特許第6616656号(P6616656)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616656
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】振動ダンパ装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/134 20060101AFI20191125BHJP
   F16H 45/02 20060101ALI20191125BHJP
   F16F 15/14 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   F16F15/134 B
   F16H45/02 Y
   F16F15/14 Z
   F16F15/134 A
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-210065(P2015-210065)
(22)【出願日】2015年10月26日
(65)【公開番号】特開2016-84941(P2016-84941A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2018年10月26日
(31)【優先権主張番号】1460287
(32)【優先日】2014年10月27日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】503041177
【氏名又は名称】ヴァレオ アンブラヤージュ
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】ロエル、ベルオーグ
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル、エンヌベル
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−173380(JP,A)
【文献】 特開2014−066360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00−15/36
F16H 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のトランスミッション機構においてドライブシャフト(1)とギヤボックスの入力シャフト(2)との間に配置されるように構成された、振動ダンパ装置(6)であって、このダンパ装置は、
−ドライブシャフト(1)に連結される入力要素(8)と、ギヤボックスの入力シャフト(2)に連結される出力要素(9)とであって、X軸を中心として相対的に回転可能な入力要素(8)および出力要素(9)と、
−前記入力要素(8)と出力要素(9)とを回転結合するように構成された第1の弾性部材アセンブリであって、複数の弾性部材グループを含んでおり、各グループが、前記入力要素(8)と出力要素(9)との間に周方向に直列に介在する第1および第2の弾性部材(10、11)を含む、第1の弾性部材アセンブリと、
−前記入力要素(8)と出力要素(9)とに対して回転可能な、前記第1の弾性部材アセンブリの各グループの第1および第2の弾性部材(10、11)の間に周方向に介在しこれらを直列に配置する、位相合わせ部材(12)と
含んでおり、
このダンパ装置が、前記位相合わせ部材(12)に対して前記入力要素(8)の回転角度が閾値を超えたときにのみ第2の弾性部材アセンブリ(14)が作動するよう、前記入力要素(8)と前記位相合わせ部材(12)との間に周方向の隙間を伴って周方向に介在する第2の弾性部材アセンブリ(14)を含み、
前記入力要素(8)が、回転結合される2個のガイドリング(8a、8b)を含み、これらのガイドリングが、第1の弾性部材アセンブリの各々の弾性部材グループの間に周方向に延びる支持座面を含み、
前記出力要素が、前記各ガイドリング(8a、8b)の間に軸方向に延びて前記第1の弾性部材アセンブリの各々の弾性部材グループの間に周方向に延びる半径方向の支持脚部(19)を含むカバー(9a)と、前記カバー(9a)に回転結合されて前記ギヤボックスの入力シャフト(2)と協働するためのスプラインハブ(9b)とを含み、
