特許第6617502号(P6617502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6617502-電線被覆材用組成物および絶縁電線 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6617502
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】電線被覆材用組成物および絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/44 20060101AFI20191202BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20191202BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20191202BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   H01B3/44 B
   C08L27/06
   C08L23/08
   H01B7/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-195670(P2015-195670)
(22)【出願日】2015年10月1日
(65)【公開番号】特開2017-69119(P2017-69119A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊貴
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 宏晃
【審査官】 井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−219249(JP,A)
【文献】 特開昭56−059855(JP,A)
【文献】 特開2014−229501(JP,A)
【文献】 特開2014−043508(JP,A)
【文献】 特開2013−231134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/00− 3/56
C08L 23/00−23/36
C08L 27/00−27/24
H01B 7/00− 7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニルを含有する電線被覆材用組成物において、
前記ポリ塩化ビニル100質量部に対し、可塑剤を15〜30質量部、エチレン−ビニルエステル共重合体から選択される1種または2種以上のエチレン系共重合体を0.1〜質量部含有し、前記エチレン−ビニルエステル共重合体が、その主鎖中にケトン骨格を有することを特徴とする電線被覆材用組成物。
【請求項2】
ポリ塩化ビニルを含有する電線被覆材用組成物において、
前記ポリ塩化ビニル100質量部に対し、可塑剤を15〜30質量部、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体から選択される1種または2種以上のエチレン系共重合体を0.1〜10質量部含有し、前記エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体のα,β−不飽和カルボン酸エステル含有量が、15質量%以上であることを特徴とする電線被覆材用組成物。
【請求項3】
前記エチレン−ビニルエステル共重合体のビニルエステル含有量が、30質量%以上であることを特徴とする請求項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項4】
前記エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体のJIS K 7210に準拠して測定される190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレイトが、5g/10分以下であることを特徴とする請求項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物を電線被覆材に用いたことを特徴とする絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線被覆材用組成物および絶縁電線に関し、さらに詳しくは、自動車等の車両に配索される電線の被覆材料として好適な電線被覆材用組成物およびこれを用いた絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリ塩化ビニルを含有するポリ塩化ビニル含有組成物を用いた電線被覆材料が知られている。この種の電線被覆材料には、柔軟性を付与するなどの目的で、通常、可塑剤が配合されている。
【0003】
この種の電線被覆材料として、例えば特許文献1には、ポリ塩化ビニルに可塑剤と塩素化ポリエチレンとメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン樹脂とを添加してなる電線被覆材料が開示されている。また、例えば特許文献2には、ポリ塩化ビニルに可塑剤と高密度ポリエチレン(HDPE)とエチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体とを添加してなる電線被覆材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5423890号公報
【特許文献2】特開2002−322330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリ塩化ビニル含有組成物を用いた電線被覆材料において、可塑剤の量を多くすると、柔軟性に優れる一方で、外傷による電線被覆の劣化が生じるおそれが高くなり、耐外傷性が低下する傾向にある。そこで、可塑剤の量を少なくすると、耐外傷性は向上する傾向にあるが、低温特性が低下する。これに対し、特許文献1では、ポリ塩化ビニルに対し塩素化ポリエチレンとメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン樹脂とを添加することによって低温特性を確保している。
