヘッド本体2aを構成する流路部材4は、共通流路であるマニホールド5と、マニホールド5と繋がっている複数の加圧室10と、複数の加圧室10とそれぞれ繋がっている複数の吐出孔8とを備えている。加圧室10は流路部材4の上面に開口しており、流路部材4の上面が加圧室面4−2となっている。また、流路部材4の上面は、マニホールド5と繋がっている開口5aを有し、この開口5aより液体が供給されるようになっている。
【0026】
また、流路部材4の上面には、変位素子30を含む圧電アクチュエータ基板21が接合されており、各変位素子30が加圧室10上に位置するように配置されている。また、圧電アクチュエータ基板21には、各変位素子30に信号を供給する信号伝達部60が接続されている。
図2には、2つの信号伝達部60が圧電アクチュエータ基板21に繋がる状態が分かるように、信号伝達部60の圧電アクチュエータ基板21に接続される付近の外形を点線で示した。圧電アクチュエータ基板21に電気的に接続されている、信号伝達部60に形成されている電極は、信号伝達部60の端部に、矩形状に配置されている。2つの信号伝達部60は、圧電アクチュエータ基板21の短手方向の中央部にそれぞれの端がくるように接続されている。
【0027】
ヘッド本体2aは、平板状の流路部材4と、流路部材4上に接合された変位素子30を含む圧電アクチュエータ基板21を1つ有している。圧電アクチュエータ基板21の平面形状は長方形状であり、その長方形の長辺が流路部材4の長手方向に沿うように流路部材4の上面に配置されている。
【0028】
流路部材4の内部には2つのマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向の一端部側から、他端部側に延びる細長い形状を有しており、その両端部において、流路部材4の上面に開口しているマニホールド5の開口5aが形成されている。
【0029】
また、マニホールド5は、少なくとも加圧室10に繋がっている領域である長手方向における中央部分において、短手方向に間隔を開けて設けられた隔壁15で仕切られている。隔壁15は、加圧室10に繋がっている領域である長手方向の中央部分においては、マニホールド5と同じ高さを有し、マニホールド5を複数の副マニホールド5bに完全に仕
切っている。このようにすることで、平面視したときに、隔壁15と重なるように、吐出孔8および吐出孔8から加圧室10に繋がっている流路を設けることができる。
【0030】
複数に分けられた部分のマニホールド5を副マニホールド5bと呼ぶことがある。本実施形態においては、マニホールド5は独立して2本設けられており、それぞれの両端部に開口5aが設けられている。また、1つのマニホールド5には、7つの隔壁15が設けられており、8つの副マニホールド5bに分けられている。副マニホールド5bの幅は、隔壁15の幅より大きくなっており、これにより副マニホールド5bに多くの液体を流すことができる。
【0031】
流路部材4は、複数の加圧室10が2次元的に広がって形成されている。加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形あるいは楕円形状の平面形状を有する中空の領域である。
【0032】
加圧室10は、しぼり6を介して1つの副マニホールド5bと繋がっている。1つの副マニホールド5bに沿うようにして、この副マニホールド5bに繋がっている加圧室10の行である加圧室行11が、副マニホールド5bの両側に1行ずつ、合計2行設けられている。したがって、1つのマニホールド5に対して、16行の加圧室11が設けられており、ヘッド本体2a全体では32行の加圧室行11が設けられている。各加圧室行11における加圧室10の長手方向の間隔は同じであり、例えば、37.5dpiの間隔となっている。
【0033】
各加圧室行11の端にはダミー加圧室16の列が1列設けられている。このダミー加圧室列のダミー加圧室16は、マニホールド5とは繋がっているが、吐出孔8とは繋がっていない。また、32行の加圧室行11の外側には、ダミー加圧室16が直線状に並んだダミー加圧室行が1行設けられている。このダミー加圧室行のダミー加圧室16は、マニホールド5および吐出孔8のいずれとも繋がっていない。これらのダミー加圧室16により、端から1つ内側の加圧室10の周囲の構造(剛性)が他の加圧室10の構造(剛性)と近くなることで、液体吐出特性の差を少なくできる。なお、周囲の構造の差の影響は、距離の近い、長さ方向に隣接する加圧室10の影響が大きいため、長さ方向には、両端にダミー加圧室を設けてある。幅方向については、影響が比較的小さいため、ヘッド本体21aの端に近い方のみに設けている。これにより、ヘッド本体21aの幅を小さくできる。
【0034】
1つのマニホールド5に繋がっている加圧室10は、矩形状の圧電アクチュエータ基板21の各外辺に沿った行および列を成す格子状に配置されている。これにより、圧電アクチュエータ基板21の外辺から、加圧室10の上に形成されている個別電極25が等距離に配置されることになるので、個別電極25を形成する際に、圧電アクチュエータ基板21に変形が生じ難くできる。圧電アクチュエータ基板21と流路部材4とを接合する際に、この変形が大きいと外辺に近い変位素子30に応力が加わり、変位特性にばらつきが生じるおそれがあるが、変形を少なくすることで、そのばらつきを低減できる。また、もっとも外辺に近い加圧室行11の外側にダミー加圧室16のダミー加圧室行が設けられているために、変形の影響をより受け難くできる。加圧室行11に属する加圧室10は等間隔で配置されており、加圧室行11に対応する個別電極25も等間隔で配置されている。加圧室行11は短手方向に等間隔で配置されており、加圧室行11に対応する個別電極25の行も短手方向に等間隔で配置されている。これにより、特にクロストークの影響が大きくなる部位をなくすことができる。
