(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616199
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】モータの減速用速度変化率を変更する手段を有するモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20191125BHJP
【FI】
H02P27/08
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-10984(P2016-10984)
(22)【出願日】2016年1月22日
(65)【公開番号】特開2016-226253(P2016-226253A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2017年10月18日
(31)【優先権主張番号】特願2015-110146(P2015-110146)
(32)【優先日】2015年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 友和
【審査官】
上野 力
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−054088(JP,A)
【文献】
特開平10−341592(JP,A)
【文献】
特開2013−066257(JP,A)
【文献】
特開2013−027986(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/162246(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源側の交流電力と直流側であるDCリンクの直流電力との間で電力変換する順変換器と、
前記DCリンクに設けられるDCリンクコンデンサと、
前記DCリンクに接続され、前記DCリンクの直流電力とモータの駆動電力もしくは回生電力である交流電力との間で電力変換する逆変換器と、
前記DCリンクコンデンサの直流電圧値を検出する直流電圧検出部と、
モータが所望の回転動作を行うことになるように前記逆変換器の電力変換動作を制御するためのモータ駆動指令を生成する指令生成部と、
前記指令生成部によるモータ駆動指令の生成に用いられるモータ減速用速度変化率を記憶する速度変化率記憶部と、
モータ減速時であってかつ前記順変換器が電源回生動作を行っている時に、前記直流電圧検出部により検出された直流電圧値が予め設定された閾値を超えた場合、前記速度変化率記憶部に既に記憶されていたモータ減速用速度変化率を、より小さいモータ減速用速度変化率に書き換えてこれを前記速度変化率記憶部に新たに記憶させる速度変化率変更部と、
を備え、
前記速度変化率変更部は、
前記指令生成部により生成されたモータ駆動指令に基づいて、モータ減速時であるか否かを判定する減速判定部と、
前記閾値を記憶する電圧閾値記憶部と、
モータ減速時において、前記直流電圧検出部により検出された直流電圧値と、前記電圧閾値記憶部に記憶された閾値とを比較する比較部と、
前記比較部による比較の結果、前記直流電圧検出部により検出された直流電圧値が、前記電圧閾値記憶部に記憶された閾値より大きいと判定された場合、前記速度変化率記憶部に既に記憶されていたモータ減速用速度変化率を、より小さいモータ減速用速度変化率に変更する変更部と、
を有し、
前記速度変化率変更部内の前記変更部内のメモリに、前記モータ減速用速度変化率と当該モータ減速用速度変化率を用いた場合の前記DCリンクコンデンサの直流電圧値の上昇率との関係を示すテーブルが予め記憶され、
前記速度変化率変更部内の前記変更部は、前記メモリに記憶されたテーブルから読み出したモータ減速用速度変化率にて、前記速度変化率記憶部に既に記憶されていたモータ減速用速度変化率を変更する、モータ制御装置。
【請求項2】
前記順変換器の交流電源側の交流電流値を検出する交流電流検出部をさらに備え、
前記速度変化率変更部は、前記交流電流検出部により検出された交流電流値に基づいて、前記順変換器が、前記DCリンクの直流電力を交流電力に変換して交流電源側へ出力する電源回生動作を行っているか否かを判定する電源回生動作判定部を有する請求項1に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相交流入力側から供給された交流電力を直流電力に変換してDCリンクへ出力したのちさらにモータの駆動のための交流電力に変換してモータへ供給するモータ制御装置に関し、特にDCリンクコンデンサの電圧上昇に応じてモータの減速時における単位時間当たりの速度の変化量(以下、「モータ減速用速度変化率」と称する)を変更する手段を有するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械、鍛圧機械、射出成形機、産業機械、あるいは各種ロボット内のモータを駆動するモータ制御装置においては、交流電源側から入力された交流電力を直流電力に一旦変換したのちさらに交流電力に変換し、この交流電力を駆動軸ごとに設けられたモータの駆動電力として用いている。このようなモータ制御装置は、三相交流入力電源のある交流電源側から供給された交流電力を整流して直流電力を出力する順変換器と、順変換器の直流出力側であるDCリンク(直流リンク)に接続され、DCリンクの直流電力とモータの駆動電力もしくは回生電力である交流電力とを相互電力変換する逆変換器と、を備え、当該逆変換器の交流出力側に接続されたモータの速度、トルク、もしくは回転子の位置を制御する。順変換器の直流側と逆変換器の直流側とを接続するDCリンクには、DCリンクコンデンサが設けられている。DCリンクコンデンサは、順変換器の直流出力の脈動分を抑えるための平滑コンデンサとしての機能を有するものであり、直流電力を蓄積し得るものである。逆変換器は、複数の駆動軸に対応してそれぞれ設けられる各モータに個別に駆動電力を供給してモータを駆動制御するためにモータの個数と同数個設けられる。一方、順変換器は、モータ制御装置コストや占有スペースを低減する目的で、複数の逆変換器に対して1個が設けられることが多い。
