【実施例1】
【0014】
図1は本発明の建設機械の第1の実施の形態である油圧ショベルを示す側面図、
図2は本発明の建設機械の第1の実施の形態を構成するセンサユニットを示す斜視図、
図3は本発明の建設機械の第1の実施の形態である油圧ショベルの油圧回路の一部を示す概念図である。
【0015】
図1に示す油圧ショベル1は、車体を下部走行体12と、下部走行体12上に旋回可能に搭載された上部旋回体11とで構成し、上部旋回体11の前部側に上下方向に回転可能な作業機構20が設けられている。作業機構20は、上部旋回体11の前部側に俯仰動可能に取付けられたブーム13と、該ブーム13の先端側に俯仰動可能に取付けられたアーム14と、該アーム14の先端側に回動可能に取付けられたバケットリンク16と、アーム14及びバケットリンク16の先端側に回動可能に取付けられたバケット15と、ブーム13を駆動するブームシリンダ17と、アーム14を駆動するアームシリンダ18と、バケット15をバケットリンク16を介して駆動するバケットシリンダ19とを備えている。
【0016】
作業機構20の基端部に配置されるブーム13の基端側は、上部旋回体11に上下方向に回動可能に支持されていて、ブームシリンダ17の伸縮によってブーム13が上部旋回体11に対して相対的に回転駆動される。ブーム13の先端側にはアーム14の一端側が回転可能に支持されていて、アームシリンダ18の伸縮によってアーム14がブーム13に対して相対的に回転駆動される。アーム14の先端側にはバケットリンク16とバケット15とが回動可能に支持されていて、バケットシリンダ19の伸縮に応じてバケットリンク16がアーム14に対して相対的に回転駆動され、それに連動してバケット15がアーム14に対して相対的に回転駆動される。
【0017】
また、油圧ショベル1の上部旋回体11には、上部旋回体11の前後方向の傾斜角を検出する傾斜センサ34が配置されている。作業機構20のブーム13には、ブーム13に作用する加速度と角速度を検出するブームセンサユニット2aが、アーム14には、アーム14に作用する加速度と角速度を検出するアームセンサユニット2bがそれぞれ設けられている。同様に、バケットリンク16には、バケットリンク16に作用する加速度と角速度を検出するバケットセンサユニット2cが設けられている。ブームセンサユニット2aとアームセンサユニット2bとバケットセンサユニット2cは、同一のセンサユニット2であり、詳細は後述するが、加速度センサと角速度センサ等を備えている。
【0018】
更に、油圧ショベル1には、作業機構20を構成する各部材(ブーム13、アーム14、バケット15)の位置姿勢を演算する演算装置31が設けられている。演算装置31は、ブームセンサユニット2a、アームセンサユニット2b、バケットセンサユニット2c及び傾斜センサ34からの各種検出信号を入力し、各部材の位置姿勢を演算する。演算された各部材の信号、例えば、バケット15の位置姿勢信号は、運転席のモニタ装置(図示せず)の表示や、作業機構20の動作を制御するためのフィードバック情報に用いられる。
【0019】
次に、センサユニット2について説明する。
図2に示すように、センサユニット2は、2つの加速度センサ21、22と、角速度センサ23と、変換器24と、各センサ21、22、23と変換器24とが配置され、これらを電気的に接続する回路基板25と、これらを内部に包含するハウジング27とを備えている。
【0020】
ハウジング27には、各センサ21、22、23が検出した信号(各センサ信号)を外部へ出力するため、及び、電源を外部から受けるためのコネクタ(図示せず)が接続されるコネクタ接続部26が設けられている。
【0021】
変換器24は、各センサ信号を受信し、送信しやすい情報へ変換して(例えば、アナログセンサ信号をデジタル信号に変換して)出力するものである。このようなアナログ/デジタル変換は、伝送中のノイズを低減し、複数のセンサ信号を1つの信号にまとめることでセンサユニット2からの信号を受ける演算装置31の入出力部の占有を防止する。しかし、アナログ/デジタル変換は、必須のものではなく、変換器24を介さずに各センサ信号を直接出力する様に構成してもよい。
