(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記介入検出部による検出結果が介入から非介入に切り替わったときに前記操舵力補正部が前記補正指令を平滑化する際の平滑化周波数は、前記追従制御部による追従制御の応答周波数よりも低い低周波数である、請求項1又は請求項2に記載の車両の運転支援装置。
前記介入検出部による検出結果が非介入から介入に切り替わったときに前記操舵力補正部が前記補正指令を平滑化する際の平滑化周波数は、前記追従制御部による追従制御の応答周波数よりも高い高周波数である、請求項1に記載の車両の運転支援装置。
前記操舵力補正部は、前記介入検出部にて運転者による介入が検出されたときの前記加算値、前記追従指令、及び、前記モータに流れる電流値、の少なくとも一つを用いて、前記補正指令を生成するよう構成されている、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の車両の運転支援装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
本実施形態の運転支援装置2は、電動パワーステアリングシステム4を利用して、運転者によるステアリング操作をアシストするアシスト制御と、走行レーンに沿って車両を自動走行(自動操舵)させる追従制御とを実行するものである。
【0024】
電動パワーステアリングシステム4は、車両操舵用のラック6と、ラック6を軸方向に変位させるためのモータ10を備える。
ラック6は、軸方向に変位することで、左右の操舵輪(一般に前輪)8L,8Rの向き(舵角)を変える周知のものである。
【0025】
モータ10は、アシスト制御に基づくアシストトルクや、追従制御に基づく自動操舵トルクを発生するためのものであり、回転軸が図示しない減速機及びピニオンギヤを介してラック6に接続されている。このため、モータ10の回転により、ラック6を軸方向に変位させて、車両操舵のためのトルクを発生させることができる。
【0026】
また、ラック6には、モータ10により回転駆動されるピニオンギヤとは別に、運転者のステアリング操作によって回転するピニオンギヤ9が接続されている。
このピニオンギヤ9は、運転者により操作(ステアリング操作)されるステアリングホイール12に、ステアリングコラム14、インターミディエイトシャフト16、及び、トーションバー18を介して接続されている。このため、ラック6は、運転者のステアリング操作によっても、軸方向に変位可能である。
【0027】
次に、トーションバー18には、トーションバー18の捩れ量から、運転者のステアリング操作によって発生する操舵トルクTsを検出する操舵トルク検出部20が設けられている。
【0028】
また、モータ10には、操舵輪8L,8Rの舵角に対応する、モータ10の回転角θ(換言すれば回転位置)、及び、モータ10の回転角速度ωを検出するための回転角検出部22及び回転角速度検出部24が設けられている。
【0029】
また、車両には、その走行速度である車速Vを検出するための車速検出部26や、車両を走行レーンに沿って自動走行させる際の目標角度θsを設定する目標角度設定部28が設けられている。
【0030】
本実施形態では、目標角度設定部28は、レーンキープ制御用の電子制御ユニットであるLKP−ECUにて構成されている。
LKP−ECUは、車載カメラによって撮像された車両前方の画像から、走行レーンや走行レーンにおける自車両の位置を検出し、その検出結果に基づいて目標コースを設定する。そして、車速Vやモータ10の回転角θの検出値等に基づいて、目標コースに沿って車両を走行させるための回転角θの目標値である目標角度θsを設定する。
【0031】
なお、このように目標角度θsを設定する手順は、レーンキープ制御において周知のものであるため、ここでは説明を省略する。
次に、操舵トルク検出部20、回転角検出部22、回転角速度検出部24、車速検出部26、及び、目標角度設定部28は、電動パワーステアリング用の電子制御ユニットであるEPS−ECU30に接続されている。
【0032】
EPS−ECU30は、図示しない車載バッテリから電力供給を受けて動作し、上記各部にて検出若しくは設定された操舵トルクTs、回転角θ、回転角速度ω、車速V、及び、目標角度θsに基づき、モータ10を駆動制御する。
【0033】
すなわち、EPS−ECU30は、CPU、ROM、RAM等を含むマイクロコンピュータにて構成される演算部32と、モータ駆動部としてのモータ駆動回路34とを備える。
【0034】
演算部32は、CPUがROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、
