(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
建物の空調対象となる複数の空間部にそれぞれ設けられ、当該建物に設置された空調室内機に接続されて当該空調室内機で生成された空調空気を当該空間部に供給する給気部と、
前記空調室内機に接続されて前記空間部の外側から当該空間部内の内気を取り込むと共に当該内気を還気として当該空調室内機に戻す還気部と、
前記空間部の出入り口及び当該空間部の間仕切り位置の少なくとも一方に配置されていると共に請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の吊戸構造が適用された吊戸と、
を有する建物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された通気遮音ドアは、開き戸に対しては有効に機能するものの、吊戸には適用することができない。具体的に説明すると、吊戸は、その下端面の溝部に案内部が挿入されるため、溝部の内側に遮音部材を配置することができない。また、吊戸では溝部の下方側を空気流が流れると笛吹き音が発生し、静粛性が損なわれることが考えられる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、通気性と静粛性との両立を図ることができる吊戸構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様に係る吊戸構造は、建物の天井部側に設けられたレール部と、前記建物の床部における前記レール部の建物下方側に設けられていると共に、建物上方側に突出された案内部と、前記レール部の建物下方側に幅方向を当該レール部の長手方向とされてかつ下端面と前記床部との間に所定の間隔が設けられた状態で配置されていると共に、当該下端面に前記案内部を挿入可能とされた溝部が当該幅方向に沿って設けられた吊戸本体部と、前記吊戸本体部の上部を前記レール部に吊り下げると共に、当該吊戸本体部を当該レール部に沿ってスライド移動可能とする吊車と、前記下端面の建物下方側を流れる空気流の前記溝部への流入を抑制する流入抑制部と、を有している。
【0007】
第1の態様に係る吊戸構造では、建物の天井部側にレール部が設けられており、当該建物の床部における当該レール部の建物下方側には、建物上方側に突出された案内部が設けられている。そして、レール部の建物下方側には、吊戸本体部がその幅方向をレール部の長手方向とされて配置されており、吊戸本体部の上部が吊車を介してレール部に吊り下げられている。一方、吊戸本体部の下端面には、案内部を挿入可能とされた溝部が吊戸本体部の幅方向に沿って設けられており、吊戸本体部は、溝部に挿入された案内部によって案内された状態で、レール部に沿ってスライド移動することが可能となっている。このため、本態様に係る吊戸構造では、開き戸を開閉する場合と比し、開閉の際の体の動きを少なくすることができる。また、吊戸本体部は、その下端面と床部との間に所定の間隔が設けられた状態で配置されているため、当該下端面と床部との間に空気の流入経路を確保することができる。
【0008】
ところで、上述したような吊戸構造では、吊戸が閉止された状態において、空気流が吊戸本体部に設けられた溝部の建物下方側を流れると当該溝部の内側に空気流が流入し、笛吹き音が発生することが考えられる。
【0009】
ここで、本態様では、流入抑制部によって、吊戸本体部の下端面の建物下方側を流れる空気流が、当該吊戸本体部の溝部の内側に流入するのを抑制することができる。その結果、吊戸本体部の建物下方側を流れる空気流による笛吹き音の発生を抑制することができる。
【0010】
第2の態様に係る吊戸構造は、第1の態様に係る吊戸構造において、前記流入抑制部は、前記溝部における前記空気流の上流側の周縁部に沿って配置されていると共に前記床部に向かって凸となる突条部とされている。
【0011】
第2の態様に係る吊戸構造では、床部に向かって凸となる突条部が、吊戸本体部の下端面に設けられた溝部における当該下端面の建物下方側を流れる空気流の上流側の周縁部に沿って配置されている。このため、吊戸本体部の下端面の建物下方側を流れる空気流は、突条部における当該空気流の上流側の面に当たることで当該突条部から剥離した状態となり、当該下端面から離れるように流れていく。
【0012】
