【実施例】
【0015】
本発明の一実施例を
図1〜
図6を用いて説明する。
図1は雌雄ロータの歯形の拡大図、
図2は圧縮機の断面図である。
図2からわかるように、本実施例では雄ロータ1の歯数Zmを4枚、雌ロータ2の歯数Zfを6枚とする。
【0016】
油冷式スクリュー圧縮機は、平行な二軸の回りを互いに噛み合って回転し、それぞれがねじれた歯を有する一対の雄ロータ1及び雌ロータ2を有し、雄ロータ1の軸に垂直な断面において雄ロータ1の歯の大部分が雄ロータ1の軸を中心とする雄ピッチ円の外側にあり、雌ロータ2の軸に垂直な断面において雌ロータ2の歯の大部分が雌ロータ2の軸を中心とする雌ピッチ円の内側にあるスクリューロータと、一対のロータを収納するため一部を重複し長さを同一とする2つの円筒穴から成るボア4を有するとともに、そのボア4の端面は一対のロータの端面に対して僅かな隙間をはさんで平行に面するボア端面となっているケーシング3を備え、噛み合わせた一対のロータの歯溝とそれらを収納したボア4により囲まれて形成される作動室の少なくとも1か所に油注入口7をケーシング3に備えるとともに、ボア端面には被圧縮気体とともに注入した油を吐き出す吐出ポートを備えている。ここで、雄ピッチ円及び雌ピッチ円とは、雄ロータの回転中心と雌ロータの回転中心を結ぶ線分を雄ロータの歯数と雌ロータの歯数の比で内分した点をピッチ点Pといい、雄ロータの回転中心からピッチ点Pまでの距離を半径とする円を雄ピッチ円、雌ロータの回転中心からピッチ点Pまでの距離を半径とする円を雌ピッチ円という。
【0017】
雄ロータ1と雌ロータ2は各々の円筒穴の中で噛み合いながら回転する。雄ロータ1と雌ロータ2の噛み合い部分は理論的には隙間0となるよう幾何学的に歯形が設計され、それに熱変形やガス圧変形、振動や加工誤差を許容できるように適度な隙間を設定し、その分だけ減肉し製作している。本発明の本質は隙間の設定方法には直接関与しないので、隙間の存在は考察に加えるものの、本実施例において説明する歯形は幾何設計上のもので隙間0として説明する。したがって、文中で「接触」と表現しても実際の歯形間には微小な隙間が存在する場合が多い。
【0018】
スクリュー圧縮機を設置する向きについては、
図2に示した向きと異なり両ロータ(雄ロータ1と雌ロータ2)を縦にして回転軸を鉛直方向としたり、雌雄の軸を上下に配したり、あるいは雌雄を入れ替えて天地逆向きとしたりする方法も考えられる。しかし、本実施例では比較的多く実施されているように、
図1ならびに
図2のように雌雄のロータを設置した場合で説明する。また、ロータのねじれ方向も逆向きもありえる。したがって、本実施例で用いる上下の向きやロータの回転方向は本実施例の配置に則したもので、普遍的なものではない。
【0019】
図1には、雄ロータ1の歯形と雌ロータ2の歯形の1歯分に着目し、この範囲をハッチングして示す。雄ロータ1は時計回り、雌ロータ2は反時計回りする。
図1では雄ロータ1の後歯先点11が、雌ロータ2の後歯底点21と接しており、このときの両ロータの回転角度を基準すなわち回転角度0度とする。雄ロータ1の歯形曲線において、この後歯先点11は回転半径が最大で、同じ最大半径のまま前歯先点12に至る。したがって、この後歯先点11と前歯先点12の間の区間は歯先円と呼ぶ円弧となり、その中心は雄ロータの回転中心13に一致する。本実施例では、この歯先円弧の開き角度をθm=6度とする。同様に、雌ロータ2の歯形曲線において、後歯底点21は回転半径が最小で、同じ最小半径のまま前歯底点22に至る。したがって、これら後歯底点21と前歯底点22の間の区間は歯底円と呼ぶ円弧となり、その中心は雌ロータの回転中心23に一致する。この歯底円弧の開き角度はθf=4度とする。
【0020】
これら雌雄ロータの開き角度と歯数は次の式(1)を満足させることで、雌雄の連続的な噛み合いが成立する。
【0021】
θm : θf = Zf : Zm ……(1)
雄ロータ1の後歯先点11より後側(歯形の前後は回転方向に対しての前後を意味する)の曲線は、本発明の本質ではないので特許文献1の歯形の後進面を流用する。前歯先点12より前側の曲線も特許文献1の前進面を流用する。ただし、雄ロータ1の歯形を基準より6度だけ逆回転させて回転角をマイナス6度として、前歯先点12が雌雄ロータの回転中心23、13を結ぶ線分上にあるときに、前歯先点12から前側に特許文献1の前進面の曲線をつないだ形状とする。こうすることで、前歯先点12において滑らかで連続する歯形が形成できる。