図1に示すアシスト制御部40、追従制御部42、介入検出部44、追従制限部46、操舵力補正部48、及び、加算部50,52として機能する。そして、加算部52にて算出された電流指令値CCが、モータ駆動回路34に入力される。
【0035】
モータ駆動回路34は、加算部52からの電流指令値CCを目標電流値として、モータ10に流れる実電流値が目標電流値となるようにモータ10への通電を制御することで、車両の操舵系(詳しくはラック6)にアシストトルクや自動操舵トルクを発生させる。
【0036】
なお、演算部32は、追従制御(レーンキープ制御)に必要な応答性を確保するために、制御プログラムを所定周期(例えば数百us〜数百ms)で実行し、この周期で電流指令値CCを更新する。
【0037】
但し、演算部32にて実現される上記各部は、必ずしもソフトウェアで実現する必要はなく、これらの少なくとも一部を、例えばロジック回路等のハードウェアで実現するようにしてもよい。
【0038】
ここで、アシスト制御部40は、操舵トルクTs、モータ回転角速度ω、車速Vに基づき、路面反力(路面負荷)に応じた伝達感や、操舵状態に応じたフィールが実現されるようにアシストトルクを発生させるためのアシスト指令ACを生成する。
【0039】
具体的には、アシスト制御部40は、例えば、操舵トルクTs及び車速Vに基づき路面反力に応じた伝達感を得るための基本アシスト量を演算し、操舵トルクTs及び回転角速度ωに応じて操舵状態に応じたアシスト補償量を演算する。そして、そのアシスト補償量に、車速Vに応じたゲインを乗じたものを基本アシスト量に加算することで、アシスト指令ACを生成する。
【0040】
なお、アシスト指令ACは、モータ10への通電によりアシストトルクを発生させるための電流指令値であるが、その演算方法は、これに限るものではなく、公知の任意の手法を使用することが可能である。
【0041】
次に、介入検出部44は、追従制御部42による追従制御実行中に運転者がステアリング操作して追従制御に介入したこと(以下、ドライバ介入ともいう)を検出するためのものであり、ドライバ介入を検出するとDORフラグをセットする。なお、DORフラグは、ドライバ介入が検出されていないときにはクリアされる。
【0042】
具体的には、介入検出部44は、例えば、操舵トルク検出部20から操舵トルクTsを読み込み、この操舵トルクTsが閾値以上になったときに、ドライバ介入があったと判断して、DORフラグをセットする。
【0043】
また、追従制限部46は、例えば、DORフラグがセットされているとき(換言すればドライバ介入時)の操舵トルクTsに基づき、ドライバ介入の程度を表す介入係数αを算出し、追従制御部42に出力することで、追従制御部42による追従制御を制限する。
【0044】
なお、介入係数αの算出には、例えば特許文献1に記載のものと同様、操舵トルクTsが閾値未満であるとき介入係数αが1となり、操舵トルクTsが閾値以上であるとき、操舵トルクTsが大きいほど介入係数αが小さくなるように設定された変換テーブルが利用される。但し、この算出方法についても、これに限るものではなく、特許文献1に記載の他の方法等、任意の手法を使用することができる。
【0045】
次に、追従制御部42は、目標角度θsとモータ回転角(以下、実角度ともいう)θとに基づき、実角度θを目標角度θsに追従させるのに必要な自動操舵トルクを発生させるための電流指令値である追従指令TCを生成する。
【0046】
また、追従制御部42は、追従指令TCを生成する際、追従指令TCの上限をモータ10の定格電流以下に制限する。そして、本実施形態では、定格電流に対し、追従制限部46にて設定された介入係数αを乗じることで、ドライバ介入中の追従指令TCの上限を、定格電流よりも低い電流値に制限する。
【0047】
この結果、追従制御部42による追従制御の実行中に、運転者がステアリング操作して、追従制御に介入しているとき(ドライバ介入中)には、その介入の程度に応じて、追従制御部42からの追従指令TCが抑制されることになる。
【0048】
従って、追従制御部42にて追従制御が実施されていても、運転者は、ステアリング操作することで、アシスト制御部40にて制御されるアシストトルクを利用して、操舵輪8L,8Rの切り増し若しくは切り戻しを行うことができるようになる。
【0049】
なお、このように介入係数αを利用して追従指令TCを制限する追従制御部42の構成については、特許文献1に詳しく説明されているので、ここでは詳細な説明は省略する。
次に、操舵力補正部48は、介入検出部44にてドライバ介入が検出されたときの舵角を中心として、その中心点から略同じ操舵力で、運転者が左右にステアリングホイール12を操作できるようにするためのものであり、例えば、
