(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
ナノ細孔センサーで使用するための脂質二重層を形成する方法であって、前記方法は、
(a)材料層を有する電極を含むフローチャネルに緩衝溶液を方向付けることであって、前記緩衝溶液は、導電性であり、前記材料層は、1種または複数の脂質を含む、ことと、
(b)前記緩衝溶液と、前記材料層とを接触させることと、
(c)前記電極を通る電流を測定することにより、前記材料層の少なくとも一部が、前記電極に隣接して脂質二重層を形成しているか否かを決定することと、
(d)(c)の決定に基づいて、前記電極に刺激を加えることにより、前記材料層の前記少なくとも一部が前記電極に隣接して前記脂質二重層を形成するように誘導することとを含む、方法。
(項目2)
(c)において、1種または複数の電圧が前記電極に加えられる、項目1に記載の方法。(項目3)
前記電圧が、前記電極の上方の前記二重層を破壊または崩壊させるように選択される、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記刺激が、前記電極の表面の上方の液体の流れ、前記電極の表面の上方の1種または複数の異なる液体の連続的な流れ、前記電極の表面の上方の1つまたは複数の気泡の流れ、電気パルス、ソニケーションパルス、圧力パルス、または音パルスのうち少なくとも1つを含む、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記材料層が、1種または複数のポリンタンパク質と、界面活性剤の臨界ミセル濃度未満の濃度の1種または複数の界面活性剤とを含む、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記フローチャネルが、複数の電極を含み、前記複数の電極が、前記電極を含む、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記刺激が、前記複数の電極に同時に加えられる、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記材料層が、少なくとも2種の脂質を含む、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記材料層が、ポアタンパク質を含む、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記ポアタンパク質が、mycobacterium smegmatisのポリンA(MspA)、α溶血素、smegmatisのポリンA(MspA)もしくはα溶血素のうち少なくとも1つと少なくとも70%の相同性を有する任意のタンパク質、またはそれらの任意の組合せである、項目9に記載の方法。
(項目11)
(d)の後に、前記電極を通して電気刺激を加えることにより、前記脂質二重層における前記ポアタンパク質の挿入を容易にすることをさらに含む、項目9に記載の方法。
(項目12)
前記脂質二重層および前記ポアタンパク質が共に、約1GΩまたはそれよりも低い抵抗を示す、項目11に記載の方法。
(項目13)
ポアタンパク質のない前記脂質二重層が、約1GΩよりも大きい抵抗を示す、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記緩衝溶液の圧力は、前記材料層が、前記刺激なしで前記脂質二重層を形成するように選択される、項目1に記載の方法。
(項目15)
(a)の前に、前記材料層を前記電極に隣接して作り出すことをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目16)
前記作り出すことが、
前記1種または複数の脂質を含む脂質溶液を、前記フローチャネルに方向付けることと、
前記電極上に前記材料層を堆積させることと
を含む、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記脂質溶液が、有機溶媒を含む、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記有機溶媒が、デカンを含む、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記緩衝溶液が、イオン溶液を含む、項目1に記載の方法。
(項目20)
前記イオン溶液が、塩化物陰イオンを含む、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記イオン溶液が、酢酸ナトリウムを含む、項目20に記載の方法。
(項目22)
(a)の後に、
気泡を前記フローチャネルに方向付けることと、
前記気泡と前記材料層とを接触させることにより、前記材料層を滑らかにすることおよび/または薄くすることと
をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目23)
前記気泡が、蒸気の気泡である、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記材料層に隣接するポアタンパク質溶液を流動させることにより、前記材料層にポアタンパク質を堆積させることと、
前記フローチャネルにおけるイオン溶液および/または別の気泡を用いて前記材料層を薄くすることと
をさらに含む、項目18に記載の方法。
(項目25)
前記1種または複数の脂質が、ジフタノイルホスファチジルコリン(DPhPC)、パルミトイル−オレオイル−ホスファチジル−コリン(POPC)、ジオレオイル−ホスファチジル−メチルエステル(DOPME)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、およびスフィンゴミエリンからなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目26)
前記フローチャネルに曝露される前記電極の表面が、親水性である、項目1に記載の方法。
(項目27)
前記電極が、フローチャネルの1つまたは複数の疎水性表面に隣接して堆積させられる、項目1に記載の方法。
(項目28)
前記1つまたは複数の疎水性表面が、シラン処理されている、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記フローチャネルが、チップに形成される、項目1に記載の方法。
(項目30)
前記電極が、前記フローチャネル表面に形成される、項目1に記載の方法。
(項目31)
前記フローチャネルが、密閉されている、項目1に記載の方法。
(項目32)
前記1つまたは複数のフローチャネルが、複数のフローチャネルを含む、項目1に記載の方法。
(項目33)
前記複数のフローチャネルが、前記複数のフローチャネルに沿ったガイドレールを用いて流体的に互いに分離されている、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記電極が、個々にアドレス可能な電極である、項目1に記載の方法。
(項目35)
(c)が、前記材料層の少なくとも一部が前記電極の全部または一部の上方に脂質二重層を形成しているか否かを決定することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目36)
ナノ細孔感知装置において使用するための脂質二重層を形成する方法であって、前記方法は、
(a)複数の電極と前記複数の電極に隣接する材料層とを含むチップを提供することであって、前記材料層の各々は、脂質を含む、ことと、
(b)前記材料層と緩衝溶液とを接触させることであって、前記緩衝溶液は、導電性である、ことと、
(c)前記複数の電極の少なくともサブセットに刺激を加えることにより、前記材料層が前記複数の電極に隣接して脂質二重層を形成するように誘導することと、
(d)必要に応じて、前記複数の電極に加えられた約−100ミリボルト(mV)〜−1000mVの電圧パルスで、前記複数の電極の少なくとも約20%が非活性化するまでステップ(b)および(c)を繰り返すことと
を含む、方法。
(項目37)
前記複数の電極が、各々、個々にアドレス可能である、項目36に記載の方法。
(項目38)
工程(b)および(c)が、必要に応じて、前記加えられた電圧パルスで、前記複数の電極の少なくとも約60%が非活性化するまで繰り返される、項目36に記載の方法。
(項目39)
前記加えられた電圧パルスが、約−400mV〜−700mVである、項目36に記載の方法。
(項目40)
前記刺激が、前記電極の表面の上方の液体の流れ、前記電極の表面の上方の1種または複数の異なる液体の連続的な流れ、前記電極の表面の上方の1つまたは複数の気泡の流れ、電気パルス、ソニケーションパルス、圧力パルス、または音パルスのうち少なくとも1つを含む、項目36に記載の方法。
(項目41)
前記材料層の各々が、ポアタンパク質を含む、項目36に記載の方法。
(項目42)
前記ポアタンパク質が、mycobacterium smegmatisのポリンA(MspA)、α溶血素、smegmatisのポリンA(MspA)もしくはα溶血素のうち少なくとも1つと少なくとも70%の相同性を有する任意のタンパク質、またはそれらの任意の組合せである、項目41に記載の方法。
(項目43)
(c)の後に、前記電極の少なくともサブセットを通して電気刺激を加えることにより、前記脂質二重層の各々における前記ポアタンパク質の挿入を容易にすることをさらに含む、項目41に記載の方法。
(項目44)
(a)が、
前記複数の電極と脂質溶液とを接触させることにより、前記材料層を形成すること
をさらに含み、前記脂質溶液が、前記脂質を含む、項目36に記載の方法。
(項目45)
前記脂質溶液が、有機溶媒を含む、項目44に記載の方法。
(項目46)
前記有機溶媒が、デカンを含む、項目45に記載の方法。
(項目47)
前記緩衝溶液が、イオン溶液を含む、項目36に記載の方法。
(項目48)
前記イオン溶液が、塩化物陰イオンを含む、項目47に記載の方法。
(項目49)
前記イオン溶液が、酢酸ナトリウムを含む、項目48に記載の方法。
(項目50)
ステップ(a)と(b)との間に、気泡を前記材料層の各々に隣接するように方向付けることをさらに含む、項目36に記載の方法。
(項目51)
前記電極が、前記チップの1つまたは複数のフローチャネルにおいて密閉されている、項目36に記載の方法。
(項目52)
標的分子を検出する方法であって、前記方法は、
(a)感知電極に隣接して、またはその近傍に堆積させられた、膜中にナノ細孔を含むチップを提供することと、
(b)核酸分子を前記ナノ細孔に方向付けることであって、前記核酸分子は、レポーター分子と会合しており、前記核酸分子は、アドレス領域とプローブ領域とを含み、前記レポーター分子は、前記プローブ領域で前記核酸分子と会合しており、前記レポーター分子は、標的分子にカップリングされている、ことと、
(c)前記核酸分子が前記ナノ細孔に方向付けられている間、前記アドレス領域を配列決定することにより、前記アドレス領域の核酸配列を決定することと、
(d)コンピュータプロセッサを用いて、(c)で決定された前記アドレス領域の核酸配列に基づき前記標的分子を識別することと
を含む、方法。
(項目53)
(b)におけるプローブ分子が、前記核酸分子の前記プローブ領域へのレポーター分子の結合によって、細孔中に保持される、項目52に記載の方法。
(項目54)
前記ナノ細孔を通る前記核酸分子の前記進行速度が減少させられるときに、前記核酸分子の最大3つの塩基が識別される、項目53に記載の方法。
(項目55)
前記ナノ細孔を通る前記核酸分子の前記進行速度が減少させられるときに、前記核酸分子の最大5つの塩基が識別される、項目53に記載の方法。
(項目56)
前記レポーター分子と前記ナノ細孔との相互作用のときに、前記ナノ細孔を通る前記核酸分子の前記進行速度が、減少させられる、項目53に記載の方法。
(項目57)
(b)において、前記ナノ細孔を通る前記核酸分子の進行速度が、停止させられるか、または失速させられる、項目52に記載の方法。
(項目58)
(d)の前に、前記ナノ細孔を通る前記核酸分子の進行速度が減少させられたか否かを決定することをさらに含む、項目52に記載の方法。
(項目59)
(d)において、前記ナノ細孔を通る前記核酸分子の前記進行速度が減少させられていると決定される場合、前記標的分子が識別される、項目52に記載の方法。
(項目60)
(d)において、前記標的分子が、(i)前記アドレス領域および会合部の核酸配列と、(ii)前記ナノ細孔を通る前記核酸分子の進行速度との相関に基づき識別される、項目52に記載の方法。
(項目61)
前記ナノ細孔が、個々にアドレス可能である、項目52に記載の方法。
(項目62)
前記核酸分子が、一本鎖である、項目52に記載の方法。
(項目63)
前記ナノ細孔中に前記核酸分子を捕獲することをさらに含む、項目52に記載の方法。
(項目64)
前記核酸分子が、前記核酸分子の末端部分の1つまたは複数に形成されているバルキーな構造を用いて、前記ナノ細孔中に捕獲される、項目63に記載の方法。
(項目65)
前記核酸分子が、前記核酸分子の末端部分の1つまたは複数に取り付けられているバルキーな構造を用いて前記ナノ細孔中に捕獲される、項目63に記載の方法。
(項目66)
前記ナノ細孔を通る前記核酸分子の流れの方向を逆転させることをさらに含む、項目52に記載の方法。
(項目67)
前記核酸分子の流れの方向を逆転させると、前記アドレス領域の少なくとも一部を再度配列決定することをさらに含む、項目66に記載の方法。
(項目68)
前記レポーター分子が、前記レポーター分子の末端部分に抗体またはアプタマーを含み、前記抗体またはアプタマーは、前記標的分子と会合している、項目52に記載の方法。
(項目69)
アドレス領域およびプローブ領域が、公知の核酸配列を有する、項目52に記載の方法。(項目70)
前記レポーター分子が、前記プローブ領域の核酸配列に相補的な核酸配列を含む、項目52に記載の方法。
(項目71)
前記核酸分子が、前記のように方向付けられる前に前記レポーター分子と会合している、項目52に記載の方法。
(項目72)
(b)の前に、前記核酸分子が、前記ナノ細孔を通って進み、(b)において、前記レポーター分子が、前記ナノ細孔を通って進んだ前記核酸分子と会合している、項目52に記載の方法。
概要
ナノ細孔は、核酸分子を包含するポリマーを配列決定して、および/または例えばタンパク質などの分子を検出するのに使用することができる。ポリマーの例としては、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)が挙げられる。これを考慮して、核酸分子の識別、核酸の配列決定、および分子検出のための改良方法への必要性が認識されている。本明細書では、センサーの近傍で、脂質二重層(また本明細書では「二重層」ともいう)を形成して、二重層にナノ細孔を挿入する方法を説明する。
【0005】
いくつかの例において、ポリマー(例えば核酸)がナノ細孔を通過すると、ポリマーの様々なサブユニット(例えば、核酸のアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)、および/またはウラシル(U)塩基)が、ナノ細孔を通って流れる電流に影響を与える可能性がある。本明細書において説明されているように、様々なサブユニットは、ナノ細孔および/または膜全体に加えられる複数の電圧で電流を測定することによって識別することができる。
【0006】
一態様において、ナノ細孔センサーで使用するための膜(例えば脂質二重層)を形成する方法は、(a)材料層を有する電極を含むフローチャネルに緩衝溶液を方向付けること、ここで緩衝溶液は導電性であり、材料層は、1種または複数の膜の成分(例えば脂質)を含む;(b)緩衝溶液と材料層とを接触させること;(c)電極を通る電流を測定して、材料層の少なくとも一部が、電極の全部または一部の上方に膜(例えば脂質二重層)を形成しているか否かを決定すること;および(d)(c)の決定に基づいて、電極に刺激を加えて、材料層の少なくとも一部が電極に隣接して膜を形成するように誘導することを含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、(c)において、1種または複数の電圧が電極に加えられる。
【0008】
いくつかの実施形態において、電圧は、電極の上方の二重層を破壊する程度に高い。
【0009】
いくつかの実施形態において、刺激は、全ての電極に同時に加えられる。
【0010】
いくつかの実施形態において、刺激は、電極表面上方の液体の流れ、電極表面上方の1種または複数の異なる液体の連続的な流れ、電極表面上方の1つまたは複数の気泡の流れ、電気パルス、ソニケーションパルス、圧力パルス、または音パルスのうち少なくとも1つを含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、1種または複数のポリンタンパク質を含む材料層は、1種または複数の界面活性剤を、界面活性剤の臨界ミセル濃度未満の濃度で含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、フローチャネルは、複数の電極を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、材料層は、脂質を含む。いくつかの場合において、材料層は、少なくとも2種、3種、4種、5種、または10種の脂質を含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、材料層は、ポアタンパク質(pore protein)を含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、ポアタンパク質は、mycobacterium smegmatisのポリンA(MspA)、α溶血素、smegmatisのポリンA(MspA)もしくはα溶血素のうち少なくとも1つと少なくとも70%の相同性を有する任意のタンパク質、またはそれらの任意の組合せである。
【0016】
いくつかの実施形態において、本方法は、(d)の後に、電極を通して電気刺激を加えて、膜(例えば脂質二重層)へのポアタンパク質の挿入を容易にすることをさらに含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、膜およびポアタンパク質は共に、約1GΩまたはそれよりも低い抵抗を示す。
【0018】
いくつかの実施形態において、ポアタンパク質のない膜は、約1GΩよりも大きい抵抗を示す。
【0019】
いくつかの実施形態において、緩衝溶液の圧力は、材料層が、刺激なしで膜を形成するように選択される。
【0020】
いくつかの実施形態において、本方法は、(a)の前に、材料層を電極に隣接して作り出すことをさらに含む。
【0021】
いくつかの実施形態において、作り出す作業は、1種または複数の脂質を含む脂質溶液をフローチャネルに方向付けること;および電極上に材料層を堆積させることを含む。
【0022】
いくつかの実施形態において、脂質溶液は、有機溶媒を含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、有機溶媒は、デカンを含む。
【0024】
いくつかの実施形態において、緩衝溶液は、イオン溶液を含む。
【0025】
いくつかの実施形態において、イオン溶液は、塩化物陰イオンを含む。
【0026】
いくつかの実施形態において、イオン溶液は、酢酸ナトリウムを含む。
【0027】
いくつかの実施形態において、本方法は、(a)の後に、気泡をフローチャネルに方向付けること;および気泡と材料層とを接触させて、材料層を滑らかにする、および/または薄くすることをさらに含む。
【0028】
いくつかの実施形態において、気泡は、蒸気の気泡である。
【0029】
いくつかの実施形態において、本方法は、材料層に隣接するポアタンパク質溶液を流動させて、材料層にポアタンパク質を堆積させること;およびフローチャネルにおけるイオン溶液および/または別の気泡を用いて材料層を薄くすることをさらに含む。
【0030】
いくつかの実施形態において、脂質は、ジフタノイルホスファチジルコリン(DPhPC)、パルミトイル−オレオイル−ホスファチジル−コリン(POPC)、ジオレオイル−ホスファチジル−メチルエステル(DOPME)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、およびスフィンゴミエリンからなる群から選択することができる。
【0031】
いくつかの実施形態において、フローチャネルに曝露される電極表面は、親水性である。
【0032】
いくつかの実施形態において、電極は、フローチャネルの1つまたは複数の疎水性表面に隣接して堆積させられる。
【0033】
