(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明にかかる無人航空機の実施形態について説明する。以下に説明するマルチコプターMは、複数の水平回転翼で飛行する無人回転翼航空機の例である。なお、本発明でいう「水平回転翼」とは、回転軸の軸線方向が鉛直に延び、回転面が水平面となる回転翼をいう。回転軸や回転面を多少傾けたものであっても、その揚力が主に上方への成分で構成されるものであれば本発明の「水平回転翼」に含まれる。
【0018】
以下の説明における「上下」とは、各図に描かれた座標軸のZ軸に平行な方向を意味しており、Z1側を「上」、Z2側を「下」とする。「前後」とは、同座標軸のX軸に平行な方向を意味しており、X1側を「前」、X2側を「後ろ」とする。同様に、「左右」とは、同座標軸のY軸に平行な方向を意味しており、Y1側を「右」、Y2側を「左」とする。また、「水平」とは、同座標軸に示されるXY平面方向を意味している。
【0019】
(構成概要)
図1は、本実施形態にかかるマルチコプターMの外観を示す斜視図である。
図2は、
図1のマルチコプターMを矢印A方向から見た正面図である。
図3は、
図1のマルチコプターMを矢印B方向から見た側面図である。
【0020】
本形態のマルチコプターMはいわゆるクアッドコプタであり、機体の中心部であるボディフレーム10から4本のアーム71が平面視X形状に延び、各アーム71の先端に水平回転翼であるロータ50が配置されている。マルチコプターMはその駆動源として一基のエンジン30を搭載している。エンジン30の駆動力は後述する動力伝達機構40により各ロータ50に伝達され、これらロータ50はエンジン30の駆動力により全て同じ速度で回転する。
【0021】
本形態のロータ50はブレード51のピッチ角を動的に変更可能な可変ピッチロータである。そしてマルチコプターMは、各ロータ50のピッチ角を制御するピッチ変更機構60を備えている。本形態のマルチコプターMは、ピッチ変更機構60でロータ50のピッチ角を個々に調節することにより機体の姿勢制御および操舵を行う。
【0022】
本形態のマルチコプターMは、その駆動源としてエンジン30を採用することにより、個々のロータ50をそれぞれのDCモータで駆動する従来の構成に比べ、格段に長い航続時間を実現している。また、エンジン30の燃料の補給は、バッテリーの充電とは異なり短時間で完了する。これによりマルチコプターMの連続的な飛行も可能となる。さらに、機体の姿勢制御および操舵をロータ50の回転数ではなくピッチ角の調節により行うことにより、エンジン30の動力伝達機構40を簡潔なものとしている。
【0023】
(ボディフレーム)
マルチコプターMは、機体の中心部であり、エンジン30や後述するフライトコントローラFC等の電装機器を保持するボディフレーム10を有している。本形態のボディフレーム10は、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)製の平板材をアルミ製の固定部材で組み立てたフレームである。本形態のボディフレーム10は、主に、メインフレーム11、トッププレート12、およびエンジンフレーム13により構成されている。なお、以下にボディフレーム10の各部の構造を詳細に説明するが、本形態のボディフレーム10は一例であり、エンジン30やその他必要な機器を取り付け可能であればその構造は用途に応じて適宜変更可能である。
【0024】
メインフレーム11は、板面を上下に向けて上下に平行に配置された2枚のプレートである。メインフレーム11を構成する2枚のプレートの内側(以下、「メインフレーム11の内部」という。)には、アーム71の基端部を固定するパイプクランプであるアームホルダ111が配置されている。アームホルダ111は2つを一組としてアーム71ごとに用意されている。アーム71はアームホルダ111にその基端部が固定され、メインフレーム11から水平方向に延出している。また、本形態のアームホルダ111の各組には、ピッチ変更機構60の駆動源であるサーボ61を保持するプレートであるサーボホルダ14が接合されている。
【0025】
トッププレート12は、板面を上下に向けてメインフレーム11の上方に配置されたプレートである。トッププレート12は、メインフレーム11の上面に垂直に立てられ複数の柱状部であるプレートポスト121に支持されている。本形態では、トッププレート12とメインフレーム11との間にエンジン30の燃料タンク31が配置されている。トッププレート12の用途は特に定められていない。