【0022】
ここで、説明の便宜上、センサユニット2に、
図2に示すような直交する3軸(X軸、Y軸、Z軸)の座標系を設定する。加速度センサ21は、X軸方向の加速度を検出し、加速度センサ22は、Z軸方向の加速度を検出するように配置されている。角速度センサ23はY軸回りの角速度を検出するよう配置されている。
【0023】
本実施の形態では、1つのセンサが1方向の加速度あるいは角速度を検出する例を示しているが、1つのセンサで複数方向の加速度を検出するものや、1つのセンサで加速度と角速度を両方検出するものなどを用いてもよい。また、本実施の形態においては、最小限のセンサ構成を示しているが、3軸方向の加速度や、3軸回りの角速度など、加速度や角速度を検出する軸を増やしても良い。この場合、より精度良く作業機構20を構成する部材の位置姿勢を計測することができる。
【0024】
センサユニット2は、作業機構20の各部材(ブーム13、アーム14、バケットリンク16)にそれぞれ設置されるが、
図2に示すY軸が各部材の回転軸と略平行となる方向で設置されている。このように設置することにより、加速度センサ21、22で重力加速度との成す角を検出でき、角速度センサ23でブーム13、アーム14、バケットリンク16のそれぞれ、あるいは複合された回転運動における角速度を検出できる。
【0025】
次に、本実施の形態における油圧ショベル1の油圧回路の一部について説明する。
図3に示す油圧回路は、ブームシリンダ17を駆動するための必要最小限の構成を示している。以下、ブームシリンダ17を駆動する場合を例に操作装置を操作して油圧アクチュエータを駆動する際の油圧回路の構成、機能を説明するが、本内容はアームシリンダ18、バケットシリンダ19、旋回油圧モータを駆動する場合であっても同様である。
【0026】
図3において、本実施の形態の油圧回路は、エンジン41によって駆動される油圧ポンプ44及びパイロット油圧ポンプ42と、油圧ポンプ44から圧油が供給され、作業機構20のブーム13を駆動するブームシリンダ17と、油圧ポンプ44からブームシリンダ17に供給される圧油の流れ(流量と方向)を制御するスプールバルブ45と、ブーム13の動作指令を出力しスプールバルブ45を切り換えるブーム操作装置43と、ブーム操作装置43によって生成されるパイロット圧を検出する圧力センサ32a,33aとを備えている。圧力センサ32a,33aが検出したブーム操作装置43のパイロット圧は、作業機構20の位置姿勢を演算する演算装置31に入力されている。
【0027】
油圧ポンプ44はエンジン41によって駆動され、吐出した圧油を、スプールバルブ45と油路を介してブームシリンダ17へ供給する。スプールバルブ45は、左右何れかのパイロット受圧部に供給されたパイロット圧に応じて、中立位置から左右いずれかの方向にスプール部を移動させる。このことにより、油圧ポンプ44から吐出された圧油がスプールバルブ45の左右位置に形成されたメータイン油路を介してブームシリンダ17に供給される。一方、ブームシリンダ17から排出される戻り油は、スプールバルブ45の左右位置に形成されたメータアウト油路を介してタンクに排出される。
【0028】
スプールバルブの左右端部に設けられたパイロット受圧部は、パイロット油路を介してブーム操作装置43の出力ポートに接続されている。ブーム操作装置43の入力ポートは、パイロット油路を介してパイロット油圧ポンプ42に接続されている。ブーム操作装置43は、パイロット油圧ポンプ42の吐出圧を元圧として、ブーム操作装置43の操作量に応じたパイロット圧を生成し、出力ポートより出力する。スプールバルブ45は、左右パイロット受圧部に導かれたパイロット圧に応じて、中立位置から左右のいずれかの方向にスプール部を移動させる。同様に、オペレータが各操作装置を操作することにより各油圧アクチュエータを駆動できる。
【0029】
