(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高分子化合物の溶液中で強磁性金属イオンを還元し、強磁性金属ナノワイヤーを作製する工程を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の強磁性金属ナノワイヤー分散液の製造方法。
強磁性金属ナノワイヤーを、水、有機溶媒およびこれらの混合物からなる群から選択される分散媒へ分散させる工程をさらに含む、請求項5または6に記載の強磁性金属ナノワイヤー分散液の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[強磁性金属ナノワイヤー分散液]
本発明の強磁性金属ナノワイヤー分散液は、強磁性金属ナノワイヤー(以下、単に「ナノワイヤー」ということがある)と高分子化合物を含有し、通常は分散媒をさらに含有する。
【0018】
ナノワイヤーを構成する強磁性金属としては、鉄、コバルト、ニッケル、ガドリニウム、およびこれらを主成分とする合金が挙げられる。中でも、ニッケルは、導電性が高いので好ましい。
【0019】
強磁性金属ナノワイヤーの形状は特に限定されないが、ナノワイヤーは通常、例えば
図1に示すように全体として略線状を有している。強磁性金属ナノワイヤーの寸法は通常、平均直径が10〜200nm、平均長が1〜100μm程度である。本発明においては、平均直径は10〜150nmであることがより好ましく、平均長は5〜50μmであることがより好ましい。
【0020】
得られる塗膜が良好な導電性を有しつつ、良好な光線透過率を示す観点から、強磁性金属ナノワイヤーのアスペクト比(平均長/平均径)は40〜200、特に45〜150が好ましい。
【0021】
本発明においてナノワイヤーは、塗膜導電性のさらなる向上の観点から、強磁性金属が酸化またはイオン化した劣化部位が少ない方が好ましい。特にナノワイヤーの表面から深さ約10nmまでにおいて、劣化部位が少なく、すなわち強磁性金属の存在が確認できることが好ましい。ナノワイヤーの表面から深さ約10nmまでにおける強磁性金属の有無は、X線光電子分光法で判断することができる。例えば、ニッケルナノワイヤーの場合、X線光電子分光法において、
図5および
図6に示すように、852.7eV付近に出る金属ニッケルのピークが検出できれば、ナノワイヤーの表面から深さ約10nmまでに金属ニッケルが存在すると言える。また、表面に劣化部位が多い場合、
図4のように852.7eV付近に金属ニッケルのピークが確認できない。
【0022】
ナノワイヤーの上記表面層において強磁性金属の存在が確認できる(すなわち強磁性金属が有る)とは、例えばニッケルの場合、X線光電子分光法によるスペクトルにおいて、接線の傾きが0となる部分が851.5〜853.5eVに存在することを意味する。
【0023】
本発明においてナノワイヤーは、分散性および塗膜導電性の観点から、その表面に高分子化合物の層(皮膜)を有することが好ましい。このような高分子化合物層の平均厚みとしては、10nm未満が好ましく、さらに好ましくは7nm以下である。高分子化合物の層が10nm未満であれば、成膜後のナノワイヤー膜における表面抵抗率への影響を抑え、ナノワイヤーの分散性を担保できる。また、高分子化合物層の平均厚みは通常、1nm程度以上である。高分子化合物層は、熱分解GC/MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)により、高分子化合物層の有無と種類について、確認可能である。高分子化合物層は、染色処理を施し、透過型電子顕微鏡で観察することで、
図2のようにその存在および厚みを確認することが可能である。高分子化合物層を有していない場合、染色処理を施しても、
図3に示すように高分子化合物層は確認できない。ナノワイヤーが表面に高分子化合物層を有する場合、当該層表面から深さ10nmまでにおいて、強磁性金属の存在が確認できることが好ましい。ナノワイヤーが表面に高分子化合物層を有する場合、ナノワイヤーの高分子化合物層の表面から深さ約10nmまでにおいて、強磁性金属の存在が確認できることが好ましい。
【0024】
高分子化合物層を構成する高分子化合物は、特に限定されるものではないが、後述する分散媒との組み合わせが重要である。高分子化合物は、分散媒に対して溶解性を有する高分子を用いる。高分子化合物が分散媒に対して溶解性を有するとは、分散媒に溶解可能という意味であり、25℃の分散媒100質量部に対して少なくとも0.1質量部の高分子化合物が溶解できればよい。高分子化合物がたとえ分散媒に対して溶解性を有していても、ナノワイヤー表面に一旦、層を形成した高分子化合物は、分散液中、分散媒に溶出することなく、ナノワイヤー表面に残存する。
【0025】
例えば、水溶媒に強磁性金属ナノワイヤーを分散させる場合、カルボキシルメチルセルロールナトリウム塩、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどの水溶性の高分子化合物が好ましい。
【0026】
また例えば、エタノールなどの極性を有する有機溶媒に強磁性金属ナノワイヤーを分散させる場合は、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどのアルコールに溶解性を示す高分子化合物が好ましい。
【0027】
このような高分子化合物の中で、ポリビニルピロリドンは、溶解性を示す溶媒種が多いため、さらに好ましい。
