(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エチレン−α−オレフィンエラストマーを含むゴム成分と、α,β−不飽和カルボン酸金属塩と、酸化マグネシウムと、有機過酸化物と、無機充填剤とを含むゴム組成物の硬化物を含む伝動ベルトであって、前記酸化マグネシウムの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して2〜20質量部であり、かつ前記α,β−不飽和カルボン酸金属塩100質量部に対して5質量部以上であり、前記無機充填剤が、カーボンブラックを含み、かつ前記無機充填剤の割合が、ゴム成分100質量部に対して40〜100質量部である伝動ベルト。
ゴム成分が、80質量%以上のエチレン−α−オレフィンエラストマーを含み、かつ前記エチレン−α−オレフィンエラストマーが、80質量%以上のエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の伝動ベルト。
【背景技術】
【0002】
動力伝達手段として、摩擦伝動ベルトや歯付ベルトが古くから利用されている。例えば、自動車エンジンの補機駆動用としてVベルトやVリブドベルトが、OHC(オーバーヘッドカムシャフト)駆動用として歯付ベルトが、CVT(無段変速)駆動用としてローエッジコグドVベルトなどが汎用されている。これらの用途において、近年、伝達動力の増大やレイアウトのコンパクト化の要求が厳しくなっており、さらに高温や低温条件下での使用に耐えうる製品開発が望まれている。特に、スノーモービルなどのCVT駆動用として用いられるローエッジコグドVベルトにおいては、始動時は低温である一方で駆動時はエンジンの発熱に晒されて高温となるため、低温から高温までの幅広い温度領域に耐え得るゴム組成物が求められる。また、ゴム組成物と心線や補強布などの繊維部材との剥離を抑えるための接着性の高さや、コンパクト化のために小径プーリにも対応し得る耐屈曲疲労性が求められる。さらに、プーリとの接触による摩耗にも耐え得る耐摩耗性の高さや、プーリからの側圧に耐え得る耐側圧性の高さも求められる。また、歯付ベルトにおいても、コンパクト化のためにベルト幅を小さくすることが要求され、これに対応するために歯ゴムの高硬度、高モジュラス化が求められている。このような様々な要求に対応するため、ゴム組成物を構成するエラストマーとして、エチレン−α−オレフィンエラストマーの使用が増加している。
【0003】
エチレン−α−オレフィンエラストマーは、主鎖に不飽和結合を有さないため、耐熱性や耐候性が高い特徴を有している。さらに、エチレン−α−オレフィンエラストマーは、極性基も有さないため、短繊維やカーボンブラックをはじめとする補強剤の高充填が可能であり、高硬度、高モジュラス化が比較的容易であるという特徴なども有している。しかし、エチレン−α−オレフィンエラストマーに補強剤を高充填すると、次のような欠点を有している。すなわち、カーボンブラックを多量に添加した場合、ベルトの屈曲に伴う発熱が大きくなり、耐久性が低下し易くなる。また、短繊維を多量に添加した場合には、分散不良が起き易く、亀裂発生の原因となり易い。そのため、補強剤の配合量を比較的少なくしながら、硬度やモジュラスを高める配合が種々検討されてきた。
【0004】
例えば、WO96/13544(特許文献1)には、エチレン含量が55〜78重量%のエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部と、α,β−不飽和有機酸の金属塩1〜30重量部と、補強剤0〜250重量部(好ましくは25〜100重量部)とを含むエラストマー組成物をフリーラジカル供与体によって架橋した架橋体を含むベルト(同期ベルト、Vベルト、Vリブドベルト)が開示されている。前記補強剤としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、含水シリカが記載されている。
【0005】
WO97/22662(特許文献2)には、エチレン含量50〜65重量%及びジエン含量10重量%未満のエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)100重量部に対して、α,β−不飽和カルボン酸の金属塩32〜100重量部及びフィラー0〜30重量部を配合し、過酸化物架橋した架橋体を含む伝動ベルト(Vリブドベルト、歯付ベルト)が開示されている。この文献には、前記フィラーとして、ケイ酸塩;アルミニウム、カルシウム又はマグネシウムの酸化物又は炭酸塩などの白色フィラーが記載されている。実施例では、EPDM100重量部に対して、ジアクリル酸亜鉛40〜60重量部、白色フィラー10重量部、カーボンブラック25重量部、ジクミルハイドロパーオキサイド5重量部を含む組成物が調製されている。
【0006】
WO2010/047029(特許文献3)には、エチレン含量66〜85質量%のエチレンプロピレンジエンモノマーゴム等を5質量%以上40質量%未満含むエチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対し、α,β−不飽和カルボン酸金属塩32〜100質量部を含む組成物を有機過酸化物で架橋した架橋体を含む伝動ベルトが開示されている。この文献には、伝動ベルトとして、平ベルト、VベルトやVリブドベルトなどの摩擦伝動ベルト、歯付ベルトなどの噛み合い伝動ベルトが記載されている。実施例では、エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対し、ジ(メタ)アクリル酸金属塩32.2〜100質量部、カーボンブラック50質量部、酸化亜鉛5質量部、有機過酸化物6質量部を含む組成物が調製されている。
【0007】
特許文献1〜3では、エチレン−α−オレフィンエラストマーのエチレン含量を一定の範囲に規定した上で、求められる性能を有するゴム組成物となるように有機酸金属塩の添加量を調整していると推定できる。しかし、これらの組成物では、エチレン成分による結晶性と有機酸金属塩による架橋とのバランスを調整しているに過ぎず、ベルトを形成しても、耐寒性、耐熱性、接着性、耐屈曲疲労性、耐摩耗性など伝動ベルトに要求される種々の要求を同時に満足することはできない。
【0008】
特開2003−314616号公報(特許文献4)には、エチレン−α−オレフィンエラストマーと水素化ニトリルゴムとからなるゴム成分100重量部に対して、有機酸金属塩モノマー20〜40重量部及び短繊維5〜35重量部を含む組成物をパーオキサイドで架橋した架橋体を含む高負荷伝動ベルト(コグドVベルト、ハイブリッドVベルト)が開示されている。実施例では、EPDM及び水素化ニトリルゴム100重量部に対して、ジメタクリル酸亜鉛10〜50重量部、短繊維20重量部、酸化亜鉛10重量部、シリカ20重量部、パーオキサイド7重量部を含む組成物が調製されている。
【0009】
