特許第6616596号(P6616596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6616596-熱制御装置 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616596
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】熱制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 23/02 20060101AFI20191125BHJP
   F16L 59/00 20060101ALI20191125BHJP
   B65D 81/18 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   G05D23/02 Z
   F16L59/00
   B65D81/18 A
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-127687(P2015-127687)
(22)【出願日】2015年6月25日
(65)【公開番号】特開2017-10435(P2017-10435A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井関 清治
【審査官】 大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−5320(JP,U)
【文献】 特開2008−151495(JP,A)
【文献】 特開2000−182959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 23/02
B65D 81/18
F16L 59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に物質を保存したまま低温化することができ、しかもその物質の低温状態を保持することができる熱制御装置であって、
対向する伝熱板A及び伝熱板Bの間に、伝熱部材と熱応答性部材とを有しており、
前記伝熱部材の一端は、前記伝熱板Aに接合しており、
前記熱応答性部材の両端は、前記伝熱板A及び伝熱板Bに接合しており、
予め定められた温度未満の時には、前記伝熱部材の他端は前記伝熱板Bに接触しており、
予め定められた温度以上の時には、前記熱応答性部材が伸長して前記伝熱板A及び伝熱板Bの間隔が広がることにより、前記伝熱部材の他端は前記伝熱板Bに非接触になる、熱制御装置。
【請求項2】
容器内に物質を保存したまま低温化することができ、しかもその物質の低温状態を保持することができる熱制御装置であって、
対向する伝熱板A及び伝熱板Bの間に、伝熱部材C及び伝熱部材Dと熱応答性部材とを有しており、
前記伝熱部材Cの一端は、前記伝熱板Aに接合しており、
前記伝熱部材Dの一端は、前記伝熱板Bに接合しており、
前記熱応答性部材の両端は、前記伝熱板A及び伝熱板Bに接合しており、
予め定められた温度未満の時には、前記伝熱部材Cの他端と前記伝熱部材Dの他端は接触しており、
予め定められた温度以上の時には、前記熱応答性部材が伸長して前記伝熱板A及び伝熱板Bの間隔が広がることにより、前記伝熱部材Cの他端と前記伝熱部材Dの他端は非接触になる、熱制御装置。
【請求項3】
前記熱応答性部材は、予め定められた温度以上の時に液晶相から等方相に相転移するモノドメイン構造を有する請求項1又は2に記載の熱制御装置。
【請求項4】
前記熱応答性部材のモノドメインの配向方向は、前記伝熱板A及び伝熱板Bの面に対して平行である請求項3に記載の熱制御装置。
【請求項5】
前記熱応答性部材は、液晶ポリウレタンエラストマーを含む請求項1〜4のいずれかに記載の熱制御装置。
【請求項6】
前記熱応答性部材は、空隙を有する請求項1〜5のいずれかに記載の熱制御装置。
【請求項7】
前記伝熱板A又は前記伝熱板Bのどちらか一方は前記容器に接触している、あるいは前記伝熱板A又は前記伝熱板Bのどちらか一方は前記容器の一部である請求項1〜6のいずれかに記載の熱制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の低温状態を保持するための熱制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン発泡体及びポリスチレン発泡体などの樹脂発泡体は、断熱材として多くの分野で用いられている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
