(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616263
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】ヒートシンクの製造システム
(51)【国際特許分類】
B22D 29/00 20060101AFI20191125BHJP
B22D 30/00 20060101ALI20191125BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20191125BHJP
B05B 7/04 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
B22D29/00 G
B22D30/00
H01L23/36
B05B7/04
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-163334(P2016-163334)
(22)【出願日】2016年8月24日
(65)【公開番号】特開2018-30144(P2018-30144A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2018年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593078257
【氏名又は名称】株式会社メックインターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】河原 文雄
(72)【発明者】
【氏名】久野 真弘
(72)【発明者】
【氏名】高味 克浩
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−202683(JP,A)
【文献】
実開昭51−079573(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 9/14
B05D 1/02
B22D 29/00
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗材と、該粗材の表面に形成された熱放射性塗料皮膜とからなるヒートシンクを製造するヒートシンクの製造システムであって、
前記ヒートシンクの製造システムは、
成形型と、該成形型に提供される溶湯を保持する溶湯保持炉と、から構成された鋳造装置と、
前記鋳造装置にて成形された前記粗材に対し、熱放射性塗料を圧縮エアとともに噴出するスプレーノズルを備えた塗布装置と、を備え、
前記溶湯保持炉の外周に巻き付けられて前記溶湯保持炉に接した状態でエア管が配設されており、該エア管を介して前記圧縮エアが前記スプレーノズルに提供されるヒートシンクの製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗材と、粗材の表面に形成された熱放射性塗料皮膜とからなるヒートシンクを製造するヒートシンクの製造システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の電気回路は小型化が進み、この小型化に伴って発熱密度が上昇していることから、電気回路の放熱性能の向上が重要な開発要素の一つとなっている。
【0003】
発熱量の大きな電気回路は当該電気回路を収容する筐体をアルミダイカストで製作するのが一般的であるが、金属は熱伝導率が高い一方で空気への熱伝達率が低い傾向にある。
【0004】
そこで、金属製の筐体の表面に対し、空気への熱伝達率の高い物質である、カーボンや窒化物、樹脂等からなる皮膜を形成する試みがおこなわれている。
【0005】
ここで、特許文献1には、平均粒径が0.1〜50μmで、酸化亜鉛粉末あるいは酸化チタン粉末又はその両方を含むセラミックス粉末と、バインダーと、を含み、バインダー成分100質量部に対してセラミックス粉末成分を25〜100質量部含む熱放射性塗料が平均膜厚1〜50μmで塗布されたヒートシンクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−246365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のヒートシンクによれば、熱放射性塗料からなる皮膜を有することで赤外領域の放射率が高められ、効率よく放熱できるとしている。
【0008】
ところで、ヒートシンクの製造は、成形型にて粗材を鋳造した後、成形型から粗材を取り出し、粗材を所定の塗布領域に搬送し、粗材の表面にたとえば上記する熱放射性塗料を塗布し、焼付けや溶剤の揮発をおこなって熱放射性塗料皮膜を形成することにより、その製造がおこなわれる。
【0009】
ところが、成形型から取り出され、搬送される過程で粗材の温度が低下してしまい、塗料を塗布するのに適した温度未満の温度まで低下してしまうことが問題となっている。また、たとえば粗材に塗料をスプレー塗布している最中に、粗材の温度が塗料を塗布するのに適した温度未満の温度まで低下してしまうことも問題となる。これは、スプレー塗布の際に使用される圧縮エアにより、粗材の熱が奪われることが原因の一つである。
【0010】
温度低下した粗材を焼成炉に収容して熱放射性塗料の焼付けや溶剤の揮発をおこなうに当たり、塗料を塗布するのに適した温度まで粗材を昇温させ、さらに塗料の焼付けや溶剤の揮発をおこなう必要があることから、多大な熱エネルギを要することになる。
【0011】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、成形型にて粗材を成形し、粗材の表面に熱放射性塗料皮膜を形成してヒートシンクを製造するシステムに関し、多大な熱エネルギを不要としながら、塗料の塗布に適した温度にて粗材に塗料を塗布しながらヒートシンクを製造することのできる、ヒートシンクの製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明によるヒートシンクの製造システムは、粗材と、該粗材の表面に形成された熱放射性塗料皮膜とからなるヒートシンクを製造するヒートシンクの製造システムであって、前記ヒートシンクの製造システムは、成形型と、該成形型に提供される溶湯を保持する溶湯保持炉と、から構成された鋳造装置と、前記鋳造装置にて成形された前記粗材に対し、熱放射性塗料を圧縮エアとともに噴出するスプレーノズルを備えた塗布装置と、を備え、前記溶湯保持炉に接した状態でエア管が配設されており、該エア管を介して前記圧縮エアが前記スプレーノズルに提供されるものである。
