(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記マトリックス樹脂シートと前記接着性樹脂シートとの間に挟まれた前記繊維シートにマトリックス樹脂及び接着性樹脂が含浸して繊維強化層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料タンク。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ポリエチレン系のマトリックス樹脂シートは、エンジニアリングプラスチック系(例えばポリアミド系)のマトリックス樹脂シートに比べて繊維シートに対する含浸性が低く、また樹脂自体の強度も低い。そのため、ポリエチレン系のマトリックス樹脂シートからなる繊維強化樹脂部材は、ポリアミド系のマトリックス樹脂からなる繊維強化樹脂部材よりも強度が低くなるという問題がある。一方、エンジニアリングプラスチック系(例えばポリアミド系)のマトリックス樹脂シートからなる繊維強化樹脂部材は、タンク本体への接着性が低いという問題がある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために創作されたものであり、タンク本体への接着性の向上及び燃料タンクの強度の向上の両立を図ることができる繊維強化樹脂部材を備える燃料タンク及び繊維強化樹脂部材の成形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、樹脂製のタンク本体の壁面に繊維強化樹脂部材が溶着された燃料タンクであって、前記繊維強化樹脂部材は、繊維シートと、前記繊維シートに隣接して積層されるマトリックス樹脂シートと、前記タンク本体に臨むように表面側に配置される接着性樹脂シートと、を含んで積層されるとともに、前記マトリックス樹脂シートは、前記接着性樹脂シートに比べて前記繊維シートに対する含浸性が高いまたは樹脂自体の強度が高く、前記接着性樹脂シートは、前記マトリックス樹脂シートに比べて前記タンク本体に対する接着性が高いことを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、樹脂製のタンク本体の壁面に繊維強化樹脂部材を溶着する前に、前記タンク本体の壁面の形状に合わせて成形する繊維強化樹脂部材の成形方法であって、繊維シートと、マトリックス樹脂シートとを積層させるとともに、最外層に前記マトリックス樹脂シートに比べて前記タンク本体に対する接着性が高い接着性樹脂シートとを積層させて積層体を形成する準備工程と、前記積層体を一対の成形型に配置する配置工程と、前記接着性樹脂シート側に配置された一方の前記成形型の温度を、他方の成形型の温度よりも低く設定する成形工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
かかる構成によれば、繊維強化樹脂部材の燃料タンク側に接着性樹脂シートを設けているため、タンク本体に対する接着性を高めることができる。一方、接着性樹脂シートよりも含浸性が高いまたは樹脂自体の強度が高いマトリックス樹脂が繊維シートに入り込むことにより、繊維強化樹脂部材の強度を高めることができるため、燃料タンクの強度も高めることができる。また、繊維強化樹脂部材を一対の成形型にて成形する際に、接着性樹脂シート側に配置された一方の成形型の温度を、他方の成形型の温度よりも低く設定することで、接着性樹脂シートの変質を抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の燃料タンク及び繊維強化樹脂部材の成形方法によれば、タンク本体への接着性の向上及び燃料タンクの強度の向上の両立を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る燃料タンク及び燃料タンクの製造方法を、図面を参照して説明する。以下の説明において、「前後」、「左右」、「上下」を言うときは、
図1に示した方向を基準とする。なお、各方向は、燃料タンクTを説明する上で便宜上設定したものであり、燃料タンクTを車両に搭載したときの方向を限定する趣旨ではない。
【0012】
燃料タンクTは、
図1に示すように、自動車やバイク並びに船舶等の移動手段に搭載されるものであり、タンク本体1と、複数の繊維強化樹脂部材21(本実施形態では8つ)とで主に構成されている。
【0013】
