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特許6616400紙力剤、その使用方法及び紙の強度特性を高める方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616400
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】紙力剤、その使用方法及び紙の強度特性を高める方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/18 20060101AFI20191125BHJP
   D21H 17/37 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   D21H21/18
   D21H17/37
【請求項の数】18
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-509665(P2017-509665)
(86)(22)【出願日】2015年8月18日
(65)【公表番号】特表2017-530264(P2017-530264A)
(43)【公表日】2017年10月12日
(86)【国際出願番号】FI2015050533
(87)【国際公開番号】WO2016027006
(87)【国際公開日】20160225
【審査請求日】2018年7月2日
(31)【優先権主張番号】20145728
(32)【優先日】2014年8月18日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】504186286
【氏名又は名称】ケミラ ユルキネン オサケイティエ
【氏名又は名称原語表記】KEMIRA OYJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】ヒエタニエミ、マッティ
(72)【発明者】
【氏名】リランドゥ、マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンハタロ、カリ
(72)【発明者】
【氏名】コスキマァキ、アスコ
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−508568(JP,A)
【文献】 特開2007−254948(JP,A)
【文献】 特表2013−537942(JP,A)
【文献】 特開2012−162814(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01433898(EP,A1)
【文献】 特表2013−513037(JP,A)
【文献】 特開2012−214943(JP,A)
【文献】 特開2013−064222(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/140046(WO,A1)
【文献】 特表2012−516950(JP,A)
【文献】 特開2008−285791(JP,A)
【文献】 特開2009−243018(JP,A)
【文献】 紙パ技協誌,2010年11月,第64巻第11号,43頁〜55頁
【文献】 紙パ技協紙,2008年 7月,第62巻第7号,38頁〜43頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B−D21J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙、板紙などに用いる紙力剤であって、
−リファイニングの度合いが70〜98°SRであり、機械的にリファイニングしたセルロース系繊維である第1成分、及び
−pH2.7で測定した電荷密度が0.1〜2.5meq/gであって、かつ、平均分子量が300,000g/molを超える(>)合成カチオン性ポリマーである第2成分
を含むことを特徴とする紙力剤。
【請求項2】
該セルロース系繊維のリファイニングの度合いが75〜90°SRであることを特徴とする請求項1に記載の紙力剤。
【請求項3】
該第1成分が、クラフトパルプ化によって得た、かつ、機械的にのみリファイニングしたセルロース系繊維からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の紙力剤。
【請求項4】
該セルロース系繊維が、クラフトパルプ化によって得た漂白針葉樹繊維であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の紙力剤。
【請求項5】
該合成カチオン性ポリマーの電荷密度が、0.2〜2.5meq/gであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の紙力剤。
【請求項6】
該合成カチオン性ポリマーの平均分子量が、300,000〜6,000,000g/molであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の紙力剤。