【0026】
エンジンフレーム13はエンジン30を保持する2枚のプレートである。エンジンフレーム13は、板面を左右に向けて左右に平行に配置され、その上端がメインフレーム11の下面に接合されている。これらエンジンフレーム13の間には、柱状の補強材である2本の補強ポスト131が水平に渡されている。補強ポスト131がエンジンフレーム13のたわみを制限することでエンジンフレーム13の剛性が高められている。
【0027】
(アーム)
本形態のアーム71はCFRP製のパイプ材により構成されている。上でも述べたように、各アーム71の基端部はメインフレーム11のアームホルダ111に固定されており、その先端にはロータ50が配置されている。各アーム71の長手方向における中ほどには、同じくCFRP製のパイプ材である降着スタンド72が継手部材721により接合されている。降着スタンド72は各アーム71から下方に延び、着陸時のマルチコプターMの機体を支持する。
【0028】
(動力伝達機構)
以下、マルチコプターMの動力伝達機構40について説明する。
図4は、エンジン出力の減速・分岐構造を示す部分拡大斜視図である。
図5は、エンジン出力の減速・分岐構造を示す部分拡大平面図である。
図6は、アーム71内の動力伝達構造を示す側面視断面図である。
図7は、子歯車45とドライブシャフト47とを結合する継手部材46の構造を示す分解斜視図である。
【0029】
動力伝達機構40は、エンジン30の出力部351の回転を各ロータ50に伝達する機構であり、主に、歯付ベルト41、従動輪42、入力歯車43、親歯車44、子歯車45、ドライブシャフト47、および出力歯車49により構成されている。
【0030】
図4に示すように、本形態のエンジン30の出力部351は歯付ベルト41を回転させるプーリー(駆動輪)である。歯付ベルト41が掛けられたもう一方のプーリーである従動輪42は、出力部351よりも大径のプーリーである。本形態の出力部351は正面視CCW方向に回転する。そのため、本形態の歯付ベルト41は、出力部351に引き込まれるY1側のベルトが張り側となり、出力部351から送り出されるY2側のベルトが緩み側となる。本形態では、エンジンフレーム13に取り付けられたテンショナー411により緩み側のベルトを押さえ付け、緩み側のベルトの歯飛びを防止している。従動輪42は、メインフレーム11の内部に設けられた軸受113にその軸部421が回転可能に支持されている。従動輪42は、メインフレーム11の上下のプレートに設けられた逃がし穴112からその上下の端部が外部に露出している。エンジン30が駆動すると、その出力部351の回転は歯付ベルト41を経て従動輪42に伝達され、減速される。
【0031】
図5に示すように、メインフレーム11の内部には、軸線が鉛直となるように歯部441を上方に向けて配置された傘歯車部材である親歯車44が配置されている。親歯車44はメインフレーム11の下側のプレートに回転可能に支持されている。従動輪42の軸部421は、メインフレーム11内で合計4つの軸受113に支持されており、親歯車44の平面視中心を通るように親歯車44の上を通過している。従動輪42の軸部421には、親歯車44の歯部441に噛合する傘歯車部材である入力歯車43が装着されている。親歯車44の直径は入力歯車43の直径よりも大きい。従動輪42の回転は入力歯車43から親歯車44に伝達され、親歯車44によりさらに減速される。
【0032】
親歯車44の歯部441には、入力歯車43の他に、各アーム71の基端部の開口からメインフレーム11内に突き出した4つの傘歯車部材である子歯車45が噛合している。親歯車44と子歯車45とは互いに軸線が直交する向きに配置されており、これら子歯車45はそれぞれ異なるロータ50に動力を伝達する。本形態の子歯車45はすべて同じ直径であり、これらは同じ速度で回転する。子歯車45の直径は親歯車44の直径よりも小さく、親歯車44の回転は子歯車45に伝達されることで加速される。本形態の入力歯車43と子歯車45の直径は同じであり、結果的にこれらは同じ速度で回転する。なお、子歯車45の回転数は、従動輪42や入力歯車43、親歯車44、子歯車45の直径を適宜変更することにより柔軟に調節することができる。
【0033】
図6に示すように、アーム71内には回転軸であるドライブシャフト47が挿入されている。ドライブシャフト47の長手方向における一端は子歯車45に接続されており、他端には傘歯車部材である出力歯車49が装着されている。出力歯車49はアーム71の先端側の開口から外部に突き出している。子歯車45の回転はドライブシャフト47を経て出力歯車49に伝達され、出力歯車49を回転させる。これによりエンジン30の駆動力は各ロータ50に伝達される。