前記樹脂発泡体からなる断熱容器は、容器内の物質の温度を保持する機能を有する。そのため、断熱容器内の物質を低温化してその低温状態を保持する場合には、断熱容器内から一旦物質を取り出して、当該物質を冷却した後に再度断熱容器内に物質を戻す必要がある。
【0004】
しかし、前記作業は、作業効率が悪く、また物質によっては移動中に破損、劣化等するリスクもあるため、その改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−116356号公報
【特許文献2】特開2000−53795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、容器内に物質を保存したまま低温化することができ、しかもその物質の低温状態を保持することができる熱制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、容器内に物質を保存したまま低温化することができ、しかもその物質の低温状態を保持することができる熱制御装置であって、
対向する伝熱板A及び伝熱板Bの間に、伝熱部材と熱応答性部材とを有しており、
前記伝熱部材の一端は、前記伝熱板Aに接合しており、
前記熱応答性部材の両端は、前記伝熱板A及び伝熱板Bに接合しており、
予め定められた温度未満の時には、前記伝熱部材の他端は前記伝熱板Bに接触しており、
予め定められた温度以上の時には、前記熱応答性部材が伸長して前記伝熱板A及び伝熱板Bの間隔が広がることにより、前記伝熱部材の他端は前記伝熱板Bに非接触になる、熱制御装置に関する。
【0008】
また、本発明は、容器内に物質を保存したまま低温化することができ、しかもその物質の低温状態を保持することができる熱制御装置であって、
対向する伝熱板A及び伝熱板Bの間に、伝熱部材C及び伝熱部材Dと熱応答性部材とを有しており、
前記伝熱部材Cの一端は、前記伝熱板Aに接合しており、
前記伝熱部材Dの一端は、前記伝熱板Bに接合しており、
前記熱応答性部材の両端は、前記伝熱板A及び伝熱板Bに接合しており、
予め定められた温度未満の時には、前記伝熱部材Cの他端と前記伝熱部材Dの他端は接触しており、
予め定められた温度以上の時には、前記熱応答性部材が伸長して前記伝熱板A及び伝熱板Bの間隔が広がることにより、前記伝熱部材Cの他端と前記伝熱部材Dの他端は非接触になる、熱制御装置に関する。
【発明の効果】
【0009】
外部温度が予め定められた温度未満の時には、外側の伝熱板と伝熱部材と内側の伝熱板との間に伝熱経路が形成される。そのため、外部冷気を外側の伝熱板から内側の伝熱板に伝達することでき、内側の伝熱板に接触する容器又は保存対象物質を冷却することができる。そして、外部温度が予め定められた温度以上になった時には、外側の伝熱板と内側の伝熱板との間に設けられた熱応答性部材が伸長して、前記伝熱板の間隔が広がることにより、外側の伝熱板と伝熱部材と内側の伝熱板との間の伝熱経路が断たれ、断熱性が向上する。そのため、保存対象物質を低温状態で長期保存することができる。このように、本発明の熱制御装置を用いれば、容器内に物質を保存したまま低温化することができ、しかもその物質の低温状態を保持することができる。そのため、容器内の物質を低温化してその低温状態を保持する場合に、容器内から一旦物質を取り出して、当該物質を冷却した後に再度容器内に物質を戻す必要がなく、物質を低温化保存する際の作業効率が大幅に向上する。また、物質を容器内から容器外へ移動させる必要がないため、当該物質の破損等のリスクを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の熱制御装置の一例を示す概略図
図2】本発明の熱制御装置の他の例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の熱制御装置を図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の熱制御装置の一例を示す概略図である。
【0012】
図1(a)は、予め定められた温度Th未満の時の熱制御装置の状態を示す概略図である。熱制御装置1は、対向する伝熱板A(2)及び伝熱板B(3)の間に、伝熱部材4と熱応答性部材5とを有している。伝熱部材4の一端は伝熱板A(2)に接合しており、伝熱部材4の他端は伝熱板B(3)に接触している。熱応答性部材5の両端は伝熱板A(2)及び伝熱板B(3)に接合している。
