(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る数値制御システムの一実施形態について図面を用いて説明する。本実施形態の数値制御システム1は、
図1に示すように、心押台10を備えた工作機械11の駆動を制御する数値制御装置12と、この数値制御装置12へ加工プログラムを提供する外部記憶装置13とを備えている。以下、各構成について詳細に説明する。
【0014】
工作機械11は、旋盤
、歯切り盤、研削盤等のように、金属、木材、石材、樹脂等のワークに対して、切断、穿孔、研削、研磨、圧延、鍛造、折り曲げ等の加工を施すための機械である。本実施形態において、工作機械11には、数値制御装置12から供給される駆動信号に基づいて、心押軸10aをワークの端部に当接させて支持するための心押台10が備えられている。
【0015】
なお、心押台10は、
図2に示すように、心押軸10aの軸線方向に沿って移動自在に構成されており、主軸のチャックに保持されたワークに対して、心押軸10aを当接させるようになっている。また、本実施形態において、工作機械11は、数値制御装置12を備えてなる旋盤を想定しているが、この構成に限定されるものではなく、工作機械11と数値制御装置12とは別体として構成されていてもよい。
【0016】
外部記憶装置13は、一般的なオペレーティングシステムが搭載されたパーソナルコンピュータやデータベースサーバ等によって構成されている。本実施形態において、外部記憶装置13は、
図1に示すように、加工プログラムを記憶する加工プログラム記憶部14と、心押設定を記憶する心押設定記憶部15とを有している。
【0017】
加工プログラム記憶部14は、心押台10を備えた工作機械11の駆動を制御する加工プログラムを記憶するものである。本実施形態において、加工プログラムは、
図1に示すように、一つの製品に対応するジョブデータと、当該ジョブデータに含まれ一つの加工工程に対応するセットアップデータとからなるデータ構造を備えている。そして、各セットアップデータには、対応する加工工程で用いられる多数の心押設定が、心押設定IDによって関連付けられている。
【0018】
なお、各セットアップデータに対応する加工工程としては、表面加工や裏面加工等が挙げられ、各心押設定に対応する加工としては、粗加工や仕上げ加工等が挙げられる。また、
図1では、ジョブデータが一つしか図示されていないが、加工する製品の数に応じてジョブデータが用意されている。
【0019】
心押設定記憶部15は、心押台10に関する複数の心押設定を記憶するものである。本実施形態において、心押設定記憶部15には、
図1に示すように、製品の種類および加工工程の種類に応じて、多数の心押設定が心押設定IDを付与された状態で格納されている。
【0020】
なお、心押設定は、心押台10の駆動制御に関する各種の設定を含むものであり、例えば、心押し時の推力、設定推力での押付け位置、早送りでのアプローチ位置、退避位置、押付け許容公差、再チャッキングの有無(押付け後、チャックアンクランプ・クランプ動作を自動的に行うかどうか)、再チャッキングタイマ(再チャッキング後、アンクランプ指令後にクランプ指令に切り替えるまでのタイマ)等が挙げられる。
【0021】
つぎに、数値制御装置12は、コンピュータ数値制御(CNC:Computerized Numerical Control)等の数値制御処理を実行可能なコンピュータによって構成されており、加工プログラムに基づいて工作機械11を制御しワークの加工を行うものである。
【0022】
本実施形態において、数値制御装置12は、
図1に示すように、各種の画面を表示するとともに、ユーザからの各種の入力を受け付ける表示入力手段2と、各種のデータを記憶するとともに、制御手段4が演算処理を行う際のワーキングエリアとして機能する記憶手段3と、記憶手段3にインストールされた数値制御装置12用プログラムを実行することにより、各種の演算処理を実行する制御手段4とを有している。以下、各構成手段について説明する。
【0023】