ブーム操作装置43とスプールバルブ45の左右パイロット受圧部との間の2つのパイロット油路には、それぞれ圧力センサ32a、33aが設けられている。圧力センサ32a,33aが検出したブーム操作装置43のパイロット圧は、演算装置31に入力されている。図示しないが、本実施の形態においては、各操作装置のパイロット圧を検出するために、アームパイロット圧を検出する圧力センサ32b,33bと、バケットパイロット圧を検出する圧力センサ32c,33cと、旋回パイロット圧を検出する圧力センサ32d,33dとを備えている。演算装置31は、各操作装置のパイロット圧信号を入力することで、各油圧アクチュエータの操作量信号を受け取ることができる。
【0030】
なお、本実施の形態では操作量信号にパイロット圧を用いる構成について示しているが、操作量信号はパイロット圧に限るものではなく、操作装置にポテンショメータなどの操作量信号を電気信号に変換する検出器を設け、直接電気信号として演算装置31へ送信してもよいし、電気レバー式の建設機械であれば電気レバーの出力信号をそのまま利用してもよい。これらの構成の場合、パイロット圧を用いる方法に比べて構成が簡便になる可能性もある。
【0031】
次に、本実施の形態における油圧ショベル1の作業機構検出装置について図を用いて説明する。
図4は本発明の建設機械の第1の実施の形態を構成する作業機構検出装置の構成を示すブロック図、
図5は本発明の建設機械の第1の実施の形態を構成する作業機構検出装置のセンサユニットの設置方向を示す概念図、
図6は本発明の建設機械の第1の実施の形態を構成する作業機構検出装置のセンサユニットにおける座標系と重力加速度の関係を示す概念図である。
図4乃至
図6において、
図1乃至
図3に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0032】
図4に示すように、本実施の形態における作業機構検出装置は、ブームセンサユニット2aと、アームセンサユニット2bと、バケットセンサユニット2cと、傾斜センサ34と、圧力センサ32a〜d,33a〜dと、これらセンサ等からの信号を入力し、作業機構20の位置姿勢を演算する演算装置31とを備えている。
【0033】
ブームセンサユニット2aにおいて、加速度センサ21により測定される加速度センサ信号をa
x1、加速度センサ22により測定される加速度センサ信号をa
z1、角速度センサ34により測定される角速度センサ信号をω
y1と定義する。同様に、アームセンサユニット2bにより測定されるセンサ信号は、a
x2、a
z2、ω
y2、バケットセンサユニット2cにより測定されるセンサ信号は、a
x3、a
z3、ω
y3と定義する。傾斜センサ34によって測定される傾斜角をθ
0と定義する。また、圧力センサ32a、33aによって測定されるブームパイロット圧信号をP
a1、P
b1と定義し、圧力センサ32b、33bによって測定されるアームパイロット圧信号をP
a2、P
b2と定義する。同様に、圧力センサ32c、33cによって測定されるバケットパイロット圧信号をP
a3、P
b3と定義し、圧力センサ32d、33dによって測定される旋回パイロット圧信号をP
a4、P
b4と定義する。
【0034】
図5は、
図1に示す油圧ショベル1の一部であって、ブームセンサユニット2aの設置方向の詳細を示している。本実施の形態においては、ブーム13の基端部と上部旋回体11との回転対偶部131(回転中心)と、ブーム13の先端部とアーム14との回転対偶部132(回転中心)を結んだ直線133に対して、ブームセンサユニット2aのX軸が略平行となるようにブーム13の側面に設置されている。これは、センサユニット2aでの検出姿勢(水平方向に対する傾斜角度、以下対地角度という)とブーム13の実際の姿勢とを容易に対応付けるため設置の仕方である。ここで、対地角度とは、各部材と水平面とがなす角度であり、例えば、各部材の両端の回動中心を結ぶ線と水平面とがなす角度として定義される。
