(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6616710
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】ルテイン含有製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/28 20060101AFI20191125BHJP
A61K 36/82 20060101ALI20191125BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20191125BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20191125BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20191125BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20191125BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20191125BHJP
【FI】
A61K36/28
A61K36/82
A61K9/20
A61K9/48
A61K47/46
A61K47/02
A23L33/105
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-45782(P2016-45782)
(22)【出願日】2016年3月9日
(65)【公開番号】特開2017-160152(P2017-160152A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】大濱 寧之
【審査官】
金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−173163(JP,A)
【文献】
特開2010−159276(JP,A)
【文献】
特表2015−517318(JP,A)
【文献】
特開2010−254687(JP,A)
【文献】
特開2004−131496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/28
A61K 36/82
A23L 33/105
A61K 47/02
A61K 47/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マリーゴールドオレオレジンビーズと緑茶粉砕物を含む経口剤であって、マリーゴールドオレオレジンビーズ1質量部あたり緑茶粉砕物の平均粒子径が50μm以下の緑茶粉砕物を0.1〜10質量部と炭酸カルシウム粉末を含む経口剤。
【請求項2】
マリーゴールドオレオレジンビーズ1質量部あたり炭酸カルシウム粉末を0.1〜10質量部を含む請求項1に記載の経口剤。
【請求項3】
炭酸カルシウム粉末がホタテ貝殻粉末、卵殻カルシウム粉末、サンゴカルシウム粉末から選択されるいずれか1以上の物質である請求項1または2に記載の経口剤。
【請求項4】
剤形がハードカプセル剤又は錠剤である請求項1〜3のいずれかに記載の経口剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテインを含むマリーゴールドオレオレジンの、特有の臭気を抑制した製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
カロチノイドの一種であるルテインについて、近年さまざまな生理効果が見いだされている。網膜黄斑部の酸化変性に起因する加齢性黄斑変性症(Age-related Macular Degeneration:AMD)のリスク低減作用、動脈硬化の予防、白内障の予防あるいは発癌抑制等などが報告されている。このためルテインを、健康食品、栄養補助食品、食品用色素、医薬品用色素、医薬品に配合する試みがなされている。特許文献1には眼精疲労に有効な治療剤が記載されている。
【0003】
ルテインは、ルテイン脂肪酸エステルの形で、オレンジ、桃、パパイヤ、プルーン、マンゴーなどの果実に含まれている。また、多くの花や野菜中にも存在する。特にマリーゴールドの花弁に多く含まれていることがわかっている。このため、乾燥・粉砕されたマリーゴールドの花をヘキサンや石油エーテル等の炭化水素、またはジクロロメタン等の塩素化炭化水素溶剤で抽出し、抽出液から溶剤を除去することにより、ルテインを高濃度に含有するマリーゴールドオレオレジンが得られる。ルテインの原料として商業的に取引されている大部分のマリーゴールドオレオレジンの性状は、常温で固状または高粘度のペースト状で、オレオレジン中のルテイン脂肪酸エステル含量は、エステルとして通常14〜20%である(特許文献2)。
通常マリーゴールドオレオレジンは、キク科マリーゴールド(Tagetes erecta WILLD.)の花を乾燥し、粉砕し必要ならペレット状に加工した後、有機溶剤、通常ヘキサンで抽出し、抽出液から溶剤を除去することにより得られたものである。その性状は、常温で固状またはペースト状で、特有の臭気を有する。その主成分は、ルテイン脂肪酸エステルであるが、通常ゼアキサンチン及びクリプトキサンチンの脂肪酸エステルを含む。従って、本発明でいうルテイン脂肪酸エステルとは、これら全てを含む総カロチノイドエステルを一般的に指している。