いくつかの実施形態において、1つまたは複数の疎水性表面は、シラン処理されている。
【0034】
いくつかの実施形態において、フローチャネルは、チップに形成される。
【0035】
いくつかの実施形態において、電極は、フローチャネル表面に形成される。
【0036】
いくつかの実施形態において、フローチャネルは、密閉されている。
【0037】
いくつかの実施形態において、1つまたは複数のフローチャネルは、複数のフローチャネルを含む。
【0038】
いくつかの実施形態において、複数のフローチャネルが、複数のフローチャネルに沿ったガイドレールにより流体的に互いに分離されている。
【0039】
いくつかの実施形態において、電極は、個々にアドレス可能な電極である。
【0040】
一態様において、ナノ細孔感知装置において使用するための膜(例えば脂質二重層)を形成する方法は、(a)複数の電極と複数の電極に隣接する材料層とを含むチップを提供すること、ここで材料層の各々は、膜の1つまたは複数の成分(例えば脂質)を含む;(b)材料層と緩衝溶液とを接触させること、ここで緩衝溶液は、導電性である;(c)複数の電極の少なくともサブセットに刺激を加えて、材料層が複数の電極に隣接して膜を形成するように誘導すること;ならびに(d)必要に応じて、複数の電極に加えられた約−100ミリボルト(mV)〜−1000mVの電圧パルスで、複数の電極の少なくとも約20%が非活性化するまでステップ(b)および(c)を繰り返すことを含む。
【0041】
いくつかの実施形態において、複数の電極は、各々、個々にアドレス可能である。
【0042】
いくつかの実施形態において、ステップ(b)および(c)は、必要に応じて、加えられた電圧パルスで、複数の電極の少なくとも約60%が非活性化するまで繰り返される。
【0043】
いくつかの実施形態において、加えられた電圧パルスは、約−400mV〜−700mVである。
【0044】
いくつかの実施形態において、刺激は、電極表面上方の液体の流れ、電極表面上方の1種または複数の異なる液体の連続的な流れ、電極表面上方の1つまたは複数の気泡の流れ、電気パルス、ソニケーションパルス、圧力パルス、または音パルスのうち少なくとも1つを含む。
【0045】
いくつかの実施形態において、材料層の各々は、ポアタンパク質を含む。
【0046】
いくつかの実施形態において、ポアタンパク質は、mycobacterium smegmatisのポリンA(MspA)、α溶血素、smegmatisのポリンA(MspA)もしくはα溶血素の少なくとも1つと少なくとも70%の相同性を有する任意のタンパク質、またはそれらの任意の組合せである。
【0047】
いくつかの実施形態において、本方法は、(c)の後に、電極の少なくともサブセットを通して電気刺激を加えて、脂質二重層の各々におけるポアタンパク質の挿入を容易にすることをさらに含む。
【0048】
いくつかの実施形態において、本方法は、複数の電極と脂質溶液とを接触させて、材料層を形成することをさらに含み、ここで脂質溶液は、脂質を含む。
【0049】
いくつかの実施形態において、脂質溶液は、有機溶媒を含む。
【0050】
いくつかの実施形態において、有機溶媒は、デカンを含む。
【0051】
いくつかの実施形態において、緩衝溶液は、イオン溶液を含む。
【0052】
いくつかの実施形態において、イオン溶液は、塩化物陰イオンを含む。
【0053】
いくつかの実施形態において、イオン溶液は、酢酸ナトリウムを含む。
【0054】
いくつかの実施形態において、本方法は、ステップ(a)と(b)との間に、気泡を材料層の各々に隣接するように方向付けることをさらに含む。
【0055】
いくつかの実施形態において、電極は、チップの1つまたは複数のフローチャネルにおいて密閉されている。
【0056】
一態様において、標的分子を検出する方法は、(a)感知電極に隣接して、またはその近傍に堆積させられた、膜中にナノ細孔を含むチップを提供すること;(b)核酸分子をナノ細孔に方向付けること、ここで核酸分子は、レポーター分子と会合しており、核酸分子は、アドレス領域とプローブ領域とを含み、レポーター分子は、プローブ領域で核酸分子と会合しており、レポーター分子は、標的分子にカップリングされている;(c)核酸分子をナノ細孔に方向付けながらアドレス領域を配列決定することにより、アドレス領域の核酸配列を決定すること;および(d)コンピュータプロセッサを用いて、(c)で決定されたアドレス領域の核酸配列に基づき標的分子を識別することを含む。
【0057】
いくつかの実施形態において、(b)において、(b)におけるプローブ分子は、核酸分子のプローブ領域へのレポーター分子の結合によって、細孔中に保持される。
【0058】
いくつかの実施形態において、ナノ細孔を通る核酸分子の進行速度が減少するときに、核酸分子の最大3つの塩基が識別される。
【0059】
いくつかの実施形態において、ナノ細孔を通る核酸分子の進行速度が減少するときに、核酸分子の最大5つの塩基が識別される。
【0060】
いくつかの実施形態において、レポーター分子とナノ細孔との相互作用のときに、ナノ細孔を通る核酸分子の進行速度が減少する。
【0061】
いくつかの実施形態において、(b)において、ナノ細孔を通る核酸分子の進行速度は、停止させられるか、または失速させられる。
【0062】
いくつかの実施形態において、本方法は、(d)の前に、ナノ細孔を通る核酸分子の進行速度が減少したか否かを決定することをさらに含む。
【0063】
いくつかの実施形態において、(d)において、ナノ細孔を通る核酸分子の進行速度が減少させられていると決定される場合、標的分子が識別される。
【0064】
いくつかの実施形態において、(d)において、標的分子は、(i)アドレス領域および会合部の核酸配列と、(ii)ナノ細孔を通る核酸分子の進行速度との相関に基づき識別される。
【0065】
いくつかの実施形態において、ナノ細孔は、個々にアドレス可能である。
【0066】
いくつかの実施形態において、核酸分子は、一本鎖である。
【0067】
いくつかの実施形態において、本方法は、ナノ細孔中に核酸分子を捕獲することをさらに含む。
【0068】
いくつかの実施形態において、核酸分子は、核酸分子の末端部分の1つまたは複数に形成されているバルキーな構造を用いて、ナノ細孔中に捕獲される。
【0069】
いくつかの実施形態において、核酸分子は、核酸分子の末端部分の1つまたは複数に取り付けられているバルキーな構造を用いてナノ細孔中に捕獲される。
【0070】
いくつかの実施形態において、本方法は、ナノ細孔を通る核酸分子の流れの方向を逆転させることをさらに含む。
【0071】
いくつかの実施形態において、本方法は、核酸分子の流れの方向を逆転させると、アドレス領域の少なくとも一部を再度配列決定することをさらに含む。
【0072】
いくつかの実施形態において、レポーター分子は、レポーター分子の末端部分に抗体またはアプタマーを含み、ここで抗体またはアプタマーは、標的分子と会合している。
【0073】
いくつかの実施形態において、アドレス領域およびプローブ領域は、公知の核酸配列を有する。
【0074】
いくつかの実施形態において、レポーター分子は、プローブ領域の核酸配列に相補的な(complimentary)核酸配列を含む。
【0075】
いくつかの実施形態において、核酸分子は、方向付けられる前にレポーター分子と会合している。
【0076】
いくつかの実施形態において、(b)の前に、核酸分子はナノ細孔を通って進み、(b)において、レポーター分子は、ナノ細孔を通って進んだ核酸分子と会合している。
【0077】
以下の詳細な説明は本開示の例示的な実施形態のみを示し、説明しており、前記詳細な説明から、当業者であれば本開示の追加の態様および利点が容易に明白になるであろう。認識しているであろうが、本開示は、他の異なる実施形態であってもよく、その数々の詳細は、いずれも本開示から逸脱することなく、様々な明白な観点で改変することができる。したがって、図面および説明は、事実上例示的なものであるとみなされ、限定的なものであるとはみなされない。
【0078】
参考文献の組み込み
本明細書で述べられた全ての刊行物、特許、および特許出願は、それぞれ個々の刊行物、特許、または特許出願が、具体的にかつ個々に参照により組み入れられることを提示されたのと同じ程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【発明を実施するための形態】
【0118】
本明細書で本発明の様々な実施形態を示し説明するが、このような実施形態は単なる一例として示されたことは当業者には明白であろう。当業者であれば、本発明から逸脱することなく多数のバリエーション、変化、および置き換えを想到することができる。本明細書において説明される本発明の実施形態に対して様々な代替物が採用され得るものと理解されるものとする。
【0119】
用語「ナノ細孔」は、本明細書で使用される場合、一般的に、膜に形成された、または別の方法で提供された細孔、チャネルまたは通路を指す。膜は、例えば脂質二重層などの有機性の膜、または例えば高分子材料から形成された膜などの合成膜であってもよい。膜は、高分子材料であってもよい。ナノ細孔は、例えば、相補型金属酸化物半導体(CMOS)または電界効果トランジスタ(FET)回路などの感知回路または感知回路にカップリングされた電極に隣接して、またはその近傍に堆積させられていてもよい。いくつかの例において、ナノ細孔は、0.1ナノメートル(nm)から約1000nm程度の特徴的な幅または直径を有する。いくつかのナノ細孔は、タンパク質である。タンパク質ナノ細孔の例は、アルファ溶血素である。
【0120】
用語「ポリメラーゼ」は、本明細書で使用される場合、一般的に、重合反応を触媒することができるあらゆる酵素または他の分子触媒を指す。ポリメラーゼの例としては、これらに限定されないが、核酸ポリメラーゼまたはリガーゼなどが挙げられる。ポリメラーゼは、重合酵素であってもよい。
【0121】
用語「核酸」は、本明細書で使用される場合、一般的に、1つまたは複数の核酸サブユニットを含む分子を指す。核酸は、アデノシン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)、およびウラシル(U)、またはそれらの変異体から選択される1つまたは複数のサブユニットを包含していてもよい。ヌクレオチドは、A、C、G、TもしくはU、またはそれらの変異体を包含していてもよい。ヌクレオチドは、成長中の核酸鎖に取り込むことができるあらゆるサブユニットを包含していてもよい。このようなサブユニットは、A、C、G、T、もしくはU、または1つまたは複数の相補的A、C、G、TもしくはUに特異的な、またはプリン(すなわち、AもしくはG、またはそれらの変異体)もしくはピリミジン(すなわち、C、TもしくはU、またはそれらの変異体)に相補的な他のあらゆるサブユニットであってもよい。サブユニットは、個々の核酸塩基または塩基の群(例えば、AA、TA、AT、GC、CG、CT、TC、GT、TG、AC、CA、またはそれらのウラシル対応物)の解析を容易にすることができる。いくつかの例において、核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、またはそれらの変異体もしくは誘導体である。核酸は、一本鎖の形態であってもよいし、または二本鎖の形態であってもよい。
【0122】
用語「ポリヌクレオチド」または「オリゴヌクレオチド」は、本明細書で使用される場合、一般的に、1つまたは複数のヌクレオチドを含むポリマーまたはオリゴマーを指す。ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、DNAポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド、RNAポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド、またはDNAポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチドおよび/もしくはRNAポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチドの1つまたは複数のセクションを含んでいてもよい。
【0123】
一般的に本明細書において使用されるように、「ヌクレオチド」または「塩基」は、一次ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体であってもよい。一次ヌクレオチドは、デオキシアデノシン一リン酸(dAMP)、デオキシシチジン一リン酸(dCMP)、デオキシグアノシン一リン酸(dGMP)、デオキシチミジン一リン酸(dTMP)、アデノシン一リン酸(AMP)、シチジン一リン酸(CMP)、グアノシン一リン酸(GMP)またはウリジン一リン酸(UMP)である。ヌクレオチド類似体は、一次核酸塩基(A、C、G、T、およびU)、デオキシリボース/リボース構造、一次ヌクレオチドのリン酸基、またはそれらのあらゆる組合せに改変を有する一次ヌクレオチドの類似体またはミミックである。例えば、ヌクレオチド類似体は、自然に存在する、または人工の改変された塩基を有していてもよい。改変された塩基の例としては、これらに限定されないが、メチル化核酸塩基、改変されたプリン塩基(例えばヒポキサンチン、キサンチン、7−メチルグアニン、イソdG)、改変されたピリミジン塩基(例えば5,6−ジヒドロウラシルおよび5−メチルシトシン、イソdC)、万能な塩基(例えば3−ニトロピロールおよび5−ニトロインドール)、非結合性の塩基ミミック(例えば4−メチルベンゾイミダゾール(methylbezimidazole)および2,4−ジフルオロトルエン(diflurotoluene)またはベンゼン)、ならびに非塩基(脱塩基ヌクレオチド、この場合、ヌクレオチド類似体は、塩基を有さない)などが挙げられる。改変されたデオキシリボース(例えばジデオキシグアノシン、ジデオキアデノシン、ジデオキチミジン、およびジデオキシチジンなどのジデオキシヌクレオシド)、ならびに/またはリン酸構造(合わせて主鎖構造と称される)を有するヌクレオチド類似体の例としては、これらに限定されないが、グリコールヌクレオチド、モルホリノ、およびロックトヌクレオチドが挙げられる。
【0124】
用語「試験ポリマー」は、本明細書で使用される場合、一般的に、検出目的でナノ細孔を通過するか、またはナノ細孔に隣接するポリマー分子を指す。試験ポリマーは、類似の化学構造を有する複数のビルディングブロックを含んでいてもよい。試験ポリマーの例としては、これらに限定されないが、試験ポリヌクレオチド、試験ペプチド/タンパク質、および試験炭水化物などが挙げられる。試験ポリヌクレオチドは、一本鎖試験ポリヌクレオチド(すなわち、ss試験ポリヌクレオチド)であってもよいし、または二本鎖試験ポリヌクレオチド(すなわち、ds試験ポリヌクレオチド)であってもよい。ビルディングブロックの例としては、これらに限定されないが、ヌクレオチド、アミノ酸、および単糖などが挙げられる。
【0125】
用語「試料ポリヌクレオチド」は、本明細書で使用される場合、一般的に、対象のポリヌクレオチド、例えば一本鎖(「ss」)試料ポリヌクレオチド(ss試料ポリヌクレオチド)など、または二本鎖(「ds」)試料ポリヌクレオチド(すなわち、ds試料ポリヌクレオチド、例えばds試料DNA、ds試料RNA、およびds試料DNA−RNAハイブリッド)などを含む可能性がある核酸分子を指す。試料ポリヌクレオチドは、生体試料から得られた天然ポリヌクレオチドであってもよいし、または合成ポリヌクレオチドであってもよい。合成ポリヌクレオチドは、天然ポリヌクレオチドの改変により得られたポリヌクレオチドであってもよく、例えばポリヌクレオチドの識別および/または配列決定での使用が意図された前処理済みのポリヌクレオチドなどである。このような前処理の例としては、これらに限定されないが、試料ポリヌクレオチドの望ましいフラグメントの濃縮、対になった末端のプロセシング、メイテッドペアの読み取りプロセシング、後成的な前処理、例えば二硫化物での処置、PCRによるフォーカスフラグメント分析(focused fragment analysis)、PCRフラグメント配列決定、および短いポリヌクレオチドフラグメントの分析などが挙げられる。
【0126】
用語「試験ポリヌクレオチド」は、本明細書で使用される場合、一般的に、検出目的でナノ細孔を通過するか、またはナノ細孔に隣接するポリヌクレオチド分子を指す。
試験ポリヌクレオチドは、一本鎖試験ポリヌクレオチド(すなわち、ss試験ポリヌクレオチド)であってもよいし、二本鎖試験ポリヌクレオチド(すなわち、ds試験ポリヌクレオチド、例えばds試験DNA、ds試験RNA、およびds試験DNA−RNAハイブリッドなど)であってもよい。ss試験ポリヌクレオチドは、本明細書で使用される場合、本明細書において説明される方法でスピードバンプにより結合しているssポリヌクレオチドのセクションを含む。ss試験ポリヌクレオチドは、試料ポリヌクレオチドおよび他の機能的な部分(例えば、前バルキーな構造、識別子、および単離用タグ)をさらに含んでいてもよい。
【0127】
用語「前バルキーな構造」は、本明細書で使用される場合、一般的に、所定の条件下で(例えば、所定の温度で、所定の化合物(複数可)の存在/非存在下で)バルキーな構造を形成することができるポリヌクレオチド分子中の分子構造を指す。前バルキーな構造の例としては、オリゴヌクレオチド構造が挙げられる。前バルキーな構造は、ssポリヌクレオチドであってもよいし、またはdsポリヌクレオチドであってもよい。
【0128】
用語「バルキーな構造」は、本明細書で使用される場合、一般的に、ss試験ポリヌクレオチド分子中の前バルキーな構造から形成された構造(例えばヌクレオチド)を指す。作動条件が、試験ポリヌクレオチド分子を失速させることができる前バルキーな構造または他の構造にバルキーな構造が変換される別の条件に変わるまで、バルキーな構造は、作動条件で、ナノ細孔中で試験ポリヌクレオチド分子の速度を遅くするか、または失速させることができる。バルキーな構造の例としては、これらに限定されないが、例えばポリヌクレオチド二重鎖構造(RNA二重鎖、DNA二重鎖またはRNA−DNAハイブリッド)、ポリヌクレオチドヘアピン構造、マルチヘアピン構造、およびマルチアーム構造などの2次元および3次元構造などが挙げられる。他の実施形態において、前バルキーな構造は、前バルキーな構造に特異的なリガンドとの相互作用を介してバルキーな構造を形成する。このような前バルキーな構造/リガンド対の例としては、これらに限定されないが、ビオチン/ストレプトアビジン、抗原/抗体、および炭水化物/抗体などが挙げられる。
【0129】
一実施形態において、バルキーな構造は、オリゴヌクレオチドの前バルキーな構造、例えば、ss試験ポリヌクレオチド分子中の前バルキーな構造から形成されたオリゴヌクレオチド構造から形成される。ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドのバルキーな構造の例としては、これらに限定されないが、ヘアピン核酸鎖、ハイブリダイズしたアンチセンス核酸鎖、自己ハイブリダイズした複数のアームおよび3次元DNAまたはRNA分子などが挙げられる。他の実施形態において、バルキーな構造は、本明細書において説明されているような前バルキーな構造/リガンド対の相互作用を介して形成される。
【0130】
用語「二重鎖」は、本明細書で使用される場合、一般的に、二重鎖構造、セクション、領域またはセグメントを指す。二重鎖としては、RNA二重鎖、DNA二重鎖またはDNA−RNA二重鎖構造、セクション、領域またはセグメントが挙げられる。
【0131】
用語「スピードバンプ」は、本明細書で使用される場合、一般的に、例えば試験ポリヌクレオチド分子の結合セグメントと複合体を形成するオリゴヌクレオチドなどの分子を指す。一例において、加えられた電位下で、試験ポリヌクレオチド分子がナノ細孔を通って移動するか、またはナノ細孔に隣接している場合、スピードバンプと結合セグメントとで形成された複合体は、ナノ細孔検出器が試験ポリヌクレオチド分子からシグナルを得られる程度に長い一時停止時間にわたり、ナノ細孔中の、またはそれに隣接する試験ポリヌクレオチド分子の速度を遅くするか、または失速させ、このシグナルは、試験ポリヌクレオチド分子に関する構造または配列情報を提供することができる。一時停止時間後、複合体は解離して、試験ポリヌクレオチド分子はナノ細孔を通って前方へ移動する。
【0132】
用語「公知のスピードバンプ」は、本明細書で使用される場合、一般的に、ss試験ポリヌクレオチド中の公知の配列に特異的に結合するスピードバンプを指す。ss試験ポリヌクレオチドにおける結合セグメント(公知の配列)は公知であるため、スピードバンプ構造も公知の可能性がある(例えば、ss試験ポリヌクレオチドにおける公知の配列に相補的である)。
