(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616186
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】脳の視覚的刺激によって弱視を治療するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61H 5/00 20060101AFI20191125BHJP
H04N 21/4402 20110101ALI20191125BHJP
【FI】
A61H5/00 A
H04N21/4402
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-531688(P2015-531688)
(86)(22)【出願日】2013年9月15日
(65)【公表番号】特表2015-535696(P2015-535696A)
(43)【公表日】2015年12月17日
(86)【国際出願番号】IL2013050777
(87)【国際公開番号】WO2014041545
(87)【国際公開日】20140320
【審査請求日】2016年9月6日
【審判番号】不服2018-8722(P2018-8722/J1)
【審判請求日】2018年6月26日
(31)【優先権主張番号】61/700,903
(32)【優先日】2012年9月14日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/827,594
(32)【優先日】2013年5月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515069978
【氏名又は名称】ビジオル テクノロジーズ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100119987
【弁理士】
【氏名又は名称】伊坪 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100141254
【弁理士】
【氏名又は名称】榎原 正巳
(72)【発明者】
【氏名】ユバール アブニ
(72)【発明者】
【氏名】イラン バダイ
【合議体】
【審判長】
高木 彰
【審判官】
関谷 一夫
【審判官】
井上 哲男
(56)【参考文献】
【文献】
特開平8−206166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 5/00
H04N 21/4402
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの脳血流を増大させるように構成された刺激によって弱視を治療するのに有用なシステムであって、
少なくとも一つの予め定義された表示エリアを有する少なくとも一つのディスプレイを有するとともにコントローラユニットに接続された、頭部に装着可能な視覚的表示装置と、
各眼に対する特有の既定の刺激の処方にそれぞれ従って、ユーザの不具合を有する眼と優位眼とに同一のビデオ画像コンテンツを両眼分離して提示するべく、リアルタイムでストリーミングビデオコンテンツにおけるビデオ画像の提示を変更するように構成されたコントローラユニットと、
前記コントローラユニットに接続され、前記ユーザの各耳に聴覚的刺激を提供するように構成されたオーディオ装置であって、前記聴覚的刺激は音量レベルとオーディオデータのトリガとからなる群から選択される、オーディオ装置と、
を具備し、
前記既定の刺激の処方は、0.5〜60Hzの範囲内になるように構成された頻度で、前記不具合を有する眼に提示される画像の少なくとも一つの画像パラメータを変更することによる変更ステップを適用し、前記画像パラメータは、コントラスト、輝度、シャープネス、飽和、分解能、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択され、
前記コントローラユニットは、前記ビデオ画像に影響を及ぼす前記少なくとも一つの画像パラメータを変更することにより、前記視覚的表示装置内において前記少なくとも一つの予め定義された表示エリアに表示されたビデオ画像を時間に伴って変更するべく、両眼分離の前記既定の刺激の処方を提供するように、且つ、前記聴覚的刺激を提供するように、構成されている、システム。
【請求項2】
