特許第6616692号(P6616692)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616692
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】フィルムコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/224 20060101AFI20191125BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20191125BHJP
   H01G 4/40 20060101ALI20191125BHJP
   H01G 2/08 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   H01G4/32 301F
   H01G4/32 540
   H01G4/40 313A
   H01G2/08 A
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-8825(P2016-8825)
(22)【出願日】2016年1月20日
(65)【公開番号】特開2017-130545(P2017-130545A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼垣 甲児
【審査官】 多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−187206(JP,A)
【文献】 特開2011−031601(JP,A)
【文献】 特開2013−033776(JP,A)
【文献】 特開2010−192653(JP,A)
【文献】 特開昭62−189790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/224
H01G 2/08
H01G 4/32
H01G 4/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサ素子がコンデンサケースに収容されケース内に充填されたモールド樹脂によって被覆されているフィルムコンデンサであって、前記コンデンサケースとその外側近傍に配置される発熱体との間に、接触熱伝達防止用の空間に加えて輻射熱伝導抑制膜が介在し、前記輻射熱伝導抑制膜は、前記コンデンサケースの上側板に形成された塗布膜であり、前記コンデンサケースの上側板の外周部の全体にわたって立ち上げ状態で形成された越流防止堰の内側において、この越流防止堰の上面以下の高さまで形成されていることを特徴とするフィルムコンデンサ。
【請求項2】
前記発熱体は、前記コンデンサケースの上側板に組み付けられた回路基板に搭載された発熱体素子である請求項1に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項3】
前記発熱体素子は、前記コンデンサ素子に蓄積されている電荷を放電するための放電抵抗である請求項2に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項4】
前記輻射熱伝導抑制膜は、ビヒクルに金属粒子を混合した塗布膜である請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項5】
前記越流防止堰は、その上面の複数箇所に回路基板取り付け用のボスが立ち上げ形成されており、
前記回路基板は、前記複数のボスに載置された状態で各ボスに固定されている請求項2または請求項3に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項6】
前記回路基板は、それに搭載された前記発熱体素子が前記ケース上側板に向かい合う姿勢で前記複数のボスに固定され、
前記接触熱伝達防止用の空間は、前記回路基板および前記発熱体素子と前記輻射熱伝導抑制膜との間に設けられている請求項5に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項7】
