(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。この実施形態は、シール部材40を取り付けた軸受ユニット20を備えたオイルポンプ装置10である。
【0019】
オイルポンプ装置10は、機器の内部に転がり軸受を複数備えた軸受ユニット20と、オイルポンプの作動機構部30とを有している。
【0020】
軸受ユニット20は、ハウジング11の内部に、油潤滑される3つの転がり軸受21,22,23を並列して備えている。これらの転がり軸受21,22,23によって、オイルポンプの作動機構部30に通じる軸部材32を、固定のハウジング11に対して軸周り回転自在に支持している。
【0021】
各転がり軸受21,22,23は、外側軌道輪1と内側軌道輪2の各軌道面1a,2aの間に、転動体3が組み込まれている。転動体3は、保持器4によって周方向に保持されている。以下、外側軌道輪1を外輪1と、内側軌道輪2を内輪2と称する。
【0022】
外輪1はハウジング11の内径面に圧入されて、そのハウジング11に対して相対回転不能に固定されている。内輪2は、軸部材32の外周に圧入されて、その軸部材32に対して相対回転不能に固定されている。
【0023】
この実施形態では、転がり軸受21,22,23として、転動体3として円すいころを用いた円すいころ軸受を採用しているが、円すいころ軸受以外の転がり軸受を採用してもよく、また、その転がり軸受21,22,23の並列数は、装置の仕様に応じて自由に設定できる。
【0024】
この実施形態のオイルポンプ装置10はプランジャポンプであり、ポンプケーシングF内で回転するポンプ用シリンダブロック(
図1に図示せず)を備える。ポンプ用シリンダブロックは、そのポンプ用シリンダブロック内に設けられた複数のシリンダ室内にそれぞれ備えるピストン、そのピストンに接続されるコンロッドを介して、軸部材32の端部に設けた接続部材31に接続され、部材同士が摺動する作動機構部30を構成している。
【0025】
ここで、各コンロッドの一端は、対応するピストンに対して球面座等を介して揺動自在に接続され、また、コンロッドの他端は接続部材31に対して同じく球面座等を介して揺動自在に接続される。これにより、ポンプ用シリンダブロックと軸部材32とは、互いの軸周りの回転が伝達可能な状態である。各コンロッドの他端と接続部材31との接続点は、コンロッドの軸方向に対して互いに異なる位置に設定され、いわゆる斜板式ピストンポンプを構成している。
【0026】
軸部材32及びポンプ用シリンダブロックに対して、図示しない駆動源から別途のルートで駆動力が入力されと、軸部材32及びポンプ用シリンダブロックの回転により、コンロッドが軸方向へ進退し、ポンプ用シリンダブロック内をピストンが往復動することでポンプ機能を発揮する。これにより、潤滑油を循環経路へ送り出すことができる。
【0027】
図1に示すように、並列する転がり軸受21,22,23のうち軸方向一方側、すなわち、作動機構部30寄りの2つの転がり軸受21,22は、円すいころの小径側端面同士が軸方向に沿って同じ側、すなわち、作動機構部30の反対側になるように配置されている。
【0028】
また、並列する転がり軸受21,22,23のうち軸方向他方側、すなわち、作動機構部30から最も遠い転がり軸受23は、円すいころの小径側端面が作動機構部30側になるように配置されている。すなわち、転がり軸受21,22と転がり軸受23とは、円すいころの小径側端面同士が背面合わせになるように配置されている。このため、内側軌道輪2の軌道面2aと外側軌道輪1の軌道面1aとは、3列の転がり軸受21,22,23のうち一方側の二つは、軸方向一方側から他方側へ向かって互いの距離が狭まるように設けられ、他方側の一つは、軸方向一方側から他方側へ向かって互いの距離が拡がるように設けられている。
【0029】
図1に示すように、軸方向に隣り合う転がり軸受21,22,23同士の間には、間座5,6,7が配置されている。
【0030】