表示入力手段2は、液晶パネル等による表示機能と、タッチパッド等による位置入力機能とを兼ね備えたタッチパネルによって構成されている。本実施形態において、表示入力手段2は、ジョブデータやセットアップデータの選択画面等を表示するとともに、当該選択画面上におけるタッチ位置に基づいて、ユーザの選択を受け付けるようになっている。なお、本実施形態では、表示入力手段2としてのタッチパネルを用いているが、液晶ディスプレイ等の表示手段と、マウスやキーボード等の入力手段とを別々に設けてもよい。
【0024】
記憶手段3は、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等で構成されており、
図1に示すように、数値制御装置用プログラム12aを記憶するプログラム記憶部31と、心押設定を記憶する心押設定バッファ32とを有している。
【0025】
プログラム記憶部31には、リアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)が搭載されているとともに、本実施形態の数値制御装置12を制御するための数値制御装置用プログラム12aがインストールされている。そして、制御手段4が、当該数値制御装置用プログラム12aを実行することにより、コンピュータを後述する各構成部としてとして機能させるようになっている。
【0026】
なお、数値制御装置用プログラム12aの利用形態は、上記構成に限られるものではない。例えば、CD−ROMやUSBメモリ等のように、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体に数値制御装置用プログラム12aを記憶させておき、当該記録媒体から直接読み出して実行してもよい。また、外部サーバ等からクラウドコンピューティング方式やASP(Application Service Provider)方式等で利用してもよい。
【0027】
心押設定バッファ32は、数値制御装置12において用いられる様々な心押設定を一時的に格納するものである。本実施形態において、心押設定バッファ32は、
図1に示すように、第1バッファ領域32aと、第2バッファ領域32bとを備えている。各バッファ領域は、各心押設定のうちのいずれか一つを一時的に格納可能に構成されている。なお、本実施形態において、心押設定バッファ32は、二つのバッファ領域を備えているが、この構成に限定されるものではなく、加工プログラムを記憶するための記憶領域を圧迫しない範囲で、三つ以上のバッファ領域を備えていてもよい。
【0028】
つぎに、制御手段4は、CPU(Central Processing Unit)等によって構成されており、記憶手段3にインストールされた数値制御装置用プログラム12aを実行することにより、
図1に示すように、加工プログラム取得部41と、心押設定検出部42と、アクティブバッファ領域選択部43と、心押設定書込部44と、セットアップデータ実行部45として機能するようになっている。以下、各構成部についてより詳細に説明する。
【0029】
加工プログラム取得部41は、外部記憶装置13の加工プログラム記憶部14から加工プログラムを取得するものである。本実施形態において、加工プログラム取得部41は、ユーザが表示入力手段2を介して所望の製品に対応するジョブデータを選択し、当該ジョブデータに含まれる複数のセットアップデータのうちいずれか一つを選択すると、当該セットアップデータを取得するようになっている。
【0030】
心押設定検出部42は、セットアップデータ中に含まれる全ての心押設定を検出するものである。本実施形態において、心押設定検出部42は、加工プログラム取得部41によって取得されたセットアップデータに紐付けられている全ての心押設定IDを順に読み出す。そして、各バッファ領域のいずれかに順次書き込むものとして、リスト化しておくようになっている。
【0031】
アクティブバッファ領域選択部43は、各バッファ領域のうち、アクティブなバッファ領域に格納されている心押設定を用いた加工が完了したとき、他の非アクティブなバッファ領域をアクティブなバッファ領域として新たに選択するものである。なお、本発明において、アクティブなバッファ領域とは、現在実行中の加工に使用されている心押設定が格納されているバッファ領域をいうものとする。
【0032】