【0003】
近年、省エネルギー化の要求から、モータ制御装置における順変換器として、モータ減速時に生じる回生電力を交流電源側に戻すことができる電源回生方式の順変換器が多く用いられている。この順変換器は、交流電源側から供給された交流電力を直流電力に変換して直流側へ出力する機能とともに、モータ減速時には直流側から供給された直流電力を交流電力に変換して交流電源側へ出力する機能を有する。モータ減速時にモータで発生する回生電力は、逆変換器により交流電力から直流電力に変換され、この直流電力はDCリンクを介して順変換器に入力され、さらに順変換器により交流電力に変換されて交流電源側に電源回生される。この時、DCリンクに設けられたDCリンクコンデンサの直流電圧値は、モータで発生する回生電力の量と、逆変換器、DCリンクおよび順変換器を介して交流電源側に回生される交流電力の量と、に応じて変動する。
【0004】
交流電源側から供給された交流電力を直流電力に変換して出力したのちさらにモータの駆動のための交流電力に変換してモータへ供給するモータ制御装置において、モータで発生する回生電力の量および交流電源側に回生される交流電力の量とDCリンクコンデンサの電圧との関係を、
図8〜
図10を参照して説明すると次の通りである。
図8〜
図10に示すように、モータ制御装置1000は、交流電源3側の交流電力と直流側であるDCリンクの直流電力との間で電力変換する順変換器111と、順変換器111から出力された直流電力をモータ2の駆動電力として供給される所望の周波数の交流電力に変換しまたはモータ2から回生される交流電力を直流電力に変換する逆変換器112と、順変換器111と逆変換器112との間のDCリンクに設けられるDCリンクコンデンサ113とを備える。順変換器111の交流電源3側の電源インピーダンス成分については参照符号4で表す。
【0005】
図8は、モータ制御装置において、モータ減速時に発生する回生電力の量(以下、「減速エネルギー量」と称する)が交流電源側に回生される交流電力の量(以下、「電源回生量」と称する)と等しい場合におけるエネルギーの流れを説明する回路図である。
図8に示すように、モータ減速時において、逆変換器112の電力変換動作によりモータ2側からDCリンク側へ戻される減速エネルギー量E
2と順変換器111の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源3側へ戻される電源回生量E
1とが等しい場合、DCリンクコンデンサの直流電圧値は上昇せず、一定の電圧値に制御される。
【0006】
図9は、モータ制御装置において、モータ減速時に発生する減速エネルギー量が交流電源側に回生される電源回生量よりも大きい場合におけるエネルギーの流れを説明する回路図である。モータ減速時にモータ2で発生する交流の回生電力は逆変換器により直流電力に変換されるが、逆変換器112の電力変換動作によりモータ2側からDCリンク側へ戻される減速エネルギー量E
2が、順変換器111の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源3側へ戻される電源回生量E
1よりも大きくなった場合、順変換器111の変換能力では変換しきれない直流電力がDCリンクコンデンサ113に蓄積され続けるので、DCリンクコンデンサ113の直流電圧値は上昇を続ける。
【0007】
図10は、モータ制御装置の移設などによって順変換器の交流電源側の電源インピーダンスが大きくなった場合におけるエネルギーの流れを説明する回路図である。モータ制御装置の移設などによって順変換器の交流電源側の電源インピーダンス4が増加すると、順変換器111の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源3側へ戻される電源回生量E
1は、移設前に比べて減少し、逆変換器112の電力変換動作によりモータ2側からDCリンク側へ戻される減速エネルギー量E
2よりも小さくなる。この場合も順変換器111の変換能力では変換しきれない直流電力がDCリンクコンデンサ113に蓄積され続けるので、DCリンクコンデンサ113の直流電圧値は上昇を続ける。
【0008】
DCリンクコンデンサ113の直流電圧値が上昇を続けて順変換器111および逆変換器112の構成素子やDCリンクコンデンサ113自体の耐圧を超えると、各素子の破壊を招く。そこで、一般的には、順変換器111および逆変換器112の構成素子やDCリンクコンデンサ113自体の耐圧上許容できる最大電圧として過電圧アラームレベルを予め設定しておき、DCリンク内のDCリンクコンデンサ113の直流電圧値が過電圧アラームレベルを超えたときには何らかの危機回避処理を実行するようにしている。危機回避処理の例として、例えば、DCリンクコンデンサ113の直流電圧値が過電圧アラームレベルを超えたとき、逆変換器112に対して過電圧アラーム信号を出力し、これに応答して逆変換器112は電力変換動作のためのスイッチング動作をオフし、モータ2で発生する回生電力の直流電力への変換を停止(以下、「アラーム停止」と称する)する対策が取られる。これにより、DCリンクコンデンサ113の直流電圧値が順変換器111および逆変換器112の構成素子やDCリンクコンデンサ113の耐圧を超えないようにする。
【0009】
DCリンクコンデンサの直流電圧値の上昇を抑える技術として、例えば、逆変換器の電力変換動作により負荷側からDCリンク側へ戻される減速エネルギー量が、順変換器の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源側へ戻される電源回生量よりも大きい場合に、逆変換器内のスイッチング素子のスイッチング周波数を上げてスイッチング損失を増加させることでDCリンクコンデンサの電圧上昇を防止するものがある(例えば、特許文献1参照)。