【0133】
用語「ランダムなスピードバンプのプール」は、本明細書で使用される場合、一般的に、試験ポリヌクレオチド分子またはそれらのフラグメントの全てまたは実質的に全てのセクションに結合できるスピードバンプのコレクションを指す。ランダムなスピードバンプのプールの例は、全ての一次核酸塩基(A、T、C、GおよびU)と塩基対合する万能な核酸塩基を有するオリゴヌクレオチドを含む。ランダムなスピードバンプのプールの他の例は、一次核酸塩基のあらゆる可能な組合せを有する所定の長さのオリゴヌクレオチドを含む。ランダムなスピードバンプのプールの他の例は、一次核酸塩基と万能な核酸塩基との可能性のあるあらゆる組合せを有する所定の長さのオリゴヌクレオチドを含む。ランダムなスピードバンプのプールの他の例は、指定された位置に万能な核酸塩基を有し、他の位置に一次核酸塩基の全ての組合せを有するスピードバンプを含む。ランダムなスピードバンプの他の例は、ssスピードバンプの組合せであり、このssスピードバンプは、ss試験ポリヌクレオチドと二重鎖のセクションを形成し、その二重鎖のセクションがほぼ同じ融解温度を有する。これらのssスピードバンプは、同一または異なる長さを有していてもよいし、および/または同一または異なるヌクレオチドであってもよい。
【0134】
用語「ストッパー」は、本明細書で使用される場合、一般的に、試験ポリヌクレオチドとのストッパー−試験ポリヌクレオチド複合体を形成し、一時停止時間にわたるナノ細孔のくびれ領域の前でストッパー−試験ポリヌクレオチド複合体の流れを止めることができる構造を指す。ストッパーは、試験ポリヌクレオチドの一部、または別個の構造(例えば本明細書において説明されるスピードバンプ、およびヌクレオチドポリメラーゼの存在下で形成された試験ポリヌクレオチドのアンチセンス鎖)、または試験ポリヌクレオチドに結合して、場合により試験ポリヌクレオチドをナノ細孔を通って移動させることができる酵素であってもよい。
【0135】
用語「識別子」は、本明細書で使用される場合、一般的に、本明細書において説明される方法によって検出または識別することができる試験ポリヌクレオチド中の公知の配列または構造を指す。識別子の例としては、これらに限定されないが、方向識別子、参照シグナル識別子、試料源識別子、および試料識別子などが挙げられる。識別子は、識別可能な示差的な電気シグナルを提供する1つまたは複数のヌクレオチドまたは構造を含んでいてもよい。このようなヌクレオチドおよび構造の例としては、これらに限定されないが、イソdG、イソdC、メチル化ヌクレオチド、ロックト核酸、万能なヌクレオチド、および脱塩基ヌクレオチドなどが挙げられる。いくつかの実施形態において、脱塩基ヌクレオチドは、一次ヌクレオチドよりも強いシグナルを提供する。したがって、ナノ細孔によって検出された、脱塩基ヌクレオチドと一次ヌクレオチドの両方を含む配列に関する電気シグナルは、一次ヌクレオチドのみの配列から得られた電気シグナルよりも強烈なシグナルを提供する可能性がある。例えば、約25%の脱塩基ヌクレオチドを含む4〜5塩基の配列は、一次ヌクレオチドのみを含む4〜5塩基の配列の2倍強いシグナルを提供する可能性がある。脱塩基ヌクレオチドが多ければ多いほど、その配列は、より強い電気シグナルを有する。したがって、識別子は、識別子の配列中の脱塩基ヌクレオチドの量を変化させることによって、望ましい強度(例えば、同じ長さを有する一次オリゴヌクレオチドの強度よりも約2倍、約3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、または約10倍強い)の電気シグナルを提供する可能性がある。
【0136】
用語「方向識別子」は、本明細書で使用される場合、一般的に、前バルキーな構造から形成されているバルキーな構造からの、少なくとも0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、または50塩基の、配置された公知の配列を指す(
図17で表される場合、ss試験ポリヌクレオチド分子中の影を付けたセクション)。いくつかの例において、バルキーな構造が形成されると、バルキーな構造は、ss試験ポリヌクレオチド分子が取り込まれたナノ細孔を通ってss試験ポリヌクレオチド分子が流動しないようにすることができる。一例において、ナノ細孔の内部で、またはナノ細孔に隣接して、バルキーな構造が失速する、その速度を遅くする、または停止すると、電気シグナルのセットが得られる可能性があり、それにより、ss試験ポリヌクレオチド分子の流れ方向でバルキーな構造の前にある配列とバルキーな構造の第一の塩基対との配列情報を提供することができる。配列が公知である場合、このような電気シグナルは、これらに限定されないが、(1)バルキーな構造によりss試験ポリヌクレオチド分子がナノ細孔を通って流動しないように、前バルキーな構造が適切にバルキーな構造に形成されたことを検証する;(2)ss試験ポリヌクレオチド分子が、ss試験ポリヌクレオチドの一本鎖のセクションの一方の末端に達したことを提示する、および/または(3)同じナノ細孔で得られたベースラインとなる他の電気シグナルに対する参照または較正読み取り値として利用することができる。いくつかの実施形態において、方向識別子は、識別が容易な示差的な電気シグナルを提供する1つまたは複数のヌクレオチドまたは構造を含む。このようなヌクレオチドおよび構造の例としては、これらに限定されないが、イソdG、イソdC、および脱塩基ヌクレオチドなどが挙げられる。
【0137】
用語「参照シグナル識別子」は、本明細書で使用される場合、一般的に、本明細書において説明される方法によって検出または識別される場合、同じナノ細孔で得られたベースラインとなる他の電気シグナルに対する参照または較正読み取り値として利用することができる試験ポリヌクレオチド中の公知の配列を指す。
【0138】
用語「試料源識別子」は、本明細書で使用される場合、一般的に、本明細書において説明される方法によって検出または識別される場合、試料ポリヌクレオチドの源を識別するのに使用できる試験ポリヌクレオチド中の公知の配列を指す。
【0139】
用語「試料識別子」は、本明細書で使用される場合、一般的に、本明細書において説明される方法によって検出または識別される場合、個々の試料ポリヌクレオチドを識別するのに使用できる試験ポリヌクレオチド中の公知の配列を指す。
【0140】
用語「リンカー識別子」は、本明細書で使用される場合、一般的に、本明細書において説明される方法によって検出または識別される場合、試料ポリヌクレオチドセクションとアンチセンスポリヌクレオチドセクションとの間の移行を提示するのに使用できる試験ポリヌクレオチド中の公知の配列を指す。一例において、リンカー識別子が検出または識別される場合、試料/アンチセンスポリヌクレオチドセクションは、ナノ細孔を通過し終わっている。
【0141】
「プローブ源識別子」は、本明細書で使用される場合、本明細書において説明される方法によって検出または識別される場合、プローブのポリヌクレオチドが得られる源を識別するのに使用される、プローブのポリヌクレオチド中の公知の配列である。
【0142】
「プローブ識別子」は、本明細書で使用される場合、本明細書において説明される方法によって検出または識別される場合、個々の試料ポリヌクレオチドを識別するのに使用される、プローブのポリヌクレオチド中の公知の配列である。
【0143】
「レポーター分子用の結合部位」のセクションは、本明細書において説明されているようにレポーター分子に結合する。いくつかの実施形態において、レポーター分子は、DNA、RNAまたはそれらのあらゆる組合せを含む。
【0144】
「レポーター識別子」は、本明細書で使用される場合、本明細書において説明される方法によって検出または識別される場合、プローブのポリヌクレオチドへのレポーター分子の結合を提示するのに使用される、プローブのポリヌクレオチド中の公知の配列である。
【0145】
ナノ細孔の検出
本明細書において、ナノ細孔を用いて分子またはそれらの一部を識別するシステムおよび方法が提供される。ナノ細孔を用いて例えば分子またはそれらの一部などの化学種を識別する方法は、膜中に、電極に隣接して、またはその近傍に堆積させられた少なくとも1つのナノ細孔を含むバイオチップ(また本明細書では「チップ」ともいう)を準備することを含んでいてもよい。電極は、ナノ細孔を通過する電流を検出するように適合させることができる。本方法はさらに、ナノ細孔に分子またはそれらの一部を挿入すること、およびナノ細孔全体および/または膜全体に加えられる電圧を変化させることを包含していてもよい。いくつかの場合において、本方法は、複数の電圧で電流を測定して、分子またはそれらの一部を識別することを包含する。いくつかの実施形態において、複数の電圧における電流は電子署名を含み、電子署名と複数の参照電子署名とを比較して、分子またはそれらの一部を識別することをさらに含む。
【0146】
ナノ細孔は、例えば集積回路などの感知回路の感知電極に隣接して堆積させられた膜中に形成するか、または別の方法で埋め込むことができる。集積回路は、特定用途向け集積回路(ASIC)であってもよい。いくつかの例において、集積回路は、電界効果トランジスタまたは相補型金属酸化物半導体(CMOS)である。感知回路は、ナノ細孔を有するチップまたは他の装置に設けられていてもよいし、または例えばオフチップ構造などのようにチップまたは装置の外部に設けられていてもよい。半導体は、これらに限定されないが、第IV族(例えばケイ素)および第III−V族半導体(例えば砒化ガリウム)などのあらゆる半導体であってもよい。
【0147】
図1は、温度制御を有するナノ細孔検出器(またはセンサー)の一例を示し、これは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国公開特許公報第2011/0193570号で説明されている方法に従って調製してもよい。
図1Aを参照すれば、ナノ細孔検出器は、導電性溶液(例えば塩溶液)107と接触している上部の電極101を含む。底部の導電性電極102は、ナノ細孔106の付近にあるか、それに隣接しているか、またはその近接にあり、ナノ細孔106は、膜105に挿入されている。いくつかの例において、底部の導電性電極102は半導体103中に埋め込まれ、半導体基板104中には電気回路が埋め込まれている。半導体103の表面は、疎水性処置されていてもよい。検出される試料は、ナノ細孔106中の細孔を通過する。半導体チップセンサーはパッケージ208中に配置され、パッケージ208は順に温度制御要素109の近くに配置される。温度制御要素109は、熱電加熱および/または冷却装置(例えばペルチエ装置)であってもよい。いくつかの例において、二重層は電極202に広がりそれを被覆する。
【0148】
複数のナノ細孔検出器は、ナノ細孔アレイを形成することができる。ナノ細孔アレイは、1つまたは複数のナノ細孔検出器を包含していてもよい。いくつかの場合において、ナノ細孔アレイは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、100、1000、10000、または100,000個のナノ細孔検出器を包含する。個々のナノ細孔検出器は、感知電極(例えば、底部の導電性電極102)に隣接して、1つまたは複数のナノ細孔を包含していてもよい。いくつかの場合において、個々のナノ細孔検出器は、感知電極に隣接して、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または100個のナノ細孔を包含する。
【0149】
図1Bを参照すれば、ここで類似の数字は類似の要素を示しており、膜105はウェル110の上方に堆積していてもよく、この場合、センサー102は、ウェル表面の一部を形成する。
図1Cは、処置された半導体表面103から電極102が突出している一例を示す。
【0150】
いくつかの例において、膜105は、半導体103の上ではなく、底部の導電性電極102の上に形成される。膜105は、このような場合において、底部の導電性電極102とのカップリング相互作用を形成する可能性がある。しかしながら、いくつかの場合において、膜105は、底部の導電性電極102と半導体103との上に形成される。代替例として、膜105は、底部の導電性電極102上ではなく半導体103上に形成されてもよいが、底部の導電性電極102にわたって広がっていてもよい。
【0151】
多くの様々なタイプの分子またはそれらの一部は、本明細書で説明される方法および/または装置によって検出することができる。
図2は、検出することができる分子と核酸などのポリマーを配列決定する方法のいくつかの例を示す。いくつかの場合において、膜205のシス側203から(電極から離れて)、トランス側204に(電極に向かって)、分子201がナノ細孔202を通過する。
【0152】
図2Bで観察されるように、分子は、ポリマー分子206であってもよく、ポリマー分子がナノ細孔を通過するときにポリマー分子207の一部を識別することができる。ポリマー分子は、例えば核酸またはタンパク質などの生体分子であってもよい。いくつかの実施形態において、ポリマー分子は、核酸であり、ポリマー分子の一部は、核酸または核酸の群(例えば、2、3、4、5、6、7、または8つの核酸)である。いくつかの実施形態において、ポリマー分子は、ポリペプチドであり、ポリペプチドの一部は、アミノ酸または核酸の群(例えば、2、3、4、5、6、7、または8つのアミノ酸)である。
【0153】
いくつかの場合において、核酸またはタグが、ナノ細孔を通って、またはナノ細孔に隣接して流れるとき、感知回路は、核酸またはタグと関連する電気シグナルを検出する。核酸は、比較的大きい鎖のサブユニットであってもよい。タグは、ヌクレオチドの取り込み事象の副産物であってもよいし、またはタグを有する核酸と、ナノ細孔もしくはナノ細孔に隣接する化学種(例えば核酸からタグを切断する酵素など)との他の相互作用の副産物であってもよい。タグは、ヌクレオチドに付着したままでもよい。検出されたシグナルをメモリの位置で回収して保存して、後で核酸の配列を作成するために使用してもよい。例えばエラーなどの検出されたシグナルのあらゆる異常の原因を追究するために、回収されたシグナルをプロセシングしてもよい。
【0154】
図2Cで観察されるように、いくつかの実施形態において、分子208(例えば「タグ分子」)は、ヌクレオチド209に結合している。このような分子は、(例えばポリメラーゼ211によって)成長する核酸鎖210に取り込まれる間に識別することができる。このようなヌクレオチドは、鋳型核酸212との塩基対のマッチングに従って取り込むことができる。異なるタグがそれぞれ異なるヌクレオチド(例えば、A、C、T、およびG)に結合される場合、鋳型核酸の配列は、ナノ細孔でタグ分子を検出することによって(例えば、鋳型核酸がナノ細孔を通過することなく)決定することができる。いくつかの実施形態において、このような分子は、成長する核酸鎖にヌクレオチドが取り込まれるときにヌクレオチドから放出される(213)。
図2Dで示されるように、このような分子は、成長する鎖にヌクレオチドが取り込まれる間に、および/またはヌクレオチド214から放出される前に検出することができる。いくつかの場合において、プローブまたはレポーター領域のアドレス領域は、タグを使用して配列決定される。
【0155】
装置の構成
図3は、本明細書で説明されているように分子を検出する(および/または核酸を配列決定する)のに使用できるナノ細孔装置300(またはセンサー)を図式的に例示する。脂質二重層を含有するナノ細孔は、抵抗およびキャパシタンスによって特徴付けることができる。ナノ細孔装置300は、導電性固体基板306の脂質二重層適合性表面304上に形成された脂質二重層302を包含し、この場合、脂質二重層適合性表面304は、脂質二重層不適合性表面305で隔てられていてもよく、導電性固体基板306は、断熱材307で電気的に絶縁されていてもよく、この場合、脂質二重層302は、脂質二重層不適合性表面305上に形成された無定形脂質303で取り囲まれていてもよい。脂質二重層302の両側の間で、検出される分子および/または小さいイオン(例えば、Na
+、K
+、Ca
2+、Cl
−”)が通過できる程度に大きいナノ細孔310を有する単一のナノ細孔構造308が脂質二重層302に埋め込まれていてもよい。水分子314の層は、脂質二重層適合性表面304上で吸収される可能性があり、脂質二重層302と脂質二重層適合性表面304との間に挟まれている。親水性の脂質二重層適合性表面304上で吸収された水性フィルム314は、脂質分子の秩序化を促進し、脂質二重層適合性表面304上での脂質二重層の形成を容易にする可能性がある。検出される分子(例えば、核酸分子、いくつかの場合において、必要に応じてタグを有するヌクレオチドまたは他の構成要素を有する核酸分子)312の溶液を含有する試料チャンバー316が、脂質二重層302の上方に提供されてもよい。このような溶液は、電解質を含有し、最適なイオン濃度に緩衝化され、ナノ細孔310が開口したままになるように最適pHに維持されている水溶液であってもよい。この装置は、脂質二重層全体に電気刺激(例えば電圧バイアス)を提供するため、および脂質二重層の電気的な特性(例えば、抵抗、キャパシタンス、およびイオン電流の流れ)を感知するための、可変電圧源320にカップリングされた電極318の対(負極ノード318aおよび陽極ノード318bを包含する)を包含する。陽極318bの表面は、脂質二重層適合性表面304であるか、またはその一部を形成する。導電性固体基板306は、一方の電極318にカップリングされていてもよいし、または一方の電極318の一部を形成していてもよい。装置300はまた、電気刺激を制御するための、および検出されたシグナルをプロセシングするための電気回路322を包含していてもよい。いくつかの実施形態において、(例えば可変)電圧源320は、電気回路322の一部として包含される。電気回路322は、増幅器、積分器、ノイズフィルター、フィードバック制御ロジック、および/または様々なその他の構成要素を包含していてもよい。電気回路322は、ケイ素基板328内に統合された統合型電気回路であってもよいし、メモリ326にカップリングされたコンピュータプロセッサ324にさらにカップリングされていてもよい。
【0156】
脂質二重層適合性表面304は、脂質二重層の形成を容易にするためのイオン導入およびガス形成に適した様々な材料から形成することができる。いくつかの実施形態において、導電性または半導体の親水性材料は、脂質二重層の電気的な特性の変化をよりよく検出することを可能にするため、これらが使用される可能性がある。材料の例としては、Ag−AgCl、Au、Pt、もしくはドープシリコン、または他の半導体材料が挙げられる。いくつかの場合において、電極は、電気防食用電極ではない。
【0157】
脂質二重層不適合性表面305は、脂質二重層の形成に好適ではない様々な材料から形成することもでき、このような材料は、典型的には疎水性である。いくつかの実施形態において、非導電性の疎水性材料は、脂質二重層領域を互いに隔てることに加えて、脂質二重層領域を電気的に絶縁するため、好ましい。脂質二重層不適合性材料の例としては、例えば、窒化ケイ素(例えば、Si
3N
4)およびテフロン(登録商標)(Teflon)、疎水性分子でシラン処理した酸化ケイ素(例えば、SiO
2)などが挙げられる。
【0158】
一例において、
図3のナノ細孔装置300は、アルファ溶血素(aHL)ナノ細孔装置であり、このナノ細孔装置は、アルミニウム材料306上にコーティングされた脂質二重層適合性の銀(Ag)表面304の上方に形成されたジフタノイルホスファチジルコリン(DPhPC)脂質二重層302に埋め込まれた単一のアルファ溶血素(aHL)タンパク質308を有する。脂質二重層適合性のAg表面304は、脂質二重層不適合性の窒化ケイ素表面305によって隔てられており、アルミニウム材料306は、窒化ケイ素材料307によって電気的に絶縁されている。アルミニウム306は、ケイ素基板328中に統合された電気回路322にカップリングされている。チップ上に配置された、またはカバープレート328から下方に伸びる銀−塩化銀電極は、(例えば核酸)分子を含有する水溶液と接触する。
【0159】
aHLナノ細孔は、7つの別個のペプチドの集合体である。aHLナノ細孔の入口または前庭は、直径およそ26オングストロームであり、この直径は、dsDNA分子の一部を収容できる程度に広い。aHLナノ細孔はまず前庭(vestible)から広くなっており、次いで直径およそ15オングストロームのバレルに向かって狭くなり、この直径は、単一のssDNA分子(または比較的小さいタグ分子)が通過できる程度に広いが、dsDNA分子(または比較的大きいタグ分子)が通過できるほど広くない。
