(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導体の中心に配置された1本の前記撚線を構成する前記素線の直径が0.1mm以上であり、それ以外の前記撚線を構成する前記素線の直径が0.08mm以下である、請求項2に記載の被覆電線。
前記多芯ケーブルの長手方向に直交する断面において、長軸寸法と短軸寸法との比(長軸寸法/短軸寸法)が1.8以上である、請求項7に記載の車両用の多芯ケーブル。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本発明の実施形態の概要>
最初に本発明の実施形態の概要を説明する。
(1)被覆電線は、
導体が、樹脂製の絶縁層で被覆された被覆電線であって、
前記絶縁層は、厚み0.3mm以上0.4mm以下で前記導体を被覆しており、
前記導体の断面積が1.5mm
2以上3.0mm
2以下であり、
前記導体は、複数本の撚線が撚り合わされて構成されており、
前記撚線は、複数本の素線が撚り合わされて構成されており、
前記導体の中心に配置される前記撚線を構成する前記素線の直径が、それ以外の前記撚線を構成する前記素線の直径よりも大きい。
【0010】
所望の断面積を有する撚線を構成する際に、太い素線で撚線を構成すれば、細い素線で撚線を構成する場合に比べて、撚り合わせる本数が少なくなるのでコストを低減できる。しかし、太い素線で撚線を構成すると、細い素線で撚線を構成する場合に比べて、撚線の耐屈曲性が低下してしまう。
そこで、上記構成に係る被覆電線によれば、中心に配置される撚線を構成する素線についてのみ、他の素線より太い素線を用いている。これにより、細い素線のみで導体で構成する場合に比べて、導体のコストを低減できる。
導体を構成する素線の一部に太い素線を用いたことにより、導体全体の耐屈曲性が低下することが懸念される。しかし、太い素線で構成された撚線が導体の中心に配置されていることにより、導体全体の耐屈曲性の低下が抑制されている。これにより、導体全体としての耐屈曲性の低下を抑制しつつ、コストを下げることができる。
【0011】
(2)上記(1)の構成の被覆電線において、
前記導体は、7本の前記撚線が撚り合されて構成されており、
前記導体の中心に配置された1本の前記撚線の周囲に、6本の前記撚線が撚り合されていてもよい。
【0012】
上記構成の被覆電線によれば、被覆電線の断面において撚線をバランスよく配置でき、導体の撚り構造を安定的に維持することができる。
【0013】
(3)上記(2)の構成の被覆電線において、
前記導体の中心に配置された1本の前記撚線を構成する前記素線の直径が0.1mm以上であり、それ以外の前記撚線を構成する前記素線の直径が0.08mm以下であってもよい。
【0014】
上記構成の被覆電線によれば、耐屈曲性の低下の抑制とコストの低減とを両立しやすい。導体の中心に配置された1本の撚線を構成する素線の直径が0.1mm未満では、コストを低減しにくい。それ以外の撚線を構成する素線の直径が0.08mmより大きいと耐屈曲性の低下を抑制しにくい。
【0015】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの構成の被覆電線において、
前記絶縁層は、エチレンとカルボニル基を有するαオレフィンとの共重合体を主成分としてもよい。
【0016】
上記構成の被覆電線は、絶縁層の耐屈曲性が高く、被覆電線の耐屈曲性がより高い。
【0017】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかの被覆電線において、
最も外径の大きい前記撚線の外径が、最も外径の小さい前記撚線の外径の1.5倍以下であってもよい。
【0018】
上記構成の被覆電線によれば、複数の撚線の外径が揃っているので、撚り合わせた撚り形状が安定する。
【0019】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかの被覆電線において、
前記導体の中心に配置された前記撚線の外径が、それ以外の前記撚線の外径の75%以上125%以下であってもよい。