図11は、特開平9−121561号公報(特許文献1)に記載された発明によるシステムにおけるエネルギーの流れを説明する回路図である。特許文献1に記載された発明によれば、負荷2’で発生した回生電力量E
3が順変換器111の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源3側へ戻される電源回生量E
1よりも大きくなった場合、DCリンクコンデンサ113の直流電圧値が上昇しないようにするために、逆変換器112の電力変換動作により負荷側からDCリンク側へ戻されるエネルギー量E
2と順変換器111の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源3側へ戻される電源回生量E
1とのバランスが取れるよう、逆変換器112内のスイッチング素子のスイッチング周波数を上げることで逆変換器112内のスイッチング素子のスイッチング損失を増加させ、負荷2’で発生した回生電力量E
3のうちの一部のエネルギーE
4(=E
3−E
2)を熱損失として消費するようにする。これにより、DCリンクに流入するエネルギー量E
2と順変換器111の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源3側へ戻される電源回生量E
1とが等しくなり、DCリンクコンデンサの直流電圧値は上昇せず、一定の電圧値に制御される。
【0010】
DCリンクコンデンサの直流電圧値の上昇を抑える別の技術として、例えば、逆変換器の電力変換動作により負荷側からDCリンク側へ戻される減速エネルギー量が、順変換器の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源側へ戻される電源回生量よりも大きい場合に、モータから逆変換器へ流れる回生電流の位相を補正してモータ巻線で消費されるエネルギーを増加させることでDCリンクコンデンサの電圧上昇を防止するものがある(例えば、特許文献2参照)。
図12は、特開2003−33061号公報(特許文献2)に記載された発明によるシステムにおけるエネルギーの流れを説明する回路図である。特許文献2に記載された発明によれば、モータ2で発生した回生電力量E
3が順変換器111の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源3側へ戻される電源回生量E
1よりも大きくなった場合、DCリンクコンデンサ113の直流電圧値が上昇しないようにするために、逆変換器112の電力変換動作により負荷側からDCリンク側へ戻されるエネルギー量E
2と順変換器111の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源3側へ戻される電源回生量E
1とのバランスが取れるよう、モータ2からの回生電流の位相を補正することで、モータ2で発生した回生電力量E
3のうちの一部のエネルギーE
5(=E
3−E
2)をモータ巻線において熱損失として消費するようにする。これにより、DCリンクに流入するエネルギー量E
2と順変換器111の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源3側へ戻される電源回生量E
1とが等しくなり、DCリンクコンデンサの直流電圧値は上昇せず、一定の電圧値に制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−121561号公報
【特許文献2】特開2003−33061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、モータ減速時に発生する回生電力が非常に大きい場合やモータ制御装置の移設などによって順変換器の交流電源側の電源インピーダンスが大きくなった場合など、逆変換器の電力変換動作によりモータ側からDCリンク側へ戻される減速エネルギー量が、順変換器の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源側へ戻される電源回生量よりも大きくなる状況になると、順変換器の変換能力では変換しきれない直流電力がDCリンクコンデンサに蓄積され続けるので、DCリンクコンデンサの直流電圧値は上昇を続ける。DCリンクコンデンサの直流電圧値が上昇し続けて過電圧アラームレベルに達すると、順変換器および逆変換器の構成素子やDCリンクコンデンサの破壊を防ぐためにモータ制御装置はアラーム停止する。アラーム停止すればこれら各素子の破壊を防ぐことはできるものの、当該モータ制御装置が組み込まれた製造ラインが停止するので経済的損失が発生する。したがって、DCリンクコンデンサの直流電圧値を一定値に制御することは重要である。
【0013】
例えば、特許文献1に記載された発明は、逆変換器内のスイッチング素子のスイッチング周波数を上げることで、負荷で発生した回生電力量のうち順変換器の変換能力では変換しきれない直流電力をスイッチング素子に熱損失として消費させるものであるが、熱損失の増加に伴いスイッチング素子の劣化が早まり信頼性が低下するという問題がある。また、スイッチング素子の熱損失の増加に備えてスイッチング素子のための冷却装置を別途設けなければならず、その分モータ制御装置が大型化しコストが増加するという問題がある。
【0014】
また例えば、特許文献2に記載された発明は、モータから逆変換器へ流れる回生電流の位相を補正することで、モータで発生した回生電力量のうち順変換器の変換能力では変換しきれない直流電力をモータ巻線に熱損失として消費させるものであるが、モータの熱損失の発生に備えてモータのための冷却装置も別途設けなければならず、また位相補正回路も別途設けなければならない。したがって、モータ制御装置が大型化しコストが増加するという問題がある。