【請求項7】
該合成カチオン性ポリマーが、メタクリルアミド又はアクリルアミドと少なくとも1種のカチオン性モノマーとのコポリマーであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の紙力剤。
【請求項8】
該カチオン性モノマーが、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、3−(メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロリド、3−(アクリロイルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、及びジメチルアミノプロピルメタクリルアミドからなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項7に記載の紙力剤。
【請求項9】
置換度が0.01〜0.5のカチオン性又は両性デンプンを含むことを特徴とする請求項1に記載の紙力剤。
【請求項10】
該リファイニングしたセルロース系繊維及び合成カチオン性ポリマーを、100:1〜5:1の比で含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の紙力剤。
【請求項11】
該リファイニングしたセルロース系繊維及び合成カチオン性ポリマーを、70:1〜20:1の比で含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の紙力剤。
【請求項12】
紙、板紙などの強度特性を高めるために請求項1〜11のいずれか一項に記載の紙力剤を使用する方法。
【請求項13】
乾燥繊維ストック当たり計算して、第1成分の用量が0.1〜10質量%の範囲内となり、かつ、第2成分の用量が0.02〜0.5質量%の範囲内となるような量で、該紙力剤をパルプに添加することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
紙、板紙などの強度特性を高めるための方法であって、
−繊維ストックを得ること、及び
−請求項1〜11のいずれか一項に記載の、第1成分及び第2成分を含む紙力剤を該繊維ストックに添加すること
を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
該繊維ストックが無機填料を含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
該繊維ストックへ、該紙力剤の第1成分を添加し、その後に該紙力剤の第2成分を添加することを特徴とする請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
該繊維ストックへ、該紙力剤の第2成分を添加し、その後に該紙力剤の第1成分を添加することを特徴とする請求項14又は15に記載の方法。
【請求項18】
該紙力剤又は該紙力剤の成分のいずれかを、少なくとも20g/lのコンシステンシーを有する濃厚繊維ストックに添加することを特徴とする請求項14〜17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求の範囲の請求項の前提部分(preamble)に記載した、紙力剤(strength agent)、その使用方法及び紙の強度特性を高める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙及び板紙の製造における紙力剤として合成カチオン性ポリマーが用いられている。該ポリマーは、通常、繊維ストック(fibre stock)に添加するものであり、その結果、繊維ストックの繊維及び他の成分と相互作用する。しかし、繊維ストックが機械パルプ、再生パルプを含み、かつ/又は填料含有量が高い場合には、最終形態の紙又は板紙の強度特性を高めるべき、合成ポリマーの能力が制限されてしまうことが観察されている。紙及び板紙の製造分野では、段ボール古紙(old corrugated container board)(OCC)又は再生紙のような、高価でない繊維供給源の使用がこれまで数十年にわたって増大している。OCCは、使用済みの、リサイクルした、未漂白の、又は、漂白したクラフトパルプ繊維、広葉樹セミケミカルパルプ繊維及び/又は草類パルプ(grass pulp)繊維を主として含むものである。また、紙及び板紙の製造分野では、鉱物填料の使用が増加している。その結果、紙又は板紙の強度特性を向上させるための新しい方法に対する必要性があり、かつ、当該方法に関する研究が常に求められている。特に、紙及び板紙の強度特性を向上させるための費用効率の高い方法が必要とされている。
【0003】