しかし、特許文献4の組成物では、耐クラック性を高めるために、エチレン−α−オレフィンエラストマーに水素化ニトリルゴムをブレンドしているが、耐寒性などのエチレン−α−オレフィンエラストマーの特性が低下してしまい、良くも悪くも中庸な性能となる。また、海島構造の不均質な組成物となるため、特に経時劣化時のセパレーションが懸念される。
【0010】
特開2002−257199号公報(特許文献5)には、クロロプレンゴムを主材ゴムとし、金属酸化物及び有機過酸化物並びにα,β−不飽和脂肪酸金属塩を含む組成物を有機過酸化物で架橋した架橋体を含む動力伝動用ベルト(Vリブドベルト、Vベルト、コグドVベルト、平ベルト)が開示されている。この文献には、金属酸化物として、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウムが例示され、金属酸化物の機能として、架橋剤としての機能、受酸剤として機能(金型の腐食防止)が記載されている。実施例では、クロロプレンゴム100質量部に対して、アクリル酸アルミニウム5〜20質量部、酸化マグネシウム4質量部、酸化亜鉛5質量部及び有機過酸化物を含む組成物を用いた、Vリブドベルトが開示されている。
【0011】
しかし、特許文献5では、クロロプレンゴムを含む伝動ベルトの粘着摩耗改善を課題としており、クロロプレンゴムとは構造及び特性が大きく異なるエチレン−α−オレフィンエラストマーの課題については記載されていない。さらに、クロロプレンゴムの耐寒性、耐熱性、耐候性は、エチレン−α−オレフィンエラストマーには及ばず、ローエッジコグドVベルトなどにおける昨今の厳しい使用環境においては不十分である。
【0012】
すなわち、前記特許文献では、昨今の伝動ベルトに求められる性能を十分に満足することはできない。特に、ゴムの硬度及びモジュラスと、接着性や、ベルトに要求される耐屈曲疲労性及び幅広い温度域での耐久性(特に接着性及び耐屈曲疲労性)とは、トレードオフの関係にあり、両立が困難であった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[ゴム組成物]
本発明の伝動ベルトは、エチレン−α−オレフィンエラストマーを含むゴム成分と、α,β−不飽和カルボン酸金属塩と、酸化マグネシウムと、有機過酸化物と、無機充填剤とを含むゴム組成物の硬化物を含んでいればよい。
【0021】
(ゴム成分)
ゴム成分は、耐寒性、耐熱性、耐候性に優れる点から、エチレン−α−オレフィンエラストマーを含むことが好ましい。
【0022】
エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−α−オレフィン系ゴム)としては、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムなどが挙げられる。
【0023】
エラストマーを構成するα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどの鎖状α−C
3−12オレフィンなどが挙げられる。これらのα−オレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのα−オレフィンのうち、プロピレンなどのα−C
3−4オレフィン(特にプロピレン)が好ましい。
【0024】
エラストマーを構成するジエンモノマーとしては、通常、非共役ジエン系単量体、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどが例示できる。これらのジエンモノマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのジエンモノマーのうち、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン(特に、エチリデンノルボルネン)が好ましい。
【0025】
代表的なエチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム[エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)、エチレン−オクテンゴム(EOM)など]、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム[エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)]などが例示できる。これらのエチレン−α−オレフィンエラストマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0026】
これらのエチレン−α−オレフィンエラストマーのうち、耐寒性、耐熱性、耐候性に優れる点から、エチレン−α−C
3−4オレフィン−ジエン三元共重合体ゴムなどのエチレン−α−オレフィン−ジエン三元共重合体ゴムが好ましく、EPDMが特に好ましい。そのため、EPDMの割合は、エチレン−α−オレフィンエラストマー全体に対して50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましく90質量%以上(特に95質量%)であり、100質量%(EPDMのみ)であってもよい。
【0027】
エチレン−α−オレフィンエラストマーにおいて、エチレンとα−オレフィンとの割合(質量比)は、前者/後者=40/60〜90/10、好ましくは45/55〜85/15(例えば50/50〜80/20)、さらに好ましくは52/48〜70/30(特に55/45〜60/40)程度であってもよい。
【0028】
エチレン−α−オレフィンエラストマーがジエンモノマーを含む場合、ジエンモノマーの割合は、エラストマー全体に対して1〜15質量%程度の範囲から選択でき、例えば1.5〜12質量%、好ましくは2〜10質量%(特に2.5〜5質量%)程度であってもよい。
【0029】
なお、ジエンモノマーを含むエチレン−α−オレフィンエラストマーのヨウ素価は、例えば3〜40、好ましくは5〜30、さらに好ましくは10〜20程度であってもよい。ヨウ素価が小さすぎると、ゴム組成物の加硫が不十分になって摩耗や粘着が発生し易く、逆にヨウ素価が大きすぎると、ゴム組成物のスコーチが短くなって扱い難くなると共に耐熱性が低下する傾向がある。
【0030】
ゴム成分は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、エチレン−α−オレフィンエラストマーに加えて、他のゴム成分、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム);水素化ニトリルゴム(水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含む)などの前記ジエン系ゴムの水添物など]、オレフィン系ゴム(ポリオクテニレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴムなど)、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどを含んでいてもよい。