【0034】
なお、
図7に示すように、本形態の子歯車45とドライブシャフト47とは、これらの軸線のずれを吸収する継手部材46を介して接続されている。継手部材46は円筒形状の固定部材である。継手部材46の一方の開口には子歯車45の軸部452が止めねじ461で固定され、他方の開口には、ドライブシャフト47の端部にねじ固定された軸体であるアダプタ部材471が嵌合される。継手部材46は、子歯車45の軸部452には強固にねじ固定される一方、ドライブシャフト47のアダプタ部材471との間にはクリアランスが設けられており、ドライブシャフト47の多少の傾きであれば吸収することができる。アダプタ部材471はその短手方向断面が十字形状に形成されており、継手部材46側の開口もこれに対応した形状とされている。これらが周方向に係合することにより、ドライブシャフト47が傾いた場合でも子歯車45の回転はドライブシャフト47に伝達される。継手部材46がドライブシャフト47の傾きを吸収し、かかる傾きが子歯車45に伝達されることを防ぐことにより、親歯車44と子歯車45との噛み合いが安定する。なお、本形態では、ドライブシャフト47と出力歯車49も継手部材46を用いた同様の構造で接続されている。
【0035】
このように、本形態のマルチコプターMでは、軸線が鉛直となるように配置された親歯車44に対して、軸線の向きを親歯車44の軸線と直交させるように子歯車45を噛合させることにより、これら子歯車45を同一水平面上に配置しつつ、親歯車44の動力方向をドライブシャフト47による動力の伝達に適した向きに変換している。これにより動力の分岐構造が親歯車44および子歯車45のみに集約され、動力伝達機構40の構造が簡潔になっている。
【0036】
また、ドライブシャフト47は筒状のアーム71との親和性が高い。ドライブシャフト47による動力の伝達は、例えばベルトや歯車輪列を用いる場合に比べてスペース効率が高く、また、プーリーからのベルトの脱落や、ベルトの遠心張力による速度制限等を考慮する必要がない。また、アーム71内のドライブシャフト47はベアリング472で支持されており、長いアーム71を採用する場合でも安定して動力を伝達することができる。なお、ドライブシャフト47に代えてベルトを採用した場合の不利益が許容できるのであればベルトを使用してもよい。
【0037】
また、親歯車44と子歯車45との噛合角度はこれらの軸線が直交する角度には限られず、親歯車44とロータ50との位置関係に応じて、これらの軸線が非平行となる角度で噛合させればよい。また、親歯車44および子歯車45の形態は傘歯車には限られず、例えばクラウンギヤやハイポイド(登録商標)、ねじ歯車、ウォームを使うことによってもこれらの軸線を非平行にすることができる。また、親歯車44と子歯車45とは常に直接噛合されている必要はなく、必要であれば親歯車44と子歯車45との間に別の歯車を挟んでもよい。
【0038】
さらに、本形態のマルチコプターMは4基のロータ50を備えるクアッドコプタであるが、子歯車45の数を増やすことで、例えばヘキサコプタ、オクタコプタとすることも可能である。
【0039】
(ロータ)
図8はロータ50の基本構造、およびロータ50の回転方向の切替構造を示す側面図である。
【0040】
本形態のロータ50は、主に、ブレード51、ロータハブ52、ロータシャフト53、ロータ歯車531、およびロータベース54により構成されている。
【0041】
上でも述べたように、本形態のロータ50は可変ピッチプロペラであり、後述するピッチ変更機構60により飛行中にブレード51のピッチ角を動的に変更することができる。一般的なマルチコプターのロータには、捩り下げが施されたいわゆる飛行機用のプロペラが用いられるが、本形態のロータ50には、捩り下げのない、いわゆるヘリコプター用の平坦な翼型のブレード51が採用されている。各ロータ50のブレード51は後述するフェザリングヒンジ67を介してロータハブ52に接続されている。ロータハブ52は、ロータ50の回転軸であるロータシャフト53の頂部に固定されており、ロータシャフト53と一体的に回転する。ロータシャフト53の下端部には傘歯車であるロータ歯車531が装着されており、ロータ歯車531は出力歯車49に噛合している。
【0042】