【0035】
本実施形態では、加圧室10は格子状に配置したが、隣り合う加圧室列11の加圧室10が互いの間に位置するように千鳥状に配置してもよい。このようにすると、隣接加圧室行11に属する加圧室10の間の距離がより長くなるので、よりクロストークを抑制でき
る。
【0036】
加圧室行11をどのように並べるかによらず、流路部材4を平面視したとき、1つの加圧室行11に属する加圧室10が、隣接する加圧室行11に属する加圧室10と、液体吐出ヘッド2の長手方向において、重ならないように配置することにより、クロストークを抑制できる。一方、加圧室行11の間の距離を離すと、液体吐出ヘッド2の幅が大きくなるので、プリンタ1に対する液体吐出ヘッド2の設置角度の精度や、複数の液体吐出ヘッド2を使用する際の、液体吐出ヘッド2の相対位置の精度が印刷結果に与える影響が大きくなる。そこで、隔壁15の幅を副マニホールド5bよりも小さくすることで、それらの精度が印刷結果に与える影響を少なくできる。
【0037】
1つの副マニホールド5bに繋がっている加圧室10は、2列の加圧室行11を成しており、1つの加圧室行11に属する加圧室10から繋がっている吐出孔8は、1つの吐出孔行9を成している。2行の加圧室行11に属する加圧室10に繋がっている吐出孔8はそれぞれ、副マニホールド5bの異なる側に開口している。
図4では隔壁15には、2行の吐出孔行9が設けられているが、それぞれの吐出孔行9に属する吐出孔8は、吐出孔8に近い側の副マニホールド5bに加圧室10を介して繋がっている。隣接する副マニホールド5bに加圧室行11を介して繋がっている吐出孔8と液体吐出ヘッド2の長手方向において重ならないように配置されていると、加圧室10と吐出孔8とを繋ぐ流路間のクロストークが抑制できるので、さらにクロストークを少なくすることができる。加圧室10と吐出孔8とを繋ぐ流路全体が、液体吐出ヘッド2の長手方向において重ならないように配置されていると、さらにクロストークを少なくすることができる。
【0038】
1つのマニホールド5に繋がっている複数の加圧室10により加圧室群が構成されており、マニホールド5が2つあるため、加圧室群は2つある。各加圧室群内における吐出に関わる加圧室10の配置は同じで、短手方向に平行移動させた位置に配置されている。これらの加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータ基板21に対向する領域に、加圧室群間などの少し間隔が広くなった部分があるものの、ほぼ全面にわたって配列されている。つまり、これらの加圧室10によって形成された加圧室群は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の形状の領域を占有している。また、各加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータ基板21が接合されることで閉塞されている。
【0039】
加圧室10のしぼり6が繋がっている角部と対向する角部からは、流路部材4の下面の吐出孔面4−1に開口している吐出孔8に繋がる流路が伸びている。この流路は、平面視において、加圧室10から離れる方向に伸びている。より具体的には、加圧室10の長い対角線に沿う方向に離れつつ、その方向に対して左右にずれながら伸びている。これにより、加圧室10は各加圧室行11内での間隔が37.5dpiになっている格子状の配置にしつつ、吐出孔8は、全体で1200dpiの間隔で配置することができる。
【0040】
これは別の言い方をすると、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線に対して直交するように吐出孔8を投影すると、
図4に示した仮想直線のRの範囲に、各マニホールド5に繋がっている16個の吐出孔8、全部で32個の吐出孔8が、1200dpiの等間隔となっているということである。これにより、すべてのマニホールド5に同じ色のインクを供給することで、全体として長手方向に1200dpiの解像度で画像が形成可能となる。また、1つのマニホールド5に繋がっている1個の吐出孔8は、仮想直線のRの範囲で600dpiの等間隔になっている。これにより、各マニホールド5に異なる色のインクを供給することで、全体として長手方向に600dpiの解像度で2色の画像が形成可能となる。この場合、2つの液体吐出ヘッド2を用いれば、600dpiの解像度で4色の画像が形成可能となり、600dpiで印刷可能な液体吐出ヘッドを4つ用いるよりも、印刷精度が高くなり、印刷のセッティングも簡単にできる。なお、ヘッド本体2aの短手
方向に並んでいる1列の加圧室列に属する加圧室10から繋がっている吐出孔8で、仮想直線のRの範囲がカバーされている。
【0041】
