特許第6617694号(P6617694)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧
特許6617694植物体におけるゲノムシャッフリングのためのポリペプチド及びその利用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6617694
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】植物体におけるゲノムシャッフリングのためのポリペプチド及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20191202BHJP
   C07K 14/415 20060101ALI20191202BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20191202BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20191202BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20191202BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20191202BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20191202BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   C07K19/00ZNA
   C07K14/415
   C12N9/16 A
   C12N15/62 Z
   C12N15/29
   C12N15/55
   A01H5/00 A
   A01H1/00 A
【請求項の数】12
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-240714(P2016-240714)
(22)【出願日】2016年12月12日
(65)【公開番号】特開2018-93779(P2018-93779A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2018年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村本 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 倫子
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀典
(72)【発明者】
【氏名】与語 律子
(72)【発明者】
【氏名】杉本 広樹
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−261122(JP,A)
【文献】 特開2011−160798(JP,A)
【文献】 特開2006−141322(JP,A)
【文献】 特開平4−229182(JP,A)
【文献】 Nat. Commun., Published 16 Nov 2016, Vol. 7, 13274
【文献】 Nat. Biotechnol., 2015, Vol. 33, No. 10, pp. 1162-1164
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
A01H 1/00
A01H 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA二本鎖切断活性を有する第1のポリペプチド領域と、
組織間移動活性を有する第2のポリペプチド領域と、
を備える、ポリペプチド。
【請求項2】
前記組織間移動活性は、生殖組織若しくは器官又はその前駆組織若しくは器官を移動先とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記第2のポリペプチド領域は、フロリゲンタンパク質の前記組織間移動活性を有するポリペプチドを有している、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記フロリゲンタンパク質は、アブラナ科植物由来である、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記アブラナ科植物は、シロイヌナズナである、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記第1のポリペプチド領域は、多頻度制限酵素活性を有している、請求項1〜5のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリペプチドを含む、ゲノムシャッフリング剤。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8に記載のポリヌクレオチドを含む、ゲノムシャッフリング剤。
【請求項10】
請求項8に記載のポリヌクレオチドを備える、発現ベクター。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリペプチド又は当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを有する、植物体。
【請求項12】
植物体におけるゲノムシャッフリング方法であって、
請求項1〜6のいずれかに記載のポリペプチドを植物体に導入して、前記組織間移動活性と前記DNA二本鎖切断活性とを、前記植物体内で作用させる工程を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、植物体におけるゲノムシャッフリングのためのポリペプチド及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
植物のバイオマスを増加させることは、食糧の増産のみならず、地球環境保全、温暖化防止、温室効果ガス排出低減の効果がある。従って、植物バイオマスを増産させる技術は産業上の重要性が高い。
【0003】
植物の生産性やストレス耐性の向上に関する特性は、単一遺伝子ではなく多数の遺伝子発現の影響を受ける量的形質である。従来これらの多数の遺伝子の影響下にある形質の改変には、何世代にもわたる繰り返し変異導入がなされてきた。しかしながら、通常の塩基置換や欠失の誘導においては一回の変異処理における形質変化が小さく、多数の形質を同時に扱うことは難しい。また、有用変異と同時に多数の不要な変異が蓄積し、必要な形質を喪失する場合も多いことが知られている。そこで、多数の遺伝子により制御される形質を改変するためには、ゲノム間の大規模な再編成を効率的に実施できる方法の開発が要望されている。実際に植物や真菌細胞において、制限酵素を生物内で発現させて、ゲノムDNAにおける遺伝的組換えを人為的に誘発して、種々の変異体を取得する方法が報告されている(特許文献1、2及び3)。これらの技術によれば、植物細胞や真菌細胞でいわゆるゲノムシャッフリングを人為的に誘発することによってゲノムDNAの再編成を経た変異体を効率良く取得することができる。
【0004】
ここで、植物の花成に関連するタンパク質として、フロリゲンタンパク質が知られている。フロリゲンタンパク質とGFPタンパク質やT7タグを融合させたタンパク質を利用したフロリゲンタンパク質の機能解析は知られているが、その他の報告例はない(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4158920号公報
【特許文献2】特開2011−160798号公報
【特許文献3】特開2012−44883号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Notaguchi, M.ら、Plant Cell Physiol., 49, 1645-165J.C.
【非特許文献2】Corbesier, L.ら、Science, 316, 1030-1033J.C.
【非特許文献3】Tamaki, S.ら、Science, 316, 1033-1036.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既述の特許文献に開示される技術は、例えば、TaqI遺伝子などの多頻度制限酵素遺伝子を植物細胞内に導入し一過的に活性化しゲノムに作用させていた。しかしながら、本来的には、生体内で制限酵素を作用させることはゲノムシャッフリングによるDNAの変異を誘発すると同時にその作用は細胞の生存を脅かすものである。そのために、生物体における制限酵素の細胞の生存に対する影響を低減することが望まれる。