図5において、θ1は、ブーム13の対地角度を示す。上述の通りセンサユニット2aのY軸とブーム13の上部旋回体11に対する回転軸とは略平行となるように設置されている。なお、必ずしも直線133とセンサユニット2aのX軸とを平行にしなければならないわけではない。センサユニット2aを任意の角度に取り付けた場合は、直線133とセンサユニット2aのX軸との成す角を事前に測定しておき、その角度分センサユニット2aで検出された検出姿勢に加算あるいは減算しても良い。
【0035】
本実施の形態では、図示しないがアームセンサユニット2b、バケットセンサユニット2cに関してもブームセンサユニット2aと同様に設置されている。具体的には、アーム14の両端に設けられた2つの回転対偶部を結んだ直線とアームセンサユニット2bのX軸が略並行となるようにアーム14の側面に設置されている。バケット15の回転対偶部とバケットの爪先とを結んだ直線とバケットセンサユニット2cのX軸が略並行となるようにバケットリンク16の側面に設置されている。
【0036】
このように各センサユニット2a、2b,2cが、各部材に設置されることにより、作業機構20を構成する各部材の対地角度が検出できる。
【0037】
次に
図6を用いて、2つの加速度センサから得られる加速度によりセンサユニット2の水平方向に対する傾斜角度(以下、姿勢角)を算出する方法を説明する。
図6において、XとZは、センサユニット2のX軸とZ軸とを示し、gは重力加速度を示している。
【0038】
加速度センサ21、22はセンサユニット2が設置された部材が静止している場合、重力加速度gに起因する加速度を検出する。センサユニット2が
図6に示すように水平方向に対して実際にθ
Sだけ傾斜していた場合、加速度センサ21には加速度a
xが、加速度センサ22には加速度a
zが作用する。このときのそれぞれの加速度と重力加速度と傾斜角との関係は次式の通りである。
a
x=gsinθ
S・・・・・式(1)
a
z=gcosθ
S・・・・・式(2)
加速度a
x、a
zから求まるセンサユニット2の姿勢角(対地角度)をθ
aとすると、姿勢角(対地角度)θ
aは次式により求まる。
θ
a=tan
−1(a
x/a
z)・・・・・式(3)
【0039】
センサユニット2が設置された部材(例えば、ブーム13)が静止している場合、加速度センサ21、22には重力加速度gのみ作用するため、θ
aとθ
Sとは略一致する(加速度センサのノイズに起因する誤差等の分だけ僅かにずれる)。しかしながら、例えば、ブーム13が動作して、センサユニット2が円弧運動した場合、円弧運動の速度と円弧の半径に応じた遠心力が加速度センサ21に作用し、円弧運動の加速度に応じた角加速度の接線方向成分が加速度センサ22に作用する。このため、加速度センサが検出した加速度から得られるセンサユニット2の姿勢角(対地角度)θ
aは、センサユニット2が何らかの運動をしている場合は、運動の大きさによって実際のセンサユニット2の傾斜角(対地角度)θ
Sと大きく異なる可能性が生じる。
【0040】
このような問題を解決するために、実行される本実施の形態の演算装置31の処理内容について図を用いて説明する。
図7は本発明の建設機械の第1の実施の形態を構成する作業機構検出装置の演算装置における処理内容の一例を示すブロック図、
図8は本発明の建設機械の第1の実施の形態を構成する作業機構検出装置の演算装置における寄与度パラメータの設定方法の一例を示すブロック図である。
【0041】
図7に示す演算ブロック310は、演算装置31を構成するブロックの一部であって、センサユニット2により測定されたX軸方向及びZ軸方向の加速度とY軸回りの角速度を基に、センサユニット2が設置された部材の姿勢角(対地角度)θ
Sを算出する。演算ブロック310は加速度a
x、a
z、角速度ω
y、パラメータαの各種信号を入力し、姿勢角(対地角度)θ
Sを算出して出力するものであり、内部に演算ブロック311〜315等を備えている。以下、演算ブロック310の演算処理内容について説明する。
【0042】