前記発熱体素子は、前記回路基板において前記ケース上側板に向かい合う面とは反対側の面に搭載されている請求項2または請求項3に記載のフィルムコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサ素子がコンデンサケースに収容され、該コンデンサケース内に充填されたモールド樹脂によって被覆されて構成されているフィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばハイブリッドカーのインバータ内に組み込まれる平滑用やフィルタ用のフィルムコンデンサは、要求される耐熱温度が上昇する傾向にある。その要因は、インバータの小型化の要請に伴って部品群が密集し、熱が籠もりやすくなっていることにある。
【0003】
コンデンサが外部から受熱する要因として、コンデンサケースの外側近傍に配置された発熱体がある。その発熱体の代表例として、コンデンサケースに組み付けられる回路基板上の放電抵抗・リアクトルなどが挙げられる。この種の放電抵抗等は次のような機能を有している。
【0004】
すなわち、ハイブリッドカーなどにおける電力変換システムがイグニッションキーのオフ操作や故障発生や衝突事故等により停止した場合に、電気安全性の観点から、インバータに実装される平滑コンデンサに蓄電された電荷を所定の規定時間内に強制放電(アクティブ放電)し、平滑コンデンサの端子間電圧を所定の安全な値まで低下させる必要がある。また、車両の点検時に、感電防止のためにコンデンサに蓄積されている電荷を急速放電して、安全性を確保することが行われる。放電抵抗はこのような目的のために組み付けられる。
【0005】
放電抵抗は放電用のスイッチング素子と直列接続の状態で平滑コンデンサの正負両端子間に並列に接続される。制御回路は放電指令信号を受け取ると、放電用のスイッチング素子に対するオン/オフ切り替えのデューティ制御を行う。この通電により放電抵抗が発生する熱エネルギーの一部がコンデンサケースを介してケース内のコンデンサ素子に伝わり、コンデンサ素子の温度を上昇させる。したがって、発熱体からの受熱にかかわるフィルムコンデンサの耐熱温度は、充分に配慮されなければならない。
【0006】
従来、フィルムコンデンサの耐熱性を向上させるための対策のひとつとして、接触による熱伝達を防ぐための空間(接触熱伝達防止用の空間)を発熱体とコンデンサとの間に設けるということが行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−14169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、コンデンサケースと発熱体との間に接触熱伝達防止用の空間を設けるとはいっても、小型化の要求の強いコンデンサの場合には、必要とされる大きな容量の空間を設けることは難しい(厚みで精々2mm程度が限度である)。
【0009】
よって、コンデンサケースと発熱体の間に空間を設けても、発熱体からの輻射熱によるコンデンサの受熱を効果的に防ぐことはできない。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みて創作したものであり、フィルムコンデンサに関して、その小型化を図りながら、コンデンサ素子への受熱抑制の性能を大幅に向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、次の手段を講じることにより上記の課題を解決する。
【0012】
本発明によるフィルムコンデンサは、コンデンサ素子がコンデンサケースに収容されケース内に充填されたモールド樹脂によって被覆されているフィルムコンデンサであって、前記コンデンサケースとその外側近傍に配置される発熱体との間に、接触熱伝達防止用の空間に加えて輻射熱伝導抑制膜が介在し、前記輻射熱伝導抑制膜は、前記コンデンサケースの上側板に形成された塗布膜であり、前記コンデンサケースの上側板の外周部の全体にわたって立ち上げ状態で形成された越流防止堰の内側において、この越流防止堰の上面以下の高さまで形成されていることを特徴とする。
【0013】
コンデンサケースに対して発熱体を直接に接触させるのではなく、発熱体とコンデンサケースとの間に接触熱伝達防止用の空間(空気層)を介在させることにより、発熱体がコンデンサケースに直接接触した場合に比較し、熱伝達を抑制する。さらに、発熱体とコンデンサケースとの間に輻射熱伝導抑制膜を介在させることにより、発熱体より発せられた輻射熱がコンデンサケースに伝わることを抑制する。以上の相乗により、フィルムコンデンサの小型化を図りながら、コンデンサ素子への受熱抑制の性能を大幅に向上させることが可能となる。
