特許第6616338号(P6616338)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616338
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】消磁装置
(51)【国際特許分類】
   B63G 9/06 20060101AFI20191125BHJP
   H01F 13/00 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   B63G9/06
   H01F13/00 610
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-1064(P2017-1064)
(22)【出願日】2017年1月6日
(65)【公開番号】特開2018-111326(P2018-111326A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧田 圭一
【審査官】 米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−111085(JP,A)
【文献】 特表平6−508582(JP,A)
【文献】 特開平2−260617(JP,A)
【文献】 実開昭58−55395(JP,U)
【文献】 米国特許第7451719(US,B1)
【文献】 特開2016−210364(JP,A)
【文献】 特開2007−153124(JP,A)
【文献】 特開2011−93383(JP,A)
【文献】 特開平8−78234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63G 9/06
H01F 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に装備された消磁コイルと、
前記消磁コイルに電力を供給する電力供給部と、
前記船体の磁気による磁界を打ち消すために必要な前記消磁コイルの起磁力を取得する取得部と、
前記起磁力に基づいて前記消磁コイルの巻き数を決定する巻き数決定部と、
前記消磁コイルの巻き数を前記巻き数決定部が決定した巻き数に切り替える巻き数切替部とを備える、消磁装置。
【請求項2】
前記巻き数決定部は、前記起磁力と、前記電力供給部によって前記消磁コイルに供給可能な最大電流値とに基づいて、前記消磁コイルの巻き数を決定する、請求項1に記載の消磁装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記起磁力として、前記船体の永久磁気による磁界を打ち消すために必要な前記消磁コイルの第1起磁力と、特定の位置における前記船体の誘導磁気による磁界を打ち消すために必要な前記消磁コイルの第2起磁力とを取得し、
前記巻き数決定部は、前記第1起磁力と前記第2起磁力との合計起磁力と、前記電力供給部によって前記消磁コイルに供給可能な最大電流値とに基づいて、前記消磁コイルの巻き数を決定し、
前記消磁装置は、前記第1起磁力と前記第2起磁力と前記船体の現在位置と前記巻き数決定部が決定した巻き数とに基づいて、前記電力供給部から前記消磁コイルに供給される電流値を決定する電流値決定部をさらに備える、請求項2に記載の消磁装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記起磁力として、前記船体の永久磁気による磁界を打ち消すために必要な前記消磁コイルの第1起磁力と、特定の位置における前記船体の誘導磁気による磁界を打ち消すために必要な前記消磁コイルの第2起磁力と、前記船体が移動可能な領域における誘導磁気による最大磁界を打ち消すために必要な前記消磁コイルの第3起磁力とを取得し、
前記巻き数決定部は、前記第1起磁力と前記第3起磁力との合計起磁力と、前記電力供給部によって前記消磁コイルに供給可能な最大電流値とに基づいて、前記消磁コイルの巻き数を決定し、
前記消磁装置は、前記第1起磁力と前記第2起磁力と前記船体の現在位置と前記巻き数決定部が決定した巻き数とに基づいて、前記電力供給部から前記消磁コイルに供給される電流値を決定する電流値決定部をさらに備える、請求項2に記載の消磁装置。
【請求項5】
前記電流値決定部は、前記船体の現在位置に応じた補正係数と前記第2起磁力との乗算値に前記第1起磁力を加算した値を前記巻き数決定部が決定した巻き数で除算することにより前記電流値を決定する、請求項3または4に記載の消磁装置。