ロータベース54は、ロータシャフト53を回転可能に支持する軸受部材であり、アーム71の先端に装着されている。本形態のロータベース54は、ソケット部541、軸受プレート542、および補強ポスト543により構成されている。ソケット部541はアーム71の先端にねじ固定された円筒形状の接続部である。軸受プレート542はソケット部541から水平に延びる2枚のプレートであり、これらは上下に平行に配置されている。補強ポスト543は円柱形状の補強材であり、軸受プレート542の間に垂直に立てられ、軸受プレート542のたわみを制限する。
【0043】
本形態のロータ歯車531は、歯部を下方に向けて出力歯車49に噛合する第1ロータ歯車531a、または、歯部を上方に向けて出力歯車49に噛合する第2ロータ歯車531bのいずれかである。第1ロータ歯車531aおよび第2ロータ歯車531bはロータシャフト53を互いに逆方向に回転させる。本形態では、隣接するロータ50の回転方向が逆になるように第1ロータ歯車531aと第2ロータ歯車531bとが使い分けられている。
【0044】
複数のロータ50で飛行するマルチコプターMは、機体のヨー制御をロータ50の反トルクを利用して行う。そのため、CW方向に回転するロータ50とCCW方向に回転するロータ50とを同数備えることが望ましい。本形態のマルチコプターMは、各ロータ50について動力伝達機構40を共通化し、出力歯車49に対するロータ歯車531の噛合方向のみによって各ロータ50の回転方向を決定することにより、一部品(ロータ歯車531)の向きを変えるだけでCW方向に回転するロータ50とCCW方向に回転するロータ50の両方を設けることが可能とされている。これにより動力伝達機構40の構造がより簡潔なものとされている。これに加え、各ロータ50について動力伝達機構40が共通化されていることによって、すべてのロータ50を特別な調節なく同じ速度で駆動することが可能とされており、後述するピッチ変更機構60による機体の姿勢制御および操舵がより容易化されている。
【0045】
(ピッチ変更機構)
図9はマルチコプターMが備えるピッチ変更機構60の構造を示す部分拡大斜視図である。
【0046】
マルチコプターMのピッチ変更機構60は、主に、サーボ61(
図1および
図2参照)、コントロールロッド62、ピッチレバー63、スライダーリング64、ピッチコントロールプレート65、ピッチリンク651、およびフェザリングヒンジ67により構成されている。なお、ピッチ変更機構60はロータ50ごとに用意されている。
【0047】
サーボ61はピッチ変更機構60の駆動源である。サーボ61の出力部であるサーボホーンの配置角度は後述するフライトコントローラFCにより制御される。
【0048】
コントロールロッド62は、アーム71に沿って延びる細長い棒状のリンク部材である。コントロールロッド62は、その一端がサーボ61に接続され、他端はピッチレバーリンク621に接続されている。ピッチレバーリンク621は、コントロールロッド62の位置の変化をピッチレバー63に伝えるリンク部材である。
【0049】
ピッチレバー63はフォーク形状のレバーであり、ロータベース54に固定された台座部631とともにヒンジ機構を形成している。サーボ61がコントロールロッド62をアーム71に沿って進退させるとピッチレバーリンク621が揺動する。ピッチレバー63はピッチレバーリンク621の揺動に連動して上下に旋回し、これに連結されたスライダーリング64をロータシャフト53に沿って昇降させる。
【0050】
スライダーリング64は円筒形状の昇降部材である。スライダーリング64の外周面には、一対のフランジ部が形成されており、これらフランジ部の間の部分である溝部641には、ピッチレバー63の自由端に設けられた一対のボスが嵌合されている。これによりスライダーリング64はピッチレバー63の上下動に連動して昇降する。
【0051】
そして、スライダーリング64は、ロータシャフト53に装着されロータシャフト53に沿って昇降可能な円筒形状のスリーブ部材であるスライダースリーブ66に装着されている。スライダースリーブ66は、フランジ状の頭部を有する半ねじ部材であり、頭部を下に、ねじ部を上にして配置されている。スライダースリーブ66のねじ部にはピッチコントロールプレート65が螺合されており、スライダーリング64は、スライダースリーブ66の頭部とピッチコントロールプレート65との間に挟まれている。これによりピッチコントロールプレート65は、スライダーリング64(スライダースリーブ66)と一体的に昇降する。
【0052】