図2に示すように構成される。
【0050】
すなわち、操舵力補正部48は、
図2に示すように、介入検出部44にてドライバ介入が検出されていないとき(DORフラグ:クリア)には、セレクタ48Aにて固定値(値0)を選択し、補正電流値を表す補正指令RCとして出力する。なお、この固定値(値0)は、追従指令TC及びアシスト指令ACを補正しない値である。
【0051】
また、操舵力補正部48は、モータ駆動回路34に入力される電流指令値CCを取り込み、出力するセレクタ48Bを有する。セレクタ48Bは、DORフラグがクリアされているときには、電流指令値CCをセレクタ48Aに出力し、DORフラグがセットされると、電流指令値CCの前回値をセレクタ48Aに出力する。
【0052】
このため、DORフラグがセットされているときにセレクタ48Bから出力される電流指令値は、運転者がステアリング操作して追従制御に介入したときの電流指令値となる。
そして、セレクタ48Aは、DORフラグがセットされると、固定値(値0)に代えて、セレクタ48Bからの出力(つまり、ドライバ介入時の電流指令値)を選択し、その電流指令値を、補正電流値を表す補正指令RCとして出力する。
【0053】
また、この補正指令RCは、補正電流値を平滑化するためのローパスフィルタ48Cを介して、加算部50に出力される。
なお、
図2は、操舵力補正部48の機能構成を表すブロック図であり、操舵力補正部48の機能は、CPUが
図3に示す操舵力補正処理を実行することにより実現される。
【0054】
加算部50は、操舵力補正部48からの補正指令RCと追従制御部42からの追従指令TCとを加算することで、追従制御部42から出力される追従制御のための電流指令値を操舵力補正部48からの補正電流値にて補正する。
【0055】
また、加算部52は、加算部50からの出力(TC+RC)とアシスト制御部40からのアシスト指令ACとを加算することで、モータ10を駆動するための電流指令値CCを算出し、モータ駆動回路34に出力する。
【0056】
次に、
図2に示す操舵力補正部48の機能を実現するために演算部32(詳しくはCPU)にて実行される操舵力補正処理を、
図3のフローチャートを用いて説明する。なお、この操舵力補正処理は、演算部32(詳しくはCPU)においてメインルーチンの一つとして繰り返し実行される処理である。
【0057】
図3に示すように、操舵力補正処理では、まずS110(Sはステップを表す)にて、DORフラグ及びモータ駆動回路34への電流指令値CCを読み込む。
次に、S120では、S110にて読み込んだDORフラグがセットされているか否かを判断することにより、現在運転者がステアリング操作することにより追従制御に介入しているか否か、つまり、ドライバ介入中であるか否か、を判断する。
【0058】
S120にて、ドライバ介入中ではないと判断されると、S160に移行して、操舵力補正電流として値0を設定し、S170に移行する。また、S120にて、ドライバ介入中であると判断された場合には、S130に移行して、現在、運転者がステアリング操作を開始した直後であるか否か、つまり、ドライバ介入直後であるか否か、を判断する。
【0059】
S130にてドライバ介入直後であると判断されると、S140に移行して、S110で読み込んだ電流指令値CCを操舵力補正電流として設定し、S170に移行する。また、S130にてドライバ介入直後ではないと判断されると、S150にて、操舵力補正電流として、前回設定した操舵力補正電流をそのまま設定し、S170に移行する。
【0060】
そして、S170では、例えば、上記のように設定された操舵力補正電流を移動平均することで、操舵力補正電流を平滑化する、ローパスフィルタ48Cとしての処理を実行し、操舵力補正処理を一旦終了する。
【0061】
なお、S170にて平滑化された操舵力補正電流は、上述した補正電流値であり、加算部50にて追従指令TCを補正するための補正指令RCとして使用される。
以上説明したように、本実施形態の運転支援装置2によれば、追従制御部42による追従制御実行中に、運転者がステアリング操作して追従制御に介入すると、追従制限部46が介入の程度に応じて介入係数αを設定することで、追従指令TCを制限する。
【0062】
このため、運転者は、追従制御部42にて追従制御が実行されているときにでも、ステアリング操作により追従制御を抑制して、そのステアリング操作とアシスト制御部40からのアシスト指令ACとにより車両を操舵できるようになる。
【0063】
ところで、車両の旋回時等、追従制御部42による追従制御で車両が左方向又は右方向に操舵されている場合には、操舵輪8L,8Rからラック6にセルフアライニングトルク(SAT)が加わる。