第3の態様に係る吊戸構造は、第2の態様に係る吊戸構造において、前記突条部は、前記吊戸本体部の厚さ方向の長さが前記溝部の前記上流側の周縁部から前記下端面における当該上流側の周縁部までの長さと同じ長さに設定されている。
【0013】
第3の態様に係る吊戸構造では、突条部の吊戸本体部の厚さ方向の長さが、当該吊戸本体部の下端面に設けられた溝部における当該下端面の建物下方側を流れる空気流の上流側の周縁部から当該下端面における当該上流側の周縁部までの長さと同じ長さに設定されている。このため、突条部を吊戸本体部の下端面に配置するときには、当該下端面の周縁部及び当該下端面に設けられた溝部の周縁部を位置決めの基準として用いることができる。
【0014】
第4の態様に係る吊戸構造は、第2の態様又は第3の態様に係る吊戸構造において、前記突条部は、前記吊戸本体部の幅方向から見た断面視で前記床部側に凸となる半円状に形成された弾性部材で構成されている。
【0015】
第4の態様に係る吊戸構造では、突条部の吊戸本体部の幅方向から見た断面形状が床部側に凸となる半円状とされており、当該断面形状が矩形状等にされている場合と比し、当該突条部に沿って流れる空気流が乱流となることを抑制することができる。その結果、空気流が突条部の近傍を通過するときに風切り音が発生することを抑制することができる。また、突条部は、上述した断面形状とされていることに加え、弾性部材で構成されているため、使用者の足部の指等が当該突条部とぶつかっても当該足部が受ける衝撃が緩和される。
【0016】
第5の態様に係る吊戸構造は、第1の態様に係る吊戸構造において、前記流入抑制部は、前記溝部における前記空気流の上流側の周縁部に沿って設けられていると共に当該上流側の周縁部から前記溝部における前記空気流の下流側の周縁部に向かって延出された板状でかつ弾性を有する第1部材と、前記下流側の周縁部に沿って設けられていると共に当該下流側の周縁部から前記上流側の周縁部に向かって延出された板状でかつ弾性を有する第2部材と、を備え、前記第1部材における前記空気流の下流側の端部と前記第2部材における当該空気流の上流側の端部とが建物高さ方向に重なっている。
【0017】
第5の態様に係る吊戸構造では、吊戸本体部の下端面に設けられた溝部における当該下端面の建物下方側を流れる空気流の上流側の周縁部に、当該周縁部に沿って、板状でかつ弾性を有する第1部材が設けられている。この第1部材は、上記上流側の周縁部から上記溝部における上記空気流の下流側の周縁部に向かって延出されている。一方、上記溝部における上記空気流の下流側の周縁部には、当該周縁部に沿って、板状でかつ弾性を有する第2部材が設けられている。この第2部材は、上記下流側の周縁部から上記上流側の周縁部に向かって延出されている。そして、第1部材における上記空気流の下流側の端部と第2部材における当該空気流の上流側の端部とが建物高さ方向に重なっている。このため、吊戸本体部に設けられた溝部は、第1部材及び第2部材によって建物下方側から覆われることとなり、上記空気流が吊戸本体部の溝部の内側に流入するのを抑制することができる。
【0018】
さらに、吊戸本体部の溝部における案内部が位置している箇所では、第1部材及び第2部材における当該箇所に位置している部分が当該案内部に追従して変形する。このため、第1部材と第2部材との境界部から案内部の溝部への挿入が許容されると共に、案内部が第1部材及び第2部材に対して相対移動しても、この状態を維持することが可能となる。
【0019】
第6の態様に係る吊戸構造は、第1の態様に係る吊戸構造において、前記流入抑制部は、前記溝部を建物下方側から覆う板状でかつ弾性を有する覆い部で構成されていると共に、当該覆い部には、前記吊戸本体部の幅方向に沿って前記案内部を挿入可能な長孔部が形成されている。
【0020】
第6の態様に係る吊戸構造では、吊戸本体部の溝部が、板状でかつ弾性を有する覆い部で建物下方側から覆われている。このため、吊戸本体部の外観を損なうことなく、吊戸本体部の下端面の建物下方側を流れる空気流が、当該下端面に設けられた溝部の内側に流入するのを抑制することができる。また、覆い部には、吊戸本体部の幅方向に沿って案内部を挿入可能な長孔部が形成されており、吊戸本体部が案内部に対して相対移動するときには、当該案内部は長孔部の内側を覆い部に対して相対移動することとなる。
【0021】
