【文献】
三井中ら,高分子量ポリエチレンオキシド“PEO”について,紙パルプ技術協会誌,日本,1968年 7月,第22巻第7号,375頁〜381頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記乳化重合ラテックスのポリマー固形分100重量部に対し、増粘剤0.001〜3.0重量部が乳化重合ラテックス中に含まれる請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
前記凝固剤溶液が、一価の無機酸、一価の無機酸の塩、二価の無機酸、二価の無機酸の塩、三価の無機酸、及び三価の無機酸の塩から選択される1種以上の物質を含む水溶液である請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
前記増粘剤が、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、及びポリジメチルアミノエチルメタクリレートからなる群より選択される1種以上である請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らによれば、特許文献1の方法では、グラフト共重合ラテックスが撹拌されることにより微小粒子が増え、嵩比重が低くなる事を見出しており、凝固ラテックス粒子の嵩比重を高くし、微小粒子を低減することがより一層望まれていた。
【0006】
そこで、本発明は、微小粒子が少なく、嵩比重が高い凝固ラテックス粒子の製造方法を提供することを目的として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、凝固剤溶液と、粘度を高くした乳化重合ラテックスとを接触させて緩凝析し、次いでこの緩凝析pHよりも低いpHを用いた凝析を行うと、微小粒子が少なく、嵩比重が高い凝固ラテックス粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 増粘剤を含む乳化重合ラテックスを、pH1.5超4以下に調整し撹拌させた凝固剤溶液に流出させ緩凝析させた後に、pH1.5以下の凝固剤溶液でさらに凝析させることを特徴とする凝固ラテックス粒子の製造方法。
[2] 前記乳化重合ラテックスの25℃における粘度が10mPa・s以上である[1]に記載の製造方法。
[3] 25℃における粘度が10mPa・s以上である乳化重合ラテックスをpH1.5超4以下に調整し撹拌させた凝固剤溶液に流出させ緩凝析させた後に、pH1.5以下の凝固剤溶液でさらに凝析させることを特徴とする凝固ラテックス粒子の製造方法。
[4] 前記乳化重合ラテックスをpH1.5超4以下の凝固剤溶液に緩凝析させた後、この混合物のpHをさらに下げる事で前記凝析を行う[1]〜[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
[5] 前記乳化重合ラテックスのポリマー固形分100重量部に対し、増粘剤0.001〜3.0重量部が乳化重合ラテックス中に含まれる[1]〜[4]のいずれか1項に記載の製造方法。
[6] 前記乳化重合ラテックス中のポリマーの体積平均粒子径が0.05〜0.5μmである[1]〜[5]のいずれか1項に記載の製造方法。
[7] 前記乳化重合ラテックスのポリマー固形分濃度が10〜55重量%である[1]〜[6]のいずれか1項に記載の製造方法。
[8] 前記増粘剤が、60万〜800万の粘度平均分子量を有する[1]〜[7]のいずれか1項に記載の製造方法。
[9] 前記凝固剤溶液が、一価の無機酸、一価の無機酸の塩、二価の無機酸、二価の無機酸の塩、三価の無機酸、及び三価の無機酸の塩から選択される1種以上の物質を含む水溶液である[1]〜[8]のいずれか1項に記載の製造方法。
[10] 前記増粘剤が、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、及びポリジメチルアミノエチルメタクリレートからなる群より選択される1種以上である[1]〜[9]のいずれか1項に記載の製造方法。
[11] 前記乳化重合ラテックスが、ブタジエン50〜100重量%、芳香族ビニルモノマー0〜40重量%、ブタジエンおよび芳香族ビニルモノマーと共重合可能なビニルモノマー0〜10重量%ならびに多官能性モノマー0〜5重量%を重合してなり、ガラス転移温度が0℃以下のゴムラテックスの固形分50〜95重量部に、メタクリル酸エステル10〜100重量%、芳香族ビニルモノマー0〜90重量%、シアン化ビニルモノマー0〜25重量%ならびにメタクリル酸エステル、芳香族ビニルモノマーおよびシアン化ビニルモノマーと共重合可能なビニルモノマー0〜20重量%からなる単量体混合物5〜50重量部をグラフト重合することにより得られる[1]〜[10]のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、微小粒子が少なく、嵩比重が高い凝固ラテックス粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、所定pHを有する凝固剤溶液中で、増粘剤を含む乳化重合ラテックスまたは所定の粘度を有する乳化重合ラテックスの第一凝固(緩凝析)を行い、次いで第一凝固で使用するpHよりも低いpHで第二凝固を行って、凝固ラテックス粒子を製造する方法である。