【0013】
本発明のヒートシンクの製造システムは、溶湯保持炉に接した状態で配設されたエア管を備え、このエア管を介して圧縮エアをスプレーノズルに提供する構成を適用したことにより、溶湯保持炉からの排熱で加温された圧縮エアが熱放射性塗料とともに粗材に塗布されることで、温度低下した粗材を昇温できるとともに、圧縮エアによって粗材の熱が奪われるといった問題を解消できるものである。
【0014】
圧縮エアの加温を溶湯保持炉からの排熱でおこなうことから、温度低下した粗材の昇温に際して多大な熱エネルギは一切不要になる。
【0015】
たとえば溶融したアルミニウムが収容された溶湯保持炉では、溶湯の熱が700℃程度もあることから、この排熱により、溶湯保持炉に接した状態で配設されたエア管内を流通する圧縮エアは効果的に加温される。
【0016】
そして、このように加温された圧縮エアと熱放射性塗料が粗材の表面に塗布されることで、温度低下した粗材表面の温度を昇温させることができる。
【0017】
また、加温された圧縮エアとともに熱放射性塗料が粗材表面に塗布されることから、圧縮エアの有する熱で熱放射性塗料の焼付けや溶剤の揮発もおこなうことができ、焼付け工程や溶剤の揮発工程にて必要となっていた焼成炉を不要にでき、焼付け工程や溶剤の揮発工程も不要にできて製造効率性が高まる。
【0018】
ここで、エア管は、熱伝導性の良好な銅等から形成されたものを適用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
以上の説明から理解できるように、本発明のヒートシンクの製造システムによれば、溶湯保持炉に接した状態で配設されたエア管を備え、このエア管を介して圧縮エアをスプレーノズルに提供する構成を適用したことにより、溶湯保持炉からの排熱を利用して圧縮エアの加温をおこなうことから、多大な熱エネルギを不要としながら、粗材の昇温や熱放射性塗料の焼付けをおこなうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のヒートシンクの製造システムの実施の形態を示した模式図である。
【
図2】粗材に熱放射性塗料と圧縮エアを噴出している状況を説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明のヒートシンクの製造システムの実施の形態を説明する。
【0022】
(ヒートシンクの製造システムの実施の形態)
図1は本発明のヒートシンクの製造システムの実施の形態を示した模式図である。図示する製造システム300は、鋳造装置100と塗布装置200から構成されている。
【0023】
鋳造装置100は、成形型10と、成形型10に提供される溶湯を保持する溶湯保持炉20と、溶湯保持炉20から成形型10に溶湯を提供する溶湯供給管30とから構成されている。
【0024】
成形型10は、第一型1と第二型2から構成され、図示する型閉め状態においてその内部に鋳造用のキャビティCが画成される。
【0025】
溶湯保持炉20には溶融したアルミニウム等の溶融金属が収容されており、アルミ溶湯の場合にはその内部温度が700℃程度になっている。
【0026】
一方、塗布装置200は、熱放射性塗料を収容する塗料収容容器40と、スプレーノズル70と、塗料収容容器40からスプレーノズル70へ熱放射性塗料を提供する塗料供給管50と、溶湯保持炉20に接した状態で配設されてスプレーノズル70に通じているエア管60と、から構成されている。
【0027】
ここで、エア管60は、熱伝導性の良好な銅やその合金等から形成されている。
【0028】
また、熱放射性塗料としては、ポリアミドイミド(PAI)や、エポキシ系塗料もしくはフェノール系樹脂などを挙げることができる。
【0029】
エア管60には、不図示のコンプレッサ等から提供された圧縮エアが流通し、この流通過程で溶湯保持炉20からの排熱にて圧縮エアが加温され、加温された圧縮エアがエア管60を介してスプレーノズル70に提供されるようになっている。
【0030】
次に、製造システム300を用いたヒートシンクの製造方法を概説する。
【0031】
成形型10のキャビティCの壁面に離形剤を塗布した後、
図1で示すように型閉めされた成形型10のキャビティCに対し、溶湯保持炉20から金属溶湯を供給し(X1方向)、キャビティC内で粗材を鋳造する。
【0032】
次に、
図2で示すように、金属溶湯が凝固して粗材Wが成形されたら、成形型10を型開きして粗材Wを取り出し、塗布領域にある載置台Tに搬送して位置決めする。なお、この脱型から粗材Wの搬送過程で粗材Wの温度は低下する。
【0033】
スプレーノズル70に対し、塗料収容容器40から塗料供給管50を介して熱放射性塗料を提供するとともに(X2方向)、溶湯保持炉20からの排熱にて加温された圧縮エアをエア管60を介して提供する(X3方向)。
【0034】
熱放射性塗料が加温された圧縮エアとともにスプレーノズル70から噴出され、粗材Wの表面に塗布される(X4方向)。
【0035】
このように、溶湯保持炉20からの排熱で加温された圧縮エアが熱放射性塗料とともに粗材Wに塗布されることで、温度低下した粗材Wを加温された圧縮エアにて昇温することができる。
【0036】
より詳細には、粗材Wの温度が塗料を塗布するのに適した温度未満の温度まで低下している場合には、加温された圧縮エアの提供により、粗材Wを塗料を塗布するのに適した温度以上の温度に昇温することができる。
【0037】
また、加温された圧縮エアを適用することから、従来の製造システムのように、冷えた圧縮エアによって粗材の熱が奪われるといった問題は生じ得ない。
【0038】
また、圧縮エアの加温を溶湯保持炉20からの排熱でおこなうことから、温度低下した粗材Wを塗料塗布に適した温度以上に昇温するに際して、多大な熱エネルギは一切不要になる。
【0039】
さらに、加温された圧縮エアの有する熱により、粗材Wの表面に塗布された熱放射性塗料の焼付けや溶剤の揮発もおこなうことが可能になる。この場合、従来の焼付け工程や溶剤の揮発工程にて必要となっていた焼成炉が不要になるとともに、焼付け工程や溶剤の揮発工程も不要になることから、製造システムの製作コストを削減でき、かつヒートシンクの製造効率を格段に向上させることができる。
【0040】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0041】
1…第一型、2…第二型、10…成形型、20…溶湯保持炉、30…溶湯供給管、40…塗料収容容器、50…塗料供給管、60…エア管、100…鋳造装置、200…塗布装置、300…(ヒートシンクの)製造システム、W…粗材