前記入力要素(8)が、さらにフランジ(8c)を含み、このフランジがその外縁部分に、前記ガイドリングの一方(8a)とともに前記第2の弾性部材アセンブリの弾性部材(14)の収容チャンバを画定する環状溝(25)を有し、
前記フランジ(8c)が、前記第2の弾性部材アセンブリの各々の弾性部材(14)の間に周方向に延びる支持脚部(26)を備えており、
前記第2の弾性部材アセンブリの弾性部材(14)が、前記環状溝(25)に収容される湾曲ばねであることを特徴とする振動ダンパ装置。
【請求項2】
X軸を中心として回転可能で、前記位相合わせ部材(12)と支持部材(28)に可動式に取り付けられた振り子式のおもり(29)とに回転結合された、支持部材(28)を含む振り子式のダンパを含む、請求項1に記載の振動ダンパ装置。
【請求項3】
前記位相合わせ部材(12)が位相合わせリングであり、前記第1の弾性部材アセンブリの同一グループの第1の弾性部材と第2の弾性部材との間にそれぞれが配置された複数の位相合わせ脚部(21)と、前記第2の弾性部材アセンブリの各々の弾性部材(14)の間に介在する複数の支持脚部(27)とを含んでいる、請求項に記載のダンパ装置(6)。
【請求項4】
前記第1の弾性部材アセンブリの弾性部材(10、11)が、軸Xを中心とする同一直径上に配分された直線ばねである、請求項2または3に記載のダンパ装置(6)。
【請求項5】
前記第2の弾性部材アセンブリの弾性部材(14)が軸Xから半径方向に延びる距離が、前記第1の弾性部材アセンブリの弾性部材(10、11)の同距離よりも長い、請求項からのいずれか一項に記載のダンパ装置(6)。
【請求項6】
前記振り子式のおもり(29)が軸Xから半径方向に延びる距離が、前記第2の弾性部材アセンブリの弾性部材(14)の同距離にほぼ等しい、請求項に記載のダンパ装置(6)。
【請求項7】
前記振り子式のおもり(29)と前記第2の弾性部材アセンブリの弾性部材(14)が、前記第1の弾性部材アセンブリの弾性部材(10、11)の軸方向の両側に延びている、請求項に記載のダンパ装置(6)。
【請求項8】
前記入力要素(8)から前記出力要素(9)に向かってトルクが伝達されるときに入力要素(8)と位相合わせ部材(12)との間で作用する前記第1の弾性部材アセンブリの第1の弾性部材(10)が、剛性K1を有し、
前記入力要素(8)から前記出力要素(9)に向かってトルクが伝達されるときに前記位相合わせ部材(12)と出力要素(9)との間で作用する前記第1の弾性部材アセンブリの第2の弾性部材(11)が、剛性K2を有し、
比率K2/K1が2〜5である、請求項1からのいずれか一項に記載のダンパ装置(6)。
【請求項9】
自動車用の油圧式トルクコンバータであって、
タービンランナ(4)と、
ドライブシャフト(1)により回転駆動されて前記タービンランナ(4)を流体動力学的に駆動可能なポンプインペラ(3)と、
請求項1からのいずれか一項に記載のダンパ装置(6)と、
接続位置で前記ダンパ装置(6)の入力要素(8)に前記ドライブシャフト(1)を連結可能な直結クラッチ(7)とを含む、自動車用の油圧式トルクコンバータ。
【請求項10】
前記タービンランナ(4)が、前記ダンパ装置(6)の入力要素(8)に回転結合されている、請求項に記載の油圧式トルクコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のトランスミッションのための振動ダンパ装置の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は、エンジンの気筒内で爆発が連続するために非周期性を示す。この非周期性の振動数は特にエンジンの気筒数と回転速度とに応じて変化する。熱機関の非周期性によって生じた振動を除去するために、弾性部材を備えたダンパ装置および/または振り子式ダンパを、自動車のトランスミッション機構内に組み込むことが知られている。このようなダンパがないと、振動がギヤボックスに伝えられて、動作時に特に望ましくない衝撃、ノイズまたは騒音をギヤボックスで発生させることになる。