【0008】
本明細書は、有用な次世代植物体を創出するのに適したゲノムシャッフリング技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)DNA二本鎖切断活性のための第1のポリペプチド領域と、
組織間移動活性のための第2のポリペプチド領域と、
を備える、ポリペプチド。
(2)前記組織間移動活性は、生殖組織若しくは器官又はその前駆組織若しくは器官を移動先とする、(1)に記載のポリペプチド。
(3)前記第2のポリペプチド領域は、フロリゲンタンパク質の前記組織間移動活性のためのポリペプチドを有している、(2)に記載のポリペプチド。
(4)前記フロリゲンタンパク質は、アブラナ科植物由来である、(3)に記載のポリペプチド。
(5)前記アブラナ科植物は、シロイヌナズナである、(4)に記載のポリペプチド。
(6)前記第1のポリペプチド領域は、多頻度制限酵素活性を有している、(1)〜(5)のいずれかに記載のポリペプチド。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載のポリペプチドを含む、ゲノムシャッフリング剤。
(8)(1)〜(6)のいずれかに記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(9)(8)に記載のポリヌクレオチドを含む、ゲノムシャッフリング剤。
(10)(8)に記載のポリヌクレオチドを備える、発現ベクター。
(11)(1)〜(6)のいずれかに記載のポリペプチド又は当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを有する、植物体。
(12)植物体におけるゲノムシャッフリング方法であって、
請求項1〜6のいずれかに記載のポリペプチドを植物体に導入して、前記組織間移動活性と前記DNA二本鎖切断活性とを、前記植物体内で作用させる工程を備える、方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1-1】シロイヌナズナのFTタンパク質及びイネのHD3aタンパク質に基づいて取得されるフロリゲンタンパク質のアミノ酸配列と相同性の高いアミノ酸配列をBLASTにより取得し、これらのアミノ酸配列を、GENETYX ver12.0.1ソフトウェアのMUSLEアライメントのデフォルトで相同性解析した結果を示す図の一部であって、各種アミノ酸配列の起源植物とその番号とを示す図である。
図1-2】シロイヌナズナのFTタンパク質及びイネのHD3aタンパク質に基づいて取得されるフロリゲンタンパク質のアミノ酸配列と相同性の高いアミノ酸配列をBLASTにより取得し、これらのアミノ酸配列を、GENETYX ver12.0.1ソフトウェアのMUSLEアライメントのデフォルトで相同性解析した結果の一部を示す図ある。
図1-3】図1−2のアライメント結果の他の一部を示す図である。
図1-4】図1−2のアライメント結果の他の一部を示す図である。
図1-5】図1−2のアライメント結果の他の一部を示す図である。
図2図1に示す各種アミノ酸配列についてのBLAST解析結果(同一性及び類似性)を示す図である。
図3】(A)コントロール株(1406株)と1406株/pBI 35SΩ: FT-TaqI の表現型を示す図である。コントロール株 (1406 株) と 1406株/ pBI 35SΩ: FT-TaqIの開花時期を測定するため、開花するまでに要した日数(B)と開花時のロゼット葉の枚数(C)で測定した.なお、第一花茎が10mmに達した時点で開花したと定義した。すべての値は平均値 ±S.E. 各バーグラフ上の異なるアルファベットは一元配置分散分析解析 (one-way ANOVA) 後、Tukey-Kramer 法により有意差があったことを示している (p< 0.01)。
図4】nle変異株の表現型を示す図である。
図5】nle変異株のタイリングアレイ解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書は、植物体におけるゲノムシャッフリング技術に関する。組織間移動活性とDNA二本鎖切断活性とを備えるポリペプチド(以下、本ポリペプチドともいう。)は、その組織間移動活性に基づき、植物体の組織を移動することができる。また、本ポリペプチドは、DNA二本鎖切断活性を備えており、移動先の組織においてDNA二本鎖切断活性を作用させることができる。このため、本ポリペプチドによれば、意図した組織でDNA二本鎖切断活性を作用させることが可能となる。こうした組織特異的なDNA二本鎖切断活性の発現により、植物体への生存や生長への影響を低減してゲノムシャッフリング効率を向上させることができる。
【0012】
本ポリペプチドは、植物体に対して一過的に適用するのに好適である。一過的な適用により、植物体への障害性を低減してゲノムシャッフリング効率を向上させることができる。また、本ポリペプチドを植物体に対して一過的に適用することにより、ゲノムシャッフリングされていても制限酵素などの遺伝子が導入されていない植物体を取得できる。
【0013】
本ポリペプチドは、有性生殖又は無性生殖のための組織以外の組織に適用するのに好適である。本ポリペプチドが備える組織間移動活性が、有性生殖又は無性生殖組織を標的とする組織間移動活性を有していれば、生殖組織で本ポリペプチドを遺伝子発現させたり、生殖組織に本ポリペプチドを直接導入する必要がないからである。
【0014】
以下、本ポリペプチド及びその利用についての各種実施形態について説明する。本明細書において、植物体とは、特に限定するものではないが、例えば、例えば、アブラナ科、ナス科、マメ科、ヤナギ科、フトモモ科等に属する双子葉植物のほか、イネ科、ヤシ科等に属する単子葉植物単子葉植物(下記参照)の一部が挙げられる。
【0015】
アブラナ科:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、アブラナ(Brassica rapa、Brassica napus)、キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)、ハクサイ(Brassica rapa var. pekinensis)、チンゲンサイ(Brassica rapa var. chinensis)、カブ(Brassica rapa var. rapa L.)、ノザワナ(Brassica rapa var. hakabura)、ミズナ(Brassica rapa var. lanciniifolia)、コマツナ(Brassica rapa var. perviridis)、、ダイコン(Raphanus sativus)、ワサビ(Wasabia japonica)など。
ナス科:タバコ(Nicotiana tabacum)、ナス(Solanum melongena)、ジャガイモ(Solaneum tuberosum)、トマト(Lycopersicon lycopersicum)、トウガラシ(Capsicum annuum)、ペチュニア(Petunia)など。
マメ科:ダイズ(Glycine max)、エンドウ(Pisum sativum L.)、ソラマメ(Vicia faba)、フジ(Wisteria floribunda)、ラッカセイ(Arachis hypogaea)、ミヤコグサ(Lotus corniculatus var. japonicus)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)、アズキ(Vigna angularis)、アカシア(Acacia)など。
キク科:キク(Chrysanthemum morifolium)、ヒマワリ(Helianthus annuus)など。
ヤシ科:アブラヤシ(Elaeis guineensis、Elaeis oleifera)、ココヤシ(Cocos nucifera)、ナツメヤシ(Phoenix dactylifera)、ロウヤシ(Copernicia)など。
ウルシ科:ハゼノキ(Rhus succedanea)、カシューナットノキ(Anacardium occidentale)、ウルシ(Toxicodendron vernicifluum)、マンゴー(Mangifera indica)、ピスタチオ(Pistacia vera)など。