前記視覚的表示装置は、外部の視覚的妨害からユーザの眼を隔離するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記視覚的表示装置は、前記既定の刺激の処方に従って前記聴覚的刺激を提供するように構成された前記オーディオ装置に対して接続されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記コントローラユニットは、前記既定の刺激の処方を保存するように構成された前記コントローラユニットに対して接続されるように適合されたデータストレージ装置を更に有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記コントローラユニットは、前記既定の刺激の処方に従って前記少なくとも一つの画像パラメータを変更するように構成されたグラフィック処理ユニットを有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記少なくとも一つの画像パラメータは、輝度、コントラスト、飽和、シャープネス、解像度、及びこれらの組合せを含む群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記コントローラユニットは、前記少なくとも一つの予め定義された表示エリア上において少なくとも一つのオブジェクトの少なくとも一つのオーバーレイを挿入するように更に構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記コントローラユニットは、前記少なくとも一つの予め定義された表示エリア上において少なくとも一つのフリッカ現象を導入するように更に構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記コントローラユニットは、前記既定の刺激の処方に従って前記少なくとも一つのオブジェクトの前記少なくとも一つの生成されたオーバーレイの前記挿入に対してコヒーレントに接続されるように構成されたオーディオデータをトリガするように更に構成されている、請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
前記コントローラユニットは、前記オーディオデータと前記既定の刺激の処方に従った前記少なくとも一つのオブジェクトの前記少なくとも一つの生成されたオーバーレイの前記挿入とを同期化させるように更に構成されている、請求項7に記載のシステム。
【請求項11】
前記ストリーミングビデオコンテンツは、ビデオゲームコンソール、ケーブルモデム、テレビ、コンピュータ、デジタルカメラ、キャムコーダ、DVD、携帯電話機、携帯型メディアプレーヤ、オフラインビデオコンテンツ保存装置、及びネットワークオンラインストリーミングビデオコンテンツから構成された群から選択された供給源からストリーミングされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
少なくとも一つの耳に対して施される前記音量レベルの変更は、前記少なくとも一つの予め定義された表示エリア上において提示されるビデオ画像を定義する前記少なくとも一つの画像パラメータの少なくとも一つの値の強度変更との関連性を有する、請求項3に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
弱視は、眼の乏しい又は不明瞭な視力を特徴としている。これは、最も一般的な子供の眼科疾患の一つであり、人口の1〜5%がこの影響を受けており、且つ、一般に、斜視、屈折左右不同症、或いは、先天性白内障などの視力を妨げる疾患による人生の早期における視力の喪失の歴史と関連している。弱視は、眼内部の器官的な問題ではなく、脳内において発生する問題である。羅病した眼から視覚情報を受け取った脳の部分が、適切に刺激されず、この結果、異常が発生する。血液の酸化レベルに依存した(BOLD:Blood Oxygenation Level-Dependent)機能的磁気共鳴撮像(fMRI:functional Magnetic Resonance Imaging)は、広く使用されている脳のマッピング法であり、これを使用して局所的な脈管構造への血流を計測することにより、脳内の神経活動を評価することができる。更に最近では、fMRIにより、人間の弱視における脳の皮質機能の非侵襲的調査が可能になっている。弱視は、線状皮質(ブロードマン領野17)及び外側膝状核(LGN:Lateral Geniculate Nucleus)における病変と関連することが判明している(非特許文献1)。
【0002】
又、成人の脳は、ある程度の適応性を有するが、これは、幼児の脳におけるよりも格段に制限されている。但し、成熟した脳内における回路の再配線を促進しうる特定の状態が存在する。細胞及び分子レベルにおいては、成人の適応性は、動的に制限されている。これらの「ブレーキ」のいくつかは、ニューロン周囲ネット又はミエリンなどの構造的なものであり、これらは、神経突起伸長を妨げる。その他のものは、機能的なものであり、局所的な回路内における励起−抑制バランスに対して直接的に作用する(非特許文献2)。幼児期及び成人期における適応性は、カスタマイズされたビデオコンテンツに対する曝露を通じて、これらのブレーキを取り除くことにより、誘発されうるものと想定される。
【0003】