【0006】
しかしながら、ポリ塩化ビニル含有組成物を用いた電線被覆材料において、可塑剤の量を少なくすると、低温特性が低下するだけでなく、電線被覆に外的に微細な傷が生じた後に曲げなどの負荷が加わることで、電線被覆に割れが発生する問題もある(耐引き裂き性の低下)。電線細径化に伴う電線被覆の薄肉化によって、この問題は特に顕著となる。
【0007】
また、特許文献2では、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体をポリ塩化ビニルと高密度ポリエチレンとの相溶化剤として添加することで耐外傷性を向上させているが、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体は汎用性がなく高価であり、耐外傷性の改善効果も小さい。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性、熱安定性に優れる電線被覆材用組成物およびこれを用いた絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明に係る電線被覆材用組成物は、ポリ塩化ビニルを含有する電線被覆材用組成物において、前記ポリ塩化ビニル100質量部に対し、可塑剤を15〜30質量部、エチレン−ビニルエステル共重合体およびエチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体から選択される1種または2種以上のエチレン系共重合体を0.1〜10質量部含有することを要旨とするものである。
【0010】
前記エチレン−ビニルエステル共重合体は、その主鎖中にケトン骨格を有することが好ましい。前記エチレン−ビニルエステル共重合体のビニルエステル含有量は、30質量%以上であることが好ましい。
【0011】
前記エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体のα,β−不飽和カルボン酸エステル含有量は、15質量%以上であることが好ましい。前記エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体のJIS K 7210に準拠して測定される190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレイトは、5g/10分以下であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る絶縁電線は、上記のいずれかの電線被覆材用組成物を電線被覆材に用いたことを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電線被覆材用組成物によれば、ポリ塩化ビニルを含有する電線被覆材用組成物において、ポリ塩化ビニル100質量部に対し、可塑剤を15〜30質量部、エチレン−ビニルエステル共重合体およびエチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体から選択される1種または2種以上のエチレン系共重合体を0.1〜10質量部含有することから、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性、熱安定性に優れる。また、これを電線被覆材に用いた絶縁電線は、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性、熱安定性に優れる。
【0014】
エチレン−ビニルエステル共重合体がその主鎖中にケトン骨格を有すると、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性がより向上する。エチレン−ビニルエステル共重合体のビニルエステル含有量が30質量%以上であると、耐引き裂き性がより向上する。
【0015】
エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体のα,β−不飽和カルボン酸エステル含有量が15質量%以上であると、耐引き裂き性がより向上する。エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体のメルトフローレイトが5g/10分以下であると、低温屈曲性がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る絶縁電線であり、斜視図(a)および周方向断面図(b)である。
図2】耐外傷性の評価方法を説明する模式図である。
図3】耐外傷性の評価方法を説明する模式図である。
図4】低温屈曲性の評価方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明に係る電線被覆材用組成物は、ポリ塩化ビニルを含有する電線被覆材用組成物であって、ポリ塩化ビニルに加えて、可塑剤および特定のエチレン系共重合体を含有する。
【0019】
可塑剤は、ポリ塩化ビニル100質量部に対し15〜30質量部含有する。可塑剤の含有量が30質量部を超えると、耐外傷性が満足しないため、30質量部以下としている。また、可塑剤の含有量が15質量部を下回ると、低温屈曲性や耐引き裂き性、熱安定性が満足しないため、15質量部以上としている。可塑剤の含有量としては、より好ましくは15〜27.5質量部の範囲内である。
【0020】
可塑剤としては、特に限定されるものではないが、優れた低温屈曲性、耐引き裂き性を得るなどの観点から、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステルが好ましい。これらは、可塑剤として1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
可塑剤のエステルを構成するアルコールとしては、炭素数8〜13の飽和脂肪族アルコールなどを挙げることができる。これらのアルコールは、1種または2種以上用いることができる。より具体的には、例えば、2−エチルヘキシル、n−オクチル、イソノニル、ジノニル、イソデシル、トリデシルなどを挙げることができる。
