特許第6616259号(P6616259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616259
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】ICカード
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/077 20060101AFI20191125BHJP
   B42D 25/305 20140101ALI20191125BHJP
【FI】
   G06K19/077 140
   B42D25/305 100
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-148066(P2016-148066)
(22)【出願日】2016年7月28日
(65)【公開番号】特開2018-18298(P2018-18298A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久保 善則
【審査官】 梅沢 俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−144412(JP,A)
【文献】 特開2011−181020(JP,A)
【文献】 特開平03−115200(JP,A)
【文献】 特開2006−236279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
B42D 25/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、第2部材と、前記第1部材および前記第2部材との間に位置するICチップとを備え、
前記第1部材および前記第2部材がサファイアからなり、
前記第1部材における第1面と、該第1面の反対に位置する前記第2部材における第2面は結晶方位が同じであり、
前記第1面の法線に直交する結晶軸と、前記第2面の法線に直交する前記結晶軸とが直交するICカード。
【請求項2】
前記第1部材および前記第2部材との間に位置する、前記ICチップを囲う第3部材を備える、請求項に記載のICカード。
【請求項3】
前記第3部材がサファイアからなる、請求項記載のICカード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICカードに関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード、電子マネーカード等に、IC(集積回路)チップを内蔵したICカードが用いられている。ICカードは、接触式ICカードと非接触式ICカードとに大別される。接触式ICカードは、カードの表面に設置された電極とカードリーダーライターの端子を接触させてデータの送受信を行う。一方、非接触式ICカードは、カードの内部にコイル式のアンテナが内蔵されており、カードとリーダ、ライタとを接触させなくとも、カードをかざすだけでデータの送受信が可能となっている。これらICカードの外装部となる本体はプラスチックからなるのが一般的であるが、下記特許文献1には、耐久性向上を目的として、本体がジルコニアなどのセラミックスからなるICカードが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−12240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ジルコニアなどのセラミックスからなるICカードは、結晶粒の大きさや形状のばらつき、結晶粒界の大きさや形状のばらつきが、存在していることが多い。結晶粒の大きさや形状のばらつきや、結晶粒界の大きさや形状のばらつきがあるときには、電磁波の透過特性が低下することがあった。ジルコニアなどのセラミックスからなるICカードは、耐久性が比較的高い一方で、通信感度(受信感度および送信感度)の低下やばらつきが生じ易かった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、第1部材と、第2部材と、前記第1部材および前記第2部材との間に位置するICチップとを備え、前記第1部材および前記第2部材がサファイアからなり、前記第1部材における第1面と、該第1面の反対に位置する前記第2部材における第2面は結晶方位が同じであり、前記第1面の法線に直交する結晶軸と、前記第2面の法線に直交する前記結晶軸とが直交するICカードを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本開示に係るICカードは、耐久性に優れるとともに、比較的安定した通信感度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示のICカードの一実施形態を示す上面図と断面図である。