弱視の従来の治療は、不具合を有する眼の使用を強制するべく、優位眼(strong eye)のフルタイム又はパートタイムのパッチ閉塞を伴う。優位眼に対するリスクに起因し、フルタイムのパッチ閉塞は、現在、めったに利用されてはいない。人間の場合の臨界期は、一般に、7〜8歳で終了するものと考えられることから、閉塞治療の結果が、6歳超の者よりも更に低年齢の子供の場合に、相対的に良好であることは、驚くにあたらない(非特許文献3)。但し、フルタイムの閉塞は、9〜14歳の子供の場合に功を奏し(非特許文献4)、且つ、(2〜6時間/日のパッチ閉塞による)パートタイムの閉塞は、7〜17歳の子供の場合に功を奏し(非特許文献5)、7〜12歳の大部分の子供の場合に、明瞭度の改善が、パッチ閉塞の終了後、少なくとも1年間にわたって持続する(非特許文献6)ことが報告されている。13〜17歳の患者の場合にも、以前に治療を受けていない場合には、依然として、パートタイムのパッチ閉塞に対して肯定的な応答が得られる場合があるが、その視覚的明瞭度の改善が持続的なものであるかどうかは、いまだ判明していない(非特許文献7)。但し、幼い子供の場合の弱視のパッチ閉塞による治療の成功に対する最大の脅威は、処方が守られないことである。
【0004】
従って、視覚的刺激システム及び方法を通じた弱視治療を提供することが、強く求められており、且つ、いまだ充足されていないニーズである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Int J Med Sci 2012, 9(1), 115-120
【非特許文献2】J. of Neuroscience, 2010, 30(45), 14964-14971
【非特許文献3】Invest Ophthalmol Vis Sci. 2004, 45(9), 3048-54
【非特許文献4】Eye (Lond). 2004, 18(6), 571-4
【非特許文献5】Arch Ophthalmol. 2005, 123(4), 437-47
【非特許文献6】Arch Ophthalmol. 2007, 125(5), 655-9
【非特許文献7】Arch Ophthalmol. 2005, 123(4), 437-47
【発明の概要】
【0006】
脳の視覚的刺激によって弱視を治療するのに有用なシステムを提供することが、本発明の目的の一つである。システムは、i)少なくとも一つの予め定義された表示エリアを有する少なくとも一つのディスプレイを有する頭部に装着可能な視覚的コンテンツ表示装置と、ii)コントローラユニットと、iii)視覚的コンテンツ供給源と、を有する。コントローラユニットは、画像処理又は既定の処方(regime)に従った少なくとも一つの表示エリアの画像提示に影響を及ぼす少なくとも一つの表示パラメータの変更から構成された群から選択された手段により、少なくとも一つの予め定義された表示エリア上に表示されるビデオコンテンツの提示を時間に伴って変更するように構成されている。
【0007】
記述されているシステムにおいては、表示装置は、外部の視覚的妨害からユーザの眼を実質的に隔離するように構成されている。
【0008】
上述のシステムにおいては、表示装置は、既定の処方に従って聴覚的刺激を提供するように構成されたオーディオ装置に対して動作自在に接続されている。
【0009】
上述のシステムにおいては、コントローラユニットは、既定の処方を保存するように構成されたコントローラユニットに対して動作自在に接続されるように適合されたデータ保存装置を更に有する。
【0010】
上述のシステムにおいては、コントローラユニットは、既定の処方に従って少なくとも一つの画像パラメータを変更するように構成されたグラフィック処理ユニットを有する。
【0011】
上述のシステムにおいては、少なくとも一つの表示パラメータは、輝度、コントラスト、飽和、シャープネス、解像度、又はその他の従来のパラメータ、並びに、これらの組合せを含む群から選択される。
【0012】
上述のシステムにおいては、コントローラユニットは、少なくとも一つの表示エリア上において少なくとも一つのオブジェクトの少なくとも一つのオーバーレイを挿入するように更に構成されている。
【0013】
上述のシステムにおいては、コントローラユニットは、少なくとも一つの表示エリア上において少なくとも一つのフリッカイベントを導入するように更に構成されている。
【0014】
上述のシステムにおいては、コントローラユニットは、既定の処方に従って少なくとも一つのオブジェクトの少なくとも一つの生成されたオーバーレイの挿入に対してコヒーレントに接続されるように構成されたオーディオデータをトリガするように更に構成されている。
【0015】
上述のシステムにおいては、コントローラユニットは、オーディオデータと既定の処方に従った少なくとも一つのオブジェクトの少なくとも一つの生成されたオーバーレイの挿入を同期化させるように更に構成されている。
【0016】
上述のシステムにおいては、視覚的コンテンツ供給源は、ビデオゲームコンソール、ケーブルモデム、テレビ、コンピュータ、デジタルカメラ、キャムコーダ、DVD、携帯電話機、携帯型メディアプレーヤ、オフラインビデオコンテンツ保存装置、及びネットワークオンラインストリーミングビデオコンテンツから構成された群から選択される。
【0017】
