特許第6617526号(P6617526)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

特許6617526電力貯蔵装置用フライホイールの製造方法
<>
  • 特許6617526-電力貯蔵装置用フライホイールの製造方法 図000002
  • 特許6617526-電力貯蔵装置用フライホイールの製造方法 図000003
  • 特許6617526-電力貯蔵装置用フライホイールの製造方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6617526
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】電力貯蔵装置用フライホイールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 15/00 20060101AFI20191202BHJP
   B29C 39/24 20060101ALI20191202BHJP
   F16H 33/02 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   H02J15/00 A
   B29C39/24
   F16H33/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-224393(P2015-224393)
(22)【出願日】2015年11月17日
(65)【公開番号】特開2017-93254(P2017-93254A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤野 貴紀
【審査官】 坂本 聡生
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−095208(JP,A)
【文献】 特開平06−210197(JP,A)
【文献】 特開2013−095848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H33/02
H02J 3/30
15/00
B29C39/00−39/24
39/38−39/44
43/00−43/34
43/44−43/48
43/52−43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力をフライホイールの回転エネルギーとして蓄える電力貯蔵装置用フライホイールの製造方法であって、
繊維長が1〜50mmの不連続な繊維の繊維強化材とバインダーを溶媒中に分散させランダムに配向させるステップと、
前記繊維強化材、前記バインダー及び前記溶媒を含んだ溶液を型に流し込み、更に脱水して、前記バインダーと前記繊維強化材が前記型の中に残り、前記型の形状が維持されるプリフォームを形成するステップと、
該プリフォームに樹脂を注入して前記繊維強化材に含浸させ、加熱して固化させることで繊維強化プラスチックとするステップと、を有する電力貯蔵装置用フライホイールの製造方法。
【請求項2】
前記繊維強化材は、炭素繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維のうち少なくとも1つからなる請求項1に記載の電力貯蔵装置用フライホイールの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及びポリアミド6のうち少なくとも1つからなる請求項1に記載の電力貯蔵装置用フライホイールの製造方法。
【請求項4】
前記プリフォームに前記樹脂を注入するにあたり、圧力をかけて行われる請求項1〜3のいずれか1項に記載の電力貯蔵装置用フライホイールの製造方法。
【請求項5】
前記バインダーはポリビニルアルコールである請求項1に記載の電力貯蔵装置用フライホイールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力貯蔵装置用フライホイール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電や、風力発電などの再生可能エネルギーは、地球温暖化対策の一貫として、その導入が推進されている。しかし、太陽光発電は日射時間、風力発電は風の強弱のような、自然条件によって発電量が大きく変化するという特徴を有している。このため、かかる再生可能エネルギーによる電力を平滑化するために、電力貯蔵装置の開発が従来から進められている。即ち、日射量や風速などの自然条件によって瞬間的に増加した電力をエネルギーとして貯蔵しておき、逆に電力が減少したときにエネルギーを電力に変換して発電された電力と組合わせ、電力の平滑化を図ろうとするものである。
【0003】
また、サーバやルータを一括管理する大型のデータセンターでは、瞬時の停電であってもコンピュータの誤作動といったような甚大な被害をもたらすおそれがあるため、無停電電源が使用されているが、環境に優しい無停電電源として、電力貯蔵装置の採用が検討されている。
【0004】
このような電力貯蔵装置として、電力をフライホイールの回転エネルギーとして蓄えるフライホイール式の電力貯蔵装置が、例えば特許文献1にて提案されている。図3は特許文献1に開示された電力貯蔵装置を示したものである。電力貯蔵装置は、モータ/発電機111と、フライホイール113と、このフライホイール113の回転軸114を回転自在に支持する超電導磁気軸受115とを有する。電力によりモータ/発電機111を回転させることによりフライホイール113を回転させ、電力を回転エネルギーに変換して蓄え、また、フライホイール113の有する回転エネルギーを放出して、モータ/発電機111を回転させて発電することにより、回転エネルギーを電力に変換して出力するように構成されている。
【0005】
フライホイールに蓄積されるエネルギーは、慣性モーメントに比例し、回転角速度の2乗に比例する。従って、蓄積エネルギーを増大させるためには、フライホイールを重くする、大きい回転数で回転させることが必要となる。これらの要求を満たすために、高速回転が可能で、かつ高速回転で発生する遠心力に耐えられる強度を有する物質として、繊維強化プラスチックのフライホイールが提案されている(例えば特許文献2)。
【0006】