【0013】
外部温度が予め定められた温度Th未満の時(例えば、熱制御装置1を備えた容器を冷蔵設備内で保管している時)には、外側の伝熱板A(2)と伝熱部材4と内側の伝熱板B(3)との間の伝熱経路が形成される。そのため、外部冷気を外側の伝熱板A(2)から内側の伝熱板B(3)に伝達することでき、内側の伝熱板B(3)に接触する容器又は保存対象物質を冷却することができる。なお、伝熱板A(2)と伝熱板B(3)はどちらが外側(外部環境側)であってもよい。また、内側の伝熱板は容器の一部であってもよい。
【0014】
伝熱板A(2)及び伝熱板B(3)の材料は、高い熱伝導率を有する材料であれば特に限定されない。当該材料の一例としては金属を挙げることができる。当該金属の中では、高熱伝導性の観点からアルミニウム、銅、又はこれらの合金が好ましい。これらの中でも、高熱伝導性、加工性、及び軽量化の観点から、アルミニウムがより好ましい。
【0015】
熱応答性部材5は、予め定められた温度Th以上の時には伸長し、予め定められた温度Th未満のときには元の形状に戻る特性を有する。当該特性を有する材料としては、例えば、液晶エラストマーが挙げられる。当該液晶エラストマーとしては、例えば、液晶ポリウレタンエラストマー、液晶シリコーンエラストマー、液晶アクリレートエラストマー、ポリN置換(メタ)アクリルアミド(例えば、ポリN−イソプロピルアクリルアミド)、ポリビニルエーテル等が挙げられる。
【0016】
液晶エラストマーとしては、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物にアルキレンオキシド及び/又はスチレンオキシドを付加した液晶性化合物と、当該液晶性化合物の活性水素基と反応する化合物とを反応させて得られる液晶エラストマーを用いることが好ましい。前記液晶性化合物は、液晶性が発現する温度範囲が低い。そのため、当該液晶性化合物を用いることにより、無溶媒でかつ液晶性が発現した状態で反応硬化を行って液晶エラストマーを得ることができる。前記液晶エラストマーは、原料である前記液晶性化合物の液晶性が発現する温度範囲が低く、かつ架橋によるネットワーク構造を有するため、低温(例えば、0〜80℃)で液晶性とゴム弾性を有する。当該液晶エラストマーは、メソゲン基が一軸方向に配向しているため、熱が加わることによりメソゲン基の配向度が減少して配向方向に縮むと共に配向方向に対して垂直方向に伸び、熱を除くことによりメソゲン基の配向度が増加して配向方向に伸びると共に配向方向に対して垂直方向に縮むという特徴的な応答挙動を示す。
【0017】
前記メソゲン基含有化合物は、低温(例えば、0〜80℃)で液晶エラストマーに液晶性とゴム弾性を発現させる観点から、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0018】
【化1】
(式中、Xは活性水素基であり、Rは単結合、−N=N−、−CO−、−CO−O−、又は−CH=N−であり、Rは単結合、又は−O−であり、Rは単結合、又は炭素数1〜20のアルキレン基である。ただし、Rが−O−であり、かつRが単結合である場合を除く。)
【0019】
Xとしては、例えば、OH、SH、NH、COOH、又は二級アミンなどが挙げられる。
【0020】
液晶相から等方相へ、又は等方相から液晶相への転移温度(Ti)が、0〜100℃である液晶エラストマーを得るために、ビフェニル骨格(Rが単結合)を有する化合物を用いることが好ましい。また、Rがアルキレン基の場合、炭素数は2〜10であることが好ましい。
【0021】
付加するアルキレンオキシドは特に制限されず、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、メチルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。付加するスチレンオキシドは、ベンゼン環にアルキル基、アルコキシル基、又はハロゲンなどの置換基を有していてもよい。液晶相から等方相へ、又は等方相から液晶相への転移温度(Ti)が、0〜100℃である液晶エラストマーを得るために、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、及びスチレンオキシドからなる群より選択される少なくとも1種のオキシドを付加することが好ましい。
【0022】