【0020】
上記構成の被覆電線によれば、複数の撚線の外径が揃っているので、撚り合わせた撚り形状が安定する。
【0021】
(7)車両用の多芯ケーブルであって、
上記(1)〜(6)のいずれかの2本の前記被覆電線と、
2本の前記被覆電線を被覆する外被と、を有する。
【0022】
上記構成の車両用の多芯ケーブルによれば、2本の被覆電線を別々に配線する場合に比べて配線作業が容易である。
【0023】
(8)上記(7)の車両用の多芯ケーブルにおいて、
前記導体よりも細い第二導体と、前記第二導体を被覆する第二絶縁層と、をそれぞれ有する複数本の第二電線を有し、
前記第二電線が2本一組で撚り合わされて対撚第二電線を構成していてもよい。
【0024】
上記構成の車両用の多芯ケーブルによれば、2本の被覆電線と対撚第二電線を別々に配線する場合に比べて配線作業が容易である。
【0025】
(9)上記(8)の車両用の多芯ケーブルであって、
2本の前記被覆電線と前記対撚第二電線とが撚り合わされており、
前記外被が、撚り合わされた2本の前記被覆電線と前記対撚第二電線とを被覆していてもよい。
【0026】
上記構成の車両用の多芯ケーブルによれば、2本の被覆電線と対撚第二電線とが撚り合わされて、撚り合わされた状態が外被で覆われているので、多芯ケーブルの外径形状が安定する。
【0027】
(10)上記(9)の車両用の多芯ケーブルであって、
前記多芯ケーブルの長手方向に直交する断面において、2本の前記被覆電線が点対称に配置されていてもよい。
【0028】
上記構成の車両用の多芯ケーブルによれば、断面において太い被覆電線がバランスよく配置されていて対称性がよいため、多芯ケーブルに捩り癖がつきにくい。
【0029】
(11)上記(7)の車両用の多芯ケーブルであって、
前記多芯ケーブルの長手方向に直交する断面において、長軸寸法と短軸寸法との比(長軸寸法/短軸寸法)が1.8以上であってもよい。
【0030】
上記構成の車両用の多芯ケーブルによれば、偏平な空間に好適に配索することができる。短軸方向(厚さ方向)に曲げやすく、配索しやすい。壁などの面状の被取付対象に対して、接触面積を大きく確保しやすく、多芯ケーブルを固定しやすい。
【0031】
<本発明の実施形態の詳細>
以下、本発明に係る被覆電線および該被覆電線を含む車両用の多芯ケーブルの実施形態の一例について、図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
<第1実施形態>
多芯ケーブル1は、例えば、車両に搭載されたECU(Electric Control Unit)と、車輪の周囲に設けられた電動パーキングブレーキや車輪速センサなどを接続するために用いられる。車輪は、車体に対して、アクスル回りに回転可能に支持されている。また、車輪は、懸架装置や操舵装置を介して支持されている場合もある。つまり、車輪は、車体に変位可能に支持されている。本実施形態の多芯ケーブル1は、車体に固定されたECUと、車体に変位可能に支持された車輪に取り付けられる部品とを接続するために好適に用いられる。
多芯ケーブル1には、車輪が収容されるタイヤハウスの中を小さい空間で配索することが求められ、車輪の変位を妨げないように曲げやすいことや、繰り返し作用する曲げに対する高い耐久性などが求められる。
【0033】
図1は、本発明の第1実施形態に係る多芯ケーブル1を示す断面図である。
図1は、多芯ケーブル1の長手方向に直交する断面を示している。
図1に示すように、多芯ケーブル1は、2本の電力線10と、2本の信号線21と、2本の電線31と、外被40とを有している。本実施形態の多芯ケーブル1の外径は、7mm以上18mm以下、好ましくは、7.5mm以上13mm以下とすることができる。
【0034】
(電力線)
2本の電力線10(被覆電線の一例)はそれぞれ、第一導体12(導体の一例)と、第一導体12を覆う第一絶縁層13(絶縁層の一例)と、をそれぞれ含んでいる。2本の電力線10は互いに大きさおよび材料が同じである。
【0035】