圧電アクチュエータ基板21の上面における各加圧室10に対向する位置には個別電極25がそれぞれ形成されている。個別電極25は、加圧室10より一回り小さく、加圧室10とほぼ相似な形状を有している個別電極本体25aと、個別電極本体25aから引き出されている引出電極25bとを含んでおり、個別電極25は、加圧室10と同じように、個別電極列および個別電極群を構成している。また、圧電アクチュエータ基板21の上面には、共通電極用表面電極28が配置されている。共通電極用表面電極28と共通電極24とは、圧電セラミック層21bに配置されている、図示しない貫通導体を通じて、電気的に接続されている。
【0042】
吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置されているマニホールド5と対向する領域を避けた位置に配置されている。さらに、吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータ基板21と対向する領域内に配置されている。これらの吐出孔8は、1つの群として圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータ基板21の変位素子30を変位させることにより吐出孔8から液滴が吐出できる。
【0043】
ヘッド本体2aに含まれる流路部材4は、複数のプレートが接着剤層を介して積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート4a、アパーチャ(しぼり)プレート4b、サプライプレート4c、マニホールドプレート4d〜i、カバープレート4jおよびノズルプレート4lである。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートの厚さは10〜300μm程度であることにより、孔の形成精度を高くできる。流路部材4の厚さは、500μm〜2mm程度である。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路12およびマニホールド5を構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体2aでは、加圧室10は流路部材4の上面に、マニホールド5は内部の下面側に、吐出孔8は下面にと、個別流路12を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、加圧室10を介してマニホールド5と吐出孔8とが繋がる構成を有している。
【0044】
各プレートに配置されている孔および溝について説明する。これらの孔および溝には、液体の流路となるものと、流路となる孔あるいは溝の周囲、あるいは他の配置されている接着剤の逃がし溝17が含まれる。逃がし溝17については後述する。
【0045】
流路となる孔あるいは溝には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート4aに形成された加圧室10である。第2に、加圧室10の一端からマニホールド5へと繋がるしぼり6を構成する連通孔である。この連通孔は、アパーチャプレート4b(詳細には加圧室10の入り口)からサプライプレート4c(詳細にはマニホールド5の出口)までの各プレートに形成されている。
【0046】
第3に、加圧室10のしぼり6が繋がっている端と反対の他端から吐出孔8へと連通する流路を構成する部分流路であるディセンダ7である。ディセンダ7は、ベースプレート4b(詳細には加圧室10の出口)からノズルプレート4l(詳細には吐出孔8)までの各プレートに形成されている。
【0047】
第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート4c〜iに形成されている。マニホールドプレート4c〜iには、副マニホールド5bを構成するように隔壁15となる仕切り部が残るように孔が形成されている。各マニホールドプレート4c〜iにおける仕切り部は、ハーフエッチングした支持部(図では省
略してある)で各マニホールドプレート4c〜iと繋がった状態にされる。
【0048】
第1〜4の連通孔が相互に繋がり、マニホールド5からの液体の流入口(マニホールド5の出口)から吐出孔8に至る個別流路12を構成している。マニホールド5に供給された液体は、以下の経路で吐出孔8から吐出される。まず、マニホールド5から上方向に向かって、しぼり6の一端部に至る。次に、しぼり6の延在方向に沿って水平に進み、しぼり6の他端部に至る。そこから上方に向かって、加圧室10の一端部に至る。さらに、加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、加圧室10の他端部に至る。加圧室10からディセンダ7に入った液体は、水平方向にも移動しつつ、主に下方に向かい、下面に開口した吐出孔8に至って、外部に吐出される。
【0049】
圧電アクチュエータ基板21は、圧電体である2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータ基板21の圧電セラミック層21aの下面から圧電セラミック層21bの上面までの厚さは40μm程度である。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の加圧室10を跨ぐように延在している。これらの圧電セラミック層21a、21bは、例えば、強誘電性を有する、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系、NaNbO