【0031】
エチレン−α−オレフィンエラストマーの割合は、ゴム成分全体に対して50質量%以上であればよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上(特に95質量%以上)であり、100質量%(ゴム成分がエチレン−α−オレフィンエラストマーのみ)であってもよい。エチレン−α−オレフィンエラストマーの割合が少なすぎると、耐寒性や耐熱性が低下する虞がある。
【0032】
(α,β−不飽和カルボン酸金属塩)
α,β−不飽和カルボン酸金属塩とは、1又は2以上のカルボキシル基を有する不飽和カルボン酸と金属とがイオン結合した化合物であってもよい。不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和ジカルボン酸などが挙げられる。これらの不飽和カルボン酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの不飽和カルボン酸のうち、(メタ)アクリル酸などの不飽和モノカルボン酸が好ましい。
【0033】
金属としては、例えば、周期表第2族金属(マグネシウム、カルシウムなど)、第4族金属(チタン、ジルコニウムなど)、第8族金属(鉄など)、第10族金属(ニッケルなど)、第11族金属(銅など)、第12族金属(亜鉛など)、第13族金属(アルミニウムなど)、第14族金属(鉛など)などの多価金属などが挙げられる。これらの金属は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属のうち、多価金属、例えば、マグネシウム、カルシウム、亜鉛などの二価金属、アルミニウムなどの三価金属(特に亜鉛などの二価金属)が好ましい。
【0034】
これらのうち、1分子中に2つのラジカル重合性基を有する二官能性モノカルボン酸二価金属塩、例えば、メタクリル酸亜鉛などの(メタ)アクリル酸亜鉛[ジ(メタ)アクリル酸亜鉛又はビス(メタ)アクリル酸亜鉛]、メタクリル酸マグネシウムなどの(メタ)アクリル酸マグネシウムや、1分子中に3つのラジカル重合性基を有する三官能性モノカルボン酸三価金属塩、例えば、(メタ)アクリル酸アルミニウム[トリ(メタ)アクリル酸アルミニウム]などが好ましく、(メタ)アクリル酸亜鉛及び/又はアクリル酸アルミニウムがさらに好ましく、(メタ)アクリル酸亜鉛(すなわち、メタクリル酸亜鉛及びアクリル酸亜鉛から選択される少なくとも一方)が特に好ましい。さらに、諸特性のバランスに優れる点から、二官能性モノカルボン酸二価金属塩(特にメタクリル酸亜鉛)が好ましい。
【0035】
α,β−不飽和カルボン酸金属塩の割合は、ゴム成分100質量部に対して1〜50質量部、好ましくは5〜40質量部、さらに好ましくは8〜35質量部(特に10〜30質量部)程度であってもよい。α,β−不飽和カルボン酸金属塩の割合が少なすぎると、ゴム組成物の硬化物の硬度及びモジュラスが低下する虞があり、逆に多すぎると、接着性や耐屈曲疲労性などが低下する虞がある。
【0036】
(酸化マグネシウム)
本発明では、前記α,β−不飽和カルボン酸金属塩に対して、所定の割合で酸化マグネシウムを組み合わせることにより、ゴム組成物の硬化物の耐寒性、耐熱性、接着性、耐屈曲疲労性、耐摩耗性を維持しつつ、硬度及びモジュラスを向上できる。
【0037】
酸化マグネシウムの割合は、前記ゴム成分100質量部に対して2〜20質量部であり、好ましくは3〜18質量部、さらに好ましくは5〜15質量部(特に8〜13質量部)程度であってもよい。酸化マグネシウムの割合は、α,β−不飽和カルボン酸金属塩100質量部に対して5質量部以上(例えば5〜300質量部)であり、例えば5〜250質量部(例えば、5〜200質量部)、好ましくは10〜150質量部、さらに好ましくは15〜100質量部(特に20〜80質量部)程度である。酸化マグネシウムの割合が少なすぎると、ゴム組成物の硬化物において、硬度及びモジュラスが低下する虞があり、逆に多すぎると、接着性や耐屈曲疲労性などが低下する虞がある。
【0038】
(有機過酸化物)
有機過酸化物としては、通常、ゴム、樹脂の架橋に使用されている有機過酸化物、例えば、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド(例えば、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなど)などが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。さらに、有機過酸化物は、熱分解による1分間の半減期を得る分解温度が150〜250℃(例えば、175〜225℃)程度の過酸化物が好ましい。
【0039】
有機過酸化物の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1〜10質量部、好ましくは2〜8質量部、さらに好ましくは2〜6質量部(例えば、3〜6質量部)程度であってもよい。
【0040】
(無機充填剤)
本発明では、前記α,β−不飽和カルボン酸金属塩及び酸化マグネシウムの組み合わせに対して無機充填剤を配合することにより、ゴム組成物の硬化物の耐寒性、耐熱性、接着性、耐屈曲疲労性を維持しつつ、耐摩耗性、硬度及びモジュラスを向上できる。
【0041】
無機充填剤(無機フィラー)としては、例えば、炭素質材料(カーボンブラック、グラファイトなど)、金属化合物又は合成セラミックス[酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの金属酸化物(酸化マグネシウム及び酸化亜鉛以外の金属酸化物)、ケイ酸カルシウムやケイ酸アルミニウムなどの金属ケイ酸塩、炭化ケイ素や炭化タングステンなどの金属炭化物、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの金属窒化物、炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩、硫酸カルシウムや硫酸バリウムなどの金属硫酸塩など]、鉱物質材料(ゼオライト、ケイソウ土、焼成珪藻土、活性白土、アルミナ、シリカ、タルク、マイカ、カオリン、セリサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイト、クレイなど)などが挙げられる。これらの無機充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0042】
これらの無機充填剤のうち、カーボンブラック及び/又はシリカが好ましく、ゴム組成物の硬化物において、硬度、モジュラス及び耐摩耗性を向上できる点から、カーボンブラックを少なくとも含むことが特に好ましい。
【0043】