第7の態様に係る建物は、建物の空調対象となる複数の空間部にそれぞれ設けられ、当該建物に設置された空調室内機に接続されて当該空調室内機で生成された空調空気を当該空間部に供給する給気部と、前記空調室内機に接続されて前記空間部の外側から当該空間部内の内気を取り込むと共に当該内気を還気として当該空調室内機に戻す還気部と、前記空間部の出入り口及び当該空間部の間仕切り位置の少なくとも一方に配置されていると共に請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の吊戸構造が適用された吊戸と、を有している。
【0022】
第7の態様に係る建物では、建物の空調対象となる複数の空間部にそれぞれ給気部が設けられており、当該給気部は、当該建物に設置された空調室内機に接続されていると共に、当該空調室内機で生成された空調空気を当該空間部に供給している。また、空間部内の内気は、その外側から空調室内機に接続された還気部で取り込まれると共に、還気として当該空調室内機に戻されるようになっている。このため、本態様では、空調室内機、給気部及び還気部を用いて建物の全館空調を行うことができる。
【0023】
ここで、本態様では、上記空間部の出入り口及び当該空間部の間仕切り位置の少なくとも一方に、第1の態様〜第6の態様の何れか1態様に係る吊戸構造が適用された吊戸が配置されている。このため、本態様では、給気部から建物の空間部に空調空気が供給されるときや、当該空間部内の内気が還気部に取り込まれるときに、吊戸と建物の床部との間を流れる空気流による笛吹き音の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、第1の態様に係る吊戸構造では、通気性と静粛性との両立を図ることができるという優れた効果を有する。
【0025】
第2の態様に係る吊戸構造では、吊戸本体部のスライド移動に対して影響を及ぼすことなく、当該吊戸本体部の溝部への空気流の流入を抑制することができるという優れた効果を有する。
【0026】
第3の態様に係る吊戸構造では、突条部の位置決めを容易に行うことができるという優れた効果を有する。
【0027】
第4の態様に係る吊戸構造では、風切り音の発生の抑制と安全性の確保との両立を図ることができるという優れた効果を有する。
【0028】
第5の態様に係る吊戸構造では、吊戸本体部のスライド移動を許容しつつ、笛吹き音が抑制される確度を向上させることができるという優れた効果を有する。
【0029】
第6の態様に係る吊戸構造では、吊戸の意匠性を確保しつつ、吊戸本体部の溝部への空気流の流入を抑制することができるという優れた効果を有する。
【0030】
第7の態様に係る建物では、全館空調可能な建物において、通気性と静粛性との両立を図ることができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<第1実施形態>
以下、
図1〜
図5を用いて、本発明の第1実施形態に係る建物10の一例について説明する。
【0033】
まず、本実施形態に係る「建物10」の全体構造について説明する。
図5に示されるように、本実施形態に係る建物10は、基礎12、一階部分14、二階部分16及び図示しない屋根部分を含んで、二階建住宅として構成されている。具体的には、建物10は、基礎12上に複数個の下階(一階部分14)側の建物ユニットを据え付けた後に、当該下階側の建物ユニット上に複数個の上階(二階部分16)側の建物ユニットを据え付けることにより構成されている。
【0034】
また、一階部分14は、廊下18及び空間部としての「部屋20、22、24」を含んで構成されており、これらのうち部屋20、22の出入り口には後述する「吊戸56」が設けられていると共に、部屋24の出入り口にはドア26(開き戸)が設けられている。一方、二階部分16は、廊下28及び空間部としての「部屋30、32、34」を含んで構成されており、これらのうち部屋30、32の出入り口にはドア26が設けられていると共に、部屋34の出入り口には吊戸56が設けられている。なお、吊戸56は、部屋24の間仕切位置にも配置されている。また、一階部分14及び二階部分16に設けられたドア26や吊戸56は、廊下18又は廊下28に面して配置されているが、
図5では便宜的にドア26及び吊戸56を水平方向に配列して示している。
【0035】