2本の電力線10は、電動パーキングブレーキとECUとを接続するために用いることができる。電動パーキングブレーキは、ブレーキキャリパーを駆動するモータを有している。例えば、一方の電力線10はこのモータへ電力を供給する給電線として用い、他方の電力線10は該モータのアース線として用いることができる。
【0036】
第一導体12は、複数本の撚線が撚り合わされて構成されている。それぞれの撚線は複数本の素線が撚り合わされて構成されている。素線は、銅または銅合金から構成された線である。素線は、銅や銅合金の他に、錫めっき軟銅線等のような所定の導電性と柔軟性を有する材料で構成することができる。第一導体12の断面積は、1.5mm
2以上3mm
2以下とすることができる。
【0037】
図示の例では、第一導体12は、7本の撚線が撚り合されて構成されている。電力線10の長手方向に直交する断面において、径方向の中心に1本の撚線(以降、中心撚線14と呼ぶ)が位置し、その中心撚線14を囲むように6本の撚線(以降、周囲撚線15と呼ぶ)が位置している。中心撚線14は常に径方向の中心に位置し、周囲撚線15は常に中心撚線14の周囲に位置する位置関係が、多芯ケーブル1の長手方向に亘って維持されている。
【0038】
中心撚線14は、直径0.1mmの素線16を46本撚り合わせて構成されている。中心撚線14の外径は0.8mmである。周囲撚線15は、直径0.08mmの素線17を72本撚り合わせて構成されている。周囲撚線15の外径は0.8mmである。中心撚線14の素線16が、周囲撚線15の素線17よりも太い。なお、
図1においては、中心撚線14の素線16の本数が周囲撚線15の素線17の本数よりも少ないことが把握しやすくなるように、実際の本数とは異なる本数で描いている。
【0039】
中心撚線14の素線16の直径が0.1mm以上であり、かつ、周囲撚線15の素線17の直径が0.08mm以下であることが好ましい。中心撚線14の素線16の直径が0.1mm未満では、コストを低減しにくい。周囲撚線15の素線17の直径が0.08mmより大きいと耐屈曲性の低下を抑制しにくい。中心撚線14の素線16の直径および周囲撚線15の素線17の直径は、0.05mm〜0.2mmの範囲内とすることが好ましい。
【0040】
また、本実施形態において、周囲撚線15の外径は、中心撚線14の外径の0.98倍である。つまり、撚線のうちで最も外径の大きい周囲撚線15の外径が、撚線のうちで最も外径の小さい中心撚線の外径の1.5倍以下である。
また、中心撚線14の外径は、周囲撚線15の外径の101%である。つまり、第一導体12の中心に配置された中心撚線14の外径が、それ以外の周囲撚線15の外径の75%以上125%以下である。
このように、本実施形態においては、複数の撚線14,15の大きさが揃っているので、複数の撚線14,15を撚り合わせた第一導体12の撚り形状が安定しやすい。
【0041】
第一絶縁層13の外径は、2mm以上4mm以下とすることができる。第一絶縁層13の最も薄い部位の厚み(撚線の表面から第一絶縁層13の外面までの厚さ)は0.3mm以上0.4mm以下とする。第一絶縁層13は、エチレンとカルボニル基を有するαオレフィンとの共重合体を主成分とする樹脂で形成することが好ましいが、架橋耐熱ポリエチレンや架橋フッ素系樹脂等などの樹脂で形成してもよい。
【0042】
第一絶縁層13は、低温化における耐屈曲性向上の観点から、エチレンとカルボニル基を有するαオレフィンとの共重合体(以下、主成分樹脂ともいう)で形成することが好ましい。上記主成分樹脂のカルボニル基を有するαオレフィン含有量の下限としては、14質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。一方、上記カルボニル基を有するαオレフィン含有量の上限としては、46質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。上記カルボニル基を有するαオレフィン含有量が上記下限より小さいと、低温での耐屈曲性向上効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記カルボニル基を有するαオレフィン含有量が上記上限を超えると、第一絶縁層13の強度等の機械的特性が低下するおそれがある。