カーボンブラックとしては、例えば、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、HMFなどが挙げられる。これらのカーボンブラックは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、補強効果と分散性のバランスがよく、ベルト屈曲時の発熱も小さい点から、FEFが好ましい。
【0044】
カーボンブラックの平均粒径は、例えば5〜200nm程度の範囲から選択でき、例えば10〜150nm、好ましくは15〜100nm、さらに好ましくは20〜80nm(特に30〜50nm)程度である。カーボンブラックの平均粒径が小さすぎると、均一な分散が困難となる虞があり、大きすぎると、硬度、モジュラス及び耐摩耗性が低下する虞がある。
【0045】
カーボンブラックを含む無機充填剤は、硬度、モジュラス及び耐摩耗性に加えて、接着性も向上できる点から、カーボンブラックをシリカと組み合わせることが特に好ましい。
【0046】
シリカは、珪酸及び/又は珪酸塩で形成された微細な嵩高い白色粉末であり、その表面には複数のシラノール基が存在するため、ゴム成分と化学的に接着できる。
【0047】
シリカには、乾式シリカ、湿式シリカ、表面処理したシリカなどが含まれる。また、シリカは、製法での分類によって、例えば、乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン、コロイダルシリカ、沈降シリカなどにも分類できる。これらのシリカは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、表面シラノール基が多く、ゴム成分との化学的結合力が強い点から、含水珪酸を主成分とする湿式法ホワイトカーボンが好ましい。
【0048】
シリカの平均粒径は、例えば1〜1000nm、好ましくは3〜300nm、さらに好ましくは5〜100nm(特に10〜50nm)程度である。シリカの粒径が大きすぎると、ゴム組成物の硬化物において、機械的特性が低下する虞があり、小さすぎると、均一に分散するのが困難となる虞がある。
【0049】
また、シリカは、非多孔質又は多孔質のいずれであってもよいが、BET法による窒素吸着比表面積は、例えば50〜400m
2/g、好ましくは70〜350m
2/g、さらに好ましくは100〜300m
2/g(特に150〜250m
2/g)程度であってもよい。比表面積が大きすぎると、均一に分散するのが困難となる虞があり、比表面積が小さすぎると、ゴム層の機械的特性が低下する虞がある。
【0050】
無機充填剤の割合は、前記ゴム成分100質量部に対して10〜150質量部程度の範囲から選択でき、例えば40〜100質量部、好ましくは50〜80質量部、さらに好ましくは60〜70質量部程度である。無機充填剤の割合が少なすぎると、ゴム組成物の硬化物において、硬度、モジュラス及び耐摩耗性が低下する虞があり、逆に多すぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
【0051】
無機充填剤がカーボンブラックとシリカとを含む場合、カーボンブラックとシリカとの質量比は、前者/後者=50/50〜99.9/0.1の範囲から選択でき、例えば60/40〜99/1、好ましくは70/30〜95/5、さらに好ましくは80/20〜90/10程度である。カーボンブラックの割合が少なすぎると、ゴム組成物の硬化物において、硬度、モジュラス及び耐摩耗性が低下する虞があり、逆に多すぎると、接着性が低下する虞がある。
【0052】
カーボンブラック及びシリカの合計割合(カーボンブラックのみの場合、カーボンブラックの割合)は、無機充填剤全体に対して50質量%以上であってもよく、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上(特に80質量%以上)であってもよく、90質量%以上(特に100質量%)であってもよい。
【0053】
(酸化亜鉛)
前記ゴム組成物は、さらに酸化亜鉛を含んでいてもよい。金属酸化物として、前記酸化マグネシウムに加えて、酸化亜鉛を組み合わせることにより、ゴム組成物の硬化物において、硬度及びモジュラスを向上でき、諸特性のバランスを向上できる。
【0054】
酸化亜鉛の割合は、前記ゴム成分100質量部に対して、例えば0.5〜20質量部、好ましくは1〜15質量部、さらに好ましくは2〜10質量部(特に3〜8質量部)程度であってもよい。酸化亜鉛の割合は、酸化マグネシウム100質量部に対して、例えば10〜1000質量部、好ましくは20〜500質量部、さらに好ましくは30〜200質量部(特に50〜100質量部)程度であってもよい。酸化亜鉛の割合が少なすぎても、多すぎても、諸特性のバランスが低下する虞がある。
【0055】
(短繊維)
前記ゴム組成物は、さらに短繊維を含んでいてもよい。短繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリアルキレンアリレート系繊維[ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリC
2−4アルキレンC
6−14アリレート系繊維など]、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;綿、麻、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維が汎用される。これらの短繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの短繊維のうち、合成繊維や天然繊維、特に合成繊維(ポリアミド繊維、ポリアルキレンアリレート系繊維など)、中でも剛直で高い強度、モジュラスを有し、圧縮ゴム層表面で突出し易い点から、少なくともアラミド繊維を含む短繊維が好ましい。アラミド短繊維は、高い耐摩耗性をも有している。アラミド繊維は、例えば、商品名「コーネックス」、「ノーメックス」、「ケブラー」、「テクノーラ」、「トワロン」などとして市販されている。
【0056】
短繊維の平均繊維径は、例えば1〜100μm、好ましくは3〜50μm、さらに好ましくは5〜30μm(特に10〜20μm)程度である。平均繊維径が大きすぎると、ゴム組成物の硬化物において、機械的特性が低下する虞があり、小さすぎると、均一に分散させるのが困難となる虞がある。
【0057】
短繊維の平均長さは、例えば1〜20mm、好ましくは1.2〜15mm(例えば1.5〜10mm)、さらに好ましくは2〜5mm(特に2.5〜4mm)程度であってもよい。短繊維の平均長さが短すぎると、ゴム組成物の硬化物をベルトに利用した場合、列理方向の力学特性(例えばモジュラスなど)を十分に高めることができない虞があり、逆に長すぎると、ゴム組成物中の短繊維の分散性が低下し、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