タンク本体1は、ガソリン等の燃料を貯溜する樹脂製の中空容器であり、例えばバリア層を含んだ複数層構造になっている。タンク本体1は、例えば、ポリエチレン、高密度ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を主な材料としている。タンク本体1は、例えばブロー成形等によって成形される。
【0014】
タンク本体1は、下壁11と、上壁12と、第一側壁13、第二側壁14、第三側壁15及び第四側壁16とで構成されている。タンク本体1の下壁11、上壁12、第三側壁15及び第四側壁16には、全周に亘って連続する凹部3が形成されている。凹部3は、本実施形態では間をあけて前後方向に平行に4つ並設されている。凹部3は、底部及び当該底部から立ち上がる一対の側壁を有し、外側に開放するように形成されている。凹部3は、全周に亘って一定の断面で形成されている。凹部3の個数は限定されるものではない。
【0015】
繊維強化樹脂部材21は、タンク本体1を補強する部材であって、タンク本体1の外面に設けられている。繊維強化樹脂部材21は、繊維シート41(
図4参照)に樹脂を含浸させて形成された繊維強化樹脂(FRP:Fiber-Reinforced Plastics)である。繊維強化樹脂部材21は、薄い帯状の部材であって、タンク本体1の外面にそれぞれ溶着されている。
【0016】
繊維強化樹脂部材21は、
図1及び
図2に示すように、タンク本体1の外面に間をあけて前後方向に平行に並設されている。各繊維強化樹脂部材21は、タンク本体1の各凹部3に配置され一体形成されている。繊維強化樹脂部材21は、外観視略U字状を呈する。繊維強化樹脂部材21は、底部21aと、底部21aの前後方向両側から立ち上がる側壁21b,21bとで構成されている。つまり、繊維強化樹脂部材21には底部21aと、側壁21b,21bとで凹溝が形成されており、全長に亘って一定の断面形状になっている。
【0017】
下側に配置された繊維強化樹脂部材21は、第三側壁15、下壁11及び第四側壁16に亘って連続的に配置されている。また、上側に配置された繊維強化樹脂部材21は、第三側壁15、上壁12及び第四側壁16に亘って連続的に配置されている。繊維強化樹脂部材21の形状は、タンク本体1の形状に合わせて成形されている。また、繊維強化樹脂部材21の配置位置はタンク本体1の形状や用途に応じて適宜設定すればよい。
【0018】
次に、繊維強化樹脂部材成形方法について説明する。繊維強化樹脂部材の成形方法は、準備工程と、配置工程と、成形工程と、を行う。
【0019】
準備工程は、
図4に示すように、複数の繊維シート41と、複数のマトリックス樹脂シート42と、接着性樹脂シート43と、を重ね合わせて積層体40を形成する工程である。繊維シート41は、炭素繊維、ガラス繊維又は樹脂繊維等で形成された薄いシートである。
【0020】
マトリックス樹脂シート42は、熱可塑性樹脂(高密度ポリエチレン、ポリエチレン、ポリアミド(ナイロン)等)又は熱硬化性樹脂(フェノール樹脂、エポキシ樹脂等)で形成された薄いフィルムである。マトリックス樹脂シート42は、本実施形態ではナイロンを用いている。マトリックス樹脂シート42は、接着性樹脂シート43に比べて繊維シート41に対する含浸性が高いおよび/または樹脂自体の強度が高いものを用いている。マトリックス樹脂シート42と繊維シート41とは交互に配置する。
【0021】
接着性樹脂シート43は、積層体40の最外層(表面)に配置される。接着性樹脂シート43は、マトリックス樹脂シート42に比べて繊維シート41に対する含浸性が低いおよび/または樹脂自体の強度が低いが、タンク本体1に対する接着性が高い材料である。接着性樹脂シート43は、マレイン変性させた熱可塑性樹脂を用いることができる。本実施形態では、接着性樹脂シート43は、無水マレイン酸で変性させたポリエチレン(MAH−g−PE)を用いている。また、接着性樹脂シート43は、マトリックス樹脂シート42と接着性樹脂シート43との接着性が、マトリックス樹脂シート42とタンク本体1との接着性に比べて高いものを用いている。
【0022】
配置工程は、
図5に示すように、積層体40を成形型Kに配置する工程である。成形型Kは、下側に配置される第一型K1と、上側に配置される第二型K2を用いている。第一型K1及び第二型K2とも内部に温度調節手段Mを備えている。配置工程では、接着性樹脂シート43が、第二型K2に対向するように積層体40を配置する。
【0023】