本実施形態では、二つのバッファ領域を有しているため、第1バッファ領域32aがアクティブなバッファ領域として選択された場合、第2バッファ領域32bが非アクティブなバッファ領域となり、第2バッファ領域32bがアクティブなバッファ領域として選択された場合、第1バッファ領域32aが非アクティブなバッファ領域となる。また、三つ以上のバッファ領域を有する場合は、いずれか一つのバッファ領域のみがアクティブなバッファ領域として選択され、これ以外のバッファ領域は全て非アクティブなバッファ領域となる。
【0033】
心押設定書込部44は、各バッファ領域に順次、各心押設定を書き込むものである。本実施形態において、心押設定書込部44は、いずれかのセットアップデータが実行されると、心押設定検出部42によってリスト化された心押設定IDのうち、最初の心押設定IDに対応する心押設定を心押設定記憶部15から読み出し、いずれか一方のバッファ領域に書き込む。そして、心押設定書込部44は、当該バッファ領域がアクティブなバッファ領域として選択されると、次の心押設定IDに対応する心押設定を心押設定記憶部15から読み出し、他方のバッファ領域に書き込むようになっている。
【0034】
すなわち、心押設定書込部44は、心押設定検出部42によってリスト化された心押設定IDのうち、未使用の心押設定IDがある限り、アクティブバッファ領域選択部43によってアクティブなバッファ領域が新たに選択されたとき、非アクティブなバッファ領域に次の加工に対応する前記心押設定を書き込みまたは上書きするようになっている。
【0035】
なお、上述したアクティブバッファ領域選択部43や心押設定書込部44の処理動作は、加工プログラムのGコードに対して補助的な役割を果たすMコード等を用いて指定することにより実現可能となる。
【0036】
セットアップデータ実行部45は、セットアップデータを順次実行するものである。本実施形態において、セットアップデータは、加工プログラムを構成する各ブロックごとにGコードやMコード等が付されており、工作機械11に実行させる各種の加工動作が指定されている。そして、セットアップデータ実行部45は、各ブロックの指令に基づいて、アクティブなバッファ領域から心押設定を読み出し、当該心押設定を用いて加工動作を実行させるようになっている。
【0037】
つぎに、本実施形態の数値制御システム1、数値制御システム1を備えた工作機械11および加工プログラムのデータ構造による作用について、
図3および
図4を用いて説明する。なお、以下の説明では、実行するセットアップデータに五つの心押設定A〜Eが関連付けられている場合を例にして説明する。
【0038】
本実施形態の数値制御システム1によって工作機械11を制御しワークの加工を行う場合、
図1に示すように、加工プログラムをジョブデータおよびセットアップデータからなるデータ構造として作成し、予め加工プログラム記憶部14に記憶しておく。当該データ構造により、従来、一つの加工工程が完了するごとに、次の加工工程を開始する前に、手作業による段取り作業が必要とされていたが、当該段取り作業が自動化される。また、一度、セットアップデータを作成してしまえば、次回以降は選択するだけでよく、手入力する必要がない。
【0039】
ジョブデータおよびセットアップデータの準備が完了すると、
図3に示すように、表示入力手段2を介して所望の製品に対応するジョブデータを選択する(ステップS1)。これにより、当該ジョブデータに含まれる全てのセットアップデータが選択可能な状態で表示されるため、いずれかのセットアップデータを選択する(ステップS2)。これにより、加工プログラム取得部41が、当該セットアップデータを外部記憶装置13の加工プログラム記憶部14から取得する。
【0040】
セットアップデータが取得されると、心押設定検出部42が、当該セットアップデータに紐付けられている全ての心押設定を検出しリスト化する(ステップS3)。このように、本実施形態では、各セットアップデータにおいて用いられる全ての心押設定が予め関連付けられている。このため、各加工工程間で自動的に行われる段取り時に、心押設定も自動的に設定される。
【0041】
つづいて、セットアップデータ実行部45が、セットアップデータの実行を開始すると(ステップS4)、