【0160】
DPhPCに加えて、ナノ細孔装置の脂質二重層は、例えば使用されるナノ細孔のタイプ、特徴付けられる分子のタイプ、ならびに形成された脂質二重層の様々な物理的、化学的および/または電気的な特性、例えば安定性や透過性など、形成された脂質二重層の抵抗、およびキャパシタンスなどの様々な考察に基づき選択された様々な他の好適な両親媒性材料からアセンブルしてもよい。両親媒性材料の例としては、例えばパルミトイル−オレオイル−ホスファチジル−コリン(POPC)およびジオレオイル−ホスファチジル−メチルエステル(DOPME)、ジフタノイルホスファチジルコリン(DPhPC)ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ならびにスフィンゴミエリンなどの様々なリン脂質が挙げられる。
【0161】
上記で示したaHLナノ細孔に加えて、ナノ細孔は、様々な他のタイプのナノ細孔であってもよい。その例としては、γ−溶血素、ロイコシジン、メリチン、mycobacterium smegmatisのポリンA(MspA)、ならびに様々な他の天然に存在する、改変された天然の、および合成のナノ細孔が挙げられる。好適なナノ細孔は、例えばナノ細孔の孔径に対する分析物分子のサイズなどの分析物分子の様々な特性に基づき選択することができる。例えば、aHLナノ細孔は、およそ15オングストロームの制限的な孔径を有する。
【0162】
電流の測定
いくつかの場合において、電流は、様々な印加電圧で測定することができる。これを達成するために、望ましい電位を電極に加えてもよいし、その後、加えられた電位を測定中ずっと維持してもよい。ある実施において、このような本明細書で説明されている目的のために、演算増幅器による積分器のトポロジーが使用される可能性がある。積分器は、容量性帰還を用いて電極で電位差を維持する。積分器の回路は、優れた直線性、セル間マッチング、およびオフセット特性をもたらす可能性がある。演算増幅器による積分器は、典型的には、必要な性能を達成するには大きいサイズを必要とする。本明細書では、より小型の積分器のトポロジーを説明する。
【0163】
いくつかの場合において、チップ上の全セルに共通の電位(例えば350mV)を提供するチャンバーに、電位差「Vリキッド(Vliquid)」を加えてもよい。積分器の回路により、電極(これは、積分コンデンサの電気的に一番上のプレートである)を一般的な液体の電位よりも大きい電位に初期設定してもよい。例えば、450mVでのバイアスは、電極と液体との間に100mVの正電位を付与する可能性がある。この正の電位差により、電流が電極から液体チャンバーの接触部に流れるようにすることができる。この例では、担体は、(a)二重層の電極(トランス)側から二重層の液体貯蔵槽(シス)側へ細孔を通って流れるK+イオン、および(b)以下の電気化学反応に従って銀電極と反応する、トランス側における塩素(Cl−)イオン:Ag+Cl−→AgCl+e−である。
【0164】
いくつかの場合において、K+は封入されたセルから外に(二重層のトランス側からシス側に)流れ、一方でCl−は塩化銀に変換される。二重層の電極側は、電流の流れの結果として脱塩される可能性がある。いくつかの場合において、銀/塩化銀液体のスポンジ状材料またはマトリックスは、回路を完了させるために電気的なチャンバー接触部で起こる逆反応でCl−イオンを供給するための貯蔵槽として利用することができる。
【0165】
いくつかの場合において、電子は、最終的に積分コンデンサ上面の上を流れ、そこで測定される電流が生成する。電気化学反応により銀が塩化銀に変換され、変換するのに利用できる銀が存在する限り、電流は流れ続けると予想される。いくつかの場合において、限定的な銀の供給により、電極寿命が電流依存性になる。いくつかの実施形態において、劣化していない電極材料(例えば白金)が使用される。
【0166】
図4に、セルの回路の一例を示す。加えられる電圧Vaは、MOSFET電流コンベヤゲート401の前の演算増幅器1200に加えられる。ここでも、電極402と、装置403によって検出された核酸および/またはタグの抵抗とを示す。
【0167】
加えられた電圧Vaは、電流コンベヤゲート401を駆動させることができる。次いでその結果生じた電極への電圧はVa−Vtであり、ここでVtは、MOSFETの閾値電圧である。MOSFETの閾値電圧は、過程、電圧、温度に伴い、さらにはチップ内の装置間ですら顕著に変化する可能性があるため、MOSFET閾値電圧により電極に加えられた実際の電圧の限定的な制御が起こる場合もある。このVtの変動は、低い電流レベルで比較的大きい可能性があり、この場合、閾値以下のリーク作用が影響し始める可能性がある。それゆえに、加えられた電圧をよりよく制御するためには、それに続く帰還構成で電流コンベヤ装置を設置すると共に演算増幅器を使用してもよい。それにより、MOSFET閾値電圧の変動とは無関係に、電極に加えられた電圧を確実にVaとする。
【0168】
ナノ細孔のアレイ
本開示は、分子の検出および/または核酸の配列決定のためのナノ細孔検出器(またはセンサー)のアレイを提供する。
図5を参照すれば、複数の(例えば核酸)分子を、ナノ細孔検出器のアレイで検出および/または配列決定することができる。ここで各ナノ細孔の位置(例えば501)は、ナノ細孔を含み、いくつかの場合において、このナノ細孔は、ポリメラーゼ酵素および/またはホスファターゼ酵素に付着していてもよい。また、一般的に、本明細書で説明されているように、各アレイ位置にセンサーが存在していてもよい。いくつかの例において、核酸ポリメラーゼに付着したナノ細孔のアレイが提供され、ポリメラーゼによりタグを有するヌクレオチドが取り込まれる。重合中、タグは、ナノ細孔によって(例えば、ナノ細孔中で、またはナノ細孔を通って放出され通過することにより、またはナノ細孔に供給されることにより)検出される。
【0169】
ナノ細孔のアレイは、あらゆる好適な数のナノ細孔を有していてもよい。いくつかの例において、アレイは、約200、約400、約600、約800、約1000、約1500、約2000、約3000、約4000、約5000、約10000、約15000、約20000、約40000、約60000、約80000、約100000、約200000、約400000、約600000、約800000、約1000000個などのナノ細孔を含む。いくつかの例において、アレイは、少なくとも200、少なくとも400、少なくとも600、少なくとも800、少なくとも1000、少なくとも1500、少なくとも2000、少なくとも3000、少なくとも4000、少なくとも5000、少なくとも10000、少なくとも15000、少なくとも20000、少なくとも40000、少なくとも60000、少なくとも80000、少なくとも100000、少なくとも200000、少なくとも400000、少なくとも600000、少なくとも800000、または少なくとも1000000個のナノ細孔を含む。
【0170】
ナノ細孔検出器のアレイは、高密度の別個の部位を有する可能性がある。例えば、単位面積あたりの部位数(すなわち密度)が比較的大きいために、携帯可能な、低コストの、または他の有利な特性を有するより小さい装置の作成が可能になる。アレイ中の個々の部位は、個々にアドレス可能な部位であってもよい。ナノ細孔および感知回路を含む部位数が多いために、比較的多数の核酸分子を例えば並行配列決定などによって一度に配列決定することができる。このようなシステムは、スループットを高め、および/または核酸試料の配列決定にかかるコストを低減させることができる。
【0171】
表面は、別個の部位のあらゆる好適な密度(例えば、所定の時間または所定のコストで核酸試料を配列決定するのに好適な密度)を含む。各別個の部位は、センサーを包含していてもよい。表面は、1mm
2あたりの部位数が約500以上の別個の部位の密度を有していてもよい。いくつかの実施形態において、表面は、1mm
2あたりの部位数が約200、約300、約400、約500、約600、約700、約800、約900、約1000、約2000、約3000、約4000、約5000、約6000、約7000、約8000、約9000、約10000、約20000、約40000、約60000、約80000、約100000、または約500000の別個の部位の密度を有する。いくつかの場合において、表面は、1mm
2あたりの部位数が少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500、少なくとも600、少なくとも700、少なくとも800、少なくとも900、少なくとも1000、少なくとも2000、少なくとも3000、少なくとも4000、少なくとも5000、少なくとも6000、少なくとも7000、少なくとも8000、少なくとも9000、少なくとも10000、少なくとも20000、少なくとも40000、少なくとも60000、少なくとも80000、少なくとも100000、または少なくとも500000の別個の部位の密度を有する。
【0172】
いくつかの例において、試験チップは、それぞれ66のセンサーセルからなる4つの別々の群(またバンクとしても知られている)として配置された264のセンサーのアレイを包含する。各群は順に、各カラムに22のセンサー「セル」を有する3つの「カラム」に分けられる。理想を言えば、アレイ中の264のセンサーのそれぞれの上に、脂質二重層を含む事実上のセルと挿入されたナノ細孔が形成されるのであれば、「セル」の名前が適切に付与される(しかしながら、このような装置は、このように植え付けられたセンサーセルの分画でしかうまく稼働しない可能性がある)。
【0173】
ダイ表面にマウントされた導電性のシリンダー内に含有される液体に電位差を加える、単一のアナログI/Oパッドがある。この「液体」の電位は細孔上面に加えられ、検出器アレイ中の全てのセルに共通である。細孔の底側は露出した電極を有し、各センサーセルは、その電極に別個の底側の電位を加えることができる。次いで上部の液体の連結部と、細孔の底側における各セルの電極の連結部との間の電流が測定される。センサーセルは、細孔内を通過するタグ分子によってモジュレートされる際に細孔を通って移動する電流を測定する。
【0174】
コンピュータシステム
本開示の装置、システム、および方法は、コンピュータシステムを用いて調節することができる。
図6は、ナノ細孔の検出および/または核酸の配列決定システム602にカップリングされたコンピュータシステム601を含むシステム600を示す。コンピュータシステム601は、1つのサーバまたは複数のサーバであってもよい。コンピュータシステム601は、試料調製およびプロセシング、ならびに配列決定システム602による核酸の配列決定を調節するようにプログラム化されていてもよい。ナノ細孔の検出および/または配列決定システム602は、本明細書で説明されるようなナノ細孔ベースのシーケンサー(または検出器)であってもよい。
【0175】
コンピュータシステムは、本開示の方法を実施するようにプログラム化されていてもよい。コンピュータシステム601は、中央処理装置(CPU、また本明細書では「プロセッサ」ともいう)605を包含し、中央処理装置は、シングルコアまたはマルチコアプロセッサでもよいし、または並列処理用の複数のプロセッサでもよい。プロセッサ605は、例えば集積回路などの回路の一部であってもよい。いくつかの例において、プロセッサ605は、特定用途向け集積回路(ASIC)中に統合されていてもよい。またコンピュータシステム601は、メモリ610(例えば、ランダムアクセスメモリ、読み出し専用メモリ、フラッシュメモリ)、電子記憶ユニット615(例えばハードディスク)、1つまたは複数の他のシステムと通信するための通信用インターフェース620(例えばネットワークアダプター)、ならびに例えばキャッシュ、他のメモリ、データ記憶装置、および/または電子表示アダプターなどの周辺装置625も包含する。メモリ610、記憶ユニット615、インターフェース620、および周辺装置625は、例えばマザーボードなどの通信バス(実線)を通ってCPU605と通信する。記憶ユニット615は、データを保存するためのデータ記憶ユニット(またはデータリポジトリ)であってもよい。コンピュータシステム601は、通信用インターフェース620を用いてコンピュータネットワーク(「ネットワーク」)に作動可能なようにカップリングされていてもよい。ネットワークは、インターネット、インターネットと通信するインターネットおよび/もしくはエクストラネット、またはイントラネットおよび/もしくはエクストラネットであってもよい。ネットワークは、1つまたは複数のコンピュータサーバを包含していてもよく、それにより分散コンピューティングが可能になる。
【0176】
いくつかの例において、コンピュータシステム601は、書替え可能ゲートアレイ(FPGA)を包含する。このような場合では、プロセッサ605はなくてもよい。
【0177】
本開示の方法は、コンピュータシステム601の電子記憶位置に、例えばメモリ610または電子記憶ユニット615などに保存された、機械(またはコンピュータプロセッサ)の実行可能コード(またはソフトウェア)によって実施することができる。使用中、プロセッサ605によってコードを実行することができる。いくつかの場合において、コードを記憶ユニット615から回収して、プロセッサ605ですぐにアクセスできるようにメモリ610に保存することができる。いくつかの状況では、電子記憶ユニット615を除外して、メモリ610に機械で実行可能な命令を保存することもできる。
【0178】
コードは、コードを実行するように適合させたプロセッサを有する機械で使用するために事前にコンパイルして構築してもよいし、または稼働時間中にコンパイルしてもよい。コードは、事前にコンパイルされた、またはコンパイルされたような(as−compiled)様式でコードが実行されるように選択することができるプログラミング言語で供給することができる。
【0179】
コンピュータシステム601は、使用者のプロファイル情報、例えば名称、物理アドレス、電子メールアドレス、電話番号、インスタントメッセージ(IM)ハンドル、学習情報、作業情報、社会的な好きおよび/または嫌い、ならびに使用者もしくは他の使用者との潜在的関連性の他の情報を保存するように適合させることができる。このようなプロファイル情報は、コンピュータシステム601の記憶ユニット615に保存することができる。ナノ細孔の検出および/または核酸の配列決定システム602は、コンピュータシステム601に直接カップリングしてもよいし、またはクラウド(例えばインターネット)630を経由してもよい。
【0180】
例えばコンピュータシステム601などの、本明細書で示されるシステムおよび方法の態様は、プログラミングで具体化することができる。様々な技術態様として、典型的には機械で読み取り可能なタイプの媒体で運搬または具体化される、機械(またはプロセッサ)の実行可能コードおよび/または関連データの形態の「製品」または「製造品」が考えられる。機械で実行可能なコードは、メモリ(例えばROM、RAM)またはハードディスクなどの電子記憶ユニットに保存することができる。「記憶」タイプの媒体としては、ソフトウェアのプログラミング時にはいつでも持続的な記憶を提供することができる、コンピュータ、プロセッサもしくは同種のもののタンジブルメモリ、またはそれらの関連モジュール、例えば様々な半導体メモリ、テープドライブ、ディスクドライブなどのいずれかもしくは全てが挙げられる。ソフトウェアの全部または一部が、所定時に、インターネットまたは様々な他の遠距離通信ネットワークと通信していてもよい。例えば、このような通信は、1つのコンピュータまたはプロセッサから別のものへの、例えば管理サーバまたはホストコンピュータからアプリケーションサーバのコンピュータプラットフォームへのソフトウェアのローディングを可能にする。したがって、ソフトウェア要素を備えている可能性がある別のタイプの媒体としては、例えばローカルの装置間の物理的なインターフェース全体に、有線の光学的な通信線のネットワークを通じて、様々なエアリンクを通じて使用される、光波、電波、および電磁波が挙げられる。また、このような波、例えば有線または無線リンク、光学リンクまたは同種のものを載せる物理的な要素も、ソフトウェアを備えた媒体とみなされる場合がある。持続的でタンジブルな「記憶」媒体に限定されない限り、例えばコンピュータまたは機械で「読み取り可能な媒体」のような用語は、本明細書で使用される場合、実行のためのプロセッサに命令を与えることに関与するあらゆる媒体を指す。
【0181】
したがって、例えばコンピュータで実行可能なコードなどの機械で読み取り可能な媒体は、これらに限定されないが、タンジブルな記憶媒体、搬送波媒体または物理的な伝送媒体などの多くの形態を取り得る。不揮発性記憶媒体としては、例えば、光学または磁気ディスクなど、例えばあらゆるコンピュータ(複数可)または同種のものにおける記憶装置のいずれかなどが挙げられ、これらは例えば図面に示されるデータベースなどを実施するのに使用される可能性がある。揮発性記憶媒体としては、例えばこのようなコンピュータプラットフォームのメインメモリなどのダイナミックメモリが挙げられる。タンジブルな伝送媒体としては、同軸ケーブル;銅線、および光学繊維、例えばコンピュータシステム内にバスを含むワイヤーなどが挙げられる。搬送波伝送媒体は、電気もしくは電磁気シグナル、または音もしくは光波、例えば無線周波数(RF)および赤外線(IR)データ通信の際に作り出されたシグナルなどの形態を取る可能性がある。それゆえにコンピュータで読み取り可能な媒体の一般的な形態としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、他のあらゆる磁気媒体、CD−ROM、DVDまたはDVD−ROM、他のあらゆる光学媒体、パンチカード用ペーパーテープ、穴のパターンを有する他のあらゆる物理的な記憶媒体、RAM、ROM、PROM、およびEPROM、FLASH−EPROM、他のあらゆるメモリチップもしくはカートリッジ、搬送波により輸送されるデータもしくは命令、このような搬送波を輸送するケーブルまたはリンク、またはコンピュータでプログラミングコードおよび/またはデータを読み取ることができる他のあらゆる媒体などが挙げられる。これらのコンピュータで読み取り可能な媒体の形態の多くは、実行のためのプロセッサに、1つまたは複数の命令の1つまたは複数のシーケンスを実行することに関与する可能性がある。
【0182】
二重層の形成
ここで、半導体ナノ細孔センサーチップを生成する(例えば、個々に制御された)電極のアレイ上に脂質二重層およびナノ細孔を作製する方法を説明する。チップは、例えば核酸配列などのポリマー配列を決定するのに使用することができる。
【0183】
半導体センサーチップ上の電極のアレイの上方に脂質二重層を形成する技術が本明細書で説明される。一実施形態において、脂質分子を含有する液体がチップ表面に挿入される。この液体は、気泡で分離される。気泡により脂質分子を表面上に分配して脂質を薄くし、それぞれの電極の上方に脂質二重層が自発的に形成されるようにすることができる。追加の電気刺激を電極に加えて、二重層の形成を容易にすることができる。堆積した脂質上部にナノ細孔タンパク質を含有する溶液をさらに適用してもよい。より多くの気泡をチップ全体にわたり広げて、ナノ細孔の二重層への挿入を容易にすることができる。これらの技術は、フローセルを用いて行ってもよいし、またはフローセルを用いずに行ってもよい。いくつかの場合において、圧力、ソニケーション、および/または音パルスなどの追加の刺激を加えて、二重層または細孔の生成を誘導することができる。
【0184】
一態様において、ナノ細孔センサーで使用するための脂質二重層を形成する方法であって、本方法は、(a)材料層を有する電極を含むフローチャネルに緩衝溶液を方向付けることを含む。緩衝溶液は、導電性であってもよく、材料層は、1種または複数の脂質を含んでいてもよい。本方法は、緩衝溶液と材料層とを接触させること、および電極に1種または複数の電圧を加えること、および電極を通る電流を測定して、材料層の少なくとも一部が電極を被覆し密閉したか否か、および/または電極の全部または一部の上方に二重層を形成したか否かを決定することを含んでいてもよい。加えられる電圧は、電極の上方の二重層の封止を破壊して短絡電流を引き起こす程度であってもよい。材料層の少なくとも一部が電極を被覆し密閉したか否か、および/または電極の全部または一部の上方に二重層を形成したか否かの決定に基づいて、全ての電極に同時に、電極の群に、または個々の電極に刺激を加えて、材料層の少なくとも一部が電極に隣接する脂質二重層を形成するように誘導してもよい。
【0185】