【請求項6】
前記消磁コイルは、開いた環状の複数の導線を含み、
前記巻き数切替部は、前記複数の導線間の接続状態を切り替えることにより、前記消磁コイルの巻き数を切り替える、請求項1から4のいずれか1項に記載の消磁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船体を消磁する消磁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船体に装備した各消磁コイルに直流電流を通電することにより、各消磁コイルにフレミングの法則に従う磁界を発生させて、船体における永久磁気および誘導磁気による磁界を相殺する消磁装置が知られている(たとえば、特開2011−111085号公報(特許文献1)参照)。
【0003】
ここで、永久磁気とは、船体の建造時に船体鋼板に着いた、船体が有する固有の磁気である。一方、誘導磁気とは、船体自体が地球磁気により誘起される磁気であり、船舶の現在位置、船首方位および船体傾斜により決定されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−111085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
消磁コイルによって発生される磁界は、消磁コイルの巻き数および消磁コイルに通電される直流電流の大きさに比例する。消磁コイルに通電される直流電流は、船体に備えられる電源によって上限値が規定される。そのため、経年変化によって永久磁気および誘導磁気による磁界が大きくなり、直流電流の上限値では当該磁界を相殺できない場合、消磁コイルの巻き数を増やすことが必要となる。
【0006】
しかしながら、従来、消磁コイルの巻き数の切り替えは、消磁コイルを形成する多芯ケーブルの各導線の接続を手動で切り替えすることにより行なわれており、手間がかかる。巻き数の切り替えは、頻繁に行なわれるものではない。そのため、多芯ケーブルの各導線の接続を変更するための接続箱は、狭隘な場所や他の装置の裏側等、容易にアクセスできない場所に設置されることが多い。これにより、更に手間がかかる。
【0007】
それゆえに、この発明の主たる目的は、消磁コイルの巻き数の切り替えにかかる手間を軽減できる消磁装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る消磁装置は、船体に装備された消磁コイルと、消磁コイルに電力を供給する電力供給部と、船体の磁気による磁界を打ち消すために必要な消磁コイルの起磁力を取得する取得部と、起磁力に基づいて前記消磁コイルの巻き数を決定する巻き数決定部と、消磁コイルの巻き数を巻き数決定部が決定した巻き数に切り替える巻き数切替部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、消磁コイルの巻き数の切り替えにかかる手間を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】船体を模式的に示す斜視図である。
図2】船体および当該船体に装備される消磁装置の内部の概略構成を示すブロック図である。
図3】消磁装置が備える制御装置の内部構成を示すブロック図である。
図4】起磁力テーブルの一例を示す図である。
図5】消磁装置が備える電源装置の内部構成を示すブロック図である。
図6】リレー回路によって切り替えられる、消磁コイルの接続状態を示す図である。
図7】消磁コイルの巻き数の切替処理の流れを示すフローチャートである。
図8】消磁処理の流れを示すフローチャートである。
図9】起磁力テーブルの別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的には繰り返さないものとする。
【0012】
以下では、船体の一例として、水上を航行する船舶を説明する。ただし、船体は、これに限定されるものではなく、水中を潜航可能な船舶であってもよい。
【0013】
(船体および消磁装置の概略構成)
図1を参照して、本実施の形態に係る消磁装置を装備する船体1について説明する。図1は、船体1を模式的に示す斜視図である。船体1は、建造時の着磁によって生じた永久磁気と、地球磁気により誘起される誘導磁気とを帯びている。船体1の永久磁気および誘導磁気による磁界は、船首尾線方向の成分(X方向成分)と、船体横方向の成分(Y方向成分)と、船体に対して垂直方向の成分(Z方向成分)とに分けられる。