図4(a)に示すように、心押設定書込部44が、第1バッファ領域32aへ最初の心押し設定Aを書き込み(ステップS5)、アクティブバッファ領域選択部43が、当該第1バッファ領域32aをアクティブなバッファ領域として選択する(ステップS6)。そして、次の心押設定Bがあるため(ステップS7:YES)、心押設定書込部44が、当該心押設定Bを非アクティブなバッファ領域である第2バッファ領域32bへ書き込む(ステップS8)。これにより、次の加工に対応する心押設定Bが予め数値制御装置12側に用意される。
【0042】
つぎに、セットアップデータ実行部45が、アクティブなバッファ領域に格納されている心押設定Aを用いて加工すると(ステップS9)、
図4(b)に示すように、アクティブバッファ領域選択部43が、アクティブなバッファ領域を第2バッファ領域32bに切り換える(ステップS10)。そして、次の心押設定Cがあるため(ステップS11:YES)、心押設定書込部44が、当該心押設定Cを非アクティブなバッファ領域である第1バッファ領域32aへ書き込む(ステップS12)。これにより、次の加工に対応する心押設定Cが予め数値制御装置12側に用意される。
【0043】
つづいて、セットアップデータ実行部45が、アクティブなバッファ領域に格納されている心押設定Bを用いて加工すると(ステップS13)、ステップS6へと戻り、未使用の心押設定が存在する限り(ステップS7:YES,ステップS11:YES)、上述したステップS6からステップS13までの各処理をループする。
【0044】
以上のループ処理により、その後は同様にして、心押設定Cを格納する第1バッファ領域32aがアクティブなバッファ領域に切り換えられるとともに、非アクティブなバッファ領域である第2バッファ領域32bに心押設定Dが書き込まれる(
図4(c))。つぎに、心押設定Dを格納する第2バッファ領域32bがアクティブなバッファ領域に切り換えられるとともに、非アクティブなバッファ領域である第1バッファ領域32aに心押設定Eが書き込まれる(
図4(d))。そして、心押設定Eを格納する第1バッファ領域32aがアクティブなバッファ領域に切り換えられるとともに、非アクティブなバッファ領域である第2バッファ領域32aはクリアされる(
図4(e))。
【0045】
以上のとおり、非アクティブなバッファ領域に、次に使用する心押設定を予め読み出しておくことにより、数値制御装置12側には、二つのバッファ領域しか存在しないにも関わらず、一つの加工工程において複数の心押設定が使用可能となる。
【0046】
一方、上記ループ処理において、次の心押設定がなくなった場合(ステップS7:NO,ステップS11:NO)、その時点でアクティブなバッファ領域に格納されている心押設定で加工し(ステップS14,ステップS15)、当該セットアップデータが完了する。そして、次のセットアップデータがあれば(ステップS16:YES)、上記ステップS2へと戻る一方、次のセットアップデータがなければ(ステップS16:NO)、ステップS1で選択したジョブデータの実行が完了する。
【0047】
以上のような本実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
1.数値制御装置12側のハードウエア資源を増やすことなく、様々な加工工程に応じて多数の心押設定を自動的に設定することができる。
2.ソフトウエア側の処理とデータ構造とによって、一つの加工工程内で多数の心押設定を使用できるため、コストの増大や処理性能の低下を防止することができる。
3.ジョブデータおよびセットアップデータからなるデータ構造とすることにより、段取り作業を自動化することができる。
4.段取り時に、セットアップデータに関連付けられている全ての心押設定を自動設定することができる。
5.一度作成したセットアップデータは、次回以降、手入力する必要がなく、作業効率を向上することができる。
【0048】
なお、本発明に係る数値制御システム1、数値制御システム1を備えた工作機械11および加工プログラムのデータ構造は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0049】
例えば、上述した本実施形態では、ジョブデータと、セットアップデータとからなるデータ構造を備えた加工プログラムを使用しているが、当該データ構造を有しない通常の加工プログラムを実行することもできる。この場合、心押設定記憶部15には、いずれのセットアップデータにも紐付いていない心押設定が記憶されており、当該心押設定を使用することとなる。