【0014】
すなわち、フィルムコンデンサに求められる所定の耐熱性能を接触熱伝達防止用の空間だけで確保するためには、その空間の容積がかなり大きなものになってしまい、近年強い要請のあるフィルムコンデンサの小型化にとって大きな障害となる。
【0015】
これに対して、発熱体からコンデンサケースへの熱移動の一部分を接触熱伝達防止用の空間をもって遮断し、熱移動の残りの部分を輻射熱伝導抑制膜により遮断する構成としてあるので、接触熱伝達防止用の空間の容積を小さくしながら、コンデンサ素子への受熱抑制の性能を大幅に向上させることが可能となる。また、このように、輻射熱伝導抑制膜と接触熱伝達防止用の空間とを併用することで、輻射熱伝導抑制膜の膜厚も薄くする(使用量を低減する)ことができ、受熱防止の面、体積効率の面、コスト面での総合的評価を優れたものにすることが可能になる。
さらに、次の作用効果が発揮される。
輻射熱伝導抑制膜は流動性のある塗料の塗布および乾燥によって形成される。塗布の初期には流動性が高いために、塗料はコンデンサケースの外縁部からさらに外方に流出するおそれがある。また、一部は締結用のネジ穴に流入し、ネジ穴を塞ぐおそれがある。一部流出のために膜厚が不均一になるおそれもある。
そこで、塗布領域を囲むようにケース上側板の外周部に全周にわたる越流防止堰を形成しておくと、その越流防止堰が流動性のある塗料の溢れ出しを防止する。これにより、輻射熱伝導抑制膜の原料である塗料を無駄なく利用するとともに、美麗で均一な膜厚状態で輻射熱伝導抑制膜を形成することが可能となり、ネジ穴を塞ぐこともない。
また、輻射熱伝導に対する抑制効果を向上するために輻射熱伝導抑制膜に金属粒子を含有させた場合、その金属粒子のために電気絶縁性が低下し、コンデンサケースの上側板の沿面絶縁機能が低下するおそれがある。前述の越流防止堰はケース上側板の主面(基準面)から立ち上がっており、コンデンサケースの横外方に対する沿面距離を増やすことになる。よって、金属粒子の存在で低下する電気絶縁性を回復することが可能となり、安全性確保に繋がる。
【0016】
上記構成の本発明のフィルムコンデンサには、次のようないくつかの好ましい態様ないし変化・変形の態様がある。
【0017】
〔1〕前記発熱体は、前記コンデンサケースの上側板に組み付けられた回路基板に搭載された発熱体素子である、という態様がある。この場合にさらに、前記発熱体素子は、前記コンデンサ素子に蓄積されている電荷を放電するための放電抵抗である、という態様がある。
【0018】
この放電抵抗は通常、回路基板に搭載され、その回路基板はコンデンサケースの上側板に組み付けられる。省スペース・小型化の関係で、放電抵抗搭載の回路基板はコンデンサケースの直近において、その上側板に平行な姿勢で組み付けられる。このような構成のフィルムコンデンサにおいて、本発明による上記の「空間の容積を小さくしながら、輻射熱伝導抑制膜の膜厚も薄くすることが可能となり、受熱防止の面、体積効率の面、コスト面での総合的評価を優れたものにする」という作用効果は価値の高いものである。
【0019】
〔2〕また、前記輻射熱伝導抑制膜は、ビヒクルに金属粒子を混合した塗布膜である、という態様がある。
【0020】
ビヒクルとは、塗料において顔料粒子を均等に分散させるための液状成分のことであり、塗膜要素と溶剤からなる。滑らかで均一な膜厚の塗膜を得るために適度な流動性と揮発性とを備えていることが必要とされる。塗布されたビヒクルの乾燥により塗膜が形成される。ビヒクルに金属粒子を混合してなる輻射熱伝導抑制膜は、金属粒子が電磁波(輻射熱を生じさせる発熱体が発する電磁波)を効果的に反射するので、輻射熱伝導に対する高い抑制効果を発揮する。
【0021】
また、ビヒクルに金属粒子を混合した塗料を輻射熱伝導抑制膜に用いる場合に、ケース上側板に塗布する構成は、対象の発熱体(発熱体素子)の形態が種々に変化してもそれぞれに対する適応性が確保され、汎用性が高いものとなる。
【0026】
〕また、前記越流防止堰は、その上面の複数箇所に回路基板取り付け用のボスが立ち上げ形成されており、前述の回路基板は、前記複数のボスに載置された状態で各ボスに固定されている、という態様がある。
【0027】