3系、BaTiO
3系、(BiNa)NbO
3系、BiNaNb
5O
15系などのセラミックス材料からなる。なお、圧電セラミック層21aは、振動板として働いており、必ずしも圧電体である必要はなく、代わりに、圧電体でない他のセラミック層や金属板を用いてもよい。
【0050】
圧電アクチュエータ基板21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極24およびAu系などの金属材料からなる個別電極25を有している。共通電極24の厚さは2μm程度であり、個別電極25の厚さは、1μm程度である。
【0051】
個別電極25は、圧電アクチュエータ基板21の上面における各加圧室10に対向する位置に、それぞれ配置されている。個別電極25は、平面形状が加圧室本体10aより一回り小さく、加圧室本体10aとほぼ相似な形状を有している個別電極本体25aと、個別電極本体25aから引き出されている引出電極25bとを含んでいる。引出電極25bの一端の、加圧室10と対向する領域外に引き出された部分には、接続電極26が配置されている。接続電極26は例えば銀粒子などの導電性粒子を含んだ導電性樹脂であり、5〜200μm程度の厚さで形成されている。また、接続電極26は、信号伝達部60に設けられた電極と電気的に接合されている。
【0052】
詳細は後述するが、個別電極25には、制御部88から信号伝達部60を通じて駆動信号が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
【0053】
共通電極24は、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極24は、圧電アクチュエータ基板21に対向する領域内のすべての加圧室10を覆うように延在している。共通電極24は、圧電セラミック層21b上に個別電極44からなる電極群を避ける位置に形成されている共通電極用表面電極28に、圧電セラミック層21bを貫通して形成された貫通導体を介して繋がっている。また、共通電極24は、共通電極用表面電28を介して接地され、グランド電位に保持されている。共通電極用表面電極28は、個別電極25と同様に、制御部88と直接あるいは間接的に接続されている。
【0054】
圧電セラミック層21bの個別電極25と共通電極24とに挟まれている部分は、厚さ方向に分極されており、個別電極25に電圧を印加すると変位する、ユニモルフ構造の変
位素子30となっている。より具体的には、個別電極25を共通電極24と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この構成において、電界と分極とが同方向となるように、制御部88により個別電極25を共通電極24に対して正または負の所定電位にすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21aは加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
【0055】
続いて、液体の吐出動作について、説明する。制御部88からの制御でドライバICなどを介して、個別電極25に供給される駆動信号により、変位素子30が駆動(変位)させられる。本実施形態では、様々な駆動信号で液体を吐出させることができるが、ここでは、いわゆる引き打ち駆動方法について説明する。
【0056】
あらかじめ個別電極25を共通電極24より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極25を共通電極24と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極25が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、21bが元の(平らな)形状に戻り(始め)、加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。これにより、加圧室10内の液体に負圧が与えられる。そうすると、加圧室10内の液体が固有振動周期で振動し始める。具体的には、最初、加圧室10の体積が増加し始め、負圧は徐々に小さくなっていく。次いで加圧室10の体積は最大になり、圧力はほぼゼロとなる。次いで加圧室10の体積は減少し始め、圧力は高くなっていく。その後、圧力がほぼ最大になるタイミングで、個別電極25を高電位にする。そうすると最初に加えた振動と、次に加えた振動とが重なり、より大きい圧力が液体に加わる。この圧力がディセンダ7内を伝搬し、吐出孔8から液体を吐出させる。
【0057】
つまり、高電位を基準として、一定期間低電位とするパルスの駆動信号を個別電極25に供給することで、液滴を吐出できる。このパルス幅は、加圧室10の液体の固有振動周期の半分の時間であるAL(Acoustic Length)とすると、原理的には、液体の吐出速度
および吐出量を最大にできる。加圧室10の液体の固有振動周期は、液体の物性、加圧室10の形状の影響が大きいが、それ以外に、圧電アクチュエータ基板21の物性や、加圧室10に繋がっている流路の特性からの影響も受ける。
【0058】