【0022】
雌ロータ2の後歯底点21より後の曲線も特許文献1の雌の後進面の歯形曲線を流用し、前歯底点22より前側の曲線も特許文献1の雌の前進面の歯形曲線を流用する。前側については、雄ロータ1と同様に、基準より雌ロータを4度だけ逆回転させて前歯底点22を雌雄ロータの回転中心23、13を結ぶ線上に合わせた位置にしたとき、前歯底点22から前側に特許文献1の前進面の曲線をつないだ形状とする。
【0023】
従来の雌ロータの歯形は、特許文献2の歯形を除き、歯の両端で歯先に近い部分が凸の曲線となり、それらにはさまれた中央付近は凹となる曲線で構成されている。それに対して、本実施例による雌ロータ2の歯形の特徴として、歯形の中央付近にある歯底円の区間21〜22が凸となるので、その両側が凹となり、更にその外側となる両端部が凸となることが挙げられる。
【0024】
吐出ポート6の輪郭線形状を歯形に適合させる。この輪郭線の内側が吐出ポートとして吐出側ボア端面に開けられた開口部である。雄ロータの回転中心13と雌ロータの回転中心23を結ぶ線分で、回転方向と逆回転方向である上半域と下半域とに分けるが、吐出ポート6は下半域に開口する。両ロータが基準位置0度にあるとき、雄の後歯先点11と雌の後歯底点21が接するが、この接触点と対峙する位置を吐出ポート6の輪郭線の基点とする。なお、「対峙する」とは、ロータ端面とボア端面の間の隙間をはさんで接近した位置にあることを意味し、
図1や
図2においては後歯先点11と後歯底点21と基点の三者が同一点に重なって見える。
【0025】
基点から右側に伸びる輪郭線は、雄ロータ1を基準位置から逆回転させたときに、後歯先点11がたどる軌跡に合わせる。あるいは、その軌跡よりわずかに、例えば雄ロータ半径の3%以内に、雄ロータの回転中心13寄りに移した線とする。同様に、基点から左側は雌ロータ2を基準位置から逆回転させたときに後歯底点21がたどる軌跡あるいは、その軌跡よりわずかに、例えば雌ロータ半径の3%以内に、雌ロータの回転中心23寄りとする。したがって、基点のすぐ下では左右の線が接近しており、その幅は吐出ポート6を加工するエンドミル等の工具の幅程度となる。
【0026】
従来の歯形も本実施例の歯形も、三次元の立体である雄ロータ1と雌ロータ2を噛み合わせると、両ロータは1本の連続した線で接触することになる。この線をシール線と呼び、三次元的に屈曲しており、ロータの上側にできる作動室と下側にできる作動室を区切る役割がある。このシール線は両ロータの間に形成されるものであるから本来は目視できないが、
図2の右側から見て、手前側にある雄ロータを透過して雌ロータを模式的に示した透過側面図を
図3に示す。雄ロータ1の表面にシール線30が描かれる。なお、
図3に見えているケーシング3の断面は1つの平面ではなく、本発明の原理や特徴が理解しやすいように便宜的に複数の断面をつなぎ合わせて示している。
【0027】
スクリュー圧縮機の作動室31〜37は、雌雄の両ロータの歯溝各々1つずつが連通し、外周ならびに端面をケーシング内面であるボア4でふさがれて形成されている。ロータを回転すると、作動室は吸入側の端から吐出側の端へ向けて軸方向に平行移動する。平行移動により、作動室内容積は次第に小さくなるので内部の被圧縮気体は圧縮される。所定の圧力まで昇圧したところで吐出側のボア端に開口した貫通穴である吐出ポート6に連通し、被圧縮気体そして油をボア外に吐き出す。作動室の後端が吐出端に達すると、内部容積は0となり、吐出が完了する。作動室の後端付近の形状は、ロータの歯形によって決定される。本実施例によるロータの作動室は上半域が先に無くなり、下半域が最後まで残る形状をしている。
【0028】
シール線30の形状は歯形によって決まるが、本実施例によるシール線で特徴的なのは、作動室後端の形状である。シール線30は屈曲していて右下方に長く伸びたシール線の下に延びた部分41が境界となって、左右の作動室(例えば作動室35と36)を区切る働きをする。すなわち、シール線の下に延びた部分41は、作動室の輪郭をロータ側面から透視した場合、上半域に対して下反域が吸入側に伸びた形状となっている。区切られてできた各々の作動室の後端(