成形工程は、
図5に示すように、成形型Kによって繊維強化樹脂部材21(
図3参照)を成形する工程である。成形工程では、成形型Kの温度は積層体40が成形可能な温度に適宜設定すればよいが、本実施形態では、第二型K2の温度を、第一型K1の温度よりも低く設定している。積層体40の最外層に配置される接着性樹脂シート(MAH−g−PE)43の融点は約120〜140℃であり、マトリックス樹脂シート(ナイロン)42の融点は約176〜265℃である。マトリックス樹脂シート42に合わせて成形型Kを昇温させると接着性樹脂シート43が変質して劣化するおそれがある。
【0024】
そのため、例えば、第一型K1の温度をマトリックス樹脂シート42が溶融する温度まで昇温させるとともに、第二型K2の温度を接着性樹脂シートが溶融しつつ変質しない温度まで昇温させるなどして成形型Kに温度差を設けて接着性樹脂シート43の劣化を防いでいる。
【0025】
繊維強化樹脂部材21が形成されたら、燃料タンク成形工程に移行する。燃料タンク成形工程は、
図6に示すように、燃料タンク用成形型Jに繊維強化樹脂部材21を配置して燃料タンクを成形する工程である。燃料タンク用成形型Jは、ロワー側を成形する一方型J1と、アッパー側を成形する他方型J2とを有する。燃料タンク用成形型Jの一方型J1及び他方型J2には、それぞれ設置凸部J1aが形成されている。設置凸部J1aは、一方型J1及び他方型J2の底面に所定の間隔をあけてそれぞれ形成されている。設置凸部J1aは、繊維強化樹脂部材21が配置される部位であって、断面略矩形に形成されている。設置凸部J1aは、タンク本体1の凹部3を成形する部位でもある。
【0026】
燃料タンク成形工程では、まず、一方型J1の各設置凸部J1aに各繊維強化樹脂部材21を配置する。このとき、最外層に形成された接着性樹脂シート43がパリソンPを向くように(内側を向くように)配置する。一方型J1及び他方型J2は所定の温度に予め加熱されているため、繊維強化樹脂部材21を配置すると繊維強化樹脂部材21と一方型J1及び他方型J2とが落下しない程度に張り付いた状態になる。
【0027】
燃料タンク成形工程は、燃料タンク用成形型Jで燃料タンクTをブロー成形する工程である。燃料タンク成形工程では、一方型J1と他方型J2との間に筒状又はシート状のパリソンPをダイDから吐出させる。パリソンPは、例えば、内部にバリア層を含んで複数層で構成された熱可塑性樹脂である。燃料タンク用成形型Jは、パリソンPが塑性変形するように所定の温度まで予め加熱させておく。
【0028】
そして、パリソンPが燃料タンク用成形型Jの成形面に転写されるとともに、パリソンPと繊維強化樹脂部材21とが溶着して一体化する。なお、一方型J1及び他方型J2に設けられた真空引き手段を用いてパリソンPを吸引し、パリソンPを燃料タンク用成形型Jに転写させてもよい。所定の時間が経過したら脱型し、燃料タンクTを取り出す。
【0029】
図7は、
図2のA部分の要部拡大断面図である。
図7は、繊維強化樹脂部材21及びタンク本体1の断面を模式的に示すものである。繊維強化樹脂部材21は、タンク本体1側から順番に接着性樹脂層31、第一繊維強化層32、マトリックス樹脂層33、第二繊維強化層34、マトリックス樹脂層33、第二繊維強化層34及びマトリックス樹脂層33で構成されている。なお、層の厚さや層の数は模式的に示すものであって、本発明を限定するものではない。
【0030】
接着性樹脂層31は、タンク本体1と第一繊維強化層32の間に形成されている。接着性樹脂層31は、接着性樹脂(接着性樹脂シート43)が硬化して形成された層である。
第一繊維強化層32は、接着性樹脂層31と、マトリックス樹脂層33との間に形成されている。第一繊維強化層32は、繊維シート41に接着性樹脂(接着性樹脂シート43)及びマトリックス樹脂(マトリックス樹脂シート42)とが含浸し、硬化して形成された層である。
【0031】
マトリックス樹脂層33は、マトリックス樹脂(マトリックス樹脂シート42)が硬化して形成された層である。
第二繊維強化層34は、マトリックス樹脂層33,33の間に形成された層である。第二繊維強化層34は、繊維シート41に、両側のマトリックス樹脂(マトリックス樹脂シート42)が含浸し、硬化して形成された層である。マトリックス樹脂層33と第二繊維強化層34は交互に積層されている。
【0032】