【0064】
このため、操舵力補正部48を備えていない従来装置では、
図4Aに示すように、運転者がステアリング操作して舵角を切り増しするときと、切り戻しするときとで、ステアリングホイール12に加わる操舵反力が大きく異なることになる。
【0065】
つまり、
図4Aに示すように、操舵輪8L,8Rの舵角を0度まで切り戻しする場合、運転者はモータ10からラック6に加わるトルクが基準値(0)になるようにステアリング操作することになる。
【0066】
この場合、追従制御部42の出力(追従指令TC)は一時的に増大するものの、ドライバ介入の程度に応じて抑制されることから、その後、徐々に低下する。また、この場合、運転者のステアリングホイール12の操作方向は、SATと同方向となるため、運転者のステアリング操作に対する操舵反力は小さくなる。
【0067】
従って、追従制御によって車両が操舵されているときに、運転者がステアリング操作して舵角を切り戻しする場合には、アシスト指令ACの変化から明らかなように、運転者は小さい操舵トルクTsでステアリング操作することができる。
【0068】
これに対し、運転者がステアリング操作して舵角を切り増しする場合、運転者は、SATとは逆方向にステアリングホイール12を操作する必要があるため、そのステアリング操作に要する操舵トルクTsは大きくなる。また、操舵トルクTsの上昇により、追従制限部46からの介入係数αは「0」近くの極めて小さい値となり、追従制御部42からの出力が抑制される。
【0069】
このため、運転者は、舵角を切り増しする際には、ステアリング操作とこれに伴うアシスト制御によって、ステアリング操作開始前に発生していたSATに切り増しに要するトルクを加えたトルクを発生させる必要がある。
【0070】
従って、追従制御中に舵角を切り増しするには、運転者は、ステアリング操作によって、舵角を切り戻しする場合に比べて極めて大きな操舵トルクTsを発生させる必要がある。
【0071】
これに対し、本実施形態では、
図4Bに示すように、追従制御部42により追従制御が実行されているとき、ドライバ介入(DOR)が発生すると、そのときの電流指令値CCを補正指令RCとして、追従制御部42からの出力に加算する。
【0072】
このため、運転者は、追従制御実行時にステアリング操作した際、その操作方向が左方向であっても、右方向であっても、ドライバ介入時の舵角を中心点(ニュートラルポイント)として、ステアリングホイール12の操作量に応じた操舵反力を受けることになる。
【0073】
従って、本実施形態では、運転者が追従制御中にステアリング操作することにより、
図4Aに示す従来と同様に舵角を切り戻し若しくは切り増しする際には、従来に比べて、切り戻し時の操舵反力を増大させ、切り増し時の操舵反力を低減させることができる。
【0074】
このため、本実施形態によれば、運転者が追従制御中にステアリング操作した際、その操作方向によって操舵反力が大きく異なり、運転者に違和感を与えるのを抑制することができる。
【0075】
また、例えば、追従制御による車両の自動運転中に、運転者がステアリング操作によって舵角を切り増しする場合、従来では、操舵反力が大きくなるため、運転者はステアリング操作開始時の操舵力を大きくしすぎ、舵角を切り増しし過ぎることがある。
【0076】
この場合、運転者は、舵角を戻すようにステアリング操作することになるが、ステアリング操作を戻すと、SATにより所謂舵抜けが発生して操舵力が0になり、舵角を戻しすぎることがある。
【0077】
従って、従来技術では、追従制御中に舵角を切り増しした際、
図5Aに示すように、舵角が所望角度で安定するのに要する時間が長くなり、その間、舵角を維持するのに要する操舵力が大きく変動し、操作性が低下することがある。
【0078】
これに対し、本実施形態では、
図5Bに示すように、切り増し時の操舵反力を小さくすることができるので、運転者は、操舵力の変動の原因となる舵抜けを発生させることなく、舵角を所望角度に速やかに収束させることができるようになる。よって、本実施形態によれば追従制御中に運転者がステアリング操作したときの操作性を改善できる。
【0079】
また、操舵力補正部48は、介入検出部44にてドライバ介入(DOR)が検出されたときに、電流指令値CC(換言すれば加算部52による加算値)を補正指令RCとして設定し、その後、介入が検出されなくなるまで補正指令RCを保持する。また、介入検出部44にて介入が検出されなくなると、補正指令RCを値0に戻すことで、トルク補正を実施しないようにする。
【0080】