【0003】
特許文献1は、ダンパ装置の入力要素と出力要素とを回転結合する複数のばねグループを含むダンパ装置を開示しており、各々のグループが、入力要素と出力要素との間に周方向に介在する2個の直線ばねを含んでいる。各グループの2個の直線ばねの間には、これらのばねを直列に配置するために、位相合わせ部材が周方向に介在する。このようなダンパ装置は、一般に「LTD」(ロングトラベルダンパ)という略号で示されている。
【0004】
こうしたばね付きダンパ装置の振動除去効率は、特に、入力要素と出力要素との相対的な回転に抗して作用する角度剛性に依存する。実際、角度剛性が低ければ低いほど振動除去性能は高い。しかし、角度剛性の選択に際しては、必然的に妥協を余儀なくされる。なぜなら、角度剛性は、ばねの巻きが互いに当接せずに最大のエンジントルクを伝達するのに十分なものでなければならないからである。
【0005】
さらに、上記の特許文献1のダンパ装置は、支持要素上に振動式に取り付けられた複数のおもりを含んで位相合わせ部材に回転結合される、振り子式ダンパも含んでいる。振り子式ダンパが位相合わせ部材に回転結合されるこのような構成は、振り子式ダンパの良好な性能を得ることを可能にする。というのも、一方では、質量の小さい要素に振り子式ダンパが回転結合式に取り付けられたとき、他方では、過度のねじれ励起レベルを課されて振り子式ダンパが限界状態に達するのを回避するために弾性部材を有する減衰段の出力部に振り子式ダンパが配置されたとき、振り子式ダンパの効率が一段と高くなることが確認されているからである。
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に記載されたようなダンパ装置は、完全に満足のいくものとはいえない。実際、このようなダンパ装置では、エンジントルクが大きいときに十分な除去性能を得られないことが観察されている。事実、大きいトルクを有するエンジンにこのようなダンパ装置を組み合わせる場合、剛性の大きいばねを装置に装備することが必要であるが、これによって、ばねの振動除去性能が損なわれ、振り子式ダンパは、当該ダンパが限界状態に達する可能性のあるねじれ励起レベルを課されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】仏国特許第2976641号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の基本的な意図は、振動を有効に除去可能なダンパ装置を提案することによって、従来技術の不都合を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの実施形態によれば、本発明は、自動車のトランスミッション機構においてドライブシャフトとギヤボックスの入力シャフトとの間に配置されるように構成された、振動ダンパ装置を提供するものであり、このダンパ装置は、
−ドライブシャフトに連結される入力要素と、ギヤボックスの入力シャフトに連結される出力要素とであって、X軸を中心として相対的に回転可能な入力要素および出力要素と、
−入力要素と出力要素とを回転結合するように構成された第1の弾性部材アセンブリであって、複数の弾性部材グループを含んでおり、各グループが、入力要素と出力要素との間に周方向に直列に介在する第1および第2の弾性部材を包含している、第1の弾性部材アセンブリと、
−入力要素と出力要素とに対して回転可能な、第1の弾性部材アセンブリの各グループの第1および第2の弾性部材の間に周方向に介在しこれらを直列に配置する、位相合わせ部材と、
−X軸を中心として回転可能で、位相合わせ部材と、支持部材に可動式に取り付けられた振り子式のおもりとに回転結合された、支持部材を含む振り子式のダンパと
を含んでおり、
このダンパ装置が、位相合わせ部材に対して入力要素の回転角度が閾値を超えたときにのみ第2の弾性部材アセンブリが作動するよう、入力要素と位相合わせ部材との間に周方向の隙間を伴って周方向に介在する第2の弾性部材アセンブリを含むという点で特に優れている。
【0010】