当該製造方法は、従来に比べて高い粘度を有する乳化重合ラテックスを、凝固剤溶液中で2段以上凝固させることにより、微小粒子が少なく、嵩比重が高い凝固ラテックス粒子を調製するものである。
本発明において、乳化重合ラテックスは、例えば乳化重合によりコアシェルグラフト共重合体等を調製した重合反応液をそのまま用い、これに増粘剤を添加したものであってもよい。
【0011】
本発明における凝固ラテックス粒子(凝固乳化重合ラテックス粒子、重合体粒子)は、特に制限されるものではないが、(1)ブタジエン50〜100重量%、芳香族ビニルモノマー0〜40重量%、ブタジエンおよび芳香族ビニルモノマーと共重合可能なビニルモノマー0〜10重量%ならびに多官能性モノマー0〜5重量%を重合してなり、ガラス転移温度が0℃以下のゴムラテックスの固形分50〜95重量部に、メタクリル酸エステル10〜100重量%、芳香族ビニルモノマー0〜90重量%、シアン化ビニルモノマー0〜25重量%ならびにメタクリル酸エステル、芳香族ビニルモノマーおよびシアン化ビニルモノマーと共重合可能なビニルモノマー0〜20重量%からなる単量体混合物5〜50重量部をグラフト重合することにより得られる重合体ラテックス、(2)アクリル酸エステル50〜100重量%、芳香族ビニルモノマー0〜40重量%、これらと共重合可能なビニルモノマー0〜10重量%ならびに多官能性モノマー0〜5重量%を重合してなり、ガラス転移温度が0℃以下のゴムラテックスの固形分50〜95重量部に、メタクリル酸エステル10〜100重量%、芳香族ビニルモノマー0〜90重量%、シアン化ビニルモノマー0〜25重量%ならびにメタクリル酸エステル、芳香族ビニルモノマーおよびシアン化ビニルモノマーと共重合可能なビニルモノマー0〜20重量%からなる単量体混合物5〜50重量部をグラフト重合することにより得られる重合体ラテックス、(3)メタクリル酸メチル50〜95重量%、炭素数2〜8のアルキル基を有するメタクリル酸エステル5〜50重量%、およびこれらと共重合可能なビニルモノマー0〜20重量%との混合物60〜95重量部をまず乳化重合し、その生成重合体ラテックスの存在下に、メタクリル酸メチル20〜80重量%、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸メチルを除くメタクリル酸エステルより選ばれた1種以上の単量体20〜80重量%およびこれらと共重合可能なビニルモノマー0〜20重量%との混合物5〜40重量部を、合計量が100重量部になるように重合することにより得られる重合体ラテックスの何れかが、後述する理由により好適に使用され得る。
上記(1)〜(3)に記載した乳化重合ラテックスの重合体粒子の一般的な製造方法は、例えば、特開平2−269755号公報、特開平8−217817号公報に詳細に記述されている。しかしながら、上記製造方法は、これに限定されるものではない。
【0012】
上記(1)〜(3)の重合体粒子は、熱可塑性樹脂の品質改良剤(特に耐衝撃性改良剤)として広範に用いられており、本発明の製造方法により高品質な凝固ラテックス粒子を比較的容易に得ることができる。しかしながら、本発明で用いることのできる乳化重合ラテックスの重合体粒子は、これらに限定されるものではなく、例えば、次のモノマー群から選ばれた1種または2種以上のモノマーを主とする単量体組成物を共重合またはグラフト重合させた重合体粒子の単独または混合物からなるラテックス重合体粒子を用いることも可能である。
【0013】
上記モノマー群としては、例えば、1)メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等の炭素数が1以上10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート類(アクリル酸エステル)、2)メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等の炭素数が1以上10以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類(メタクリル酸エステル)、3)スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類(芳香族ビニルモノマー)、4)アクリル酸、メタクリル酸等のビニルカルボン酸類、5)アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン類(シアン化ビニルモノマー)、6)塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレン等のハロゲン化ビニル類、7)酢酸ビニル、8)エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソブチレン等のアルケン類、9)アリル(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、グリシジル(メタ)アクリレート等の多官能性モノマーが例示される。