また、アルキレンオキシド及び/又はスチレンオキシドは、一般式(1)で表される化合物1モルに対して2〜10モル付加することが好ましく、2〜8モル付加することがより好ましい。付加モル数が2モル未満の場合には、液晶性化合物の液晶性が発現する温度範囲を十分に下げることが難しくなり、無溶媒でかつ液晶性が発現した状態で反応硬化を行うことが困難になる傾向にある。一方、付加モル数が10モルを超える場合には、液晶性化合物が液晶性を発現しなくなる傾向にある。
【0023】
前記液晶性化合物は、液晶相から等方相へ、又は等方相から液晶相への転移温度(Ti)が、15〜150℃であることが好ましく、より好ましくは25〜125℃である。
【0024】
前記液晶性化合物は、1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記液晶性化合物の活性水素基と反応する化合物としては、例えば、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、シラノール基含有化合物、ハロゲン化物、カルボン酸、アルコールなどが挙げられる。特に、液晶相から等方相へ、又は等方相から液晶相への転移温度(Ti)が、0〜100℃である液晶エラストマーを得るために、イソシアネート化合物を用いることが好ましい。以下、液晶エラストマーについて、液晶ポリウレタンエラストマーを例に挙げて説明する。
【0026】
液晶ポリウレタンエラストマーの原料であるイソシアネート化合物は、ポリウレタンの分野において公知の化合物を特に限定なく使用できる。例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネートが挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
液晶ポリウレタンエラストマー内に架橋点を導入してネットワーク化するために、3官能以上のイソシアネート化合物を併用することが好ましく、特に3官能のイソシアネート化合物を併用することが好ましい。3官能以上のイソシアネート化合物としては、例えば、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、及びビシクロヘプタントリイソシアネートなどのトリイソシアネート、テトライソシアネートシランなどのテトライソシアネートが挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、多量化ジイソシアネートを用いてもよい。多量化ジイソシアネートとは、3つ以上のジイソシアネートが付加することにより多量化したイソシアネート変性体又はそれらの混合物である。イソシアネート変性体としては、例えば、1)トリメチロールプロパンアダクトタイプ、2)ビュレットタイプ、3)イソシアヌレートタイプなどが挙げられる。
【0028】
ジイソシアネートと3官能のイソシアネート化合物を併用する場合、前者/後者=19/1〜1/1(重量比)で配合することが好ましい。
【0029】
前記液晶エラストマーの効果を損なわない範囲で高分子量ポリオールを用いてもよい。高分子量ポリオールとしては、液晶ポリウレタンエラストマー内に架橋点を導入してネットワーク化するために、水酸基数3以上の高分子量ポリオールを用いてもよい。水酸基数は3であることが好ましい。高分子量ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエステルポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
高分子量ポリオールの他に、前記液晶エラストマーの効果を損なわない範囲で活性水素基含有低分子量化合物を用いてもよい。活性水素基含有低分子量化合物とは、分子量が400未満の化合物であり、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、テトラメチロールシクロヘキサン、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、スクロース、2,2,6,6−テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、及びトリエタノールアミン等の低分子量ポリオール;エチレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、及びジエチレントリアミン等の低分子量ポリアミン;モノエタノールアミン、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、及びモノプロパノールアミン等のアルコールアミンなどが挙げられる。