脳の視覚的刺激によって弱視を治療するのに有用なプロトコル(protocol)を提供することが、本発明の更なる目的である。プロトコルは、i)弱視の治療に有用なシステムを取得するステップと、ii)ビデオコンテンツ及びサウンドトラックをコントローラユニットにストリーミングするステップと、iii)少なくとも一つの表示エリア上に表示されたビデオコンテンツの提示を変更するステップと、iv)変更済みのビデオコンテンツを少なくとも一つの眼に対して表示するステップと、v)聴覚的刺激を提供するステップと、を有する。変更ステップは、画像処理ステップ又は画像提示に影響を及ぼす少なくとも一つの表示パラメータを変更するステップから構成された群から選択される。
【0018】
上述のプロトコルにおいては、変更ステップは、既定の処方に従って実装されるように構成されている。
【0019】
上述のプロトコルにおいては、画像処理済みのビデオコンテンツは、サイドバイサイド、フレームシーケンシャル、及びフィールドシーケンシャル提示から構成された群から選択された両眼分離提示として表示されるように構成されている。
【0020】
本発明の更に別の目標は、弱視患者の脳内における脳血流を増大させるのに有用な既定の処方を提供するというものである。処方は、画像処理又は0.5〜60Hzの範囲内になるように構成された頻度で画像提示に影響を及ぼす少なくとも一つの表示パラメータの変更から構成された群から選択された手段により、少なくとも一つの表示エリア上において表示されたビデオコンテンツの提示を変更する少なくとも一つのステップを有する。変更ステップは、上述の変更を欠いた処方との比較において、脳内の脳血流を増大させるように構成されている。
【0021】
上述の処方においては、処方は、少なくとも一つのフリッカイベントを導入するステップを更に有する。
【0022】
上述の処方においては、処方は、少なくとも一つの耳に施されるように構成された聴覚的刺激をトリガするステップを更に有する。
【0023】
上述の処方においては、処方は、前記少なくとも一つの表示エリア上に表示されるビデオコンテンツ上において少なくとも一つのオブジェクトの少なくとも一つのオーバーレイを挿入するように更に構成されている。
【0024】
上述の処方においては、変更ステップは、ストリーミングされたビデオコンテンツの少なくとも一つの表示パラメータの強度の−99%〜+99%の範囲内において少なくとも一つの表示パラメータのレベルを変更するように構成されている。
【0025】
上述の処方においては、少なくとも一つのオブジェクトの少なくとも一つのオーバーレイを挿入するステップは、聴覚的刺激のトリガステップに対してコヒーレントに接続されるように構成されている。
【0026】
上述の処方においては、処方は、リアルタイムで動作するように構成されている。
【0027】
双眼画像表示装置用の視覚的刺激の処方が更に提供される。この処方は、少なくとも一つの表示エリア上において提示されるビデオ画像を定義する少なくとも一つの画像パラメータの少なくとも一つの視覚的に認知可能な強度変更を有する。画像パラメータの強度変更は、定義されたビデオの画像パラメータの強度の−99%〜+99の範囲内になるように構成されており、画像パラメータは、コントラスト、輝度、シャープネス、飽和、分解能、又はその他の従来のパラメータ、並びに、これらの任意の組合せから構成された群から選択される。
【0028】
先程定義された視覚的刺激の処方は、少なくとも一つの表示エリア上において提示されるビデオ画像を定義する少なくとも一つの画像パラメータの少なくとも一つの値の少なくとも一つの視覚的に認知可能な強度変更を更に有する。画像パラメータ値の強度変更は、定義されたビデオの画像パラメータの強度の−99%〜+99%の範囲内になるように構成されており、画像パラメータは、コントラスト、輝度、シャープネス、飽和、解像度、又はその他の従来のパラメータ、並びに、これらの組合せから構成された群から選択される。
【0029】
画像表示装置用の視覚的刺激の処方が更に提供される。処方は、少なくとも一つの表示エリア上において提示されるビデオ画像を定義する少なくとも一つの画像パラメータの少なくとも一つの視覚的に認知可能な強度変更を有する。画像パラメータの強度変更は、定義されたビデオの画像パラメータの強度の−99%〜+99%の範囲内になるように構成されており、画像パラメータは、コントラスト、輝度、シャープネス、飽和、解像度、又はその他の従来のパラメータ、並びに、これらの任意の組合せから構成された群から選択される。
【0030】
先程定義された処方は、少なくとも一つの表示エリア上において提示されたビデオ画像を定義する少なくとも一つの画像パラメータの少なくとも一つの値の少なくとも一つの視覚的に認知可能な強度変更を有する。画像パラメータ値の強度変更は、定義されたビデオの画像パラメータの−99%〜+99%の範囲内になるように構成されており、画像パラメータは、コントラスト、輝度、シャープネス、飽和、解像度、又はその他の従来のパラメータ、並びに、これらの組合せから構成された群から選択される。
【0031】