図2】サファイアの結晶構造を示す図である。
図3】本開示のICカードの他の実施形態を示す分解斜視図である。
図4】本開示のICカードの他の実施形態を示す上面図と断面図である。
図5】本開示のICカードの他の実施形態を示す上面図と断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本件の実施形態について、図を参照しながら説明する。図1(a)は本件のICカードの一実施形態を示す上面図であり、図1(b)はその断面図である。
【0009】
ICカード10は、第1部材1aと、第2部材1bと、第1部材1aおよび第2部材1bとの間に位置するICチップ2とを備え、第1部材1aおよび第2部材1bの少なくともいずれかがサファイアからなる。図1に示すICカード10においてはアンテナ3も併せて備えている例を示している。
【0010】
サファイアは、アルミナを主成分とする単結晶であり、耐摩耗性、耐衝撃性が高く、熱伝導性に優れ、電磁波の透過性も比較的高い。例えば、1MHzにおける誘電損失(tanδ)は、アルミナセラミックでは2×10−4〜10×10−4程度であるが、サファイアでは、1×10−4以下である。また、サファイアは単結晶体であり、セラミックスのような結晶粒の集合体ではないので、結晶粒や結晶粒界の大きさや形状の分布等に起因した通信感度のばらつきが少ない。第1部材1aおよび第2部材1bの少なくともいずれかがサファイアからなるICカード10は、耐久性が比較的高く、通信感度も高くかつ安定している。また、サファイアは可視光に対して透明なので、プラスチック等の樹脂製のICカードと異なる外観を有するものとすることができる。
【0011】
ICカード10の構成として具体的には、第1部材1aのみがサファイアからなり、第2部材1bがプラスチックからなる構成であってもよいし、第2部材1bがアルミナからなる構成であってもよい。プラスチック等の樹脂は傷等が付きやすい一方、弾性が高いので外部からの衝撃を吸収して割れ等は発生し難い。比較的大きな衝撃がかかり易い状態で使用することが想定される場合など、第1部材1aおよび第2部材1bの一方をサファイアで構成し、他方をプラスチックで構成しても、比較的高い耐久性を実現できる。また、サファイアとアルミナとは熱膨張係数等が比較的近い。温度の上下動が想定される場合など、例えば第1部材1aおよび第2部材1bの一方をサファイアで構成し、他方をアルミナで構成することで、温度の上下動に応じた熱膨張の違いに起因する応力を比較的小さくすることができる。
【0012】
本実施形態のICカード10は、第1部材1aおよび第2部材1bがサファイアからなるものであってもよい。ICカード10は、第1部材1aおよび第2部材1bの双方がサファイアからなるときには、一方だけがサファイアからなる場合と比べて、耐久性も通信感度も高くかつ安定する。ICカード10は財布等に入れて携帯できるほど薄いことが望まれるが、例えば透明のICカードの材質としてガラス等を用いた場合、耐久性が極端に低いため割れ等が発生し易い。ICカード10は、硬度が高く表面に傷がつき難く、また割れ等も発生し難いサファイアを用いているため、充分に高い耐久性をもち、かつ通信感度も安定しており、かつ透明性で言比較的高級感の高い外観を有する。
【0013】
また、本実施形態のICカード10において、第1部材1aにおける第1面1Aと、第1面1Aの反対に位置する第2部材1bにおける第2面1Bとの結晶面が同じであってもよい。図2は、サファイアの結晶構造を示す図である。図2(a)〜(d)にそれぞれ示すように、サファイアは代表的な結晶面として、c面、m面、a面、r面等の結晶面を有する。例えば、「第1面Aがc面である」とは、第1面1Aが、サファイアの結晶面であるc面と略平行であることをいう。第1面1Aと第2面1Bとが結晶面が同じであるとは、第1面1Aと第2面1Bとの双方が、特定の1つのサファイアの結晶面(例えば、c面、m面、a面、r面のいずれか1つ)と略平行であることをいう。
【0014】
本実施形態では、第1面1Aと第2面1Bとが、いずれもa面であるときには、抗折強度等の機械的な強度が比較的高いものとなる。また、第1面1Aと第2面1Bとが、いずれもr面であるときには、結晶欠陥が比較的少ないため、通信感度が向上する。ICカード10の目的や用途に応じて、第1面1Aや第2面1Bを構成するサファイアの結晶面を選択すればよい。なお、第1面1Aや第2面1Bのような実際の面が、サファイアの結晶面と略平行であるとは、実際の面(第1面1Aや第2面1B)とサファイア結晶面とのな
す角(以降、オフアングルともいう)の大きさが、0.5°未満であることをいう。
【0015】