並列する転がり軸受21,22,23のうち軸方向一方側の2つの転がり軸受21,22の間には、内径側に、両側の内輪2,2の端面に当接する間座5が、外径側に、両側の外輪1,1の端面に当接する間座6が配置されている。
【0031】
また、並列する転がり軸受21,22,23のうち軸方向他方側の2つの転がり軸受22,23の間には、内径側に、両側の内輪2,2の端面に当接する間座が、外径側に、両側の外輪1,1の端面に当接する間座7が配置されている。
図1では、転がり軸受22,23の間における内径側の間座は図示していないが、転がり軸受22,23の周方向に沿って、潤滑油の循環経路13bの外径側の開口部以外の部分に、間座が配置されている。
【0032】
並列する転がり軸受21,22,23の両端は、軸方向一方側では、軸部材32の端部に設けたフランジ状の接続部材31の端面によって、また、軸方向他方側では、押え部材8の端面によって、軸部材32に対して軸方向へ動かないように固定されている。これらの接続部材31と押え部材8との固定によって、各円すいころ軸受には予圧が付与されている。
【0033】
転がり軸受21,22,23によってハウジング11に支持された軸部材32は、オイルポンプの作動機構部30に接続されている。また、オイルポンプは、外部にある他の作動機構部Gに向かって、内部の潤滑油を送り出す機能を備えている。送り出した潤滑油は、潤滑油の通路に沿って流れて各部の作動機構部Gを潤滑した後、やがてオイルポンプに戻ってくる。
【0034】
また、このオイルポンプにおいては、ポンプ内の作動機構部30と軸受ユニット20とが、共通の潤滑用のオイルで潤滑されるようになっている。オイルポンプ側の作動機構部30と軸受ユニット20側の軸受空間とは、軸方向一方側の転がり軸受21の軸方向一端側の軸受空間の側方開口D、及び、潤滑油の循環通路12,13を通じて連通している。また、その潤滑油は、ポンプ外の作動機構部Gにも送り出される。
【0035】
この実施形態において、循環通路13は、オイルポンプ側から軸部材32の軸心と同心となるように軸心方向に沿って設けられた軸方向潤滑経路13aと、その潤滑経路13aの端部から半径方向外側へ伸びて、軸部材32の外周面に開口する径方向潤滑経路13bを備える。径方向潤滑経路13bは、転がり軸受22,23の間に挟まれた環状空間Cに開口しているので、この環状空間Cを介して、循環通路13は、軸方向一方側(図中左側)へは転がり軸受21,22の各軸受空間に連通し、軸方向他方側(図中右側)へは転がり軸受23の軸受空間に連通している。
【0036】
環状空間Cを経て、転がり軸受23の軸受空間を通過した潤滑油は、転がり軸受21の軸方向他端側の軸受空間の開口を通じて、転がり軸受23の軸方向他端側に設けられたハウジング端部空間Bに入り込む。その後、ハウジング11内の外径寄りの部分に形成された潤滑油の循環通路12によって、オイルポンプの作動機構部30側へと戻っていく。
【0037】
循環通路12は、ハウジング端部空間Bから半径方向外側へ伸びる径方向潤滑経路12bと、その径方向潤滑経路12bから軸部材32の軸心方向に沿って設けられた軸方向潤滑経路12aとを備える。
【0038】
また、環状空間Cを経て、転がり軸受22,21の軸受空間を通過した潤滑油は、転がり軸受21の軸方向一端側の軸受空間の側方開口Dを通じて、オイルポンプの作動機構部30側へと戻っていく。
【0039】
これにより、オイルポンプの作動機構部30と、軸受ユニット20の転がり軸受21,22,23が、共通の潤滑油によって潤滑される。
【0040】
ところで、転がり軸受21,22,23の軸受空間からは、摩耗粉(鉄粉等)等の異物が発生することがある。この異物が、オイルポンプの作動機構部30や、循環経路途中の他の作動機構部Gに侵入することは好ましくない。そこで、転がり軸受21の軸方向一端側の軸受空間の側方開口D、及び、循環通路12の軸方向一端側の開口12c、すなわち、軸方向潤滑経路12aの開口12cにシール部材40(以下、実施形態では、円環状のシール部材40を用いているので、これをシールリング40と称する)が取付られている。