演算ブロック311は、上述したように、加速度センサ21によって測定された加速度a
xと加速度センサ22によって測定された加速度a
zを入力し、式(3)を用いて姿勢角θ
aを求め、演算ブロック313へ出力する。演算ブロック312は、角速度センサ23によって測定された角速度ω
yを入力し、角速度センサ23のサンプリング周期Tを乗算した値を第1加算器へ出力する。第1加算器は、角速度ω
yとサンプリング周期Tを乗算した値と演算ブロック315の出力とを加算して角速度センサから求まるセンサユニット2の姿勢角θ
ωを演算し、演算部ロック314へ出力する。
【0043】
演算ブロック313、314は、それぞれ入力に対して1−α、αを乗算した値を演算し、第2加算器へ出力する。第2加算器は、演算ブロック313の出力と、演算ブロック314の出力を加算して、姿勢角(対地角度)θ
Sを出力する。演算ブロック315は、第2加算器で出力した姿勢角(対地角度)θ
S信号を入力し、1サンプリング周期遅延させて、第1加算器へ出力する。
【0044】
角速度センサから求まるセンサユニット2の姿勢角をθ
ωは、角速度ω
yにサンプリング周期Tを乗じたものと、1サンプリング前に求まったセンサユニット2の姿勢角θ
Sを足した値となる。これは、1サンプリング前の姿勢角に、1サンプリング前から現在までの角度の変化量を加えたものである。
【0045】
このようにして求まるθ
aとθ
ωに対して、演算ブロック313、314によってそれぞれ1−α、αを乗じた値を、第2加算器で加算したものを、センサユニット2の姿勢角(対地角度)θ
Sとして算出している。
【0046】
ここで、αは加速度センサと角速度センサの寄与度を決定するパラメータである。αは0以上1以下の値を設定するものであり、α=0であれば加速度センサの寄与度が100%、角速度センサの寄与度が0%であり、α=0.5であれば加速度センサと角速度センサの寄与度がそれぞれ50%ずつ、α=1であれば角速度センサの寄与度が100%、加速度センサの寄与度が0%となる。このように、本実施の形態においては、寄与度パラメータαの値を変更することで加速度センサと角速度センサの寄与度を任意に設定することができる。
【0047】
上述した演算ブロック310の処理内容は、以下の式で表すことができる。
θ
S=(1−α)×tan
−1(a
x/a
z)+α×(ω
y×T+θ
Sd)・・・・式(4)
ここで、αは寄与度信号、ax、azは2つの軸方向の加速度信号、ω
yは角速度信号、Tは計算処理周期、θ
Sdは前回計算時のセンサユニット2の姿勢角(対地角度)信号である。
【0048】
図8は演算装置31内で処理される寄与度パラメータαの設定の方法を示したものである。圧力センサ32a〜dにより測定されるパイロット圧力P
a1〜
a4と圧力センサ33a〜dにより測定されるパイロット圧力P
b1〜
b4は、それぞれ演算ブロック316
a1〜
a4,316
b1〜
b4に入力される。これらの演算ブロック316はパイロット圧力信号を寄与度パラメータへ変換するブロックであり、例えば次式のような処理を行う。
f(p)=P×(α
max−α
min)/(P
max−P
min)+(P
maxα
min―P
minα
max)/(P
max−P
min)・・・・・式(5)
ここで、Pは変換したいパイロット圧であり、P
max、P
minはブーム操作装置43によって生成されるパイロット圧の上限値と下限値、α
maxは角速度センサの寄与度の最大値、α
minは加速度センサの寄与度の最大値である。
【0049】
この式は、パイロット圧がP
minのときに寄与度パラメータをα
minにし、パイロット圧がP
maxのときに寄与度パラメータをα
maxにする計算を示している。ただし、パイロット圧から寄与度パラメータへ変換する方法は式(5)に限ったものではなく、加速度センサや角速度センサの特性によって様々なものがあってよい。
【0050】
図8に示すブームパイロット圧信号P
a1、P