ウリ科:カボチャ(Cucurbita maxima、Cucurbita moschata、Cucurbita pepo)、キュウリ(Cucumis sativus)、カラスウリ(Trichosanthes cucumeroides)、ヒョウタン(Lagenaria siceraria var. gourda)など。
バラ科:アーモンド(Amygdalus communis)、バラ(Rosa)、イチゴ(Fragaria)、サクラ(Prunus)、リンゴ(Malus pumila var. domestica)など。
ナデシコ科:カーネーション(Dianthus caryophyllus)など。
ヤナギ科:ポプラ(Populus trichocarpa、Populus nigra、Populus tremula)など。
イネ科:トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、コムギ(Triticum aestivum)、タケ(Phyllostachys)、サトウキビ(Saccharum officinarum)、ネピアグラス(Pennisetum purpureum)、エリアンサス(Erianthus ravennae)、ミスキャンタス(ススキ)(Miscanthus variegatum)、ソルガム(Sorghum)スイッチグラス(Panicum)など。
ユリ科:チューリップ(Tulipa)、ユリ(Lilium)など。
フトモモ科:ユーカリ(Eucalyptus camaldulensis、Eucalyptus grandis)など。
【0016】
植物体としては、植物に由来するものであればよく、植物体の幼苗を含む、個体としての器官又はその前駆体を備えた実生や幼苗などの完全ないしおおよそ完全な植物体、植物細胞、カルスのほか、種子、幼苗、花蕾、葉、茎、枝、根、茎頂、側芽、花芽、花粉、子房、胚乳及び胚などの個体の一部、などいずれの形態であってもよい。接ぎ木に用いる台木・穂木、挿し木に用いる挿し穂・差し葉、取り木に用いる取り木、根茎、根、葉、球根、ランナー、むかごなどの各種栄養生殖用植物体であってもよい。
【0017】
本明細書において「ゲノム」とは、真核細胞において染色体DNAのほか、ミトコンドリアDNA又はプラスチドDNAとして存在するDNAをいう。
【0018】
本明細書においてゲノムの変異とは、ゲノムDNAにおける塩基置換、欠失、挿入、付加、転座、逆位及び新規染色体の創出並びにこれらの変異のいずれかに起因するエピジェネティクス変異を包含する。
【0019】
(ポリペプチド)
本明細書に開示される本ポリペプチドは、組織間移動活性と、DNA二本鎖切断活性と、を備えることができる。
【0020】
(DNA二本鎖切断活性)
本ポリペプチドが有するDNA二本鎖切断活性は、DNA二本鎖切断酵素を規定するポリペプチドに基づくことができる。すなわち、公知のDNA二本鎖切断酵素を規定するポリペプチドから適宜選択し、かかるポリペプチドを、本ポリペプチドの一部に、例えば、第1のポリペプチド領域、すなわち、DNA二本鎖切断活性のためのポリペプチド領域として備えることができる。
【0021】
(第1のポリペプチド領域;DNA二本鎖切断活性のためのポリペプチド領域)
第1のポリペプチド領域としては、DNA二本鎖切断酵素のポリペプチド又はその活性に寄与する部分ポリペプチドを適用することができる。こうしたDNA二本鎖切断酵素としては、公知のいわゆる制限酵素を用いることができる。制限酵素は、その認識部位、至適温度、アミノ酸残基数等を適宜考慮して選択することができる。
【0022】
第1のポリペプチド領域に適用する、制限酵素が有する切断部位(認識部位)は特に限定するものではない。遺伝的組換えの効率の観点からは、DNA二本鎖上の、例えば、4塩基〜6塩基程度を認識部位とする、いわゆる多頻度制限酵素と称されるDNA二本鎖切断酵素を用いることができる。
【0023】
例えば、4塩基又は5塩基の認識部位とする制限酵素を用いることができる。また例えば、4塩基の認識部位とする制限酵素を用いることができる。
【0024】
認識部位の観点からは、特に限定されないが、例えば、ApeKI、BsrI、BssKI、BstNI、BstUI、BtsCI、FatI、FauI、HinP1I、PhoI、PspGI、SmlI、TaqI、TfiI、TseI、Tsp45I、TspRIが挙げられる。また、Sse9I、MseI、DpnI及びCviAII等などの公知の各種の多頻度制限酵素を挙げることができる。
【0025】
第1のポリペプチド領域に適用する、制限酵素の至適温度も特に限定するものではない。例えば、好熱菌由来の制限酵素を用いることができる。好熱菌は、至適生育温度が45℃以上又は生育限界温度が55℃以上である細菌をいう。なお、好熱菌は概して古細菌である。また、好熱菌由来制限酵素は、概して、80℃又はそれ以上の温度を失活温度としうる。さらに、好熱菌由来制限酵素は、至適温度が50℃以上80℃以下程度である。
【0026】
好熱菌由来制限酵素は、植物体の一般的な生育温度よりも高温領域にDNA二本鎖切断活性についての至適温度、すなわち、概ね最大のDNA二本鎖切断酵素活性を有する温度(インキュベーション温度ともいう。)を有する。こうした制限酵素を用いることで、温度処理により任意のタイミングと強度で、本ポリペプチドのDNA二本鎖切断活性を活性化又は増強するとともに、その活性を低減させるなどが可能であり、一時的な本ポリペプチドのDNA二本鎖切断活性を作用させるのに好都合である。また、こうした制限酵素を適用することで、温度により、その活性の調節も可能である。さらに、至適温度よりも低い温度でこうした制限酵素を用いることで、比較的緩やかなDNA二本鎖切断活性を作用させることができる。
【0027】
こうした制限酵素としては、例えば、DNA二本鎖切断活性の至適温度が50℃以上80℃以下の制限酵素を用いることができる。例えば、至適温度が50℃、55℃、60℃、65℃、及び75℃(いずれも、カタログ値)が挙げられる。制限酵素の至適温度は、各種の販売会社のカタログ等に基づいて(カタログ値)等に基づいて選択することができる。至適温度は50℃未満であると、DNA二本鎖切断活性が強くなりすぎる場合がある。至適温度が80℃を超えると、DNA二本鎖切断活性が弱くなりすぎる場合がある。例えば、至適温度は、55℃以上であり、また例えば、60℃以上であり、62℃以上であってもよく、65℃程度であってもよい。また、例えば、至適温度は、75℃以下であり、また例えば、70℃以下であり、また例えば、68℃以下である。
【0028】
例えば、本ポリペプチドに適用する制限酵素としては、以下の公知の制限酵素から適宜選択して用いることができる。
【0029】
【表1】
【0030】
上記のうち、至適温度の観点からは、例えば、ApeKI、BsaBI、BsaJI、BsaWI、BsIEI、BslI、BsmBI、BsmI、BspQI、BsrDI、BsrI、BssKI、BstAPI、BstBI、BstNI、BstUI、BstYI、FatI、FauI、MwoI、Nb.BsmI、Nb.BsrDI、PspGI、SfiI、SmlI、TaqI、TfiI、TliI、TseI、Tsp45I、Tsp509I、TspMI、TspRI、Tth111I等が挙げられる。
【0031】
また、制限酵素としては、50℃未満のDNA二本鎖切断活性至適温度を有する制限酵素を用いることもできる。また例えば、45℃未満に同至適温度を有する制限酵素を用いることもできる。
【0032】
さらに、制限酵素としては、常温域にDNA二本鎖切断活性の至適温度を有する酵素(常温型制限酵素)を用いることもできる。ここで、「常温域」とは、例えば、15℃以上42℃以下、また例えば、15℃以上40℃以下、さらに例えば、25℃以上40℃以下、また例えば、25℃以上37℃以下、さらに例えば、30℃以上37℃以下を意味するものとする。
【0033】
常温型制限酵素は、25℃以上40℃以下程度(典型的には、25℃又は37℃)に至適温度を有している。また、常温型制限酵素は、概して、60〜80℃、15分〜20分のインキュベートにより不活性化されうる。15分〜20分のインキュベートによって酵素活性を失活する温度を失活温度というものとする。常温型制限酵素であっても、80℃以上の失活温度を有する場合もある。
【0034】