【0015】
従って本発明の目的は、上記問題に鑑み、交流電源側から供給された交流電力を直流電力に変換して出力したのちさらにモータの駆動のための交流電力に変換してモータへ供給するモータ制御装置において、DCリンクコンデンサの直流電圧値を安定に維持することができる、構造容易で小型で低コストのモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を実現するために、本発明においては、モータ制御装置は、交流電源側の交流電力と直流側であるDCリンクの直流電力との間で電力変換する順変換器と、DCリンクに設けられるDCリンクコンデンサと、DCリンクに接続され、DCリンクの直流電力とモータの駆動電力もしくは回生電力である交流電力との間で電力変換する逆変換器と、DCリンクコンデンサの直流電圧値を検出する直流電圧検出部と、モータが所望の回転動作を行うことになるように逆変換器の電力変換動作を制御するためのモータ駆動指令を生成する指令生成部と、指令生成部によるモータ駆動指令の生成に用いられるモータ減速用速度変化率を記憶する速度変化率記憶部と、モータ減速時において、直流電圧検出部により検出された直流電圧値が予め設定された閾値を超えた場合、速度変化率記憶部に既に記憶されていたモータ減速用速度変化率を、より小さいモータ減速用速度変化率に書き換えてこれを速度変化率記憶部に新たに記憶させる速度変化率変更部とを備える。
【0017】
ここで、速度変化率変更部は、指令生成部により生成されたモータ駆動指令に基づいて、モータ減速時であるか否かを判定する減速判定部と、上記閾値を記憶する電圧閾値記憶部と、モータ減速時において、直流電圧検出部により検出された直流電圧値と、電圧閾値記憶部に記憶された閾値とを比較する比較部と、比較部による比較の結果、直流電圧検出部により検出された直流電圧値が、電圧閾値記憶部に記憶された閾値より大きいと判定された場合、速度変化率記憶部に既に記憶されていたモータ減速用速度変化率を、より小さいモータ減速用速度変化率に変更する変更部とを有するようにしてもよい。
【0018】
また、速度変化率変更部は、モータ減速時であってかつ順変換器は電源回生動作を行っている時に、直流電圧検出部により検出された直流電圧値が予め設定された閾値を超えた場合、速度変化率記憶部に既に記憶されていたモータ減速用速度変化率を、より小さいモータ減速用速度変化率に書き換えてこれを速度変化率記憶部に新たに記憶させるようにしてもよい。
【0019】
また、モータ制御装置は、順変換器の交流電源側の交流電流値を検出する交流電流検出部をさらに備え、速度変化率変更部は、交流電流検出部により検出された交流電流値に基づいて、順変換器が、DCリンクの直流電力を交流電力に変換して交流電源側へ出力する電源回生動作を行っているか否かを判定する電源回生動作判定部を有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、交流電源側から供給された交流電力を直流電力に変換して出力したのちさらにモータの駆動のための交流電力に変換してモータへ供給するモータ制御装置において、DCリンクコンデンサの直流電圧値を安定に維持することができる、構造容易で小型で低コストのモータ制御装置を実現することができる。
【0021】
本発明によれば、モータ減速時に発生する回生電力が非常に大きい場合やモータ制御装置の移設などによって順変換器の交流電源側の電源インピーダンスが大きくなった場合であっても、モータ減速用速度変化率を変更しDCリンクコンデンサの直流電圧値の上昇を抑制して一定値に制御するので、モータ制御装置のアラーム停止を回避することができる。
【0022】
また、本発明によれば、モータ制御装置がモータの駆動制御のために本来的に備える直流電圧検出部および交流電流検出部により検出された直流電圧値および交流電流値を用いてモータ減速用速度変化率の変更処理を実行するので、従来技術のように新たなハードウェア装置を設ける必要がない。したがって、既存のモータ制御装置にも後付けで適用することも可能であり、また、モータ制御装置内の構造は容易であり、小型化、および低コスト化を図ることができる。本発明によれば、例えば特許文献1に記載された発明におけるようなスイッチング素子のための冷却装置や特許文献2に記載された発明におけるようなモータのための冷却装置および位相補正回路を別途設ける必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1の実施例によるモータ制御装置の構成を示す図である。
【
図2】モータ制御装置においてモータ減速時に発生する減速エネルギー量が電源回生量を超えない場合におけるDCリンクコンデンサの直流電圧値およびモータ速度を説明する図であり、(A)は、DCリンクコンデンサの直流電圧値を表し、(B)は、モータ速度を表す。
図2(A)中、破線は過電圧アラームレベルを示す。
【
図3】モータ制御装置においてモータ減速時に発生する減速エネルギー量が電源回生量を超える場合におけるDCリンクコンデンサの直流電圧値およびモータ速度を説明する図であり、(A)は、DCリンクコンデンサの直流電圧値を表し、(B)は、モータ速度を表す。
図3(A)中、破線は過電圧アラームレベルを示す。
【
図4】本発明の第1の実施例によるモータ制御装置においてモータ減速時に発生する減速エネルギー量が電源回生量を超える場合におけるDCリンクコンデンサの直流電圧値およびモータ速度を説明する図であり、(A)は、DCリンクコンデンサの直流電圧値を表し、(B)は、モータ速度を表す。
【
図5】本発明の第1の実施例によるモータ制御装置におけるモータ減速時の動作フローを示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第2の実施例によるモータ制御装置の構成を示す図である。
【
図7】本発明の第2の実施例によるモータ制御装置におけるモータ減速時の動作フローを示すフローチャートである。