b1は、演算ブロック316a1と316b1とによって、寄与度パラメータに変換された後、演算ブロック317aに入力する。演算ブロック317aは、入力された複数の信号から最大の大きさのものを選択してβ1として出力する。同様に、アームパイロット圧信号P
a2、P
b2を基に演算ブロック316a2と316b2とを介して寄与度パラメータβ2を演算ブロック317bが出力し、バケットパイロット圧信号P
a3、P
b3を基に演算ブロック316a3と316b3とを介して寄与度パラメータβ3を演算ブロック317cが出力し、旋回パイロット圧信号P
a4、P
b4を基に演算ブロック316a4と316b4とを介して寄与度パラメータβ4を演算ブロック317dが出力する。
【0051】
センサユニット2の各センサ信号からセンサユニット2の姿勢角(対地角度)を演算する演算ブロック310は、センサユニット2の数だけ演算装置31の中で処理される。本実施の形態においては、ブームセンサユニット2a用の演算ブロック310aと、アームセンサユニット2b用の演算ブロック310bと、バケットセンサユニット2c用の演算ブロック310cとを備えている。各センサユニット2a、2b、2cのそれぞれの姿勢角(対地角度)をθ
S1、θ
S2、θ
S3とし、姿勢角(対地角度)θ
S1を演算する演算ブロック310aに入力される寄与度パラメータをα1、姿勢角(対地角度)θ
S2を演算する演算ブロック310bに入力される寄与度パラメータをα2、姿勢角(対地角度)θ
S3を演算する演算ブロック310cに入力される寄与度パラメータをα3とすると、α1、α2、α3は、演算ブロック317e,317f,317gにより、次のように計算される。
・寄与度パラメータα1は、演算ブロック317eにて、β1とβ4の中で最大の値が選択される。
・寄与度パラメータα2は、演算ブロック317fにて、β1、β2、β4の中で最大が選択される。
・寄与度パラメータα3は、演算ブロック317gにて、β1、β2、β3、β4の中で最大の値が選択される。
【0052】
これらの処理は次の考えに基づく。すなわち、ブーム13が動作しているとき(ブームパイロット圧が大きいとき=寄与度パラメータβ1が大きいとき)は、ブーム13よりも車体から遠ざかる側に連結されている部材であるアーム14、バケット15(バケットリンク16)の全てが、ブームと同様に動作するため、センサユニット2a、2b、2cの全ての寄与度パラメータを変更する。具体的には、寄与度パラメータβ1が3つの演算ブロック317e,317f,317gに入力されている。
【0053】
また、アーム14が動作しているとき(アームパイロット圧が大きいとき=寄与度パラメータβ2が大きいとき)は、アーム14よりも車体から遠ざかる側に連結されている部材であるバケット15(バケットリンク16)が、アームと同様に動作するため、センサユニット2b、2cの寄与度パラメータを変更する。具体的には、寄与度パラメータβ2が2つの演算ブロック317f,317gに入力されている。
【0054】
また、バケット15が動作しているとき(バケットパイロット圧が大きいとき=寄与度パラメータβ3が大きいとき)はセンサユニット2cの寄与度パラメータを変更する。旋回動作中(旋回パイロット圧が大きいとき=寄与度パラメータβ4が大きいとき)は、センサユニット2a、2b、2cの全てに同様に遠心力や角加速度に起因する加速度が作用するため、センサユニット2a、2b、2cの全ての寄与度パラメータを変更する。
【0055】
このようにして計算された寄与度パラメータを用いて、各演算ブロック310a〜cにより各センサ信号から各センサユニット2の姿勢角(対地角度)が演算される。これらの姿勢角(対地角度)と傾斜センサ34により測定される上部旋回体11の傾斜角θ
0を用いて、作業機構20の各部材の対地角度が演算される。これらの演算結果を用いて、上部旋回体11に対するバケット15の位置姿勢(バケット先端の位置と角度)も、演算装置31により演算できる。
【0056】
上部旋回体11が水平方向に対してθ