そのため、このようなダンパシステムによって特に優れた除去性能を得ることができる。なぜなら、入力要素と位相合わせ部材との間に周方向の隙間を伴って作用する第2の弾性部材アセンブリの存在によって、ダンパ装置が伝達可能なエンジントルクを増すことができ、最低トルクを発生し通常は最大の非周期性を示すエンジン回転数に対して、ダンパ装置の除去性能が低下することがないからである。
【0011】
したがって、このようなダンパシステムは、気筒休止エンジンに組み合わされる自動車のトランスミッションに対して特に適している。気筒休止エンジンは、いわゆる通常モードでは、そのすべての気筒を作動させて動作するが、経済モードでは、その気筒の一部だけを作動させて動作する。経済モードにおいて、このようなエンジンは、通常モードよりも小さいトルクを発生するが、その一方で、一段と大きい非周期性を生じる。
【0012】
したがって、上記のタイプのダンパシステムでは、最大の非周期性を生じる経済モードでエンジンが動作するとき、第1の弾性部材アセンブリだけが圧縮される。そのため、ダンパシステムの角度剛性は、このような動作モードでは小さくなり、その結果、除去性能が最適化され、振り子式ダンパは、従来技術によるダンパシステムの場合ほど付勢されない。したがって、振り子式ダンパが限界状態に達するリスクは、従来技術によるダンパシステムの場合よりも低く、そのため、おもりの慣性を一段と小さくすることができる。
【0013】
より一般的には、上記のダンパシステムは、最も非周期性の高いエンジン回転数と、最も大きなトルクを発生するエンジン回転数とがかけ離れているエンジンに対して、特に適している。
【0014】
別の有利な実施形態によれば、このようなダンパ装置は、次のような1つまたは複数の特徴を有することができる。
【0015】
−入力要素が、回転結合される2個のガイドリングを含み、これらのガイドリングが、第1の弾性部材アセンブリの各々の弾性部材グループの間に周方向に延びる支持座面を包含し、出力要素が、各ガイドリングの間に軸方向に延びて第1の弾性部材アセンブリの各々の弾性部材グループの間に周方向に延びる半径方向の支持脚部を含むカバーと、このカバーに回転結合されてギヤボックスの入力シャフトと協働するためのスプラインハブとを含む。
【0016】
−入力要素が、さらにフランジを含み、このフランジがその外縁部分に、ガイドリングの一方とともに第2の弾性部材アセンブリの弾性部材の収容チャンバを画定する環状溝を有し、前記フランジが、第2の弾性部材アセンブリの各々の弾性部材の間に周方向に延びる支持脚部を備えており、第2の弾性部材アセンブリの弾性部材が、環状溝に収容される湾曲ばねである。
【0017】
−位相合わせ部材が位相合わせリングであり、第1の弾性部材アセンブリの同一グループの第1の弾性部材と第2の弾性部材との間にそれぞれが配置された複数の位相合わせ脚部と、第2の弾性部材アセンブリの各々の弾性部材の間に介在する複数の支持脚部とを含んでいる。
【0018】
−第2の弾性部材アセンブリの各々の弾性部材の間に介在する支持脚部が、半径方向の位相合わせ脚部の半径方向の延長線上に形成されている。
【0019】
−第1の弾性部材アセンブリの弾性部材が、軸Xを中心とする同一直径上に配分された直線ばねである。
【0020】
−第2の弾性部材アセンブリの弾性部材が軸Xから半径方向に延びる距離は、第1の弾性部材アセンブリの弾性部材の同距離よりも長い。換言すれば、第2の弾性部材アセンブリの弾性部材は、第1の弾性部材アセンブリの弾性部材の半径方向外側に延びている。
【0021】
−振り子式のおもりが軸Xから半径方向に延びる距離は、第2の弾性部材アセンブリの弾性部材の同距離にほぼ等しい。
【0022】
−振り子式のおもりと第2の弾性部材アセンブリの弾性部材は、第1の弾性部材アセンブリの弾性部材の軸方向の両側に延びている。
【0023】
−入力要素から出力要素に向かってトルクが伝達されるときに入力要素と位相合わせ部材との間で作用する第1の弾性部材アセンブリの第1の弾性部材が、剛性K1を有し、入力要素から出力要素に向かってトルクが伝達されるときに位相合わせ部材と出力要素との間で作用する第1の弾性部材アセンブリの第2の弾性部材が、剛性K2を有し、比率K2/K1は2〜5であって好ましくは2〜3である。