【
図8】モータ制御装置において、モータ減速時に発生する減速エネルギー量と交流電源側に回生される電源回生量と等しい場合におけるエネルギーの流れを説明する回路図である。
【
図9】モータ減速時に発生する減速エネルギー量が交流電源側に回生される電源回生量よりも大きい場合におけるエネルギーの流れを説明する回路図である。
【
図10】モータ制御装置の移設などによって順変換器の交流電源側の電源インピーダンスが大きくなった場合におけるエネルギーの流れを説明する回路図である。
【
図11】特開平9−121561号公報(特許文献1)に記載された発明によるシステムにおけるエネルギーの流れを説明する回路図である。
【
図12】特開2003−33061号公報(特許文献2)に記載された発明によるシステムにおけるエネルギーの流れを説明する回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の第1の実施例によるモータ制御装置の構成を示す図である。以降、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。モータ制御装置1の三相交流入力側には交流電源3が接続され、モータ制御装置1の交流モータ側には三相交流のモータ2が接続される。なお、以下で説明する実施例では、モータ制御装置1に接続される交流電源3およびモータ2をともに三相としたが、相数は本発明を特に限定するものではなく、例えば単相であってもよい。また、モータ制御装置1によって駆動されるモータ2の種類についても本発明を特に限定するものではなく、例えば誘導モータであっても同期モータであってもよい。
【0025】
図1に示すように、モータ制御装置1は、順変換器11と、DCリンクコンデンサ13と、逆変換器12と、直流電圧検出部14と、指令生成部15と、速度変化率記憶部16と、速度変化率変更部17とを備える。
【0026】
順変換器11は、交流電源3側の交流電力と直流側であるDCリンクの直流電力との間で電力変換する。すなわち、順変換器11は、交流電源3側から供給された交流電力を直流電力に変換して直流側へ出力し、モータ減速時にはDCリンクから供給された直流電力を交流電力に変換して交流電源3側へ出力する、交直双方向に変換可能である電力変換器である。順変換器11は、交直双方向に変換可能である電力変換器であれば実施形態は特に限定されず、例えば120度通電型整流回路、あるいはPWM制御方式の整流回路などがある。順変換器11は、スイッチング素子およびこれに逆並列に接続されたダイオードのブリッジ回路からなる。スイッチング素子の例としては、IGBT、サイリスタ、GTO(Gate Turn−OFF thyristor:ゲートターンオフサイリスタ)、トランジスタなどがあるが、スイッチング素子の種類自体は本発明を限定するものではなく、その他の半導体素子であってもよい。例えば、順変換器11がPWM制御方式の整流器である場合、力率1の交流電力を発生させるとともにDCリンクコンデンサ13の両端に印加される直流電圧を所望の値に保つよう、その内部のスイッチング素子のスイッチング動作が指令生成部15により生成されるPWM制御信号により制御され、また、受信したPWM制御信号に従い、交流電力を直流電力に変換する力行動作(順変換動作)および直流電力を交流電力に変換する回生動作(逆変換動作)のいずれかを行う。モータ制御装置1の制御によりモータ2を減速させる際にはモータ2にて回生電力が発生するが、順変換器11は、その内部のスイッチング素子のスイッチング動作がPWM制御信号により制御されて直流電力を交流電力に変換する回生動作(逆変換動作)を行い、逆変換器12を経て戻された回生エネルギーをさらに交流電源3側へ戻すことができる。
【0027】
DCリンクコンデンサ13は、順変換器11の直流側と逆変換器の直流側とを接続するDCリンクに設けられる。DCリンクコンデンサ13は、順変換器11の直流出力の脈動分を抑えるための平滑コンデンサとしての機能を有するものであり、かつ直流電力を蓄積し得るものである。
【0028】
逆変換器12は、DCリンクに接続され、DCリンクの直流電力とモータの駆動電力もしくは回生電力である交流電力との間で双方向に電力変換することができるものであり、受信したモータ駆動指令に従い、交流電力を直流電力に変換する力行動作(順変換動作)および直流電力を交流電力に変換する回生動作(逆変換動作)のいずれかを行う。具体的には、逆変換器12は、DCリンク側から供給される直流電力を、指令生成部15から受信したモータ駆動指令に基づき内部のスイッチング素子をスイッチング動作させ、モータ2を駆動するための所望の電圧および所望の周波数の三相交流電力に変換する。モータ2は、供給された電圧可変および周波数可変の三相交流電力に基づいて動作することになる。また、モータ2の減速時には回生電力が発生するが、指令生成部15から受信したモータ駆動指令に基づき、モータ2で発生した交流の回生電力を直流電力へ変換してDCリンクへ戻す。なお、モータ制御装置1で複数のモータ2を駆動制御する場合には、各モータ2に個別に駆動電力を供給してモータ2を駆動制御するために、逆変換器12は、モータ2の個数と同数個、並列接続される。逆変換器12は、例えばPWMインバータなどのような、スイッチング素子およびこれに逆並列に接続されたダイオードのブリッジ回路からなる。スイッチング素子の例としては、IGBT、サイリスタ、GTO(Gate Turn−OFF thyristor:ゲートターンオフサイリスタ)、トランジスタなどがあるが、スイッチング素子の種類自体は本発明を限定するものではなく、その他の半導体素子であってもよい。
【0029】
直流電圧検出部14は、DCリンクコンデンサ13の両端に印加される直流電圧値を検出する。
【0030】