以上説明した本実施形態に係る燃料タンク及び燃料タンクの製造方法によれば、繊維強化樹脂部材21の燃料タンク側に接着性樹脂シート43を設けているため、タンク本体1に対する接着性を高めることができる。一方、接着性樹脂よりも含浸性が高いおよび/または樹脂自体の強度が高いマトリックス樹脂が繊維シート41に入り込むことにより、繊維強化樹脂部材21の強度を高めることができるため、燃料タンクTの強度も高めることができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、繊維強化樹脂部材21が成形されるとき、マトリックス樹脂シート42と接着性樹脂シート43とは、マトリックス樹脂シート42と接着性樹脂シート43との間に挟まれた繊維シート41に含浸して接着し合う。これにより、強固な第一繊維強化層(繊維強化層)32を形成することができる。
【0034】
ここで、例えば、タンク本体の最外層に接着性樹脂層を成形した後に、当該タンク本体の外側に繊維強化樹脂部材を溶着することも考えられる。しかし、通常、成形機のスクリュー及び樹脂が流通する流路は高粘度向けの設計になっているため、複数層構造のブロー成形を行う際に、最外層に接着性樹脂層(低粘度のものが多い)を設けると、サージングが発生し押出量が安定しないおそれがある。また、この方法であると、タンク本体の最外層全部が接着性樹脂層となり、接着性樹脂層の材料コストが嵩むという問題もある。
【0035】
しかし、本実施形態のように、接着性樹脂層31(接着性樹脂シート43)を繊維強化樹脂部材21の最外層に設けるようにすれば、タンク本体1の成形を安定して行うことができる。また、接着性樹脂層31も繊維強化樹脂部材21に対応して設ければよいため、材料コストを低減することができる。
【0036】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る燃料タンク及び燃料タンクの繊維強化樹脂部材の成形方法について説明する。本実施形態に係る繊維強化樹脂部材の成形方法は、準備工程と、配置工程と、成形工程と、を行う。第二実施形態では、繊維強化樹脂部材の層構成が第一実施形態と相違するため、相違する部分を中心に説明する。
【0037】
図8に示すように、準備工程では、第一積層体40a及び第二積層体40bを形成する。第一積層体40aは、マトリックス樹脂シート42と、接着性樹脂シート43とを積層させて形成されている。第一積層体40aは、例えば、共押出によって積層させている。第二積層体40bは、繊維シート41と、マトリックス樹脂シート42とを交互に積層させて形成されている。第二積層体40bは、第一積層体40aに対向する位置に繊維シート41を配置している。
【0038】
配置工程では、第二積層体40bを第一型K1側に配置するとともに、第一積層体40aを第二型K2側に配置する。また、第一積層体40aのうち、接着性樹脂シート43が第二型K2に対向するように配置する。
【0039】
成形工程は、
図8に示すように、成形型Kによって繊維強化樹脂部材21(
図3参照)を成形する工程である。第一実施形態と同様に、第二型K2の温度は、第一型K1の温度よりも低くなっている。燃料タンク成形工程は、第一実施形態と同様である。
【0040】
図9は、第二実施形態に係る繊維強化樹脂部材の要部拡大断面図である。
図9に示すように、繊維強化樹脂部材21は、タンク本体1側から順番に、接着性樹脂層31、マトリックス樹脂層33、第二繊維強化層34が積層され、その後はマトリックス樹脂層33と第二繊維強化層34とが交互に形成されている。
【0041】
接着性樹脂層31は、タンク本体1とマトリックス樹脂層33との間に形成されている。接着性樹脂層31は、接着性樹脂(接着性樹脂シート43)が硬化して形成された層である。
マトリックス樹脂層33は、接着性樹脂層31と第二繊維強化層34との間に形成されている。マトリックス樹脂層33は、マトリックス樹脂(マトリックス樹脂シート42)が硬化して形成された層である。
【0042】
第二繊維強化層34は、マトリックス樹脂層33,33の間に形成されている。第二繊維強化層34は、繊維シート41に、両側のマトリックス樹脂(マトリックス樹脂シート42,42)が含浸し、硬化して形成された層である。
【0043】
第二実施形態に係る燃料タンクであっても、第一実施形態と略同等の効果を奏することができる。また、
図9に示す第二実施形態のように、マトリックス樹脂層33とタンク本体1との間に接着性樹脂層31が形成されるようにしてもよい。