【0028】
高分子化合物の分子量は、後述する反応溶液のB型粘度計による粘度が規定の範囲内になるような分子量であればよい。
【0029】
本発明において分散媒は、特に限定されない。分散媒は通常、水、有機溶媒およびこれらの混合物であってよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどのモノアルコール(特に飽和脂肪族モノアルコール);エチレングリコール、プロピレングリコールなどのポリオール(特に飽和脂肪族ポリオール);アセトニトリルなどのニトリル化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル化合物が挙げられる。分散性および塗膜導電性のさらなる向上の観点から、分散媒は、水、飽和脂肪族モノアルコール、飽和脂肪族ポリオール、およびこれらの混合物が好ましい。低沸点、臭気および安全性の観点からは、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコールなどが好ましい。
【0030】
分散媒は還元性を示す溶媒または酸化防止剤を含む溶媒であることが好ましい。分散液の保管中に起こるナノワイヤー表面の酸化やイオン化がより一層、防止され、ナノワイヤー表面層に強磁性金属が含まれやすくなるためである。その結果として、塗膜導電性がより一層向上する。
【0031】
還元性を示す溶媒は、加熱により還元性を示す溶媒および室温(25℃)でも還元性を示す溶媒である。そのような還元性を示す溶媒としては、上記した分散媒のうち、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのポリオール、特に飽和脂肪族ポリオールが挙げられる。
【0032】
酸化防止剤を含む溶媒は、酸化防止剤および溶媒を含むものである。酸化防止剤は分散液の分野で酸化防止作用のある化合物として使用されているものであれば特に限定されず、例えば、後述する金属イオン還元処理工程で使用される還元剤と同様のものが使用される。好ましい酸化防止剤として、ヒドロキシルアミン類(特にジエチルヒドロキシルアミン)、ヒドラジン、ヒドラジン一水和物、シュウ酸、ギ酸などが使用される。このような酸化防止剤が添加される溶媒としては、上記した分散媒のうち、当該酸化防止剤を溶解し得る溶媒であれば特に限定されない。そのような溶媒として、例えば、水、上記モノアルコール(特に飽和脂肪族モノアルコール)、上記ニトリル化合物、上記エステル化合物、およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0033】
分散液中での酸化防止剤の濃度は、ナノワイヤー表面の酸化が抑制される限り特に限定されない。当該濃度は、酸化防止剤の種類によって異なるため、一概に規定できるものではないが、通常は、当該分散液の全量に対して、0.01〜10質量%程度である。具体的には、例えば、酸化防止剤がヒドラジン一水和物であれば、その濃度は0.05〜2質量%が好ましい。また例えば、酸化防止剤がヒドロキシルアミン類(特にジエチルヒドロキシルアミン)であれば、その濃度は0.1〜5質量%が好ましい。また例えば、酸化防止剤がギ酸であれば、その濃度は0.01〜10質量%が好ましい。また例えば、酸化防止剤がシュウ酸であれば、その濃度は0.01〜0.1質量%が好ましい。
【0034】
分散液中でのナノワイヤーの濃度は、特に限定されず、各種成膜方法および各用途に適した濃度に調整することができる。例えば、湿式成膜をおこなう場合、当該ナノワイヤー濃度は、当該分散液の全量に対して、通常、0.1〜5質量%であり、0.1〜2.0質量%とすることが好ましい。
【0035】
本発明のナノワイヤー分散液には、本発明の効果を損なわない範囲において、成膜性およびその改善のため、バインダー樹脂、濡れ剤、レベリング剤などの添加剤を含有させることができる。
【0036】
バインダー樹脂を含有させることにより、塗工後の金属ナノワイヤーと基材との密着性を保持することができる。バインダー樹脂は、分散媒に溶解するものであっても、溶解することなく分散するものであってもよい。好ましくは分散媒に溶解するバインダー樹脂を用いる。
【0037】
バインダー樹脂の具体例として、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル等のポリアクリロイル化合物;ポリビニルアルコール;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリカーボネート;エポキシ;ポリプロピレン、ポリメチルペンタン等の脂肪族ポリオレフィン;ポリノルボルネン等の脂環式オレフィン;ニトロセルロース等のセルロース類;シリコーン樹脂;ポリアセテート;ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の含塩素ポリマー;ポリフルオロビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、フルオロオレフィン−ヒドロカーボンオレフィン共重合ポリマー等の含フッ素ポリマー等が挙げられる。バインダー樹脂の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択される。バインダー樹脂の含有量は、塗膜導電性のさらなる向上の観点から、ナノワイヤーとバインダー樹脂の質量比として1:0.01〜1:10が好ましい。
【0038】
[強磁性金属ナノワイヤー分散液の製造方法]