【0058】
ゴム組成物中の短繊維の分散性や接着性の観点から、少なくとも短繊維は接着処理(又は表面処理)することが好ましい。なお、全ての短繊維が接着処理されている必要はなく、接着処理した短繊維と、接着処理されていない短繊維(未処理短繊維)とが混在し又は併用されていてもよい。
【0059】
短繊維の接着処理では、種々の接着処理、例えば、フェノール類とホルマリンとの初期縮合物(ノボラック又はレゾール型フェノール樹脂のプレポリマーなど)を含む処理液、ゴム成分(又はラテックス)を含む処理液、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、シランカップリング剤、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)を含む処理液などで処理することができる。好ましい接着処理では、短繊維は、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、特に少なくともレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)液で処理する。このような処理液は組み合わせて使用してもよく、例えば、短繊維を、慣用の接着性成分、例えば、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)で前処理した後、RFL液で処理してもよい。
【0060】
短繊維の割合は、前記ゴム成分100質量部に対して、例えば5〜100質量部、好ましくは10〜50質量部、さらに好ましくは20〜40質量部(特に25〜35質量部)程度であってもよい。短繊維の割合が少なすぎると、ゴム組成物の硬化物の機械的特性が低下する虞があり、逆に多すぎると、均一に分散させるのが困難となり、耐屈曲疲労性などが低下する虞がある
(他の添加剤)
前記ゴム組成物は、必要に応じて、慣用の添加剤、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤(パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、プロセスオイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0061】
他の添加剤の合計割合は、ゴム成分100質量部に対して1〜100質量部、好ましくは5〜50質量部、さらに好ましくは10〜20質量部程度であってもよい。例えば、ゴム成分100質量部に対して、軟化剤の割合が1〜20質量部(特に5〜15質量部)、加工(助)剤の割合が0.1〜5質量部(特に0.5〜3質量部)、老化防止剤の割合が0.5〜20質量部(特に1〜10質量部)程度であってもよい。
【0062】
(ゴム組成物の硬化物の特性)
前記ゴム組成物の硬化物は、ゴム硬度及びモジュラスが大きい。具体的に、ゴム組成物の硬化物のゴム硬度(JIS−A)は、例えば90〜100度、好ましくは91〜98度(例えば93〜97度)、さらに好ましくは95〜98度(特に96〜97度)程度であってもよい。本明細書及び特許請求の範囲において、ゴム硬度(JIS−A)は、温度170℃、圧力2.0MPaで20分間プレス加硫した硬化物について、JIS K6253(2012)に準拠して測定され、詳細には、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0063】
前記ゴム組成物の硬化物は、短繊維の配向方向に直交する方向の曲げ応力は、例えば8〜15MPa、好ましくは10〜15MPa、さらに好ましくは12〜14.5MPa(特に13〜14.5MPa)程度であってもよい。本明細書及び特許請求の範囲において、曲げ応力は、後述の実施例に記載の方法で測定される。なお、「配向方向に直交する方向」は、完全に直交する方向のみならず、直交方向±5°の範囲の方向であってもよい。そのため、「配向方向に直交する方向」とは、「配向方向に略直交する方向」ということもできる。
【0064】
前記ゴム組成物が短繊維を含む場合、通常、短繊維は所定の方向に配向している。例えば、前記ゴム組成物で伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成する場合、プーリからの押圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため、ベルト幅方向に配向して圧縮ゴム層中に短繊維が埋設されることが好ましい。
【0065】
前記ゴム組成物は、用途に応じた方法で加硫した硬化物として利用される。加硫温度は、例えば120〜200℃(特に150〜180℃)程度であってもよい。
【0066】
[伝動ベルト]
本発明の伝動ベルトとしては、例えば、平ベルト、Vベルト、Vリブドベルト、ラップドVベルト、ローエッジVベルト、ローエッジコグドVベルト、樹脂ブロックベルトなどの摩擦伝動ベルト;歯付ベルトなどの噛み合い伝動ベルトなどが挙げられる。これらの伝動ベルトは、前記ゴム組成物を含んでいればよいが、通常、ベルト本体(特に圧縮ゴム層及び/又は伸張ゴム層)が前記ゴム組成物の硬化物で形成されている。
【0067】
これらのベルトのうち、伝達動力の増大やレイアウトのコンパクト化の要求が厳しいコグドベルトや歯付ベルトなどの伝動ベルトが好ましく、コグドベルトが特に好ましい。
【0068】
本発明のコグドベルトは、ベルトの長手方向に延びる心線の少なくとも一部と接する接着ゴム層と、この接着ゴム層の一方の面に形成された伸張ゴム層と、前記接着ゴム層の他方の面に形成され、その内周面にベルトの長手方向に沿って所定の間隔をおいて形成された複数の凸部(コグ部)を有し、かつその側面でプーリに摩擦係合する圧縮ゴム層とを備えていればよい。このようなコグドベルトには、圧縮ゴム層にのみ前記コグ部が形成されたコグドベルト、圧縮ゴム層に加えて、伸張ゴム層の外周面にも同様のコグ部が形成されたダブルコグドベルトが含まれる。コグドベルトは、圧縮ゴム層の側面がプーリと接するVベルト(特に、ベルト走行中に変速比が無段階で変わる変速機に使用される変速ベルト)が好ましい。コグドVベルトとしては、例えば、ローエッジベルトの内周側にコグが形成されたローエッジコグドVベルト、ローエッジベルトの内周側及び外周側の双方にコグが形成されたローエッジダブルコグドVベルトなどが挙げられる。これらのうち、CTV駆動用として使用されるローエッジコグドVベルトが特に好ましい。
【0069】
図1は、本発明の伝動ベルト(ローエッジコグドVベルト)の一例を示す概略斜視図であり、
図2は、
図1の伝動ベルトをベルト長手方向に切断した概略断面図である。
【0070】