上述の任意の処方においては、少なくとも一つの耳に施される音量レベルの変更は、少なくとも一つの表示エリア上において提示されるビデオ画像を定義する少なくとも一つの画像パラメータの少なくとも一つの値の強度変更との関連性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、脳の視覚的刺激のためのシステムを概略的に示す。
【
図2】
図2は、サイドバイサイド及びフレームシーケンシャルという2つのタイプの両眼分離提示を概略的に示す。
【
図3】
図3は、脳の視覚的刺激のためのプロトコルのフローチャートを示す。
【
図4】
図4は、動的な既定のプロトコルのフローチャートを示す。
【
図5】
図5〜
図12は、既定のプロトコルの4つの異なる実施形態を示す。
【
図6】
図5〜
図12は、既定のプロトコルの4つの異なる実施形態を示す。
【
図7】
図5〜
図12は、既定のプロトコルの4つの異なる実施形態を示す。
【
図8】
図5〜
図12は、既定のプロトコルの4つの異なる実施形態を示す。
【
図9】
図5〜
図12は、既定のプロトコルの4つの異なる実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下の説明は、当業者が本発明を利用できるようにするべく提供されるものであり、且つ、本発明者が想定する本発明の実施の最良の形態を記述している。但し、当業者には、様々な変更が明らかであり、その理由は、本明細書に記述されている本発明の製品及び方法を提供するべく、本発明の一般的な原理が具体的に定義されているからである。
【0034】
以下の説明においては、「弱い目/不具合を有する眼/弱視の眼」及び「利き目/優位眼」という用語は、相互交換可能に使用される。更には、脳内の「脳血流」及び脳の「潅流という用語も、相互交換可能に使用される。
【0035】
本発明は、脳の視覚的刺激を通じて弱視を治療するシステムに関する。
【0036】
システム
本発明の実施形態のうちの一つにおけるシステム(100)を例示する
図1aを参照されたい。システムは、視覚的コンテンツ供給源(101)と、データ保存装置(102)と、コントローラユニット(103)と、頭部に装着可能な視覚的コンテンツ表示装置(104)と、オーディオ装置(105)と、を有する。
【0037】
頭部に装着可能な表示装置(104)は、ユーザの眼を、周辺光などの外部の視覚的妨害から隔離するように構成されている。実施形態のうちの一つにおいては、表示装置は、ユーザの顔面に対して緊密にゴーグルとしてフィットすることが可能であり、その他の実施形態においては、表示装置は、光がユーザの眼に到達することを防止するシェードを有してもよい。視覚的コンテンツ表示装置は、いくつかの実施形態によって表現されうる。本発明の実施形態のうちの一つ(
図1b)においては、頭部に装着可能な双眼表示装置(104a)は、左側及び右側ディスプレイを有し、このそれぞれが、ビデオコンテンツを2つの眼に対して表示するように構成された一つの表示エリアを有する。本発明のその他の実施形態においては、頭部に装着可能な視覚的コンテンツ表示装置(104b)は、非限定的な例として単一のディスプレイを有する。このようなディスプレイは、セルラ電話機において使用されているタイプであり、ビデオコンテンツを2つの眼に対して表示するように構成された左側及び右側の予め定義された表示エリアを有する。又、視覚的コンテンツ表示装置は、ヘッドフォン又はスピーカの組によって表現されうるオーディオ装置(105)に結合されてもよい。ヘッドフォン又はスピーカは、静電気的、オルソダイナミック、動的、エレクトレット、バランスアーマチュア、ハイルエアモーショントランスフォーマ(AMT:Air Motion Transformer)、圧電薄膜、リボンプレーナ磁気、磁気歪、プラズマイオン化、及び電磁的な技術などの当技術分野において既知の様々なトランスデューサ技術を有するように構成されている。
【0038】
コントローラユニット(103)は、ビデオコンテンツ表示装置に接続されており、且つ、いくつかの実施形態においては、既定の処方に従って双眼表示装置上における画像提示に影響を及ぼす表示パラメータを変更するように構成されている。本発明のその他の実施形態においては、コントローラユニットは、既定の処方に従って少なくとも一つの予め定義された表示エリアの画像提示に影響を及ぼす表示パラメータを変更するように構成されている。本発明のいくつかのその他の実施形態においては、コントローラは、既定の処方に従って画像提示に影響を及ぼす表示パラメータを変更するように構成されたグラフィック処理ユニット(GPU:Graphic Processing Unit)を有してもよい。画像提示に影響を及ぼす表示パラメータは、輝度、コントラスト、飽和、解像度、シャープネス、又は当技術分野において既知の任意のその他のパラメータ、並びに、これらの任意の組合せとして定義される。
【0039】