【0004】
マリーゴールドオレオレジンは、油性の粘液状であり、その原料由来の特有の臭気を有しているため、ルテインを含む該マリーゴールドオレオレジンをゼラチン皮膜で包み込んだルテイン含有ソフトカプセルが製造されている。しかしソフトカプセルの製造に当たっては、マリーゴールドオレオレジンを加熱・溶融し、さらに食用油に溶解又は分散させて液状にすることが必要となる。
【0005】
一方、ソフトカプセル化の必要のないマリーゴールドオレオレジンが提案されている。すなわち非極性溶媒にマリーゴールオレオレジンを溶解させたコロイド懸濁液を不活性球体の流動層中に噴霧してビーズ化する方法により調製されるビーズ体(特許文献3)、30〜85℃に滴点を有する油脂又はワックスとマリーゴールオレオレジンからなるビーズ体(特許文献4)、非極性溶媒にマリーゴールオレオレジンを溶解させたコロイド懸濁液をヒドロキシプロピルセルロースなどの不活性球体の流動層中に噴霧してビーズ化する方法により調製されるビーズ体(特許文献5)などがある。そしてこれらの技術で調製されたルテイン含有ビーズが市販され、これらのビーズ体を用いることで錠剤やハードカプセルの製剤が提供されている。これらの錠剤やハードカプセル剤に使用されているマリーゴールドオレオレジンビーズは、いずれも強い異臭がある。さらに保存にともなってこの異臭が増大するため、マリーゴールドオレオレジン由来の異臭の問題は解決していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011/136159号
【特許文献2】特開2004−131496号公報
【特許文献3】特表2006−522739号公報
【特許文献4】特表2014−513525号公報
【特許文献5】特開2010−159276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、マリーゴールドオレオレジンを配合した経口用剤の、マリーゴールドオレオレジン由来の異臭を抑制した経口剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主な構成は以下の通りである。
(1) マリーゴールドオレオレジンビーズと緑茶粉砕物を含む経口剤
であって、マ リーゴールドオレオレジンビーズ1質量部あたり緑茶粉砕物の平均粒子径が50μm 以下の緑茶粉砕物を0.1〜10質量部と炭酸カルシウム粉末を含む経口剤。
(2) マリーゴールドオレオレジンビーズ1質量部あたり炭酸カルシウム粉末を 0.1〜10質量部を含む(
1)に記載の経口剤。
(3) 炭酸カルシウム粉末がホタテ貝殻粉末、卵殻カルシウム粉末、サンゴカルシ ウム粉末から選択されるいずれか1以上の物質である(1)
または(2)に記載の経 口剤。
(4) 剤形がハードカプセル剤又は錠剤である(1)〜(
3)のいずれかに記載の 経口剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、マリーゴールドオレオレジン由来の異臭を抑制した経口剤が提供される。本発明の経口剤は、異臭が抑制されているため、小児や高齢者も容易に飲用することができる。また長期保存や過酷条件に保管しても異臭が発生しないため、サプリメントや健康食品としたとき、賞味期限を延長することができる。また服用時の戻り臭やこれによる吐気を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、マリーゴールドオレオレジンビーズと緑茶粉砕物を含む経口剤に係る発明である。また、本発明は、さらに炭酸カルシウム粉末を含む経口剤に係る発明である。
本発明の経口剤の構成と成分について説明する。
本発明において用いられるマリーゴールドオレオレジンは、キク科マリーゴールド(Tagetes erecta WILLD.)の花を乾燥し、粉砕し必要ならペレット状に加工した後、有機溶剤、通常ヘキサン、で抽出し、抽出液から溶剤を除去することにより得られたものである。その性状は、常温で固状またはペースト状で、特有のにおいを有する。その主成分は、ルテイン脂肪酸エステルであるが、通常ゼアキサンチン及びクリプトキサンチンの脂肪酸エステルを含む。
マリーゴールドオレオレジンビーズとは、マリーゴールドオレオレジンを溶解させたコロイド懸濁液を不活性球体の流動層中に噴霧してビーズ化する方法により調製されるビーズ体、30〜85℃に融点を有する油脂又はワックスとマリーゴールドオレオレジンからなるビーズ体、非極性溶媒にマリーゴールドオレオレジンを溶解させたコロイド懸濁液をヒドロキシプロピルセルロースなどの不活性流体の流動層中に噴霧してビーズ化する方法により調製されるビーズ体など種々の方法で製造されたビーズ状の形態を有する粒状体であって、ルテインを10質量%以上含有する。ビーズは、球、小球体等の形態であってよい。本発明に使用するビーズの大きさは、好ましくは約250μm〜約3.5mm、より好ましくは約250μm〜約2.0mmの間の範囲である。
マリーゴールドオレオレジンビーズは、前述の特許文献3〜5に記載の製法に従って製造することができる。また市販されているものを使用することができる。このようなマリーゴールドオレオレジンビーズとしては。商品名「サンマックス1001ビーズCWS/TG(カトラフィトケム)を例示することができる。