図3では左端)には丸で囲んだようにシール線の段差43ができている。この段差43こそ本発明の歯形によるものである。
【0029】
段差の右側は前歯先点12と前歯底点22の接触した位置で、このとき前進面の一定の範囲が同時に接触するため
図3では接触点より上に垂直に伸びたシール線が垂直になった部分44となっている。ここから噛み合いが進むと、雄の歯先円弧の上の1点と、雌の歯底円弧の上の1点が接触を続けるが、これが
図3で段差を形成するシール線が水平になった部分45となっている。ロータの歯はねじれているため、同じ軸直角断面においてロータ回転で生じる断面形状が、軸方向に左に移動した断面で再現されていることになる。さらに回転が進む、あるいは
図3で左側の断面で見ると、後歯先点11と後歯底点21が接触する位置となる。このとき、後進面側の範囲で雌雄のロータは同時に接触し、
図3では作動室の後端の垂直な線46を形成する。
【0030】
シール線30より上側が吸入過程にある作動室31〜33で、内容積が次第に拡大することからケーシング3に開けた吸入ポート5より流入した被圧縮気体がそこに吸い込まれる。シール線30より下側に並ぶのが圧縮過程や吐出過程にある作動室34〜37である。これらの作動室の容積は次第に縮小する。
【0031】
作動室は両ロータの歯溝(雄ロータは歯と隣歯の間にできる空間のこと、雌ロータは歯が凹なので、歯に囲まれた空間のこと)が1つずつ連通してV形になった空間である。作動室は外側をケーシング3のボア4の内面や端面でふさがれ、ロータ1,2間はシール線30でふさがれるので閉じた空間が形成されている。先に述べたように、ロータを円滑に回転させるための微小な隙間は両ロータ間やロータとボアの間に存在するため、被圧縮気体や油の僅かな内部漏洩はあるものの、本実施例の本質には直接関係しない。
【0032】
両ロータ1,2を噛み合わせたまま回転させると、理髪店の回転広告塔のように、作動室31〜37は右方向に吸入側端から吐出側端に向かって移動する。
図3において、圧縮開始直後の作動室34は吸入を完了し吸入ポート5の輪郭から位置がずれて閉じた空間となり、圧縮を開始したところである。ここに油注入口7から油が注入される。圧縮過程にある作動室35は内容積が作動室34より小さくなり、内圧が増加した位置である。吐出開始直後の作動室36は更に内圧が上昇し、吐出ポート6に連通し、被圧縮気体を吐き出しはじめたところである。吐出過程にある作動室37は吐出が進み、吐出ポート6より、ここから圧縮が完了した被圧縮気体と油を吐き出している。
【0033】
作動室34に注入した油であるが、被圧縮気体よりも密度が遥かに大きい上に作動室の移動速度よりも遅い速度で注入されるため、作動室の後端に溜まりがちになる。したがって、油は各作動室の後端でロータに掻きとられるように移動していくことになる。吐出過程においても、吐出ポート6に対して移動してきた作動室が開口しても、最初は被圧縮気体が吐き出される割合が高く、油の大部分は最後の段階で吐き出されることになる。
【0034】
吐出過程の最終段階は吐出ポートの開口面積が小さくなるため、吐き出し抵抗が大きくなる障害が発生しやすい。この詳細について
図4を使って説明する。
図4は
図3の吐出端付近を拡大したもので、
図3を右側から見たように描いてある。本来は手前側にあってロータ端面をふさいでいるケーシングのボア端面があるが、これを透視して図示するが、ボア端面の開口部である吐出ポート6の輪郭線は図示してある。したがって、この輪郭線の内側はケーシング3外に通じる穴となっているが、それ以外の部分はわずかな隙間を間にはさんでロータ端面をふさいでいると考えて良い。
【0035】
図1ならびに
図4に示した吐出ポート6の輪郭線は両ロータの回転中心13,23を結ぶ線分より回転方向の上には張り出さず、下半域にのみ形成される。これは、線分より上の領域は吸入過程の作動室の端面が通過するために、開口すると圧縮済みの高圧気体が吸入側に逆流するのを防ぐためである。同じ理由で線分より下の領域に舌のような形に張り出した舌状張り出し部9も吸入過程の作動室32の端面をふさぐために存在する。
【0036】
また、
図5は比較のため、特許文献1によるスクリュー圧縮機の