【0014】
船体1は、消磁所において定期的に消磁される。消磁所では、船体1を取り囲むコイルに通電することにより、船体1の消磁処理が行なわれる。ただし、消磁処理を行なったとしても、船体1の永久磁気を完全に取り除くことはできない。消磁所では、消磁処理後に残存する船体1の永久磁気によって発生する磁界のX方向成分、Y方向成分、Z方向成分と、消磁所における船体1の誘導磁気によって発生する磁界のX方向成分、Y方向成分、Z方向成分とが計測される。船体1から発生する磁界は、残存する永久磁気と誘導磁気とに起因する。そのため、まず、船体1の位置、方位、姿勢(傾斜)、サイズによって、誘導磁気による磁界が算出される。船体1からの全磁界から、消磁所における誘導磁気による磁界を差し引くことにより、永久磁気による磁界が計測される。
【0015】
図2は、船体1の内部の概略構成を示すブロック図である。図2を参照して、船体1は、消磁装置100と、GPS(Global Positioning System)装置200と、方位センサ300と、傾斜センサ400とを備える。
【0016】
GPS装置200は、GPS衛星からの信号を受信し、受信信号に基づいて船体1の現在位置を示す位置情報を生成する。
【0017】
方位センサ300は、船体1の船首方向(図1に示すX方向)の方位を検出し、検出した方位を示す方位情報を生成する。
【0018】
傾斜センサ400は、船体1の姿勢(傾斜)を検出し、検出した姿勢を示す姿勢情報を生成する。
【0019】
消磁装置100は、船体1の永久磁気および誘導磁気によって発生する磁界を消磁する。消磁装置100は、制御装置10と、電源装置20a〜20cと、消磁コイル30a〜30cとを備える。
【0020】
消磁コイル30aは、図1のX方向を軸方向とするLコイルである。消磁コイル30bは、Y方向を軸方向とするAコイルである。消磁コイル30cは、Z方向を軸方向とするMコイルである。
【0021】
消磁コイル30a〜30cの各々は、開いた環状の3本の導線31〜33を有する多芯ケーブルにより構成され、導線31〜33の接続状態が切り替えられることにより、巻き数が1〜3に切り替えられる。ここで、「開いた環状」とは、周方向に不連続となる欠落部を有する形状である。すなわち、導線31〜33を有する多芯ケーブルは、一方端と他方端とが一定の隙間を空けた状態で環状に設置される。
【0022】
電源装置20a〜20cは、消磁コイル30a〜30cに電力をそれぞれ供給する装置である。
【0023】
電源装置20aは、制御装置10からの指示に従って、消磁コイル30aの巻き数を切り替えるとともに、指定された値の電流を消磁コイル30aに供給する。電源装置20bは、制御装置10からの指示に従って、消磁コイル30bの巻き数を切り替えるとともに、指定された値の電流を消磁コイル30bに供給する。電源装置20cは、制御装置10からの指示に従って、消磁コイル30cの巻き数を切り替えるとともに、指定された値の電流を消磁コイル30cに供給する。
【0024】
制御装置10は、電源装置20a〜20cの動作を制御する。制御装置10は、所定のタイミングで消磁コイル30a〜30cの各々の巻き数を決定し、巻き数の切り替えが必要な場合に巻き数の切替指示を電源装置20a〜20cに出力する。制御装置10が消磁コイル30a〜30cの巻き数を決定するタイミングは、たとえば、船体1が消磁所において消磁処理を受けた後、残存する永久磁気による磁界が計測されたタイミングである。
【0025】
制御装置10は、消磁コイル30a〜30cに供給すべき電流値を決定し、決定した電流値を指定した通電指示を電源装置20a〜20cにそれぞれ出力する。
【0026】
制御装置10は、たとえば、各種の演算を行なうCPU(Central Processing Unit)と、各種データを格納するROM(Read Only Memory)と、CPUでのプログラムの実行に必要なデータを格納するための作業領域を提供するRAM(Random Access Memory)と、CPU502で実行されるプログラムなどを不揮発的に格納するハードディスク(HDD)とを含む。
【0027】
(制御装置の内部構成)