0傾斜しているとすると、演算装置31によって計算された各センサユニット2の姿勢角(対地角度)θ
S1、θ
S2、θ
S3はその影響が含まれるため、上部旋回体11を基準とするブーム姿勢角(対地角度)θ1、アーム姿勢角(対地角度)θ2、バケットリンク姿勢角(対地角度)θ3はそれぞれのセンサユニット姿勢角から上部旋回体11の傾斜角を減算した値となり、次式が演算装置31により計算される。
θ
1=θ
S1−θ
0・・・・・式(6)
θ
2=θ
S2−θ
0・・・・・式(7)
θ
3=θ
S3−θ
0・・・・・式(8)
このようにして計算されたブーム姿勢角(対地角度)θ
1、アーム姿勢角(対地角度)θ
2、バケットリンク姿勢角(対地角度)θ
3と、ブーム13、アーム14、バケット15、バケットリンク16などの幾何形状情報を基に、演算装置31によって上部旋回体11に対するバケット15の位置姿勢が演算できる。
【0057】
これらのように構成された第1の実施の形態である油圧ショベル1の作業機構検出装置は、次のような特徴を持つ。
作業機構20が静止しているときや動作速度が遅いときは、加速度センサの寄与度が大きくなり、角速度センサの寄与度が小さくなる。つまり、角速度センサのドリフトの影響を小さくでき、且つ動的加速度によるノイズが小さい状態の加速度センサによって精度良く作業機構20の位置姿勢を計測できる。作業機構20が速い動作速度で動作しているときは、加速度センサの寄与度が小さくなり、角速度センサの寄与度が大きくなる。つまり、動的加速度の影響で誤差の大きい加速度センサの影響を小さくでき、且つ短期間であればドリフトの誤差蓄積による精度悪化の心配が少ない角速度センサによって精度良く作業機構20の位置姿勢を計測できる。このように、作業機構20が静止しているときも動作中も高精度で作業機構の位置姿勢を計測可能となる。
【0058】
次に、本発明の建設機械の第1の実施の形態の動作について
図9を用いて説明する、
図9は本発明の建設機械の第1の実施の形態における操作装置の操作量(パイロット圧)と寄与度パラメータ信号と作業機構の姿勢角の時系列の動きを示す特性図である。
図9において、横軸は時間を示していて、縦軸は(A)が操作装置の操作量信号(パイロット圧)を、(B)がブームセンサユニット2a用の寄与度パラメータα1信号を、(C)がアームセンサユニット2b用の寄与度パラメータα2信号を、(D)がバケットセンサユニット2c用の寄与度パラメータα3信号を、(E)が作業機構の姿勢角(対地角度)を、(F)が寄与度を固定した場合の作業機構の姿勢角(対地角度)をそれぞれ示している。また、(E)のθ
S1、θ
S2、θ
S3は、ブームセンサユニット2a、アームセンサユニット2b、バケットセンサユニット2cのそれぞれが出力する姿勢角(対地角度)を示している。同様に(F)の実線表示のθ
S1’、θ
S2’、θ
S3’は、寄与度固定の場合におけるブームセンサユニット2a、アームセンサユニット2b、バケットセンサユニット2cのそれぞれが出力する姿勢角(対地角度)を示している。また、(F)の点線表示のθ
S1’、θ
S2’、θ
S3’は、(E)で示すθ
S1、θ
S2、θ
S3の特性を比較のために示している。
【0059】
また、時刻t
1から時刻t
2の間は、(A)に示すようにブーム操作装置の操作量信号であるパイロット圧P
a1が0から一端上限まで上昇してその後0に戻っている。具体的にはブーム上げ操作がなされた状態を示している。同様に、時刻t
3から時刻t
4の間は、(A)に示すようにアーム操作装置の操作量信号であるパイロット圧P
b2が0から一端上限まで上昇してその後0に戻っている。具体的にはアームクラウド操作がなされた状態を示している。また、時刻t
5から時刻t
6の間は、(A)に示すようにバケット操作装置の操作量信号であるパイロット圧P
b3が0から一端上限まで上昇してその後0に戻っている。具体的にはバケットクラウド操作がなされた状態を示している。更に、時刻t
7から時刻t
8の間は、(A)に示すように旋回操作装置の操作量信号であるパイロット圧P