【0024】
1つの実施形態によれば、本発明は、タービンランナと、ドライブシャフトにより回転駆動されてタービンランナを流体動力学的に駆動可能なポンプインペラと、上記のダンパ装置と、接続位置でダンパ装置の入力要素にドライブシャフトを連結可能な直結クラッチとを含む、自動車用の油圧式トルクコンバータも提供する。
【0025】
1つの実施形態によれば、タービンランナが、ダンパ装置の入力要素に回転結合されている。
【0026】
本発明は、添付図面を参照しながら、限定的ではなく例としてのみ挙げられた、本発明による複数の個別実施形態の以下の説明を読めば、いっそう理解され、本発明の他の目的、細部、特徴および長所がいっそう明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】ダンパ装置を装備されたトルクコンバータを示す概略図である。
図2】ダンパ装置の断面図である。
図3】ダンパ装置の断面図である。
図4】装置のガイドリングを省略した、図2図3のダンパ装置の部分前面図である。
図5】半径方向の面に沿った図2図3のダンパ装置の断面図である。
図6】ダンパ装置の動作を示す概略図である。
図7】ダンパ装置の動作を示す概略図である。
図8】ダンパ装置の入力要素と出力要素との間の角度変位βに応じてダンパ装置により伝達されるトルクを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な説明および請求項では、説明で与えられる定義にしたがってダンパ装置の要素を示すために、「外側」および「内側」という表現ならびに「軸方向」および「半径方向」という方向を使用する。便宜上、「半径方向」は、「軸方向」を決定するダンパ装置の回転軸Xに直交して、内側から外側に当該回転軸から離れる方向であり、「周方向」は、ダンパ装置の軸に直交し、かつ半径方向に直交する方向である。「外側」および「内側」という表現は、ダンパ装置の回転軸を基準として要素間の相対位置を定義するために使用され、そのため、軸に近い要素は、半径方向周縁部に位置する外側要素と対置して内側と呼ばれる。さらに「後方」ARおよび「前方」AVという表現は、要素間の相対位置を軸方向に定義するために使用され、熱機関の近くに配置するように構成された要素は、後方という語で示され、ギヤボックスの近くに配置するように構成された要素は、前方という語で示される。
【0029】
図1では、油圧式のトルクコンバータの一部を概略的に示した。このトルクコンバータは、クランクシャフト等の内燃機関の出力シャフト1からギヤボックスの入力シャフト2にトルクを伝達することができる。トルクコンバータは、一般に、ステータ5を介してタービンランナ4を流体動力学的に駆動可能なポンプインペラ3を含んでいる。ポンプインペラ3は、内燃機関の出力シャフト1に連結されている。タービンランナ4は、ダンパ装置6を介してギヤボックスの入力シャフト1に連結されている。
【0030】
さらに、トルクコンバータは、エンジンの出力シャフト1とダンパ装置6との間でトルクを伝達可能な「ロックアップクラッチ」とも呼ばれる直結クラッチ7を備えており、それによって、流体動力学的な伝達機構を介さずに、すなわちポンプインペラ3とタービンランナ4とを介在させずに、エンジンの出力シャフト1のトルクをギヤボックスの入力シャフト2に伝達することができる。
【0031】
ダンパ装置6は、直結クラッチが接続位置にあるときは直結クラッチ7から、直結クラッチ7が接続解除位置にあるときは流体動力学的な伝達機構からエンジントルクを受け取るための入力要素8と、ギヤボックスの入力シャフト2に回転結合されるように構成された出力要素9とを含んでいる。ダンパ装置6は、さらに、エンジントルクを伝達して入力要素8と出力要素9との間で振動を減衰可能な第1の弾性部材アセンブリを含んでいる。第1の弾性部材アセンブリは、位相合わせ部材12を介して直列に配置された第1および第2の弾性部材10、11を含む、複数の弾性部材グループを含んでいる。
【0032】
ダンパ装置は、支持部材に可動式に取り付けられた複数の振り子式のおもりを含んで位相合わせ部材12に回転結合された、振り子式ダンパ13も含んでいる。