【0041】
シールリング40は、転がり軸受21の軸方向一端側の軸受空間の側方開口D、及び、循環通路12の軸方向一端側の開口12cを覆うように、ハウジング11及び外輪1に取付けられる。転がり軸受21の軸方向一端側の軸受空間の側方開口Dは、外輪1と内輪2の軌道面1a,2aに沿って環状に形成されているので、それを覆うシールリング40も環状を成すものとなっている。
【0042】
シールリング40は、
図1に示すように、その筒軸方向端面41が、ハウジング11の端面11aに当接する円筒状部材からなる円筒部42と、円筒部42の筒軸方向一端部から内径側に向かって立ち上がる壁部43とを備える。
【0043】
壁部43には、フィルタ46が設けられている。フィルタ46は、貫通穴からなるフィルタ孔46aの集合によって、転がり軸受21,22の軸受空間からの異物の通過を阻止し、潤滑油の通過は許容されるものである。このとき、フィルタ孔46aの内径は、作動機構部30側へ侵入しても影響がない程度の異物の通過は許容されるよう、適宜の寸法に設定される。
【0044】
また、円筒部42の筒軸方向他端部から、さらに他端側へ向かって係止部49が伸びている。この実施形態では、係止部49を、軸方向潤滑経路12aの数に合わせて、周方向に沿って4箇所設けているが、この箇所数は自由に増減できる。
【0045】
係止部49は、ハウジング11の内径面と外輪1の外径面との間を通って転がり軸受21側へ伸びて、その係止部49が軌道輪や間座等の軸受部材に係合することにより、シールリング40はハウジング11及び外輪1に固定される。
【0046】
この実施形態では、係止部49は、循環通路12内を通って外輪1の外径面に圧入されるよう、軸方向一端側から他端側へ向かって伸びる軸方向部材49bと、軸方向部材49bの他端から、内径側へ向かって伸びる径方向部材49aとを備える。
【0047】
軸方向部材49bは円筒状部材の一部で構成され、外輪1の外径面に面接触する。径方向部材49aは、軸受の軌道輪や間座に設けた凹部に入り込んで、シールリング40の軸方向への移動が規制される。この実施形態では、径方向部材49aが、転がり軸受21の外輪1の他端側端面1bと、間座の一端側端面6aに設けた段部とで形成された凹部内に入り込む構成としている。
【0048】
また、壁部43の内径側端部は、内輪2の大つば外径面に摺接するか、または、わずかな隙間を介して対向して、壁部43と内輪2との間にラビリンスシール構造を形成している。ラビリンスシール構造では、潤滑油は通過が許容されるが、潤滑油に含まれる異物の通過は阻止される。
【0049】
また、循環通路12の軸方向一端側の開口12cは、側面視円環状を成す転がり軸受21の軸受空間の側方開口Dよりも外径側に位置する。この開口12cは、軸受外の空間に臨んでいる。この実施形態では、循環通路12の軸方向潤滑経路12aは4本設けられており、周方向に沿って90°の間隔をおいて4箇所に開口12cを有しているが、この開口12cの数は、必要に応じて増減してもよい。
【0050】
シールリング40は、循環通路12の開口12cのある方位にのみ、その開口12cを覆い、且つ、異物の通過を阻止するフィルタ47を備えた循環通路閉塞部48を備える(
図4参照)。
【0051】
循環通路閉塞部48は、循環通路12の開口12aと同数設けられる。この実施形態のように、循環通路12の軸方向潤滑経路12aが4本設けられており、周方向に沿って180°の間隔をおいて2箇所に開口12cを有しているので、循環通路閉塞部48も、周方向に沿って90°の間隔をおいて4箇所に設けられることとなる。
【0052】
係止部49は、循環通路12内に入り込んでがたつきなく固定されるよう、その幅(転がり軸受の周方向への幅)は循環通路12の幅(同じく転がり軸受の周方向への幅)と合致している。したがって、係止部49は、循環通路閉塞部48と同じ方位に配置される。なお、係止部49及び循環通路閉塞部48は、円筒部42や壁部43と一体の部材で構成されるが、係止部49や循環通路閉塞部48を、円筒部42や壁部43とは別体の部材として、それらを固定する構成としてもよい。