指令生成部15は、モータ2が所望の回転動作を行うことになるように逆変換器の電力変換動作を制御するためのモータ駆動指令を生成する。特に本発明では、モータ2を減速制御する際には、後述する速度変化率記憶部16に記憶されたモータ減速用速度変化率を用いてモータ駆動指令を生成する。指令生成部15は、モータ2が所望の速度(加速、減速、定速、停止など)、トルク、もしくは回転子の位置で動作するためのモータ駆動指令を作成し、このモータ駆動指令に基づいた動作をモータ2がするために必要な波形や周波数を有する交流電流を逆変換器12が出力するようなモータ駆動指令を生成する。指令生成部15が生成したモータ駆動指令により逆変換器12のスイッチング動作が制御されることになる。例えば逆変換器12がPWMインバータである場合、指令生成部15は、生成したモータ駆動指令と所定のキャリア周波数を有する三角波キャリア信号とを比較し、逆変換器12であるPWMインバータ内のスイッチング素子のスイッチング動作を制御するためのPWM制御信号を生成し、各スイッチング素子に向けて出力する。
【0031】
速度変化率記憶部16は、指令生成部15によるモータ駆動指令の生成に用いられるモータ減速用速度変化率を記憶する。モータ減速用速度変化率は、モータの減速時における単位時間当たりの速度の変化量を表す。本明細書では、モータ減速用速度変化率を、大きさのみを持つ量(スカラー)で表し、すなわち、モータ減速用速度変化率が小さいほどモータは緩やかに減速することを意味し、モータ減速用速度変化率が大きいほどモータは急激に減速することを意味する。
【0032】
速度変化率変更部17は、モータ減速時において、直流電圧検出部14により検出された直流電圧値が予め設定された閾値を超えた場合、速度変化率記憶部16に既に記憶されていたモータ減速用速度変化率を、より小さいモータ減速用速度変化率に書き換え、これを速度変化率記憶部16に新たに記憶させる。このため、速度変化率変更部17は、指令生成部15により生成されたモータ駆動指令に基づいて、モータ減速時であるか否かを判定する減速判定部21と、上記閾値を記憶する電圧閾値記憶部22と、モータ減速時において、直流電圧検出部14により検出された直流電圧値と、電圧閾値記憶部22に記憶された閾値とを比較する比較部23と、比較部23による比較の結果、直流電圧検出部14により検出された直流電圧値が、電圧閾値記憶部22に記憶された閾値より大きいと判定された場合、速度変化率記憶部16に既に記憶されていたモータ減速用速度変化率を、より小さいモータ減速用速度変化率に変更する変更部24とを有する。なお、減速判定部21の変形例として、モータに一般的に設けられている速度センサからの信号に基づいて、モータ減速時であるか否かを判定するようにしてもよい。速度変化率変更部17により記速度変化率記憶部16により小さいモータ減速用速度変化率に書き換えられると、指令生成部14により生成されるモータ駆動指令は、モータ2をより緩やかに減速させる指令となり、指令生成部15が生成した当該モータ駆動指令により逆変換器12のスイッチング動作が制御され、モータ2は、モータ減速用速度変化率に書き換え前の状態よりもより緩やかに減速することになる。
【0033】
モータ減速用速度変化率は、DCリンクコンデンサ13の直流電圧値の単位時間当たりの上昇率を考慮して設定すればよく、例えば、モータ制御装置1を実際に運用する前に、実験やシミュレーションにより、モータ減速用速度変化率と当該モータ減速用速度変化率を用いた場合のDCリンクコンデンサ13の直流電圧値の上昇率との関係を示すテーブルを予め求めてこれを速度変
化率変更部17内の変更部24に設けられるメモリ(図示せず)に記憶しておき、モータ制御装置1を実際に運用する際には、速度変
化率変更部17内の変更部24は当該メモリに記憶されたテーブルからモータ減速用速度変化率を読み出すようにしてもよい。また、速度変
化率変更部17内の変更部24に設けられるメモリに記憶されるテーブルは、外部から書き換え可能としてもよい。
【0034】
続いて、モータ制御装置1の動作原理について説明する。
【0035】
図2は、モータ制御装置においてモータ減速時に発生する減速エネルギー量が電源回生量を超えない場合におけるDCリンクコンデンサの直流電圧値およびモータ速度を説明する図であり、(A)はDCリンクコンデンサの直流電圧値を表し、(B)はモータ速度を表す。
図2(A)中、破線は過電圧アラームレベルを示す。モータの減速が開始すると、モータは予め設定された減速用速度変化率にて減速を開始するが(
図2(B))、減速用速度変化率が小さい場合や順変換器の交流電源側の電源インピーダンスが小さい場合は、逆変換器の電力変換動作によりモータ側からDCリンク側へ戻される減速エネルギー量が、順変換器の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源側へ戻される電源回生量を超えることはなく、この場合はDCリンクコンデンサの直流電圧値は上昇せず、一定の電圧値に制御される(
図2(A))。
【0036】
図3は、モータ制御装置においてモータ減速時に発生する減速エネルギー量が電源回生量を超える場合におけるDCリンクコンデンサの直流電圧値およびモータ速度を説明する図であり、(A)はDCリンクコンデンサの直流電圧値を表し、(B)はモータ速度を表す。
図3(A)中、破線は過電圧アラームレベルを示す。モータが予め設定された減速用速度変化率にて減速しているとき(
図3(B))、減速用速度変化率が大きい場合(すなわちモータが急減速する場合)や順変換器の交流電源側の電源インピーダンスが大きい場合は、逆変換器の電力変換動作によりモータ側からDCリンク側へ戻される減速エネルギー量が、順変換器の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源側へ戻される電源回生量を超える場合がある。この場合は、順変換器の変換能力では変換しきれない直流電力がDCリンクコンデンサに蓄積され続けるので、DCリンクコンデンサの直流電圧値は上昇を続ける(