【0043】
カルボニル基を有するαオレフィンとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸;メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン等のビニルケトン;(メタ)アクリル酸アミド等を挙げることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及びビニルエステルが好ましく、アクリル酸エチル及び酢酸ビニルがより好ましい。
【0044】
上記主成分樹脂としては、例えばEVA、EEA、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン−ブチルアクリレート共重合体(EBA)等の樹脂が挙げられ、これらの中でもEVA及びEEAが好ましい。
【0045】
本実施形態において、多芯ケーブル1の長手方向に直交する断面において、2本の電力線10が点対称に配置されている。断面において太い電力線10がバランスよく配置されていて対称性がよいため、多芯ケーブル1に捩り癖がつきにくい。また、多芯ケーブル1の長手方向に直交する断面において、1本の対撚信号線20と1本の対撚電線30も点対称に配置されているため、さらに多芯ケーブル1の対称性が高められている。
【0046】
(信号線)
2本の信号線21はそれぞれ、第一導体12より細い第二導体22と、第二導体22を覆う第二絶縁層23と、を含んでいる。撚り合わされる2本の信号線21は、互いに大きさおよび材料が同じである。信号線21は2本一組で撚り合わされて対撚信号線20として構成されている。対撚信号線20の撚りピッチは、対撚信号線20の撚り径(対撚信号線20の外径)の10倍以上15倍以下とすることができる。対撚信号線20は、信号被覆24で覆われている。信号被覆24は、第一絶縁層13と同じ材料を用いることができるし、異なる材料を用いてもよい。
【0047】
対撚信号線20の外径は、電力線10の外径とほぼ同じ大きさとすることができる。電力線10の外径は、対撚信号線20の外径の75%以上136%以下であることが好ましい。電力線10の外径は、対撚信号線20の外径の75%以上125%以下であることがより好ましい。電力線10の外径は、対撚信号線20の外径の90%以上115%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
信号線21は、センサからの信号を伝送するために用いることもできるし、ECUからの制御信号を伝送するために用いることもできる。2本の信号線21は、例えばABS(Anti-lock Brake System)の配線に用いることができる。2本の信号線21はそれぞれ、例えば、差動式の車輪速センサと車両のECUとを接続する線として用いることができる。
【0049】
第二導体22は、図示したように複数の素線を撚り合わせて構成してもよいし、1本の素線で構成してもよい。第二導体22は、第一導体12を構成する素線と同じ材料で構成してもよいし、異なる材料を用いてもよい。第二導体22の断面積は、0.13mm
2以上0.5mm
2以下とすることができる。
第二絶縁層23は、第一絶縁層13と同じ材料を用いることができるし、異なる材料を用いてもよい。第二絶縁層23の外径は、1.0mm以上2.2mm以下とすることができる。
【0050】
(電線)
2本の電線31はそれぞれ、第一導体12より細い第三導体32と、第三導体32を覆う第三絶縁層133と、を含んでいる。2本の電線31は、2本一組で撚り合わされて対撚電線30として構成されている。撚り合わされる2本の電線31は、大きさおよび材料が同じである。電線31は、大きさおよび材料が信号線21と同じであってもよい。対撚電線30は、対撚信号線20と同じ方向に撚られていることが好ましい。対撚電線30は、対撚信号線20と撚りピッチが等しいことが好ましい。対撚電線30は、電線被覆34で覆われている。電線被覆34は、第一絶縁層13と同じ材料を用いることができるし、異なる材料を用いてもよい。