なお、パルス幅は、吐出される液滴を1つにまとめるようにするなど、他に考慮する要因もあるため、実際は、0.5AL〜1.5AL程度の値にされる。また、パルス幅は、ALから外れた値にすることで、吐出量を少なくすることができるため、吐出量を少なくするためにALから外れた値にされる。
【0059】
プレート4a〜lを、接着剤層を介して積層する際に、接着剤が、プレート4a〜lの間の全面に行き渡るだけの量がないと、接着されない部分が生じることになる。接着剤が、プレート4a〜lの間の全面に行き渡った状態で、接着のために加圧すると、接着剤の一部は、流路の中に流れこむことになる。また、接着剤の塗布量に、場所によるばらつきがあると、塗布量のばらつきが、そのまま接着剤層の厚さのばらつきになって吐出特性が変動したり、接着剤の塗布量が少ない部分に圧力が加わり難く、接着できなかったり、接着が弱くなることがあった。
【0060】
そこで、流路となる孔や溝の周囲や、その他の部分に接着剤の逃がし溝17を配置する。逃がし溝17は、基本的にはプレート4a〜kに形成された溝であり、プレート4a〜
kをハーフエッチングすることなどで形成される。ただし、逃がし溝17は、プレート4a〜kを貫通して形成されてもよく、そのようなものも含めて逃がし溝17と呼ぶ。
【0061】
逃がし溝17は、次の2種類の形態がある。ただし、両方に含まれるものもある。第1には、流路となる孔や溝の周囲に配置されているものである。これらの主な役割は、流路となる孔や溝の内部に、溢れた接着剤が流れ込み難くすることである。
【0062】
第2には、流路となる孔や溝があまり配置されていない場所に配置されているものである。このような場所は、吐出孔8からしぼり6までの個別流路12となる孔や溝が固まって配置されている群の間や、いくつかあるそれらの群全体の外側に存在する。プレート4a〜kの周縁部、特にプレート4a〜kの長手方向の両端部は、そのような条件に該当する場所である。
【0063】
そのような場所に配置された逃がし溝17には、次のような役割がある。局所的に接着剤が厚く塗布された場合、積層圧力で接着剤が流動したとしても、流動が充分でなく、接着剤層が局所的に厚くなったり、その周囲に圧力が加わり難くなることで、接着できなかったり、接着が弱くなることがある。そのような場合、逃がし溝17が配置されていると、過剰な接着剤は逃がし溝に流れ込み、接着剤層が局所的に厚くなることは起こり難く、その周囲で接着が弱くなることも起こり難くできる。
【0064】
また、積層する際に接着剤層に気泡が閉じ込められてしまうことがある。流路となる孔や溝が周囲に配置されていれば、気泡はそれらを介して外部に排出されたり、流路となる孔や溝に圧縮されて閉じ込められる可能性があるが、流路となる孔や溝が周囲になかったり、少なかったりすると、接着剤層の中に残り、その部分が接着されないことがある。そのような場所に逃がし溝17が配置されていれば、気泡は逃がし溝17に圧縮して閉じ込められ、接着剤層に残り難くなる。このような効果をより高めるために、逃がし溝17を、直接、流路部材4の外部と繋がっている配置にしたり、他のプレート4a〜kに配置した孔や溝を介して、流路部材4の外部と繋がっているようにしてもよい。
【0065】
逃がし溝17の幅は、例えば10〜500μmである。10μm以上、さらに20μm以上にすることで、逃がし溝17が接着剤で埋まって、接着剤がそれ以上流れ込めなくなったり、逃がし溝17が詰まることで、空気の流通がし難くなったりすることを起き難くできる。500μm以下、さらに300μm以下、特に200μm以下にすることで、プレート4a〜kが変形し難くするとともに、接着代を大きくできる。エッチングで形成する場合、プレート4a〜kの厚さよりも幅の狭い逃がし溝17は、加工が難しいので、逃がし溝17の幅は、プレート4a〜k毎に変えてもよい。また、個別流路12の周囲には、幅の狭い逃がし溝17を配置し、個別流路12から離れた部分には幅の広い逃がし溝17配置してもよい。
【0066】
液体の流路である、副マニホールド5aおよび個別流路12を構成している孔および溝は、プレート4a〜kをエッチングして形成されている。
図5では、エッチングで形成したことにより生じている形状の細部は省略して描いている。また、
図5では、接着剤層も省略して描いている。プレート4a〜kを貫通している孔は、プレート4a〜kを両面からエッチングをして形成されている。それらの孔では、プレート4a〜kの厚さの中央付近の寸法が、開口部の寸法より狭くなっている。プレート4a〜kのほぼ半分の深さの溝は、プレート4a〜kを片面からハーフエッチングして形成されている。それらの溝では、溝の底付近の寸法が開口部の寸法より狭くなっている。
【0067】
なお、プレート4lに形成されている、一方の開口が吐出孔8となっている貫通孔は、パンチングにより開けられている。
【0068】
図6は、プレート4cの長手方向である第5方向の一方の端部の平面図である。図の左側には、マニホールド5となる孔が2つ開口している。個別流路12となる孔や溝は、図のさらに左側の描かれていない位置に配置されており、
図6に描かれているのは、個別流路12となる孔や溝が配置されていない領域である。プレート4cの第5方向の他方の端部は、
図6を左右に反転させた構造となっている。
【0069】