さらに、本実施形態では、建物10が全館空調システム36を備えており、当該全館空調システム36は、「空調室内機38」、図示しない空調室外機、「給気部40」及び「還気部42」を含んで構成されている。
【0036】
空調室内機38は、一階部分14側の廊下18及び二階部分16側の廊下28の天井裏の空間にそれぞれ配置されており、当該空調室内機38は、冷媒管44によって屋外に配置された空調室外機に接続されている。
【0037】
給気部40は、一階部分14を構成すると共に空調対象となる部屋20、22、24の「天井部46」及び二階部分16を構成すると共に空調対象となる部屋30、32、34」の「天井部48」にそれぞれ設けられている。これらの給気部40は、一階部分14及び二階部分16の天井裏に配置された空調ダクト50を介して空調室内機38に接続されており、当該空調室内機38で生成された空気流としての「空調空気W1」を一階部分14及び二階部分16の空調対象となる各部屋に供給することが可能となっている。なお、一階部分14では、各部屋に供給された空調空気W1は、ドア26が設けられた部屋では、ドア26と「床部52」の間(アンダーカット)から、吊戸56が設けられた部屋では吊戸56と床部52との間から、それぞれ廊下18に流れていくようになっている。また、二階部分16においても同様に、各部屋に供給された空調空気W1は、ドア26と「床部54」の間や吊戸56と床部54との間を通って、廊下28に流れていくようになっている。
【0038】
一方、還気部42は、空調室内機38に直接接続されており、一階部分14及び二階部分16の空調対象となる各部屋の内気をこれらの部屋の外側から取り込むと共に、当該内気を空気流としての「還気W2」として空調室内機38に戻すことが可能となっている。なお、一階部分14では、各部屋から流れ出す還気W2が、ドア26が設けられた部屋では、ドア26と床部52の間から、吊戸56が設けられた部屋では吊戸56と床部52との間から、それぞれ廊下18に流れていくようになっている。また、二階部分16においても同様に、各部屋から流れ出す還気W2が、ドア26と床部54の間や吊戸56と床部54との間を通って、廊下28に流れていくようになっている。
【0039】
そして、本実施形態では、部屋20等に設けられた吊戸56に本実施形態に係る吊戸構造が適用されている。以下、部屋20に設けられた吊戸56を一例として挙げて、本実施形態の要部である吊戸構造について詳細に説明する。
【0040】
まず、
図2〜
図4を用いて吊戸56の基本構造について説明する。吊戸56は、「吊戸本体部58」及び「吊車60」を含んで構成されている。吊戸本体部58は、木製とされていると共に、正面視で矩形の板状とされており、その長手方向を建物高さ方向とされて配置されている。この吊戸本体部58の建物上方側の端部における当該吊戸本体部58の幅方向両側の側面には、吊車60を取り付けるためのU溝部62が形成されている。一方、吊戸本体部58の「下端面58A」には、当該吊戸本体部58の幅方向に延びる下端面58Aの中心線に沿って、「溝部64」が形成されている。なお、吊戸本体部58におけるその幅方向一方側の周縁部には、取っ手66が設けられている。
【0041】
吊車60は、後述するように「レール部86」に載置されたローラー部68と、当該ローラー部68を支持する支持部70と、当該支持部70が取り付けられたケーシング部72とを含んで構成されている。この吊車60は、ケーシング部72が、吊戸本体部58のU溝部62内に納まった状態で、当該ケーシング部72がタッピングビス等の取付部材によって吊戸本体部58に取り付けられることで固定されている。なお、吊車60は、支持部70を調整することで、ローラー部68の吊戸本体部58に対する位置を調整可能な構成とされている。
【0042】
一方、部屋20の廊下18側の間仕切壁74には、吊戸56によって開放又は閉止される部屋20の「出入り口76」が形成されており、当該出入り口76の周縁部には、吊戸56が取り付けられる木製の戸枠78が設けられている。この戸枠78は、正面視で建物下方側が開放された矩形枠状に構成されており、出入り口76の建物上方側の周縁部に沿って配置された上側枠部80と、建物高さ方向に延在する一対の縦枠部82とを含んで構成されている。
【0043】