図3(A))。DCリンクコンデンサの直流電圧値が過電圧アラームレベルを超えると(時刻T
1)、逆変換器に対して過電圧アラーム信号を出力し、これに応答して逆変換器は電力変換動作のためのスイッチング動作をオフし、モータ制御装置はアラーム停止する。
【0037】
図4は、本発明の第1の実施例によるモータ制御装置においてモータ減速時に発生する減速エネルギー量が電源回生量を超える場合におけるDCリンクコンデンサの直流電圧値およびモータ速度を説明する図であり、(A)はDCリンクコンデンサの直流電圧値を表し、(B)はモータ速度を表す。
図4(A)中、破線は過電圧アラームレベルを示し、一点鎖線は電圧閾値記憶部22に記憶される閾値を示す。本発明の第1の実施例では、モータが予め設定された減速用速度変化率にて減速しているときにおいて(
図4(B))、直流電圧検出部14により検出された直流電圧値が電圧閾値記憶部22に記憶されていた閾値を超えたると(時刻T
2)、速度変化率記憶部16に既に記憶されていたモータ減速用速度変化率を、より小さいモータ減速用速度変化率に書き換えてこれを速度変化率記憶部16に新たに記憶させる。指令生成部15は、モータ2を減速制御する際には、速度変化率記憶部16に新たに記憶されたモータ減速用速度変化率を用いてモータ駆動指令を生成するが、モータ減速用速度変化率はより小さな値のものに変更されているので、逆変換器12の電力変換動作によりモータ側からDCリンク側へ戻される減速エネルギー量がより小さくなり、結果として、順変換器の電力変換動作によりDCリンク側から交流電源側へ戻される電源回生量内に収まるようになる。これにより、DCリンクコンデンサの直流電圧値は上昇せず、一定の電圧値に制御され、過電圧アラームレベルを超えることはない(
図4(A))。したがって、モータ制御装置1はアラーム停止することはない。
【0038】
図4から分かるように、電圧閾値記憶部22に記憶される閾値の設定如何により、モータ減速用速度変化率が変更されるタイミングが変わってくる。例えば、モータ制御装置1を実際に運用する前に、実験やシミュレーションにより、変更後のモータ減速用速度変化率に基づいて生成されたモータ駆動指令を用いてモータ2の減速制御を行った場合にDCリンクコンデンサ13の直流電圧値が過電圧アラームレベルを超えないような閾値を予め求めておき、これを電圧閾値記憶部22に記憶しておく。なお、モータ制御装置1の運用の変更によってDCリンクコンデンサの直流電圧値の上昇の仕方や過電圧アラームレベルも変わってくるので、電圧閾値記憶部22に記憶される閾値は、外部から書き換え可能とするのが好ましい。
【0039】
図5は、本発明の第1の実施例によるモータ制御装置におけるモータ減速時の動作フローを示すフローチャートである。
【0040】
モータ制御装置1によりモータ2を駆動制御している場合において、ステップS101において、直流電圧検出部14は、DCリンクコンデンサ13の両端に印加される直流電圧値を検出する。
【0041】
ステップS102において、速度変化率変更手段17内の減速判定部21は、指令生成部15により生成されたモータ駆動指令に基づいて、モータ減速時であるか否かを判定する。ステップS102においてモータ減速時であると判定された場合は、ステップS103へ進む。
【0042】
ステップS103では、速度変化率変更手段17内の比較部23は、直流電圧検出部14により検出された直流電圧値と、電圧閾値記憶部22に記憶された閾値とを比較する。比較の結果、直流電圧検出部14により検出された直流電圧値が電圧閾値記憶部22に記憶された閾値を超えたと判定された場合は、ステップS104へ進む。
【0043】
ステップS104では、速度変化率変更部17内の変更部24は、速度変化率記憶部16に既に記憶されていたモータ減速用速度変化率を、より小さいモータ減速用速度変化率に変更する。変更後のモータ減速用速度変化率は、速度変化率記憶部16に新たに記憶される。これ以降、指令生成部15は、速度変化率記憶部16に新たに記憶されたモータ減速用速度変化率を用いてモータ駆動指令を生成し、モータ2を減速制御する。
【0044】
図6は、本発明の第2の実施例によるモータ制御装置の構成を示す図である。本発明の第2の実施例は、速度変化率変更部17がモータ減速用速度変化率の変更処理を実行する条件として、「モータ2が減速中であること」に加えて、「順変換器11が電源回生動作を行っていること」を加えたものである。すなわち、本発明の第2の実施例では、速度変化率変更部17は、モータ減速時であってかつ順変換器11は電源回生動作を行っているときに、直流電圧検出部14により検出された直流電圧値が予め設定された閾値を超えた場合、速度変化率記憶部16に既に記憶されていたモータ減速用速度変化率を、より小さいモータ減速用速度変化率に書き換えてこれを速度変化率記憶部16に新たに記憶させる。このようにすることで、本発明の第2の実施例は、第1の実施例の場合に比べて、より確実かにモータ減速用速度変化率の変更処理を実行することができる。
【0045】
図6に示すように、本発明の第2の実施例によるモータ制御装置1は、順変換器の交流電源側の交流電流値を検出する交流電流検出部18をさらに備える。また、速度変化率変更部17は、交流電流検出部18により検出された交流電流値に基づいて、順変換器11が、DCリンクの直流電力を交流電力に変換して交流電源側へ出力する電源回生動作を行っているか否かを判定する電源回生動作判定部25をさらに有する。速度変化率変更部17は、モータ減速時であってかつ順変換器11は電源回生動作を行っている時に、直流電圧検出部14により検出された直流電圧値が予め設定された閾値を超えた場合、速度変化率記憶部16に既に記憶されていたモータ減速用速度変化率を、より小さいモータ減速用速度変化率に書き換えてこれを速度変化率記憶部16に新たに記憶させる。指令生成部15は、速度変化率記憶部16に記憶されたモータ減速用速度変化率を用いてモータ駆動指令を生成し、モータ2を減速制御する。なお、これ以外の回路構成要素については