【0011】
本発明に使用する緑茶粉砕物は、所謂「緑茶」をボールミルなどの装置で粉砕し、これを分級し、粒子サイズを揃えたものである。緑茶粉砕物の粒子径は、100μm以下であり、好ましくは50μm以下である。
緑茶粉砕物は、マリーゴールドオレオレジンビーズ1質量部あたり0.1〜10質量部配合することでマリーゴールドオレオレジンの臭気を抑制し、長期保存時の悪臭発生を抑制する。特に好ましい配合量は、マリーゴールドオレオレジンビーズ1質量部あたり0.5〜1質量部である。
【0012】
本発明の経口剤は、さらにマリーゴールドオレオレジンビーズ1質量部あたり炭酸カルシウム粉末を0.1〜10質量部を含むことで、マリーゴールドオレオレジンの臭気を抑制することができる。炭酸カルシウム粉末としては、ホタテ貝殻粉末、卵殻カルシウム粉末、サンゴカルシウム粉末から選択されるいずれか1以上の物質が好ましい。とくにホタテ貝殻粉末が好ましい。ホタテ貝殻粉末は、ホタテ貝の殻を粉末化したものやホタテ貝貝殻を焼成したもののいずれでも使用できる。
ホタテ貝殻粉末は、マリーゴールドオレオレジンビーズ1質量部あたり0.1〜10質量部配合することでマリーゴールドオレオレジンの臭気をさらに抑制し、保存時の悪臭発生を抑制する。特に好ましい配合量は、マリーゴールドオレオレジンビーズ1質量部あたり0.5〜1質量部である。
本発明の経口剤には、その他成分として薬効成分や賦形剤を配合することができる。ハードカプセルに充填するに当たっては、必要により、配合成分を常法により混合し、充填する。必要により造粒しても良い。
【実施例】
【0013】
以下に実施例、試験例、製造例を示し、本発明を具体的に説明する。
1.フレーバーによるマスキング試験
市販のマスキング技術及びマスキングに有用なマスキング素材を用いて予備試験を実施した。下記表1の組成でマリーゴールドエキス1.9質量%を含む2号プルラン製ハードカプセル製剤を製造した。この製剤50粒密封袋に封入した。
【0014】
【表1】
【0015】
なおマスキング原料として次の表2の組成になるように、市販原料を組み合わせて予め調製し、これを配合した。カバマックスフードW6、W8は株式会社シクロケムから販売されている。
【0016】
【表2】
【0017】
2.臭気の確認試験
上記の密封袋60℃で1週間保管した。この袋の開封時の異臭を専門パネラー4名による官能試験で評価した。評価は5段階の順位評価とした。評価結果を下記の表3に示す。
また臭気の特性についてコメントを付記した。
【0018】
【表3】
【0019】
表3の結果から、マリーゴールドの異臭を抑制するには抹茶を用いることが好ましいことがわかった。
【0020】
茶粉砕物を用いた詳細な試験を以下に示す。
3.マリーゴールドオレオレジン配合カプセル製剤の調製
市販の製剤用粉末マリーゴールドオレオレジン(ルテイン20%含有品:バイオアクティブズ株式会社)マリーゴールドオレオレジンビーズ(ルテイン15%含有品、粒子径300mm:理研ビタミン株式会社)を用いて表4の組成のカプセル剤を調製した。
【0021】
【表4】
【0022】
茶粉砕物はハラダ製茶株式会社製、ホタテ貝殻粉末はエヌシーコーポレーション株式会社製を用いた。
常法にしたがって、混合し2号プルラン製カプセルに250mg充填した。このカプセル50個をアルミ蒸着ポリプロピレン製袋に密封した。
【0023】
2.臭気の確認試験
上記の密封袋60℃で1週間保管した。この袋の開封時の異臭を専門パネラー4名による官能試験で評価した。評価は5段階の順位評価とし、1位5点、2位4点、3位3点、4位2点、5位1点を付し、平均点を求めた。異臭のない場合を5点とし、強い異臭を感じる場合を0点としてパネラーが評点した。
また臭気の特性についてコメントを付記した。
下記の表5に結果を示す。
【0024】
【表5】
【0025】
実施例1、2の製剤は、ほぼ、あるいは完全にマリーゴールドオレオレジンの異臭を抑制していた。この茶粉砕物とホタテ貝殻粉末のマリーゴールドオレオレジン由来の異臭抑制効果は、マリーゴールドオレオレジンをビーズ体とすることで発揮された。なおマリーゴールドオレオレジンのみをハードカプセルに充填し、同様に60℃で保存した場合は強烈な異臭を感じた。
したがって、マリーゴールドオレオレジンをビーズ化し、これに茶粉砕物を配合することでマリーゴールドオレオレジンに由来する異臭を抑制できることが判明した。
【0026】
錠剤の製造例
N−アセチルグルコサミン(340g)、ホタテ末(15g)、マルチトール(35g)を流動造粒機MP−01(パウレック社)に仕込み、ヒドロキシプロピルセルロース5%水溶液を吹き込みながら造粒した。
造粒部85gに対して、緑茶粉砕物(4g)、マリーゴールドオレオレジンビーズ(9g)、微粒二酸化ケイ素(1g)、ショ糖エステル(1g)、プロテオグリカン(5g)、セルロース(3g)を添加し、V型混合器(徳寿製作所製)で10分間混合し、打錠末とした。
単発打錠機N−30E(岡田精工製)にて、打錠末を約1000kgfの圧力で操作し、直径8mm、重量240mg/錠の錠剤を得た。
この錠剤はマリーゴールドオレオレジンの異臭がまったく感じられないものであった。