【0014】
前記重合体粒子の体積平均粒子径には特に制限はないが、通常の乳化重合で得られる乳化重合ラテックス中のポリマーの体積平均粒子径は0.05〜0.5μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.3μm、さらに好ましくは0.1〜0.25μmである。なお、前記重合体粒子の体積平均粒子径は、例えば、MICROTRAC UPA(日機装株式会社製)を用いることにより測定することができる。
【0015】
本発明で用いる乳化重合ラテックスのポリマー固形分濃度は、本発明の目的が達成される限り特に制限はないが、通常10〜55重量%が好ましく、10〜45重量%がより好ましく、25〜40重量%がさらに好ましい。乳化重合ラテックスのポリマー固形分濃度が、10重量%よりも低い場合は、凝固ラテックス粒子の嵩比重が低下する。前記ポリマー固形分濃度が55重量%を超えると、例えばノズルから乳化重合ラテックスを円滑に添加させることが困難となる虞がある。なお、乳化重合ラテックスのポリマー固形分濃度の測定は、ラテックス0.5gを120℃の熱風対流型乾燥機に3時間入れて水分を蒸発させ、乾燥前のラテックス重量と乾燥後のポリマー重量から乳化重合ラテックスのポリマー固形分濃度を算出することにより行うことができる。本明細書において、ポリマー固形分濃度は、乳化重合ラテックス中の乳化重合体の固形分濃度に相当するものである。
【0016】
前記乳化重合ラテックスの25℃における粘度は、10mPa・s以上であることが好ましく、より好ましくは15mPa・s以上、さらに好ましくは20mPa・s以上であり、100mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは50mPa・s以下、さらに好ましくは30mPa・s以下である。25℃における粘度が10mPa・s未満である場合、乳化重合ラテックスが微細となりかつ均一でない不定型形状となり、微小粒子が多くなる。一方、25℃における粘度が100mPa・s超である場合、乳化重合ラテックスを凝固剤溶液に添加することが困難となる。
前記粘度は、25℃における対象乳化重合ラテックスに対してキャノン・フェンスケ、キャノン・フェンスケ逆流形、ウベローデ等の粘度計や回転粘度計を用いて算出することができる。参考として、蒸留水の25℃における粘度は、0.8899mPa・sである。
【0017】
本発明では、乳化重合ラテックスに増粘剤を水溶液あるいは粉体等で加えることができるが、水溶液で加えるのが操作上簡便であることから好ましい。増粘剤水溶液の濃度には特に制限はないが、通常、0.01〜10重量%であることが好ましい。水溶液濃度が、0.01重量%よりも低い場合は所定量の増粘剤を加えるために多量の水溶液を使用する必要があり、逆に水溶液濃度が10重量%よりも高い場合は、増粘剤水溶液の粘度が高くなるため取り扱いが困難となる傾向がある。
【0018】
本発明で用いる増粘剤は、公知のものが適宜使用でき、特に水溶性高分子が好ましい。水溶性高分子としては、例えば非イオン性水溶性高分子、アニオン性水溶性高分子、カチオン性水溶性高分子、両性水溶性高分子などを挙げることができる。
【0019】
水溶性高分子としては、非イオン性水溶性高分子が好ましく、具体的にはポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート等を挙げることができる。本発明で用いられる水溶性高分子としては、水溶性及び熱可塑性を有する非イオン性水溶性高分子が好ましく、ポリアルキレンオキサイドが特に好ましく、ポリエチレンオキサイドが最も好ましい。
【0020】
前記乳化重合ラテックスは、粘度平均分子量60万〜800万の増粘剤を所定量含有するものであってもよい。
増粘剤(例えばポリエチレンオキサイド)の分子量は特に制限されないが、粘度平均分子量が60万〜800万であることが好ましく、更には150万〜500万であることがより好ましい。粘度平均分子量が60万よりも低い場合は、乳化重合ラテックスにポリエチレンオキサイドを添加しても微小粒子が多く形成され、本発明の目的を達成できない場合がある。一方、粘度平均分子量が800万よりも高い場合は、乳化重合ラテックスにポリエチレンオキサイドを添加した時の粘度上昇が激しくなり、撹拌混合操作が困難となる場合がある。なお、ポリエチレンオキサイドの粘度平均分子量は、ベンゼン溶媒中、20℃の条件で測定することができる。