【0053】
循環通路閉塞部48は、軸方向に沿って相対的に外径方向へ高く突出する凸部である第一突出部48aと、相対的に突出高さが低い凸部である第二突出部48bとを備える。第一突出部48a及び第二突出部48bの外面はいずれも円筒面状である。
【0054】
径方向への凸部である第二突出部48bは、循環通路12の軸方向潤滑経路12a内に入り込んで、その円筒面状の外面が、軸方向潤滑経路12aの円筒面状の内面に面接触する。第二突出部48bの幅(同じく転がり軸受の周方向への幅)は係止部49の幅と同じであり、これは、循環通路12の幅と合致している。これにより、シールリング40は、ハウジング11及び外輪1に対して回り止めされる。すなわち、第二突出部48bと循環通路12とは、シールリング40の回り止め手段として機能している。また、この実施形態では、シールリング40に設けた軸方向への凸部である係止部19と、ハウジング11側の循環通路12も、シールリング40の回り止め手段として機能している。
【0055】
第一突出部48aは、第二突出部48bよりも外径方向に高く突出しており、循環通路12内には入り込まない。第一突出部48aの第二突出部48b側の端面が、循環通路12の開口12c周囲におけるハウジング11の端面11aに当接することにより、シールリング40が軸方向に位置決めされる。
【0056】
循環通路閉塞部48に備えるフィルタ47は、貫通穴からなるフィルタ孔47aの集合によって構成され、転がり軸受23の軸受空間からの異物の通過を阻止し、潤滑油の通過は許容されるものである。このとき、フィルタ孔47aの内径は、作動機構部30側へ侵入しても影響がない程度の異物の通過は許容されるよう、適宜の寸法に設定される。具体的には、フィルタ46の貫通穴46aの内径と同じとできる。
【0057】
このように、転がり軸受21,22,23の軸受空間からの潤滑油は、シールリング40に設けた内外2箇所のフィルタ46,47を通過して、軸受外へ流出する。このため、作動機構部30の動作に影響が出るような大きな異物は、作動機構部30側へは侵入しないようになっている。
【0058】
この実施形態では、シールリング40は合成樹脂の成形品からなるものとし、フィルタ46,47は、その成型品にフィルタ孔46a,47aを形成した一体の部材となっている。シールリング40の素材としては、金属、ゴム等の他の素材を用いてもよい。また、壁部43のフィルタ46、循環通路閉塞部48のフィルタ47を、それぞれ、シールリング40の本体の部材とは別部材(パンチングメタル等)として、その別部材をシールリング40の本体に、嵌め込み、埋め込み、接着等の種々の手段で固定するようにしてもよい。
【0059】
上記のように、フィルタ46は、シールリング40の壁部43を軸受空間内から軸受外へと貫通するフィルタ孔46aの集合で構成されており、そのフィルタ孔46aは、
図1及び
図2に示す例では、その全長に亘って一定の内径を有する直線状の貫通孔で構成されている。
【0060】
また、シールリング40には、異物を検出するセンサ装置50が備えられている。センサ装置60の詳細を、
図2に示す。
【0061】
センサ装置50は、壁部43のフィルタ46よりも軸受空間側に位置し、互いに間隔を置いて配置される対の電極53,54と、対の電極53,54からそれぞれ配線51,52が伸びて電源に至る電気回路を備える。また、その配線51,52の先には、対の電極53,54間への金属からなる異物の付着に伴う電気回路の電気的出力の変化を検出することによって、潤滑油に含まれる金属片の状態を検知する出力検出装置(図示せず)等を備える。
【0062】
対の電極53,54間に、フィルタ46を通過できない大きさの金属からなる異物が付着することに伴って、出力検出装置は、電気回路の電気的出力の変化を検出し、潤滑油に、フィルタ46を通過できないような大きな金属片からなる異物が含まれていることを検知することができる。