これら活性水素基含有低分子量化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記液晶エラストマーは、原料として前記液晶性化合物を50〜90重量%含むことが好ましく、より好ましくは60〜80重量%である。液晶性化合物の配合量を多くしてメソゲン基の含有量を多くすることにより、温度変化によって大きく変形する液晶エラストマーを得ることができる。本発明においては、前記液晶性化合物を用いているため、液晶性化合物の含有量を多くしても得られる液晶エラストマーは低弾性率である。液晶性化合物の含有量が50重量%未満の場合には、液晶エラストマーの液晶が発現し難くなる傾向にある。一方、液晶性化合物の含有量が90重量%を超える場合には、分子内に架橋点を導入し難くなるため、硬化し難くなる傾向にある。
【0032】
前記液晶ポリウレタンエラストマーは、ポリウレタン原料組成物を加熱してウレタン化反応によって硬化させることにより得られる。そして、ウレタン化反応中に、液晶性化合物が液晶性を発現した状態で、液晶性化合物のメソゲン基を一軸方向に配向させ、メソゲン基を配向させた状態で硬化させる。メソゲン基を一軸方向に配向させる方法は特に制限されないが、例えば、配向膜上でウレタン化反応を行う方法、ウレタン化反応時に電場又は磁場をかけて配向させる方法、半硬化状態の時に延伸する方法などが挙げられる。
【0033】
活性水素基を有するメソゲン基含有化合物に、アルキレンオキシド及び/又はスチレンオキシドを付加することによりメソゲン基の熱的安定性が低下し、それにより液晶性が発現する温度範囲を低下させることが出来る。当該液晶性化合物を用いることにより、無溶媒でかつ液晶性が発現した状態で反応硬化を行うことができる。液晶性が発現した状態で反応硬化を行うことにより、メソゲンの結晶性を阻害して結晶相の形成を防ぐことができる。
【0034】
ポリウレタン原料組成物中の液晶性化合物の含有量は50〜90重量%であることが好ましく、より好ましくは60〜80重量%である。ポリウレタン原料組成物は無溶媒条件下で各原料成分を混合して調整する。
【0035】
前記液晶ポリウレタンエラストマーは、プレポリマー法により製造してもよく、ワンショット法により製造してもよい。なお、第3級アミン系等の公知のウレタン反応を促進する触媒を使用してもかまわない。
【0036】
前記液晶エラストマーは、液晶相から等方相へ、又は等方相から液晶相への転移温度(Ti)が、0〜100℃であることが好ましく、より好ましくは0〜85℃である。
【0037】
前記予め定められた温度Thは、前記熱応答性部材5を構成する材料に応じて適宜調整することができる。一例としては、前記熱応答性部材5の材料として液晶ポリウレタンエラストマーを用いた場合、前記予め定められた温度Thの調整は、前記液晶ポリウレタンエラストマーのTiを調整することによって行うことが出来る。前記液晶ポリウレタンエラストマーのTiは、種々の手法により調整することが出来る。例えば、前記一般式(1)で表されるメソゲンジオールのアルキレンオキサイドの付加数が大きいと前記Tiが小さくなり、当該付加数が小さいとTiが大きくなることから、当該アルキレンオキサイドの付加数を調整することによりTiを調整することができる。他の例としては、前記液晶ポリウレタンエラストマー内に架橋点が多いとTiが小さくなり、当該架橋点が少ないとTiが大きくなることから、架橋剤を調整することによりTiを調整することができる。他の例としては、液晶性発現の元となるメソゲンの凝集を阻害する方向に配合を調整するとTiが小さくなり、凝集を誘起する方向に配合を調整するとTiが大きくなることから、メソゲンの凝集を調整することによりTiを調整することができる。また、前記メソゲンジオールの含有量が多くなるほどTiは高くなるので、当該含有量を調整することによっても液晶ポリウレタンエラストマーのTiを調整することができる。液晶ポリウレタンエラストマーの原料であるイソシアネート化合物として高結晶性イソシアネート化合物、芳香環含有イソシアネート化合物を用いるとTiが高くなる傾向があることから、イソシアネート化合物の種類によってTiを調整することができる。
【0038】