越流防止堰に直接に回路基板を当接させた状態で固定すると、回路基板とコンデンサケースの上側板との間の空間が越流防止堰によって外部空間から切り離されてしまい、内部に熱が籠ることになる。そこで、越流防止堰の要所要所(上面複数箇所)にボスを立ち上げ形成し、そのボスに回路基板を当接し固定すれば、ボスとボスの間および越流防止堰と回路基板との間に外部空間へ繋がる開放空間が確保される。これによって、熱が籠ることを防止するのでコンデンサ素子の耐熱性向上に有利に作用する。
【0028】
〕また、前記回路基板は、それに搭載された前記発熱体素子が前記ケース上側板に向かい合う姿勢で前記複数のボスに固定され、前記接触熱伝達防止用の空間は、前記回路基板および前記発熱体素子と前記輻射熱伝導抑制膜との間に設けられている、という態様がある(図2参照)。
【0029】
発熱体素子を搭載している回路基板をケース上側板に取り付けるに当たり、発熱体素子をケース上側板に向かう位置関係としている。輻射熱伝導抑制膜はケース上側板上にある。そして、接触熱伝達防止用の空間は発熱体素子を含めての回路基板とケース上側板上の輻射熱伝導抑制膜との間に確保されている。上方から下方にかけて、回路基板、発熱体素子、接触熱伝達防止用の空間、輻射熱伝導抑制膜、ケース上側板の順である。
【0030】
接触熱伝達防止用の空間が発熱体素子からの直接接触による大量の熱伝達を防止し、次いで、輻射熱伝導抑制膜が発熱体素子からの輻射熱を抑制するので、コンデンサ素子の耐熱性を向上する。
【0036】
〕また、前記発熱体素子は、前記回路基板において前記ケース上側板に向かい合う面とは反対側の面に搭載されており、前記輻射熱伝導抑制膜は、前記ケース上側板に形成されている、という態様がある(図参照)。
【0037】
この場合も、輻射熱伝導抑制膜がケース上側板に形成されるため、対象の発熱体素子の形態が種々に変化してもそれぞれに対する適応性が確保され、汎用性が高いものとなる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、発熱体からコンデンサケースへの熱移動の一部分を接触熱伝達防止用の空間をもって遮断し、熱移動の残りの部分は輻射熱伝導抑制膜をもって遮断する構成としてあるので、空間の容積を小さくしながら、輻射熱伝導抑制膜の膜厚も薄くすることができる。
さらに、コンデンサケースの上側板の外周部に全周にわたって越流防止堰を立ち上げ状態で形成したので、輻射熱伝導抑制膜を形成するためにケース上側板の上に流動性のある塗料を塗ったときに塗料の溢れ出しを防止して塗料を無駄なく利用し、美麗で均一な膜厚状態で輻射熱伝導抑制膜を形成することができ、塗料が締結用のネジ穴を塞ぐこともない。また、ケース上側板の主面(基準面)から立ち上がる越流防止堰は沿面距離を増やし電気絶縁性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の第1の実施例におけるフィルムコンデンサの構成を示す縦断面図
図2】本発明の第1の実施例におけるフィルムコンデンサの要部を拡大した縦断面図
図3】本発明の第1の実施例におけるフィルムコンデンサの回路基板搭載の様子を示す斜視図
図4】本発明の第2の実施例におけるフィルムコンデンサの要部を拡大した縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、上記構成の本発明のフィルムコンデンサにつき、その実施の形態を具体的な実施例のレベルで詳しく説明する。
【0041】
〔第1の実施例〕
図1は本発明の第1の実施例におけるフィルムコンデンサの構成を示す縦断面図、図2は要部を拡大した縦断面図、図3(a),(b)は回路基板搭載の様子を示す斜視図である。図1において、1はコンデンサ素子、2はモールド樹脂、3は合成樹脂製のコンデンサケース、3aはケース上側板、4は回路基板、5は発熱体素子、6は接触熱伝達防止用の空間、7は輻射熱伝導抑制膜である。
【0042】
コンデンサ素子1は概略次のように構成されたものである。誘電体フィルムと金属蒸着電極からなる金属化フィルムを巻回して円柱状の金属化フィルムの巻回体を構成し、この巻回体に対してさらにその外周部に外装フィルムを巻回し、熱溶着して複合フィルム巻回体を得る。次に、この複合フィルム巻回体を直径方向にプレスして小判形の扁平柱状体とし、この扁平柱状体の軸方向両端に金属微粒子の溶射による金属電極を形成した後、金属電極に外部電極引出端子(図示せず)を接続してコンデンサ素子を構成する。