【0051】
対撚電線30の外径は、対撚信号線20の外径とほぼ同じ大きさとすることができる。対撚電線30の外径は、電力線10の外径とほぼ同じ大きさとすることができる。電力線10の外径は、対撚電線30の外径の75%以上136%以下であることが好ましい。電力線10の外径は、対撚電線30の外径の75%以上125%以下であることがより好ましい。電力線10の外径は、対撚電線30の外径の90%以上115%以下であることがさらに好ましい。
【0052】
電線31は、センサからの信号を伝送するために用いることもできるし、ECUからの制御信号を伝送するために用いることもできるし、電子機器へ電力を供給する給電線としても用いることができる。電線31は、例えば、サスペンションの油圧特性を変更するアクティブサスペンションシステムに用いる給電線や制御線、センサワイヤとして用いることができる。あるいは、電線31は、例えば、車両用のCAN(Controller Area Network)の配線に用いることができる。
【0053】
第三導体32は、図示したように複数の素線を撚り合わせて構成してもよいし、1本の素線で構成してもよい。第三導体32は、第一導体12や第二導体22を構成する導体と同じ材料で構成してもよいし、異なる材料を用いてもよい。第三導体32の断面積は、0.13mm
2以上0.5mm
2以下とすることができる。
第三絶縁層133は、第二絶縁層23と同じ材料を用いることができるし、異なる材料を用いてもよい。第三絶縁層133の外径は、1.0mm以上2.2mm以下とすることができる。
【0054】
(外被)
外被40は、2本の電力線10と、2本の信号線21と、2本の電線31と、を含む全ての線を覆っている。2本の電力線10、1本の対撚信号線20および1本の対撚電線30が一体に撚り合わされている。外被40は、一体に撚り合わされた状態の2本の電力線10、1本の対撚信号線20および1本の対撚電線30を覆っている。
【0055】
外被40は、内側外被41と、内側外被41よりも外側に位置する外側外被42を有している。外被40の外径は、7.5mm以上11mm以下とすることができる。
【0056】
内側外被41は、2本の電力線10と、2本の信号線21と、2本の電線31と、を含む全ての線の撚られた形状を維持する。内側外被41は、2本の電力線10と、2本の信号線21と、2本の電線31の外周に押出被覆されて形成される。内側外被41は、外側外被42と同じ材料で構成してもよいし、外側外被42と異なる樹脂で構成してもよい。内側外被41は、例えば、ポリエチレンやエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、またはこれらの少なくとも2種を混合して形成される樹脂組成物で形成することができる。内側外被41は架橋してもよい。
【0057】
外側外被42は、2本の電力線10と、2本の信号線21と、2本の電線31と、を含む全ての線を外部から保護するために設けられる。外側外被42は、内側外被41の外周に押出被覆されて形成される。外側外被42は、耐摩耗性に優れた架橋/非架橋ポリウレタン(TPU)で構成することができる。耐熱性に優れることから、外側外被42は架橋ポリウレタンで構成することが好ましい。例えば、外側外被42を耐摩耗性に優れたポリウレタンで構成し、内側外被41は、その効果を奏する限り、外側外被42を構成するポリウレタンより安価なポリエチレンなどで構成することができる。
【0058】
(介在)
多芯ケーブル1は、介在50を有している。介在50は、外被40の内側に設けられている。介在50は、2本の電力線10の間に設けられている。2本の電力線10、対撚信号線20、対撚電線30を、介在50とともに撚り合わせることにより、2本の電力線10の間に介在50を配置することができる。
【0059】