この例では、ローエッジコグドVベルト1は、ベルト本体の内周面に、ベルトの長手方向(図中のA方向)に沿って所定の間隔をおいて形成された複数のコグ部1aを有しており、このコグ部1aの長手方向における断面形状は略半円状(湾曲状又は波形状)であり、長手方向に対して直交する方向(幅方向又は図中のB方向)における断面形状は台形状である。すなわち、各コグ部1aは、ベルト厚み方向において、コグ底部1bからA方向の断面において略半円状に突出している。ローエッジコグドVベルト1は、積層構造を有しており、ベルト外周側から内周側(コグ部1aが形成された側)に向かって、補強布2、伸張ゴム層3、接着ゴム層4、圧縮ゴム層5、補強布6が順次積層されている。ベルト幅方向における断面形状は、ベルト外周側から内周側に向かってベルト幅が小さくなる台形状である。さらに、接着ゴム層4内には、芯体4aが埋設されており、前記コグ部1aは、コグ付き成形型により圧縮ゴム層5に形成されている。
【0071】
コグ部の高さやピッチは、慣用のコグドVベルトと同様である。圧縮ゴム層では、コグ部の高さは、圧縮ゴム層全体の厚みに対して50〜95%(特に60〜80%)程度であり、コグ部のピッチ(隣接するコグ部の中央部同士の距離)は、コグ部の高さに対して50〜250%(特に80〜200%)程度である。伸張ゴム層にコグ部を形成する場合も同様である。
【0072】
この例では、伸張ゴム層3及び圧縮ゴム層5が、本発明のゴム組成物の硬化物で形成されている。接着ゴム層、芯体、補強布については、慣用の接着ゴム層、芯体、補強布を利用でき、例えば、以下の接着ゴム層、芯体、補強布であってもよい。
【0073】
(接着ゴム層)
接着ゴム層を形成するためのゴム組成物は、圧縮ゴム層及び伸張ゴムの加硫ゴム組成物と同様に、ゴム成分、加硫剤又は架橋剤(硫黄などの硫黄系加硫剤など)、共架橋剤又は架橋助剤(N,N’−m−フェニレンジマレイミドなどのマレイミド系架橋剤など)、加硫促進剤(TMTD、DPTT、CBSなど)、無機充填剤(カーボンブラック、シリカなど)、軟化剤(パラフィン系オイルなどのオイル類)、加工剤又は加工助剤、老化防止剤、接着性改善剤[レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、アミノ樹脂(窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、例えば、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサアルコキシメチルメラミン(ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサブトキシメチルメラミンなど)などのメラミン樹脂、メチロール尿素などの尿素樹脂、メチロールベンゾグアナミン樹脂などのベンゾグアナミン樹脂など)、これらの共縮合物(レゾルシン−メラミン−ホルムアルデヒド共縮合物など)など]、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤、安定剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、接着性改善剤において、レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物及びアミノ樹脂は、レゾルシン及び/又はメラミンなどの窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの初期縮合物(プレポリマー)であってもよい。
【0074】
なお、このゴム組成物において、ゴム成分としては、前記圧縮ゴム層及び伸張ゴム層のゴム組成物のゴム成分と同系統又は同種のゴムを使用する場合が多い。また、加硫剤又は架橋剤、共架橋剤又は架橋助剤、加硫促進剤、軟化剤及び老化防止剤の割合は、それぞれ、前記圧縮ゴム層及び伸張ゴム層のゴム組成物と同様の範囲から選択できる。また、接着ゴム層のゴム組成物において、無機充填剤の割合は、ゴム成分100質量部に対して10〜100質量部、好ましくは20〜80質量部、さらに好ましくは30〜50質量部程度であってもよい。また、接着性改善剤(レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミンなど)の割合は、ゴム成分100質量部に対して0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは2〜8質量部程度であってもよい。
【0075】
(芯体)
芯体としては、特に限定されないが、通常、ベルト幅方向に所定間隔で配列した心線(撚りコード)を使用できる。心線は、ベルトの長手方向に延びて配設され、通常、ベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に延びて配設されている。心線は、少なくともその一部が接着ゴム層と接していればよく、接着ゴム層が心線を埋設する形態、接着ゴム層と伸張ゴム層との間に心線を埋設する形態、接着ゴム層と圧縮ゴム層との間に心線を埋設する形態のいずれの形態であってもよい。これらのうち、耐久性を向上できる点から、接着ゴム層が心線を埋設する形態が好ましい。
【0076】
心線を構成する繊維としては、前記短繊維と同様の繊維が例示できる。前記繊維のうち、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレートなどのC
2−4アルキレンアリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、アラミド繊維などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維)、ポリアミド繊維が好ましい。繊維はマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸の繊度は、例えば2200〜13500dtex(特に6600〜11000dtex)程度であってもよい。マルチフィラメント糸は、例えば100〜5,000本であってもよく、好ましくは500〜4,000本、さらに好ましくは1,000〜3,000本程度のモノフィラメント糸を含んでいてもよい。
【0077】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば0.5〜3mmであってもよく、好ましくは0.6〜2mm、さらに好ましくは0.7〜1.5mm程度であってもよい。
【0078】
心線は、ゴム成分との接着性を改善するため、圧縮ゴム層及び伸張ゴム層の短繊維と同様の方法で接着処理(又は表面処理)されていてもよい。心線も短繊維と同様に、少なくともRFL液で接着処理するのが好ましい。
【0079】
(補強布)
摩擦伝動ベルトにおいて、補強布を使用する場合、圧縮ゴム層の表面に補強布を積層する形態に限定されず、例えば、伸張ゴム層の表面(接着ゴム層と反対側の面)に補強布を積層してもよく、圧縮ゴム層及び/又は伸張ゴム層に補強層を埋設する形態(例えば、特開2010−230146号公報に記載の形態など)であってもよい。補強布は、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)などで形成でき、必要であれば、前記接着処理、例えば、RFL液で処理(浸漬処理など)したり、接着ゴムを前記布材にすり込むフリクションや、前記接着ゴムと前記布材とを積層した後、圧縮ゴム層及び/又は伸張ゴム層の表面に積層してもよい。