ナノセルロースは、例えば、木材パルプ、テンサイ、バガス、麻、亜麻、綿、アバカ、ジュート、カポック、シルクフロスのようなセルロース構造を含む様々な繊維源から製造されている。ナノセルロースは、長さ対幅比が高い、遊離した半結晶性でナノサイズのセルロース繊維を含むものである。典型的なナノサイズのセルロース繊維は、幅が5〜60nmで、長さが数十ナノメートル〜数マイクロメートルの範囲にある。文献WO2013/072550には、坪量を低下させる目的で、及びウェブの初期湿潤強度を改善する目的で、剥離紙の製造にナノセルロースの使用が可能であることが開示されている。しかし、ナノセルロースを大規模生産するには、より一層大がかりな化学的及び/又は機械的処理を伴い、そのプロセスがより一層複雑となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2013/072550
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は従来技術に存在する不利益を最小限にすること、又は更に不利益を完全に解消することにある。
【0006】
本発明の別の目的は、最終的な紙又は板紙の強度特性を高めることができ、また、容易に大規模生産もできる紙力剤(strength agent)を提供することにある。
【0007】
本発明の更なる目的は、最終的な紙又は板紙の強度特性を高めることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的は、独立請求項の特徴部分に提示した、以下に示す特徴事項を有する本発明で達成されるものである。
【0009】
本発明のいくつかの好適な実施形態は従属請求項に提示する。
【0010】
本書で言及する実施形態の具体例及び利点は、たとえ明確に記述していなくても、適用可能な限り、上記した方法、紙力剤及び該紙力剤の使用方法に関係づけられるものである。
【0011】
本発明に係る、紙、板紙などに用いる典型的な紙力剤は、
−リファイニングの度合い(refining level)が70〜98°SRであり、リファイニングした(refined)セルロース系繊維である第1成分、及び
−pH2.7で測定した電荷密度が0.1〜2.5meq/gであって、かつ、平均分子量が300,000g/molを超える(>)合成カチオン性ポリマーである第2成分、
を含むことを特徴とする紙力剤である。
【0012】
本発明に係る紙力剤を使用する典型的な方法は、紙、板紙などの強度特性を高めるのに用いるものである。
【0013】
紙、板紙などの強度特性を高めるための、本発明に係る典型的な方法は、
−繊維ストックを得ること、
−本発明による第1成分及び第2成分を含む紙力剤を該繊維ストックに添加すること
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
驚くべきことに、紙、板紙などの強度特性は、機械的にリファイニングしたセルロース系繊維であって70〜98°SRであるリファイニングの度合いを有するもの(すなわち、第1成分)と、明確に定義した電荷密度及び平均分子量を有する合成カチオン性ポリマー(すなわち、第2成分)とを含む紙力剤を用いることによって著しく高めることができることが判明した。特に、得られる紙又は板紙のスコットボンド(Scott Bond)強度は、本発明に係る紙力剤を使用することによって予想できない程度に向上する。理論に拘泥するものではないが、高度にリファイニングしたセルロース系繊維が紙構造中の繊維間の相対的結合面積を効果的に増加させることができ、同時に、カチオン性紙力向上ポリマーが各種成分間の結合強度を最適化するものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願に関して、略語「SR」はショッパー・リーグラ(Schopper-Riegler)値を意味し、この値は規格ISO5267−1:1999に記載の手順に従って得ることができる。ショッパー・リーグラ値は希釈パルプ懸濁液の脱水速度の尺度を提供する。パルプの濾水度(drainability)は、ストック中の繊維の長さ、表面状態、及び/又は膨潤に関連する。ショッパー・リーグラ値は、パルプの繊維が受けた機械的処理量を効果的に示すものである。パルプのSR値が大きいほど、リファイニング(叩解)した繊維がより多く含まれている。
【0016】
本発明で紙力剤の第1成分として使用するのに適したセルロース系繊維は、広葉樹繊維、針葉樹繊維又は非木材繊維、例えば竹又はケナフである。これらの繊維は漂白されていても非漂白のものであってもよい。該繊維は針葉樹繊維であることが好ましく、マツ(pine)、トウヒ(spruce)又はファー(fir)に由来することができる。セルロース系繊維は、クラフトパルプ化法又は亜硫酸パルプ化法、好ましくはクラフトパルプ化法によって得ることができる。クラフトパルプ化又は亜硫酸パルプ化の後、繊維は、好ましくは、所望のSR値に達するまで、機械的リファイニング(refining)のみに供される。したがって、本発明に使用するのに適したセルロース系繊維の製造は、比較的容易かつ簡単であり、更なる装置又は化学物質を何ら必要としない。
【0017】