常温型制限酵素は、必要に応じて、当該制限酵素の量(発現量)、作用タイミング、作用温度、作用時間及びその他の作用条件を調節することにより、植物体への作用条件(特に温度など)の悪影響を回避しつつ効率的に細胞内においてDNAを切断することができる。
【0035】
また、常温型制限酵素は、植物体に一般的に適用される温度(生育温度)の温度域においてそのDNA二本鎖切断活性をある程度有するため、各種作用条件を調節することでその作用強度(レベル)を高い自由度で設定できる。
【0036】
常温型制限酵素としては、至適温度が25℃以上40℃以下程度(典型的には、25℃又は37℃)として商業的に入手可能な制限酵素を用いることができる。例えば、こうした至適温度を備え、さらに、失活温度が60℃以上80℃以下として商業的に入手可能な制限酵素を用いることができる。
【0037】
また、非好熱菌由来制限酵素としては、公知の非好熱菌由来制限酵素を適宜選択して用いることができる。
【0038】
こうした制限酵素としては、特に限定しないが、例えば、AluI、HhaI、HinP1I、MseI、MboI、HaeIII等が挙げられる。これらの至適温度はいずれも37℃とされている。また、例えば、BfaI、BfuI、Bsh1236I、BsuRI、DpnI、DpnII、FspBI、HaeIII、Hin1II、Hin6I、HpaII、HpyCH41V、MspI、NlaIII、RsaI、Sau3AI等が挙げられる。以上列挙した制限酵素は、いずれも、至適温度が約37℃である。また、ApaI、BaeI、BspCNI、CviAII、CviQI、SmaI及びSwaIが挙げられる。これらの制限酵素は、至適温度はいずれも約25℃とされている。
【0039】
なお、制限酵素などのDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質の当該活性の至適温度は、当該酵素の入手先のプロトコールに記載されるほか、当該酵素に好適とされているバッファ中、所定の基質の所定濃度存在下、各種温度で酵素反応評価した結果に基づくことができる。
【0040】
例えば、制限酵素の至適温度の測定方法としては、文献(Greene, P.J., Poonian, M.S., Nussbaum, A.L., Tobias, L., Garfin, D.E., Boyer, H. W., & Goodman, H. M (1975), Restriction and modification of a self-complementary octanucleotide containing the Eco RI substrate. Journal of molecular biology, 99(2), 237-261)の方法が挙げられる。具体的には、制限酵素による、SV40 DNA(32P標識)の切断に関して定量解析する。すなわち、全量50μlの反応液(0.1M Tris HCl(pH7.5)、5mM、MgCl2、0.05mM MgCl2、0.05M NaCl、1.6pM、 SV40 DNA)に5μl制限酵素溶液(0.05Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、0.02M NaCl、0.02% NP40, 0.1mM EDTA、 0.7mM β−メルカプトエタノール、0.7pM制限酵素)を加え、各温度(0℃〜80℃程度において適度な温度間隔に設定された温度)において、制限酵素処理を数分間程度適切な時間行う。1%SDSを添加して反応を停止後、アガロース電気泳動により、supercoil DNA(フォームI)、open circle DNA(フォームII)及び線状DNA(フォームIII)に分離する。各フォームの線量(cpm)を測定し、制限酵素処理により切り出されたホスホジエステル結合数(pmol)を下記計算式で求める。各温度において切り出されたホスホジエステル結合数をグラフ化して、ピーク値近傍をその酵素の至適温度(DNA二本鎖切断活性の)とすることができる。
【0041】
ホスホジエステル結合数(pmol)=
[2×(フォームIIIの線量(cpm)+フォームIIの線量(cpm))/(フォームI、II及びIIIの合計線量(cpm))]×DNA量(pmol)
【0042】
また、例えば、制限酵素などのDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質の失活温度は、当該酵素を、各種温度で15分〜20分程度維持する熱処理の前後の活性を測定することにより得ることができる。活性が検出できなくなる温度が失活温度である。
【0043】
本ポリペプチドにDNA二本鎖切断活性と組織間移動活性とを発揮させるためには、第1のポリペプチド領域のサイズが適宜調整されることが有利な場合がある。例えば、Corbesierら(非特許文献2)、Tamakiら(非特許文献3)及びMathieuら(Curr. Biol., 17, 1055-1060)によれば、組織間移動活性をフロリゲンタンパク質であるFTに基づく場合には、付随するタンパク質は92kDa以下であることが好ましいことが理解される。かかる観点からは、第1のポリペプチド領域に適用する制限酵素としては、92kDa以下であることがよい場合がある。また、例えば、80kDa、また例えば、70kDa、さらに例えば、60kDa以下、さらにまた例えば、55kDa以下、また例えば、50kDa以下、また例えば、45kDa以下、さらに例えば、40kDa以下、また例えば、35kDa以下であることがよい場合がある。かかる観点から、制限酵素としては、例えば、TaqI(31.5kDa、263アミノ酸)、HinP1I(28.6kDa、247アミノ酸)、MseI(20.7kDa、186アミノ酸)が挙げられる。
【0044】
(組織移動活性)
本ポリペプチドは、組織間移動活性を有している。組織間移動活性は、組織間移動活性を有するタンパク質を規定するポリペプチドに基づくことができる。ここで、組織間移動活性とは、植物体のある組織から当該組織以外の他の組織に移動する活性をいう。移動元の組織からみて移動先の組織である他の組織とは、植物体における組織の分類において異なる組織又は器官である。移動元組織と移動先組織とは特に限定しないが、例えば、移動先組織、すなわち、標的組織としては、生殖組織若しくは器官又はその前駆組織若しくは器官とすることができる。かかる組織又は器官を標的とすることで、ゲノムシャッフリングを、次世代に継承させるゲノムに対して選択的に実施することができる。一方、植物体の他の組織においては、ゲノムシャッフリングが抑制され、植物体の生存や生長への影響が低減できる。
【0045】
(第2のポリペプチド領域;組織間移動活性のためのポリペプチド領域)
第2のポリペプチド領域としては、組織間移動活性を有するポリペプチド又はその活性に寄与する部分ポリペプチドを適用することができる。すなわち、こうした組織間移動活性を有するポリペプチドとしては、公知の組織間移動活性ポリペプチドから、目的に合った組織間移動活性を有するポリペプチドを選択することができる。
【0046】
植物体において組織間移動活性を有するタンパク質としては、フロリゲンタンパク質が挙げられる。
【0047】
フロリゲンタンパク質は、広く植物に普遍的に存在するタンパク質である(Wigge, P.A. (2011) FT, A Mobile Developmetal Signal in Plants. Curr. Biol., 21, R374-R378)。フロリゲンタンパク質は、生殖組織若しくは器官又はその前駆組織若しくは器官を標的として組織間を移動する活性を有するタンパク質であり、また、植物体の花芽分化を誘導する花成ホルモンとして知られている(上記Wigge, P.A.ら)。花成は、葉で合成されたフロリゲンタンパク質が師部組織を通して茎頂まで移動し花芽分化を誘導することから始まる(上記Wigge, P.A.ら)。また、フロリゲンタンパク質は、例えば、根茎の形成を誘導するという無性生殖機能など、花成(開花)以外の機能も持ちうる。例えば、イネのフロリゲンタンパク質 (Hd3a) をジャガイモにおいて過剰発現させると塊茎の形成が誘導されることが知られている(Navarro et al., (2011) Control of flowering and storage organ formation in potato by FLOWERING LOCUS T. Nature., 478, 119-122)。このことは、フロリゲンタンパク質の根茎への移動能力を意味している。