ピッチコントロールプレート65は、これに接続された2本のリンク部材であるピッチリンク651を昇降させる連結部材である。ピッチリンク651は、その下端がピッチコントロールプレート65に接続され、上端はフェザリングヒンジ67に接続されている。ピッチコントロールプレート65がピッチリンク651を昇降させることによりフェザリングヒンジ67の配置角度が変化する。
【0053】
フェザリングヒンジ67は、ブレード51の基端部に固定されたリンク部材である。フェザリングヒンジ67はピッチリンク651の昇降に連動してブレード51のピッチ方向に回転し、ブレード51のピッチ角を変更する。
【0054】
このように、本形態のマルチコプターMは、機体の姿勢制御や操舵を各ロータ50の回転数の調節によらず各ロータ50のピッチ角を調節することにより行うことで、エンジン30の動力伝達機構40をより簡潔なものにすることが可能とされている。
【0055】
(振動軽減構造)
図10は、エンジンフレーム13によるエンジン30の支持構造を示す透視側面図である。
図10は
図3と同じ方向からマルチコプターMを見た図である。以下、
図2、
図4、および
図10を参照してマルチコプターMのエンジン構造および防振構造について説明する。
【0056】
本形態のエンジン30は一般的な2ストローク単気筒エンジンである。
図2および
図10に示すように、エンジン30は、エアクリーナー321を通した空気と燃料タンク31の燃料(混合ガソリン)とを機体の右側(Y1側)に設けられたキャブレター32で混合し、これをシリンダー33で燃焼させてクランクシャフトおよび出力部351を回転させる。そして、エンジン30の左側(Y2側)に設けられたマフラー36から排気ガスを放出する。
【0057】
図10に示すように、本形態のエンジン30は、エンジン30をエンジンフレーム13に取り付けるアダプタ部材である第1エンジンマウント381および第2エンジンマウント382(以下、「エンジンマウント381,382」ともいう。)有している。エンジンマウント381,382は、エンジン30が有するクランクケース34の前後の端部に装着されている。エンジンマウント381,382とエンジンフレーム13とは、弾性体を用いた防振部材であるダンパーD1を介して接合されており、エンジン30はエンジンフレーム13に直接的には固定されていない。つまり本形態のエンジン30はボディフレーム10に接触していない。なお、ダンパーD1は
図10に描かれたエンジンマウント381,382の裏側における同位置にも設けられている。
【0058】
クランクケース34の下には、シリンダー33がそのピストン方向を上下に向けて配置されている。シリンダー33の下面にはスパークプラグ331が取り付けられている。また、本形態のエンジン30は空冷エンジンであり、シリンダー33はクーリングファン37で冷却される。クーリングファン37は、冷却風の流路を定めるケース体と、その内部に配置されたファンとを有している。クーリングファン37はクランクシャフトの回転を利用してケース内のファンを回転させる。クーリングファン37のケース体はエンジン30には触れておらず、その接続部371がエンジンフレーム13にねじ固定されている。
【0059】
クランクケース34の前方には、遠心クラッチにより動力の伝達が継断される出力部材であるクラッチベル35が配置されている。クラッチベル35の前端部にはねじ溝が切られており、そこには出力部351が螺合されている。クラッチベル35および出力部351の軸部352は軸受部15に回転可能に支持されている。軸受部15は、エンジンフレーム13にねじ固定された連結部である軸受ベース151にダンパーD2を介して接合されている。また、クランクケース34の後ろにはリコイルスターター341が配置されている。
【0060】
図11はダンパーD1,D2の内部構造を示す断面図である。
図11(a)はダンパーD1の内部構造を示しており、
図11(b)はダンパーD2の内部構造を示している。
【0061】
ダンパーD1は、エンジンマウント381,382とエンジンフレーム13とを接合する防振部材である。
図11(a)に示すように、本形態のダンパーD1は、主に、円筒形状のラバー部材81と、ラバー部材81をエンジンフレーム13に固定するナット部材84およびボルト83とにより構成されている。
【0062】
ラバー部材81は、円筒形状の弾性体であるラバー811と、ラバー811の内外周を保護する硬質のケース体であるラバーケース812とを有している。エンジンマウント381,382には、ラバー部材81の外径寸法に対応した穴が設けられており、ラバー部材81は、その開口を左右(Y軸方向)に向けてエンジンマウント381,382の穴に嵌合されている。