より詳しくは、上側枠部80は、その長手方向の長さが吊戸本体部58の幅方向の長さの2倍程度に設定されており、吊戸56は開放状態及び閉止状態の何れの状態であっても戸枠78内に納まるようになっている。なお、上側枠部80は、天井部46と連続して設けられた鴨居部に取り付けられていてもよいし、天井部46に直接取り付けられていてもよく、部屋20の構成に応じて種々の構成を取り得る。そして、上側枠部80には、その長手方向から見た断面視で建物下方側に開放された矩形状とされていると共に当該長手方向に延びる溝部84が形成されており、当該溝部84の内側には、レール部86が配置されている。
【0044】
レール部86は、鋼材で構成されており、その長手方向を上側枠部80の長手方向とされて配置されていると共に、当該長手方向から見た断面形状が建物下方側に開放された矩形枠状に構成されている。より詳しくは、レール部86は、底壁部86A、一対の側壁部86B及び一対の延出壁部86Cを含んで構成されている。底壁部86Aは、溝部84を構成しかつ床部52側に面する底面部84Aに沿って配置されており、側壁部86Bは、当該溝部84を構成しかつ間仕切壁74の厚さ方向に互いに対向している側面部84Bに沿って配置されている。また、延出壁部86Cは、一対の側壁部86Bの建物下方側の端部86B1にそれぞれ設けられていると共に、一方の端部86B1から他方の端部86B1に向かって延出されている。なお、レール部86は、その底壁部86Aの建物下方側からタッピングビス88等の取付部材が上側枠部80に螺入されることで取り付けられている。
【0045】
そして、吊戸本体部58は、レール部86の建物下方側に、その幅方向をレール部86の長手方向とされて配置された状態で、延出壁部86Cの建物上方側に吊車60のローラー部68が載置されることで、レール部86に支持されている。つまり、吊戸本体部58は、その「上部58B」が吊車60によって吊り下げられた状態されていると共に、当該吊車60によってレール部86に沿ってスライド移動可能とされている。また、吊戸本体部58がレール部86に取り付けられた状態において、吊戸本体部58の下端面58Aと床部52との間には「所定の間隔D」が設けられるようになっている。なお、所定の間隔Dは、10[mm]に設定されている。
【0046】
一方、床部52におけるレール部86の建物下方側には、ピン部90Aと取付部90Bとを含んで構成された「案内部90」が設けられている。ピン部90Aは、建物上方側に突出されて吊戸本体部58の溝部64に挿入可能な円柱状とされており、取付部90Bは、当該ピン部90Aの下端部に一体に設けられると共に平面視で矩形の板状とされている。この案内部90は、吊戸56が閉止された状態において、吊戸本体部58の建物下方側の周縁部における取っ手66と反対側の端部の近傍に位置するように配置されている。そして、案内部90のピン部90Aは、吊戸本体部58がレール部86に取り付けられた状態において、溝部64に挿入された状態となっている。これにより、吊戸本体部58は、溝部64に挿入されたピン部90Aによって案内された状態で、レール部86に沿ってスライド移動することが可能となっている。なお、案内部90は、その底壁部86Aの建物上方側からタッピングビス92等の取付部材が床部52に螺入されることで取り付けられている。
【0047】
ここで、本実施形態では、吊戸本体部58の下端面58Aに流入抑制部ならびに突条部としての「パッキン94」が設けられている点に特徴がある。以下、
図1を主に用いて、パッキン94の構成について詳細に説明していくこととする。
【0048】
このパッキン94は、ゴム等の弾性を有する樹脂部材で構成されており、
図2にも示されるように、吊戸本体部58の溝部64における部屋20側の周縁部64Aに沿って配置されている。換言すれば、パッキン94は、溝部64における空調空気W1及び還気W2の上流側の周縁部64Aに配置されている。また、パッキン94は、その長手方向(吊戸本体部58の幅方向)から見た断面形状が床部52側に凸となる半円状とされている。詳しくは、パッキン94は、その建物上方側を構成しかつ平面視で矩形の板状とされた上壁部94Aと、その建物下方側を構成しかつ半円筒状に構成された周壁部94Bとを含んで筒状に構成されている。
【0049】
さらに、パッキン94の吊戸本体部58の厚さ方向の「長さL1」は、溝部64の周縁部64Aから吊戸本体部58の下端面58Aにおける部屋20側(空調空気W1及び還気W2の上流側)の周縁部58A1までの「長さL2」と同じ長さに設定されている。なお、パッキン94は、その上壁部94Aが、図示しない接着剤等の接合部によって吊戸本体部58の下端面58Aに接合されることで固定されている。また、パッキン94の建物下方側の頂点と床部52との間隔Sは、4.5[mm]≦S<7[mm]となるように設定されている。