本発明の1つの好適な実施形態によれば、機械的リファイニングを受けるセルロース系繊維は、クラフトパルプ化法によって得た漂白針葉樹繊維である。当該セルロース系繊維の平均長さ加重投射繊維長は、カヤーニファイバーラボ(kajaaniFiberLab)(登録商標)の分析装置(メッツォ社製(Metso、Inc.)、フィンランド)を用いて分析したところ、1.5mmを超え(>)、好ましくは1.8mmを超える(>)ものであってもよい。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、第1成分として使用するセルロース系繊維のリファイニングの度合い(refining level)は、70〜98°SR、好ましくは75〜90°SR、より好ましくは77〜87°SRである。このようなリファイニングの度合いを有していると、強度(紙力向上)効果を得ることができ、しかも、使用するリファイニングエネルギー及び濾水性能を許容可能なレベルに維持しつつ達成できることが観察されている。リファイニングしたセルロース系繊維の平均長さ加重投射繊維長は、0.3〜2.5mm、好ましくは0.4〜2mm、時には0.3〜0.8mm又は0.4〜0.7mmの範囲内であってもよく、かつ/又は、当該繊維の繊維幅は、5〜60μm、好ましくは10〜40μmの範囲内であってもよい。リファイニングした繊維の繊維長さ及び繊維幅は、カヤーニファイバーラボ(kajaaniFiberLab)(登録商標)の分析装置(メッツォ社製(Metso、Inc.)、フィンランド)を用いて測定する。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、紙力剤の第2成分は、合成カチオン性ポリマーであり、メタクリルアミド又はアクリルアミドと少なくとも1種のカチオン性モノマーとのコポリマーから選択する。合成カチオン性ポリマーは、線状であっても架橋していてもよいが、好ましいのは線状ポリマーである。そのカチオン性モノマーは、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、3−(メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロリド、3−(アクリロイルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、又は類似のモノマーからなる群から選ぶことができる。本発明の好適な一実施形態によれば、合成カチオン性ポリマーは、アクリルアミド又はメタクリルアミドと(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドとのコポリマーである。
【0020】
紙力剤は、溶液重合又は分散重合によって製造することができる合成ポリマーであることが好ましい。
【0021】
第2成分として使用する合成カチオン性ポリマーの電荷密度は、セルロース系繊維のゼータ電位を過剰にすることなく、紙力向上効果を最大とすることができるように最適化することが好ましい。該合成カチオン性ポリマーの電荷密度は、pH2.7で、0.2〜2.5meq/gであってもよく、好ましいのは0.3〜1.9meq/gであり、より好ましいのは0.4〜1.35meq/gであり、更に一層好ましいのは1.05〜1.35meq/gである。この電荷密度はミューテック(Muetek)社製のPCD03テスターを用いて測定する。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、合成カチオン性ポリマー、すなわち第2成分の平均分子量は300,000〜6,000,000g/molであり、好ましくは400,000〜4,000,000g/mol、より好ましくは450,000〜2,900,000g/mol、さらにより好ましくは500,000〜1,900,000g/mol、さらにより好ましくは500,000〜1,450,000g/molである。分子量は既知のクロマトグラフィー法を使用することによって測定することができ、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)検量線(calibration)を有するサイズ排除クロマトグラフィーカラムを使用するゲルパーミエーションクロマトグラフィーなどを使用する。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリマーの分子量が1,000,000g/molを超える場合、報告がなされた分子量はウベローデ(Ubbelohde)毛細管粘度計を用いて固有粘度を測定することにより決定したものである。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、紙力剤は、70〜99.8質量%、好ましくは90〜99質量%のリファイニングしたセルロース繊維(すなわち第1成分)、及び0.5〜10質量%、好ましくは1〜5質量%の合成カチオン性ポリマー(すなわち第2成分)を含む。この質量パーセントは紙力剤の乾燥含有量から計算したものである。
【0024】
紙力剤は、リファイニングしたセルロース系繊維及び合成カチオン性ポリマーを、100:1〜5:1、好ましくは70:1〜20:1の比で含むことができる。