介在50は、スフ糸やナイロン糸などの繊維で構成することができる。介在50は、電力線10に対して滑りの良い繊維で構成することが好ましい。スフ糸やナイロン糸は電力線10の変位に対して緩衝作用を有するので、介在50をスフ糸やナイロン糸で構成することが好ましい。介在50は、抗張力繊維で構成した糸でもよい。介在50は、外被40と同じ材料で構成した糸でもよいし、外被40と異なる材料で構成した糸でもよい。介在50は、例えばポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)で構成した糸としてもよい。
【0060】
(抑え巻)
多芯ケーブル1は、抑え巻51を有していてもよい。抑え巻51は、2本の電力線10、1本の対撚信号線20および1本の対撚電線30を覆っている。抑え巻51は、これらの線の撚り合わされた形状を安定的に維持する。抑え巻51は、外被40の内側に設けられている。
【0061】
抑え巻51として、例えば、紙テープや不織布、ポリエステルなどの樹脂製のテープを用いることができる。また、抑え巻51は、2本の電力線10、1本の対撚信号線20および1本の対撚電線30に螺旋状に巻き付けてもよいし、縦添えであっても良い。また、巻き方向は、Z巻きでもS巻きでも良い。また巻き方向は、対撚信号線20や対撚電線30の対撚方向と同じ方向に巻いてもよいし、反対方向に巻いてもよい。抑え巻51の巻き方向と対撚信号線20および対撚電線30の対撚方向とを反対にすると、抑え巻51の表面に凹凸が生じにくく、多芯ケーブル1の外径形状が安定し易いので好ましい。
【0062】
押出被覆で樹脂製の外被40を設ける場合には、該樹脂が2本の電力線10に付着して、多芯ケーブル1の端末において2本の電力線10を分離しにくくなる場合がある。そこで、抑え巻51を設けることにより、該樹脂が2本の電力線10に付着することを防止し、端末で2本の電力線10を取り出しやすくすることができる。
【0063】
(シールド層)
多芯ケーブル1は、外部に放射されるノイズを抑制するシールド層を有していてもよい。シールド層は、金属テープを電力線10、対撚信号線20、対撚電線30に巻き付けることにより構成できる。シールド層は、多数本の金属細線をこれらの線に螺旋状に巻き付けることによっても構成できる。あるいは、シールド層は、金属細線で編組することによっても構成できる。シールド層を抑え巻51の外かつ外被40の内側に設けることができる。
【0064】
(効果)
所望の断面積を有する撚線を構成する際に、太い素線で撚線を構成すれば、細い素線で撚線を構成する場合に比べて、撚り合わせる本数が少なくなるのでコストを低減できる。しかし、太い素線で導体を構成すると、細い素線で導体を構成する場合に比べて、導体の耐屈曲性が低下してしまう。
【0065】
そこで、上記実施形態に係る電力線10によれば、中心撚線14の素線16についてのみ、他の素線17より太い素線を用いている。これにより、細い素線のみで導体で構成する場合に比べて、導体のコストを低減できる。
【0066】
第一導体12を構成する素線の一部に太い素線16を用いたことにより、第一導体12全体の耐屈曲性が低下することが懸念される。しかし、太い素線16で構成された中心撚線14が第一導体12の中心に配置されていることにより、第一導体12全体の耐屈曲性の低下が抑制されている。
例えば、電力線10を曲げたときに、屈曲部の内側部分には軸方向の圧縮応力が作用し、屈曲部の外側部分には軸方向の引張応力が作用するが、屈曲部の中心部分には大きな応力が作用しにくい。電力線10を曲げたときの屈曲部の内側部分や外側部分には周囲撚線15が位置しており、屈曲部の中心部分には中心撚線14が位置している。つまり、周囲撚線15は電力線10の耐屈曲性に大きな影響を与えるが、周囲撚線15に比べて中心撚線14は耐屈曲性に大きな影響を与えにくい。そこで、本実施形態に係る電力線10においては、太い素線16で構成された中心撚線14を第一導体12の中心に配置することにより、耐屈曲性の低下を抑制しつつ、コストが低減されている。
【0067】
本実施形態の多芯ケーブル1において、第一導体12は、1本の中心撚線14と、中心撚線14の周囲に配置された6本の周囲撚線15とが撚り合わされて構成されている。電力線10の断面において撚線14,15をバランスよく配置でき、第一導体12の撚り構造を安定的に維持することができる。