本発明の強磁性金属ナノワイヤー分散液は、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、強磁性金属ナノワイヤーを作製する。強磁性金属ナノワイヤーの作製方法としては、特に限定されない。好ましくは、以下に示す金属イオン還元処理工程を行い、強磁性金属ナノワイヤーを作製する。
【0039】
・金属イオン還元処理工程
本工程では、高分子化合物の溶液中で強磁性金属イオンを還元し、強磁性金属ナノワイヤーを作製する。本工程で使用される高分子化合物は、ナノワイヤーが表面に有し得る高分子化合物層を構成する上記高分子化合物と同様のものが使用される。高分子化合物を含む状態で強磁性金属ナノワイヤーを作製することにより、高分子化合物がテンプレート的に作用し、作製時のナノワイヤーの凝集および融着を抑制する。さらに、強磁性金属ナノワイヤーに高分子化合物層を好適に形成できる。その結果、ナノワイヤーの絡み合いを防ぎ、ナノワイヤーの分散性低下を抑制することができる。以下に、本工程の詳細を示す。
【0040】
強磁性金属イオンを還元するためには、強磁性金属の塩を溶媒に溶解させることが好ましい。本工程で使用される強磁性金属は、ナノワイヤーを構成する上記強磁性金属と同様の金属が使用される。強磁性金属塩としては、使用する溶媒に可溶であり、還元可能な状態で強磁性金属イオンを供給できるものであればよい。例えば、強磁性金属の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩などが挙げられる。これらの塩は、水和物でも、無水物でもよい。
【0041】
強磁性金属イオンの濃度は、ナノワイヤーが作製され得る限り、特に限定されない。強磁性金属イオンの濃度は、反応溶液全量に対して例えば、50μmol/g以下が好ましく、さらに25μmol/g以下が好ましい。強磁性金属イオンの濃度を、50μmol/g以下にすることにより、作製時における高分子化合物のテンプレート的作用を効果的に得ることができる。強磁性金属イオンの濃度の下限値は特に限定されないが、当該濃度は通常、1μmol/g以上、特に10μmol/g以上である。
【0042】
強磁性金属イオンを還元するために使用する還元剤は特に限定されない。例えば、ヒドラジン、ヒドラジン一水和物、塩化第一鉄、次亜リン酸、水素化ホウ素塩、アミノボラン類、水素化アルミニウムリチウム、亜硫酸塩、ヒドロキシルアミン類(例えば、ジエチルヒドロキシルアミン)、亜鉛アマルガム、水素化ジイソブチルアルミニウム、ヨウ化水素酸、アスコルビン酸、シュウ酸、ギ酸などが挙げられる。これらの中で、還元効率、安全性、除去性、還元後の強磁性金属の特性維持などから、ヒドラジン一水和物が好ましい。
【0043】
本工程における還元剤の濃度は、ナノワイヤーが作製され得る限り、特に限定されない。還元剤の濃度は、反応溶液全量に対して、好ましくは0.5〜5.0質量%程度であり、この濃度で好適に強磁性金属イオンを還元することが可能である。
【0044】
還元反応は、異方性を有する線状にナノワイヤーを成長させるために、外圧をかけるのが好ましい。外圧としては、撹拌などによる液体の流れ、重力、磁力などが挙げられる。これらの中で、制御のしやすさから、磁力をかけて、還元反応を行うのが好ましい。磁力としては、反応溶液中心に50〜200mT程度の磁束密度がかかれば、磁場方向に沿って、ナノワイヤーを好適に得ることが可能である。
【0045】
還元反応の溶媒としては、水、極性を有する有機溶媒またはこれらの混合物などを用いることができる。極性を有する有機溶媒とは、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。これらの中で、強磁性金属塩および高分子化合物の溶解性、沸点、粘度等の観点から、有機溶媒、特にエチレングリコールがさらに好ましい。
【0046】
還元反応において、錯化剤の添加を行うこともできる。錯化剤の添加は、強磁性金属イオンと錯形成を行うことで、強磁性金属イオンの供給速度を制御し、ナノワイヤーの形成を容易にするために行う。
【0047】
錯化剤としては、特に限定されないが、使用する強磁性金属イオンとの錯形成定数が高い方が好ましい。例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシイミノジコハク酸、アミノトリメチレンホスホン酸、ヒドロキシエタンホスホン酸酒石酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸などが挙げられる。これらは、ナトリウムなどと塩を形成していてもよい。錯化剤を用いる場合、その濃度は、0.1nmol/g以上とすることが好ましい。
【0048】
還元反応において、核形成剤となる貴金属塩を添加するのが好ましい。貴金属塩とは、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムのいずれかから成る金属塩である。貴金属塩は還元性が高く、ナノ粒子として液相還元され易い。そのため、貴金属塩を反応溶液に添加することにより、数nmサイズのナノ粒子核が生成し、そのナノ粒子核を足場とし、強磁性金属ナノワイヤーの形成を容易にする。貴金属塩としては、塩化白金酸、塩化金酸、塩化パラジウムなどが挙げられる。これらの中で、塩化白金酸は液相還元により、より微細なナノ粒子が均一に生成するため、好ましい。
【0049】