【0033】
さらに、ダンパ装置は、入力要素8と位相合わせ部材12との間で周方向の隙間jを伴って介在する第2の弾性部材アセンブリを含んでいる。そのため、第2の弾性部材アセンブリの弾性部材14は、回転角度の閾値を越えると、位相合わせ部材12に対する入力要素8の回転に抗して作用するように設計されている。
【0034】
図2、3、4、5では、ダンパ装置6を詳しく示した。
【0035】
入力要素8は、互いに回転結合された前方ガイドリング8aと後方ガイドリング8bとを含んでいる。後方ガイドリング8bは、ディスクホルダハブとも呼ばれるスプラインハブ15に回転結合されている。後方ガイドリング8bは、図3に示されたリベット16を介してディスクホルダハブ15に固定されている。ディスクホルダハブ15は、直結クラッチ7が接続位置にあるとき、エンジントルクを受け取ることが可能な直結クラッチ7の出力要素を構成する。
【0036】
出力要素9は、カバー9aと、このカバー9aに回転結合されるスプラインハブ9bとを含んでいる。スプラインハブ9bは、リベットまたはスプライン結合機構(いずれも図示せず)を介してカバー9aに回転結合することができる。スプラインハブ9bは、ギヤボックスの入力シャフトの後方端部により支持される係合形状のスプラインと協働するように構成されている。前方ガイドリング8aと後方ガイドリング8bは、カバー9aの軸方向両側に配置され、双方の間に、第1の弾性部材アセンブリの弾性部材10、11の収容スペースを画定する。ガイドリング8a、8bは、それらの外縁部で回転結合される。ガイドリング8a、8bは、たとえば、ガイドリング8a、8bの外縁部に設けられた孔を通るリベット(図示せず)を介して互いに結合することができる。
【0037】
図示されている実施形態では、前方ガイドリング8aが、タービン5のハブ17に回転結合される。タービン5のハブ17は、ここでは、スプラインハブ9bの前方端部に形成されたガイド面18にセンタリングされ、このガイド面で回転ガイドされる。
【0038】
図4を参照すると、第1の弾性部材アセンブリが、3個の弾性部材グループを含み、各グループが2個の弾性部材10、11を包含していることが分かる。弾性部材10、11は、ここでは、直線のコイルばねであり、軸Xを中心として同一直径上に周方向に配分されている。1つの実施形態によれば、各々の弾性部材10、11は、一方が他方の内部に取り付けられる同軸の2個のばねを含んでいる。
【0039】
各々の弾性部材グループは、一方では、ガイドリング8a、8bの周方向に連続する2個の支持座面(図示せず)の間に延び、他方では、カバー9aの周方向に連続する2個の支持脚部19の間に延びている。
【0040】
前方ガイドリング8aは、図2図3に示した周方向に延びる開口部20を含んでおり、各開口部は、2個の弾性部材10、11からなる1つのグループを収容するように構成されている。開口部20の周方向の端部は、弾性部材10、11の端部を当接させるための支持座面を形成する半径方向の領域を含んでいる。さらに、開口部20は、内側および外側の湾曲リムを含んで、弾性部材10、11を半径方向および軸方向に保持することができる。後方のガイドリング8bは、型打ち加工された環状部分を含み、各部分が、2個の弾性部材10、11からなる1つのグループを収容し、環状部分の周方向端部は、弾性部材10、11の端部のための支持座面を形成している。
【0041】
図4に示したカバー9aの脚部19は、弾性部材10、11の端部を支持する役割を果たす、ほぼ平らな2個の支持面を含んでいる。カバー9aの脚部19は、さらに、脚部19の周方向両側に延びる固定つめ22を含み、弾性部材10、11の端部を半径方向に固定することができる。
【0042】
図4から分かるように、各グループの弾性部材10、11は、位相合わせ部材12を介して直列に取り付けられている。位相合わせ部材12は、ここでは、一方でガイドリング8a、8bに対して、また他方でカバー9に対して回転自在に取り付けられた位相合わせリングから形成されている。位相合わせ部材12は、同一グループの連続する2個の弾性部材10、22の間にそれぞれが挿入された、半径方向の位相合わせ脚部21を含み、その結果、同一グループの2個の弾性部材10、22は、位相合わせ部材12を介して直列に配置されるようになっている。半径方向の位相合わせ脚部21は、互いの間に角度を形成するほぼ平らな2個の支持面を含み、弾性部材10、11の端部を支持する役割を果たしている。