【0063】
ナット部材84は、ラバー部材81の内径よりも大きな直径のフランジ部841と、ラバー部材81の内径に対応した直径の軸部842とを有しており、ラバー部材81の筒内には、ナット部材84の軸部842が挿入されている。ラバー部材81は、その右側の端面がエンジンフレーム13の内面に接触し、左側の端面がナット部材84のフランジ部841に接触している。そして、エンジンフレーム13の外側からナット部材84の軸部842のねじ穴にボルト83が螺合されることで、エンジンマウント381,382は、ダンパーD1を介してエンジンフレーム13に固定される。なお、エンジンフレーム13の外面とボルト83の頭部との間にはワッシャ831が配置されており、エンジン30の振動によるボルト83頭部の沈み込みが防止されている。
【0064】
上でも述べたように、本形態のエンジン30はピストンが上下に往復する。そのため、エンジン30が生じさせる振動は上下方向の成分の比率が大きい。また、エンジン30のような単気筒エンジンは、一般に多気筒エンジンに比べて振動が大きい。本形態のマルチコプターMでは、エンジン30の上下方向の振動がダンパーD1により吸収される。これによりエンジンフレーム13に伝達されるエンジン30の振動が効率的に軽減される。なお、駆動原の大型化が許容できる場合はエンジン30を多気筒エンジンに代えてもよい。そうすることでエンジン30の振動をより抑えることが可能となる。
【0065】
ダンパーD2は、エンジン出力部351の軸部352を支持する軸受部15と、エンジンフレーム13に固定された軸受ベース151と、を接合する防振部材である。
図11(b)に示すように、本形態のダンパーD2は、主に、円柱形状のラバー86と、ラバー86の上下面を保護する硬質のケース体であるラバーケース87と、ラバー86を軸受部15に固定するボルト88とにより構成されている。
【0066】
ダンパーD2のラバー86はその端面を上下に向けて配置されている。ラバー86の上面を保護するラバーケース87は、その上面の中央から上方に延出したねじ部871を有しており、ねじ部871は、軸受ベース151のねじ穴に螺合されている。そして、ラバー86の下面を保護するラバーケース87は、その中央にねじ穴872を有しており、ねじ穴872には、軸受部15の下からボルト88が螺合される。これによりダンパーD2は軸受ベース151と軸受部15の間に固定され、軸受部15の上下方向の振動を吸収し、軸受ベース151つまりエンジンフレーム13への振動の伝達を軽減する。このように、本形態のマルチコプターMでは、エンジン30の出力部351が軸受部15に支持され、これが別途エンジンフレーム13にダンパーD2で支持されていることにより、エンジン30の振動の影響を抑えつつ、駆動力の伝達精度が高められている。
【0067】
そして、本形態のマルチコプターMでは、エンジン30の出力部351の回転は、メインフレーム11に支持された従動輪42に対して歯付ベルト41で伝達される。本形態のエンジン30は、ボディフレーム10に接触することなくダンパーD1,D2で支持されており、これによりボディフレーム10に伝達されるエンジン30の振動が軽減されている。一方、エンジン30が強固に固定されないことにより、エンジン30自体の振動はより大きなものとなる。かかるエンジン30の駆動力を、従動輪42に対して歯付ベルト41で伝達することにより、エンジン30の振動の吸収、動力の確実な伝達、および騒音の軽減などの効果がバランス良く実現されている。
【0068】
なお、本形態ではエンジン30の出力部351と従動輪42とが歯付ベルト41で連結されているが、歯付ベルト41に代えてチェーンを用いても同様の効果を得ることができる。また、本形態のダンパーD1,D2は、エンジン30の振動を弾性体で吸収する構造を採用することによりダンパー構造の単純化が図られているが、エンジン30を支持するダンパーは弾性体を用いたものには限られず、例えばガス、オイル、またはバネを用いたダンパーであってもよい。
【0069】
(機能構成)
図12はマルチコプターMの機能構成を示すブロック図である。本形態のマルチコプターMの機能は、制御部であるフライトコントローラFC、ロータ50、ロータ50を駆動するエンジン30、ピッチ変更機構60、および、操縦者(オペレータ端末51)と通信を行う通信装置52により構成されている。
【0070】
フライトコントローラFCは制御装置20を有している。制御装置20は、中央処理装置であるCPU21と、RAMやROM・フラッシュメモリなどの記憶装置からなるメモリ22とを有している。