貴金属塩の濃度としては、特に限定されない。上記のように、貴金属塩から生成するナノ粒子核がナノワイヤーの形成の足場となるため、その濃度が高いほど、ナノワイヤーの径が細くなり、濃度が低いほど、ナノワイヤーの径は太くなる。通常、その濃度は0.001〜5μmol/g程度とすることが好ましい。
【0050】
還元反応溶液のpHおよび温度は、還元剤が強磁性金属イオンを還元できるpH、温度に設定すればよい。一般的に、温度が高い、あるいはpHが高いほど、還元剤の還元力は高くなるため、高温、高pHが好ましいが、溶媒、還元剤、強磁性金属塩の種類により、適応可能な範囲がある。例えば、エチレングリコール中または水溶媒中でヒドラジン一水和物を使い還元反応を行う場合、その温度は70℃から100℃、pHは10から12とすることが好ましい。
【0051】
還元反応の還元時間は、上記寸法のナノワイヤーが作製され得る限り特に限定されず、例えば10分〜5時間である。
【0052】
還元反応において、反応溶液は上記の高分子化合物を含むことが好ましい。高分子化合物の濃度は、高分子化合物の構造、分子量などにより、その適域が異なるが、反応温度における反応溶液のB型粘度計による粘度が20mPa・s〜500mPa・s、特に40mPa・s〜400mPa・sとなるような濃度とすることが好ましい。これにより、好適な高分子化合物層を有した強磁性金属ナノワイヤーを作製することができ、ナノワイヤーの凝集および融着を抑制できる。
【0053】
本工程においては、強磁性金属ナノワイヤーを作製した後、還元剤や副生物の除去を目的とした精製を行うことができる。この時、強磁性金属ナノワイヤーの表面に高分子化合物層を有していると、ナノワイヤーの絡み合いおよび凝集を抑制することができる。精製方法としては、一般的な方法である、ろ過、遠心分離以外にも、限外ろ過膜に入れた強磁性金属ナノワイヤー分散液を溶媒に浸漬する方法、および磁石を使用し強磁性金属ナノワイヤーを回収する方法が挙げられる。また、これらの精製処理を実施しても、ナノワイヤー表面の高分子化合物層は剥がれ落ちない。
【0054】
本発明においては、強磁性ナノワイヤーを、分散処理の前に、還元処理することが好ましい。詳しくは塗膜導電性のさらなる向上の観点から、金属イオン還元処理工程の後、分散媒への分散処理工程の前に、強磁性金属ナノワイヤーを、以下に示すナノワイヤー還元処理工程に供することが好ましい。
【0055】
・ナノワイヤー還元処理工程
本工程では、強磁性金属ナノワイヤーを還元処理する。この還元処理により、ナノワイヤーの作製および精製中に起こる表面の酸化やイオン化による劣化部位をより一層十分に除去することができ、ナノワイヤー表面層に強磁性金属が含まれやすくなる。
【0056】
本工程の還元処理としては、強磁性金属ナノワイヤーの還元処理が達成される限り特に限定されない。例えば、還元性を示す溶媒中または還元剤を含む溶媒中、強磁性金属ナノワイヤーを加熱する。このような還元処理を実施しても、ナノワイヤー表面の高分子化合物層は剥がれ落ちない。
【0057】
本工程で使用される還元性を示す溶媒または還元剤を含む溶媒はそれぞれ、強磁性金属ナノワイヤー分散液の説明で記載した同様の、還元性を示す溶媒または酸化防止剤を含む溶媒が使用される。
【0058】
本工程における還元性を示す溶媒について、好ましい溶媒は、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのポリオール、特に飽和脂肪族ポリオールである。
【0059】
本工程における還元剤を含む溶媒について、好ましい還元剤として、ヒドロキシルアミン類、ヒドラジン、ヒドラジン一水和物、シュウ酸、ギ酸などが使用される。このような還元剤が添加される溶媒としては、当該還元剤を溶解し得る溶媒であれば特に限定されない。好ましい溶媒として、水、上記モノアルコール(特に飽和脂肪族モノアルコール)が使用される。
【0060】
還元剤を含む溶媒中での還元剤の濃度は、ナノワイヤー表面の還元が達成される限り特に限定されない。当該濃度は、反応溶液全量に対して、通常0.01〜10質量%であり、好ましくは0.05〜5質量%である。
【0061】
反応溶液中でのナノワイヤー濃度は、ナノワイヤー表面の還元が達成される限り特に限定されない。当該濃度は、反応溶液全量に対して、通常0.01〜10質量%であり、好ましくは0.1〜5.0質量%である。
【0062】
本工程における加熱温度および加熱時間は、ナノワイヤー表面の還元が達成される限り特に限定されない。当該加熱温度は通常、70〜200℃である。当該加熱時間は通常、1〜5時間である。
【0063】
本工程においては、強磁性金属ナノワイヤーを還元処理した後、還元剤や副生物の除去を目的とした精製を行うことができる。精製方法は、金属イオン還元処理工程の説明で記載した同様の精製方法が使用される。
【0064】
本発明においては通常、金属イオン還元処理工程で回収および単離されたナノワイヤーまたはナノワイヤー還元処理工程で回収および単離されたナノワイヤーを、以下に示す分散処理工程に供する。上記各工程でナノワイヤーを回収および単離しない場合は、必ずしも分散処理工程を行う必要はなく、上記各工程で得られたナノワイヤーを含む分散液をそのまま本発明のナノワイヤー分散液として使用することができる。
【0065】
・分散処理工程
本工程では、強磁性金属ナノワイヤーを分散媒へ分散させる。これにより、本発明の強磁性金属ナノワイヤー分散液を得る。本工程は通常、非加熱の状態、例えば室温(25℃)で行う。分散媒は、強磁性金属ナノワイヤー分散液の説明で記載した同様の分散媒が使用される。ナノワイヤーの配合量は、強磁性金属ナノワイヤー分散液の説明で記載したナノワイヤー分散液中のナノワイヤー濃度が達成されるような量であればよい。