【0021】
ポリエチレンオキサイドは、エチレンオキサイドを重合して得られるエチレンオキサイド単位を有する高分子化合物であればよく、例えば、ポリエチレンオキサイド、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物などを用いることができる。
【0022】
また、増粘剤の添加方法には特に制限はなく、所定量の増粘剤を前記ラテックスに一括して添加することができ、分割して添加することができ、あるいは連続的に添加することができる。
【0023】
増粘剤を溶液として使用する場合、溶液中の増粘剤の濃度は、乳化重合ラテックスが上記の粘度を発現する限り、特に限定されないが、例えば0.1重量%以上、10重量%以下程度である。
【0024】
増粘剤の添加量(固形分基準)は、乳化重合ラテックスのポリマー固形分100重量部に対し、0.001〜3.0重量部(10〜30000ppm)が好ましく、0.01〜0.05重量部(100〜500ppm)がより好ましい。
増粘剤の添加量が0.001重量部よりも少ない場合は、微小粒子が増加する傾向にある。一方、増粘剤の添加量が3.0重量部よりも多い場合は、乳化重合ラテックスの粘度が高くなり、凝固剤溶液に添加することが困難となる。
【0025】
本発明に用いることができる凝固剤溶液としては、該乳化重合ラテックスを凝析・凝固し得る性質を有する無機酸若しくはその塩、または有機酸若しくはその塩の水溶液であれば良い。
【0026】
前記凝固剤溶液は、一価の無機酸、一価の無機酸の塩、二価の無機酸、二価の無機酸の塩、三価の無機酸、三価の無機酸の塩などから選択される1種以上の物質を含む水溶液であることが好適である。一価の無機酸としては、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸などのハロゲン酸、硝酸などが含まれる。二価の無機酸としては、硫酸などが挙げられる。三価の無機酸としては、リン酸などが例示できる。これら酸と塩を形成し得るカチオン性元素または分子としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属(特に鉄、亜鉛)、アルミニウムなどの第13族の金属、アンモニウムなどが含まれる。
【0027】
前記有機酸溶液または有機酸の塩溶液は、一価の有機酸、一価の有機酸塩、二価の有機酸、二価の有機酸塩などから選択される1種以上の物質を含む水溶液であることが好適である。一価の有機酸には、ギ酸、酢酸などが含まれる。一価の有機酸塩としては、ギ酸、酢酸などと、アルカリ金属などとの塩が挙げられる。二価の有機酸には、シュウ酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、酒石酸などが含まれる。二価の有機酸塩は、酢酸、ギ酸などと、アルカリ土類金属などとの塩が例示できる。
【0028】
具体的な前記無機酸溶液、無機酸の塩溶液、有機酸溶液または有機酸の塩溶液としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどのアルカリ金属ハロゲン化物;硫酸カリウム、硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物;硫酸アンモニウム;塩化アンモニウム;硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどのアルカリ金属硝化物;塩化カルシウム、硫酸第一鉄、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、塩化バリウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化マグネシウム、硫酸第二鉄、硫酸アルミニウム、カリウムミョウバン、鉄ミョウバンなどの無機塩類の水溶液、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸類の水溶液、酢酸、ギ酸などの有機酸類およびそれらの水溶液、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カルシウムなどの有機酸塩類の水溶液を単独または2種以上を混合したものを挙げることができる。これらの中でも、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化バリウムなどの一価または二価の無機酸の塩の水溶液、塩酸、硫酸などの一価若しくは二価の無機酸の水溶液などが好適に使用できる。前記無機塩や酸の添加方法には特に制限は無く、一括添加、分割添加、あるいは連続的添加を用いることができる。
中でも、無機酸類の水溶液が好ましく、塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸の水溶液がより好ましく、塩酸の水溶液がさらに好ましい。