図4と同じ部分を描いたものである。
【0037】
さらに、
図6は時間を追って移動する作動室の様子と、それに伴う被圧縮気体ならびに油の吐き出しを模式的に示した断面図である。
【0038】
図6を用いて吐出過程の最終段階を時間を追って説明する。一般的に、油冷式スクリュー圧縮機は、被圧縮気体と油が混合され閉じ込めた作動室が圧縮機中に形成される。この作動室容積が縮小することで圧縮がなされ、所定の昇圧が完了して吐出ポートが開き、被圧縮気体と油が吐出される。作動室は容積縮小が続き0となり消滅するが、吐出ポートの開口面積も次第に縮小する。
図6(a)に示すように吐出過程にある作動室37は右方向に移動しながら内容積を縮小しつつあり、被圧縮気体を吐出ポートから吐き出し続ける。このとき、作動室内に注入された油8は被圧縮気体よりも密度が大きいため、移動する作動室内においては後端に溜まりがちである。吐き出しが進んで(b)の状態では吐出過程にある作動室37の内部はほとんど油8だけになる。油8の粘性は被圧縮気体の粘性よりも大きいものの吐出ポート6の開口面積は十分に確保されている。また、作動室の上半分は吐出ポートに直接開いていないものの、下側に流れたのちに障害がほとんどなく吐出される。その理由は上半分の奥方向寸法が非常に小さなものとなっており、容積的には微小であるためである。さらに、(c)の状態では作動室の全域が吐出ポート6に面しており、障害無く吐き出される。すなわち、本実施例では、作動室は上半域が先に消滅し、下半域に溜まっている油だけを吐き出せばよいので、吐出抵抗を低減できる。
【0039】
図6(c)の状態を端面方向から見た図が
図4である。吐出過程にある作動室37は非常に薄い三日月形状になっているが全域が吐出ポート6の輪郭線の内側にあり、吐き出しに支障ないことが明確である。このあと、吐出過程にある作動室37は消滅するまで吐出ポート6の輪郭線の内側にとどまるため、最後の油まで円滑に吐き出されることになる。
【0040】
比較するために、従来例における同じ吐出の最終段階を
図7で説明する。
図7(a)の状態で吐出過程にある作動室39の後端に油8が溜まりやすいのは同じである。ただし、後端の形は異なり、最後端は雌雄ロータ1,2の中心線を含む面の上まで出ている。このため、吐き出しが進んで(b)の状態になると、上方にもまだある程度の油が残っており、吐出ポート6が下半分にしかないことから、吐き出すべき油の量に対する開口面積が小さいため、吐き出し抵抗が大きくなり、油の圧力が急上昇してしまう。さらに、(c)の状態になると、その影響がさらに拡大する。
【0041】
図7(c)の状態をロータの端面方向から見た図が
図5である。吐出過程にある作動室39は幅は細いが縦に長い三日月形状であるため、中に残る油の量も
図4の場合よりも多い。それにもかかわらず、吐出ポート6に開口している部分は吐出過程にある作動室39の下の方のみなので、吐き出し抵抗が大きい。すなわち、従来の作動室では、作動室が上下同時に消滅するので、上半分にあった油は、いったん下に移動してから吐出ポートを通じて吐出されていた。
【0042】
このように従来の歯形では、吐き出し抵抗が本実施例よりも大きいにもかかわらず、作動室は確実に容積を減少するため、中にある油の圧力は必然的に急上昇する。この圧力はロータ歯面に作用し、ロータを駆動するためのトルクの上昇につながる。油の圧力が作用する面積こそ小さいものの、圧力が高いためにエネルギ損失は測定誤差や無視できるレベルを超える。
【0043】
これに対して、本実施例によれば、消滅寸前の作動室は雌雄歯形の中心を結ぶ線から下半分の領域のみに存在するようになり、作動室容積に対する開口面積が大きくとれる。これにより、油の吐出が円滑になり、消滅直前の作動室の内圧の急上昇を防止できる。したがって、ロータを駆動するトルクを低減でき、回転を与えるモータの消費電力やエンジンの燃料消費を低減できるため、エネルギ効率が高く省エネに優れた油冷式スクリュー圧縮機を実現することができる。
【0044】
なお、輪郭線の形状において、ここで定義しない範囲については本発明の本質である「作動室消滅寸前の油の円滑な排出」には関わらない。
【0045】
以上実施例について説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。