このため、追従制御で車両が所定の舵角で自動走行されているときに運転者がステアリング操作した際に、その操作方向によって操舵反力に差が生じるのを抑制できるだけでなく、ステアリング操作終了後は、追従制御に速やかに移行させることができる。
【0081】
また特に、本実施形態では、運転者による追従制御への介入時と非介入時とで補正指令RCを単に切り換えるのではなく、その切り替え時には、ローパスフィルタにて補正電流値を平滑化する。
【0082】
このため、補正指令RCとして電流指令値CCに対応した所定値、若しくは値0に設定された際には、補正指令RCは、その設定された最終値まで徐々に変化することになる。
従って、本実施形態によれば、運転者のステアリング操作によって電流指令値CC(延いては車両の舵角)が急変し、運転者に違和感を与えることも抑制できる。
【0083】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
そこで次に、上記実施形態に対する変形例について説明する。
[第1変形例]
上記実施形態では、操舵力補正部48は、ローパスフィルタ48Cとしての平滑化処理(S170)にて、補正指令RCを平滑化するものとして説明したが、この平滑化処理は、
図6に示すS172〜S176にて実行するようにしてもよい。
【0084】
つまり、
図6に示す操舵力補正処理では、S140〜S160にて操舵力補正電流が設定されると、S172にて、DORフラグに基づき、現在ステアリング操作によるドライバ介入が完了しているか否かを判断する。
【0085】
そして、ドライバ介入が完了していれば(つまり、ドライバ非介入であれば)、S174に移行して、ローパスフィルタ48Cとしての第1平滑化処理を実行し、操舵力補正電流を平滑化する。
【0086】
また、ドライバ介入が完了していなければ(つまり、ドライバ介入中であれば)、S176に移行して、ローパスフィルタ48Cとしての第2平滑化処理を実行し、操舵力補正電流を平滑化する。
【0087】
ここで、S174にて実行される第1平滑化処理での平滑化周波数であるカットオフ周波数fcは、S176にて実行される第2平滑化処理でのカットオフ周波数fc(=fc2)よりも低い周波数fc1に設定されている。
【0088】
この結果、追従制御に対する運転者の介入状態が非介入(自動運転中)から介入(DOR中)に切り替わったときに比べて、介入から非介入に切り替わったときの方が、ローパスフィルタ48Cの時定数が大きくなり、平滑化の度合いが大きくなる。
【0089】
従って、第1変形例では、
図7に示すように、車両が自動運転中からDOR中に切り替わったときには、操舵力補正電流(つまり補正指令RC)が介入検出時の電流指令値CCまで速やかに変化する。また逆に、車両がDOR中から自動運転中に切り替わったときには、操舵力補正電流(つまり補正指令RC)が値0までゆっくりと変化する。
【0090】
よって、第1変形例によれば、ドライバ介入検出後に、補正指令RCがドライバ介入時の電流指令値CCに達するまでに時間がかかり、運転者のステアリング操作の方向によって生じる操舵反力の差を充分低減できなくなるのを抑制できる。
【0091】
また、ドライバ介入が検出されなくなって、補正指令RCを電流指令値CCの補正を行わない値0に戻す際には、補正指令RCをゆっくりと変化させて、電流指令値CC(延いては車両の舵角)の変化によって、運転者に違和感を与えるのを抑制できる。
【0092】
なお、この効果をより有効に発揮できるようにするためには、ドライバ介入時のカットオフ周波数fc2は、追従制御の応答周波数よりも高い高周波数に設定し、ドライバ非介入時のカットオフ周波数fc1は、追従制御の応答周波数よりも低い低周波数に設定するとよい。
[第2変形例]
上記実施形態及び第1変形例では、操舵力補正部48は、操舵力補正処理において、ローパスフィルタ48Cとしての平滑化処理、或いは、第1平滑化処理又は第2平滑化処理、を必ず実行するものとして説明した。
【0093】
しかし、ドライバ介入検出後は、補正指令RCをドライバ介入時の電流指令値CCに速やかに切り換えるようにするため、ローパスフィルタ48Cとしての平滑化処理を実施しないようにしてもよい。
【0094】
つまり、第2変形例では、
図8に例示するように、操舵力補正処理において、S172にてドライバ介入が完了していると判断されたときには、S174の第1平滑化処理を実行し、そうでなければ、第2平滑化処理を実行することなくそのまま処理を終了する。
【0095】
この結果、
図7に点線で示すように、追従制御に対する運転者の介入状態が非介入(自動運転中)から介入(DOR中)に切り替わったときには、操舵力補正電流(つまり補正指令RC)がドライバ介入時の電流指令値CCに速やかに切り換えられることになる。
【0096】