図3は、制御装置10の内部構成を示すブロック図である。図3を参照して、制御装置10は、テーブル更新部11と、記憶部12と、電流値決定部13と、巻き数決定部14とを備える。テーブル更新部11、電流値決定部13および巻き数決定部14は、たとえばハードディスクに格納されたプログラムをCPUが実行することにより実現される。記憶部12は、たとえばROMによって構成される。
【0028】
記憶部12は、消磁コイル30a〜30cの各々について、船体1の永久磁気による磁界を打ち消すために必要な第1起磁力と、特定の位置(ここでは消磁所)における船体1の誘導磁気による磁界を打ち消すために必要な第2起磁力と、現在設定されている巻き数とを示す起磁力テーブル12aを記憶する。
【0029】
図4は、起磁力テーブル12aの一例を示す図である。図4に示す例では、永久磁気によって発生する磁界を打ち消すために、消磁コイル30aに必要な第1起磁力が20AT(アンペアターン:SI単位系ではA(アンペア))であり、消磁コイル30bに必要な第1起磁力が40ATであり、消磁コイル30cに必要な第1起磁力が10ATである。また、誘導磁気によって発生する磁界を打ち消すために、消磁コイル30aに必要な第2起磁力が30AT(アンペアターン:SI単位系ではA(アンペア))であり、消磁コイル30bに必要な第2起磁力が60ATであり、消磁コイル30cに必要な第2起磁力が20ATである。現在設定されている巻き数は、消磁コイル30aが2回、消磁コイル30bが3回、消磁コイル30cが1回である。
【0030】
図3に戻って、テーブル更新部11は、起磁力テーブル12aにおける消磁コイル30a〜30cの各々の第1起磁力および第2起磁力の値を更新する。
【0031】
テーブル更新部11は、消磁所における位置、方位、姿勢および船体1のサイズに基づいて算出される誘導磁気による磁界のX方向成分、Y方向成分およびZ方向成分の値を取得する。さらに、テーブル更新部11は、消磁所において残存する永久磁気による磁界のX方向成分、Y方向成分およびZ方向成分が計測されると、計測された各方向成分の値を取得する。テーブル更新部11は、消磁所に設定された磁界を計測する計測装置に接続され、当該計測装置から磁界の各方向成分の値を取得してもよいし、作業者による入力を受け付ける入力受付部(たとえばキーボードやマウス)を介して計測値を取得してもよい。
【0032】
テーブル更新部11は、永久磁気による磁界のX方向成分を打ち消すために必要な起磁力を、消磁コイル30aに対応する第1起磁力として算出する。テーブル更新部11は、永久磁気による磁界のY方向成分を打ち消すために必要な起磁力を、消磁コイル30bに対応する第1起磁力として算出する。テーブル更新部11は、永久磁気による磁界のZ方向成分を打ち消すために必要な起磁力を、消磁コイル30cに対応する第1起磁力として算出する。
【0033】
テーブル更新部11は、消磁コイル30a〜30cの各々について算出した第1起磁力の値により起磁力テーブル12aを更新する。
【0034】
テーブル更新部11は、誘導磁気による磁界のX方向成分を打ち消すために必要な起磁力を、消磁コイル30aに対応する第2起磁力として算出する。テーブル更新部11は、誘導磁気による磁界のY方向成分を打ち消すために必要な起磁力を、消磁コイル30bに対応する第2起磁力として算出する。テーブル更新部11は、誘導磁気による磁界のZ方向成分を打ち消すために必要な起磁力を、消磁コイル30cに対応する第2起磁力として算出する。
【0035】
テーブル更新部11は、消磁コイル30a〜30cの各々について算出した第2起磁力の値により起磁力テーブル12aを更新する。
【0036】
電流値決定部13は、起磁力テーブル12aに基づいて、消磁コイル30a〜30cの各々に供給すべき電流値を決定する。具体的には、電流値決定部13は、GPS装置200から現在の位置を示す位置情報を、方位センサ300から現在の方位を示す方位情報を、傾斜センサ400から現在の姿勢を示す姿勢情報を受ける。電流値決定部13は、現在の位置、方位および姿勢に基づいて補正係数を決定し、決定した補正係数を起磁力テーブル12aの第2起磁力に乗算する。電流値決定部13は、現在の位置、方位および姿勢と補正係数との対応関係を示す情報(テーブルや演算式)を予め記憶しており、当該情報を用いて補正係数を決定する。当該情報は、消磁所において消磁処理が実行されたときの船体1の位置、方位、姿勢に基づいて設定される。電流値決定部13は、消磁コイル30a〜30cの各々について、対応する第1起磁力と第2起磁力に補正係数を乗算した値との合計起磁力の値を対応する巻き数で除算することにより得られた値を供給すべき電流値として決定する。