【0068】
本実施形態の多芯ケーブル1において、電力線10の外径は、対撚信号線20の外径の75%以上136%以下であることが好ましい。電力線10の外径は、対撚信号線20の外径の75%以上125%以下であることがより好ましい。電力線10の外径は、対撚信号線20の外径の90%以上115%以下であることがさらに好ましい。なお、電力線10の外径とは、第一絶縁層13の外径である。対撚信号線20の外径とは、一対の信号線21が外接する仮想外接円の直径のことである。例えば、対撚信号線20の外径は、撚り合わされた2本の信号線21をマイクロメータで挟み込んで測定することができる。
【0069】
本実施形態に係る多芯ケーブル1によれば、2本の電力線10と、対撚信号線20との大きさがほぼ一致するため、撚り合わせた形状を維持しやすく、多芯ケーブル1の直径を長手方向に沿って揃えやすい。
また、多芯ケーブル1の長手方向に直交する断面において、2本の電力線10と対撚信号線20とが一定の位置関係を保って配置されるため、撚り合わせた後の断面形状が円に近くなる。このため、外被40の断面形状を真円に近い形状としやすく、外被40と止水部材間で隙間が生じにくく、さらに止水性が高まっている。
また、対撚信号線20と対撚電線30との大きさがほぼ一致することがさらに好ましい。
【0070】
複数本の線が設けられた多芯ケーブルにおいては、線同士がこすれあって耐屈曲性が低下するおそれがある。しかし、本実施形態に係る多芯ケーブル1によれば、多芯ケーブル1を屈曲させた場合に線10,20,30が介在50の上を滑るので、電力線10同士の接触、電力線10と対撚信号線20との接触、電力線10と対撚電線30との接触に起因して生じる力が少ない。このため、多芯ケーブル1の耐屈曲性が高められている。
【0071】
<第二実施形態>
上述した第一実施形態において2本の電力線10、2本の信号線21、2本の電線31が撚り合わされた多芯ケーブル1を説明したが、本発明はこれに限られない。
図2は、本発明の第二実施形態に係る車両用の多芯ケーブル101の断面図である。
【0072】
本実施形態に係る多芯ケーブル101は、2本の電力線10と、2本の信号線21からなる1本の対撚信号線20と、2本の電線31からなる1本の対撚電線30と、2本の電線61からなる1本の第二対撚電線60と、2本の電線71からなる1本の第三対撚電線70と、を有している。これら、2本の電力線10と、1本の対撚信号線20と、1本の対撚電線30と、1本の第二対撚電線60と、1本の第三対撚電線70と、は一列に並列されて外被40で覆われている。この断面において、短軸方向の寸法L1に対する長軸方向の寸法L2の比(L2/L1)は、1.8以下である。図示した例では、比L2/L1は4.6である。比L2/L1は7以下とすることができる。
【0073】
第二対撚電線60は2本の電線61が2本一組で撚り合わされて構成されている。これら2本の電線61はそれぞれ、第一導体12より細い第四導体62と、第四導体62を覆う第四絶縁層63と、を含んでいる。これら2本の電線61は、互いに大きさおよび材料が同じである。
【0074】
第三対撚電線70は2本の電線71が2本一組で撚り合わされて構成されている。これら2本の電線71はそれぞれ、第一導体12より細い第五導体72と、第五導体72を覆う第五絶縁層73と、を含んでいる。これら2本の電線71は、互いに大きさおよび材料が同じである。
【0075】
電力線10は、例えば、電動パーキングブレーキのモータとECUとを接続するために用いることができる。対撚信号線20は、例えば、ABSの配線に用いることができる。対撚電線30は、例えば、ダンパー制御システムの配線に用いることができる。第二対撚電線60と第三対撚電線70は、例えば、車載ネットワークの配線に用いることができる。
【0076】
本実施形態においても、電力線10は、1本の中心撚線14と、その周囲に配置された6本の周囲撚線15とが撚り合わされて構成されている。中心撚線14の素線16は、周囲撚線15の素線17よりも細い。このため、耐屈曲性の低下を抑制しつつ、コストが低減されている。