【0048】
フロリゲンタンパク質としては、アブラナ科植物であるシロイヌナズナにおけるFlowring Locus T(FT遺伝子)(配列番号2)によってコードされるFTタンパク質(アクセッション番号:NP_176726.1)(配列番号1)、FTのイネにおけるホモログであるHd3遺伝子(配列番号4)によってコードされるHd3aタンパク質が同定されている(アクセッション番号:BAO03005.1)(配列番号3)。当業者であれば、例えば、BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)などの公知のデータベースを用いることにより、FTタンパク質やHd3aタンパク質のアミノ酸配列に基づき、これらと同様の組織間移動活性を有するタンパク質を探索し、組織間移動活性を評価するなどして適宜選択し使用することができる。
【0049】
なお、こうしたタンパク質の組織間移動活性は、例えば、GFPなどの蛍光タンパク質を標識として植物体内における移動を観察することにより簡易に評価することができる。
【0050】
図1に、シロイヌナズナのFTタンパク質及びイネのHD3aタンパク質に基づいて取得されるフロリゲンタンパク質のアミノ酸配列と相同性の高いアミノ酸配列をBLASTにより取得し、これらのアミノ酸配列を、GENETYX ver12.0.1ソフトウェアのMUSLEアライメントのデフォルトで相同性解析した結果を示す。また、図2には、これらのアミノ酸配列についてのBLASTの結果を示す。
【0051】
図1及び図2に示すように、抽出されたタンパク質のアミノ酸配列は、FTタンパク質(図2において番号63で特定されるアミノ酸配列)やHd3aタンパク質(図2において番号9で特定されるアミノ酸配列)と高いアミノ酸配列相同性(同一性及び類似性)を有している。例えば、図1において示されるアミノ酸配列で規定されるタンパク質は、いずれも、フロリゲンタンパク質としての機能が推定されるといえる。当業者であれば、これらのタンパク質を適宜選択して本タンパク質として使用することができる。
【0052】
図1−2〜図1−5には、互いに同一であるアミノ酸残基をグレーで示す。アラインメントによれば、例えば、FTタンパク質を基準としたとき、以下の類似性の高い第1〜第5のモチーフを抽出することができる。
【0053】
(第1モチーフ)
第7位〜20位(14AA)
Arabidopsis thaliana(番号63(配列番号1)、以下、同じ。):D, P, L, I, V, S, R, V, V, G, D, V, L, D
全体からみたバリエーション:D/E, P/T/S, L, I/V/S/A/L, V/1, S/G, R/G, V/I, V/I, G/T/P, D,V/I, L/I/V, D/E/N
(第2モチーフ)
第39位〜46位(8AA)
Arabidopsis thaliana:NGLDLRPS
全体からみたバリエーション:N,G/S, L/S/V, D/E, L/F/I, R/K, P/H, S
(第3モチーフ)
第51位〜88位(38AA)
Arabidopsis thaliana:KPRVEIGGEDLRNFYTLVMVDPDVPSPSNPHLREYLHW
全体からみたバリエーション:K/Q/H, P, R,V/I, E/D/V, I/V, G, G, E/D/N/T/P, D/E, L/M, R, N/T/S/I, F, Y/F, T, L, V, M, V/A, D/V, P, D,V/A, P, S, P, S, N/D/E/S, P, H/N/S/R/T, L, R/K/T, E, Y, L, H, W
(第4モチーフ)
第89位〜148位(60AA)
Arabidopsis thaliana:LVTDIPATTGTTFGNEIVCYENPSPTAGIHRVVFILFRQLGRQTVYAPGWRQNFNTREFA
全体からみたバリエーション:L, V, T, D, I, P, A/G, T/S, T, G/A/E, T/A/S/V/T, T/N/S/A/P, F, G, N/Q/H/S, E,I/V, V/M/I, C/S, Y/H, E/G, N/S, P, S/R/L/G, P, T/S/Y/N//I, A/S/V/M/I/L, G, I, H, R, V/F/L/I, V/I/C/L, F/L/M, I/V/A, L, F/L, R/Q/H, Q, L, G/R, R,Q,T,V, Y/F, A/E/T/P, PGWR, Q/P, N/Q/H, F, N/S, T, R/K, E/D/G/N, F, A/T
(第5モチーフ)
第149位〜174位(26AA)
Arabidopsis thaliana:EIYNLGLPVAAVFYNCQRESGCGGRR
全体からみたバリエーション:E/S/A, I/L/V, Y, N, L/I, G, L/S/P/Q/H, P/A, V/I, A/S, A/S/T, V/L/A, F/Y, Y/F/C, N/D, C, Q, R, E/D, S/A/T/G/N/R, G, C/S/T, G, G, R, R
【0054】
フロリゲンタンパク質としては、こうした第1〜第5のモチーフのうち、少なくとも第3〜第5のモチーフを有し、さらに、第1及び/又は第2のモチーフを有することが好ましい。そして、全体として、配列番号69で表されるArabidopsis thaliana由来のフロリゲンタンパク質のアミノ酸配列、イネのHd3aタンパク質のアミノ酸配列、又は図1に示すいずれかのアミノ酸配列と少なくとも75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、なお好ましくは95%以上、一層好ましくは97%以上、より一層好ましくは98%以上、さらに一層好ましくは99%以上を備えることができる。あるいは、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、一層好ましくは98%以上、より一層好ましくは99%以上の類似性を備えることができる。
【0055】
また、これらのフロリゲンタンパク質は、FTタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)及びHd3aタンパク質のアミノ酸配列(配列番号3)に対して75%以上の同一性を備えることもでき、また例えば、80%以上の同一性を備えることができる。また例えば、同一性は85%であってもよいし、90%以上であってもよいし、91%以上であってもよいし、92%以上であってもよいし、93%以上であってもよいし、94%以上であってもよいし、95%以上であってもよいし、96%以上であってもよいし、97%以上であってもよいし、98%以上であってもよいし、99%以上であってもよい。また、アミノ酸配列の類似性は、例えば、85%以上であってもよいし、90%以上であってもよいし、95%以上であってもよい。
【0056】
本明細書において塩基配列又はアミノ酸配列の同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2種以上のタンパク質あるいは2種以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術で“同一性 ”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。
【0057】
本ポリペプチドは、融合タンパク質として人工的に取得することができる。例えば、第1のポリペプチド領域及び第2のポリペプチド領域に適用するポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて、化学的にあるいは遺伝子工学的に本ポリペプチドを取得することができる。
【0058】
本ポリペプチドは、特に限定しないが、これらのポリペプチドをその一部に備えることができる。例えば、第1のポリペプチド領域を、本ポリペプチドのN末端側、C末端側又はそれ以外に備えていてもよい。また、第2のポリペプチド領域を、本ポリペプチドのN末端側、C末端側又はそれ以外に備えていてもよい。また、本ポリペプチドは、1種又は2種以上の第1のポリペプチド領域を備えていてもよいし、1種又は2種以上の第2のポリペプチド領域を備えていてもよい。さらに、本ポリペプチドは、適宜、植物体における細胞間移動のために好適なポリペプチド領域を備えていてもよい。
【0059】
(用途)