いくつかの実施形態において、刺激は、電極アレイ表面上方の液体の流れ、アレイ表面上方の1種または複数の異なる液体の連続的な流れ、アレイ表面上方の1種または複数の異なる液体および気泡のあらゆる組合せの連続的な流れ、電気パルス、ソニケーションパルス、圧力パルス、または音パルスのうち少なくとも1つを含む。いくつかの場合において、材料層は、少なくとも2種の脂質を含む。
【0186】
いくつかの場合において、材料層は、ポアタンパク質を含む。いくつかの場合において、ポアタンパク質は、mycobacterium smegmatisのポリンA(MspA)および/もしくはα溶血素、またはそれらのアミノ酸配列に少なくとも70%の相同性を有する誘導体である。いくつかの例において、1種または複数のポリンタンパク質を含む材料層は、界面活性剤の臨界ミセル濃度未満の濃度で、1種または複数の界面活性剤を包含する。
【0187】
いくつかの場合において、刺激は、電極アレイ表面上方の液体の流れ、アレイ表面上方の1種または複数の異なる液体の連続的な流れ、アレイ表面上方の1種または複数の異なる液体および気泡のあらゆる組合せの連続的な流れ、電気パルス、ソニケーションパルス、圧力パルス、または音パルスのうち少なくとも1つを含む。
【0188】
一態様において、個々に制御された電極のアレイを生成する複数の電極のそれぞれの上部に脂質二重層を作製する自動化方法と、半導体センサー上の個々に制御された電極のアレイ中の各電極の頂上の二重層に単一の細孔を挿入する方法を説明する。実質的に平らな表面上の電極に近接する脂質層に適切な外部刺激(例えば電気刺激、圧力刺激、ソニケーション、または音など)を加えることにより、電極のアレイ中の電極の上方に二重層が形成されるように誘導することができる。加えて、1つまたは複数の電極上に脂質二重層を有し、ナノ細孔タンパク質を含有する溶液で被覆されたセンサーチップ全体に、個々の電極に対する適切な外部刺激(例えば電気刺激、圧力刺激、ソニケーション、または音など)を加えることにより、二重層に細孔が挿入されるように誘導することができる。その結果、刺激に応答して、決定論的に個々に制御された電極のアレイ中の複数の電極にわたって、手作業の介入がなくとも二重層が自動的に生成される。いくつかの場合において、刺激に応答して、決定論的に複数の電極/二重層に単一のナノ細孔を挿入することができ、それゆえに、個々に制御された電気的なナノ細孔センサーの高度並列アレイが生成する。これらの個々に制御されたナノ細孔センサーのアレイは実質的に平らな半導体表面上に生成してもよく、しかもその上、半導体材料内に、個々の電極を稼働させて制御するのに必要な回路の一部または全部が生成される。
【0189】
上記の二重層および細孔の生成方法に加えて、本出願では、個々に制御された電気的/ナノ細孔センサーのアレイ上に二重層および細孔を生成する費用効率が高く簡単な方法が開示され、本方法は;1)すでにセンサー上にある(予め適用された)脂質または脂質−ポリンタンパク質ミックスを活性化し、自発的な二重層の生成または二重層−細孔の生成を引き起こすこと、2)すでにセンサー上にある(予め適用された)脂質または脂質−ポリンタンパク質ミックスを活性化し、電極での電気刺激またはシステムへの刺激により二重層および/または細孔を直接生成して、二重層および/または細孔を生成すること、3)すでにセンサー上にある(予め適用された)脂質または脂質−ポリンタンパク質ミックスを活性化し、センサーチップ表面全体に気泡を接触させるか、またはセンサーチップ表面全体に気泡を流動させることにより二重層および/または細孔を直接生成すること、4)すでにセンサー上にある(予め適用された)脂質または脂質−ポリンタンパク質ミックスを活性化し、それに続く電極での電気刺激またはシステムへの刺激のために表面を調製する気泡を使用してセンサーアレイ表面上に混合物を分配して薄くし、二重層および/または細孔を生成すること、5)アレイ中の複数の独立した電極の上方に二重層が生成されるように、センサーアレイ表面上に脂質混合物を適用し、分配し、薄くし、気泡による方法、6)脂質混合物を適用し、分配し、薄くし、その結果としてそれに続く電極での電気刺激またはシステムへの刺激のために表面を調製して、複数の電極の上方に二重層を生成する、気泡による方法、7)アレイ中の複数の独立した電極の上方に細孔が挿入されるように、脂質混合物で調製されたセンサーアレイ表面上に、ポリンタンパク質混合物を適用し、分配し、薄くし、気泡による方法、8)ポリンタンパク質混合物を適用し、分配し、薄くし、その結果としてそれに続く電極での電気刺激またはシステムへの刺激のために表面を調製して、アレイ中の複数の電極の上方に単一の細孔を生成する、気泡による方法、9)電極表面の上方で気泡の生成を必要としない、電極表面の上方に二重層を生成するための電気刺激の使用を説明する方法、10)1つの電極または複数の電極表面の上方に二重層および/または細孔を生成するために、1つまたは複数の電極、またはセンサーチップ全体に加えられるソニケーションまたは圧力の刺激を使用することを含む上述の「システムへの刺激」を説明する方法、11)上記で説明した二重層および細孔を確立するための方法に適した、ナノ細孔による電気的な感知のために電極の半導体アレイにおける電極の密度を高める方法、12)識別された方法を支持できるフローセルが、複数の電極−ナノ細孔センサーのアレイを含有する開口した単一のセンサーチップ上にないこと、または上記で識別された方法を支持できる単一のフローセルが、複数の電極−ナノ細孔センサーのアレイを含有する単一のセンサーチップ上にあること、または識別された方法を支持できる複数のフローセルが、複数の電極−ナノ細孔センサーのアレイを含有する単一のセンサーチップ上にあることを示す方法、13)液体または気泡の圧力を変更して、二重層または細孔生成の成功を改善すること、および14)センサーチップおよび液体の温度を変更して、二重層または細孔生成を改善すること、を包含する。
【0190】
脂質二重層を生成して、それを二重層中の細孔に挿入する方法がいくつかある。一実施形態において、複数の電極を有する半導体チップを示す。液状の脂質溶液は、シラン化処理されたチップ表面に適用される。液状の脂質溶液は、デカンと、例えばジフタノイルホスファチジルコリン(DPhPC)などの脂質分子との溶液であってもよい。このような溶液は、流し込み、噴霧、スクイージーによって表面上に適用することができる。このような溶液は、表面上で乾燥させてもよい。このような溶液は、粉末状のDPhPC分子だけが残るように完全に乾燥させてもよい。またはこのような溶液は、乾燥させて粘性状にしてもよい。したがって、チップ表面は、粉末状または粘性溶液の形態で予め適用された脂質分子によって官能化される。チップは密閉されており、取扱いおよび輸送が可能である。
【0191】
半導体チップはカバーを含有していてもよく、カバーは、使用者がポンプでチップ全体に液体を出し入れできるようにするものである。使用者は、チップに例えば塩水などの緩衝液を適用して、脂質分子を活性化する。乾燥した脂質分子が緩衝溶液と接触するようになると、脂質分子は水和される。入ってくる緩衝液の圧力により、各電極表面上部での脂質二重層の自発的な形成が容易になる可能性がある。
【0192】
本明細書で説明される全ての技術において、半導体チップは、カバーを含有していなくてもよく、使用者は、ピペットまたは他の機器を使用してチップ表面上に例えば塩水などの緩衝液を適用して、脂質分子を活性化する。乾燥した脂質分子が緩衝溶液と接触するようになると、脂質分子は水和される。入ってくる緩衝液の圧力は、各電極表面上部での脂質二重層の自発的な形成を容易にする可能性がある。
【0193】
半導体チップがカバーを含有する他の関連する実施形態において、緩衝液がチップに適用された後、ポンプで気泡を入れて、気泡の裏側により多くの緩衝溶液を存在させる。気泡がチップ全体に行き渡り滑らかになると、新たに水和した予め堆積した脂質ミックスが薄くされることにより、脂質分子が表面に行き渡る。気泡が通過した後、各電極表面上部に、脂質二重層が形成される可能性がある。
【0194】
さらに他の関連する実施形態において、気泡が適用されてチップ全体に行き渡った後、電気シグナルが電極(複数可)に加えられ、この電気刺激により、電極(複数可)上で二重層(複数可)の形成が起こる可能性がある。電位差での電気刺激は、電極表面と電極の周りの脂質材料との間の界面を崩壊させて、不意の迅速な二重層形成を引き起こす可能性がある。
【0195】
他の実施形態において、液状の脂質溶液はさらに、例えばmycobacterium
smegmatisのポリンA(MspA)またはα溶血素などのポアタンパク質を含有していてもよい。脂質分子とポアタンパク質とを含有する溶液は、乾燥されている。チップ表面は、表面を疎水性にするためにシラン分子で調製されている。脂質分子およびポアタンパク質は、粉末状で、または粘性状で堆積させられる。使用者は、チップに緩衝溶液を適用することによってチップを活性化することができる。脂質分子とポアタンパク質は水和される。各電極表面上部に、ナノ細孔が挿入された脂質層が自発的に形成される可能性がある。
【0196】
他の関連する実施形態において、チップに緩衝液が適用された後、ポンプで気泡を入れて、気泡の裏側により多くの緩衝溶液を存在させる。気泡がチップ全体に行き渡り滑らかになり、新たに水和した予め堆積した脂質と細孔とのミックスが薄くされることにより、脂質および/または細孔分子が表面に行き渡る。気泡が通過した後、各電極表面上部に脂質二重層が形成される可能性があり、さらにポアタンパク質も、ナノ細孔として二重層に挿入される。
【0197】
さらに他の関連する実施形態において、気泡が適用されてチップ全体に行き渡った後、電気シグナルが電極に加えられ、電気刺激により、電極およびナノ細孔上での二重層の形成と二重層への挿入が起こる可能性がある。電位差での電気刺激は、電極表面を崩壊させて電極の周りの脂質材料に影響を与え、二重層における不意の迅速な二重層およびナノ細孔の形成を引き起こす可能性がある。
【0198】
他の実施形態において、半導体チップは単にシラン処理されており、例えば脂質分子またはポアタンパク質などのチップ表面に機能を付与する予め適用された分子をまったく有さない。使用者はまず、塩水を使用してチップ表面を洗う。次いでチップに脂質およびデカンのアリコートを挿入する。それに続いて気泡を入れて、チップ表面上に脂質材料を塗り付け、それらを分配し、薄くする。脂質二重層は、気泡との接触および分配により、複数の電極の上方に自発的に生成される。
【0199】
他の関連する実施形態において、気泡の後、脂質二重層が自発的に生成されない可能性がある。それに続いて電気刺激が電極に加えられる。電気パルスにより、電極上での二重層の形成が起こる。
【0200】
さらに他の関連する実施形態において、気泡がチップ全体に行き渡り、脂質材料が分配された後、塩水の流動が起こる。塩水の後、チップにポアタンパク質溶液が挿入される。それに続いて別の気泡を入れて、チップ表面上にポアタンパク質混合物を塗り付けてそれらを薄くし、気泡との接触または気泡からの圧力の形態でアレイ中の複数の独立した電極の上方に細孔が挿入されるようにする。
【0201】
さらにまた他の関連する実施形態において、ポアタンパク質溶液と第二の気泡が挿入された後、電極に電気刺激が加えられて、アレイ中の複数の電極の上方で脂質二重層中にナノ細孔が生成される。
【0202】
他の実施形態において、イオン溶液(例えば塩水など)で充填または被覆されたチップに脂質およびデカンのアリコートが挿入される。それに続いて電気刺激が電極に加えられる。電気パルスにより、電極上での二重層の形成が起こる。この実施形態では、二重層の形成を容易にするための気泡は挿入されない。脂質は、チップ表面の上方で電極周辺によく分配される。電極に加えられた電圧は、電極端部において脂質材料の破壊を引き起こし、脂質二重層の形成を誘導する。
【0203】
半導体ナノ細孔センサーチップは、液体と試薬が流動できる1つまたは複数のチャネルを含有していてもよい。一実施形態において、各チャネルは、チャネルの両側に1本ずつ、計2本のレールを有する。電極は、チャネルの底部表面に存在していてもよい。電極はさらに、チャネルの側壁表面上(レール上)に存在していてもよい。したがって、各チャネルの電極の密度は、底部および側壁表面上に電極を生成することによって高めることもできる。
【0204】
一実施形態において、半導体チップ上で1つまたは複数のフローセルを利用することができる。各フローセルを使用して、チップ上のチャネルの1つごとに溶液および気泡を挿入する。フローセルは、液体、気泡、および試薬を通過させることができる通路である。チップが複数の異なる試料を独立して、かつ同時に処理できるように、フローセルの全体または一部として作用するチップ上のチャネルは独立していてもよい。
【0205】
一実施形態において、チップ上にはチャネルまたはフローセルがない。チップには、液状の脂質溶液、または液体脂質−細孔混合物溶液が予め適用されている。このような溶液は、乾燥しており、粉末状または粘性状になっている。液状の緩衝溶液をチップに適用して、脂質または脂質−細孔混合物を活性化する。電気シグナルが電極に加えられると、電気刺激により、電極上での二重層の形成が起こる可能性がある。電位差での電気刺激は、電極表面を崩壊させて、電極の周りの脂質材料に影響を与え、不意の迅速な二重層形成を引き起こす可能性がある。さらに、存在するポアタンパク質が活性化されたら、電気刺激により、脂質二重層への細孔分子の挿入がさらに容易になる。
【0206】
いくつかの実施形態において、液体または気泡の圧力を変更して、二重層またはナノ細孔の生成を改善することもできる。いくつかの実施形態において、チップおよび液体の温度を変更して、二重層または細孔の生成を改善することもできる。例えば、二重層が形成されるときに、室温よりもわずかに低い温度を適用してもよく;ナノ細孔が脂質二重層に挿入されるときに、室温よりもわずかに高い温度を適用してもよい。
【0207】
一実施形態において、チップは、密閉されたチップの4つの側面のうち、開口したままでアクセス可能な1つの側面を有していてもよい。また逆の側面も、チューブと接触してそれと連結することができる単一の穴を有していてもよい。チップが、底部における穴およびチューブ上部におけるチップの開口端と垂直になるようにチップが立てられている場合、緩衝液および試薬を上部を通して添加することができ、次いで底部から気泡が制御されたペースで放出され、密閉された空洞を移動して、チップ全体に流すことができる。このシステムは、チップ全体に広がる液体分画を分離する気泡のトレーンを有していなくてもよい。このシステムは、パッケージ化されたチップの開口した上部を通って添加されてチップの内部表面に流れ落ちるあらゆる物質を滑らかに延ばす。逆に言えば、器具の底部に1本のチューブを通すことで液体と試薬を挿入することが可能であり、これは、自動化された時系列の試薬添加が必要となり得る場合に有利な可能性がある。
【0208】
本明細書で説明される全ての技術において、液体、試薬、気泡、電気刺激のパルス、圧力もしくは圧力パルス、温度もしくは温度のパルス、ソニケーションパルス、および/または音パルスのあらゆる組合せを自動的にセンサーチップに適用することにより、自動的な二重層の生成、細孔の生成、二重層および細孔の維持、例えばそれらの再生成、ナノ細孔センサーチップに適用した生体分子の捕捉および読み取りを引き起こして、全センサーの状態および機器の性能の全特性のリアルタイムおよび/または終点の詳細をもたらすと予想される器具に、センサーチップをカップリングするか、またはそのような器具にセンサーチップを配置することが可能である。このような器具は、あらゆるレベルの操作員による手作業の介入を可能にし、またはカスタムテストの生成を可能にする。このような器具は、異なるシグナルおよび/または試薬を適用することもでき、または先行の試験シグナルまたは試薬添加の結果に応答して試料またはチップに作用することにより、このような器具を完全に自動的に稼働させることも可能にする。このようなシステムは、経時的実験の操作員なしでの運転を可能にし、または試験を継続するためにセンサーチップ表面を再官能化してナノ細孔システムを回復させることも可能にする。
【0209】
本明細書で説明される全ての技術において、二重層の生成または細孔の生成を誘導するための刺激の適用としてはさらに、望ましい二重層/細孔の生成事象を刺激するための、チップへの圧力、温度、ソニケーション、または音の適用も挙げられる。
【0210】
本明細書で説明される全ての技術において、半導体チップはカバーを含有していなくてもよく、その場合、使用者は、ピペットまたは他の機器の使用により手作業で様々な緩衝液、試薬、および気泡を適用する。これらの技術の手作業での適用を、本明細書で概説したあらゆる加えられた刺激とカップリングして、望ましい二重層および/または細孔の形成を誘導することができる。
【0211】
ポアタンパク質溶液をセンサーチップ表面の周りに均一に適用し、自発的な細孔の挿入を引き起こすか、または電気刺激により二重層への細孔の迅速な挿入が促進されるように表面を構成することによって、フローセルまたは簡単な気泡システムはさらに細孔の挿入を大いに促進することもできる。またフローセルまたは簡単な気泡システムは、乾燥した脂質−細孔−タンパク質ミックスを水和することもでき、この水和した脂質−細孔−タンパク質ミックスは、気泡含有または非含有の適切な緩衝液で滑らかにされた後、またはそれと混合された後に、自発的な二重層および細孔両方を形成する可能性がある。
【0212】
図7は、センサーチップの1つまたは複数のフローチャネル上の電極の上方に脂質層を形成する試料法を例示する。センサーチップは、平らなチップであってもよく、このような平らなチップは、フローチャネル表面上に配置された非導電性または半導体表面中に埋め込まれ、実質的に平らな複数の電極を含有する。本方法は、少なくとも1種の脂質を含む脂質溶液をフローチャネルのそれぞれを通って流動させるステップ701;電極表面に脂質を堆積させるステップ702;それぞれのフローチャネル中で、後続の気泡を用いて堆積した脂質を滑らかにして薄くするステップ703;フローチャネルのそれぞれに緩衝溶液を充填するステップ704、ここで緩衝溶液は導電性である;電極を通る電流を測定して、各電極の上方に脂質二重層が形成されているか否かを決定するステップ705;およびどの電極の上にも脂質二重層がまだ形成されていない場合、刺激(例えば電気刺激)を加えて、表面上の脂質が電極の上方に脂質二重層を形成するように誘導するステップ706を含む。いくつかの場合において、電圧は、二重層を試験して、細孔を挿入するために加えられる。しかしながら、いくつかの例において、電圧は、二重層を生成するために加えられない。
【0213】
いくつかの実施形態において、脂質溶液は、少なくとも2種の脂質を含んでいてもよい。脂質溶液は、少なくとも1種のポアタンパク質をさらに含んでいてもよい。ポアタンパク質は、mycobacterium smegmatisのポリンA(MspA)またはα溶血素を含んでいてもよい。本方法はさらに、それぞれのフローチャネル中で、ポアタンパク質を含有する非脂質溶液を堆積した脂質の上方に流動させるステップ;それぞれのフローチャネル中で、第二の気泡を用いてポアタンパク質および堆積した脂質を薄くするステップを含んでいてもよい。本方法は、ポアタンパク質溶液、追加の空気の気泡、および追加の液体溶液をフローチャネルを通って流動させること、ここでポアタンパク質溶液と液体溶液とは、空気の気泡によって分離されている;および少なくとも一部の電極を通して電気刺激を加えて、脂質二重層におけるポアタンパク質の挿入を容易にすることをさらに含んでいてもよい。全ての溶液および気泡を流動させるステップをあらゆる順番および組合せで繰り返して、二重層中での脂質二重層の形成およびナノ細孔の挿入を達成してもよい。脂質は、ジフタノイルホスファチジルコリン(DPhPC)、パルミトイル−オレオイル−ホスファチジル−コリン(POPC)、ジオレオイル−ホスファチジル−メチルエステル(DOPME)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、またはスフィンゴミエリンであってもよい。液状の脂質溶液はさらに、例えばデカンなどの有機溶媒を含有していてもよい。
【0214】
いくつかの実施形態において、緩衝溶液は、例えば塩化ナトリウムまたは塩化カリウム溶液などのイオン溶液を含有していてもよい。緩衝溶液はさらに、シアン化鉄(II)またはアスコルビン酸を含有していてもよい。いくつかの実施形態において、気泡の圧力は、二重層の形成またはナノ細孔の挿入を改善するために、実質的に大気圧に、または大気圧よりもわずかに高く調整される。
【0215】