【0022】
ポリ塩化ビニル100質量部に対し可塑剤を15〜30質量部含有する場合において、特定のエチレン系共重合体は、ポリ塩化ビニル100質量部に対し0.1〜10質量部含有する。特定のエチレン系共重合体の含有量が10質量部を超えると、耐外傷性や熱安定性を満足しないため、10質量部以下としている。また、特定のエチレン系共重合体の含有量が0.1質量部を下回ると、耐引き裂き性が満足しないため、また、低温屈曲性の改善効果が小さいため、0.1質量部以上としている。特定のエチレン系共重合体の含有量としては、より好ましくは1.0〜5質量部の範囲内、さらに好ましくは3〜4質量部の範囲内である。
【0023】
特定のエチレン系共重合体は、エチレン−ビニルエステル共重合体およびエチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体から選択される1種または2種以上である。特定のエチレン系共重合体は、エチレン−ビニルエステル共重合体の1種または2種以上からなるものであってもよいし、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体の1種または2種以上からなるものであってもよい。特定のエチレン系共重合体は、より好ましくはエチレン−ビニルエステル共重合体の1種または2種以上からなるものである。
【0024】
エチレン−ビニルエステル共重合体としては、エチレン−酢酸ビニルの二元共重合体、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素の三元共重合体、エチレン−プロピオン酸ビニルの二元共重合体、エチレン−ステアリン酸ビニルの二元共重合体、エチレン−トリフルオロ酢酸ビニルの二元共重合体などが挙げられる。エチレン−ビニルエステル共重合体は、これらのうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。エチレン−ビニルエステル共重合体は、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性がより向上するなどの観点から、主鎖中にケトン骨格を有するエチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素の三元共重合体が特に好ましい。また、エチレン−ビニルエステル共重合体は、耐引き裂き性がより向上するなどの観点から、ビニルエステル含有量が30質量%以上であることが好ましい。より好ましくは35質量%以上である。なお、エチレン−ビニルエステル共重合体は、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性、熱安定性などの観点からはビニルエステル含有量の上限は特に限定されるものではないが、入手しやすい、コストに優れるなどの観点から、50質量%以下であるとよい。
【0025】
エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体としては、エチレン−アクリル酸メチルの二元共重合体、エチレン−アクリル酸エチルの二元共重合体、エチレン−アクリル酸ブチルの二元共重合体、エチレン−メタクリル酸メチルの二元共重合体、エチレン−メタクリル酸エチルの二元共重合体、エチレン−メタクリル酸ブチルの二元共重合体などが挙げられる。エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体は、これらのうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体は、耐引き裂き性がより向上するなどの観点から、α,β−不飽和カルボン酸エステル含有量が15質量%以上であることが好ましい。より好ましくは18質量%以上である。なお、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体は、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性、熱安定性などの観点からはα,β−不飽和カルボン酸エステル含有量の上限は特に限定されるものではないが、入手しやすい、コストに優れるなどの観点から、30質量%以下であるとよい。
【0026】
また、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体は、低温屈曲性がより向上するなどの観点から、190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレイト(MFR)が5g/10分以下であることが好ましい。より好ましくは3g/10分以下である。エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体のメルトフローレイトは、JIS K 7210に準拠して測定される。なお、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体は、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性、熱安定性などの観点からはメルトフローレイトの下限は特に限定されるものではないが、溶融粘度が低くなり、電線外径のばらつきを抑えやすくして、製造を安定化するなどの観点から、0.1g/10分以上であるとよい。
【0027】
ポリ塩化ビニルとしては、特に限定されるものではないが、優れた耐外傷性を得るなどの観点から、重合度が800以上であることが好ましい。また、優れた耐引き裂き性、熱安定性を得るなどの観点から、重合度が2800以下であることが好ましい。より好ましくは、重合度が1300〜2500の範囲内である。
【0028】
本発明に係る電線被覆材用組成物は、重合体成分(ポリマー成分)として高密度ポリエチレンを含有しない組成物であり、少なくともこの点において上記の特許文献2に記載の発明と異なる。この意味において、本発明に係る電線被覆材用組成物は、重合体成分(ポリマー成分)が、ポリ塩化ビニルおよび特定のエチレン系重合体から構成され、これら以外の重合体成分(ポリマー成分)を含有しない構成としてもよい。また、本発明に係る電線被覆材用組成物は、可塑剤の添加量を上記の特許文献2に記載の範囲よりも少なくしており、この点においても上記の特許文献2に記載の発明と異なる。