ICカード10では、第1面1Aの法線に直交する結晶軸と、第2面1Bの法線に直交する結晶軸とが平行でなくてもよい。図3は、第1面1Aと第2面1Bとが、いずれもa面である場合の例を示している。第1面1Aと第2面1Bはa面であり、第1面1Aの法線および第2面1Bの法線は、いずれもa軸に平行である。この法線(a軸)に直交する結晶軸としてc軸がある(図2参照)。図3に示す矢印はc軸方向を示している。図3に示すように、第1面1Aにおけるc軸と、第2面1Bにおけるc軸とは平行でない。より詳しくは図3に示す実施形態では、第1面1Aにおけるc軸と、第2面1Bにおけるc軸とが直交する。
【0016】
上述したようにサファイアでは、結晶面の違いに応じて機械強度等が異なるが、結晶軸の方向の違いによっても機械的強度が異なる。例えばa面を主面とする基板状のサファイアは、結晶のc軸に平行な方向に沿った抗折強度が、結晶のc軸に垂直な方向に沿った抗折強度よりも強い。なお抗折強度とは、JIS R 1601に準拠した測定方法で測定した3点曲げ強さの値のことをいう。例えば、JIS R 1601に準拠した測定方法で抗折強度の測定によれば、a面サファイアにc軸に平行な方向に沿って折り曲げるような力を加えた場合の抗折強度は約960MPaであり、c軸に垂直な方向に沿って折り曲げるような力を加えた場合の抗折強度は約450MPaである。第1面1Aの法線に直交する結晶軸と、第2面1Bの法線に直交する結晶軸とが平行でないときには、一方向のみに沿った抗折強度のみでなく、他の方向に沿った抗折強度を強くすることができる。
【0017】
図3に示すように、第1面1Aにおけるc軸と、第2面1Bにおけるc軸とを直交させた場合、第1部材1aが曲がり易い方向の力に対しては第2部材1bが曲がり難く、第2部材1bが曲がりやすい方向の力に対しては第1部材1aが曲がり難くなる。あらゆる方向に沿った抗折強度を相対的に高くする観点では、図3に示すように、第1面1Aにおける結晶軸(本実施形態ではc軸)と、第2面1Bにおけるc軸(本実施形態ではc軸)とを直交させればよい。
【0018】
また一般にICカード10は、長辺と短辺を有する矩形状であり、例えば、JIS X
6302−1、ISO/IEC 7810にはカードの寸法として、幅85.6mm、高さ54.0mm、厚さ0.76mmの記載がある。このような矩形状の板状部材に外力
が加わった場合、板状部材は長辺方向に沿って曲がり易い。ICカード10に使用するサファイアは、外力が加わった場合に折れ曲がり易い方向に沿って抗折強度がより高くなるように、長辺方向と短辺方向の結晶方位を選択するとよい。例えば、第1面1Aおよび第2面1Bの少なくともいずれか一方について、長辺方向を結晶のc軸に平行とする。
【0019】
上記実施形態では、第1面1Aおよび第2面1Bがa面の場合について説明したが、第1面1Aおよび第2面1Bは、例えばr面でも、m面でも、c面でもよく、特に限定されない。例えばr面サファイアは、a軸に垂直な方向に沿って折り曲げるような力を加えた場合の抗折強度の方が、a軸に平行な方向に沿って折り曲げるような力を加えた場合の抗折強度よりも高い。第1面1Aおよび第2面1Bがr面である場合も、第1面1Aにおけるa軸と、第2面1Bにおけるa軸とを直交させることで、一方向のみに沿った抗折強度のみでなく、複数方向に沿った抗折強度を比較的強くすることができる。第1面1Aおよび第2面1Bの結晶面は特に限定されず、所望の特性に応じて、その結晶面や結晶軸の組み合わせを選択すればよい。また、第1部材1aにおける第1面1Aと、第1面1Aの反対に位置する第2部材1bにおける第2面1Bは、結晶面が異なっていてもよい。また、第1面1Aと第2面1Bとの結晶面が同じ場合、第1面1Aのオフアングルの大きさと第2面1Bのオフアングルの大きさとが異なっていてもよい。
【0020】
第1部材1aと第2部材1bとは、接合部材(不図示)または直接接合によって接合されている。接合部材としては、例えば、低融点ガラス、樹脂系接着剤等を用いればよい。通常、ICチップ2の耐熱温度は300℃程度なので、硬化温度がICチップ2の耐熱温度よりも低い接合部材を使用すればよい。また、直接接合の場合は、接合部をプラズマ処理によって活性化させるなどしてICチップの耐熱温度よりも低い温度で接合すればよい。ICカード10は、ICチップ2を載置するための載置部21を備えている。載置部21は、第1部材1aの主面(第1面1Aと反対側の内面)に、レーザ加工や研削加工等によって形成した凹部である。同様に、ICカード10は、アンテナ3を配置するための配置部31を備えている。配置部31は、第2部材1bの主面(第2面1Bと反対側の内面)に、レーザ加工や研削加工等によって形成した凹部である。
【0021】