【0043】
位相合わせ部材12は、第1の弾性部材アセンブリで発生した弾性応力が周方向に均等に配分されるように、弾性部材10、11が互いに位相変形できるようにする。
【0044】
位相合わせ部材12は、スプラインハブ9bにセンタリングされ、このスプラインハブで回転ガイドされる。このために、図示された実施形態では、位相合わせ部材12が、図2図5に示したセンタリング支持リング23に固定されている。この支持リングは、軸方向後方に延びてスプラインハブ9bでガイドされる内側スカート24を含んでいる。有利には、半径方向の位相合わせ脚部21とカバー9aの支持脚部19が、同一面すなわち、弾性部材10、11の中央面に配置され、センタリングされながら弾性部材に当接している。
【0045】
動作時に、弾性部材10、11を介してガイドリング8a、8bからカバー9aにエンジントルクが伝達されると、各々のグループが含む第1の弾性部材10は、第1の端部でガイドリング8a、8bにより支持される支持座面に当接し、第2の端部で位相合わせ部材12の半径方向の位相合わせ脚部21に当接し、グループの第2の弾性部材11は、第1の端部で位相合わせ部材12の半径方向の前記位相合わせ脚部21に当接し、第2の端部でカバー9aの支持脚部19に当接する。
【0046】
1つの実施形態によれば、弾性部材10、11が最大限に圧縮されてそのために損傷しないようにするために、ダンパ装置6は、ガイドリング8a、8bとカバー9aとの間の角度変位を制限し、それによってばねの圧縮を制限するように設計された、ストッパ手段を含んでいる。
【0047】
さらに、図4では、第1の弾性部材10の長さと巻き数が第2の弾性部材11を上回っていることが分かる。したがって、第1の弾性部材10の剛性K1は、第2の弾性部材12の剛性K2よりも小さい。1つの実施形態によれば、比率K2/K1は、2〜5であり、好ましくは2〜3である。このような比率によって、エンジン回転数が低い場合に位相合わせ部材が励起されないようにするために、位相合わせ部材12の固有振動数を十分に高くすることができる。他方で、剛性K1を比較的小さくすることによって、ダンパ装置6の振動除去を改善することも同様に可能である。なぜなら、剛性K1は、振動源の最も近くにあるので、これらの振動を一段と有効に除去することができるからである。
【0048】
さらに、入力要素8は、ガイドリング8a、8bに回転結合された環状フランジ8cも含んでいる。環状フランジ8cは、ここでは、ディスクホルダハブ15を後方ガイドリング8bにも固定するリベット16を介して、後方ガイドリング8bに固定されている。環状フランジ8cは、その外縁部分に環状溝25を含んでいる。環状溝25は、後方ガイドリング8bとともに、第2の弾性部材アセンブリの弾性部材14を収容するチャンバを画定する。第2の弾性部材アセンブリの弾性部材14は、第1の弾性部材アセンブリの弾性部材10、11の半径方向外側に延びていることが分かる。
【0049】
第2の弾性部材アセンブリの弾性部材14は、軸Xを中心として周方向に配分された湾曲形状のコイルばねである。各々の弾性部材14は、一方が他方の内部に取り付けられた同軸の2個のばねを含むことができる。第2の弾性部材アセンブリの弾性部材14は、第1の弾性部材アセンブリの第1の弾性部材10の剛性K1を上回る剛性K3を有している。
【0050】
第2の弾性部材アセンブリの弾性部材14は、環状フランジ8cと位相合わせ部材12との間に周方向の隙間を伴って周方向に介在している。各々の弾性部材14は、環状フランジ8cに設けられた周方向に連続する2個の支持座面26の間と、位相合わせリング12の周方向に連続する2個の支持脚部27の間に延びている。そのため、各々の弾性部材14は、フランジ8cの支持座面26に当接するための一端と、位相合わせリング12の支持脚部27に当接するための一端とを含んでいる。支持脚部27は、ここでは、半径方向の位相合わせ脚部21の延長線上に半径方向に形成されている。さらに、図2図5に示したように、位相合わせリングの支持脚部27は、後方に折り曲げられて、後方ガイドリング8bに設けられた孔部を通過する。