【0029】
凝固剤濃度は、凝固剤溶液100重量%中、例えば1〜50重量%、好ましくは5〜45重量%、より好ましくは10〜40重量%である。
【0030】
<第一凝固>
第一凝固は、緩凝析を行う反応であり、凝固剤溶液中で乳化重合ラテックスを完全に凝固させる従来の凝析に比べて、緩やかな速度で凝析が進行するものであり、第一凝固で使用される凝固剤溶液pHは第二凝固で使用される凝固剤溶液pHよりも高い事を条件とする。
【0031】
第一凝固の凝固剤溶液pHは、1.5超4以下であり、例えばpH2.0以上4.0以下であり、好ましくはpH2.2以上3.8以下、より好ましくはpH2.4以上3.6以下、さらに好ましくはpH2.6以上3.4以下である。
【0032】
第一凝固における乳化重合ラテックスと凝固剤溶液の混合方法は、乳化重合ラテックス中に凝固剤溶液を添加してもよく、凝固剤溶液中に乳化重合ラテックスを添加してもよく、同時に緩凝析を行う容器内に乳化重合ラテックスと凝固剤溶液を添加してもよい。
中でも、安定して凝固ラテックス粒子を生産する点で、乳化重合ラテックスを凝固剤溶液中に添加する事が好ましい。
【0033】
前記乳化重合ラテックスを凝固剤溶液に対して添加するには、例えばノズルから前記ラテックスを噴霧または滴下すればよく、乳化重合ラテックスを含む容器から前記ラテックスをそのまま凝固剤溶液に投入してもよい。ノズルは、加圧ノズル、二流体ノズル、超音波ノズル、高周波装置または滴下ノズルであってもよい。ノズルの口径は、乳化重合ラテックスと凝固剤溶液とが接触する凝析系の温度、撹拌条件等を考慮しつつ、所望の平均粒子径を有する凝固ラテックス粒子となる様に調節すればよい。
【0034】
第一凝固を行う系の温度は、球状粒子を得る点で、凝固剤溶液の濃度と共に重要であり、例えば0〜80℃、好ましくは10〜70℃、より好ましくは20〜60℃である。
第一凝固は、凝固剤溶液を撹拌して行うことが好ましい。撹拌速度は、乳化重合ラテックスの緩凝析が安定して行える速度であればよい。
第一凝固を行う際、乳化重合ラテックスを凝固剤溶液中に添加すると、凝固剤溶液のpHが変化する為、緩凝析を持続して行うことが出来る様に、別途凝固剤溶液を第一凝固の系に添加することが好ましい。
【0035】
<第二凝固>
第二凝固は、未凝析の乳化重合ラテックスが僅かに残り、微小粒子が発生する場合がある為、緩凝析後に凝固剤溶液を用いて二段目の凝析を行い、完全な凝析反応を行うものであり、第二凝固で使用される凝固剤溶液pHは、第一凝固で使用される凝固剤溶液pHよりも低い事を条件とする。なおこの第二凝固には、第一凝固に用いた凝固剤溶液と異なる溶液を使用してもよいが、緩凝固後の乳化重合ラテックスを含む凝固剤溶液のpHをさらに下げることで、第二凝固用の凝固剤溶液とすることが好ましい。
【0036】
第二凝固の凝固剤溶液pHは、pH1.5以下であり、好ましくはpH1.4以下である。なおこのpHは、0.1以上、特に1.0以上であっても、適切な第二凝固が可能である。
第二凝固で使用される凝固剤は、第一凝固のものと同じであってもよいし、異なるものを使用してもよい。
第二凝固を行う系は、第一凝固で使用した温度をそのまま維持して行うことが好ましい。
【0037】
少なくとも第一凝固と第二凝固を経た凝固ラテックス粒子は、そのスラリー溶液が酸性を示す場合には、水溶液中でアルカリを示す物質で中和してもよく、そのスラリー溶液がアルカリ性を示す場合には、水溶液中で酸性を示す物質で中和してもよい。
【0038】
本発明では、凝固ラテックス粒子を熱処理することにより、凝固ラテックス粒子内のポリマー粒子間の融着を促進させることが好ましい。熱処理の温度は特に上限はないが、通常、120℃以下であり、好ましくは60〜100℃、より好ましくは65〜95℃、さらに好ましくは70〜90℃である。熱処理時間は、例えば1〜60分間であり、好ましくは5〜50分間である。これら条件により、凝固ラテックス粒子の機械的強度が増すとともにポリマー粒子の含水率が低下する。また、加熱処理を実施するにあたり、加熱中および乾燥時(後)の粒子間凝集を抑制するため加熱処理前に、凝固ラテックス粒子100重量部に対して、硬質非弾性重合体ラテックス(固形分基準)0.5〜3重量部を添加することが好ましい。粒子間融着防止処理を行なった後は、常法に従って、脱水および乾燥操作を行えば本発明による凝固ラテックス粒子が回収できる。
【0039】