【0066】
本発明の強磁性金属ナノワイヤー分散液に、上記した添加剤を含有させる場合、添加剤は、分散媒に予め含有させればよい。
【0067】
・特定の実施態様
本発明の強磁性金属ナノワイヤー分散液は通常、少なくとも金属イオン還元処理工程および分散処理工程を行うことにより、得ることができる。
【0068】
本発明の強磁性金属ナノワイヤー分散液を、以下の好ましい実施態様AまたはBに係る工程を経て得ることにより、ナノワイヤー表面層において強磁性金属が確認できるようになり、塗膜導電性がより一層向上する。
【0069】
好ましい実施態様A:
(i)金属イオン還元処理工程;および
(ii)分散処理工程(当該工程中、分散媒として還元性を示す溶媒または酸化防止剤を含む溶媒を使用する)。
【0070】
好ましい実施態様B:
(i)金属イオン還元処理工程;
(ii)ナノワイヤー還元処理工程;および
(iii)分散処理工程(当該工程中、分散媒として還元性を示す溶媒および酸化防止剤を含む溶媒以外の溶媒を使用する)。
【0071】
本発明の強磁性金属ナノワイヤー分散液を、以下の最も好ましい実施態様に係る工程を経て得ることにより、ナノワイヤー表面層において強磁性金属が確認できるようになり、塗膜導電性が最も向上する。
【0072】
最も好ましい実施態様:
(i)金属イオン還元処理工程;
(ii)ナノワイヤー還元処理工程;および
(iii)分散処理工程(当該工程中、分散媒として還元性を示す溶媒または酸化防止剤を含む溶媒を使用する)。
【0073】
[使用方法および用途]
本発明のナノワイヤー分散液は、基材に塗布し、乾燥することにより、膜、配線などを形成し、積層体を得ることができる。基材としては、例えば、ガラス基板、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、シクロオレフィンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、セラミックシート、金属板などが挙げられる。
【0074】
塗布方法は特に限定されないが、例えば、ワイヤーバーコーター塗布法、フィルムアプリケーター塗布法、スプレー塗布法、グラビアロールコーティング法、スクリーン印刷法、リバースロールコーティング法、リップコーティング法、エアナイフコーティング法、カーテンフローコーティング法、浸漬コーティング法、ダイコート法、スプレー法、凸版印刷法、凹版印刷法、インクジェット法が挙げられる。
【0075】
本発明の強磁性金属ナノワイヤー分散液は、ワイヤー分散状態が良好であるため塗工後の基材上で金属ナノワイヤーが凝集なく成膜される。このため良好な導電性を示す塗膜を形成することができる。さらに、ナノワイヤーのアスペクト比を前記範囲内とすることにより、より良好な導電性を示しながら高い光線透過率を示す塗膜を形成することができる。
【0076】
本発明のナノワイヤー分散液は塗布後、導電性の向上などを目的とした後処理を施すことができる。前記後処理としては、例えば、塗膜を高分子化合物が軟化する温度以上で保持する熱処理、塗膜を10〜30MPa程度の圧力でプレスするナノワイヤーの圧着処理、プラズマクリーナーによる高分子化合物の除去処理が挙げられる。
【0077】
本発明のナノワイヤー分散液は、分散安定性に優れており、湿式塗布に適した分散液である。また、分散液から得られるナノワイヤー膜は、導電性に優れており、80%以上の高い光線透過率を有した状態でも導電性を発揮できる。そのため、導電膜、導電塗料のみならず、タッチパネル用電極、ディスプレイ用電極、太陽電池用電極、透明電磁波シールド、透明ヒーターなどに活用できる。また、本発明のナノワイヤー分散液は、強磁性金属ナノワイヤーが有する異方性、配向性、磁場応答性を活用することにより、ナノ磁性材料、異方性材料、磁性膜などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0078】
次に、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0079】
A.評価方法
実施例および比較例で用いた評価方法は以下の通りである。
【0080】
(1)ナノワイヤー長の測定
試料台上で乾燥したナノワイヤーを、走査型電子顕微鏡にて撮影し、視野中のナノワイヤー長をすべて計測し、合計400本程度のナノワイヤー長から平均長、D10値、D90値を算出した。4000から6000倍で撮影することで、1視野あたり約200本程度のナノワイヤー長が計測可能である。
【0081】
(2)ナノワイヤー径の測定
支持膜付きグリッド上で乾燥したナノワイヤーを、透過型電子顕微鏡にて60万倍で撮影し、10視野中におけるナノワイヤー径の最大値、最小値、計測点の平均値を計測した。
【0082】
(3)高分子化合物層の有無および厚み
支持膜付きグリッドを使い、ナノワイヤー分散液からナノワイヤーを取り出し、5%リンタングステン酸染色を3分間施し、透過型電子顕微鏡にて60万倍で観察することで、高分子化合物層の有無を判断した。さらに、得られた画像から高分子化合物層の厚みを50箇所測定し、その平均値を高分子化合物層の厚みとした。
【0083】
(4)高分子化合物層の同定
ナノワイヤー分散液からナノワイヤーをろ過により回収し、加熱温度600℃で瞬間熱分解GC/MSにより、高分子化合物層の同定を行った。