【0037】
電流値決定部13は、消磁コイル30aに対して決定した電流値を指定した通電指示を電源装置20aに出力する。電流値決定部13は、消磁コイル30bに対して決定した電流値を指定した通電指示を電源装置20bに出力する。電流値決定部13は、消磁コイル30cに対して決定した電流値を指定した通電指示を電源装置20cに出力する。
【0038】
電流値決定部13は、GPS装置200、方位センサ300および傾斜センサ400からそれぞれ位置情報、方位情報および姿勢情報を受けるたびに、消磁コイル30a〜30cに供給すべき電流値を算出し、当該電流値を指定した通電指示を電源装置20a〜20cに出力する。
【0039】
巻き数決定部14は、所定のタイミングで起磁力テーブル12aの巻き数を更新する。ここで、所定のタイミングとは、たとえば、起磁力テーブル12aにおいて第1起磁力および第2起磁力が更新されるタイミングである。
【0040】
巻き数決定部14は、消磁コイル30a〜30cの各々について、対応する第1起磁力と第2起磁力との合計起磁力に基づいて巻き数を決定する。
【0041】
消磁コイル30a〜30cにより発生する磁界は、通電される電流値と巻き数との積によって定まる。つまり、巻き数が多くなるほど、電流値の単位変化量に対する磁界の変化量が大きくなり、消磁コイル30a〜30cによって発生する磁界の細かい制御が困難となる。そのため、巻き数決定部14は、消磁コイル30a〜30cの巻き数を必要最小限の値に決定することが好ましい。
【0042】
起磁力テーブル12aの第2起磁力は、消磁所において消磁処理が実行されたときの船体1の位置、方位および姿勢に応じた誘導磁気による磁界を打ち消すために必要な起磁力である。船体1が将来とり得る位置、方位、姿勢によっては、誘導磁気による磁界を打ち消すために必要な起磁力が起磁力テーブル12aの第2起磁力よりも大きくなる可能性がある。そのため、巻き数決定部14は、当該可能性を考慮して、ある程度のマージンを持って巻き数を決定することが好ましい。
【0043】
具体的には、巻き数決定部14は、電源装置20a〜20cの定格電流値(供給可能な最大の電流値)と、消磁コイル30a〜30cに対応する第1起磁力と第2起磁力との合計起磁力とに基づいて、消磁コイル30a〜30cの巻き数をそれぞれ決定する。
【0044】
たとえば、巻き数決定部14は、消磁コイル30aに対応する第1起磁力と第2起磁力との合計起磁力に、船体1の将来とり得る位置、方位、姿勢を考慮した所定値を加算する。巻き数決定部14は、当該加算値を電源装置20aの定格電流値で除算することにより得られた値以上の最小整数を消磁コイル30aの巻き数に決定する。
【0045】
もしくは、巻き数決定部14は、消磁コイル30aに対応する第1起磁力と第2起磁力との合計起磁力を電源装置20aの定格電流値で除算する。巻き数決定部14は、当該除算値に、船体1の将来とり得る位置、方位、姿勢を考慮した所定値を加算し、加算値以上の最小整数を消磁コイル30aの巻き数に決定してもよい。
【0046】
巻き数決定部14は、消磁コイル30b,30cについても、消磁コイル30aと同様に巻き数を決定する。
【0047】
巻き数決定部14は、決定した巻き数に基づいて、起磁力テーブル12aを更新する。巻き数決定部14は、起磁力テーブル12aの巻き数を変更する場合、当該巻き数に対応する消磁コイルに電力を供給する電源装置に対して、新たな巻き数を指定した巻き数切替指示を出力する。
【0048】
(電源装置の構成)
図5は、電源装置20a〜20cの内部構成を示すブロック図である。図5を参照して、電源装置20a〜20cは、巻き数切替部21と、リレー回路22と、電力供給部23とを含む。
【0049】
リレー回路22は、接続された消磁コイルが有する導線31〜33の接続状態を切り替えるための回路である。
【0050】
図6は、リレー回路22によって切り替えられる3つの接続状態を示す図である。図6を参照して、リレー回路22は、電源端子22a,22bと、導線31の一方端が接続される端子22cと、導線31の他方端が接続される端子22fと、導線32の一方端が接続される端子22dと、導線32の他方端が接続される端子22gと、導線33の一方端が接続される端子22eと、導線33の他方端が接続される端子22hとを有する。電源端子22a,22bの一方から他方に向けて通電される。