【0043】
図1に示すように、コンデンサケース3の内部にコンデンサ素子1を収容した状態でモールド樹脂2を充填し固化させることにより、コンデンサ素子1をモールド樹脂2とコンデンサケース3とによって被覆保護している。コンデンサケース3はエポキシ樹脂などの合成樹脂で構成されている。
【0044】
コンデンサケース3の上側外壁を構成するケース上側板3aには、その外周部の全体にわたって越流防止堰3bが立ち上げ状態で形成されている。図3に示すように、越流防止堰3bは四角環状であり、連続している。図2にも示すように、越流防止堰3bの内側には、その上面が越流防止堰3bの上面より下位に位置する凹所3cが形成されている。凹所3cの底面は平坦な水平面となっている。越流防止堰3bの上面には、周方向に適当間隔を隔てた複数箇所に回路基板取り付け用のボス3dが一体的に立ち上げ形成されている。個々のボス3dには縦方向にネジ穴3eが形成されている。
【0045】
ケース上側板3aの凹所3cには輻射熱伝導抑制膜7が形成されている。この輻射熱伝導抑制膜7の形成に際しては、適度な流動性と揮発性とを備えた塗料を凹所3cに流し込み、その乾燥固化をもって膜形成している。
【0046】
この実施形態では、発熱体素子5は、コンデンサ素子1に蓄積されている電荷を放電するための放電抵抗である。放電抵抗である発熱体素子5は回路基板4に搭載されている。回路基板4はコンデンサ素子1の外部電極引出端子と接続されている(図示せず)。
【0047】
回路基板4は、省スペース・小型化の観点からケース上側板3aの直近において、ケース上側板3aに平行な姿勢で組み付けられている。すなわち、複数のボス3dに載置され、回路基板4のネジ穴4aに通した止めネジ8をボス3dのネジ穴3eに螺合し緊締することにより組み付けている。
【0048】
回路基板4に搭載された発熱体素子5とケース上側板3aとの間に接触熱伝達防止用の空間6と輻射熱伝導抑制膜7が介在している。その介在は回路基板4とケース上側板3aとが対向する方向すなわち上下方向で隣接する状態となっている。ここでは、接触熱伝達防止用の空間6が回路基板4側に配置され、輻射熱伝導抑制膜7がケース上側板3aの上面に配置されている。
【0049】
発熱体素子5を搭載している回路基板4をボス3dに取り付けるに当たり、発熱体素子5をケース上側板3aに向かい合う姿勢としている。
【0050】
越流防止堰3bによって形成されたケース上側板3aの凹所3cの上面に形成された輻射熱伝導抑制膜7は、ビヒクル(塗膜要素と溶剤からなる液状成分)に金属粒子を混合した塗料を塗布して形成されている。その塗料については、シリコン溶液およびその他溶剤の含有により適度な流動性を有し、金属粒子をアルミニウム粉末とするものが好ましい。金属粒子が電磁波を効果的に反射するので、輻射熱伝導に対する高い抑制効果を発揮する。
【0051】
塗料の塗布が凹所3cすなわち全周にわたって連続する越流防止堰3bの内側において行われるため、塗料の流動性が高くても、外方への越流は確実に防止される。塗料の流動性が高いので、輻射熱伝導抑制膜7の表面は全面にわたって平坦で均一の膜厚となる。輻射熱伝導抑制膜7の上面の高さは越流防止堰3bの上面より低いものとなっている。
【0052】
塗料の流動性が高くても全周にわたって連続する越流防止堰3bの内側で塗布するので、塗料がコンデンサケース3より外側に溢れ出る、あるいはボス3dのネジ穴3eに侵入して塞いでしまうことはない。塗料は無駄なく利用される。
【0053】
さらに、越流防止堰3bはコンデンサケース3と一体であり、これも合成樹脂(エポキシ樹脂)で形成されている。輻射熱伝導に対する抑制効果を向上するために輻射熱伝導抑制膜7に含有させた金属粒子は、膜の電気絶縁性を低下させ、ケース上側板3aの沿面絶縁機能を低下させるおそれがある。しかし、輻射熱伝導抑制膜7とケース横の外部空間との間に越流防止堰3bを設けてあるので、両者間の沿面距離が増す。つまり、越流防止堰3bは凹所3cの底面から上方に向かう垂直面と水平方向に延びる水平面と外縁で下方に向かう垂直面をもつが、その2つの垂直面の高さ寸法合計が沿面距離増加分となる。よって、金属粒子の存在のために低下する沿面絶縁機能を改善することができ、安全性確保に繋がる。