【0077】
上述した第一実施形態および第二実施形態では1本の中心撚線と6本の周囲撚線で第一導体を構成した例を説明したが、本発明はこれに限られない。中心撚線を構成する素線の本数や周囲撚線を構成する素線の本数は限定されない。
【0078】
なお、第一導体の撚り構成は特に限定されないが、上述した第一実施形態および第二実施形態で説明した1本の中心撚線と6本の周囲撚線で第一導体を構成すると、撚り構造が安定して維持しやすいので好ましい。
【0079】
また、上述した実施形態では、本発明の被覆電線を電力線10,10Aに適用した例を説明したが、信号線21、電線31,61,71などに適用してもよい。多芯ケーブルを構成する全ての電線に本発明の被覆電線を適用してもよいし、多芯ケーブルを構成する電線の一部に本発明の被覆電線を適用してもよい。
【0080】
<実施例>
次に、下記の表1のように、実施例1、実施例2、および比較例1に係る電力線を作製し、その耐屈曲性を評価した。いずれの電力線も、中心に位置する1本の中心撚線と、中心撚線の周囲に設けられた6本の周囲撚線とを撚り合わせて構成した。
【0081】
(実施例1)
直径0.10mmの錫銅合金からなる素線を46本撚り合わせて、直径が0.8mmの中心撚線を作製した。直径0.08mmの銅合金線を72本撚り合わせて、直径が0.8mmの周囲撚線を作製した。1本の中心撚線を中心にして6本の周囲撚線を撚り合わせ、第一導体を作製した。この第一導体を、厚み0.3mmで第一絶縁層としてエチレン−エチルアクリート共重合体(EEA)で被覆し、実施例1の電力線を作製した。
【0082】
(実施例2)
直径0.10mmの錫銅合金からなる素線を46本撚り合わせて、直径が0.8mmの中心撚線を作製した。直径0.08mmの銅合金線を72本撚り合わせて、直径が0.8mmの周囲撚線を作製した。1本の中心撚線を中心にして6本の周囲撚線を撚り合わせ、第一導体を作製した。この第一導体を、厚み0.3mmで第一絶縁層として架橋難燃ポリエチレンで被覆し、実施例2の電力線を作製した。
【0083】
(比較例1)
直径0.08mmの錫銅合金からなる素線を72本撚り合わせて、直径が0.8mmの中心撚線および周囲撚線を作製した。1本の中心撚線を中心にして6本の周囲撚線を撚り合わせ、第一導体を作製した。この第一導体を、厚み0.3mmで第一絶縁層としてEEAで被覆し、比較例1の電力線を作製した。
【0085】
(繰り返し曲げ試験)
ISO 14572:2011(E)5.9に規定される繰り返し曲げ試験に従って電力線の耐屈曲性を評価した。この繰り返し曲げ試験においては、電力線に−90°から+90°となるような曲げを繰り返し作用させた。100,000回曲げた後の電力線の初期抵抗値からの抵抗値の減少量が5%以上であった場合は、電力線が切れたものと判断した。初期抵抗値からの電力線の抵抗値の減少量が5%未満であった場合を合格とした。さらに、150,000回曲げた後も初期抵抗値からの抵抗値の減少量が5%未満であった場合を優秀とした。
上記実施例1,2の電力線は合格であった。特に実施例1の電力線は優秀であった。しかし、比較例1の電力線は、不合格であった。
【0086】
(U字曲げ試験)
公益社団法人 日本自動車技術会の定める自動車規格JASO C467-97 7.16 センサーハーネス屈曲試験に従って評価した。この試験においては、電力線に直線状からU字状になるような曲げを繰り返し作用させた。−30°で300,000回曲げた後、続いて、常温で700,000回曲げた。試験後に、割れやヒビなどの外観の異常がなく、かつ、初期抵抗値からの抵抗値の減少量が5%未満であった場合を合格とした。さらに、−30°で300,000回曲げた後、続いて、常温で1,200,000回曲げた後も割れやヒビなどの外観の異常がなく、かつ、初期抵抗値からの抵抗値の減少量が5%未満であった場合を優秀とした。
上記実施例1,2の電力線は、合格であった。特に、実施例1の電力線は、優秀であった。しかし、比較例1の電力線は、不合格であった。