よって、第2変形例によれば、ドライバ介入時に、運転者のステアリング操作の方向によって生じる操舵反力の差をより確実に低減できるようになる。
なお、上記実施形態及び第1,2変形例では、ドライバ介入中でなければ、操舵力補正電流(つまり補正指令RC)を固定値(値0)にするものとして説明した。
【0097】
しかし、補正指令RCは、追従制御実行中に運転者がステアリング操作した際に、その操作方向によって操舵反力に差が生じるのを抑制するためのものであるため、必ずしもドライバ非介入時に固定値(値0)に戻す必要はない。
【0098】
このため、操舵力補正部48は、操舵力補正処理において、
図3、
図6、
図8におけるS110、S130、S140、S150の処理を実行するだけにしてもよい。
そして、このようにしても、追従制御に対する運転者の介入状態が介入(DOR中)から非介入(自動運転中)に切り替わると、追従制御によって舵角が制御されるので、車両を自動走行させることができる。
[第3変形例]
次に、上記実施形態及び第1,第2変形例では、操舵力補正処理において、S130にて現在ドライバ介入直後ではないと判断された際には、S150にて、ドライバ介入直後に設定した操舵力補正電流を保持するようにされている。
【0099】
しかし、
図9に示すように、S130にて現在ドライバ介入直後ではないと判断された際には、S155に移行して、S140にてドライバ介入直後に設定した操舵力補正電流に所定のゲインを乗じることで、操舵力補正電流を設定するようにしてもよい。
【0100】
このようにすれば、S140にてドライバ介入検出時に操舵力補正電流として設定した電流指令値CCを基準値として、その基準値よりも大きい又は小さい電流値を、操舵力補正電流(換言すれば補正電流値RC)として設定することができるようになる。
【0101】
つまり、S155にて操舵力補正電流の基準値に乗じるゲイン(Gain)を1よりも小さい値(Gain<1)にすると、舵角を切り戻しするときよりも、切り増しするときの方が、操舵反力が大きくなる。
【0102】
逆に、S155にて操舵力補正電流の基準値に乗じるゲイン(Gain)を1よりも大きい値(Gain>1)にすると、舵角を切り戻しするときよりも、切り増しするときの方が、操舵反力が小さくなる。
【0103】
従って、第3変形例によれば、操舵力補正電流の基準値に乗じるゲイン(Gain)によって、ドライバ介入時のステアリング操作に対する操舵反力に、舵角の切り戻し時と切り増し時とで所望の差が生じるように調整することができるようになる。
【0104】
なお、この場合、ゲイン(Gain)を1よりも小さい値にすれば、舵角の切り戻し時よりも切り増し時の方が操舵反力が大きくなるので、運転者に対し違和感を与えるのをより良好に抑制できる。
[第4変形例]
次に、上記実施形態及び第1〜第3変形例では、操舵力補正処理において、S130にて現在ドライバ介入直後ではないと判断された際には、S150又はS155にて、ドライバ介入直後に設定した操舵力補正電流に基づき設定される操舵力補正電流を保持する。
【0105】
しかし、S150又はS155の処理は、
図10に例示するように、S130にて現在ドライバ介入直後ではないと判断された後、ドライバ介入時間が所定の閾値時間を超えるまでの間(S135−YES)だけ、実施するようにしてもよい。
【0106】
そして、この場合、ドライバ介入時間が所定の閾値時間を超えたと判断すると(S135−NO)、S165にて、例えば、操舵力補正電流の前回値に値1よりも小さい補正係数を乗じることで、操舵力補正電流を徐々に減少させる。
【0107】
このようにすれば、ドライバ介入期間中、操舵力補正部48から出力される補正指令RCが値0に徐々に近づくので、ステアリング操作の中心点(ニュートラルポイント)が舵角0の中立点に移動することになる。
【0108】
この結果、追従制御による車両の自動運転が解除されて、車両が手動運転される場合に、運転者に違和感を与えるのを抑制できる。つまり、手動運転開始時に補正指令RCが値0になっていないと、舵角0の中立点からの操舵方向によって操舵反力に差が生じることになり、運転者に違和感を与えてしまうことが考えられるが、本第4変形例によれば、こうした問題が発生するのを抑制できる。
【0109】
なお、S165において、操舵力補正電流を徐々に減少させる際には、必ずしも値1よりも小さい補正係数を利用する必要はなく、例えば、ローパスフィルタを用いて操舵力補正電流を値0に収束させるようにする方法等、公知の方法を利用すればよい。
【0110】
またこのように、ドライバ介入期間中に、補正指令RCとしての操舵力補正電流を徐々に減少させる場合、例えば、補正係数を、運転者によるステアリング操作量(換言すれば運転者による介入度合)に応じて設定するようにしてもよい。