本発明のその他の実施形態においては、コントローラユニット(103)は、既定の処方に従って画像処理によって表示装置上において表示されるビデオコンテンツ提示を変更するように構成されている。更には、画像処理済みのビデオコンテンツは、3Dビデオを提示するための当技術分野において既知のものなどの両眼分離提示として表示されるように構成されている。
図2は、非限定的な例として、サイドバイサイド(1)、フレームシーケンシャル(2)、及びフィールドシーケンシャル提示から構成された群を開示している。
【0040】
更には、コントローラユニット(103)は、既定のプロトコルに従って少なくとも一つのオブジェクトと少なくとも一つのフリッカイベントの少なくとも一つのオーバーレイを生成又はトリガすることができる。コントローラユニットは、少なくとも一つのオブジェクトの挿入とコヒーレントに接続されたオーディオデータをトリガするように構成されており、且つ、少なくとも一つのオブジェクトとトリガされたオーディオデータの表示を同期化させるように構成されている。
【0041】
コントローラユニットは、TRSミニジャック、RCAジャック、TOSLINK、BNC、Dサブミニアチュア、RCAジャック、Mini−DIN、3RCAジャック、VIVO、DVI、SCART、HDMI、ディスプレイポートコネクタ、FireWire、WiFi、及び Bluetooth を介して視覚的コンテンツ供給源に接続されうる。
【0042】
データ保存装置(102)は、コントローラユニットに接続されており、且つ、既定のプロトコル、少なくとも一つのオーバーレイしたオブジェクト及びオーディオデータを有する少なくとも一つのファイルを保存するように構成されている。本発明のいくつかの実施形態においては、データ保存装置は、PATA、IDE、EIDE、SATA、SCSI、SAS、Fiber Channel、IEEE 1394、USB、WiFi、及び Bluetooth コネクタを介してコントローラユニットに接続されうる。本発明の好適な実施形態においては、データストレージ装置は、WiFi又は Bluetooth などの無線技術を介してコントローラユニットに接続されている。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態においては、視覚的コンテンツ供給源(101)は、非限定的な例として、ビデオゲームコンソール、テレビ、コンピュータ、デジタルカメラ、キャムコーダ、DVD、携帯電話機、携帯型メディアプレーヤ、オフラインビデオコンテンツ保存装置、及び当技術分野において既知のネットワークオンラインストリーミングビデオコンテンツ又は任意のその他のコンテンツ供給源から構成された群から選択された視覚的コンテンツ供給源によって表現されうる。
【0044】
プロトコル
以下のステップを有する脳の視覚的刺激による弱視の治療に有用なプロトコル(200)を概略的に示す
図3を参照されたい。
i.弱視の治療に有用なシステムを取得するステップ(201)
ii.ビデオコンテンツ及びサウンドトラックをコントローラユニットに対してストリーミングするステップ(202)
iii.少なくとも一つの表示エリア上において表示された前記ビデオコンテンツの提示を変更するステップ(203)
iv.前記変更済みの提示を少なくとも一つの眼に対して表示するステップ(204)
v.聴覚的刺激を提供するステップ(205)
【0045】
本発明のいくつかの実施形態においては、変更ステップは、既定の処方に従ってビデオコンテンツの画像処理によって実現されている。その他の実施形態においては、変更ステップは、少なくとも一つの表示エリアの画像提示に影響を及ぼす表示パラメータを変更するステップを有する。聴覚的刺激は、少なくとも一つの耳に対して提供される。
【0046】
処方
以下のステップを有する脳の視覚的刺激によって弱視を治療するのに有用な動的な既定の処方(300)を概略的に示す
図4を参照されたい。
i.画像処理ステップ又は少なくとも一つの表示パラメータを変更するステップから構成された群から選択された手段により、少なくとも一つの表示エリア上において表示されたビデオコンテンツの少なくとも一つの時間単位提示を変更するステップ(301)
ii.少なくとも一つの表示エリア上において表示されたビデオコンテンツ上において少なくとも一つのオブジェクトの少なくとも一つのオーバーレイを挿入するステップ(302)
iii.少なくとも一つのフリッカイベントを導入するステップ(303)
iv.少なくとも一つのオーバーレイの表示にコヒーレントに接続されるように構成された少なくとも一つの耳に施されるように構成された聴覚的刺激をトリガするステップ(304)
【0047】
処方は、いくつかの実施形態においては、右側及び左側ディスプレイの、且つ、その他の実施形態においては、左側及び右側の予め定義された表示エリアの、少なくとも一つの時間単位にわたって画像提示に影響を及ぼす表示パラメータを変更するように構成されている。本発明の実施形態のうちの一つにおいては、処方は、当技術分野において既知の画像処理技法の実装により、ビデオコンテンツの提示を変更するように構成されている。本発明のいくつかの実施形態においては、少なくとも一つの時間単位は、1秒未満の持続時間を有するように構成されている。本発明のその他の実施形態においては、少なくとも一つの時間単位は、少なくとも1秒の持続時間を有するように構成されている。