【0071】
フライトコントローラFCはさらに、IMU25(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)、GPS受信器26、気圧センサ27、および電子コンパス28を含む飛行制御センサ群Sを有しており、これらは制御装置20に接続されている。
【0072】
IMU25はマルチコプターMの傾きを検出するセンサであり、主に3軸加速度センサおよび3軸角速度センサにより構成されている。GPS受信器26は、正確には航法衛星システム(NSS:Navigation Satellite System)の受信器である。GPS受信器26は、全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)または地域航法衛星システム(RNSS:Regional Navigational Satellite System)から現在の経緯度値を取得する。気圧センサ27は、検出した気圧高度からマルチコプターMの海抜高度(標高)を特定する高度センサである。電子コンパス28には3軸地磁気センサが用いられており、電子コンパス28はマルチコプターMの機首の方位角を検出する。
【0073】
フライトコンローラFCは、これら飛行制御センサ群Sにより、機体の傾きや回転のほか、飛行中の経緯度、高度、および機首の方位角を含む自機の位置情報を取得することが可能とされている。
【0074】
なお、本形態の飛行制御センサ群Sは一例であり、フライトコンローラFCを構成するセンサ類は本形態の組み合わせには限られない。例えば、気圧センサ27に代えて、あるいは気圧センサ27に加えて、測定方向を下方に向けたレーザ測距センサやステレオカメラ等で対地高度を取得することが考えられる。また、GPS受信器26が電波を受信不能な場所では、機体の水平移動をオプティカルフローセンサや画像認識等で検知することが考えられる。その他、レーザや赤外線、超音波などを利用した複数の測距センサで周辺物との距離を測定し、その距離からマルチコプターMの空間位置を特定することも可能である。
【0075】
制御装置20は、マルチコプターMの飛行時における姿勢や基本的な飛行動作を制御するプログラムである飛行制御プログラムFSを有している。飛行制御プログラムFSは、飛行制御センサ群Sから取得した情報を基にピッチ変更機構60により個々のロータ50のピッチ角を調節し、機体の姿勢や位置の乱れを補正しながらマルチコプターMを飛行させる。これら制御装置20およびピッチ変更機構60には別途搭載されたバッテリー29により電力が供給される。
【0076】
制御装置20はさらに、マルチコプターMを自律飛行させるプログラムである自律飛行プログラムAPを有している。そして、制御装置20のメモリ22には、マルチコプターMの目的地や経由地の経緯度、飛行中の高度や速度などが指定されたパラメータである飛行計画FPが登録されている。自律飛行プログラムAPは、オペレータ端末51からの指示や所定の時刻などを開始条件として、飛行計画FPに従ってマルチコプターMを自律的に飛行させる。
【0077】
このように、本形態のマルチコプターMは高度な飛行制御機能を備えた無人航空機である。ただし、本発明の無人航空機はマルチコプターMの形態には限定されず、例えば飛行制御センサ群Sから一部のセンサが省略された機体や、自律飛行機能を備えず手動操縦のみにより飛行可能な機体を用いることもできる。また、エンジン30の空燃比の操作は操縦者が手動でサーボ39を操作して行うが、これを自動化することも可能である。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることができる。例えば、上記実施形態のマルチコプターMでは、ロータ50に可変ピッチプロペラを採用することで動力伝達機構40の構造を単純化しているが、本発明の水平回転翼は可変ピッチロータには限られない。動力伝達機構の複雑化が許容可能であれば、水平回転翼に固定ピッチプロペラを採用することも可能である。
【解決手段】駆動源であるエンジンと、複数の水平回転翼と、前記エンジンの駆動力を前記複数の水平回転翼に伝達する動力伝達機構と、前記エンジンを支持するボディフレームと、を備え、前記ボディフレームは、前記エンジンの振動を吸収するダンパー を介して、前記エンジンを該ボディフレームに接触させずに支持し、前記エンジンの出力部の回転は、前記ボディフレームに支持された回転部材である従動輪にベルトまたはチェーンで伝達されることを特徴とする無人航空機により解決する。