【0051】
リレー回路22は、図6(a)に示される第1接続パターンと、図6(b)に示される第2接続パターンと、図6(c)に示される第3接続パターンとのいずれかに従って端子間を接続する。
【0052】
第1接続パターンでは、電源端子22aと端子22cとが接続され、端子22fと電源端子22bとが接続される。これにより、巻き数1回のコイルが形成される。
【0053】
第2接続パターンでは、電源端子22aと端子22cとが接続され、端子22dと端子22fとが接続され、端子22gと電源端子22bとが接続される。これにより、巻き数2回のコイルが形成される。
【0054】
第3接続パターンでは、電源端子22aと端子22cとが接続され、端子22dと端子22fとが接続され、端子22eと端子22gとが接続され、端子22hと電源端子22bとが接続される。これにより、巻き数3回のコイルが形成される。
【0055】
巻き数切替部21は、制御装置10から受けた巻き数切替指示によって指定された巻き数に従って、リレー回路22の接続状態を第1〜第3接続パターンのいずれかに切り替える。
【0056】
電力供給部23は、リレー回路22の電源端子22a,22bに接続され、制御装置10から受けた通電指示によって指定された値の電流を電源端子22aから消磁コイルに供給する。
【0057】
(巻き数の切替処理)
図7は、消磁コイル30a〜30cの巻き数の切替処理の流れを示すフローチャートである。船体1が消磁所にて消磁処理を受け、船体1に残存する永久磁気による磁界のX方向成分、Y方向成分およびZ方向成分と、消磁所における誘導磁気により磁界のX方向成分、Y方向成分およびZ方向成分とが計測される。ステップS1において、テーブル更新部11は、永久磁気による磁界のX方向成分、Y方向成分およびZ方向成分と、消磁所における誘導磁気により磁界のX方向成分、Y方向成分およびZ方向成分とを取得する。
【0058】
ステップS2において、テーブル更新部11は、永久磁気による磁界のX方向成分、Y方向成分およびZ方向成分に基づいて、当該磁界を打ち消すために必要とされる、消磁コイル30a〜30cの各々の第1起磁力を算出し、起磁力テーブル12aを更新する。さらに、テーブル更新部11は、消磁所における誘導磁気による磁界のX方向成分、Y方向成分およびZ方向成分に基づいて、当該磁界を打ち消すために必要とされる、消磁コイル30a〜30cの各々の第2起磁力を算出し、起磁力テーブル12aを更新する。
【0059】
ステップS3において、巻き数決定部14は、起磁力テーブル12aの第1起磁力と第2起磁力とに基づいて、消磁コイル30a〜30cの各々の巻き数を決定する。
【0060】
ステップS4において、巻き数決定部14は、消磁コイル30a〜30cの各々について、巻き数の切り替えが必要か判断する。巻き数決定部14は、ステップS3にて決定した巻き数が起磁力テーブル12aの巻き数と異なる場合に、巻き数の切り替えが必要であると判断する。
【0061】
巻き数の切り替えが必要である場合(S4でYES)、巻き数決定部14は、ステップS5において、対象となる電源装置20a〜20cに対して、ステップS3で決定した巻き数を指定した巻き数切替指示を出力する。これにより、巻き数切替指示を受けた電源装置20a〜20cにおいて、指定された巻き数となるようにリレー回路22の接続状態が切り替えられる。巻き数決定部14は、ステップS3で決定した巻き数により、起磁力テーブル12aを更新する。そして、ステップS5の後、処理は終了する。巻き数の切り替えが必要でない場合(S4でNO)も、処理は終了する。
【0062】
(消磁処理)
図8は、消磁装置100における消磁処理の流れを示すフローチャートである。まず、ステップS11において、電流値決定部13は、GPS装置200から現在の位置を示す位置情報を、方位センサ300から現在の方位を示す方位情報を、傾斜センサ400から現在の姿勢を示す姿勢情報を受ける。
【0063】
ステップS12において、電流値決定部13は、消磁コイル30a〜30cの各々について、現在の位置、方位および姿勢に対応する補正係数を決定し、決定した補正係数と起磁力テーブル12aの第2起磁力との乗算値を算出する。
【0064】
ステップS13において、電流値決定部13は、消磁コイル30a〜30cの各々について、起磁力テーブル12aの第1起磁力とステップS12により算出した乗算値との合計起磁力を算出する。電流値決定部13は、消磁コイル30a〜30cの各々について、算出した合計起磁力を起磁力テーブル12aの巻き数で除算することにより、供給すべき電流値を算出する。