【0063】
ここで、対の電極53,54は、その先端がシールリング40の内面(軸受空間側の面)に露出している。特に、この実施形態では、対の電極53,54は、その先端がシールリング40の内面から突出しており、対の電極53,54の先端間を架け渡すように異物が付着しやすくなっている。
図2(a)は正常な状態、
図2(b)は対の電極53,54の先端間を架け渡すように異物が付着して対の電極53,54間が導通している状態を示している。
図2の例では、特に、対の電極53,54は、互いに根本部から突出側の先端に向かって徐々に狭まる形状(図ではハの字状)となっている。
【0064】
対の電極53,54は、フィルタ46のフィルタ孔46aの入口(軸受空間側の開口)に設けることが望ましい。フィルタ孔46aの軸受空間側に対の電極53,54が位置すれば、異物が対の電極53,54に接触しやすい。設置される対の電極53,54の数は自由であり、例えば、シールリング40の周方向に沿って所定の間隔で等間隔に、又は、不規則な間隔でランダムに設けることができる。また、シールリング40の径方向に沿って複数設けてもよい。可能であれば、すべてのフィルタ孔46aにそれぞれ対の電極53,54を配置する構成とすることもできる。
【0065】
また、循環通路閉塞部48のフィルタ47にも、センサ装置50を設けることができる。フィルタ47に設けられるセンサ装置50の構成は、前述のフィルタ46のセンサ装置50と同様であるので、説明を省略する。
【0066】
センサ装置50の配線51,52は、対の電極53,54からシールリング40の壁部43内、円筒部42内を通って、ポンプケーシングFに固定されたハウジング11の端面11aの側方を通って軸受ユニット外へ引き出されている。この実施形態では、配線51,52は、シールリング40の最も外径側に位置する循環通路閉塞部48内を通って、循環通路閉塞部48の頂部(最外径部)から外部へ引き出されている。この引き出し地点はシールリング40の各所に自由に設定してよいが、配線保護の観点から、できる限り外径寄りの地点であることが望ましい。このため、最外径部である循環通路閉塞部48の頂部を配線51,52の引き出し部とすることが有効である。
【0067】
また、この実施形態では、配線51,52の途中区間は、シールリング40の部材に埋め込まれて固定されている。すなわち、対の電極53,54よりの根本部から、外部への引き出し地点まで、配線51,52は、シールリング40の部材に埋め込まれて露出していない構成としている。ただし、配線51,52の強度や損傷の危惧がない場合は、配線51,52を、シールリング40の部材の外部に、その外面に沿わせて配置してもよい。
【0068】
ここで、シールリング40は、ハウジング11に対して回り止めされている。このため、配線51,52の断線等のトラブルを防止することができる。
【0069】
この実施形態では、シールリング40のハウジング11に対する回り止めは、シールリング40に設けた凸部、すなわち、循環通路閉塞部48及び係止部49が、循環通路12内に(前記幅方向に対して)ぴったりと入り込んでいることにより行われている。さらに、この実施形態は、その回り止めの箇所を配線51,52の引き出し地点としているので、配線51,52に外力が作用しにくくなっている。
【0070】
この回り止めは、循環通路12内に入り込む循環通路閉塞部48及び係止部49以外によって行うこともできる。例えば、シールリング40の円筒部42の端面と、ハウジング11の端面11aとの間に、互いに噛み合う凹凸等を設けることにより行うこともできる。また、シールリング40の円筒部42の内面若しくは係止部49等の軸方向への突出部材と、それに接触する外輪1の外径面との間に、互いに噛み合う凹凸等を設けることにより行うこともできる。シールリング40に凸部を、ハウジング11側に凹部を設ける場合は、その凹部は、上記のように、潤滑油用の循環通路12の開口とすることができる。