【0050】
<本実施形態の作用及び効果>
次に、本実施形態の作用並びに効果を説明する。
【0051】
本実施形態では、建物10の天井部46側にレール部86が設けられており、建物10の床部52におけるレール部86の建物下方側には、建物上方側に突出されたピン部90Aを備えた案内部90が設けられている。そして、レール部86の建物下方側には、吊戸本体部58がその幅方向をレール部86の長手方向とされて配置されており、吊戸本体部58の上部58Bが吊車60を介してレール部86に吊り下げられている。一方、吊戸本体部58の下端面58Aには、案内部90のピン部90Aを挿入可能とされた溝部64が吊戸本体部58の幅方向に沿って設けられており、吊戸本体部58は、溝部64に挿入された案内部90のピン部90Aによって案内された状態で、レール部86に沿ってスライド移動することが可能となっている。このため、本実施形態に係る吊戸構造では、開き戸を開閉する場合と比し、開閉の際の体の動きを少なくすることができる。また、吊戸本体部58は、その下端面58Aと床部との間に所定の間隔Dが設けられた状態で配置されているため、当該下端面58Aと床部52との間に空気の流入経路を確保することができる。
【0052】
ところで、上述したような吊戸構造では、吊戸56が閉止された状態において、空調空気W1や還気W2が吊戸本体部58に設けられた溝部64の建物下方側を流れると当該溝部64の内側に空調空気W1や還気W2が流入し、笛吹き音が発生することが考えられる。
【0053】
ここで、本実施形態では、パッキン94によって、吊戸本体部58の下端面58Aの建物下方側、より具体的には当該下端面58Aの近傍を流れる空調空気W1や還気W2が、当該吊戸本体部58の溝部64の内側に流入するのを抑制することができる。その結果、吊戸本体部58の建物下方側を流れる空調空気W1や還気W2による笛吹き音の発生を抑制することができる。したがって、本実施形態では、通気性と静粛性との両立を図ることができる。
【0054】
具体的に説明すると、本実施形態では、床部52に向かって凸となるパッキン94が、吊戸本体部58の下端面58Aに設けられた溝部64における周縁部64Aに沿って配置されている。このため、吊戸本体部58の下端面58Aの建物下方側を流れる空調空気W1や還気W2は、パッキン94における空調空気W1や還気W2の上流側の面に当たることでパッキン94から剥離した状態となり、下端面58Aから離れるように流れていく。したがって、本実施形態では、吊戸本体部58のスライド移動に対して影響を及ぼすことなく、吊戸本体部58の溝部64への空気流の流入を抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態では、パッキン94の吊戸本体部58の厚さ方向の長さL1が、当該吊戸本体部58の下端面58Aに設けられた溝部64における周縁部64Aから当該下端面58Aにおける周縁部58A1までの長さL2と同じ長さに設定されている。このため、パッキン94を吊戸本体部58の下端面58Aに配置するときには、当該下端面58Aの周縁部58A1及び溝部64の周縁部64Aを位置決めの基準として用いることができる。したがって、本実施形態では、パッキン94の位置決めを容易に行うことができる。なお、ここでいう同じ長さとは、上記効果が得られる程度の長さを示しており、本実施形態は、パッキン94の長さL1が周縁部64Aから周縁部58A1までの長さL2と全く同じ寸法とされた構成のみでなく、寸法L1と寸法L2とが上記効果が得られる範囲で異なる構成も取り得る。
【0056】
さらに、本実施形態では、パッキン94の吊戸本体部58の幅方向から見た断面形状が床部52側に凸となる半円状とされており、当該断面形状が矩形状等にされている場合と比し、パッキン94に沿って流れる空調空気W1や還気W2が乱流となることを抑制することができる。その結果、空調空気W1や還気W2がパッキン94の近傍を通過するときに風切り音が発生することを抑制することができる。また、パッキン94は、上述した断面形状とされていることに加え、弾性部材で構成されているため、使用者の足部の指等が当該突条部とぶつかっても当該足部が受ける衝撃が緩和される。したがって、本実施形態では、風切り音の発生の抑制と安全性の確保との両立を図ることができる。