【0025】
1つの好適な実施形態によれば、リファイニングしたセルロース繊維及び合成カチオン性ポリマー、すなわち第1成分及び第2成分を一緒に混合して紙力剤組成物を形成し、その後、紙力剤を繊維ストックに添加する。あるいは、こうする代わりに、リファイニングしたセルロース繊維及び合成カチオン性ポリマーを別々に、しかし同時に、繊維ストックに添加することもできる。
【0026】
本発明の別の実施形態によれば、紙力剤の第1成分を最初に繊維ストックに加え、その後、紙力剤の第2成分をストックに添加してもよい。
【0027】
本発明の更に別の実施形態によれば、紙力剤の第2成分を最初にストックに加え、その後、紙力剤の第1成分をストックに添加してもよい。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、紙力剤は、第1成分及び第2成分に加えて、カチオン性又は両性デンプンをも含むことができる。カチオン性又は両性デンプンは、グルコース単位当たりの平均でデンプン中のカチオン性基の数を示す置換度(DS)が、通常、0.01〜0.5の範囲、好ましくは0.04〜0.3の範囲、より好ましくは0.05〜0.2の範囲にあるものである。
【0029】
カチオン性デンプンは、製紙に使用される任意の適切なカチオン性デンプンであることができ、例えば、ジャガイモ、米、トウモロコシ、ワキシートウモロコシ、コムギ、オオムギ又はタピオカデンプンであってもよく、好ましいのはトウモロコシデンプン又はジャガイモデンプンである。典型的には、デンプンのアミロペクチン含量は、65〜90%、好ましくは70〜85%の範囲である。デンプンは、任意の適切な方法によってカチオン化することができる。好ましいのは、2,3−エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド又は3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドを使用することによってカチオン化することであり、2,3−エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドを用いるのが好適である。(3−アクリルアミドプロピル)−トリメチルアンモニウムクロリドのようなカチオン性アクリルアミド誘導体を用いてデンプンをカチオン化することも可能である。
【0030】
一実施形態によれば、カチオン性デンプンのデンプン単位の少なくとも70質量%は、20,000,000g/mol以上、好ましくは50,000,000g/mol以上、より好ましくは100,000,000g/mol以上の平均分子量(MW)を有している。
【0031】
本発明の1つの好適な実施形態によれば、カチオン性デンプン成分は非分解性(non-degraded)である。すなわち、これは、該デンプン成分はカチオン化によってのみ修飾されたものであり、その骨格は非分解性かつ非架橋性であることを意味する。カチオン性非分解デンプン成分は天然由来である。
【0032】
また、紙力剤は、更に両性デンプンをもまた、あるいは二者択一的に含んでもよい。両性デンプンは、アニオン性基及びカチオン性基の両方を含むものであり、その正味電荷は、中性、カチオン性又はアニオン性であってもよいが、好ましいのはカチオン性である。
【0033】
紙力剤は、界面活性剤、塩類、充填剤(filler agent)、他のポリマー及び/又は他の適切な追加成分を更に含んでもよい。追加成分は、紙力剤の性能、紙力剤と他の製紙原料との適合性又は紙力剤の貯蔵安定性を改善することができる可能性がある。
【0034】
紙力剤をパルプへ添加するに際し、紙力剤は、乾燥繊維ストック当たり計算して、第1成分(すなわちリファイニングしたセルロース系繊維)の用量(dose)が0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜8質量%、より好ましくは1.5〜6質量%の範囲となり、第2成分(すなわち合成カチオン性ポリマー)の用量が0.02〜0.5質量%、好ましくは0.07〜0.4質量%、より好ましくは0.12〜0.25質量%の範囲となるような量で添加する。
【0035】
紙力剤、その成分のいずれか、又は全部は、抄紙機のヘッドボックスの前の時点で繊維ストックに、又は遅くとも抄紙機のヘッドボックスに加える。また、紙力剤、その成分のいずれか、又は全ては、コンシステンシーが少なくとも20g/lの、好ましくは25g/lを超える、より好ましくは30g/lを超える濃厚繊維ストックに添加することが好ましい。本書において、用語「繊維ストック」は、水性懸濁液であって、繊維及び場合により無機鉱物填料を含むものと理解される。繊維ストックから製造する最終の紙又は板紙製品は、未塗工(uncoated)の紙又は板紙製品の灰分として計算して、少なくとも5%、好ましくは10〜40%、より好ましくは11〜19%の鉱物填料を含むことができる。鉱物填料は紙及び板紙製造において通常使用されている任意の填料であってもよく、例えば、重質炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、粘土、タルク、石膏、二酸化チタン、合成珪酸塩、アルミニウム三水和物、硫酸バリウム、酸化マグネシウム又はそれらの任意の混合物であることができる。