プレート4cには、第5方向と、第5方向と交差する方向である第4方向に沿って逃がし溝17が配置されている。第4方向と第5方向の成す角度は、90±30度以内、さらに90度±15度以内であり、略直角となっている。
【0070】
また、プレート4cには、貫通孔19が配置されている。貫通孔19は、プレート4a〜lにおいても同じ位置に配置されており、それぞれがプレート4a〜lに配置されている逃がし溝17と繋がっている。積層した際にプレート4a〜k間に挟まれてしまった空気の一部を、逃がし溝17から貫通孔19に伝え、流路部材4の外部に逃がすことができる。逃がし溝17をプレート4cの外辺まで繋がった配置にし、空気を、逃がし溝17から外部に、直接逃がす構造にしてもよい。
【0071】
空気の閉じ込めや、接着剤層の厚みの平均化の観点からは、逃がし溝17を増やすのが望ましいが、逃がし溝17が増えると実際に接着される接着代の面積が減るため、接着自体は弱くなる。プレート4a〜lの周縁部の接着が弱いと、接着が剥がれ始める起点になりやい。また、プレート4a〜lの中央の領域は流路となる孔や溝が多数配置されており、接着は比較的弱くなってしまうため、プレート4a〜lの周縁で強固に接着する必要がある。特にプレート4a〜lの長手方向である第5方向の端部では、外部からの応力や、衝撃が加わり易いため、より強固に接着する必要がある。
【0072】
また、プレート4a〜lの厚さは、10〜300μm程度と薄いため、製造工程のハンドリングの際などに、厚さがさらに薄くなっている逃がし溝17の部分で折れ曲がるなど、変形が生じることがある。逃がし溝17を、分離して配置すれば、分離された部分では厚さが厚いので、逃がし溝17に沿った変形を生じさせ難くできる。一方、逃がし溝17が分離して配置された場合、相互に空気の流通がないので、空気の閉じ込めが生じ易くなってしまう。
【0073】
そこで、逃がし溝17を分離して配置する際に、逃がし溝17同士を離間させている離間部18を設けるとともに、離間部18における、逃がし溝17同士の間の距離(以下で、離間距離と言うことがある)を1〜100μmにする。
図6のプレート4cには、貫通孔19と繋がっている逃がし溝17である第1逃がし溝17Aと、第1逃がし溝17Aと繋がっていない逃がし溝17である第2逃がし溝17Bが配置されている。
図6において上側に配置されている第1逃がし溝17Aと、中央に配置されている第2逃がし溝17Bとの間には、6カ所の離間部18が配置されている。なお、
図6では、離間部18が分かり易いように、離間距離を、実際の割合よりも大きく描いてある。
【0074】
図7(a)は、
図6の一部の離間部18の周囲の拡大図である。離間部18付近において、第1逃がし溝17Aおよび第2逃がし溝17Bは、その周囲の第1逃がし溝17Aおよび第2逃がし溝17Bよりも近接して配置されているが、その間に離間部18が存在するため繋がっていない。離間部18における第1逃がし溝17Aと第2逃がし溝17Bとの間の距離でもっと狭い部分の距離Dを離間距離という。なお、本実施形態においては、第1逃がし溝17Aと第2逃がし溝17Bとは、完全に分離しているが、離間部18から離れた場所で第1逃がし溝17Aと第2逃がし溝17Bとが繋がっていてもよい。
【0075】
離間部18が配置されている部分は、逃がし溝17などを形成する加工が行なわれていない部分であり、その厚さはプレートと同じであるので、上述したように、離間部18が存在することで、逃がし溝17に沿った変形を生じ難くできる。そして、離間距離Dは1〜100μmと狭いため、接着において第2逃がし溝17Bの周囲の空気の巻き込みがあった際に、巻き込まれた空気により高くなった第2逃がし溝17B内の空気の内圧により、離間部18の部分の接着剤層に通路ができて、第2逃がし溝17B内の空間と第1逃がし溝17A内の空間とが繋がって、空気は第1逃がし溝17A内へ流通することができるようになる。本実施形態では、第1逃がし溝17Aは貫通孔19により外部と繋がっているので、空気は、外部に逃げて第2逃がし溝17Bおよび第1逃がし溝17Aの内部の空気の圧力を低下させることができる。これにより、第2逃がし溝17Bの周囲における空気の閉じ込めの発生を抑制できる。なお、第1逃がし溝17Aが外部と繋がっていなかったとしても、第2逃がし溝17B内の空気が、第1逃がし溝17A内に流れ込むことで、第2逃がし溝17B内の圧力が低くなるので、第2逃がし溝17Bの周囲における空気の閉じ込めの発生を抑制できる。なお、ここで、接着剤層への空気の巻き込みとは、空気が完全に接着剤層へ閉じ込められてはいないが、それに近い状態であり、逃がし溝17などがなければ、その後、空気が閉じ込められるような状況を表している。また、ここで、接着剤層への空気の閉じ込めとは、接着代の部分の接着剤層に空気が閉じ込められることを表している。
【0076】
離間部18の部分において、プレート4a〜k同士は接着されていてもよいし、接着されていなくてもよい。逃がし溝17には液体が流れるわけではないので、接着されていなくても、液体の漏れなどは生じない。また、接着されていなかったとしても、非常に局所的なので、流路部材4全体の強度への影響はほとんどない。積層した際の、空気の巻き込みがそもそもあまりなければ、上述したような、離間部18の部分における、第1逃がし溝17A内の空間と第2逃がし溝17B内の空間との接続は起きないので、離間部18は接着された状態になるのが通常である。また、一旦離間部18の部分の接着剤層に通路ができたとしても、その後の接着剤の流動により、塞がってしまうこともある。