【0029】
本発明に係る電線被覆材用組成物においては、本発明の目的を損なわない範囲内で、ポリ塩化ビニル、可塑剤、特定のエチレン系重合体以外の他の成分を含有していても良い。他の成分としては、安定剤、加工助剤、低温改質剤、増量剤などの通常、電線被覆材に用いられる添加剤を挙げることができる。
【0030】
加工助剤としては、塩素化ポリエチレンが挙げられる。低温改質剤としては、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)などが挙げられる。低温改質剤の含有量は、特に限定されるものではないが、優れた耐外傷性を得るなどの観点から、ポリ塩化ビニル100質量部に対して6質量部以下であることが好ましい。より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。また、優れた低温屈曲性を得るなどの観点から、ポリ塩化ビニル100質量部に対して1質量部以上であることが好ましい。
【0031】
本発明に係る電線被覆材用組成物は、例えば、ベース樹脂となるポリ塩化ビニルに、可塑剤、特定のエチレン系重合体、および、必要に応じて添加される各種添加成分を配合し、加熱混練することにより調製できる。この際、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機を用いることができる。加熱混練する前に、タンブラーなどで予めドライブレンドすることもできる。加熱混練後は、混練機から取り出して組成物を得る。その際、ペレタイザーなどで当該組成物をペレット状に成形しても良い。
【0032】
次に、本発明に係る絶縁電線について説明する。
【0033】
図1には、本発明の一実施形態に係る絶縁電線の斜視図(a)および断面図(周方向断面図)(b)を示している。図1に示すように、絶縁電線10は、導体12と、導体12の外周を被覆する絶縁被覆層(電線被覆材)14とを備えている。絶縁被覆層14は、本発明に係る電線被覆材用組成物を用いて形成されている。絶縁電線10は、本発明に係る電線被覆材用組成物を導体12の外周に押出被覆することにより得られる。
【0034】
導体12は、銅を用いることが一般的であるが、銅以外にも、アルミニウム、マグネシウムなどの金属材料を用いることもできる。これらの金属材料は、合金であってもよい。合金とするための他の金属材料としては、鉄、ニッケル、マグネシウム、シリコン、これらの組み合わせなどが挙げられる。導体12は、単線から構成されていてもよいし、複数本の素線を撚り合わせてなる撚線から構成されていてもよい。
【0035】
以上の構成の電線被覆材用組成物および絶縁電線によれば、ポリ塩化ビニル100質量部に対し、可塑剤を15〜30質量部、特定のエチレン系重合体を0.1〜10質量部含有することから、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性、熱安定性に優れる。そして、特定のエチレン系重合体を所定量含有させたことで、可塑剤を増量させることなく低温屈曲性を維持し、さらに耐引き裂き性をも満足するものとなる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
(電線被覆材用組成物の調製)
表1、2に示す配合組成にて各材料を配合し、単軸押出機を用いて180℃で混合し、ペレタイザーにてペレット状に成形して、ポリ塩化ビニルを含有する電線被覆材用組成物を調製した。
【0038】
(絶縁電線の作製)
調製した電線被覆材用組成物を、断面積0.5mmの撚線導体の周囲に被覆厚0.2mmで押出成形することにより絶縁電線を作製した。
【0039】
(使用材料)
・ポリ塩化ビニル
(重合度1300):「新第一塩ビ(株)、ZEST1300Z」
(重合度2500):「新第一塩ビ(株)、ZEST2500Z」
・可塑剤
フタル酸エステル:「(株)ジェイ・プラス、DUP」
トリメリット酸エステル:「DIC(株)、W−750」
・エチレン−ビニルエステル共重合体
EVA<1>:エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素の三元共重合体、三井・デュポンポリケミカル「エルバロイ742」
EVA<2>:エチレン−酢酸ビニルの二元共重合体、酢酸ビニル含有量40質量%、三井・デュポンポリケミカル「エバフレックスEV40LX」
EVA<3>:エチレン−酢酸ビニルの二元共重合体、酢酸ビニル含有量25質量%、三井・デュポンポリケミカル「エバフレックスEV360」
・エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体
EMA<1>:エチレン−アクリル酸メチルの二元共重合体、アクリル酸メチル含有量18質量%、MFR=2g/10分、三井・デュポンポリケミカル「エルバロイAC1218」
EEA:エチレン−アクリル酸エチルの二元共重合体、アクリル酸エチル含有量12質量%、MFR=1g/10分、三井・デュポンポリケミカル「エルバロイAC2112」
EMA<2>:エチレン−アクリル酸メチルの二元共重合体、アクリル酸メチル含有量20質量%、MFR=8g/10分、三井・デュポンポリケミカル「エルバロイAC1820」
EMA<3>:エチレン−アクリル酸メチルの二元共重合体、アクリル酸メチル含有量13質量%、MFR=9g/10分、三井・デュポンポリケミカル「エルバロイAC1913」
エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体のメルトフローレイト(MFR)は、JIS K 7210に準拠して測定された、190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレイト(MFR)である。
・加工助剤(塩素化ポリエチレン):「昭和電工、エラスレン301A」
・低温改質剤(MBS):「カネカ、カネエースB−564」
・増量剤(炭酸カルシウム):「白石カルシウム、白艶華CCR」