高分子化合物層は、分子量の低下等の違いはあると考えられるが、基本的には添加した高分子化合物種である。
【0084】
(5)ナノワイヤー表面における強磁性金属の有無
ナノワイヤー分散液からナノワイヤーをろ過により回収し、X線光電子分光法にて確認した。例えば、ニッケルの場合、ニッケルの2pバンドのナロースキャンを行い、金属ニッケルのピーク有無で判断した。
X線光電子分光法にて測定可能な領域は表面から深さ10nmまでの層であり、測定にて金属のピークが確認できればナノワイヤーの当該表面層に強磁性金属が存在すると判断できる。
【0085】
(6)ナノワイヤー分散液の分散性
ナノワイヤー分散液を室温(25℃)下で30日間保管し、以下の基準で評価した。
A:ナノワイヤーが凝集せず、良好な分散性が維持できた。
B:ナノワイヤーの凝集粒が見られたが、分散性は実用上問題なかった。
C:分散できなかった。
【0086】
(7)ナノワイヤー膜の表面抵抗率
(6)と同様の方法により保管したナノワイヤー分散液を用いた。
アプリケーターを使い、ナノワイヤー分散液を、スライドガラス上に塗布し、窒素下100℃で1分間乾燥し、ナノワイヤー膜を得た。得られたナノワイヤー膜の表面抵抗率について、三菱化学アナリテック社製抵抗率計MCP−T610を用い、JIS K7194に準拠して、10Vの電圧を印加し測定した。
表面抵抗率は、MCP−T610の測定可能領域を超える場合は10
8Ω/sq以上とした。10
10Ω/sq以下の範囲が実用上問題のない範囲であり、10
8Ω/sq以下の範囲が好ましい範囲であり、10
6Ω/sq以下の範囲がより好ましい範囲であり、10
4Ω/sq以下の範囲がさらに好ましい範囲であり、10
3Ω/sq以下の範囲が最も好ましい範囲である。
【0087】
(8)ナノワイヤー膜の光線透過率
(7)と同様の方法によりナノワイヤー膜を作製し、スライドガラスをブランク値として、波長550nmにおける光線透過率を測定した。
光線透過率は、70%以上の範囲が好ましい範囲であり、80%以上の範囲がより好ましい範囲である。
【0088】
(9)ヘイズ値
(7)と同様の方法によりナノワイヤー膜を作製し、スライドガラスをブランク値として、全光線における透過光からヘイズ値を測定した。
ヘイズ値は、30%以下の範囲が好ましい範囲であり、20%以下の範囲がより好ましい範囲であり、10%以下の範囲がさらに好ましい範囲である。
【0089】
B.材料
実施例および比較例で用いた材料は以下のとおりである。
【0090】
(1)高分子化合物
・ピッツコールK120L
第一工業製薬社製ポリビニルピロリドン水溶液
・BS
第一工業製薬社製カルボキシルメチルセルロースナトリウム塩
【0091】
(2)溶媒、還元剤、酸化防止剤、強磁性金属塩、貴金属塩、錯化剤
高分子化合物以外の材料に関しては、特級あるいは一級の試薬を使用した。
【0092】
C.強磁性金属ナノワイヤーの作製方法
実施例および比較例で用いた強磁性金属ナノワイヤーの作製方法は以下の通りである。
【0093】
ナノワイヤーNiAの作製方法(本発明)
エチレングリコール350gに、塩化ニッケル六水和物1.95g(8.24mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.245g(0.83mmol)を溶解した。さらに、水酸化ナトリウム1.60g、ピッツコールK120Lの乾燥物15.0g、0.054Mの塩化白金酸水溶液4.60gを順に溶解し、その後、全量で375gになるようにエチレングリコールを添加して、強磁性金属イオン溶液を作製した。
一方、エチレングリコール100gに、水酸化ナトリウム0.50g、クエン酸三ナトリウム二水和物0.245g(0.83mmol)を溶解した。さらに、ピッツコールK120Lの乾燥物5.0g、ヒドラジン一水和物6.25gを順に溶解し、その後、全量で125gになるようにエチレングリコールを添加して、還元剤溶液を作製した。
強磁性金属イオン溶液と還元剤溶液をいずれも90〜95℃に加熱した後、温度を維持したまま混合し、反応溶液の中心に150mTの磁場を印加し、1時間30分間静置して還元反応を行った(金属イン還元処理工程:還元処理A)。溶液中のニッケルイオンの濃度は17μmol/g、高分子化合物の濃度は4%、白金イオンの濃度は0.5μmol/g、クエン酸三ナトリウム二水和物の濃度は3.3nmol/g、pHは11、反応温度におけるB型粘度計での粘度が240mPa・sであった。
得られた反応液からナノワイヤーを精製および回収するため、反応液100gをエチレングリコールで10倍に希釈し、磁石により、ニッケルナノワイヤーを強制的に沈殿させ、上澄み液を除去する作業を繰り返し行った。作業を4回繰り返すことで、除去する上澄み液のpHが6.5〜7.5になったのを確認後、ニッケルナノワイヤーNiAを回収および単離し、乾燥した。このナノワイヤーのX線光電子分光法スペクトルを
図4に示す。
図4の測定条件は以下の通りである。X線源:モノクロAl−Kα、X線出力:200W、光電子放出角度:75°、パスエネルギー:58.70eV、チャージシフト補正:C1sピークのC−H結合エネルギーを284.8eVに補正。
【0094】
ナノワイヤーNiBの作製方法(本発明)
エチレングリコール350gに、塩化ニッケル六水和物1.95g(8.24mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.245g(0.83mmol)を溶解した。さらに、水酸化ナトリウム1.60g、ピッツコールK120Lの乾燥物15.0g、0.054Mの塩化白金酸水溶液4.60gを順に溶解し、その後、全量で375gになるようにエチレングリコールを添加して、強磁性金属イオン溶液を作製した。
