【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
(電線被覆材用組成物の調製)
表1、2に示す配合組成にて各材料を配合し、単軸押出機を用いて180℃で混合し、ペレタイザーにてペレット状に成形して、ポリ塩化ビニルを含有する電線被覆材用組成物を調製した。
【0038】
(絶縁電線の作製)
調製した電線被覆材用組成物を、断面積0.5mm
2の撚線導体の周囲に被覆厚0.2mmで押出成形することにより絶縁電線を作製した。
【0039】
(使用材料)
・ポリ塩化ビニル
(重合度1300):「新第一塩ビ(株)、ZEST1300Z」
(重合度2500):「新第一塩ビ(株)、ZEST2500Z」
・可塑剤
フタル酸エステル:「(株)ジェイ・プラス、DUP」
トリメリット酸エステル:「DIC(株)、W−750」
・エチレン−ビニルエステル共重合体
EVA<1>:エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素の三元共重合体、三井・デュポンポリケミカル「エルバロイ742」
EVA<2>:エチレン−酢酸ビニルの二元共重合体、酢酸ビニル含有量40質量%、三井・デュポンポリケミカル「エバフレックスEV40LX」
EVA<3>:エチレン−酢酸ビニルの二元共重合体、酢酸ビニル含有量25質量%、三井・デュポンポリケミカル「エバフレックスEV360」
・エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体
EMA<1>:エチレン−アクリル酸メチルの二元共重合体、アクリル酸メチル含有量18質量%、MFR=2g/10分、三井・デュポンポリケミカル「エルバロイAC1218」
EEA:エチレン−アクリル酸エチルの二元共重合体、アクリル酸エチル含有量12質量%、MFR=1g/10分、三井・デュポンポリケミカル「エルバロイAC2112」
EMA<2>:エチレン−アクリル酸メチルの二元共重合体、アクリル酸メチル含有量20質量%、MFR=8g/10分、三井・デュポンポリケミカル「エルバロイAC1820」
EMA<3>:エチレン−アクリル酸メチルの二元共重合体、アクリル酸メチル含有量13質量%、MFR=9g/10分、三井・デュポンポリケミカル「エルバロイAC1913」
エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体のメルトフローレイト(MFR)は、JIS K 7210に準拠して測定された、190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレイト(MFR)である。
・加工助剤(塩素化ポリエチレン):「昭和電工、エラスレン301A」
・低温改質剤(MBS):「カネカ、カネエースB−564」
・増量剤(炭酸カルシウム):「白石カルシウム、白艶華CCR」
・熱安定剤:「ADEKA、RUP−110」
【0040】
(評価)
作製した絶縁電線について、下記評価方法に基づいて、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性、熱安定性を評価した。
【0041】
(評価方法)
<耐外傷性評価>
作製した絶縁電線を300mmの長さに切り出して試験片とした。
図2(a)(平面図)、
図2(b)(側面図)に示すように、試験片1をプラスチック板2a,2b上に設置した。プラスチック板2aとプラスチック板2bの間隔は5mmとした。試験片1の左端をプラスチック板2bに固定し、試験片1の右端に30Nの張力をかけて、試験片1をまっすぐにした。次いで、試験片1において、プラスチック板2aとプラスチック板2bの間に配置された部分の下部から10mm、試験片1の径方向中央から外周側に0.8mm程度離した位置に、厚みが0.5mmの金属片3を配置した。
【0042】
次いで、
図3(a)〜
図3(c)に示すように、金属片3を50mm/minの速度で試験片1の被覆材4に接触させながら上方に移動させて、試験片1の金属片3にかかる荷重を測定した。このとき、試験片1の導体5が露出していない場合には、0.01mm単位で金属片3を試験片1の中央方向に近づけ、導体5が露出するまで測定を続けた。導体5が露出しない上限荷重をその試験片1の耐外傷性能力とし、12N以上の荷重でも導体5が露出しない場合に、耐外傷性を合格「○」とし、さらに、15N以上の荷重でも導体5が露出しない場合に、耐外傷性により優れる「◎」とした。一方、12N未満の荷重で導体5が露出した場合に、耐外傷性を不合格「×」とした。