前記熱応答性部材5は、予め定められた温度Th以上の時に液晶相から等方相に相転移するモノドメイン構造を有することが好ましい。前記熱応答性部材5の材料として前記液晶ポリウレタンエラストマーを用いる場合、モノドメインの配向方向が縮む方向になり、配向方向に対して垂直方向が伸びる方向になる。そのため、モノドメインの配向方向を前記伝熱板A(2)及び伝熱板B(3)の面に対して平行にしておくことが好ましい。また、前記熱応答性部材5の材料として液晶ポリウレタンエラストマーを用いる場合、配向方向の縮み量は、例えば、モノドメインの配向度、架橋度、及び液晶性発現の元となるメソゲンの凝集度などを調整することにより調整することができる。
【0039】
前記熱応答性部材5は、熱制御装置の断熱性能を向上させるために、空隙を有することが好ましい。熱応答性部材5の材料として液晶エラストマーを用いる場合、発泡液晶エラストマーを用いることが好ましい。断熱性能の観点から発泡率は高い方が好ましいが、発泡率が高すぎると前記熱応答性部材5の機能が発現し難くなるため、液晶エラストマーの種類に応じて発泡率を適宜調整する。発泡液晶エラストマーは、例えば、メカニカルフロス法、中空フィラーを含有させる方法、及び発泡剤により発泡させる方法などにより製造することができる。
【0040】
伝熱部材4の材料は、高い熱伝導率を有する材料であれば特に限定されない。当該材料の一例としては金属を挙げることができる。当該金属の中では、高熱伝導性の観点からアルミニウム、銅、又はこれらの合金が好ましい。これらの中でも、高熱伝導性、加工性、及び軽量化の観点から、アルミニウムがより好ましい。
【0041】
図1(b)は、予め定められた温度以上の時の熱制御装置の状態を示す概略図である。
【0042】
外部温度が予め定められた温度Th以上の時(例えば、熱制御装置1を備えた容器を冷蔵設備から取り出して高温環境下で保管している時)には、前記熱応答性部材5が伸長して前記伝熱板A(2)及び伝熱板B(3)の間隔が広がることにより、前記伝熱部材4の他端は前記伝熱板B(3)から離れて非接触になる。それにより、外側の伝熱板A(2)と伝熱部材4と内側の伝熱板B(3)との間の伝熱経路が断たれ、断熱性が向上する。その結果、容器又は保存対象物質を低温状態で長期保存することができる。
【0043】
図1(a)に示す熱制御装置の状態と図1(b)に示す熱制御装置の状態は、予め定められた温度Thを境に可逆的に変化する。
【0044】
図2は、本発明の熱制御装置の他の例を示す概略図である。
【0045】
図2(a)は、予め定められた温度Th未満の時の熱制御装置の状態を示す概略図である。熱制御装置1は、対向する伝熱板A(2)及び伝熱板B(3)の間に、伝熱部材C(6)及び伝熱部材D(7)と熱応答性部材5とを有している。伝熱部材C(6)の一端は前記伝熱板A(2)に接合しており、伝熱部材D(7)の一端は前記伝熱板B(3)に接合しており、伝熱部材C(6)の他端と伝熱部材D(7)の他端は接触している。熱応答性部材5の両端は伝熱板A(2)及び伝熱板B(3)に接合している。
【0046】
前記各部材の材料等は、前記と同様である。
【0047】
図2(b)は、予め定められた温度以上の時の熱制御装置の状態を示す概略図である。
【0048】
外部温度が予め定められた温度Th以上の時(例えば、熱制御装置1を備えた容器を冷蔵設備から取り出して高温環境下で保管している時)には、前記熱応答性部材5が伸長して前記伝熱板A(2)及び伝熱板B(3)の間隔が広がることにより、前記伝熱部材C(6)の他端と前記伝熱部材D(7)の他端は互いに離れて非接触になる。それにより、外側の伝熱板A(2)と伝熱部材C(6)と伝熱部材D(7)と内側の伝熱板B(3)との間の伝熱経路が断たれ、断熱性が向上する。その結果、容器又は保存対象物質を低温状態で長期保存することができる。
【0049】
図2(a)に示す熱制御装置の状態と図2(b)に示す熱制御装置の状態は、予め定められた温度Thを境に可逆的に変化する。
【0050】
〔製造例〕
参考として、液晶ポリウレタンエラストマーを製造し、当該液晶ポリウレタンエラストマーを熱応答性部材として用いた熱制御装置を評価した。
【0051】
<評価方法>
[測定、評価方法]
〔液晶性化合物及びポリウレタンエラストマーの液晶相から等方相への転移温度(Ti)の測定〕
Tiは、示差走査熱量分析器DSC(株式会社日立ハイテクサイエンス社製、商品名:X−DSC 7000)を用いて、20℃/分の条件で測定した。
【0052】
〔液晶性の評価〕
液晶性化合物及びポリウレタンエラストマーの液晶性の有無は、偏光顕微鏡(ニコン社製、商品名:LV−100POL)及び示差走査熱量分析器DSC(株式会社日立ハイテクサイエンス社製、商品名:X−DSC 7000)を用いて、20℃/分の条件で評価した。