・熱安定剤:「ADEKA、RUP−110」
【0040】
(評価)
作製した絶縁電線について、下記評価方法に基づいて、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性、熱安定性を評価した。
【0041】
(評価方法)
<耐外傷性評価>
作製した絶縁電線を300mmの長さに切り出して試験片とした。図2(a)(平面図)、図2(b)(側面図)に示すように、試験片1をプラスチック板2a,2b上に設置した。プラスチック板2aとプラスチック板2bの間隔は5mmとした。試験片1の左端をプラスチック板2bに固定し、試験片1の右端に30Nの張力をかけて、試験片1をまっすぐにした。次いで、試験片1において、プラスチック板2aとプラスチック板2bの間に配置された部分の下部から10mm、試験片1の径方向中央から外周側に0.8mm程度離した位置に、厚みが0.5mmの金属片3を配置した。
【0042】
次いで、図3(a)〜図3(c)に示すように、金属片3を50mm/minの速度で試験片1の被覆材4に接触させながら上方に移動させて、試験片1の金属片3にかかる荷重を測定した。このとき、試験片1の導体5が露出していない場合には、0.01mm単位で金属片3を試験片1の中央方向に近づけ、導体5が露出するまで測定を続けた。導体5が露出しない上限荷重をその試験片1の耐外傷性能力とし、12N以上の荷重でも導体5が露出しない場合に、耐外傷性を合格「○」とし、さらに、15N以上の荷重でも導体5が露出しない場合に、耐外傷性により優れる「◎」とした。一方、12N未満の荷重で導体5が露出した場合に、耐外傷性を不合格「×」とした。
【0043】
<低温屈曲性評価>
作製した絶縁電線を350mmの長さに切り出して試験片とした。この試験片の両端20mmの被覆材を剥ぎ取った。次いで、図4に示すように、試験片6の一端を回動アームに固定し、その他端におもり7をつるし、試験片6の長手方向中間部を一対の円柱状部材8a、8b(半径r=25mm)で挟みこんだ状態で、試験片6が円柱状部材8a、8bの周面に沿うように、一方向に90度、他方向に90度、回動アームを回動させて、曲げ半径rで試験片6を繰返し屈曲させることにより行なった。試験片6にかかる荷重を400g、試験温度−30℃、屈曲動作の繰返し速度は1分間に60往復とした。屈曲試験によって試験片6が断線するまでの屈曲回数(往復回数)をもって屈曲性を評価した。屈曲回数2000回以上を合格「○」とし、3000回以上を特に優れる「◎」とし、屈曲回数2000回未満を不合格「×」とした。
【0044】
<耐引裂き性評価>
調製した電線被覆材用組成物から作製した1mm厚シートから、JIS K 6252記載のアングル型試験片を作製し、引張試験機を用いて、耐引裂き性を評価した。掴み具間距離を20mm、引張速度を50mm/min.にて実施し、ストロークが10mm(みかけひずみ50%)以上で試験片が破断した場合に、耐引裂き性を合格「○」とし、さらに、20mm(みかけひずみ100%)以上で試験片が破断した場合に、耐引裂き性により優れる「◎」とした。一方、10mm未満で試験片が破断した場合に、耐引裂き性を不合格「×」とした。
【0045】
<熱安定性評価>
調製した電線被覆材用組成物を210℃に設定したR60タイプのラボプラストミルに投入し、60回転/分で混練し、トルクの急上昇が観察されるまでの時間を熱安定性の指標として評価した。トルクの急上昇が観察されるまでの時間が60分以上であった場合を熱安定性に優れる「◎」とし、60分未満であった場合を熱安定性に劣る「×」とした。
【0046】
電線被覆材料の配合割合および評価結果を表1〜表3に示した。なお、表1〜表3に示す値は、質量部で表したものである。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
比較例1は、ポリ塩化ビニルに対し特定のエチレン系共重合体を配合していないため、可塑剤量が少ない場合において、低温屈曲性、耐引き裂き性を満足しない。比較例2は、ポリ塩化ビニルに対し特定のエチレン系共重合体の配合量が少なすぎるため、可塑剤量が少ない場合において、低温屈曲性、耐引き裂き性を満足しない。比較例3は、ポリ塩化ビニルに対し特定のエチレン系共重合体の配合量が多すぎるため、耐外傷性を満足しない。比較例4は、ポリ塩化ビニルに対し、特定のエチレン系共重合体に代えて低温改質剤(MBS)を配合しているため、低温屈曲性は満足するが、耐外傷性、耐引き裂き性を満足しない。比較例5は、ポリ塩化ビニルに対し特定のエチレン系共重合体を所定量配合しているが、可塑剤量が少なすぎるため、低温屈曲性、耐引き裂き性を満足しない。比較例6は、ポリ塩化ビニルに対し特定のエチレン系共重合体を所定量配合しているが、可塑剤量が多すぎるため、耐外傷性を満足しない。
【0051】
これらに対し、本発明の構成を満足する実施例によれば、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性、熱安定性を満足する。そして、実施例間の比較で示されるように、エチレン−ビニルエステル共重合体が主鎖中にケトン骨格を有するエチレン−ビニルエステル−一酸化炭素の三元共重合体であると、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性がより向上する(実施例1,4,5)。エチレン−ビニルエステル共重合体のビニルエステル含有量が30質量%以上であると、耐引き裂き性がより向上する(実施例4,5)。エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体のα,β−不飽和カルボン酸エステル含有量が15質量%以上であると、耐引き裂き性がより向上する(実施例6〜9)。エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体のメルトフローレイトが5g/10分以下であると、低温屈曲性がより向上する(実施例6〜9)。
【0052】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 絶縁電線
12 導体
14 絶縁被覆層
図1
図2
図3
図4