【0051】
弾性部材14は、それらの端部の間に周方向の隙間を伴って取り付けられ、環状フランジ8cと位相合わせ部材12とに端部を当接されている。有利な実施形態によれば、周方向の隙間は5゜〜15゜程度である。
【0052】
図6から図8に関しては、ダンパ装置の動作原理を示した。図6では、入力要素8と位相合わせ部材12との間に弾性部材14を取り付ける周方向の隙間をjで示した。入力要素8から出力要素9に向かってトルクが伝達されると、入力要素8が出力要素9に対して旋回し、入力要素8は、位相合わせ部材12に対して角度αだけ旋回する。
【0053】
この角度αが周方向の隙間よりも小さい限り、第1の弾性部材10だけが位相合わせ部材12に対する入力要素10の回転に抗して作用する(図6)。隙間jの全体が吸収されると、第2の弾性アセンブリの弾性部材14が、第1の弾性部材アセンブリの第1の弾性部材10と並行して作用する(図7)。
【0054】
そのため、図8のグラフでは、角度変位βに応じてダンパ装置6を介して伝達されるトルクMが、第1の線形勾配部分Kaと、それよりも急な第2の線形勾配部分Kbとを含んでいることが確認される。実際、入力要素8と出力要素9との間の変位が小さいままである限り、角度αは、周方向の隙間よりも小さいままであり、ダンパ装置6の剛性は、勾配Kaに等しい。入力要素8と出力要素9との間の変位が大きく、角度αが周方向の隙間j以上であるとき、第2の弾性部材アセンブリの弾性部材14が作用し、ダンパ装置の剛性が勾配Kbに等しくなる。したがって、勾配KaとKbは、それぞれ角度ストロークの開始時(α<α1)と終了時(α≧α1)のダンパ装置の角度剛性である。
【0055】
さらに、図2、3、5を参照すると、ダンパ装置が振り子式のおもりを備えていることが分かる。振り子式ダンパは、支持部材28を含んでいる。支持部材28は、前方ガイドリング8aに対して軸方向前方にオフセットされている。換言すれば、ダンパ装置が油圧式トルクコンバータに組み込まれる場合、支持部材28は、前方ガイドリング8aとタービンランナとの間に配置されるように構成される。そのため、振り子式のおもり29を、軸Xから比較的長い半径方向の距離のところに設置可能であり、その効果として、最適な除去性能を振り子式ダンパに与えることができる。
【0056】
支持部材28は、前方ガイドリング8aに設けられた開口部20を通る結合部材30を介して位相合わせ部材12に固定される。図示された実施形態では、結合部材30が、一方では、位相合わせ脚部21の位置で位相合わせ部材12に固定され、他方では、支持部材28の半径方向内側の脚部に固定されている。
【0057】
おもり29は、不規則な回転に反応して回転軸Xに直交する面で支持部材28に対して振動することができる。各おもり29は、支持部材28の軸方向両側に延びる2個の側面を含んでいる。これらの側面は、2個の結合スペーサ(図示せず)を介して互いに軸方向に結合されている。結合スペーサは、支持部材28に組み合わされる孔部を軸方向に貫通する。さらに、おもり29の振動は、各おもり29に対して2個の転動要素を含むガイド手段によりガイドされ、各々の転動要素が、支持部材28により支持される第1の転がり軌道と、おもり29により支持される第2の転がり軌道と協働する。転動要素は、たとえば、円形断面の円筒ローラから形成される。第1および第2の転がり軌道は、全体として外サイクロイド形または円形であり、おもりの振動数が駆動軸の回転速度に比例するように構成されている。
【0058】
動詞「含む」、「包含する」または「備える」とその活用形の使用は、請求項に記載されている以外の要素またはステップの存在を除外するものではない。
【0059】
請求項において、カッコ内のすべての参照符号によって請求項が限定されるものとみなすことはできない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8