【0080】
[伝動ベルトの製造方法]
本発明の伝動ベルトの製造方法は、特に限定されず、慣用の方法を利用できる。ローエッジコグドVベルトの場合、例えば、補強布(下布)と圧縮ゴム層用シート(未加硫ゴムシート)からなる積層体を、前記補強布を下にして歯部と溝部とを交互に配した平坦なコグ付き型に設置し、温度60〜100℃(特に70〜80℃)程度でプレス加圧することによってコグ部を型付けしたコグパッド(完全には加硫しておらず、半加硫状態にあるパッド)を作製した後、このコグパッドの両端をコグ山部の頂部から垂直に切断してもよい。さらに、円筒状の金型に歯部と溝部とを交互に配した内母型(加硫ゴムで形成された型)を被せ、この歯部と溝部に係合させてコグパッドを巻き付けてコグ山部の頂部でジョイントし、この巻き付けたコグパッドの上に第1の接着ゴム層用シート(下接着ゴム:未加硫ゴムシート)を積層した後、芯体を形成する心線(撚りコード)を螺旋状にスピニングし、この上に第2の接着ゴム層用シート(上接着ゴム:前記接着ゴム層用シートと同じ)、伸張ゴム層用シート(未加硫ゴムシート)、補強布(上布)を順次巻き付けて成形体を作製してもよい。その後、ジャケット(加硫ゴムで形成されたジャケット)を被せて金型を加硫缶に設置し、温度120〜200℃(特に150〜180℃)程度で加硫してベルトスリーブを調製する加硫工程を経た後、カッターなどを用いて、V字状断面となるように切断加工して圧縮ゴム層を形成するカット工程を経てもよい。
【0081】
なお、伸張ゴム層用シート及び圧縮ゴム層用シートにおいて、短繊維の配向方向をベルト幅方向に配向させる方法としては、慣用の方法、例えば、所定の間隙を設けた一対のカレンダーロール間にゴムを通してシート状に圧延し、圧延方向に短繊維が配向した圧延シートの両側面を圧延方向と平行方向に切断するとともに、ベルト成形幅(ベルト幅方向の長さ)となるように圧延シートを圧延方向と直角方向に切断し、圧延方向と平行方向に切断した側面同士をジョイントする方法などが挙げられる。例えば、特開2003−14054号公報に記載の方法などを利用できる。このような方法で短繊維を配向させた未加硫シートは、前記方法において、短繊維の配向方向がベルトの幅方向となるように配置して加硫される。
【実施例】
【0082】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の例において、実施例に用いた原料、各物性における測定方法又は評価方法を以下に示す。なお、特にことわりのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0083】
[原料]
EPDM1:JSR(株)製「EP93」、エチレン含量55重量%、ジエン含量2.7重量%
EPDM2:JSR(株)製「EP24」、エチレン含量54重量%、ジエン含量4.5重量%
パラ系アラミド短繊維:帝人(株)製、トワロンカット糸
メタ系アラミド短繊維:帝人(株)製、コーネックスカット糸
カーボンブラック:キャボット・ジャパン(株)製「N550」
シリカ:エボニック・デグサ・ジャパン(株)製「ウルトラジルVN3」、BET比表面積175m
2/g
パラフィン系オイル:出光興産(株)製、「ダイアナプロセスオイルPW90」
老化防止剤A:大内新興化学工業(株)製、「ノクラックCD」
老化防止剤B:大内新興化学工業(株)製、「ノクラックMB」
老化防止剤C:精工化学(株)製「ノンフレックスOD3」
酸化亜鉛:堺化学工業(株)製「酸化亜鉛2種」
酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製「キョーワマグ150」
ステアリン酸:日油(株)製「ステアリン酸つばき」
メタクリル酸亜鉛:三新化学工業(株)製、「サンエステルSK−30」
ビスマレイミド:大内新興化学工業(株)製、「バルノックPM」
有機過酸化物:日油(株)製「P−40MB(K)]
酸化チタン:デュポン社製「R960」
レゾルシノール樹脂:INDSPEC Chemical Corporation社製「Penacolite Resin(B−18−S)」
ヘキサメトキシメチロールメラミン:Power Plast社製「PP−1890S」
加硫促進剤A:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTT」
加硫促進剤B:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
加硫促進剤C:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーDM」
硫黄:美源化学社製
心線:繊度1,680dtexのアラミド繊維のマルチフィラメントの束2本を引き揃えて下撚りし、これを3本合わせて下撚りとは反対方向に上撚りした総繊度10,080dtexの諸撚りコード
補強布:構成2/2綾織りのナイロン帆布(厚み0.50mm)。
【0084】
[加硫ゴム組成物の物性]
(1)硬度
表1に示すゴム組成物を用いて得られた未加硫のゴムシートを、温度170℃、時間20分でプレス加硫(圧力2.0MPa)を行い、加硫ゴムシート(長さ100mm、幅100mm、厚み2mm)を作製した。JIS K6253(2012)に準じ、厚み2mmの加硫ゴムシートを3枚重ね合わせて厚み6mmの試料とし、デュロメータA形硬さ試験機を用いて硬度を測定した。
【0085】
(2)曲げ応力
表1に示すゴム組成物を温度170℃、時間20分でプレス加硫し、加硫ゴム成形体(60mm×25mm×6.5mm厚み)を作製した。短繊維は加硫ゴム成形体の長手方向と平行に配向させた。
図3に示すように、この加硫ゴム成形体21を、20mmの間隔を空けて回転可能な一対のロール(直径6mm)22a,22b上に置いて支持し、加硫ゴム成形体の上面中央部において幅方向(短繊維の配向方向と直交する方向)に金属製の押さえ部材23を載せた。押さえ部材23の先端部は、直径10mmの半円状の形状を有しており、その先端部で加硫ゴム成形体21をスムーズに押圧可能である。また、押圧時には加硫ゴム成形体21の圧縮変形に伴って、加硫ゴム成形体21の下面とロール22a,22bとの間に摩擦力が作用するが、ロール22a,22bを回転可能とすることにより、摩擦による影響を小さくしている。押さえ部材23の先端部が加硫ゴム成形体21の上面に接触し、かつ押圧していない状態を初期位置とし、この状態から押さえ部材23を下方に100mm/分の速度で加硫ゴム成形体21の上面を押圧し、曲げ歪が8%となったときの応力を曲げ応力として測定した。短繊維の配向方向に対して直交する方向の曲げ応力を測定することで、曲げ応力が高くなるとベルト走行中のディッシングと呼ばれる座屈変形に対する抵抗力が高いと判断でき、高負荷伝動及び高耐久性の指標とすることができる。なお、測定温度は走行中のベルト温度を想定し、120℃とした。