【0071】
ここで、このフィルタ孔46aの形状を、シールリング40の壁部43を軸受空間内から軸受外へ向かって徐々に狭まる形状とすることもできる。
【0072】
例えば、
図3(a)(b)に示すように、フィルタ孔46aの形状を、軸受空間内から軸受外へ向かって徐々に階段状に狭まる形状とすることができる。この例では、フィルタ孔46aは、
図3(b)中の符号a,b,cに示すように、その内径がa>b>cの順に徐々に小さくなっている。このため、種々の大きさの異物を、その異物の大きさに対応した位置で捕捉することができる。
【0073】
例えば、異物が、内径aを通過できない大きさである場合、すなわち、異物の最大径部分の長さがa以上である場合は、異物は、フィルタ孔46aの内径a部分を通過することができず、その上流側のフィルタ孔46aの入口付近で捕捉される。
また、異物が、内径aを通過でき且つ内径bを通過できない大きさである場合、すなわち、異物の最大径部分の長さがa未満b以上である場合は、異物は、フィルタ孔46aの内径b部分を通過することができず、その上流側のフィルタ孔46aの内径a部分付近で捕捉される。
さらに、異物が、内径a,bを通過でき且つ内径cを通過できない大きさである場合、すなわち、異物の最大径部分の長さがb未満c以上である場合は、異物は、フィルタ孔46aの内径c部分を通過することができず、その上流側のフィルタ孔46aの内径b部分付近で捕捉される。
【0074】
このように、フィルタ孔46aを通過する異物が、その大きさに合わせてフィルタ孔46a内の異なる位置で捕捉されるので、センサ装置50の対の電極53,54を設ける位置によって、どのような大きさの異物がフィルタ46で捕捉されたのかを電気的に把握することができる。例えば、内径a部分の入口側(軸受空間側)、内径b部分の入口側、内径c部分の入口側にそれぞれ対の電極53,54を設け、各電極53,54に対応する電気回路にそれぞれ電気が流れたこと、あるいは、その流れた電流の大きさ、電圧等の電気的出力の変化を検出する出力検出装置を設けることで、異物の大きさが、内径a>b>cに対してどのような大小関係にあるのかを把握することができる。
【0075】
また、例えば、
図3(c)(d)に示すように、フィルタ孔46aの形状を、軸受空間内から軸受外へ向かって徐々にテーパー状に狭まる形状とすることができる。この例では、フィルタ孔46aは、
図3(d)中の符号d,eに示すように、その内径がd>eとなるように、すり鉢状に徐々に小さくなっている。このため、上記の階段状のフィルタ孔46aの場合と同様、種々の大きさの異物を、その異物の大きさに対応した位置で捕捉することができる。センサ装置50の対の電極53,54の設置、及び、その対の電極53,54をフィルタ孔46aの長さ方向に沿って複数設けることができる点についても同様である。
【0076】
さらに、フィルタ孔46aは、軸受空間への開口から軸受外への開口との間にオリフィス部を備える構成とすることもできる。例えば、
図3(e)に示すように、シールリング40が回転した際における、そのシールリング40に対する潤滑油の相対移動方向fに対して反対方向(すなわちシールリング40の回転方向と同方向)へ伸びる導入孔46bと、その導入孔46bの奥部に設けられる溜まり部46cと、その溜まり部46cの手前(上流側)で軸受外へ向かって分岐する排出孔46dとを備えた構成を採用することができる。導入孔46bの入口部は狭く、また、排出孔46dは、その排出孔46dが分岐する部分における導入孔46bよりも狭くなっているので、オリフィス部を構成している。
【0077】
相対移動方向fに沿って流れる潤滑油に含まれる異物は、入口が狭い導入孔46bのオリフィスの効果によって図中の矢印gの方向へ誘導され、その後、潤滑油よりも密度の大きい異物は、矢印iのように流れの慣性力で奥部の溜まり部46cへ、潤滑油は矢印hのように排出孔46dを通って軸受外へ流出する。溜まり部46cに入った異物は、センサ装置50の対の電極53,54によって検知される。