一方、エチレングリコール100gに、水酸化ナトリウム0.50g、クエン酸三ナトリウム二水和物0.245g(0.83mmol)を溶解した。さらに、ピッツコールK120Lの乾燥物5.0g、ヒドラジン一水和物6.25gを順に溶解し、その後、全量で125gになるようにエチレングリコールを添加して、還元剤溶液を作製した。
強磁性金属イオン溶液と還元剤溶液をいずれも80〜85℃に加熱した後、温度を維持したまま混合し、反応溶液の中心に150mTの磁場を印加し、1時間30分間静置して還元反応を行った(金属イン還元処理工程:還元処理A)。溶液中のニッケルイオンの濃度は17μmol/g、高分子化合物の濃度は4%、白金イオンの濃度は0.5μmol/g、クエン酸三ナトリウム二水和物の濃度は3.3nmol/g、pHは11、反応温度におけるB型粘度計での粘度が360mPa・sであった。
得られた反応液は、NiAと同様に精製し、ニッケルナノワイヤーNiBを回収および単離し、乾燥した。
【0095】
ナノワイヤーNiCの作製方法(本発明)
エチレングリコール350gに、塩化ニッケル六水和物1.95g(8.24mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.245g(0.83mmol)を溶解した。さらに、水酸化ナトリウム1.60g、ピッツコールK120Lの乾燥物15.0g、0.054Mの塩化白金酸水溶液4.60gを順に溶解し、その後、全量で375gになるようにエチレングリコールを添加して、強磁性金属イオン溶液を作製した。
一方、エチレングリコール100gに、水酸化ナトリウム0.50g、クエン酸三ナトリウム二水和物0.245g(0.83mmol)を溶解した。さらに、ピッツコールK120Lの乾燥物5.0g、ヒドラジン一水和物6.25gを順に溶解し、その後、全量で125gになるようにエチレングリコールを添加して、還元剤溶液を作製した。
強磁性金属イオン溶液と還元剤溶液をいずれも80〜85℃に加熱した後、温度を維持したまま混合し、反応溶液の中心に150mTの磁場を印加し、20分間静置して還元反応を行った(金属イン還元処理工程:還元処理A)。溶液中のニッケルイオンの濃度は17μmol/g、高分子化合物の濃度は4%、白金イオンの濃度は0.5μmol/g、クエン酸三ナトリウム二水和物の濃度は3.3nmol/g、pHは11、反応温度におけるB型粘度計での粘度が360mPa・sであった。
得られた反応液は、NiAと同様に精製し、ニッケルナノワイヤーNiCを回収および単離し、乾燥した。
【0096】
ナノワイヤーNiDの作製方法(比較)
エチレングリコール350gに、塩化ニッケル六水和物1.95g(8.24mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.245g(0.83mmol)を溶解した。さらに、水酸化ナトリウム1.60g、0.054Mの塩化白金酸水溶液4.60gを順に溶解し、その後、全量で375gになるようにエチレングリコールを添加して、強磁性金属イオン溶液を作製した。
一方、エチレングリコール100gに、水酸化ナトリウム0.50g、クエン酸三ナトリウム二水和物0.245g(0.83mmol)を溶解した。さらに、ヒドラジン一水和物6.25gを順に溶解し、その後、全量で125gになるようにエチレングリコールを添加して、還元剤溶液を作製した。
強磁性金属イオン溶液と還元剤溶液をいずれも80〜85℃に加熱した後、温度を維持したまま混合し、反応溶液の中心に150mTの磁場を印加し、1時間30分間静置して還元反応を行った(金属イン還元処理工程:還元処理A)。溶液中のニッケルイオンの濃度は17μmol/g、高分子化合物の濃度は0%、白金イオンの濃度は0.5μmol/g、クエン酸三ナトリウム二水和物の濃度は3.3nmol/g、pHは11、反応温度におけるB型粘度計での粘度が5mPa・sであった。
反応後のシート状に凝集した強磁性金属ナノワイヤーNiDを吸引ろ過により回収および単離し、乾燥した。
【0097】
ナノワイヤーNiEの作製方法(本発明)
純水50gに、塩化ニッケル六水和物0.59g(2.48mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.37g(1.26mmol)を溶解した。さらに、5%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pHを11.5に調整した後、BS 1gを溶解した。溶解後、0.054Mの塩化白金酸水溶液0.93gを添加し、その後、全量で75gになるように水を追加し、強磁性金属イオン溶液を作製した。
一方、純水20gに、5%水酸化ナトリウム40mg、ヒドラジン一水和物1.25gを添加し還元剤溶液を作製した。その後、全量で25gになるように純水を添加し、還元剤溶液を作製した。
強磁性金属イオン溶液と還元剤溶液をいずれも80〜85℃に加熱した後、温度を維持したまま混合し、反応溶液の中心に150mTの磁場を印加し、1時間静置して還元反応を行った(金属イン還元処理工程:還元処理A)。溶液中のニッケルイオンの濃度は24.8μmol/g、高分子化合物の濃度は1%、白金イオンの濃度は0.5μmol/g、クエン酸三ナトリウム二水和物の濃度は12.6nmol/g、pHは11.5、反応温度におけるB型粘度計での粘度が50mPa・sであった。