図1に示す回路構成要素と同様であるので、同一の回路構成要素には同一符号を付して当該回路構成要素についての詳細な説明は省略する。
【0046】
図7は、本発明の第2の実施例によるモータ制御装置におけるモータ減速時の動作フローを示すフローチャートである。
【0047】
モータ制御装置1によりモータ2を駆動制御している場合において、ステップS201において、直流電圧検出部14は、DCリンクコンデンサ13の両端に印加される直流電圧値を検出する。
【0048】
ステップS202において、速度変化率変更手段17内の減速判定部21は、指令生成部15により生成されたモータ駆動指令に基づいて、モータ減速時であるか否かを判定する。ステップS202においてモータ減速時であると判定された場合は、ステップS203へ進む。
【0049】
ステップS203では、速度変化率変更手段17内の電源回生動作判定部25は、交流電流検出部18により検出された交流電流値に基づいて、順変換器11が、DCリンクの直流電力を交流電力に変換して交流電源側へ出力する電源回生動作を行っているか否かを判定する。ステップS203において順変換器11が電源回生動作を行っていると判定された場合は、ステップS204へ進む。
【0050】
ステップS204では、速度変化率変更手段17内の比較部23は、直流電圧検出部14により検出された直流電圧値と、電圧閾値記憶部22に記憶された閾値とを比較する。比較の結果、直流電圧検出部14により検出された直流電圧値が電圧閾値記憶部22に記憶された閾値を超えたと判定された場合は、ステップS205へ進む。
【0051】
ステップS205では、速度変化率変更部17内の変更部24は、速度変化率記憶部16に既に記憶されていたモータ減速用速度変化率を、より小さいモータ減速用速度変化率に変更する。変更後のモータ減速用速度変化率は、速度変化率記憶部16に新たに記憶される。これ以降、指令生成部15は、速度変化率記憶部16に新たに記憶されたモータ減速用速度変化率を用いてモータ駆動指令を生成し、モータ2を減速制御する。
【0052】
なお、上述の第1および第2の実施例では、モータ制御装置1で駆動制御するモータ2の個数を1個としたので、モータ2に対して1個の逆変換器21が設けられた。一般に、駆動軸(送り軸および主軸)が複数ある場合は、各駆動軸を駆動するためにモータも複数設けられる。この場合、逆変換器は、複数の駆動軸に対応してそれぞれ設けられる各モータに個別に駆動電力を供給してモータを駆動制御するために、モータの個数と同数個、並列接続され、順変換器については、モータ制御装置のコストや占有スペースを低減する目的で、複数の逆変換器に対して1個が設けられる。本発明は、このような複数個の逆変換器で複数個のモータを駆動制御するモータ制御装置にも適用可能である。この場合、例えば、複数個のモータのうち、最も大きな減速エネルギー量を発生するモータについてのみ、上述した本発明によるモータ減速用速度変化率の変更処理を実行するようにしてもよい。またあるいは、複数個のモータのうち、いくつかのモータについて本発明によるモータ減速用速度変化率の変更処理を実行し、残りのモータについては本発明によるモータ減速用速度変化率の変更処理は実行しないようにしてもよい。またあるいは、複数個のモータに対して、本発明によるモータ減速用速度変化率の変更処理が実行される優先順位を設けてもよく、例えば、まず第1のモータについて本発明によるモータ減速用速度変化率の変更処理を実行し、当該実行によってもDCリンクコンデンサの直流電圧値が上昇してしまう場合は第1および第2のモータについて本発明によるモータ減速用速度変化率の変更処理を実行し、当該実行によってもDCリンクコンデンサの直流電圧値が上昇してしまう場合は第1〜第3のモータについて本発明によるモータ減速用速度変化率の変更処理を実行する処理を行うようにしてもよい。
【0053】
なお、上述した指令生成部15、速度変化率記憶部16、および速度変化率変更部17は、例えばソフトウェアプログラム形式で構築されてもよく、あるいは各種電子回路とソフトウェアプログラムとの組み合わせで構築されてもよい。例えばこれらの手段および回路をソフトウェアプログラム形式で構築する場合は、モータ制御装置1内にある演算処理装置をこのソフトウェアプログラムに従って動作させることで上述の各部の機能が実現される。また、モータ制御装置がモータの駆動制御のために本来的に備える直流電圧検出部14および交流電流検出部18により検出された直流電圧値および交流電流値を用いて本発明によるモータ減速用速度変化率の変更処理を実行するので、従来技術のように新たなハードウェア装置を設ける必要がないことから、既存のモータ制御装置にも後付けで適用することも可能である。この場合、上述した指令生成部15、速度変化率記憶部16、および速度変化率変更部17に係るソフトウェアプログラムを当該既存のモータ制御装置内の演算処理装置に追加的にインストールすればよい。
【0054】
このように、本発明によれば、モータ制御装置1がモータの駆動制御のために本来的に備える直流電圧検出部14および交流電流検出部18により検出された直流電圧値および交流電流値を用いて本発明によるモータ減速用速度変化率の変更処理を実行するので、従来技術のように新たなハードウェア装置を設ける必要なくDCリンクコンデンサの直流電圧値を安定に維持することができ、構造容易であり、小型化、および低コスト化を図ることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 モータ制御装置
2 モータ
3 商用三相交流電源
11 整流器
12 逆変換器
13 DCリンクコンデンサ
14 直流電圧検出部
15 指令生成部
16 速度変化率記憶部
17 速度変化率変更部
18 交流電流検出部
21 減速判定部
22 電圧閾値記憶部
23 比較部
24 変更部
25 電源回生動作判定部