特許文献2には、従来技術として、強化繊維のストランドを円環状に巻き付けて円環状プリフォームを形成し、当該円環状プリフォームに熱硬化性樹脂を含浸させたのち硬化反応させる、フィラメントワインディング法や、強化繊維のシートを円環状に巻き付けたのち熱硬化性樹脂を含浸させて硬化反応させるシートワインディング法が記載されている。そして、これら従来技術の問題点を解決するために、強化繊維によって円環状プリフォームを作製する工程、および作製した円環状プリフォームを金型内にセットして、フィラーを含む樹脂を円環状プリフォームの径方向に射出成形する工程を経て製造されたフライホイールが提案されている。
【0007】
しかしこれらの先行技術においては、プリフォームがワインディング法で作製されるため、周方向には強いものの、大きな遠心力が作用したときにそれに耐えられるかという問題がある。また、プリフォームに巻き始めや巻き終わりが存在するために、半径方向に対して段差が生じて不均一或いは軸方向に対して不均一となるため、高速回転で使用される際にはバランス取りが極めて困難となる。この問題を解決するために巻き付け方法等に工夫がなされているものの、根本的な問題解決にはつながっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015−83855号公報
【特許文献2】特開2015−110303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決し、強化繊維の不均一による強度や剛性のムラがなく、高速回転に耐えることができるフライホイールおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る樹脂プーリは、以下のように構成される。(1)電力をフライホイールの回転エネルギーとして蓄える電力貯蔵装置用フライホイールであって、 該フライホイールは繊維強化プラスチックを有し、 該繊維強化プラスチックに含まれた繊維強化材は不連続な繊維でかつランダムに配向されている電力貯蔵装置用フライホイール。(2)電力をフライホイールの回転エネルギーとして蓄える電力貯蔵装置用フライホイールの製造方法であって、 不連続な繊維の繊維強化材を溶媒中に分散させランダムに配向させるステップと、 前記繊維強化材と溶媒を含んだ溶液を型に流し込んでプリフォームを形成するステップと、 該プリフォームに樹脂を注入して前記繊維強化材に含浸させ、加熱して固化させることで繊維強化プラスチックとするステップと、を有する電力貯蔵装置用フライホイールの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電力貯蔵装置用フライホイール及びその製造方法によれば、不連続な繊維からなる繊維強化材がランダムに配向されているので、強度や剛性のムラがなく、高速回転に耐えることができるフライホイールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は本発明に係るフライホイールの実施形態を示す斜視図、(b)はその一部拡大図である。
図2】(a)(b)(c)はフライホイールの製造方法の説明図である。
図3】電力貯蔵装置の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1(a)は本発明に係るフライホイールの実施形態を示す斜視図であり、同(b)は一部拡大図である。
【0014】
図1(a)に示す円環状のフライホイール1は、例えば前述した図3に示すような電力貯蔵装置101用に使用されるものであり、繊維強化材3とマトリックス(強化される側の部材)となる樹脂5とからなる繊維強化プラスチック7で形成されている。図1(a)の一部を拡大して示す同(b)から明らかな通り、繊維強化材3として繊維長が1〜50mmの不連続な繊維(長繊維)の炭素繊維が使用されている。そして、この炭素繊維がランダムに配向されていることで、フライホイール1の形状に対し均一に分散されている。即ち、図1(b)はフライホイール1の一部の拡大図であるが、フライホイール1を何れの方向で切断しても、その断面は図1(b)と同様な構成とされるように形成されている。これにより、高速回転によっても振動発生したりすることがなく、滑らかな回転が可能となっている。
【0015】
なお、繊維強化材としては炭素繊維に限定されることなく、ガラス繊維やアラミド繊維などを用いることができる。またマトリックスとなる樹脂としては、エポキシ樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリアミド6に代表される開環重合タイプの熱可塑性樹脂を使用することができる。
【0016】
図2は、図1に示すフライホイール1の製造方法の説明図である。フライホイール1の作製に当たっては、先ず、図2(a)に示すように、繊維強化材3としての不連続な炭素繊維をバインダー(不図示)と共に溶媒9中に投入し攪拌する。バインダーとしては例えばPVA(ポリビニルアルコール)が使用され、溶媒9としては例えば水が使用される。攪拌により、ランダムに配向された炭素繊維の繊維強化材3を水中にて分散させた水溶液11を作成する。
【0017】
次いで図2(b)に示すように、水溶液11を矢印Xで示す位置から抄紙型D1に注入する。このとき矢印Wで示すように脱水することで、バインダーと炭素繊維とが型の中に残り、バインダーが溶けたり固まったりすることで円環状の形状を維持されるプリフォーム13を形成する。
【0018】
次いで、図2(c)に示すように、金型D2内にプリフォーム13を配置し、矢印Yで示す位置から、マトリックスとなる樹脂を圧力をかけて注入し、炭素繊維に含浸させる。マトリックスとなる樹脂としては前述の通り、エポキシ樹脂やフェノール樹脂のような熱硬化性の樹脂が使用される。
【0019】
次いで、金型を閉じて、120℃で10時間加熱することにより、プリフォーム13を固化する。その後金型を開いてフライホイール1を取り出すことでフライホイール1の作製が完了する。
【0020】
作製されたフライホイール1は、基本的には図2(a)に示す状態の繊維が強化繊維として含まれた繊維強化プラスチック7(図1(b)参照)で形成されているので、ランダムに配向されている炭素繊維が、フライホイール1の形状に対し均一に分散されている。このため、強度や剛性のムラがなく、高速回転に耐えることができるフライホイール1を得ることができる。
【符号の説明】
【0021】
1 フライホイール3 繊維強化材5 樹脂7 繊維強化プラスチック
図1
図2
図3