【0036】
繊維ストック中の繊維の少なくとも一部は、機械パルプ化、好ましくはケミサーモメカニカルパルプ化を起源とすることが好適である。1つの好適な実施形態によれば、処理すべき繊維ストックとしては、機械パルプ化に由来する繊維を60質量%よりも多くさえ含むことができる。いくつかの実施形態では、繊維ストックは、化学パルプ化に由来する繊維を、10質量%を超える(>)量で含むことができる。一実施形態によれば、繊維ストックは、化学パルプ化に由来する繊維を50質量%未満(<)の量で含むことができる。
【0037】
本発明は、例えば、スーパーカレンダー処理(SC)紙、超軽量塗工(ULWC)紙、軽量塗工(LWC)紙及び新聞印刷用紙を含む(これらに限定されないが)紙類の強度を改良するのに適している。最終紙ウェブの重量は、30〜800g/m、典型的には30〜600g/m、より典型的には50〜500g/m、好ましくは60〜300g/m、より好ましくは60〜120g/mであり、さらにより好ましくは70〜100g/mであることができる。
【0038】
本発明は、ライナーボード、ボード中芯原紙(fluting)、折り畳み式ボール紙(FBB)、裏白チップボード(WLC)、無地漂白クラフト(SBS)ボード、無地無漂白クラフト(SUS)ボード又は液体包装用ボード(LPB)などのようなボード(板紙)の強度を改善するのにも適している。しかし、これらに限定されない。ボード類の坪量は70〜500g/mであることができる。
【実施例】
【0039】
実験
ラピッド・ケーテン(Rapid Koethen)のハンドシート形成機を用いてハンドシート(手すき紙)を製造する一般原理は以下の通りである:
ラピッド・ケーテンの手すき紙形成装置ISO5269/2を用いて各種ハンドシートを生成する。繊維懸濁液は水道水により0.5%コンシステンシーに希釈する。この水の導電率は、実際のプロセス水の導電率に対応するように、550μS/cmにNaClで調整した。繊維懸濁液の撹拌をジャー内でプロペラミキサーを用いて1000rpmの一定の攪拌速度で行う。最終シートの強度特性を改良するための本発明に係る紙力剤を、脱水(drainage)の60秒前に攪拌しながら懸濁液に添加する。また、全てのシートは、真空乾燥機で5分間、1000mbarの圧力、92℃の温度で乾燥させた。乾燥させた後、これらシートについて、引張強さ試験を行う前に24時間23℃で50%の相対湿度で予め調整した。
【0040】
ゼータ電位の測定に際し、繊維懸濁液を水道水で0.5%コンシステンシーまで希釈する。この水道水の導電率は、実際のプロセス水の導電率に対応させるためNaClを用いて550μS/cmに調整した。
【0041】
ハンドシート試料の特性判定に使用する測定方法及び装置を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例1
ハンドシートの作製は、上記のようにして行った。シート坪量(basis weight)は80g/mであった。
【0044】
繊維懸濁液は、50質量%の長繊維画分(マツ(pine)クラフトパルプ、SR18である)及び50質量%の短繊維画分(ユーカリパルプ、SR18である)を含むものであった。
【0045】
紙力剤は、下記の成分を含むものであった:
1)第1成分としては、リファイニングの度合いがSR90のマツクラフトパルプ。マツクラフトパルプのリファイニングは、バレービーター(Valley−beater)で行ったものであり、乾燥繊維として計算して1.64質量%であり、
2)第2成分としては、カチオン性ポリアクリルアミドであり、平均分子量800,000g/mol、電荷密度1.3meg/gである。
【0046】
実施例1の結果を表2に示す。全ての投与量はパルプ1トン当たりのkgとして、かつ、活性成分として示す。
【0047】
【表2】
【0048】
表2から、リファイニングしたセルロース繊維及び合成カチオン性ポリマーの両方を含む本発明に係る紙力剤は、得た紙の比引張強さ及びスコットボンドの値を改善することが分かる。また、紙力剤を使用する場合、合成カチオン性ポリマーについてだけ配合量を多くした場合に比べて合成カチオン性ポリマーの配合量が少ない場合ほど同様の結果が得られることも分かる。このことから示されるように、本発明を活用することで、合成カチオン性ポリマーは少量だけ使用すればよいものであり、該合成ポリマーは、紙又は板紙の製造分野で通常、高価な成分であることから、プロセス全体の経済性に対してプラスの効果を奏しうるものである。
【0049】
以上、本発明に関し、現時点で最も実際的でかつ好適な実施態様と考えられる内容について説明したが、本発明は上記した実施態様に限定されないものと解釈すべきである。また、本発明は、後掲の特許請求の範囲の記載で定める範囲内で、様々な変形例及び均等な技術的解決手段をも包含することを意図している。