【0111】
このようにすれば、操舵力補正電流を、追従制御に対する運転者の介入度合に応じて、徐々に減少させることができる。
[第5変形例]
次に、上記実施形態及び第1〜第4変形例では、操舵力補正処理において、S130にて現在ドライバ介入直後であると判断された際には、S140にて、S110で読み込んだ現在の電流指令値CCを、操舵力補正電流(又はその基準値)として設定する。
【0112】
これに対し、第5変形例では、
図11に示すように、S130にて現在ドライバ介入直後であると判断された際には、S145に移行し、S110にて過去一定期間内に読み込んだ複数の電流指令値CCに基づき、操舵力補正電流(又はその基準値)を設定する。
【0113】
このようにすれば、ドライバ介入開始時に、電流指令値CC(詳しくは追従指令TC)が変化しているときにでも、補正指令RCとして、安定した適正な補正電流値を設定することができるようになる。
【0114】
なお、この場合、S145では、複数の電流指令値CCからなるパラメータ群の平均値を求め、その平均値を操舵力補正電流として設定するようにしてもよい。また、複数の電流指令値CCからなるパラメータ群の中から中間値を選択し、その中間値を操舵力補正電流として設定するようにしてもよい。
[第6変形例]
次に、上記実施形態及び第1〜第5変形例では、操舵力補正部48において、補正指令RCを設定する際には、介入検出部44にてドライバ介入が検出されたときの電流指令値CC(若しくは過去一定期間内の複数の電流指令値)を用いるものとして説明した。
【0115】
これに対し、
図12に示すように、操舵力補正部48には、介入検出部44にてドライバ介入が検出されたときの加算部50からの出力(加算値:RC+TC)を入力し、操舵力補正部48はこの出力に基づき補正指令RCを設定するようにしてもよい。
【0116】
つまり、操舵力補正部48において、加算部50で算出された現在の加算値(RC+TC)を用いて補正指令RCを設定するか、或いは、加算部50にて過去一定期間内に算出された複数の加算値(RC+TC)を用いて補正指令RCを設定するようにしてもよい。
【0117】
そして、このようにしても、介入検出部44にてドライバ介入が検出されたときの加算値(若しくは過去一定期間内の複数の加算値)は、補正指令RC=0のときに算出された値であるので、上記実施形態若しくは第1〜第5変形例と同様の効果を得ることができる。
[第7変形例]
また、
図13に示すように、モータ駆動回路34からモータ10に流れる電流値IMを検出して、操舵力補正部48に入力することで、操舵力補正部48が、その電流値IMに基づき、補正指令RCとしての補正電流値を設定するようにしてもよい。
【0118】
この場合、操舵力補正部48では、ドライバ介入が検出されたときにモータ10に流れている電流値IMを用いて補正指令RCを設定するか、或いは、ドライバ介入が検出されるまでの過去一定期間内に検出された複数の電流値IMを用いて補正指令RCを設定するようにすればよい。
【0119】
そして、このようにしても、モータ10に流れる電流値IMは、電流指令値CCに対応しているので、上記実施形態若しくは第1〜第6変形例と同様の効果を得ることができる。
【0120】
なお、操舵力補正部48において、補正指令RCを設定する際には、上述した一つのパラメータ(電流指令値CC、加算値(TC+RC)、電流値IM)を用いる必要はなく、これらのパラメータを組み合わせて用いるようにしてもよい。
[第8変形例]
一方、上記実施形態及び第1〜第7変形例では、ドライバ介入時の制御出力である電流指令値CC、若しくは、その電流指令値CCに対応した追従指令TCや電流値IMに基づき、補正指令RCとしての補正電流値を設定するようにしている。
【0121】
これに対し、補正指令RCとして補正電流値は、追従制御の目標値である目標角度θsに基づき設定することもできる。
つまり、追従制御では、操舵輪8L,8Rの舵角が目標角度θsに対応した目標舵角に制御される。そして、ドライバ介入時の操作方向によって操舵反力に差が生じる原因となるSATは、次式のように記述でき、目標角度θsに対応した舵角δrと、車速Vと、ヨーレートγとが判れば推定できる。
【0122】
SAT=Yf(εc+εn)
=−Kf・βf(εc+εn)
=−εKf(β+(Lf/V)・γ−δr)
但し、Yf:操舵輪のコーナリングフォース、εc:キャスタトレール、εn:ニューマチックトレール、Kf:操舵輪のコーナリングパワー、βf:操舵輪のタイヤの滑り角、β:車両の滑り角、Lf:操舵輪重心間距離、V:車速、γ:ヨーレート、δr:操舵輪の舵角、である。
【0123】
そこで、第8変形例では、