【0077】
しかし、積層後に、接着剤の硬化などのために、流路部材4を高温にする場合もある。そのよう場合、第2逃がし溝17Bの空間が閉じていると、膨張した空気が、接着代の部分の接着剤層に入り込んだり、さらに流路にまで繋がるおそれがある。そのようなことが生じ難いように、離間部18の部分の接着剤層にできた通路は、第1逃がし溝17A内の空間と第2逃がし溝17B内の空間との繋いでいる空隙として残っているのが好ましい。
【0078】
接着の際における空気の閉じ込めには、時間の要素も関係する。すなわち、積層の際に、空気の巻き込みがあったとしても、空気が逃げられなくなる前に、空気を逃がすことができれば、空気の閉じ込めは生じなくなる。第1逃がし溝17Aと第2逃がし溝17Bが繋がっていたとしても、繋がっている部分が、空気が巻き込まれた部分から離れていた場合、空気の排出は間に合わない可能性がある。そのため、第1逃がし溝17Aと第2逃がし溝17Bが繋がっている場合でも、離間部18を配置することで空気を早く排出することができ、空気の閉じ込めを起き難くすることができる。
【0079】
離間部18において、空気の流通が生じるかどうかは、接着剤の塗布状態のばらつきなどの影響も受ける。第2逃がし溝17B内の空気の圧力の高まりが、あまり高くない場合、離間部18で空気の流通が生じないおそれもあるが、離間部18を複数設けることで、接着剤層が比較的抜けやすい状態になっている離間部18において、接着剤層が開き空気が流通するので、空気の閉じ込めを起き難くできる。また、離間部18を複数設けておけば、空気の巻き込みが生じた部分の近くで、離間部18の部分を通じて空気が排出できる可能性が高くなり、空気の排出が早くできることから、空気の閉じ込めを起き難くできる。
【0080】
離間距離Dが、接着剤層の厚さの1000倍以下にすることで、離間部18の接着剤層において、空気の流通が生じ易くできる。離間距離Dは、接着剤層の厚さに対して、さらに500倍以下、特に100倍以下であるのが好ましい。また、離間距離Dは、接着剤層の厚さの10倍以上であることが好ましい。接着剤層の厚さは、例えば0.05〜5μm程度である。
【0081】
図7(a)おいて、第1逃がし溝17Aは、離間部18の周囲において、第1方向に伸びているとともに、第1方向と反対方向である第2方向に伸びている。また、第2逃がし溝17Bは、離間部18の周囲において、第1方向と交差する方向である第3方向に伸びている。本実施形態では、第1方向と第5方向とは、同じ方向であり、第2方向と第5方向とは、逆の方向である。また、第3方向と第4方向とは、逆の方向である。ただし、第1〜3方向は、局所的な逃がし溝17の配置の関係を表すためのものであり、第4方向および第5方向との関係は、上述した関係になっていなくてもよい。
【0082】
このような配置であれば、第2逃がし溝17Bの先端が離間部18に向かっている状態であるので、第2逃がし溝17Bを流れてきた空気が離間部18に集中するため、離間部18の接着剤層に通路ができて空気が流通しやすくなる。また、接着剤層にできる通路は、第2逃がし溝17Bをまっすぐ延長するようにできるとは限らず、左右にずれることがある。第1逃がし溝17Aが、離間部18の周囲において、第1方向および第2方向に伸びていることにより、接着剤層にできる通路が左右にずれても、第1逃がし溝17Aに繋がる可能性を高くできる。
【0083】
図7(b)、(c)は、
図7(a)の逃がし溝17の構造の変形例であり、差異の少ない部分は同じ符号を付けて説明を省略する。
図7(b)の第2逃がし溝117Bは、離間部18に向かって幅が狭くなっている。このような構造にすることにより、第2逃がし溝117Bの先端に圧力が集中しやすくなり、接着剤層に通路ができやすくなる。
図7(b)のように、第2逃がし溝117Bの縁が斜めの直線状に狭くなるようにしても良いし、第2逃がし溝117Bの端が半円形状になって狭くなるようにしても良い。
【0084】
図7(c)の第1逃がし溝17Aと第2逃がし溝217Bとは、離間部18の周囲で互いに沿って配置されている。
図7(c)では、第1逃がし溝17Aと第2逃がし溝217Bは、両方直線状に伸びているが、曲線状であっても互いに沿うように配置されていればよい。このような構造にすれば、離間部18が長く伸びて配置されることになり、長い離間部18の中には接着剤の塗布ばらつきなどにより、接着剤層に通路のできやすい部分ができる可能性が高くなる。第2逃がし溝217Bの内圧が高くなった際には、そのような部分に通路ができやすくなるので、第2逃がし溝217Bの周囲に空気の閉じ込めを生じ難くできる。
【0085】
図8は、本発明の他の実施形態の流路部材の一部である、プレート304cの一部である。プレート304cは、プレート4cと同様に、流路部材4の一部とすることができる。
図6のプレート4cと差異の少ない部分には同じ符号を付けて説明を省略する。
【0086】
プレート同士の接着を強固にするには、接着代として長方形状の接着代ブロック20を設け、その周囲に逃がし溝17を配置する構造にするのが好ましい。そして、接着代ブロック20と逃がし溝17とが交互に配置されている接着代ブロック列20Aを、プレート304cの短手方向である第4方向の一方の端部から他方の端部まで設ける。これにより、第4方向の一方の端部から他方の端部まで、接着代ブロック20が連なった構造ができ、接着を強固にできる。なお、