【0054】
複数個のボス3dには次のような作用がある。もし、ボス3dがなくて直接に越流防止堰3bに回路基板4を当接させてネジ止めするとする。この場合、回路基板4とケース上側板3aとの間の空間は越流防止堰3bによって外部空間と切り離されてしまい、内部に熱が籠ることになる。本実施例のように、越流防止堰3bの上面複数箇所に立ち上げ形成したボス3dに回路基板4を当接しネジ止めすれば、ボス3dとボス3dの間に外部空間へ繋がる開放空間が確保され、熱が籠ることが防止され、コンデンサ素子1の耐熱性向上に有利に作用する。
【0055】
また、ボス3dは、その高さ寸法分の空間が接触熱伝達防止用の空間6の形成に役立つものとなっている。
【0056】
また、輻射熱伝導抑制膜7は、ケース上側板3aに塗料を塗布することによって形成している。したがって、組み付ける回路基板4や発熱体素子5が種々に変化しても、そのケース上側板3a上の輻射熱伝導抑制膜7には変わりがなく、実質的に同じ輻射熱伝導に対する抑制の機能が発揮される。すなわち、対象の発熱体素子5の形態が種々に変化してもそれぞれに対する適応性が確保され、汎用性が高いものとなる。
【0057】
以上のように構成された本実施例のフィルムコンデンサにおいて、回路基板4の下面に取り付けられている発熱体素子5の熱エネルギーは、コンデンサケース3との間の接触熱伝達防止用の空間6の存在により、部材どうしの直接接触による熱伝達が阻止されるとともに、ケース上側板3aの上面の凹所3cの上面に形成された金属粒子を含有する輻射熱伝導抑制膜7によって輻射熱の伝導も効果的に阻止される。
【0058】
これら2つの熱移動防止作用により、接触熱伝達防止用の空間6の容積を小さいものにしながら、輻射熱伝導抑制膜7としてもその膜厚を薄いものにすることができる。その結果、受熱防止に優れ、体積効率を向上させることができる。
【0081】
〔第の実施例〕
は本発明の第の実施例におけるフィルムコンデンサの要部を拡大した縦断面図である。本実施例は、第1の実施例(図2参照)において、発熱体素子5の位置を回路基板4の下面から上面に替えたものに相当する。
【0082】
発熱体素子5は、回路基板4においてケース上側板3aに向かい合う面とは反対側の面に搭載されている。その他の構成については第1の実施例の場合と同様である。図において、第1の実施例の図2で用いたのと同一符号は同一の構成要素を指すものとし、詳しい説明は省略する。
【0083】
輻射熱伝導抑制膜7は、第1の実施例と同様にケース上側板3aの上面に形成されている。具体的には、越流防止堰3bの内側の凹所3cの上面に形成されている。接触熱伝達防止用の空間6は回路基板4の底面とケース上側板3a側の輻射熱伝導抑制膜7との間に確保されている。
【0084】
本実施例の場合も、輻射熱伝導抑制膜7がケース上側板3aの上面に形成されるため、対象の発熱体素子5の形態が種々に変化してもそれぞれに対する適応性が確保され、汎用性が高いものとなる。
【0085】
なお、本発明は上記した実施例に限らず、以下のように変形することもできる。例えば、上記第2の実施例において、回路基板4の底面(発熱体素子が搭載されていない非搭載面)側にも輻射熱伝導抑制膜を形成してもよい。この場合、回路基板4の底面の周縁部に越流防止堰を設けて回路基板4からの塗料のはみ出しを防止するのが好ましい。
【0086】
また、本実施例ではコンデンサ素子が1個の場合について説明したが、複数個のコンデンサ素子を直列および/または並列接続してコンデンサ素子ユニットとしてもよく、複数のコンデンサ素子ユニットとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、フィルムコンデンサの耐熱性を向上させるための対策において、受熱防止の面、体積効率の面、コスト面での総合的評価を優れたものにする技術として有用である。また、輻射熱伝導抑制膜の膜厚均一化を図るとともに、電気絶縁性を向上させる技術として有用である。
【符号の説明】
【0088】
1 コンデンサ素子
2 モールド樹脂
3 コンデンサケース
3a ケース上側板
3b 越流防止堰
3c 凹所
3d 回路基板取り付け用のボス
3e ネジ穴
4 回路基板
4b 越流防止堰
5 発熱体素子(発熱体)
6 接触熱伝達防止用の空間
7 輻射熱伝導抑制膜
8 止めネジ
9 電気絶縁層
図1
図2
図3
図4