【0053】
〔熱制御装置の性能評価〕
熱制御装置の評価は、熱流計(江藤電気製:M55A,2300A)、ラバーヒーター(サミコン230,SBX3030K1S)を組み合わせた装置を用いて性能評価を行った。
1)熱制御装置の厚み
0℃、10℃、20℃、及び30℃における熱制御装置の厚みを測定した。
2)熱伝導率
熱制御装置の熱伝導率は、当該熱制御装置の厚さ方向(図1に記載の熱制御装置における、
伝熱板A(2)から伝熱板B(3)の方向)についてJISA 1412−2に従って熱流計法によって測定した。
3)熱伝導率変化
熱伝導率変化は、以下の式により求めた。数値が大きい方がより大きく熱伝導率が変化したことを意味する。
熱伝導率変化=予め定められた温度未満のときの熱制御装置の熱伝導率/予め定められた温度以上のときの熱制御装置の熱伝導率
【0054】
<製造例>
[液晶性化合物であるメソゲンジオールの合成]
反応容器にBH6(100g)、KOH3.8g、及びDMF600mlを入れて混合し、その後、ブチレンオキシドをBH6(1モル)に対して5当量添加し、加圧条件下で120℃で2時間反応させた。その後、シュウ酸3.0gを添加して付加反応を停止させ、吸引ろ過により塩を除去し、さらにDMFを減圧蒸留により除去して、目的物であるメソゲンジオール(構造異性体を含んでいてもよい)を得た。当該反応を下記化学式2に示す。
【0055】
【化2】
(式中、m+n=5である。)
【0056】
〔製造例1〕
前記メソゲンジオール100g、ヘキサメチレンジイソシアネート26g、HDI系イソシアヌレート(住化バイエルウレタン株式会社製、スミジュールN3300)3g、及び触媒(TEDA−L33、東ソー社製)1gを100℃で混合した。その後、反応溶液を予め100℃に加温した金型内に流し入れ、100℃で30分硬化させて、所定のサイズの半硬化状態の液晶ポリウレタンエラストマーを得た。金型から脱型した後、20℃で試料を一軸方向に伸長することで、液晶ポリウレタンエラストマーを作製した。
【0057】
〔製造例2〕
前記メソゲンジオール100g、ヘキサメチレンジイソシアネート26g、HDI系イソシアヌレート(住化バイエルウレタン株式会社製、スミジュールN3300)3g、整泡剤(B−8017、ゴールドシュミット社製)1g、及び触媒(TEDA−L33、東ソー社製)1gを100℃で混合した。そして、撹拌翼を用いて、回転数900rpmで反応系内に気泡を取り込むように約1分間激しく撹拌を行った。その後、反応溶液を予め100℃に加温した金型内に流し入れ、100℃で30分硬化させて、所定のサイズの半硬化状態の液晶ポリウレタンエラストマーを得た。金型から脱型した後、20℃で試料を一軸方向に伸長することで、発泡液晶ポリウレタンエラストマーを作製した。
【0058】
液晶ポリウレタンエラストマーに係る評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
<実施例(熱制御装置)>
〔熱制御装置〕
[実施例1]
本発明の熱制御装置を下記材料で製作した。
・伝熱板A及び伝熱板B:アルミニウム合金板(寸法1mm×100mm×100mm)
・伝熱部材:アルミニウム合金(寸法φ3mm×10mm:前記伝熱板に均等な間隔で25本配置)
・熱応答性部材:前記製造例1の液晶ポリウレタンエラストマー(寸法10mm×10mm×12mm:前記伝熱部材の間に配置)
【0061】
実施例1に係る熱制御装置の評価結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
[実施例2]
実施例1の熱応答性部材を製造例2の発泡液晶ポリウレタンエラストマーに変更したこと以外は実施例1と同様に熱制御装置を作製した。
【0064】
実施例2に係る熱制御装置の評価結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
以上、本発明を詳細に説明してきたが、上記の説明はあらゆる点において本発明の一例にすぎず、その範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の熱制御装置は、物質の低温状態を保持するための断熱装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 熱制御装置
2 伝熱板A
3 伝熱板B
4 伝熱部材
5 熱応答性部材
6 伝熱部材C
7 伝熱部材D
図1
図2