図14に示すように、ヨーレート検出部29を設け、操舵力補正部48には、ヨーレート検出部29にて検出されたヨーレートγと、目標角度設定部28にて設定された目標角度θsと、車速検出部26にて検出された車速Vを入力する。
【0124】
そして、操舵力補正部48においては、ドライバ介入直後に、上述したS140の処理に代えて、
図15に示す補正指令演算処理を実行することで、SATを推定し、その推定結果に基づき、補正指令RCを設定する。
【0125】
具体的には、
図15に示す補正指令演算処理では、まずS210にて、ヨーレートγ、目標角度θs、及び、車速Vを読み込む。
次に、S220では、S210で読み込んだ目標角度θsを舵角δrに変換し、その舵角δrとヨーレートγと車速Vとに基づき、上記演算式に従いSATを推定する。
【0126】
そして最後に、S230にて、上記のように推定したSATに予め設定された変換定数を乗じることで、SATから、補正指令RCとしての補正電流値を算出する。
このように、追従制御の目標値である目標角度θsからSATを推定して、補正指令RCを設定するようにしても、上記実施形態若しくは第1〜第7変形例と同様の効果を得ることができる。
[他の変形例]
第8変形例のようにSATに基づき補正指令RCを設定する場合、SATは、必ずしも追従制御の目標値である目標角度θsから推定する必要はない。
【0127】
例えば、モータ10の回転角θからから舵角δrを求めて、SATを推定するようにしてもよい。
また、SATの推定方法としては、各種方法が提案されているため、操舵力補正部48においては、その提案された公知技術を利用して、SATを推定するようにしてもよい。
【0128】
例えば、特開2009−96265号公報には、SATに対応する外乱負荷を推定する負荷外乱オブザーバが開示されているが、この負荷外乱オブザーバを用いて、SATを推定するようにしてもよい。
【0129】
なお、この公報に開示された負荷外乱オブザーバは、操舵トルクTsに対応するトーショントルクと、モータ10の回転角θと、アシストトルクとに基づき外乱負荷を推定するが、本開示では、追従制御実行中にSATを推定する必要がある。
【0130】
このため、本開示では、負荷外乱オブザーバにおいて、アシストトルクに代えて、アシストトルクに自動操舵トルクを加えたトルクを利用し、SATを推定するようにするとよい。
【0131】
また、本開示では、ドライバ介入直後には、アシストトルクは発生していないとも考えられるので、負荷外乱オブザーバにおいて、アシストトルクに代えて自動操舵トルクを利用し、SATを推定するようにしてもよい。
【0132】
次に、上記実施形態では、追従制限部46は、ドライバ介入時に介入係数αを設定し、この介入係数αにより追従制御部42にて生成される追従指令TCの上限を制限することで、追従制御を抑制するものとして説明した。
【0133】
しかし、追従制限部46は、ドライバ介入時に、追従制御部42から出力される追従指令TC(換言すれば電流指令値)を抑制できればよく、他の方法で追従指令TCを低減するようにしてもよい。
【0134】
また、上記実施形態では、目標角度設定部28は、モータ10の回転角θの目標角度θsを設定し、追従制御部42は、モータ10の回転角θが目標角度θsとなるように追従制御(所謂フィードバック制御)するものとして説明した。
【0135】
しかし、追従制御は、例えば、モータ10の回転角θや回転角速度ωに、モータ10とピニオンギヤとの間の減速機のギア比を乗じることで求められる操舵角や操舵角速度を用いて、これらパラメータが目標値となるように制御するようにされていてもよい。
【0136】
また、上記実施形態では、追従制御として、レーンキープ制御を行う場合を例にとり説明したが、例えば、モータ回転角度、ステアリング回転角度、ヨーレートセンサ、タイヤ転舵角と目標値との偏差、カメラ,レーザレーダ,ミリ波レーダ等によって得られる目標位置との横変位、GPS等によって得られる目標軌跡との偏差、道路形状によって得られる曲率との偏差に基づいて自動操舵トルクを発生させる制御であればよい。
【0137】
上記実施形態では、操舵トルク検出部20にて検出された操舵トルクに基づいて運転者による介入を検出しているが、介入検出はこれに限定されるものではなく、周知の操舵介入検出(判定)方法を用いることができる。例えば、目標追従制御における目標値と検出値との偏差や、その偏差とモータ回転角速度やトルクセンサの出力との組合せ等から運転者の介入を検出するようにしてもよい。
【0138】
また、上記実施形態及び変形例における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。