本ポリペプチドは、植物体内で存在させることにより、その組織間移動活性に基づいて所定の標的組織に到達される。そして、標的組織においてそのDNA二本鎖切断活性に基づいてゲノムシャッフリングを生じさせることができる。すなわち、本ポリペプチドは、ゲノムシャッフリング剤として有用である。
【0060】
本ポリペプチドの組織間移動活性の標的組織が、生殖組織・器官、あるいはその前駆組織・器官である場合には、有性生殖によって次世代に継承されるゲノムにおいて効果的にゲノムシャッフリングを生じさせることができる。
【0061】
また、例えば、本ポリペプチドの組織間移動活性の標的組織が、いわゆる生殖組織や器官ではなく、根、茎、葉、球根などの(貯蔵)器官である場合には、無性生殖(栄養生殖)によって次世代に継承されるゲノムにおいてゲノムシャッフリングを生じさせることができる。ここで無性生殖には、接ぎ木、挿し木、取り木、ランナー、球根、根茎、株分け、むかご、組織培養などを用いた植物体について公知の無性生殖が包含される。既述のように、フロリゲンタンパク質は、生殖組織でなく、根茎等を標的組織とすることが可能であるため、無性生殖に適用できる。
【0062】
本ポリペプチドによれば、ゲノムシャッフリングを生じさせる組織を意図的に選択することができる。このため、植物体の生存に対する影響(特に、DNA二本鎖切断活性に基づく影響)を低減することができる。また、本ポリペプチドによれば、標的組織が生殖や繁殖に関与する組織である場合には、次世代ゲノムに変異・修飾を誘発することができ、その結果、表現型の変化した植物体又はその集団を取得することができる。また、標的組織が、植物体の成長段階において一過的あるいは後期若しくは終期においてのみ発現する場合には、その組織においてのみゲノムシャッフリングを生じさせて、当該組織を収穫することで、次世代植物体を取得するのに好適な植物細胞、組織及び器官を取得できる。
【0063】
また、第2のポリペプチド領域として、フロリゲンタンパク質又はその一部を用いて、有性生殖組織やその前駆組織等を標的組織とすることで、例えば、以下の有利なメリットを得ることができる。
【0064】
(1)本ポリペプチドを植物体内において作用させることで、早期に花成を誘導して花芽形成を促進することができる。この結果、ゲノムシャッフリングされて遺伝子型及び/又は表現型が異なる次世代植物体(種子)の集団(ライブラリ)を作製する時間を大幅に短縮することできる。
【0065】
(2)本ポリペプチドを、遺伝子工学的に一過的に又は有性生殖組織又は器官以外で発現させて本ポリペプチドのみが有性生殖組織などの標的組織に移動するようにすることもできる。これにより、外来遺伝子を保有しないでゲノム変異・修飾が誘導された次世代種子の作製が可能となり、外来遺伝子の除去に要する時間を省略できるのと同時に、形質が安定した植物体の創出が可能となる。
【0066】
(ポリヌクレオチド)
本明細書によれば、本ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、本ポリヌクレオチドともいう。)も提供される。本ポリヌクレオチドは、それ自体、ゲノムシャッフリング剤として有用である。本ポリヌクレオチドは、一本鎖DNA、二本鎖DNAのほか、一本鎖RNA、DNA/RNAハイブリッド、DNA/RNAキメラ等が挙げられる。結果として、本ポリペプチドのアミノ酸配列を情報としてコードできるものであればよい。本ポリヌクレオチドは、例えば、一本鎖又は二本鎖DNAの形態や一本鎖又は二本鎖RNAの形態が挙げられる。
【0067】
本ポリヌクレオチドは、本ポリペプチドのアミノ酸配列をコードするコード領域ほか、本ポリペプチドをタンパク質(ポリペプチド)として発現させるための制御領域を備える、発現ベクターなどのコンストラクトの形態をとることができる。
【0068】
(発現ベクター)
本明細書によれば、本ヌクレオチドを備える発現ベクター(以下、本発現ベクターともいう。)が提供される。本発現ベクターは、本ポリヌクレオチドによってコードされる情報(本ポリペプチドのアミノ酸配列)を発現させることを意図するものである。本発現ベクターは、本ポリヌクレオチドを備えるとともに、本ポリペプチドを発現させるための1又は2以上の制御領域を備えることができる。制御領域としては、プロモーターのほか、ターミネーター、選抜マーカー、エンハンサー、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、発現ベクターは、核移行シグナルをコードする領域も備えることができる。
【0069】
プロモーターは、植物体内で本ポリペプドを発現させることが可能なプロモーターであれば特に限定されるものではなく、公知のプロモーターを好適に用いることができる。かかるプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、各種アクチン遺伝子プロモーター、各種ユビキチン遺伝子プロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター、タバコのPR1a遺伝子プロモーター、トマトのリブロース1,5−二リン酸カルボキシラーゼ・オキシダーゼ小サブユニット遺伝子プロモーター、ナピン遺伝子プロモーター等を挙げることができる。
【0070】
後述するように、例えば、シロイヌナズナのシグマ因子由来のSIG2(AtSIG2)プロモーターなどの発現強度が35Sプロモーターよりも低いプロモーターは、本ポリペプチドを低レベルで定常的に発現させるための低発現型構成的プロモーターとして好ましい場合がある。また、シロイヌナズナのHSP18.2プロモーターなど、後述する誘導的プロモーターも、誘導温度よりも低い温度で制御下にある遺伝子に発現を誘導することができる場合があり、低発現型構成的プロモーターとして、本ポリペプチドの発現に有用である場合がある。
【0071】
プロモーターとしては、誘導的プロモーターを用いることもできる。誘導的プロモーターは、本ポリペプチドを植物体内において所定の発現誘導を経て作用させることができる。こうすることで、意図したタイミングで、本ポリペプチドの作用を発現させることができる。こうした誘導的プロモーターとしては、例えば、化学物質又はその濃度、熱、浸透圧などの外部条件によって誘導される誘導性プロモーターのほか部位特異的プロモーター、時期特異的プロモーター等が挙げられる。こうした各種の誘導的プロモーターは、例えば、DEX誘導性プロモーター、HSP18.2プロモーター等、公知のプロモーターから適宜選択される。
【0072】
そのほか、プロモーターとしては、部位特異的プロモーター及び時期特異的プロモーター等を用いることもできる。本ポリペプチドの発現を部位特異的又は時期特異的に誘導することで、意図的なタイミングや目的とする部位で本ポリペプチドを発現させてその活性を発揮させることができる。また、誘導を停止したり、あるいは一定期間経過することでおおよそその作用を低下又は停止することができる。誘導的プロモーターを用いる場合、プロモーターの種類に応じ、温度や化学物質等が適宜植物体に供給される。
【0073】
また、プロモーターやターミネーター等の制御要素による本ポリペプチドの発現強度の制御も、本ポリペプチドの活性に影響する。したがって、用いるプロモーターやターミネーターによって供される本ポリペプチドの発現強度も考慮してプロモーター等が選択される。
【0074】
ターミネーターは転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものであってもよい。例えば、具体的には、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)等を好ましく用いることができる。この中でもNosターミネーターをより好ましく用いることができる。
【0075】
その他、選抜マーカー及び翻訳効率を高めるための塩基配列としては、公知の要素を適宜選択して用いることができる。発現ベクターの構築方法についても特に限定されるものではなく、適宜選択された母体となるベクターに対して、必要とする要素を適宜導入すればよい。さらに、発現ベクターは、T−DNA領域を有していてもよい。
【0076】