図8は、本開示の実施形態に係る半導体センサーチップ試料を例示する。センサーチップ800は、複数のフローチャネル810を含む。各フローチャネルは、フローチャネル表面810上に配置された非導電性または半導体表面に埋め込まれ、実質的に平らな複数の電極820を有する。電極表面は、シラン処理されており、親水性になっている。電極以外のフローチャネル表面は、疎水性である。フローチャネル810は、フローチャネルに沿ったガイドレール840によって分離されている。フローチャネル幅は、電極の2つ以上の列を収容できる程度の幅であってもよい。
図8で示されるように、電極は、フローチャネルの底部表面上に、同様にガイドレール側壁上に製造されてもよい。いくつかの実施形態において、フローチャネルの上部側は、密閉されていてもよい。
【0216】
一態様において、センサーチップの1つまたは複数のフローチャネル上の電極の上方に脂質二重層を形成する方法は:(a)少なくとも1種の脂質を含む脂質溶液をフローチャネルのそれぞれを通って流動させること;(b)電極表面に脂質を堆積させること;(c)それぞれのフローチャネル中で、後続の気泡を用いて堆積した脂質を滑らかにして薄くすること;(d)フローチャネルのそれぞれに緩衝溶液を充填すること、ここで緩衝溶液は導電性である;(e)電極を通る電流を測定して、各電極の上方に脂質二重層が形成されているか否かを決定すること;および(f)どの電極の上にも脂質二重層がまだ形成されていない場合、少なくとも1つの電極に刺激を加えて、表面上の脂質が電極の上方に脂質二重層を形成するように誘導すること、を含む。刺激は、電気パルス、ソニケーションパルス、圧力パルス、または音パルスのうち少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0217】
いくつかの実施形態において、脂質溶液は、少なくとも2種の脂質を含む。いくつかの実施形態において、脂質溶液は、少なくとも1種のポアタンパク質をさらに含む。
【0218】
いくつかの実施形態において、本方法は、(c)の後に、(c1)それぞれのフローチャネル中で、ポアタンパク質を含有する非脂質溶液を堆積した脂質の上方に流動させること;および(c2)それぞれのフローチャネル中で、第二の気泡を用いてポアタンパク質および堆積した脂質を薄くすることをさらに含む。いくつかの実施形態において、本方法は、(c2)の後に、(c3)ステップ(b)、(c)、(c1)、または(c2)をあらゆる順番または組合せで繰り返すことをさらに含む。
【0219】
いくつかの実施形態において、本方法は、(g)ポアタンパク質溶液、追加の空気の気泡、および追加の液体溶液をフローチャネルを通って流動させることをさらに含み、ここでポアタンパク質溶液と液体溶液とは、空気の気泡によって分離されている。いくつかの実施形態において、本方法は、(h)少なくとも一部の電極を通して電気刺激を加えて、脂質二重層におけるポアタンパク質の挿入を容易にすることをさらに含む。
【0220】
いくつかの実施形態において、脂質は、ジフタノイルホスファチジルコリン(DPhPC)、パルミトイル−オレオイル−ホスファチジル−コリン(POPC)、ジオレオイル−ホスファチジル−メチルエステル(DOPME)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、またはスフィンゴミエリンである。
【0221】
いくつかの場合において、液状の脂質溶液のうち少なくともいくつかは、有機溶媒(例えばデカン)を含有する。ポアタンパク質は、mycobacterium smegmatisのポリンA(MspA)またはα溶血素を含んでいてもよい。いくつかの場合において、緩衝溶液は、イオン溶液(例えば塩化ナトリウムまたは塩化カリウム)を含有する。いくつかの例において、緩衝溶液のうち少なくともいくつかは、シアン化鉄(II)またはアスコルビン酸を含有する。
【0222】
いくつかの実施形態において、気泡の圧力は、実質的に大気圧であるか、または大気圧よりもわずかに高い。いくつかの場合において、電極表面は、親水性である。いくつかの例において、電極以外のフローチャネル表面は、疎水性である。
【0223】
いくつかの実施形態において、本方法は、(a)の前に、(a1)電極以外のフローチャネル表面をシラン処理することにより、電極以外のフローチャネル表面を疎水性にすること;(a2)チップ表面上に複数のフローチャネルを形成すること;(a3)それぞれのフローチャネル表面上に電極を製造すること;(a4)フローチャネルに沿ったガイドレールを造り上げることによりフローチャネルを分離すること;(a5)それぞれのガイドレールの側の表面上に電極を製造すること;および(a6)それぞれのフローチャネルの上部側を密閉することのうちのいずれか1つまたは複数をさらに含む。
【0224】
二重層を有するチップの生成方法は、チップ全体にイオン溶液を流すことによってなされる。いくつかの場合において、この流れは、散在する脂質溶液とイオン溶液とのアリコートの「トレーン」である(例えば、脂質溶液とイオン溶液とが交互になっている)。この流れは、供給管類を介してチップ全体を通過させることができる。トレーンは、およそ5μLの脂質を供給し、次いで5μLのイオン溶液を供給することができる、これは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回、またはそれより多い回数で繰り返すことができる。トレーンの溶液は、およそ2、3、4、5、6、7、8、9、10回、またはそれより多い回数で、バイオチップ表面全体にポンプで入れたり戻したりすることができる。次いで被覆率および/または密閉を電気的にチェックすることができる。
【0225】
いくつかの場合において、溶液のトレーンは、続いて組立てステップに導入される。いくつかの場合において、組立てステップは、チップ全体に気泡を流動させることを含む。いくつかの例において、セル(電極)の被覆率、各電極における耐リーク性または密閉性、ならびに密閉および/または二重層に加えられた電圧は、電気的にチェックすることができる。
【0226】
いくつかの場合において、組立て操作は、概ね以下の試験結果が達成されるまで繰り返される:(1)約190個以上の電極が被覆される;(2)−1V未満の電圧を加えて、少なくとも約120の膜(例えば脂質層)が電圧上昇する;(3)(2)で電圧上昇した脂質層のうち、約−300mV〜−700mVで69以上が電圧上昇する;(4)約50ギガオーム未満の密閉抵抗性を有する電極の数が15個未満である;および(5)何らかのリーク電流が記録されたセルの数が50を超える場合、密閉抵抗性の中位数が150ギガオームよりも大きい。
【0227】
これらの基準のうちいくつかのまたは全部を満たす場合、およそ10μLの気泡をチップ全体に流してもよく、(1)、(4)、および(5)の最終的な試験を行うことができる。これをパスした場合、プログラムは細孔挿入プロトコールに移る。プログラムは、例えば
図6のコンピュータシステム601などのコンピュータシステムを用いて(例えば、プロセッサによる実行で)実施することができる。
【0228】
いくつかの場合において、細孔挿入プロトコールは、チップに5μLのポアタンパク質溶液を適用すること、およびエレクトロポレーションして二重層に細孔を挿入することを包含する。エレクトロポレーション操作の最後に、細孔の収量に関してチップをチェックし、基準にパスした場合、試料および試験試薬を適用する。
【0229】
いくつかの例において、二重層および細孔の挿入にかかる合計時間は、平均して、二重層の生成に15分および細孔挿入に20分であり、合計35分である。
【0230】
細孔が挿入された膜(例えば脂質二重層)で被覆することができるウェルの数(例えば細孔の収量)はいくつでもよい。いくつかの場合において、細孔の収量は、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%などである。いくつかの場合において、細孔の収量は、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%などである。
【0231】
いくつかの実施形態において、電極チップおよび試験構成に適用されるパラメーターは、1MのKCl、pH7.5、電流の流速、海水面での大気圧、および室温である。
【0232】
捕獲されたプローブ
一態様において、本開示は、ヘテロジニアスまたはホモジニアスな混合物から、個々の分子(例えばタンパク質)を捕捉し、検出し、計数し、ソートし、ビニングし、および濃縮する方法を提供する。
【0233】
分子中の単一の分子を、分子の様式で、捕獲し、検出し、ソートし、計数し、単離し、回収し、および/またはビニングする技術が開示されている。いくつかの実施形態において、このような目的のために、ナノ細孔中に捕獲されたプローブ分子が使用される。いくつかの実施形態において、このような目的のために、プローブ分子を包含するナノ細孔で読み取り可能な複合体(NRC)が使用される。いくつかの実施形態において、NRCは、ナノ細孔で捕捉する、ナノ細孔で捕獲する、ナノ細孔を通って進む、および/またはナノ細孔で読み取ることができるプローブ分子を包含する。いくつかの実施形態において、プローブ分子(「プローブ」)は、以下の部分:(1)標的分子に直接結合することができる、または標的分子に結合するレポーター分子に結合する、プローブセクションまたは配列;(2)プローブ分子の1つまたは複数の末端に付着した可変式温度キャップ(VTC)、ここで可変式温度キャップは温度感受性であり、所定の温度範囲ではバルキーな2次元および/または3次元構造であり、他の温度範囲で直鎖状の構造であると推定することができる;(4)ナノ細孔で読み取り、NRC、NRCに取り込まれたプローブ分子、プローブ分子に直接的に付着した、もしくはレポーター分子を介して付着した標的分子、および/またはNRCの状況(例えば、NRCに付着したレポーター分子および/または標的分子が存在する場合)を識別することができる、1つまたは複数の検証セクション(複数可);(5)レポーター分子に結合するためのレポーター結合セクション;(6)それに続く単離または精製のための精製タグ;(7)固有のアドレスIDセクション;および/または(8)細孔を通って進む際の状況/特性を変化させて、プローブが、ナノ細孔で読み取られたこと(例えば、電気シグナル検出のためにナノ細孔を通って進んだこと)を提示する、1つまたは複数の「読み取りスイッチ」セクションのうち1つまたは複数を包含する。
【0234】
一態様において、標的分子を検出する方法は、(a)感知電極に隣接して、またはその近傍に堆積させられた、膜中にナノ細孔を含むチップを提供すること;(b)核酸分子をナノ細孔に方向付けることを含む。核酸分子は、レポーター分子と会合していてもよい。核酸分子は、アドレス領域とプローブ領域とを含んでいてもよい。レポーター分子は、プローブ領域で核酸分子と会合していてもよい。レポーター分子は、標的分子にカップリングされていてもよい。いくつかの場合において、本方法は、(c)核酸分子をナノ細孔に方向付けながらアドレス領域を配列決定することにより、アドレス領域の核酸配列を決定すること;および(d)コンピュータプロセッサを用いて、(c)で決定されたアドレス領域の核酸配列に基づき標的分子を識別することをさらに含む。
【0235】
いくつかの実施形態において、(b)において、分子のプローブ領域にレポーター分子が結合することにより、(b)におけるプローブ分子は、細孔中で停止して保持される(さらに、レポーター分子と核酸分子との会合に基づき、ナノ細孔を通るプローブの進行速度が減少する可能性がある)。
【0236】
いくつかの場合において、ナノ細孔を通る核酸分子の進行速度が減少するときに、核酸分子の最大3、4または5つの塩基が識別される。いくつかの例において、結合したレポーターは、細孔中に存在する分子を完全に停止させる。ハイブリダイズした複合体は、細孔中のプローブ分子と、プローブ分子に付着したレポーターとを含んでいてもよい。読み取りは、スピードバンプの添加によって達成することができる。
【0237】
いくつかの場合において、プローブの末端が予めバルキーな構造を形成していなくても、プローブは一方の末端でバルキーな構造を形成するので、プローブは細孔中に留まると予想される。
【0238】
いくつかの実施形態において、NRCはまた、プローブ分子に結合するレポーター分子(「レポーター」)も包含する。レポーター分子は、(a)例えばペプチド、タンパク質、核酸、核酸類似体、DNA、RNA、siRNA、shRNA、ペプチド核酸、グリコール核酸、メチル化および/または非メチル化核酸などの単一のポリマーに結合できるあらゆる分子、および/または(b)例えばペプチド鎖、タンパク質、核酸、ならびに他の生物学的および化学的ポリマーなどの多重鎖ポリマーに結合できるあらゆる分子であってもよい。いくつかの実施形態において、レポーター分子は、特定の(例えば特定の試料からの)標的分子源に固有のものにすることができ、レポーター分子の識別を使用して、標的分子源を識別することができる。いくつかの実施形態において、本明細書において開示された技術を使用して、レポーター分子をプローブ分子で捕捉してそれに結合させ、計数し、ソートし、回収し、および/またはビニングすることができる。
【0239】
いくつかの実施形態において、ナノ細孔で読み取り可能な複合体(NRC)は、プローブまたはプローブ−NRCを一方向で細孔に挿入させることができる。いくつかの実施形態において、所定の条件下で、NRCの一方の末端はバルキーな構造を形成し、他方の末端はその直鎖状の形態を保つ。形成されているバルキーな構造が、ナノ細孔検出器のナノ細孔を通って進むには大きすぎるため(例えば温度範囲)、NRCが捕捉されると、NRCの直鎖状の末端しかナノ細孔を通って進むことができないので、その結果として、ナノ細孔によるNRCの定方向性の読み取りが起こる。いくつかの実施形態において、方向性の進行および読み取り(例えば、NRCの5’末端から)は、ナノ細孔中のNRCのシグナルのより明確な読み取りを達成することができる。
【0240】
いくつかの実施形態において、NRCは、ナノ細孔検出器のナノ細孔中に捕獲され、その結果としてナノ細孔中のNRCに包含されるプローブが捕獲される。いくつかの実施形態において、ナノ細孔中のプローブ分子を捕獲することにより、試料分子を捕捉し、検出し、特徴付け、ソートし、回収し、および/またはビニングするのに同じプローブ分子を繰り返して使用することが可能になる。
【0241】
いくつかの実施形態において、NRCおよびNRCに包含されるプローブが、ナノ細孔に正確に挿入されているか否かを検証することが可能である。いくつかの実施形態において、NRCは、正しい先端を識別する先端識別子(例えば、NRCが先端に進むときに読み取られて、識別可能なシグナルレベルを付与することができる、先端に存在する固有の配列)、および/または正しい終端を識別する終端識別子(例えば、NRCが終端に進むときに読み取られて、識別可能なシグナルレベルを付与することができる、終端に存在する固有の配列)を包含していてもよい。NRCがナノ細孔検出器のナノ細孔に挿入されると、NRCはその終端に進むことができ、ナノ細孔検出器により終端にある配列が読み取られる。配列の読み取りが正しい終端に関するシグナルと一致したら、NRCが正確に挿入され(例えば、5’末端から挿入され)、終端のキャップ(例えば、終端のヘアピン構造)が適切に形成されたことが確認される。ナノ細孔中に捕獲されたNRCがその先端に進み、ナノ細孔検出器により先端にある配列が読み取られる場合、配列の読み取りが正しい先端に関するシグナルと一致したら、NRCが正確に挿入され、先端のキャップ(例えば、先端のヘアピン構造)が適切に形成されたことが確認される。NRCが適切に挿入され、末端のキャップが適切に形成されたことが示された場合、ナノ細孔中に捕獲されたプローブ(NRCに包含される)は、すぐに使用できる状態である。
【0242】
いくつかの実施形態において、NRCは、プローブ分子が一度読み取られているか否かを決定するのに使用できる「読み取りスイッチ」セクションを包含していてもよい。いくつかの実施形態において、プローブが一度読み取られたら、読み取りスイッチの特性および/または性質は変更される。いくつかの実施形態において、プローブ分子に1つまたは複数の分子または分子フラグメントが付着し、読み取りスイッチ分子として利用される。分子または分子フラグメントは、プローブがナノ細孔を通過すると、プローブ分子から離れる。したがって、読み取りスイッチ分子の存在は、プローブが、まだ読み取られていないことを提示し(プローブ分子がナノ細孔を通って進むことにより、読み取りスイッチが状況を変化させていないため)、分子スイッチの非存在は、プローブ分子がすでに読み取られていることを提示する(プローブがナノ細孔を通って進むことにより、読み取りスイッチが状況を変化させているため)。読み取りスイッチは、プローブ分子の定量分析、その結果として試料中のプローブ分子に付着したレポーター分子および/または試料分子の定量分析を可能にする。いくつかの実施形態において、1種または複数種のプローブ分子を試料分子と共にインキュベートして、プローブ−試料分子複合体を形成する。プローブ−試料分子複合体を、分析のために、単一のナノ細孔検出器アレイに入れることができる。各ナノ細孔が1つのプローブ−試料分子複合体を掴み、それを読み取ることにより、捕捉されたプローブ−試料分子/プローブ/試料のタイプが何かを決定することができる。プローブ−試料分子複合体がすでに読み取られたら、読み取りスイッチがその状況を変化させる(例えば、スイッチ分子がプローブから離れる)。読み取られたプローブ−試料分子複合体は放出されて、ナノ細孔周囲の緩衝液に戻される。次いでナノ細孔は、別のプローブ試料分子(ample molecule)を掴み、それを再度読み取る。プローブ−試料分子が以前に読み取られている場合、読み取りスイッチは、検出されないと予想される。プローブ−試料分子が以前にまだ読み取られていない場合、読み取りスイッチは、検出されると予想される。以前に読み取られているプローブ−試料分子は、識別することができるが、プローブ−試料の二重の計数が起こらないように計数されない。この方式で、特定のタイプのプローブ−試料分子および試料分子を正確に計数することができる。
【0243】
いくつかの実施形態において、適正な分子(例えば、適正な試料分子またはレポーター分子)が、正確にプローブに付着しているか否かを決定することが可能である。いくつかの実施形態において、所定の分子は、プローブ分子上の特異的な領域に結合すると予想される。プローブ分子がナノ細孔検出器により読み取られるとき、その分子がプローブに付着した位置でプローブ分子が失速すると予想される。分子が失速したときの電気シグナルの読み取りは、プローブ上の分子結合部位の前にあるプローブのセクションの構造/配列に相当する。これは、プローブ上の分子結合部位の前にあるプローブのセクションの構造/配列を識別するのに使用することができる。分子結合部位の前にあるプローブの構造/配列が固有であり、識別可能な電気シグナルを付与する場合、この電気シグナルを使用して、分子を識別し、正しい分子がプローブに結合したか否かを決定することができる。
【0244】
いくつかの実施形態において、異なる試料からの分子を含有する試料中にある分子が存在するような場合であっても、その分子が由来する試料がどれかを識別することが可能である。いくつかの実施形態において、試料分子は、中間分子(例えばレポーター分子)を介してプローブ分子に結合し、各タイプの分子は、固有のタイプの中間分子に結合し、各タイプの中間分子は、プローブ分子上の固有の位置に結合する。第一の試料からの試料分子が、第一のタイプの中間分子に結合することができ、第二の試料からの試料分子が、第二のタイプの中間分子に結合することができる場合、第一および第二の試料からの分子を含有する混合物中の分子の由来は、分子に結合した中間分子の同一性を決定することによって決定することができる。いくつかの実施形態において、中間分子(例えばレポーター分子)の同一性は、中間分子がプローブ分子に結合して、プローブ上の中間分子の結合位置の前の配列が読み取られるときに作り出されたシグナルから決定することができる。
【0245】
いくつかの実施形態において、異なる試料からの特定のタイプの分子の相対的なカウント数または濃度は、正確に決定することができる。例えば、第一のタイプのデヒドロゲナーゼが結合した中間分子を、健康な組織試料と共にインキュベートする場合、第二のタイプのデヒドロゲナーゼが結合した中間分子を、罹患した組織試料と共にインキュベートする。次いで2つの試料を混合して、単一のナノ細孔検出器アレイを使用して分析する。いくつかの実施形態において、プローブ分子および/またはナノ細孔検出器を崩壊させることなく、特定の試料からのデヒドロゲナーゼ分子を選択的に計数し、放出させ、回収することができる。いくつかの実施形態において、ナノ細孔アレイ上でプローブ分子に結合した健康な試料および罹患した試料からの中間分子を比較することによって、健康な試料および罹患した試料からのデヒドロゲナーゼ分子の相対濃度を正確に決定することができる。