【0048】
変更対象である画像提示に影響を及ぼす表示パラメータは、輝度、コントラスト、飽和、シャープネス、解像度、又は当技術分野において既知の任意のその他のパラメータ、並びに、これらの組合せである。更には、処方は、オリジナルのストリーミングされたビデオコンテンツの同一のパラメータの強度の−99%〜+99%の範囲内において画像提示に影響を及ぼす表示パラメータの強度を変更するように構成されている。
【0049】
処方は、例えば、改善されたシャープな且つ/又は明るいビデオストリーミングが、大部分のプロトコルにおいて、不具合を有する眼に表示される一方で、利き目が、減衰した、即ち、かすんだ、乏しいビデオ画像品質を有する画像に曝露されるように、提示されるビデオコンテンツを変更するように構成されている。更には、改善されたビデオ及び減衰したビデオのストリーミングは、聴覚的刺激によって伴われる。聴覚的刺激は、非限定的な例として、不具合を有する眼に隣接した耳に対して施される音量の増大により、且つ、第2の耳に施される音量の減少により、例示されうる。
【0050】
又、更には、処方は、この変更済みのビデオが不具合を有する眼に対して表示されるように、ストリーミングされたビデオコンテンツ上において、データ保存装置においてファイルとして保存された少なくとも一つのオブジェクトの少なくとも一つのオーバーレイを挿入するように構成されてもよい。又、更には、処方は、上述のオブジェクトの表示に伴うデータ保存装置においてファイルとして保存されているオーディオ信号をトリガするようにも構成されている。この聴覚的刺激は、不具合を有する眼の側部に位置決めされている耳に対して、或いは、この代わりに、反対側の耳に対して、施されるように構成されている。例えば、非限定的な例として、コントローラユニットは、跳ね返るボールのオーバーレイを挿入し、且つ、同時に、コントローラユニットは、オーディオ信号「ボール」をトリガするか、又はオーディオストリームの音量を増大させる。又、更には、処方は、非限定的な例として、雷の音響又は別の注意を喚起する音響などのオーディオ信号によって伴われた状態で、不具合を有する眼に対して表示される少なくとも一つのフリッカイベントを導入するようにも構成されている。フリッカは、輝度が、突然且つ瞬間的に、人間の眼によって認知されるべく十分に長い時間インターバルにわたって最小限の値に低下した際に、発生し、或いは、この代わりに、フリッカは、提示されるビデオコンテンツのフレームのオリジナルのシーケンスの一部分ではないフレームのシーケンスを表示することにより、発生する。既定の処方は、リアルタイムで動作するように構成されている。
【0051】
更には、双眼画像表示装置用の視覚的刺激の処方は、少なくとも一つの表示エリア上において提示されるビデオ画像を定義する少なくとも一つの画像パラメータの少なくとも一つの視覚的に認知された強度変更を有しており(わかりやすくするために、「視覚的に認知された強度変更」という用語は、眼を介して脳に関係付けられる任意の視覚的刺激の変更を意味している)、画像パラメータの強度変更は、定義されたビデオの画像パラメータの−99%〜+99%の範囲内になるように構成されており、画像パラメータは、コントラスト、輝度、シャープネス、飽和、解像度など、並びに、これらの任意の組合せから構成された群から選択される。更には、この処方は、少なくとも一つの表示エリア上において提示されるビデオ画像を定義する少なくとも一つの画像パラメータの少なくとも一つの値の少なくとも一つの視覚的に認知された強度変更を有しており、画像パラメータ値の強度変更は、定義されたビデオの画像パラメータの−99%〜+99%の範囲内になるように構成されており、画像パラメータは、コントラスト、輝度、シャープネス、飽和、解像度、及びこれらの任意の組合せから構成された群から選択される。
【0052】
更には、画像表示装置用の視覚的刺激の処方は、少なくとも一つの表示エリア上において提示されるビデオ画像を定義する少なくとも一つの画像パラメータの少なくとも一つの視覚的に認知された強度変更を有しており、画像パラメータの強度変更は、定義されたビデオの画像パラメータの−99%〜+99%の範囲内になるように構成されており、画像パラメータは、コントラスト、輝度、シャープネス、飽和、解像度など、並びに、これらの任意の組合せから構成された群から選択される。この特定の処方は、少なくとも一つの表示エリア上において提示されるビデオ画像を定義する少なくとも一つの画像パラメータの少なくとも一つの値の少なくとも一つの視覚的に認知された強度変更を更に有しており、画像パラメータ値の強度変更は、定義されたビデオの画像パラメータの−99%〜+99%の範囲内になるように構成されており、画像パラメータは、コントラスト、輝度、シャープネス、飽和、解像度、又は当技術分野において既知の任意のその他のパラメータ、並びに、これらの任意の組合せから構成された群から選択される。