【0057】
加えて、本実施形態では、全館空調システム36を備えており、建物10の空調対象となる複数の部屋20、22、24、30、32、34にそれぞれ当該全館空調システム36の一部を構成する給気部40が設けられている。そして、給気部40は、建物10に設置された空調室内機38に接続されていると共に、当該空調室内機38で生成された空調空気W1を上記の部屋に供給している。また、各部屋内の内気は、その外側から空調室内機38に接続された還気部42で取り込まれると共に、還気W2として当該空調室内機38に戻されるようになっている。このため、本実施形態では、空調室内機38、給気部40及び還気部42を含んで構成された全館空調システム36を用いて建物10の全館空調を行うことができる。
【0058】
ここで、本実施形態では、部屋24、30、32の出入り口及び部屋34の間仕切位置に本実施形態に係る吊戸構造が適用された吊戸56が配置されている。このため、本実施形態では、給気部40から部屋24、30、32に空調空気W1が供給されるときや、部屋24、30、32内の内気が還気W2として還気部42に取り込まれるときに、吊戸56と床部52との間を流れる空気流による笛吹き音の発生を抑制することができる。したがって、本実施形態では、全館空調可能な建物10において、通気性と静粛性との両立を図ることができる。
【0059】
<第2実施形態>
次に、
図6を用いて本発明の第2実施形態に係る吊戸構造が適用された「吊戸100」の構成について説明する。なお、上述した第1実施形態と同一構成部分については、同一の番号を付してその説明を省略する。
【0060】
本実施形態では、流入抑制部が「第1部材102」及び「第2部材104」の2つの部材を含んで構成されている点に特徴がある。具体的に説明すると、第1部材102は、ゴム等の弾性を有する樹脂部材で構成されている。また、第1部材102は、吊戸本体部58の溝部64の周縁部64Aに沿って設けられていると共に、当該周縁部64Aから溝部64の廊下18側(空調空気W1及び還気W2の下流側)の周縁部64Bに向かって延出された平面視で矩形の板状に形成されている。
【0061】
一方、第2部材104は、第1部材102と同じくゴム等の弾性を有する樹脂部材で構成されている。また、また、第2部材104は、溝部64の周縁部64Bに沿って設けられていると共に、当該周縁部64Bから溝部64の周縁部64Bに向かって延出された平面視で矩形の板状に形成されている。そして、第1部材102における廊下18側(空調空気W1及び還気W2の下流側)の端部102Aと第2部材104における部屋20側(空調空気W1及び還気W2の上流側)の端部104Aとが、端部102Aが端部104Aの建物下方側に配置された状態で建物高さ方向に重なっている。なお、第1部材102及び第2部材104は、第1部材102の端部102Aが、第2部材104の端部104Aの建物上方側に位置するように配置されていてもよい。
【0062】
このような構成によれば、吊戸本体部58に設けられた溝部64は、第1部材102及び第2部材104によって建物下方側から覆われることとなり、空調空気W1及び還気W2が吊戸本体部58の溝部64の内側に流入するのを抑制することができる。
【0063】
さらに、吊戸本体部58の溝部64における案内部90のピン部90Aが位置している箇所では、第1部材102及び第2部材104における当該箇所に位置している部分が当該ピン部90Aに追従して変形する。換言すれば、この状態では、第1部材102及び第2部材104が、案内部90のピン部90Aに押圧されて建物上方側に曲がった状態となっている。このため、第1部材102と第2部材104との境界部から案内部90のピン部90Aの溝部64への挿入が許容されると共に、吊戸100のスライド移動によって、案内部90が第1部材102及び第2部材104に対して相対移動しても、この状態を維持することが可能となる。したがって、本実施形態では、吊戸本体部のスライド移動を許容しつつ、笛吹き音が抑制される確度を向上させることができる。
【0064】
<第3実施形態>
次に、
図7及び