【0065】
ステップS14において、電流値決定部13は、ステップS13で算出した電流値を指定した通電指示を各電源装置20a〜20cに出力する。これにより、電源装置20a〜20cは、消磁コイル30a〜30cに指定された電流値の電力をそれぞれ供給する。
【0066】
ステップS11〜S14の処理は、所定時間ごとに繰り返される。たとえば、GPS装置200、方位センサ300および傾斜センサ400の計測タイミングごとに、ステップS11〜S14の処理が繰り返される。これにより、船体1が移動したとしても、船体1の現在の位置、方位および姿勢に応じた適切な電流値の電流が消磁コイル30a〜30cに通電され、船体1の磁気が消磁される。
【0067】
(変形例)
上記の説明では、消磁コイル30a〜30cの各々は、3本の導線31〜33を有するものとした。しかしながら、消磁コイル30a〜30cの各々が有する導線数は、2本であってもよいし、4本以上であってもよい。
【0068】
上記の説明では、消磁装置100は、3つの消磁コイル30a〜30cを備えるものとした。しかしながら、消磁装置100は、4つ以上の消磁コイルを備えていてもよい。たとえば、消磁装置100は、船体1のX方向(図1参照)を軸とする複数の消磁コイル(Lコイル)を備え、Y方向を軸とする複数の消磁コイル(Aコイル)を備え、Z方向を軸とする複数の消磁コイル(Mコイル)を備えてもよい。この場合、記憶部12は、各消磁コイルに対応する第1起磁力、第2起磁力および巻き数を示す起磁力テーブル12aを記憶すればよい。
【0069】
記憶部12は、船体1の外部の装置に備えられてもよい。この場合、テーブル更新部11は、算出した第1起磁力および第2起磁力を、ネットワークを介して接続された記憶部12に格納する。電流値決定部13および巻き数決定部14は、それぞれ電流値および巻き数を決定する際に、テーブル更新部11に対して情報取得要求を送る。テーブル更新部11は、情報取得要求を受けると、ネットワークを介して記憶部12から第1起磁力および第2起磁力を読み出して、電流値決定部13および巻き数決定部14に出力してもよい。
【0070】
記憶部12は、上記の第1起磁力、第2起磁力および巻き数に加えて、船体1の移動可能な領域における誘導磁気による最大磁界を打ち消すために必要な各消磁コイル30a〜30cの第3起磁力を示す起磁力テーブル12bを記憶していてもよい。
【0071】
図9は、起磁力テーブル12bの一例を示す図である。消磁コイル30aの第3起磁力は、船体1がとり得る誘導磁気による磁界のX方向成分の最大値を打ち消すために必要な起磁力であり、図9の例では40ATである。消磁コイル30bの第3起磁力は、船体1がとり得る誘導磁気による磁界のY方向成分の最大値を打ち消すために必要な起磁力であり、図9の例では80ATである。消磁コイル30cの第3起磁力は、船体1がとり得る誘導磁気による磁界のZ方向成分の最大値を打ち消すために必要な起磁力であり、図9の例では30ATである。
【0072】
テーブル更新部11は、船体1の移動可能な領域における誘導磁気による最大磁界を打ち消すために必要な各消磁コイル30a〜30cの第3起磁力の値を算出し、算出した値を記憶部12に格納する。もしくは、各消磁コイル30a〜30cの第3起磁力が別の装置で算出され、テーブル更新部11は、当該装置から第3起磁力の値を取得し、取得した値を記憶部12に格納してもよい。
【0073】
記憶部12が起磁力テーブル12bを記憶している場合、巻き数決定部14は、消磁コイル30a〜30cの各々について、第1起磁力と第3起磁力との合計起磁力と、対応する電源装置の定格電流値とに基づいて、巻き数を決定すればよい。
【0074】
具体的には、巻き数決定部14は、消磁コイル30aに対応する第1起磁力と第3起磁力との合計起磁力を電源装置20aの定格電流値で除算した値以上の最小整数を、消磁コイル30aの巻き数として決定する。同様にして、巻き数決定部14は、消磁コイル30b,30cの巻き数を決定する。
【0075】