ICカード10には、カード番号等の各種情報、およびロゴマーク等の各種意匠を表記してもよい。これら表記は、印刷、刻印等の方法等で形成することができる。これら表記は、第1面1Aや第2面1Bに形成してもよいが、ICカード10内に封入される側の面にこれらの表記を設けてもよい。刻印等は、レーザ加工等の手法を用いて、第1部材1aや第2部材1bを加工することで形成してもよい。ICカード10に封入される側の面に表記部を設ける場合、第1部材1aと第2部材1bを接合する前に、これらICカード10内に封入される側の面に、レーザ加工等で予め表記部を形成しておけばよい。または、第1部材1aと第2部材1bとを接合した後、ICカード10の外側の面(第1面1Aまたは第2面1B)からレーザ光を照射することで、第1部材1aや第2部材1bのICカード10に封入される側の面に、刻印等を形成してもよい。このように外側からレーザ光を照射して刻印を形成する場合、レーザ光の焦点位置の調整に加え、例えば刻印を設けたい位置にレーザ光の吸収を高める処理を施しておくこともできる。このような処理としては、例えばセラミック(アルミナ等)やプラスチック樹脂等の部材を配置する手段や、サファイア自体に結晶欠陥や添加物等を配置しておく手段等を用いることができる。
【0022】
第1部材1aの両主面および第2部材2bの両主面は、それぞれの両主面が鏡面加工されている。鏡面加工とは、算術表面粗さが0.2μm未満であることをいう。第1部材1aの両主面と第2部材1bの両主面とを鏡面加工しておくことで、電磁波等の散乱が抑制され、送受信する信号の損失が低減して通信の安定性が向上する。また、第1部材1aの両主面および第2部材1bの両主面の少なくともいずれか1つを、非鏡面としておいてもよい。この場合、非鏡面とした部分の可視光の散乱を大きくして、白っぽく曇った状態に視認される状態とすることができる。このような可視光の散乱を利用し、ICカード10の外観デザインを構成することで、ICカード10の意匠性を向上させることもできる。
【0023】
アンテナ3は、銅などの金属で構成されている。アンテナ3の材質は特に限定されず、ITO(酸化インジウム錫)、GZO(ガリウム添加酸化亜鉛)などの透明導電材料でアンテナ3を形成してもよい。アンテナ3は、樹脂等で形成されたシート上に印刷、蒸着等の方法で形成した電極層を用いてもよいし、第2部材1bの表面にメタライズ技術によって金属層を形成して、耐久性を比較的高くしてもよい。
【0024】
なおサファイアは、特定の元素を微量添加させることで着色することが知られている。例えばクロムを添加すると赤色に着色し、鉄を添加すると青色に着色する。第1部材1aや第2部材1bとして、このような着色したサファイアを用いてもよい。ICカード10は上述のように、レーザ加工等による刻印や、表面粗さの調整による光散乱の向上や、着色サファイアの使用などの各種の手法によって意匠性を高めることができる。
【0025】
図4はICカードの異なる実施形態を説明する図である。図4に示す実施形態のICカード10’では、第1部材1aおよび第2部材1bとの間に位置する、ICチップ2を囲う第3部材1c(以下、中間部材1cと記載する。)を備えている。第1部材1aと中間部材1cとの接合、および第2部材1bと中間部材1cとの接合は、例えば直接接合や、低融点ガラス、樹脂系接着剤等の接合部材を用いた接合によって行うことができる。中間部材1cの材質は特に限定されないが、中間部材1cをサファイアからなる部材とした場合、硬度が高く割れ等も発生し難い。また、第1部材1a、第2部材1b、中間部材1cを構成するサファイアの面方位や、各部材の結晶軸の方向の組み合わせ等については、所望する特性に応じて適宜設定することができる。なお、中間部材1cは、例えばアルミナ等のセラミックスや、プラスチック等の樹脂であってもよい。例えば他の物体と接触・衝突し易い第1部材1aや第2部材1bはサファイアで構成し、中間部材1cは、曲がり易く、色や模様をつけ易いプラスチック等の樹脂で構成するなど、種々の組み合わせを用いることができる。
【0026】
本発明においてサファイアの製造方法に特に制限はないが、EFG(Edge-defined Film-fed Growth)法であれば、サファイアが板状に育成できるため、加工工程が簡便で加工ロスが少ない。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものでない。例えば図5に示す実施形態のように、ICチップ2との情報の入出力を行うための電極4が第1部材1aの第1面1Aに露出した構成としてもよい。本発明は、これら以外の各種変形例を含みものであり、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0028】
1a 第1部材
1b 第2部材
1c 中間部材
1A 第1面
1B 第2面
2 ICチップ
3 アンテナ
図1
図2
図3
図4
図5