例えば、植物体の細胞内において、タンパク質を発現させるための発現ベクターの母体となるベクターとしては、従来公知の植物体のための種々のベクターを用いることができる。例えば、ウイルスベクターとしては、タバコモザイクウイルス(TMV)、プラムボックスウイルス(PPV)、ジャガイモXウイルス(PVX)、アルファルファモザイクウイルス(AIMV)、キュウリモザイクウイルス(CMV)、カウピーモザイクウイルス(CPMV)、ズッキーニイエローモザイクウイルス(ZYMV)など植物ウイルスベクターが挙げられる。また、ベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、上記した植物ウイルスベクターのほか、pBI系のバイナリーベクターを用いることが好ましい。pBI系のバイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。また、公知の一過性遺伝子発現系のベクターも用いることができる。
【0077】
本ポリペプチドを植物体内で発現させることを意図するベクターは、当業者であれば、従来公知の手法により適宜植物体の種類や形質転換手法に応じて構築することができる。導入する植物細胞に応じたベクターを適宜入手可能であるほか、適切なプロモーター、ターミネーター、エンハンサーなども適宜選択可能であり、必要に応じて所望の発現カセットを構築することができる。
【0078】
本発現ベクターの作製にあたっては、当業者は、適用する植物体の種類や本ポリペプチドの発現等に関して意図する条件に応じて、各種の組換え操作に、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた方法等、標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照のこと。)を利用することができる。
【0079】
本ポリヌクレオチド及び本発現ベクターは、本ポリペプチドをコードするものであることから、本ポリペプチドと同様、ゲノムシャッフリング剤として有用である。本ポリペプチドや本発現ベクターは、アグロバクテリウムやウィルスなど適当な遺伝子導入法などの公知の遺伝子導入方法を用いて植物体に導入され、本ポリペプチドを合成させることで、本ポリペプチドの有する機能を発揮させることができる。
【0080】
(ゲノムシャッフリング方法)
本明細書に開示されるゲノムシャッフリング方法(以下、本シャッフリング方法ともいう。)は、本ポリペプチドを植物体に導入して、組織間移動活性とDNA二本鎖切断活性とを植物体内で作用させる工程を有することができる。本シャッフリング方法によれば、組織間移動活性によって規定される標的組織においてDNA二本鎖切断活性を発揮させることができ、標的組織におけるゲノムシャッフリングが可能となる。
【0081】
本ポリペプチドを植物体に導入するためにはいくつかの態様を採ることができる。第1の態様は、本ポリペプチドをコードする本ポリヌクレオチド又は本発現ベクターを植物体に導入し発現させる態様である。第2の態様は、本ポリペプチドを直接植物体に供給する態様である。
【0082】
(本ポリペプチドの第1の導入態様)
第1の態様は、本ポリペプチドをコードするDNAなどの本ポリヌクレオチド又は本発現ベクターを植物体に導入して、本ポリペプチドを発現させる態様である。植物体において本ポリペプチドを発現させるために本発現ベクター等を植物体に導入するには、各種公知の方法を採用できる。例えば、本発現ベクター等をPEG法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、植物ウィルス法等の公知の植物体における形質転換方法を用いて植物体内に導入する。また、細胞や組織にアグロバクテリウムを感染させるほか、フローラルディップ法やフローラルスプレー法などで花にアグロバクテリウムを感染させるなどの各種のアグロバクテリウム法等を用いる。
【0083】
さらに、公知の一過性遺伝子発現系のためのアグロバクテリウムや植物ウイルスベクターを用いて、一過的に本ポリペプチドを発現するようにしてもよい。さらにまた、本ポリヌクレオチドを染色体に組み込むようにしてもよい。
【0084】
なお、発現ベクター等を用いる場合、導入に用いる植物体は、導入方法等に応じて、植物体全体のほか、植物細胞、カルス、幼苗、葉、花蕾、種子、茎頂、側芽、花芽、花粉、子房、胚乳及び胚などの各種細胞、組織及び器官等から適宜選択することができる。
【0085】
フラワーディップ法やフラワースプレー法を利用することで、植物体の再生を効率化できる点においてもアグロバクテリウム法が好適である。
【0086】
本発現ベクターを用いた場合、本ポリペプチドを発現させるには、本ポリペプチドにおけるDNA切断活性ポリペプチド領域によって規定される、DNA二本鎖切断活性の至適温度、用いるプロモーターや植物体の生育条件等を考慮する。DNA二本鎖切断活性が強すぎて植物体に対する障害が大きすぎる場合には、ゲノムシャッフリングの効率が低下するからである。したがって、本ポリペプチドの発現強度や発現タイミングをプロモーター特性に基づいて制御するとともに、本ポリペプチドのDNA二本鎖切断活性を、その至適温度を考慮して形質転換した植物体の生育温度を適切に設定することが好ましい。
【0087】
形質転換した植物細胞、組織、器官、種子等の各種植物体等から、個体としての植物体を再生する方法については、従来公知の方法を適用することができる。
【0088】
(本ポリペプチドの第2の導入態様)
第2の態様は、本ポリペプチドを植物体に塗布、噴霧、浸漬、注入、エレクトロポレーション等により直接導入する態様である。本ポリペプチドの植物体への導入方法は、特に限定しないで、適当な形態を採用できる。本ポリペプチド植物体に直接供給するには、例えば、植物体又はその一部に、本ポリペプチドが水や緩衝液などの水系媒体に溶解した状態で供給する。こうすることで、効率的に植物体内に本ポリペプチドが導入される。
【0089】
より具体的には、植物体と本ポリペプチド含有液体とを、例えば、塗布、浸漬及び混合等により接触させるほか、植物体の組織に直接注入することも可能である。こうした供給温度や条件は、特に限定しないが、本ポリペプチドが有するDNA二本鎖切断活性の至適温度でないことが好ましい。例えば、DNA二本鎖切断活性の至適温度が37℃程度の場合、供給時の温度は30℃以下とすることが好ましく、より好ましくは25℃以下である。本ポリペプチドを直接供給する形態は、本ポリペプチドをコードするDNA等を発現させる必要がない点、必要時に任意の部位に適用できる点において有用である。
【0090】
本ポリペプチドを直接植物体に導入する場合、導入対象としての植物体は特に限定するものではない。例えば、植物体としてプロトプラスト、植物細胞やカルスなども用いることができる。
【0091】
(植物体において本ポリペプチドの活性を作用させる態様)
次いで、植物体において本ポリペプチドの活性を作用させる態様について説明する。植物体内において本ポリペプチドの組織間移動活性及びDNA二本鎖切断活性を作用させる態様は、特に限定するものではなく、意図する組織間移動活性とDNA二本鎖切断活性とを発揮させ、好適なゲノムシャッフリングレベルが得られるように適宜設定することができる。
【0092】
例えば、本シャッフリング方法においては、第1の態様として、本ポリペプチドの組織間移動活性とDNA二本鎖切断活性とを有効に作用させる態様が挙げられる。第2に、特に、DNA二本鎖切断活性に関し、当該活性を、概ね一定的にかつ構成的に作用させる態様を採ることができる。また、第3の態様として、DNA二本鎖切断活性を意図的に及び/又は一時的に作用させる又は向上させる態様を採ることができる。
【0093】
(本ポリペプチドの活性を作用させる第1の態様)
本ポリペプチドのDNA二本鎖切断活性及び組織間移動活性を最も有利に用いるには、本ポリペプチドを生殖組織又は器官以外の組織又は器官に導入し、その組織間移動活性に基づいて生殖組織又は器官又はその前駆体に移動させて、その場所でDNA二本鎖切断活性に基づいて次世代に継承されるゲノムをシャッフリングする態様が挙げられる。
【0094】
例えば、こうした態様においては、有性生殖によって植物体を育種・栽培する場合には、葉、茎(生殖前駆組織となる先端部等を除く。)、根などの有性生殖に関連しない組織や器官で本ポリペプチドを直接的に導入するか又は一過的に発現させて導入する。一過的発現には、公知の植物体に適用可能な一過性発現系(例えば、GNEWARE、magnICONやMedicago社から提供される技術)を用いることができるほか、公知の誘導発現系を適用することができる。この態様では、組換え体の植物の選抜を行わずに、当該植物体において本ポリペプチドを合成させることができる。そして、本ポリペプチドは、その組織間移動活性により有性生殖組織に移動され、当該組織でDNA二本鎖切断活性を作用させてゲノムシャッフリングが実現される。本ポリペプチドが植物体の生殖部位以外の部位で導入されるに留まる場合には、種子などの有性生殖のための繁殖用材料(遺伝子組換えでない)を直接得ることができる。