図8を用いて本発明の第3実施形態に係る吊戸構造が適用された「吊戸110」の構成について説明する。なお、上述した第1実施形態と同一構成部分については、同一の番号を付してその説明を省略する。
【0065】
本実施形態では、流入抑制部が「長孔部114」が形成された「覆い部112」で構成されている点に特徴がある。具体的に説明すると、覆い部112は、ゴム等の弾性を有する樹脂部材で構成されると共に、建物高さ方向から見て、その周縁部が吊戸本体部58の下端面58Aの周縁部と重なる矩形の板状とされて、当該下端面58Aを建物下方側から覆っている。また、長孔部114は、その短手方向の長さSが案内部90のピン部90Aの直径よりも僅かに大きい長さに設定されて当該ピン部90Aを挿入可能とされていると共に、覆い部112の長手方向に延びる中心線に沿う矩形状に形成されている。そして、覆い部112は、図示しない接着剤等の接合部によって吊戸本体部58に接合されており、当該覆い部112が吊戸本体部58に取り付けられた状態において、長孔部114は、吊戸本体部58の長手方向に沿った状態となっている。
【0066】
このような構成によれば、吊戸本体部58の外観を損なうことなく、吊戸本体部58の下端面58Aの建物下方側を流れる空調空気W1や還気W2が、当該下端面58Aに設けられた溝部64の内側に流入するのを抑制することができる。また、覆い部112には、吊戸本体部58の幅方向に沿って案内部90のピン部90Aを挿入可能な長孔部114が形成されており、吊戸本体部58が案内部90に対して相対移動するときには、ピン部90Aは長孔部114の内側を覆い部112に対して相対移動することとなる。このため、本実施形態では、吊戸110の意匠性を確保しつつ、吊戸本体部58の溝部64への空気流の流入を抑制することができる。さらに、覆い部112は、弾性を有する部材で構成されているため、吊戸110がスライド移動するときにガタついても、吊戸本体部58と案内部90のピン部90Aとの吊戸本体部58の厚さ方向の相対変位を覆い部112で吸収することができる。
【0067】
<第4実施形態>
次に、
図9を用いて
参考例としての本発明の第4実施形態に係る吊戸構造が適用された「吊戸120」の構成について説明する。なお、上述した第1実施形態と同一構成部分については、同一の番号を付してその説明を省略する。
【0068】
本実施形態では、流入抑制部が「ブラシ部122」で構成されている点に特徴がある。具体的に説明すると、ブラシ部122は、弾性を有する樹脂繊維で毛状に構成された複数のブラシ繊維124で構成されている。これらの、ブラシ繊維124は、吊戸本体部58の溝部64における吊戸本体部58の厚さ方向に互いに対向している側面部64Cの少なくとも一方側において、その建物下方側の周縁部に沿って配設されている。
【0069】
このような構成によれば、吊戸本体部58の下端面58Aの建物下方側を流れる空調空気W1や還気W2が、溝部64の内側に向かって流れても、空調空気W1や還気W2がブラシ部122で乱され、笛吹き音の発生を抑制することができる。また、ブラシ部122を構成するブラシ繊維124は、案内部90のピン部90Aに押圧されると弾性変形するため、案内部90のピン部90Aの溝部64への挿入が許容される。
【0070】
<上記実施形態の補足説明>
(1) 上述した第1実施形態では、吊戸本体部58の下端面58Aに設けられた溝部64における周縁部64Aに沿って、断面形状が床部52側に凸となる半円状のパッキン94を配置したが、パッキン94の形状はこれに限らない。一例として、パッキン94の形状を下端面58Aの周縁部58A1から溝部64の周縁部64Aに向かって拡幅された三角形状とする等種々の構成を取り得る。また、パッキン94の代わりに、半円柱状や四角柱状のゴム材を配置する構成としてもよい。
【0071】
(2) また、上述した第1実施形態に係る建物10に設けられた全館空調システム36を構成する給気部40や還気部42の配置箇所も上述したものに限らない。例えば、給気部40を廊下18に配置し、還気部42を部屋20に配置する構成も取り得る。なお、この場合には、パッキン94は、吊戸本体部58の溝部64における周縁部64Aの反対側の周縁部64Bに沿って配置される。
【0072】
(3) さらに、上述した第3実施形態では、覆い部112が弾性を有する部材で構成されていたが、吊戸110のスライド移動時のガタつきを十分に抑制可能な構成であれば、当該覆い部112を弾性変形しない部材で構成してもよい。