【0078】
なお、循環通路閉塞部48に備えるフィルタ47についても、そのフィルタ孔47aの形状を、上記した各形態からなるフィルタ46のフィルタ孔46aと同様の構成とできる。すなわち、フィルタ孔47aの形状を、シールリング40の循環通路閉塞部48を循環通路12側から軸受外へ向かって徐々に狭まる形状としたり、あるいは、オリフィス部を備えた形状とすることもできる。
【0079】
また、以上の実施形態では、循環通路12の軸方向一端側の開口12cは、循環通路閉塞部48のフィルタ47を介して軸受外の空間に臨む構成としたが、この開口12cを、シールリング40内の空間に臨むようにした構成を採用することもできる。すなわち、循環通路12の軸方向一端側の開口12cからの潤滑油が、壁部43のフィルタ46を通過する構成である。この場合、循環通路閉塞部48のフィルタ47の設置は不要である。
【0080】
また、この実施形態では、シールリング40はハウジング11と外輪1の両方に固定された形態となっているが、これを、ハウジング11には固定せず外輪1のみに取り付けた構成としてもよい。逆に、外輪1には固定せずハウジング11のみに取り付けた構成としてもよい。
【0081】
さらに、これらの実施形態では、外輪1は静止側、内輪2は回転側であり、シールリング40は固定側である外輪1側に固定されるが、このシールリング40を、回転側である内輪2に嵌合等により固定することも可能である。あるいは、内輪2に固定された他の部材に固定することも可能である。
【0082】
仮に、シールリング40を回転側に取り付ける場合、シールリング40にセンサ装置50を取り付ける際には、配線51,52を軸受外に引き出す構造として、回転側の部材に取り付けた配線51,52と、固定のハウジング11側に取り付けた配線51,52とを、ブラシ等の接触子を用いて常時通電できる構造とすることができる。
【0083】
また、外輪1を回転側、内輪2を静止側とした転がり軸受にもこの発明のシールリング40を適用できる。この場合、シールリング40は、静止側である内輪2側に固定した構成とすることもできるし、回転側である外輪1に固定した構成とすることもできる。
【0084】
また、この実施形態ではシール部材を円環状のシールリング40としたが、円環状以外のシール部材であっても、そのシール部材内に潤滑油の流路が設けられ、その流路が、軸受空間内から軸受外へと流出する潤滑油に遠心力を付与する遠心力付与流路を構成し、且つ、遠心力により潤滑油内から分離された異物を捕捉する異物捕捉部を備える限りにおいて、円環状のシール部材には限定されない。例えば、側面視における軸受空間の円周方向に沿って、C字状を成すシール部材等であってもよい。
【0085】
上記の実施形態は、オイルポンプ装置10として、駆動力の入力により潤滑油を循環経路へ送り出すプランジャポンプ(ピストンポンプ)を採用し、そのプランジャポンプが備える転がり軸受ユニット20においてこの発明のシール部材を適用したが、この発明は、上記の実施形態には限定されず、他の構成からなるオイルポンプ装置にも適用できる。また、ポンプ装置以外にも、転がり軸受ユニットと、その転がり軸受ユニットと共通の潤滑油によって潤滑される作動機構部を備える種々の装置に、この発明を適用できる。
【0086】
例えば、外部から供給される潤滑油(作動油)の流体圧により複数のピストンを往復動させ、その各ピストンの往復動により軸部材を軸回り回転させて回転駆動力を出力するプランジャポンプモータ(ピストンポンプモータ)等の油圧駆動装置において、その装置が備える転がり軸受ユニットに、この発明のシール部材を適用することができる。
【0087】
また、その他にも、この発明のシール部材は、転がり軸受ユニットを備えた各種の装置、特に、転がり軸受から発生する摩耗粉(鉄粉等)、剥離片等の異物が、転がり軸受外における潤滑油の循環経路の途中にある作動機構部に侵入することを防ぐ必要がある種々の装置に適用できる。