硬質非弾性重合体としては、例えば、ブタジエン等のゴム弾性体を形成し得るモノマーの量が少なく(例えば、重合体全体の30重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、特に0重量%)、これ以外のモノマーを重合させたものが使用できる。ゴム弾性体を形成しないモノマーとしては、例えば、1)メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数が10以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類、2)スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類、アクリロニトリル等のビニルシアン類、3)1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、グリシジル(メタ)アクリレート等の多官能性モノマーが例示される。これらモノマーは、単独でまたは適宜組み合わせて使用できる。
【0040】
前記凝固ラテックス粒子の嵩比重は、例えば、0.35g/cm
3以上であり、好ましくは0.36g/cm
3以上、より好ましくは0.37g/cm
3以上である。嵩比重の上限は、例えば1.0g/cm
3程度である。
【0041】
凝固ラテックス粒子の体積粒子径分布において50μm以下となる体積累積頻度は、8.0%以下であることが好ましく、より好ましくは6.0%以下、さらに好ましくは4.0%以下である。50μm以下となる体積累積頻度の下限は、例えば0%程度、0.5%程度である。
【0042】
凝固ラテックス粒子の体積平均粒子径は、例えば50μm〜500μmであり、好ましくは100〜400μmであり、より好ましくは200〜300μmである。
【0043】
本発明の凝固ラテックス粒子の製造方法では、必要に応じて酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、滑剤等の添加剤を、例えば乳化重合ラテックス、または凝固操作終了後の凝固ラテックス粒子の水懸濁液に添加してもよい。
【0044】
本発明により製造された凝固ラテックス粒子は、耐衝撃性改良剤等の改質剤として、例えば塩化ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂、またはフェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和エステル系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂等の熱硬化性樹脂に好適に使用することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
【0046】
(体積累積頻度に基づいた粒度分布の測定)
実施例、比較例で得られた凝固ラテックス粒子懸濁液の粒子径分布を、レーザ回析/散乱式粒子径分布測定装置LA−950(株式会社堀場製作所製)で測定し、体積平均粒子径50μm以下の粒子の体積累積頻度%から粒度分布を求めた。
【0047】
(嵩比重の測定)
得られた凝固ラテックス粒子の嵩比重は、嵩比重測定装置(蔵持科学器械製作所製 JIS K−6720型)を用いて測定した。
【0048】
(乳化重合ラテックスの25℃における粘度の測定)
得られた乳化重合ラテックスの25℃における粘度は、ブルックフィールド粘度計(東機産業製BL2型;B型粘度計、ローター径19mm、回転数50rpm)で測定した。
【0049】
(実施例1)
乳化重合ラテックスの製造
ジエン系ゴム重合体(R−1)の製造
100Lの重合機(攪拌機付耐圧反応容器)に、脱イオン水200部を仕込み、重合機内を脱気し、窒素置換した後に攪拌を開始し、オレイン酸ナトリウム2.5部、硫酸第一鉄(FeSO
4・7H
2O)0.002部、エチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAという)・2Na塩0.01部、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ナトリウム0.2部、リン酸三カリウム0.2部、ブタジエン100部、ジビニルベンゼン0.5部およびジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.1部を仕込んだ。
40℃で10時間重合させ、その後60℃で4時間保持した後、重合転化率98%、平均粒子径0.08μm、固形分濃度32.5%のジエン系ゴムラテックス(R−1)を得た。
【0050】
グラフト重合体(G−1)の製造
温度計、攪拌機、還流冷却器、窒素流入口、単量体と乳化剤の添加装置を有するガラス反応器に、前記ジエン系ゴムラテックス固形分70部、水50部、硫酸第一鉄(FeSO
4・7H
2O)0.004部、EDTA・2Na塩0.005部、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ナトリウム0.1部を混合したのち、昇温して混合物の内温を60℃にした。その後、メチルメタクリレート(MMA)22部、スチレン3部、ブチルアクリレート5部およびクメンハイドロパーオキサイド0.1部の混合液を4時間にわたって連続添加し、更に1時間重合を続けた後、終了させ平均粒子径0.23μmの乳化重合ラテックス(G−1)を得た。