【0246】
いくつかの実施形態において、NRC分子は、NRC分子およびNRC分子に付着した他の分子(例えば、レポーターおよび試料分子)の単離を促進する1つまたは複数の単離用タグを包含する。いくつかの実施形態において、単離用タグは、磁気源に引き付けられるものであり、これは、NRC分子およびNRC分子に付着した他の分子を単離するために、NRC分子およびNRC分子に付着した他の分子を磁気源に留めるのに使用することができる。
【0247】
いくつかの実施形態において、プローブ分子にダメージを与えることなく、プローブ分子をレポーター/試料分子から解離させることができる。いくつかの実施形態において、プローブ分子とナノ細孔にダメージを与えることなく、温度を高めることにより、レポーター分子/試料分子から解離させることができる。
【0248】
図9は、ナノ細孔中に捕獲されたプローブ分子の一例を例示する。プローブ分子は、標的分子に結合するレポーターに結合するためのプローブ配列を包含する。標的分子は、例えばタンパク質およびペプチドなどのあらゆる好適な分子であってもよい。末端キャップとしてバルキーな構造を使用して、プローブ分子はナノ細孔中に捕獲される。バルキーな構造は、温度感受性であってもよく、温度に応じて形成されたり解離したりするものであってもよい。
【0249】
図10は、ナノ細孔中に捕獲されたプローブ分子の一例を例示する。示された例において、プローブ分子は、標的分子に結合するリガンドに結合するレポーター分子に結合するためのプローブ配列を包含する。リガンドは、標的分子に結合する抗体である。標的分子は、例えばタンパク質、ペプチド、細菌、または化学成分などのあらゆる好適な分子であってもよい。レポーター分子は、一本鎖ポリマー配列である。末端キャップとしてバルキーな構造を使用して、プローブ分子はナノ細孔中に捕獲される。バルキーな構造は、温度感受性であってもよく、温度に応じて形成されたり解離したりするものであってもよい。例示しないが、標的DNA、RNA、または他のヌクレオチド分子は、プローブ配列においてプローブ分子に直接結合することができる。標的ヌクレオチドの同一性は、プローブ分子の前にある配列、アドレス配列が、ナノ細孔を使用して読み取られるときに作り出されたシグナルに基づき決定することができる。
【0250】
図11は、プローブ分子の直鎖状の配列の一例を例示する。プローブ分子は、(5’末端における)先端および(3’末端における)終端を包含する。終端は、IJを包含する。
図12で例示されているように、アンチセンス鎖がJに結合して、ナノ細孔から排除される程度にバルキーな二本鎖のキャップを形成していてもよい。あるいはJは、2次元または3次元コンフォメーションにフォールディングしてそれ自身で結合して、終端キャップを形成していてもよい。先端は、ONMLを包含する。Oは、折り返されてMに結合し、ヘアピン構造を有するキャップを形成する。先端キャップよりも高温で、二本鎖のキャップが形成される。ポリマーの先端および終端の方向は、キャップの融解温度を調整することにより変化させることができる。高い融解温度のキャップは終端になり、低い融解温度のキャップは先端になる。また先端は、末端の識別子の配列Lも包含し、この配列Lは、先端における低温のキャップがナノ細孔に押し付けられると配列Lがナノ細孔で読み取られることにより、先端を識別するのに使用することができる。終端は、末端の識別子の配列Iを包含し、この配列Iは、終端における高温のキャップがナノ細孔に押し付けられると配列Iがナノ細孔で読み取られることにより、終端を識別するのに使用することができる。
【0251】
図13は、ナノ細孔を使用してプローブ分子を捕獲し特徴付けるためのプロセスフローを例示する。502において、適切な配列を有するプローブ分子が作製される。504において、プローブの一方の末端で、例えば高温のキャップ構造の融解温度未満に温度を低くすることにより高温のキャップが形成される。506において、プローブ分子は、先端(低温のキャップの末端)からナノ細孔を通って進む。508において、温度は、低温のキャップ構造の融解温度未満に低められ、先端に低温のキャップが形成される。508において、プローブは一方の末端(先端または終端のいずれか)に引き寄せられ、末端識別子が読み取られる。510において、プローブは他方の末端に引き寄せられ、末端識別子が読み取られる。512において、正しい末端識別子がすでに読み取られているか否かについての決定がなされ、ここでイエスの場合、プローブは、ナノ細孔中に捕捉されている。514において、プローブのアドレス領域にスピードバンプを付着させる。516において、プローブのアドレス領域に付着したプライマーがナノ細孔に押し付けられるように、プローブがナノ細孔を通って進む。各プライマーがプローブ分子の進行を失速させると、アドレス領域におけるプローブ配列が読み取られる。518において、プローブ分子の読み取られたアドレス配列に基づきプローブ分子の同一性についての決定がなされる。
【0252】
図14は、ナノ細孔に捕獲されたプローブを使用して、標的分子を捕捉して識別し、計数し、ソートし、および/または回収するプロセスフローである。602において、標的分子は、ナノ細孔で捕捉された公知のプローブに結合される。結合は、中間体分子または分子との直接の結合であってもよいし、または間接的な結合であってもよい。604において、プローブ−レポーター結合部位がナノ細孔に押し付けられるように、プローブ分子をナノ細孔に引き寄せる/押し付ける。606において、結合部位の前にある配列が読み取られる。608において、読み取られた配列を使用して、レポーター−標的分子が捕捉されていることを決定し、いくつかの例において、この読み取りを使用して、マルチ試料実験においてレポーター−標的がどの試料に由来するのかを決定することができる。標的分子は、プローブ分子上の特異的な部位に結合して、固有の配列を付与することができる。これは、標的分子の同一性が公知であるためである。さらなるプロセシングおよび/または使用のために、標的分子を選択的に放出し、回収し、計数し、ビニングすることができる。いくつかの例において、結合部位の前にあるプローブの配列は、タグを用いた合成(例えば、
図2Cおよび2Dを参照)による配列決定を使用して読み取られる(606)。
【0253】
図15は、ナノ細孔に捕獲されたプローブ分子を使用して、標的分子を計数し、ビニングし、回収するプロセスフローである。702において、標的分子は、ナノ細孔中に捕獲された公知のプローブ分子に結合される。704において、標的分子の同一性は、プローブ上のレポーター−標的分子の結合部位の前にあるプローブ配列に基づき決定される。708において、さらなるプロセシングおよび/または使用のために、レポーター−標的分子をプローブから放出させて、回収し、ビニングし、および/または計数する。
【0254】
図16は、ナノ細孔に捕獲されたプローブ分子を使用して、標的タンパク質分子を検出し、識別し、計数し、ビニングし、および/または回収するプロセスフローである。802において、タンパク質が試料から単離される。804において、単離されたタンパク質を、イミノビオチン、ビオチン、または抗アビジンRNAアプタマー(adptamer)のいずれかで標識する。806において、タンパク質にレポーターで標識された抗体を添加し、インキュベートして結合させる。808において、混合物中に、ストレプトアビジンでコーティングされた磁気ビーズまたは抗ビオチンRNAアプタマーでコーティングされた磁気ビーズを投入することにより、全ての未結合の抗体およびレポーターDNA分子を洗浄して落とす。810において、磁気源を使用して、全てのタンパク質を反応チューブ側に引き寄せてもよい。812において、上清を除去して、ビーズ/タンパク質/抗体レポーターDNAを新しい緩衝溶液で数回すすぐ。814において、試料のタンパク質分子を磁気引力から離して再懸濁する。816において、溶液のpHを低くすることによりストレプトアビジン(streptavadin)/イミノビオチンの連結を破壊してもよいし、またはRNAアーゼ酵素を添加して抗ビオチンまたは抗アビジンRNAアプタマーを破壊してもよい。いくつかの場合において、816は、キャプトアビジン(captavidin)であり、これは、pHが変化すると分子を放出することができる。結果は、抗体およびレポーター分子で標識された試料タンパク質のプールであり、遊離の抗体/レポーター分子や非タンパク質が結合した抗体/レポーター分子は、溶液中には存在しない。
【0255】
図17は、ナノ細孔に捕獲されたプローブ分子を使用して、標的タンパク質分子を検出し、識別し、計数し、ビニングし、および/または回収するプロセスフローである。902において、タンパク質が試料から単離される。904において、単離されたタンパク質を、イミノビオチン、ビオチン、または抗アビジンRNAアプタマーのいずれかで標識する。906において、タンパク質にレポーターで標識された抗体を添加し、インキュベートして結合させる。908において、混合物中に、ストレプトアビジンでコーティングされた磁気ビーズまたは抗ビオチンRNAアプタマーでコーティングされた磁気ビーズを投入することにより、全ての未結合の抗体およびレポーターDNA分子を洗浄して落とす。910において、磁気源を使用して、全てのタンパク質を反応チューブ側に引き寄せてもよい。912において、上清を除去して、ビーズ/タンパク質/抗体レポーターDNAを新しい緩衝溶液で数回すすぐ。914において、試料のタンパク質分子を磁気引力から離して再懸濁する。916において、プロテアーゼKを添加して、全てのタンパク質を溶解させる。918において、温度を高めてプロテアーゼKを変性させる。920において、試料を、ナノ細孔アレイで使用するために冷却するか、または可能性のあるさらなる特徴付けまたは使用のために保存する。
【0256】
図18は、レポーターで標識された抗体に結合したタンパク質分子の構造を例示する。レポーター分子は、プローブ配列に結合できるあらゆる分子であってもよい。レポーター分子の例としては、DNA、RNA、cDNA、siRNA、shRNA、PNA、GNA、モルホリノ、またはポリマープローブ鎖に結合する他のあらゆるポリマーまたは部分が挙げられる。
【0257】
図19は、ナノ細孔に捕獲されたプローブ分子を使用して、レポーターと抗体が結合した標的分子(例えばタンパク質)とを特徴付けるための流れ工程である。1002において、レポーターで標識された抗体に結合したタンパク質分子を、ナノ細孔アレイに添加する。プローブ分子のアレイが、ナノ細孔アレイのナノ細孔中に捕獲される。捕獲されたプローブ分子の同一性および位置は、上記で説明した技術を使用して決定することができる。ナノ細孔アレイの操作を始め、プローブ分子をナノ細孔に引き寄せて、捕獲し、検証する。1004において、レポーター分子の結合部位がナノ細孔に押し付けられるように、例えば電場下でプローブ分子を引き寄せる/押し付ける。1006において、レポーター結合部位の前にある配列が読み取られる。1008において、レポーター分子の同一性、すなわちレポーター分子に結合した抗体および抗体に結合したタンパク質分子の同一性は、読み取られたプローブ配列に基づき決定することができる。
【0258】
図20は、ナノ細孔に捕獲されたプローブ分子を使用して、異なる試料からの標的分子を特徴付けるための流れ工程である。これは、レポーター分子のプローブ結合部位は、レポーター分子に固有であるためである。異なる試料に使用された同じ抗体のためのレポーター分子が、互いに異なるように作製されている場合、本発明者らは、特定のレポーター分子が結合したときに生産されたシグナルを調べることによって、標的分子がどの試料に由来するのかを識別することができる。例えば、試料A中の水素ペルオキシダーゼと結合させるのに使用される抗体を、レポーター分子Mで標識し、試料B中の水素ペルオキシダーゼと結合させるための抗体を、レポーター分子Nで標識する。Nが、Mよりも3ヌクレオチド分長いことを除いては、MとNは同じである。MとNがプローブ分子に結合して、レポーター結合部位がナノ細孔に押し付けられる際にプローブ配列が読み取られると、MとNは異なるシグナルを生産すると予想される。このようなシグナルに基づき、プローブに結合したタンパク質の源を決定することができる。1102において、異なる試料からのタンパク質を単離して、別々に固有のレポーターで標識された抗体に結合させる。特定のタイプの抗体に結合したレポーター分子は異なっており、異なる試料ごとにプローブ分子上の異なる位置に結合する。1104において、異なる試料からの抗体レポーター−タンパク質分子を混合する。1106において、同じナノ細孔アレイを使用して、異なる試料からの抗体−レポーター−タンパク質分子を一緒に特徴付ける。1108において、レポーター結合部位がナノ細孔に押し付けられ、レポーター分子の前にある配列が読み取られるようにプローブ分子が配置されている場合、ナノ細孔中に捕獲されたプローブ分子に結合したタンパク質の同一性をプローブ分子の電気シグナルから決定することができる。同じナノ細孔アレイを使用して異なる試料を一緒に特徴付けることにより、2つの試料が同じ特徴付け条件に晒されるために、2つの試料の優れた定量的な比較が可能になる。例えば試料AおよびBからの水素ペルオキシダーゼの数を計数して、それらの比率を決定することができる。1108において、特徴付けの最後に、プローブによって捕捉された分子を、さらなる分析および/または使用のために、選択的に放出させ、ビニングし、計数し、回収し、および/またはソートすることができる。例えば、ナノ細孔は個々に電気的にアドレス可能であるため、試料Aからの捕捉された水素ペルオキシダーゼを、ナノ細孔アレイから同時に放出させて、回収し、計数することができる。
【0259】
さらなるプロセシングおよび/または使用のために、特徴付けの最後に標的分子を回収して回復させることができる。したがって、本明細書において開示された技術は、分子を特徴付けるときに特徴付けられた標的分子を回収し、計数し、単離するために、リアルタイムの単一の分子の特徴付けを可能にする。
【0260】
定量分析のために、標的分子および標的レポーター分子(プローブ配列に結合するならばどちらでもよい)は、1回限りの読み取り標識(例えば、標的分子が1回読み取られると離れてシグナルを付与する化学標識)に付着させてもよい。1回限りの読み取り標識は、標的分子に再付着できない。1回限りの読み取り標識(on−time−read label)が離れたときに付与されるシグナルの存在または非存在を使用して、分子がすでに計数されているか、または前もって特徴付けられているか否かを決定することができる。
【0261】
本明細書で説明される技術を適用して、例えば2〜3分子などの低濃度試料を同時に検出し、計数し、ソートし、ビニングし、および/または濃縮することができる。
【0262】
本開示において、分子を検出するための様々な例を示す。いくつかの場合において、ssDNAレポーターを、未知の組成を有する溶液中の各タンパク質に付着させることができる。次いでレポーター分子を細孔に引き寄せて、停止させることができる。1回の読み取りを行って、タンパク質を識別することができる。この方法では、読み取るための停止位置が1つしかないため、識別可能な異なるタンパク質の数が限定される可能性がある。
【0263】
他の例において、ssDNAレポーターを、未知の組成を有する溶液中の各タンパク質に付着させることができる。レポーターは、細孔中に捕獲されるプローブ分子に付着させることができる。プローブ分子は、レポーターとのハイブリダイゼーションの前かまたはその後のいずれかでスピードバンプを使用することによって読み取られるアドレス領域を有していてもよい。それゆえに、この方法では、細孔のアレイで使用できるプローブがより多い。このようなアドレスにより、多くの様々な鎖の識別を可能にする。一例として、プローブは、各スピードバンプストップにつき4つのレベルを設けることができ、6つのスピードバンプストップにより4096の異なるアドレスが得られる。このアプローチを使用して、選択分子をナノ細孔のアレイから放出させて、ソートし、ビニングし、保管することができる。
【0264】
他の例において、ssDNAレポーターを、未知の組成を有する溶液中のタンパク質に付着させることができる。いくつかの場合において、バルクの上清からタンパク質の多くまたは全部を単離することができる。いくつかの場合において、遊離の未結合のレポーター分子を洗浄して落とす。次いでタンパク質を破壊および/または分解してもよい(例えばプロテアーゼを用いて)。いくつかの場合において、それにより反応ミックス中にレポーターssDNAだけが残り、元の溶液中に存在した元のタンパク質が示される。次いでこれらのssDNAレポーターを、細孔中に結合したプローブssDNAを有するアレイに入れてもよい。いくつかの例において、レポーターがプローブに結合することにより結果的に停止したシグナルは、タンパク質のキャッチまたは読み取りを示す。いくつかの実施形態において、タンパク質がもはや存在しないため、その後ナノ細孔アレイから放出させ、ソートし、ビニングし、保管することはできない。
【0265】
他の例において、溶液中の分子は、タンパク質ではない。分子は、例えばssDNAであってもよい。溶液中の遊離のDNAが細孔中の捕獲されたssDNAプローブに結合することにより、特異的なDNA鎖を検出し、これらの選択鎖をソートし、ビニングし、保管することが可能になる。いくつかの場合において、アレイのプローブは、アレイから追い出されて回収される。
【0266】
分子を検出する方法は、スピードバンプの使用を採用していてもよい。スピードバンプおよびそれらの使用の例は、参照により全体が本明細書に組み入れられる米国特許公報第2012/0160681号および2012/0160688号に記載されている。
【0267】
図21は、ナノ細孔中に捕獲されたプローブ分子のアドレス領域へのスピードバンプの結合を例示する。アドレス領域に特異的なスピードバンプをこの領域に結合させることにより、ナノ細孔検出器を使用してこの領域を迅速に識別し読み取ることが可能になる。この領域は、ナノ細孔の入口でスピードバンプにより停止するまでナノ細孔中のプローブ分子を進めることにより迅速に識別することができ、プローブが細孔中で失速したときに電気シグナルが測定される。アドレス領域は、アドレス領域が特定のタイプのスピードバンプに結合するように操作されていてもよい。例えば、イソdGおよびポリイソdCで固有のパターンで作製されたポリヌクレオチドが、アドレス領域に操作されていてもよい。アドレス領域においてイソdGおよびイソdCに特異的に結合するスピードバンプ(例えば、イソdGおよび/またはイソdCで作製されたスピードバンプ)を配置して、簡単にアドレス情報の読み取りを行うことができる。
【0268】
図22は、電極A、2つの意図的に作成された独立したウェルに分かれており、それらウェルの間に小さい穴を有する親水性表面B、その穴の上方に生成した脂質材料の二重層Cを含むナノ細孔検出器の一例を例示する。導電性塩溶液Eを通ってナノ細孔Dが挿入される(例えば拡散により)。
図22のナノ細孔検出器は、ナノ細孔検出器アレイ中の複数のナノ細孔検出器のうちの1つであってもよい。
【0269】
他の実施形態において、プローブのポリヌクレオチドは、
図23に示される構造を含む。プローブ分子は、一方の末端上に第一の前バルキーな構造、他方の末端上に第二の前バルキーな構造、第一の方向識別子(DI1)、第二の方向識別子(DI2)、レポーターDNAの結合部位、およびレポーター識別子を含む。
【0270】
第一の前バルキーな構造は、第一の条件で第一のバルキーな構造を形成する。第二の前バルキーな構造は、第二の条件で第二のバルキーな構造を形成する。
【0271】
前バルキーな構造は、本明細書で使用される場合、所定の条件下で(例えば所定の温度で、所定の化合物(複数可)の存在/非存在下で)バルキーな構造を形成することができる構造である。
【0272】
バルキーな構造とは、本明細書で使用される場合、作動条件が、試験ポリヌクレオチド分子をそれ以上失速させることができない前バルキーな構造または他の構造にバルキーな構造が変換される別の条件に変わるまで、作動条件で、ナノ細孔中で試験ポリヌクレオチド分子を失速させる構造のことである。
【0273】
一実施形態において、前バルキーな構造は、所定の条件下でバルキーな構造を形成することができるポリヌクレオチド分子中のオリゴヌクレオチド構造である。前バルキーな構造は、ssポリヌクレオチドであってもよいし、またはdsポリヌクレオチドであってもよい。バルキーな構造の例としては、これらに限定されないが、例えばポリヌクレオチド二重鎖構造(RNA二重鎖、DNA二重鎖またはRNA−DNAハイブリッド)、ポリヌクレオチドヘアピン構造、マルチヘアピン構造、およびマルチアーム構造などの2次元および3次元構造などが挙げられる。