【0043】
<低温屈曲性評価>
作製した絶縁電線を350mmの長さに切り出して試験片とした。この試験片の両端20mmの被覆材を剥ぎ取った。次いで、
図4に示すように、試験片6の一端を回動アームに固定し、その他端におもり7をつるし、試験片6の長手方向中間部を一対の円柱状部材8a、8b(半径r=25mm)で挟みこんだ状態で、試験片6が円柱状部材8a、8bの周面に沿うように、一方向に90度、他方向に90度、回動アームを回動させて、曲げ半径rで試験片6を繰返し屈曲させることにより行なった。試験片6にかかる荷重を400g、試験温度−30℃、屈曲動作の繰返し速度は1分間に60往復とした。屈曲試験によって試験片6が断線するまでの屈曲回数(往復回数)をもって屈曲性を評価した。屈曲回数2000回以上を合格「○」とし、3000回以上を特に優れる「◎」とし、屈曲回数2000回未満を不合格「×」とした。
【0044】
<耐引裂き性評価>
調製した電線被覆材用組成物から作製した1mm厚シートから、JIS K 6252記載のアングル型試験片を作製し、引張試験機を用いて、耐引裂き性を評価した。掴み具間距離を20mm、引張速度を50mm/min.にて実施し、ストロークが10mm(みかけひずみ50%)以上で試験片が破断した場合に、耐引裂き性を合格「○」とし、さらに、20mm(みかけひずみ100%)以上で試験片が破断した場合に、耐引裂き性により優れる「◎」とした。一方、10mm未満で試験片が破断した場合に、耐引裂き性を不合格「×」とした。
【0045】
<熱安定性評価>
調製した電線被覆材用組成物を210℃に設定したR60タイプのラボプラストミルに投入し、60回転/分で混練し、トルクの急上昇が観察されるまでの時間を熱安定性の指標として評価した。トルクの急上昇が観察されるまでの時間が60分以上であった場合を熱安定性に優れる「◎」とし、60分未満であった場合を熱安定性に劣る「×」とした。
【0046】
電線被覆材料の配合割合および評価結果を表1〜表3に示した。なお、表1〜表3に示す値は、質量部で表したものである。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
比較例1は、ポリ塩化ビニルに対し特定のエチレン系共重合体を配合していないため、可塑剤量が少ない場合において、低温屈曲性、耐引き裂き性を満足しない。比較例2は、ポリ塩化ビニルに対し特定のエチレン系共重合体の配合量が少なすぎるため、可塑剤量が少ない場合において、低温屈曲性、耐引き裂き性を満足しない。比較例3は、ポリ塩化ビニルに対し特定のエチレン系共重合体の配合量が多すぎるため、耐外傷性を満足しない。比較例4は、ポリ塩化ビニルに対し、特定のエチレン系共重合体に代えて低温改質剤(MBS)を配合しているため、低温屈曲性は満足するが、耐外傷性、耐引き裂き性を満足しない。比較例5は、ポリ塩化ビニルに対し特定のエチレン系共重合体を所定量配合しているが、可塑剤量が少なすぎるため、低温屈曲性、耐引き裂き性を満足しない。比較例6は、ポリ塩化ビニルに対し特定のエチレン系共重合体を所定量配合しているが、可塑剤量が多すぎるため、耐外傷性を満足しない。
【0051】
これらに対し、本発明の構成を満足する実施例によれば、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性、熱安定性を満足する。そして、実施例間の比較で示されるように、エチレン−ビニルエステル共重合体が主鎖中にケトン骨格を有するエチレン−ビニルエステル−一酸化炭素の三元共重合体であると、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性がより向上する(実施例1,4,5)。エチレン−ビニルエステル共重合体のビニルエステル含有量が30質量%以上であると、耐引き裂き性がより向上する(実施例4,5)。エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体のα,β−不飽和カルボン酸エステル含有量が15質量%以上であると、耐引き裂き性がより向上する(実施例6〜9)。エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体のメルトフローレイトが5g/10分以下であると、低温屈曲性がより向上する(実施例6〜9)。
【0052】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。