上記の説明では、電流値決定部13は、補正係数と第2起磁力との乗算値に第1起磁力を加算した値を巻き数決定部14が決定した巻き数で除算することにより電流値を決定した。しかしながら、電流値決定部13による電流値の決定方法はこれに限定されない。たとえば、電流値決定部13は、消磁所において磁界を計測したときの位置、方位、姿勢と、現在の位置、方位、姿勢との差分に基づいて補正値を算出し、当該補正値と第2起磁力との加算値を算出する。電流値決定部13は、当該加算値に第1起磁力を加算した値を巻き数決定部14が決定した巻き数で除算することにより電流値を決定してもよい。
【0076】
(利点)
以上のように、本実施の形態に係る消磁装置100は、船体1に装備された消磁コイル30a〜30cと、消磁コイル30a〜30cに電力を供給する電力供給部23と、船体1の磁気による磁界を打ち消すために必要な消磁コイル30a〜30cの各々の起磁力を取得するテーブル更新部11と、起磁力に基づいて消磁コイル30a〜30cの各々の巻き数を決定する巻き数決定部14と、対応する消磁コイルの巻き数を巻き数決定部14が決定した巻き数に切り替える巻き数切替部21とを備える。
【0077】
上記の構成によれば、消磁コイル30a〜30cの各々の巻き数が、記憶部12が記憶する起磁力に応じた巻き数に自動的に切り替えられる。これにより、消磁コイル30a〜30cの巻き数の切り替えが容易に実行される消磁装置100を提供することができる。
【0078】
巻き数決定部14は、起磁力と、電力供給部23によって消磁コイル30a〜30cに供給可能な最大電流値(定格電流値)とに基づいて、消磁コイル30a〜30cの巻き数をそれぞれ決定する。これにより、消磁コイル30a〜30cの各々の巻き数を必要最小限に抑えることができる。その結果、消磁コイル30a〜30cに通電する電流値の変動量に対して、消磁コイル30a〜30cによって発生する磁界の変動量を小さく抑えることができる。つまり、消磁コイル30a〜30cによって発生する磁界を細かく制御することができる。
【0079】
具体的には、テーブル更新部11は、起磁力として、船体1の永久磁気による磁界を打ち消すために必要な消磁コイル30a〜30cの各々の第1起磁力と、特定の位置における船体1の誘導磁気による磁界を打ち消すために必要な消磁コイル30a〜30cの各々の第2起磁力とを取得する。巻き数決定部14は、第1起磁力と第2起磁力との合計起磁力と、電力供給部23によって消磁コイル30a〜30cに供給可能な最大電流値とに基づいて、消磁コイル30a〜30cの巻き数をそれぞれ決定する。消磁装置100は、第1起磁力と第2起磁力と船体1の現在の位置、方位および姿勢と巻き数決定部14が決定した巻き数とに基づいて、電力供給部23から消磁コイル30a〜30cに供給される電流値を決定する電流値決定部13をさらに備える。具体的には、電流値決定部13は、消磁コイル30a〜30cの各々について、船体1の現在の位置、方位および姿勢に応じた補正係数と第2起磁力との乗算値を算出する。電力供給部23は、当該乗算値と第1起磁力との合計起磁力を巻き数決定部14が決定した巻き数で除算することにより電流値を決定する。
【0080】
もしくは、テーブル更新部11は、上記の第1起磁力と第2起磁力とに加えて、船体1が移動可能な領域における誘導磁気による最大磁界を打ち消すために必要な消磁コイル30a〜30cの各々の第3起磁力を取得する。巻き数決定部14は、第1起磁力と第3起磁力との合計起磁力と、電力供給部23によって消磁コイル30a〜30cに供給可能な最大電流値とに基づいて、消磁コイル30a〜30cの巻き数をそれぞれ決定する。
【0081】
消磁コイル30a〜30cの各々は、開いた環状の導線31〜33を含む。巻き数切替部21は、導線31〜33間の接続状態を切り替えることにより、消磁コイル30a〜30cの各々の巻き数を切り替える。これにより、消磁コイル30a〜30cの巻き数を容易に切り替えることができる。
【0082】
今回開示された実施の形態がすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0083】
1 船体、10 制御装置、11 テーブル更新部、12 記憶部、12a,12b 起磁力テーブル、13 電流値決定部、14 巻き数決定部、20a〜20c 電源装置、21 巻き数切替部、22 リレー回路、22a,22b 電源端子、22c〜22h 端子、23 電力供給部、30a〜30c 消磁コイル、31〜33 導線、100 消磁装置、200 GPS装置、300 方位センサ、400 傾斜センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9