【0274】
他の実施形態において、前バルキーな構造は、前バルキーな構造に特異的なリガンドとの相互作用を介してバルキーな構造を形成する。このような前バルキーな構造/リガンド対の例としては、これらに限定されないが、ビオチン/ストレプトアビジン、抗原/抗体、および炭水化物/抗体などが挙げられる。
【0275】
一実施形態において、バルキーな構造は、オリゴヌクレオチドの前バルキーな構造、例えば、ss試験ポリヌクレオチド分子中の前バルキーな構造から形成されたオリゴヌクレオチド構造から形成される。ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドのバルキーな構造の例としては、これらに限定されないが、ヘアピン核酸鎖、ハイブリダイズしたアンチセンス核酸鎖、自己ハイブリダイズした複数のアームおよび3次元DNAまたはRNA分子などが挙げられる。
【0276】
他の実施形態において、バルキーな構造は、本明細書で説明されるような前バルキーな構造/リガンド対の相互作用を介して形成される。
【0277】
一例において、第一および第二の前バルキーな構造の両方が、ポリヌクレオチド/オリゴヌクレオチドの前バルキーな構造である。第一の前バルキーな構造は、第一の温度でそれに対応する第一のバルキーな構造を形成する。第二の前バルキーな構造は、第二の温度でそれに対応する第二のバルキーな構造を形成する。さらに第一の温度は、第二の温度よりも高い。
【0278】
他の例において、第一の前バルキーな構造は、第一の前バルキーな構造に特異的なリガンドとの相互作用により第一のバルキーな構造を形成する、ポリヌクレオチド/オリゴヌクレオチドの前バルキーな構造である。好ましい例において、第一のバルキーな構造の形成は、温度非依存性である。第二の前バルキーな構造が、前バルキーな構造とそれに対応するバルキーな構造との変換が温度依存性になるような構造であることが好ましい。
【0279】
図23で示されるように、プローブ分子は、方向識別子:第一の前バルキーな構造に近接した第一の方向識別子、および第二の前バルキーな構造に近接した第二の方向識別子をさらに含む。
【0280】
セクションDI1およびDI2はさらに、例えば参照シグナル識別子、プローブ源識別子、およびプローブ識別子などの1つまたは複数の他の識別子を含んでいてもよい。
【0281】
図23におけるセクションI1およびI2は、本明細書で説明されるような1つまたは複数の識別子を含んでいてもよい。
【0282】
一実施形態において、レポーター分子(レポーター/標的)と複合体/化合物を形成する標的を固定する方法は、
(A1)プローブのポリヌクレオチドを調製すること、ここでポリヌクレオチドは、本明細書で説明されるような
図23に示される構造を含み、レポーター分子は、レポーター分子用の結合部位に結合することができ;
(B1)第一の条件で第一の前バルキーな構造から第一のバルキーな構造(BS1)を形成すること、
(B2)電位を加えて、ssプローブポリヌクレオチドをナノ細孔検出器のナノ細孔に流すこと、
(B3)第二の条件で、第二の前バルキーな構造から第二のバルキーな構造(BS2)を形成すること、
(B4)いくつかの場合において、別の電位を加えて、ナノ細孔のくびれ領域の前でss試験ポリヌクレオチドがBS2によって停止するまでss試験ポリヌクレオチドの流れを逆転させること、
(B5)いくつかの場合において、プローブのポリヌクレオチドの識別子(例えば第一の方向識別子、第二の方向識別子、プローブ識別子、参照シグナル識別子、およびプローブ源識別子)を識別して、バルキーな構造(複数可)の適切な形成(複数可)を確認し、プローブのポリヌクレオチドを識別すること、ここで後者は、ナノ細孔アレイ中に2個以上のナノ細孔が存在する場合に重要であり、その場合、各ナノ細孔は、プローブのポリヌクレオチドを識別することによりアドレス可能であり、アドレス可能なナノ細孔と標的との関連が確立され、
(B6)ssプローブのポリヌクレオチドと、レポーター/標的とを接触させ、レポーター分子−プローブのポリヌクレオチドセグメントを含むssプローブポリヌクレオチド複合体を形成すること;
(B7)別の電位を加えて、ナノ細孔のくびれ領域の前でレポーター分子−プローブのポリヌクレオチドセグメントが停止するまでプローブのポリヌクレオチド複合体をナノ細孔に流すこと、
(B8)一時停止時間にわたりナノ細孔の内部でレポーター分子−プローブのポリヌクレオチドセグメントが失速したときに、第一の電気シグナルのセットを得ること、
(B9)プローブのポリヌクレオチドの流れ方向でレポーター分子−プローブのポリヌクレオチドセグメントの前にある構造を識別することによって、レポーター分子が固定されているか否かを決定すること、ここでレポーター分子が標的との化合物/複合体を形成する場合、レポーター分子が固定されていればその標的は固定されており、および
(B10)いくつかの場合において、I2およびLI中の1つまたは複数の識別子(例えばプローブ識別子、参照シグナル識別子、およびプローブ源識別子)を識別すること
を含む。
【0283】
本明細書で説明される方法を使用して、レポーター分子およびレポーター分子に付着した標的を分子レベルで検出および/または定量することができる。
【0284】
いくつかの実施形態において、レポーター分子は、標的である。
【0285】
いくつかの実施形態において、本方法はさらに、ナノ細孔のアレイを使用して複数のレポーター/標的分子を固定するのに適用することができ、この場合、本明細書で説明される方法が、個々のプローブのポリヌクレオチド、個々のレポーター/標的分子、および各々、個々にアドレス可能なナノ細孔に適用される。レポーター/標的分子を固定し識別した後、レポーター/標的分子を分子レベルで検出/定量する。その上、プローブのポリヌクレオチドが捕獲される個々のナノ細孔の条件(例えばそれらの電位)を制御することによって、固定されたレポーター/標的分子をさらに濃縮/ソート/精製することができる。
【0286】
本発明は、個々に制御可能な大規模並行電極/ナノ細孔センサーに使用することができる。これらの1,000、10,000、100,000より多く、または数百万もの電極/ナノ細孔センサーを含有する電極/ナノ細孔センサーのアレイを、実質的に平らな半導体表面上に製造することができる。半導体に制御回路を取り込んで、個々に制御可能な、かつ個々に読み取り可能な電極/ナノ細孔センサーを生成してもよく、これらのセンサーを使用して、ナノ細孔にフィットすると予想されるあらゆるポリマーを読み取ることができる;このようなポリマーとしては、これらに限定されないが、メチル化DNAなどのあらゆる形態のDNAおよびRNAが挙げられる。
【0287】
いくつかの場合において、分子を検出する方法は、タンパク質のアンフォールディングおよびナノ細孔からの流出物を利用してもよい。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるJ.Nivala、D. B. MarksおよびM. Akeson、「Unfoldase−mediated protein translocation through an α−hemolysin nanopore」、Nature Biotechnology、2013年、DOI:10. 1038/nbt.
2503を参照されたい。フォールディングされていないタンパク質は、本開示のナノ細孔を通って進む可能性がある。タンパク質をナノ細孔を通って流動させると、フォールディングされていないタンパク質のアミノ酸配列が得られる可能性がある。
【実施例】
【0288】
以下の実施例は、本開示の様々な実施形態を例示するものであり、非限定的である。
【0289】
(実施例1)
二重層の形成および細孔の挿入
手作業によるシリンジ構成およびシリンジポンプ構成を使用したフローセルでの二重層の形成および細孔の挿入により、高い二重層と単一の溶血素の細孔が得られる。脂質で被覆されたチップ表面全体に1Mまたは0.3MのKCl溶液と気泡を流動させ、電気的な刺激を加えることによって、二重層が両方の構成で形成される。2つの溶血素を適用する方法により、高収量の単一の細孔が得られる。1つの方法は、以下のステップ:(1)デカン中で溶血素と脂質とを予備混合するステップ、(2)チップ表面の上方に溶血素−脂質混合物を流し、2〜3分インキュベートするステップ、(3)二重層を形成するステップ、および(4)電気刺激を加えることにより、エレクトロポレーションして二重層に細孔を入れるステップを含む。第二の方法は、以下のステップ:(1)チップ表面の上方にデカン中の脂質を流すステップ、(2)二重層を形成するステップ、(3)チップ表面全体に溶血素を流すステップ、(4)即座にKCl洗浄液を流すステップ、および(5)電気刺激を加えることにより、エレクトロポレーションして二重層に細孔を入れるステップを含む。溶血素挿入のために二重層をより流動的にするために、両方の適用方法におけるエレクトロポレーションステップの間、チップを加熱してもよい。細孔の寿命を長くするために、エレクトロポレーションステップ中またはその後のいずれかに温度を室温またはそれより低い温度に下げる。
【0290】
(実施例2)
フローセルの形態
図24および
図25を参照すると、半導体チップの上部にガスケットを直接置くことにより、フローセルをチップパッケージ上に組み立てる。ガスケットの厚さは50μmから500μmまで様々である。ガスケットは、片側または両側に感圧接着剤を有するプラスチック、シリコーン膜、または例えばEPDMなどのフレキシブルなエラストマーで作られ得る。ガスケットは、あらゆる形状に製造することができる。ガスケット(例えば、PSAが積層されたPMMAで作製された)上部に硬質プラスチックの蓋(例えばPMMAで作製された)を置き、感圧接着剤で、またはガスケットに圧縮力を適用する固定メカニズムによって蓋をガスケットに封止してもよい。蓋は、フローセルに試薬および空気を流すのに使用される単一または複数の入口および出口ポートを有する。
【0291】
いくつかの例において、全体のガスケットサイズは、4mm×4mm平方である。いくつかの場合において、フローセルの体積は、厚さ500μmのガスケット形態の場合、約1.5μlである。いくつかの実施形態において、約15〜20個の電極がガスケットで被覆されている。
【0292】
(実施例3)
流体工学シリンジポンプ
図26および
図27を参照すると、チップ全体にわたる空気および液体の流れの速度は、流体工学ポンプおよび注入バルブによって制御される。ポンプによって作り出された流速は、0.01μl/秒から100μl/秒より大きい値まで様々である。流体工学制御器は、緩衝液入口ポート、出口ポート、および脂質/溶血素注入ポートを含むマルチポート選択バルブを有する。
【0293】
実験室用流体工学ポンプの例の1つは、Kloehn Versapump 6(V6)シリンジポンプである。このポンプは、フェースマウント5ポートインジェクションバルブを有する。実験中、様々な試料をシリンジに吸い取り、出口ポートを介して押し出し、フローセルに流動させる。流速は、ポンプ中のステッパーモータによって制御される。
【0294】
(実施例4)
シリンジポンプでのフロープロトコール
この実施例は、90%を超える脂質被覆率および30%の溶血素の細孔挿入を達成する。チップ表面全体へのDPhPCおよび溶血素の混合物の注入によっても、50%の細孔挿入収量も達成する。
【0295】
二重層の調製:
(a)100μlの1MのKClを引き出し、10μl/秒の流速でフローセルシステム全体に流す。
(b)Ag/AgCl参照電極を使用した電位ステップを適用することによってチップ電極を調整する。
(c)チップ全体にデカン中の7.5mg/mlのDPhPC(40μl)を1μl/秒の流速で注入する。
(d)チップ全体に20μlの空気の気泡を注入する。
(e)チップ全体に100μlのKClを1μl/秒の流速で注入する。
【0296】
溶血素の細孔挿入:
(a)チップ表面全体に50μlの溶血素溶液を1μl/秒の流速で注入する。
(b)チップ表面全体に100μlのKCl溶液を流す。
(c)ステップa)の直後、ステップb)の前、またはステップb)の後のいずれかに、細孔挿入のために電極電位をモジュレートする。
【0297】
(実施例5)
手作業によるシリンジを使用したフロープロトコール
二重層の調製:
(a)100μlの1MのKClを引き出し、フローセルシステム全体に流す。
(b)Ag/AgCl参照電極を使用した電位ステップを加えることによってチップ電極を調整する。
(c)デカン中に7.2mg/mlのDPhPCおよび5ug/ml溶血素を含有する溶血素−脂質ミックス、それに続いて120μlのKClを流す。
(d)一連の負の電気パルスを加えて、脂質の被覆を除去する。
(e)20μLのKClおよび20μlの気泡を2回、それに続いて120μlのKClを流す。およそ4回、または電極の少なくとも80%が300pAよりも高い電流を示すまで、電気パルスを加えながらステップdおよびeを繰り返す。
(f)20μLのKClおよび20μlの気泡を2回、それに続いて120μlのKClを流して、二重層を有する電極を回復させる。
【0298】
溶血素の細孔挿入:
(a)チップ温度をおよそ55℃に高める。
(b)電気パルスを加えることにより、エレクトロポレーションして二重層に細孔を入れる。
【0299】
上記の実験手順により、151〜50の個別の細孔の収量(それぞれおよそ60%〜20%の溶血素の細孔挿入)が得られる。
【0300】
チップの温度は、実験中にモジュレートすることができる。また参照電極機構を調整して、フローセル上に塗られたAg/AgClインクが潜在的に包含されるようにする。
【0301】
(実施例6)
材料および構成
試薬:0.3MのKCl、20mMのHepes(pH7)
【0302】
溶血素:
デカン中の7.2mg/mlのDPhPCおよび2.5%グリセロール中の5μg/mlの溶血素
デカン中の7.2mg/mlのDPhPCおよび2.5%グリセロール中の20μg/mlの溶血素。
【0303】
DNA:
30μMの30T DNA w/7.5μMのストレプトアビジン
30μMの30T DNA w/7.5μMのストレプトアビジンおよび0.83%グリセロール。
【0304】
チップ:
Rev2ディープウェルのラージキャップ
Rev1ディープウェルのラージキャップ。
(実施例7)
二重層の形成プロトコール
1.デカン中の7.5mg/mlのDPhPC(20μL)、それに続いて120μLのKClを流す。
2.300pAの非活性化電流で−250mVから−1Vの範囲の一連の負の電気パルスを加えることにより、二重層の電圧上昇3bを行う。
3.チップを、20μLのKCl、20μLの気泡で2回、さらに120μLのKClで洗浄する。
4.二重層の電圧上昇3b。
5.−400mV〜−700mVのパルスでセルの少なくとも80%が非活性化されるまでステップ3および4を繰り返す。
a.約4〜8回繰り返す。
6.セルを、20μLのKCl、20μLの気泡で2回、さらに120μLのKClで回復させる。
【0305】
(実施例8)
細孔挿入プロトコール
方法1:実験開始時に溶血素と脂質とを混合する
1.二重層を形成した後、フローセルの上部に加温器を置く。
2.エレクトロポレーションして二重層に細孔を入れる(細孔の獲得12b)。
【0306】
方法2:二重層の上方に溶血素を流し、続いて洗浄する−第一のエレクトロポレーション(electrodeporation):
1.二重層を形成した後、フローセルに0.3MのKClおよび5%グリセロール中の100μg/mlの溶血素20μlを流す。
2.20μlの気泡および80μLのKClで洗浄する。
3.フローセルの上部に加温器を置き、エレクトロポレーションして二重層に細孔を入れる(細孔の獲得12b)。
【0307】
(実施例9)
ポンプで自動化された二重層の形成および電圧上昇
図28は、繰り返しの二重層生成の洗浄条件下でのセル位置に対する二重層の電圧上昇を示す。自動的な気泡およびKClでの洗浄プロトコールにより、均質な二重層の形成が可能になる。表1は、様々な条件下での(例えば、溶血素と脂質を用いる、または溶血素を用いない)二重層の形成および電圧上昇量を示す。
【表1】
【0308】
(実施例10)
加えられた波形
図29は、開口したチャネルの加えられた波形およびDNA捕捉データの一例を示す。波形は、チップコード042bと名付けられ、縦軸には−0.1から0.2ボルトの範囲の加えられた電圧が示される。横軸には0から6秒の範囲の時間が表示される。捕獲波形は、−50mVで33秒の再充電の後に生じる。
【0309】
(実施例11)
開口したチャネルのデータ
実施例8の方法1を使用して、様々なプロトコールを実行する。
図30〜32にプロトコールの結果を示す。
【0310】
図30は、縦軸における0から160pAの範囲の電流と、横軸における0から4秒の範囲の時間のプロットを示す。7.02211〜73.6021pA間に151本のラインがある。プロトコールは、実施例8の方法1である。
【0311】
図31は、縦軸における0から300pAの範囲の電流と、横軸における0から4.5秒の範囲の時間のプロットを示す。12.0879〜100pA間に80本のラインがある。このグラフは、シリンジポンプを使用したときに回収されたデータを表する。プロトコールは、実施例8の方法1である。
【0312】
図32は、縦軸における0から160pAの範囲の電流と、横軸における0から4秒の範囲の時間のプロットを示す。26.2679〜75.6827pA間に117本のラインがある。プロトコールは、実施例8の方法2である。
【0313】
表2は、開口したチャネルのデータの要約を示す。
【表2】
【0314】
(実施例12)
DNAの捕捉
実施例8の方法1を使用して、様々なプロトコールを実行する。
図33〜37にプロトコールの結果を示す。
【0315】
図33は、縦軸における0から300pAの範囲の電流と、横軸における0から4秒の範囲の時間のプロットを示す。プロトコールは、実施例8の方法1であり、160mVでなされた。
【0316】
図34は、縦軸における0から300pAの範囲の電流と、横軸における0から4秒の範囲の時間のプロットを示す。プロトコールは、実施例8の方法1であり、80mVでなされた。
【0317】
図35は、縦軸における0から300pAの範囲の電流と、横軸における0から4秒の範囲の時間のプロットを示す。プロトコールは、実施例8の方法1であり、220mVでなされた。いくつかの実施形態において、電圧を高めると、捕捉速度が増加する。電圧を高くすることが必ずしもDNAのキャッチを増加させることにはならない。いくつかの場合において(例えば、約50%の例)、DNAの添加により、二重層が破壊される、および/または二重層から細孔が叩き落される。
【0318】
図36は、縦軸における0から100pAの範囲の電流と、横軸における0から4秒の範囲の時間のプロットを示す。プロトコールは、実施例8の方法2である。捕捉速度は、160mVの捕捉電圧を使用した場合、フローセル上で、0.3MのKClで30T DNAである。
【0319】
図37は、縦軸における0から100pAの範囲の電流と、横軸における0から4秒の範囲の時間のプロットを示す。プロトコールは、実施例8の方法2であり、7.5μMのストレプトアビジンを含む0.3MのKClおよび30μMの30T DNAを用いた。
【0320】
(実施例13)
DNAの捕捉
図38は、二重層の形成後の(例えば、自動化プロトコール後の)細孔に関する電流対時間またはセルの数のプロットを示す。細孔の形成条件は、1MのKCl、pH7.5、室温、デカン中の15mg/mLのDPhPC脂質、およびpH7.5の水中の20μg/mlの溶血素である。
【0321】
前述の内容から、特定の手段を例示し説明したが、それらに様々な改変を施すことができ、本明細書において考慮されたものと理解されるべきである。また明細書内で示された特定の実施例によっても本発明は限定されないものとする。上記の明細書を参照しながら本発明を説明したが、本明細書に記載の好ましい実施形態の説明および例示は、限定の意味で解釈されることを意味しない。さらに、本発明の全ての態様は、本明細書に記載の特定の描写、形態または相対的比率に限定されず、様々な条件および可変値によって決まると理解されるものとする。本発明の実施形態の形式および詳細における様々な改変は、当業者には明らかであると予想される。したがって、本発明は、このようなあらゆる改変、バリエーションおよび等価体も包含するものと考えられる。以下の特許請求の範囲は、本発明の範囲を定義し、それによりこれらの特許請求の範囲内の方法および構造ならびにそれらの等価体も包含されることが意図される。