得られた反応液からナノワイヤーを精製、回収するため、反応液100gを純水で10倍に希釈し、磁石により、ニッケルナノワイヤーを強制的に沈殿させ、上澄み液を除去する作業を繰り返し行った。作業を4回繰り返すことで、除去する上澄み液のpHが6.5〜7.5になったのを確認後、ニッケルナノワイヤーNiEを回収および単離し、乾燥した。
【0098】
作製したナノワイヤーの寸法および表面状態を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
実施例1
ニッケルナノワイヤーNiA100mgとエチレングリコール20gを混合し、150℃で3時間加熱することにより、還元処理を行った(ナノワイヤー還元処理工程:還元処理B)。還元処理Bにおけるナノワイヤーの反応溶液全量に対する濃度を表2に示す。加熱後、吸引ろ過にてナノワイヤーを回収した。回収したナノワイヤーのX線光電子分光法スペクトルを
図5に示す。
図5の測定条件は以下の通りである。X線源:モノクロAl−Kα、X線出力:200W、光電子放出角度:75°、パスエネルギー:58.70eV、チャージシフト補正:C1sピークのC−H結合エネルギーを284.8eVに補正。回収したナノワイヤーを100mgのヒドラジン一水和物を含むイソプロパノールと混合し、全量で20gになるようにイソプロパノール量を調製し、ナノワイヤー分散液を得た(分散処理)。分散処理におけるナノワイヤーおよび酸化防止剤の分散液全量に対する濃度を表2に示す。この分散液を乾燥したものを撮影したのが
図1および
図2であり、ナノワイヤーのX線光電子分光法スペクトルを
図6に示す。
図6の測定条件は以下の通りである。X線源:モノクロAl−Kα、X線出力:200W、光電子放出角度:75°、パスエネルギー:58.70eV、チャージシフト補正:C1sピークのC−H結合エネルギーを284.8eVに補正。
【0101】
実施例2〜9
表2に記載のナノワイヤーを用いたこと、および還元処理Bにおけるナノワイヤー濃度および分散処理におけるナノワイヤー濃度、溶媒の種類および還元剤、酸化防止剤の種類および濃度を表2に示すように変更したこと以外、実施例1と同様の方法により、ナノワイヤー分散液を得た。
【0102】
実施例10
NiA100mgを100mgのヒドラジン一水和物を含むイソプロパノールと混合し、全量で20gになるようにイソプロパノール量を調製し、窒素雰囲気下で30分間撹拌することで、ナノワイヤー分散液を得た(分散処理)。分散処理におけるナノワイヤーおよび酸化防止剤の分散液全量に対する濃度を表2に示す。
【0103】
実施例11
NiE100mgを20mgのシュウ酸を含む純水と混合し、全量で20gになるように純水量を調製し、窒素雰囲気下で30分間撹拌することで、ナノワイヤー分散液を得た(分散処理)。分散処理におけるナノワイヤーおよび酸化防止剤の分散液全量に対する濃度を表2に示す。
【0104】
実施例12
NiE100mgを20mgのシュウ酸を含む純水と混合し、全量で20gになるように純水量を調製し、窒素雰囲気下で80℃、30分間撹拌することで、ナノワイヤー分散液を得た(ナノワイヤー還元処理工程:還元処理B)。還元処理Bにおけるナノワイヤーおよび酸化防止剤の反応溶液全量に対する濃度を表2に示す。
【0105】
実施例13
NiA100mgをイソプロパノールと混合し、全量で20gになるようにイソプロパノール量を調製し、ナノワイヤー分散液を得た。本実施例では還元処理Bを行わず、分散処理において酸化防止剤は使用しなかった。
【0106】
比較例1
NiD100mgをイソプロパノールと混合し、全量で20gになるようにイソプロパノール量を調整した。その後、超音波ホモジナイザーにて分散処理を行った。このナノワイヤーを撮影したのが
図3である。
【0107】
比較例2
ナノワイヤーNiDを用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、ナノワイヤー分散液を得た。
【0108】
比較例3
ナノワイヤーNiDを用いたこと以外、実施例10と同様の方法により、ナノワイヤー分散液を得た。
【0109】
比較例4
ナノワイヤーNiDを用いたこと、および分散処理において酸化防止剤は使用しなかったこと以外、実施例1と同様の方法により、ナノワイヤー分散液を得た。
【0110】
実施例および比較例で得られたナノワイヤー分散液の製造条件および評価結果を表2に示す。
【0111】
【表2】
【0112】
実施例1から14の強磁性金属ナノワイヤー分散液は、いずれもナノワイヤー表面に高分子化合物層を有しており、分散性に優れていた。このようなナノワイヤー分散液から製造された塗膜は導電性および透明性に優れていた。
【0113】
実施例1から12において最終的に得られたナノワイヤー分散液には酸化防止剤または還元性を示す溶媒が含まれているため、分散性および塗膜導電性が特に優れていた。
【0114】
比較例1のナノワイヤー分散液は、ナノワイヤー表面に高分子化合物層を有していないため、分散性に乏しかった。このようなナノワイヤー分散液を用いて得られた塗膜は導電性に乏しいものであった。
【0115】
比較例2から4のナノワイヤー分散液は、ナノワイヤー表面に高分子化合物層を有していないため、ナノワイヤーの還元処理(還元処理B)および/または酸化防止剤を含む分散媒への分散処理を行っても、分散性および塗膜導電性に乏しかった。