【0053】
神経活動が増大した際には、グルコースの脳による代謝レート(CMRglu:Cerebral Metabolism Rate of glucose)が増大し、且つ、同時に、脳血流(CBF:Cerebral Blood Flow)及び脳血液容量(CBV:Cerebral Blood Volume)も増大することが広く認知されている。例えば、視覚皮質内における酸素の相対的な脳による代謝レートCMRO
2は、8Hzで反転する円形の黒色及び白色チェッカーボードからなる視覚的刺激の際に、大幅に増大し、且つ、その大きさの変化は、CBFの変化の0.3〜0.7倍であった。視覚皮質におけるCBFとCMRO
2の変化の間の弱い正の相関が観察されており、これは、CMRO
2の増大がCBFの変化に比例することを示唆している(Magnetic Resonance in Medicine 1999 41, 1152-1161)。
【0054】
その他の研究においては、人間における輝度フリッカ刺激による網膜血流の増大が発見されている(Investigative Ophthalmology & Visual Science 2011, 52(1) 274-277)。更には、一次視覚皮質内における脳血流の変化は、それぞれ、2Hz及び8Hzにおける光のフリッカ刺激の場合に、16%±16%及び68%±20%であることが判明している。その一方で、脳血液容量の変化は、2Hz及び8Hzの刺激の場合に、10%±13%及び21%±5%であった(J Cereb Blood Flow Metab, 2001 21, (5), 608-612)。猫に関する実験は、フリッカ刺激の際に、視神経頭(ONH:Optic Nerve Head)血流及び[K
+]が増大することを実証している(Investigative Ophthalmology & Visual Science 1995 36, (11), 2216-2227)。K
+電位の最大の増大は、30Hzにおいて発生しており、ONH血流の最大の増大は、40Hzにおいて発生している。
【0055】
本発明の処方は、脳内の脳血流を増大させるように構成されている。
【0056】
既定の処方の非限定的な例
図5〜
図12の表は、既定の処方の例を示しており、この場合には、左眼が不具合を有する眼であり、且つ、優位眼は、右眼である。これらの表に提示されている時間単位という用語は、1秒未満又は少なくとも1秒を表してもよい。
【0057】
図5及び
図6は、両眼分離提示の輝度、コントラスト(603)、及びシャープネス(604)が、右眼の場合には、開始点を除いて処方の全体において、低下している処方を示している。不具合を有する眼に対して表示されるビデオストリーミングの輝度(601)及びコントラスト(602)は、この処方においては、強化されており、シャープネス(605)は、変化のない状態に残されている。更には、時間単位8〜25の範囲において左眼に提示されるコントラスト及び輝度変更の時間単位の持続時間は、1秒の1/16である(606)。従って、左眼は、視覚的刺激を8Hzの頻度で受け取る。時間単位45〜50の間の持続時間は、休止時間を表しており、この場合には、脳に回復期間を許容するべく、刺激が最小限であるか又は存在しておらず、且つ、これは、好ましくは、処方の一部であるが、必須のものではない。
【0058】
図7及び
図8は、両眼分離提示の輝度のみが左(801)及び右(802)眼について変化している処方を示している。不具合を有する眼に対して表示されるビデオストリーミングの輝度は、処方の大部分において強化されており、優位眼に対して表示されるビデオストリーミングの輝度は、開始点を除いて処方の全体において、低下している。
【0059】
図9及び
図10は、両眼分離提示の輝度(902)及びコントラスト(901)が、左眼の場合にのみ、強化されている処方を示している。更には、時間単位8〜25の範囲において左眼に対して提示されるコントラスト及び輝度変更の時間単位の持続時間は、1秒の1/16である(903)。従って、左眼は、8Hzの頻度で視覚的刺激を受け取る。
【0060】
図11及び
図12は、両眼分離提示の輝度、コントラスト(121)、及びシャープネス(120)が、右眼の場合にのみ、減衰している処方を示している。
【0061】
以上の説明においては、図示及び説明を目的として、好適な実施形態を含む本発明の実施形態を提示した。これらは、本発明のすべてを網羅することを、或いは、本発明を開示された形態そのままに限定することを、意図したものではない。上述の教示内容に鑑み、明らかな変更又は変形が可能である。これらの実施形態は、本発明の原理及びその実際的な用途の最良の例示を提供するべく、且つ、当業者が、様々な実施形態において、且つ、想定される特定の使用に適した様々な変更を伴って、本発明を利用できるようにするべく、選択され、且つ、記述されている。これらのすべての変更及び変形は、公平に、合法的に、且つ、公正に付与される範囲に従って解釈された際に添付の請求項によって決定される本発明の範囲に含まれる。