【0086】
[耐久走行試験]
耐久走行試験は、
図4に示すように、直径110mmの駆動(Dr.)プーリ32と、直径240mmの従動(Dn.)プーリ33とを含む2軸走行試験機を用いて行った。各プーリにローエッジコグドVベルト31を掛架し、駆動プーリの回転数6000rpm、25kWの負荷を付与し、雰囲気温度80℃にてベルトを70時間走行させた。走行後のベルト側面(プーリと接触する面)を目視観察し、圧縮ゴム層と心線間の剥離の有無を、また下コグ谷部の亀裂の有無を調べ、以下の基準で評価した。
【0087】
○:剥離や亀裂が発生していない(耐久性が高く、実用上問題なし)
×:剥離や亀裂が発生している(耐久性が低く、実用上問題あり)。
【0088】
なお、総合判定は以下の基準で評価した。
【0089】
◎:耐久走行試験で剥離及び亀裂が発生せず、かつゴム硬度が96度以上
○:耐久走行試験で剥離及び亀裂が発生せず、かつゴム硬度が96度未満
×:耐久走行試験で剥離又は亀裂が発生した。
【0090】
実施例1〜9及び比較例1〜7
[圧縮ゴム層及び伸張ゴム層のゴム組成物の特性]
(ゴム層の形成)
表1(圧縮ゴム層、伸張ゴム層)及び表2(接着ゴム層)のゴム組成物は、それぞれ、バンバリーミキサーなど公知の方法を用いてゴム練りを行い、この練りゴムをカレンダーロールに通して圧延ゴムシート(圧縮ゴム層用シート、伸張ゴム層用シート、接着ゴム層用シート)を作製した。圧縮ゴム層用シートについて、ゴム硬度及び曲げ応力を測定した。測定結果を表3に示す。さらに、これらのシートを用いて、以下のベルトを製造した。
【0091】
[ベルトの製造]
モールドに装着したコグ形状のついた加硫ゴム製の内母型の表面に、予め所定厚みの圧縮ゴム層用シートと補強布を積層した積層体にコグ部を型付け成形したシート状のコグパッドを巻き付けてジョイントした後、下部接着ゴム用シート、心線、上部接着ゴム用シート、そして平坦な伸張ゴム層を順次巻き付けて成形体を作製した。続いて、成形体の表面に、コグ形状のついた加硫ゴム製の外母型とジャケットを被せてモールドを加硫缶に設置し、温度170℃、時間40分、0.9MPaで加硫してベルトスリーブを得た。尚、加硫条件は未加硫の接着ゴム層用シート、圧縮ゴム層用シート及び伸張ゴム層用シートの加硫に類似する条件を選択した。このスリーブをカッターによってV状に切断して変速ベルトに仕上げた。すなわち、
図5に示す構造のダブルコグドVベルトを作製した。詳しくは、心線12を埋設した接着ゴム層11の両面に、それぞれ圧縮ゴム層13及び伸張ゴム層14が形成されたローエッジコグドVベルトにおいて、圧縮ゴム層13及び伸張ゴム層14のいずれにも、それぞれコグ部16,17が形成されているベルト(サイズ:上幅35mm、厚さ15mm、外周長1100mm)を作製した。得られたベルトの走行試験の評価結果を表3に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
表3から明らかなように、酸化マグネシウムの割合が2〜20質量部であり、メタクリル酸亜鉛100質量部に対する酸化マグネシウムの割合が5質量部以上である実施例1〜9において、総合判定が◎及び○となり、良好な結果となった。
【0096】
酸化マグネシウムを含まない比較例1(特許文献3に相当)及び酸化マグネシウムをゴム成分100質量部に対して1質量部しか含まない比較例2では、ゴム硬度が90度と低く、耐久走行試験において剥離が発生した。酸化マグネシウムの割合が少ないと、ゴム硬度が上がらず、座屈変形により接着界面に応力が集中し、剥離が生じたと考えられる。また、比較例6及び比較例7は、比較例1において、酸化亜鉛を増量した例、酸化チタンを添加した例である。これらの例でも、比較例1と同様に硬度及び曲げ応力が低く、耐久走行試験において剥離が発生した。これらの結果から、酸化マグネシウムの代わりに、酸化亜鉛を増量したり、又は酸化チタンを添加しても効果は低く、耐久性を維持して、硬度及び曲げ応力を向上させるには、酸化マグネシウムが重要であることが分かる。一方、比較例5はメタクリル酸亜鉛を含まず、共架橋剤としてビスマレイミドを配合した例であるが、この場合もゴム硬度が低く、剥離が発生した。このように、本発明の課題に対して、汎用の金属酸化物や共架橋剤の中から何でも選択できるわけではなく、酸化マグネシウムとα,β−不飽和カルボン酸金属塩の組み合わせが特に有効であることが分かる。
【0097】
比較例3は酸化マグネシウムを多く配合した例、比較例4はメタクリル酸亜鉛を多く配合した例である。どちらの例もゴム硬度や曲げ応力は大きく上昇したものの、耐久走行試験において亀裂が発生した。これは、酸化マグネシウムが多すぎることで分散不良となったり、メタクリル酸亜鉛が多すぎることでゴム組成物が剛直となり、耐屈曲疲労性が低下したりしたためと考えられる。酸化マグネシウムとα,β−不飽和カルボン酸金属塩はバランスよく配合する必要があることが分かる。
【0098】
一方、酸化マグネシウムとメタクリル酸亜鉛の両方を含み、その量を適切に調整した実施例1〜9では、ゴム硬度や曲げ応力が上昇するとともに、耐久走行試験において亀裂や剥離は発生せず、耐久性が高かった。
【0099】
実施例1及び実施例2は短繊維の種類を変更した例であるが、本願発明の構成はパラ系アラミド短繊維及びメタ系アラミド短繊維のどちらに対しても同じように効果的であった。
【0100】
実施例3は実施例1に対して酸化マグネシウムを増量した例であるが、硬度や曲げ応力が上昇しており、効果が高まったことが分かる。
【0101】
実施例4は実施例3に対して、実施例7は実施例1に対してメタクリル酸亜鉛を増量した例であるが、硬度や曲げ応力が格段に高くなっており、特に効果が高かった。
【0102】
同じように、実施例5は実施例3に対して酸化マグネシウムを増量した例であるが、こちらも硬度や曲げ応力が格段に高くなっており、特によい結果となった。
【0103】
実施例6は酸化マグネシウムを多く配合し、メタクリル酸亜鉛に対する酸化マグネシウムの質量比を2.86とした例であるが、硬度や曲げ応力の上昇は小さかった。しかしながら、耐久走行試験では剥離や亀裂は発生せず、実用上問題のない性能を有していた。
【0104】
実施例8は実施例3の配合から、無機充填剤としてカーボンブラックの一部をシリカに置き換えた例であるが、硬度や曲げ応力は若干上昇しており、特によい結果となった。シリカは接着性を向上させる働きもあり、より長時間の耐久走行を行った場合にも、剥離に対して抵抗力があがると期待される。
【0105】
実施例9は、実施例4の配合から、有機過酸化物を減量した例であるが、実施例4と比較すると、硬度や曲げ応力がやや低下した。しかし、有機過酸化物(架橋剤)が少ない場合でも、硬度や曲げ応力が高く、耐久走行試験でも、剥離や亀裂は発生せず、実用上問題のない性能であった。