【0051】
硬質非弾性重合体ラテックス(P−1)の製造
脱イオン水200部、オレイン酸ナトリウム0.3部、硫酸第一鉄(FeSO
4・7H
2O)0.002部、エチレンジアミン4酢酸・2Na塩0.005部、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ0.2部を100Lの重合機(攪拌機付耐圧反応容器)に入れ撹拌しながら、70℃に昇温したのち、メチルメタクリレート45部、スチレン45部、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート10部、及びクメンハイドロパーオキサイド0.3部の混合液を7時間かけて連続添加した。この間2時間目、4時間目、6時間目にオレイン酸ソーダを各0.3部追加した。単量体混合液の連続添加終了後、更に2時間撹拌を続け、重合転化率99%の硬質非弾性重合体ラテックス(P−1)を得た。
【0052】
凝固工程−熱処理工程(凝固ラテックス粒子の製造)
乳化重合ラテックス(G−1)1000g(ポリマー固形分100部として350g)を取り、25℃に調整した(ポリマー固形分濃度は35%)。そこへ、攪拌下で1%ポリエチレンオキサイド(住友精化株式会社製PEO−8Z、粘度平均分子量170万〜220万)水溶液17.5g(乳化重合ラテックスのポリマー固形分100部に対するポリエチレンオキサイド固形分0.05部)を添加した(乳化重合ラテックスの25℃における粘度22mPa・s)。このポリエチレンオキサイドを含有する乳化重合ラテックスを、40℃、pH3.0の塩酸水溶液(濃度約0.005%)を攪拌した凝固槽に徐々に添加した。その際、0.1%の塩酸水溶液をラテックス添加と平行して凝固槽に添加し、pH3.0に保持した。ラテックス添加終了後、僅かに未凝固のラテックスが確認された。その後、2%塩酸水溶液を凝固槽に添加し、pH1.4に調整して凝固を完結させた。凝固ラテックス粒子間の融着を防止するため、ポリマー固形分100部に対して1部の硬質非弾性重合体ラテックス(P−1)を添加した。その後、10%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH4〜5に調整した後、85℃に加熱して5分間熱処理操作を実施した。得られた凝固ラテックス粒子の粒度分布、嵩比重の結果を表1に示す。
【0053】
(実施例2)
実施例1と同様に、乳化重合ラテックス(平均粒子径0.23μm、ポリマー固形分濃度35%)を得た。そこへ、攪拌下で1%ポリエチレンオキサイド(住友精化株式会社製PEO−8Z、粘度平均分子量170万〜220万)水溶液8.75g(乳化重合ラテックスのポリマー固形分100部に対するポリエチレンオキサイド固形分0.025部)を添加した(乳化重合ラテックスの25℃における粘度16mPa・s)。このポリエチレンオキサイドを含有する乳化重合ラテックスを、40℃、pH3.0の塩酸水溶液(濃度約0.005%)を攪拌した凝固槽に徐々に添加した。その際、0.1%の塩酸水溶液をラテックス添加と平行して凝固槽に添加し、pH3.0に保持した。ラテックス添加終了後、僅かに未凝固のラテックスが確認された。その後、2%塩酸水溶液を凝固槽に添加し、pH1.4に調整して凝固を完結させた。凝固ラテックス粒子間の融着を防止するため、ポリマー固形分100部に対して1部の硬質非弾性重合体ラテックス(P−1)を添加した。その後、10%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH4〜5に調整した後、85℃に加熱して5分間熱処理操作を実施した。得られた凝固ラテックス粒子の粒度分布、嵩比重の結果を表1に示す。
【0054】
(比較例1)
実施例1と同様に、乳化重合ラテックス(平均粒子径0.23μm、ポリマー固形分濃度35%)を得た。乳化重合ラテックス1000g(ポリマー固形分100部として350g)を取り、25℃に調整した(乳化重合ラテックスの25℃における粘度7mPa・s)。ポリエチレンオキサイドを添加しない乳化重合ラテックスを、40℃、pH3.0の塩酸水溶液を攪拌した凝固槽に徐々に添加した。その際、0.1%の塩酸水溶液をラテックス添加と平行して凝固槽に添加し、pH3.0に保持した。ラテックス添加終了後、僅かに未凝固のラテックスが確認された。その後、2%塩酸水溶液を凝固槽に添加し、pH1.4に調整して凝固を完結させた。凝固ラテックス粒子間の融着を防止するため、ポリマー固形分100部に対して1部の硬質非弾性重合体ラテックス(P−1)を添加した。その後、10%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH4〜5に調整した後、85℃に加熱して5分間熱処理操作を実施した。得られた凝固ラテックス粒子の粒度分布、嵩比重の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】