a4が0から一端上限まで上昇してその後0に戻っている。具体的には旋回右操作がなされた状態を示している。
【0060】
(B)に示すブームセンサユニット2a用の寄与度パラメータα1信号は、ブームパイロット圧P
a1と旋回パイロット圧P
a4の大きさに応じて変化する。ブームセンサユニット2bの寄与度パラメータα2信号は、ブームパイロット圧P
a1とアームパイロット圧P
b2と旋回パイロット圧P
a4の大きさに応じて変化する。また、バケットセンサユニット2c用の寄与度パラメータα3信号は、ブームパイロット圧P
a1とアームパイロット圧P
b2とバケットパイロット圧P
b3と旋回パイロット圧P
a4の大きさに応じて変化する。
【0061】
このように、オペレータが作業機構20の各部材の操作装置を操作したときに、各パイロット圧が上昇し、それぞれの寄与度パラメータが大きくなる。寄与度パラメータが大きくなると、姿勢角(対地角度)を演算する際に、加速度信号の値よりも角速度信号の値に大きく左右されるようになる。つまり、各部材が動作中には、動的な加速度がノイズ成分として作用するが、このときは、加速度の値が姿勢角(対地角度)の演算に殆ど寄与しないことになる。このため、大きな動的加速度が作用しても、各部材の姿勢角(対地角度)の演算結果に影響を及ぶことがない。
【0062】
通常、加速度と角速度の2種類の信号の値を用いて姿勢角(対地角度)を算出する場合、角速度の値だけでは積分誤差が溜まっていき、計測時間が長くなるほど誤差が大きくなるため、加速度の値を必ず用いて角速度の値を修正する処理が入る。このため、本実施の形態のような寄与度を変更するという処理が入らない場合には、加速度の値が姿勢角(対地角度)の演算結果に及ぼす影響は小さくない。
図9の(F)におけるブームセンサユニット2a、アームセンサユニット2b、バケットセンサユニット2cのそれぞれの姿勢角(対地角度)θ
S1’、θ
S2’、θ
S3’は、このような場合の演算結果を示しているが、パイロット圧が上昇しブーム13、アーム14、バケット15の動作、もしくは上部旋回体の旋回動作がある間、遠心力等の動的加速度が作用し、この影響で姿勢角(対地角度)の演算結果に影響が出ている。
【0063】
具体的には、時刻t
1から時刻t
2の間におけるブーム上げ操作により、全センサの姿勢角(対地角度)θ
S1’、θ
S2’、θ
S3’は、上昇するが、点線表示の寄与度を適切に変更する(E)の場合と比較して大きく揺らぎながら上昇しているのが判る。次に、時刻t
3から時刻t
4の間におけるアームクラウド操作により、アームセンサユニット2bとバケットセンサユニット2cのそれぞれの姿勢角(対地角度)θ
S2’、θ
S3’は、下降するが、(E)の場合と比較して揺らぎながら下降している。時刻t
5から時刻t
6の間におけるバケットクラウド操作によるバケットセンサユニット2cの姿勢角(対地角度)θ
S3’も、(E)の場合と比較して揺らぎながら下降している。さらに、時刻t
7から時刻t
8の間における旋回操作によっても、全センサユニットの姿勢角(対地角度)θ
S1’、θ
S2’、θ
S3’は、(E)の場合と比較して揺らいでいる。これは、上述したように旋回遠心力が加速度センサに作用するためである。
【0064】
一方、本実施の形態のように、寄与度を適切に変更した場合の演算結果である全センサユニットの姿勢角(対地角度)θ
S1、θ
S2、θ
S3は、
図9の(E)に示すように、動的加速度の影響を受けず正しく姿勢角(対地角度)を推定できている。このように、本実施の形態では、発明ではブーム13、アーム14、バケット15の姿勢角(対地角度)を正しく推定し、それを基にバケット15先端の位置とバケット15の姿勢角を高精度に検出することができる。このことにより、高精度なマシンコントロールを行うことが可能となる。
【0065】
上述した本発明の建設機械の第1の実施の形態によれば、作業機構20の動作により動的加速度が生じる場合でも作業機構20を構成する各部材の位置姿勢を高精度に計測できる。