図8では、接着代ブロック列20Aは、波線で網掛けした部分である。波線で網掛けした接着代ブロック列20Aは、多数存在する接着代ブロック
列20Aのうちの一例である。
【0087】
各接着代ブロック20の周囲を囲んでいる逃がし溝17のうちで、第4方向に伸びている逃がし溝17を側辺逃がし溝17Cと呼ぶ。側辺逃がし溝17Cは、各接着代ブロック20のそれぞれに、1対存在し、2本存在する。そして、接着代ブロック列20Aに属する接着代ブロック20の側辺逃がし溝17Cは、第4方向の一方の端部から他方の端部まで直線状に繋がっていない。これにより、接着代ブロック列20Aに対して第5方向に位置する第4方向に伸びる逃がし溝17を、折れ曲がり難くできる。そして、側辺逃がし溝17Cの一部に離間部18を設けることで、さらに折れ曲がり難くできる。
【0088】
図8の網掛けした接着代ブロック列20Aでは、接着代ブロック列20Aの右側に位置する側辺逃がし溝17Cおよび左側に位置する側辺逃がし溝17Cの両方が、第4方向の一方の端部から他方の端部まで直線状に繋がっていないが、どちらか一方だけでも、その一方の部分を、折れ曲がり難くできる。両方が、第4方向の一方の端部から他方の端部まで直線状に繋がっていない方がより好ましい。
【0089】
図8の側辺逃がし溝17Cは、第5方向に異なる位置に配置されていることで、第4方向に繋がっていなくなっている。
図8の網掛けした接着代ブロック列20Aの右側の側辺逃がし溝17Cは、全部で12本ある。これら12本の側辺逃がし溝17Cは、第5方向に関して3つの位置に配置されており、右側の位置に2本、中央の位置に4本、左側の位置に5本配置されている。第5方向に関して同じ位置に配置されている側辺逃がし溝17の合計の長さが一番長くなっているのは左側の位置であり、プレート304cの第4方向の長さの5/11弱となっている。したがって、第5方向において同じ位置に配置されている側辺逃がし溝17Cの長さ合計は、すべてプレート304cの第4方向の半分以下になっておおり、その位置で折れ曲がり難くなっている。
【0090】
プレート304cは、第4方向よりも第5方向に長いので、第5方向の途中で折れ曲がれ易い。そのため、接着代ブロック列20Aは、接着代ブロック20が第4方向に連なるように配置し、第4方向に側辺逃がし溝17Cが直線状に繋がった状態にしないのが好ましい。
【0091】
また、第4方向に隣り合う接着代ブロック20では、側辺逃がし溝17Cは、第5方向に関して違う位置に配置されているので、より折れ曲がり難くなっている。
【0092】
接着代ブロック20は、逃がし溝17に到達する距離短くし、接着代の面積を相対的に大きくするために、短手方向の長さに対する長手方向の長さの割合が、3以下、さらに2以下と小さい方が好ましく、特に正方形状にするのが好ましい。
【0093】
なお、本実施形態では、流路部材4は、多数のプレート4a〜kが、接着剤層を介して接着積層されて構成されているが、そのような形態には限定されない。例えば、流路となる孔や溝が形成された1枚のプレートを、研削により流路が形成された他の部材に接着剤層を介して接着されたものも本発明の範囲である。
【0094】
続いて、流路部材4の製造方法を説明する。流路部材4の製造方法は、一般的に述べれば、流路となる、孔あるいは溝が配置されているプレートと他の部材とを準備する第1工程と、前記プレートの一方の主面と前記他の部材との間に接着剤を供給して、前記プレートと前記他の部材とを接着する第2工程とを含む。ここでは、前記他の部材もプレートである場合の実施形態として、プレート4a〜kを積層して、流路部材4を製造する工程を説明する。
【0095】
プレート4a〜lとして、ステンレスなどの金属製のものを準備する。プレート4lには、パンチングで吐出孔8を形成する。
【0096】
プレート4a〜kは、エッチングにより、流路となる、孔あるいは溝を形成する。また同時に、逃がし溝17および貫通孔19を形成する。プレート4a〜kの主面には、第1逃がし溝17Aと、第2逃がし溝17Bとが、間に離間部18を挟んで配置されており、離間部18における、第1逃がし溝17Aと第2逃がし溝17Bとの間の距離は1〜100μmとなっている。
【0097】
まず、プレート4lを積層治具上に置く。続いて、プレート4lの吐出孔面4−1側の主面に接着剤を塗布する。この主面には、上述の第1逃がし溝17Aと、第2逃がし溝17Bが形成されている。接着剤を塗布したプレート4kは、プレート4lの上に積層される。
【0098】
積層において、第2逃がし溝17Bの周囲に空気が巻き込まれても、第2逃がし溝17B内の空間の圧力が高まることで、離間部18の部分の接着剤層に通路ができ、空気は、第1逃がし溝および貫通孔19を通じて外部に逃げていく。これにより、接着代の部分に空気が閉じ込められることを起き難くできる。
【0099】
また、積層において、プレート4kをハンドリングする際に、離間部18が設けられていることにより、逃がし溝17に沿ったプレート4kの変形を起き難くできる。
【0100】
その後同様に、プレート4jを積層し、プレート4aまで積層を繰り返す。さらにプレート4aの上に積層治具を重ね、積層治具間に圧力を加えながら温度を上げ、接着剤層を硬化させて、流路部材4を製造する。