【0095】
また例えば、無性生殖によって植物体を育種・栽培する場合には、目的とする無性生殖用の繁殖材料でない組織や器官で本ポリペプチドを直接的に導入するか又は一過的に発現させる。この態様でも、組換え体の植物の選抜を行わず、当該植物体において本ポリペプチドを合成させ、その本ポリペプチドによって、例えば、上記と同様に、種々の無性生殖用繁殖材料(遺伝子組換えでない)を直接得ることができる。
【0096】
第1の態様は、有性生殖による植物体の多様性ある次世代集団を得るのにも好適であるほか、広く無性生殖による次世代集団を得るのにも有用である。
【0097】
第1の態様における、特に、本ポリペプチドのDNA二本鎖切断活性の作用態様については、後述する第1の態様、第2の態様を適宜適用して、当該活性を構成的又は一時的に作用させることができる。
【0098】
(本ポリペプチドの活性を作用させる第2の態様)
本ポリペプチドの活性、特に、そのDNA二本鎖切断活性を概ね一定に構成的に作用させる場合、DNA二本鎖切断活性の植物体への障害を考慮すると、例えば、いくつかの態様が挙げられる。いずれも、DNA二本鎖切断活性を一定以下の強度にコントロールして構成的に作用させる態様である。
【0099】
(1)例えば、DNA二本鎖切断活性ポリペプチド領域に好熱菌由来の制限酵素を適用したポリペプチドを、直接的に又は本発現ベクター等を用いて植物体に導入しておく。その後、植物体に適用される生育温度で植物体を生育する。概して、植物体の生育温度は、好熱菌由来の制限酵素の至適温度よりも低い。これにより、本ポリペプチドの導入後は、組織間移動活性及びDNA二本鎖切断活性は概して一定してかつ構成的に作用する。生育温度は、植物体の種類に応じ、また、本ポリペプチドによって作用するDNA二本鎖切断活性等を考慮して、適宜決定されるが、適用する植物体の生育可能温度を考慮して、例えば、4℃以上とすることができ、また例えば、18℃以上30℃以下とすることができる。また例えば、下限は19℃以上であり、さらに例えば、20℃以上であり、さらにまた例えば、21℃以上である。また、例えば、上限は28℃以下であり、また例えば、25℃以下であり、さらに例えば、24℃以下であり、さらにまた例えば、23℃以下である。
【0100】
(2)また、例えば、DNA二本鎖切断活性ポリペプチド領域に常温型制限酵素を適用したポリペプチドを、直接的に又は本発現ベクター等により植物体に導入しておく。常温型の制限酵素の至適温度かそれよりも低い生育温度で植物体を生育させる。これにより、本ポリペプチドの導入後は、概して組織間移動活性及びDNA二本鎖切断活性が継続的に作用する。
【0101】
生育温度は、植物体の種類に応じ、また、本ポリペプチドによって発揮されるDNA二本鎖切断活性の作用等を考慮して、適宜決定されるが、適用する植物体の生育可能温度を考慮して、例えば、4℃以上とすることができる。また、例えば、18℃以上30℃以下とすることができる。また例えば、下限は19℃以上であり、さらに例えば、20℃以上であり、さらにまた例えば、21℃以上である。また、例えば、上限は28℃以下であり、また例えば、25℃以下であり、さらに例えば、24℃以下であり、さらにまた例えば、23℃以下である。
【0102】
適用する植物体や常温型の制限酵素の種類等にもよるが、概して好熱菌由来の制限酵素の至適温度と、植物体の好適生育温度との温度差は、好熱菌由来制限酵素よりは大きくないが、常温型制限酵素が有用である場合もある。
【0103】
第1の態様において用いる本発現ベクターのプロモーターは、構成的プロモーターであってもよいし誘導型プロモーターであってもよい。構成的プロモーターは、いわゆるカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターなどの高発現プロモーターであってもよいし、SIG2プロモーターなどの発現強度がカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターよりも低いプロモーターや、HSP18.2プロモーターなどの誘導温度よりも低い温度で低発現するプロモーターであってもよい。
【0104】
構成的プロモーターの場合、低発現型であっても高発現型であってもよいが、構成的プロモーターを用いれば、継続的に本ポリペプチドが合成され、本ポリペプチドの活性も継続的となる傾向がある。また、誘導的プロモーターを用いれば、誘導時にのみ本ポリペプチドが合成されるため、一時的な誘導で十分量が合成されるように誘導条件を制御するか、継続的に本ポリペプチドが合成されるように誘導条件を制御することにより、継続的に本ポリペプチドの活性を発揮させることができる。また、本ポリペプチドを直接的に導入する場合には、本ポリペプチドを一時に十分量導入してもよいし、継続的に導入するようにしてもよい。
【0105】
本態様において用いる生育温度は、恒温の人工的環境における温度を意図したものであって、季節変動、日中変動等が発生する自然環境には当てはまらない場合がある。また、本態様を植物体に適用する作用時間は特に限定するものではないが、例えば、植物体において栽培において春化処理等の特別な温度処理を除いた期間の全体とすることができる。
【0106】
(本ポリペプチドの活性を作用させる第3の態様)
本ポリペプチドの活性、特に、そのDNA二本鎖切断活性を一時的に作用又は向上させる場合においても、いくつかの態様が挙げられる。
【0107】
(1)例えば、本ポリペプチドを、直接的に又は本発現ベクター等により植物体に導入しておく。このとき、第1の態様と同様、継続的に本ポリペプチドが植物体内に存在するように、本ポリペプチドを導入する。その後、この植物体の生育段階のいずれかの段階で、DNA二本鎖切断活性を作用又は向上させるために、意図的に生育温度よりも高い温度であって、本ポリペプチドのDNA二本鎖切断活性ポリペプチドに適用した制限酵素の至適温度により近い高温の生育温度で所定期間生育させる。これにより、本ポリペプチドの組織間移動活性及びDNA二本鎖切断活性は意図した期間作用又は向上される。
【0108】
例えば、制限酵素が好熱菌由来の制限酵素の場合、生育温度を好熱菌由来の制限酵素の至適温度に対して低い温度(緩和な条件)を採用できる。例えば、至適温度よりも15℃以上25℃以下程度とすることができる。より好ましくは本ポリペプチドをDNA二本鎖切断活性を発現できる下限近傍の温度で活性化することが好ましい。DNA二本鎖切断活性を発現できる下限近傍の温度とは、例えば、至適温度における活性を100%としたとき、その活性が5%以上30%以下程度となる温度ということができる。好ましくは、5%以上20%以下程度となる温度とすることができる。
【0109】
例えば、こうした生育温度としては、本ポリペプチドや植物体の種類にもよるが、18℃以上45℃以下とすることができる。例えば、より好ましくは、下限が20℃以上であり、さらに好ましくは22℃以上であり、なお好ましくは同25℃以上であり、一層好ましくは30℃以上であり、より一層好ましくは35℃以上である。また、例えば、好ましくは上限は45℃以下であり、より好ましくは42℃以下であり、さらに好ましくは40℃以下であり、なお好ましくは37℃以下であり、一層好ましくは35℃以下である。こうした作用温度であると、植物体に対する温度障害を抑制しゲノムシャッフリング効率を確保することができる。
【0110】
また、こうした生育温度を付与する期間は、本ポリペプチドや植物体の種類及びその生育温度にもよるが、例えば、30分程度から1時間で処理するほか、比較的長い時間、例えば、2時間以上、3時間以上、さらに例えば、4時間以上、さらにまた例えば、6時間以上、また例えば、12時間以上、さらにまた例えば、24時間以上、または36時間以上、さらに例えば、48時間以上、さらにまた例えば、60時間以上、また例えば、72時間以上とすることができる。
【0111】
また、例えば、制限酵素が常温型制限酵素の場合、生育温度を常温型制限酵素の至適温度に対して、既に説明した各種態様の常温域を含む温度範囲とすることができる。下限は、例えば、10℃以上であり、また例えば、15℃以上であり、さら例えば、20℃以上であり、さらにまた例えば、25℃以上である。上限は、例えば、47℃以下であり、また例えば、45℃以下であり、さらに例えば、42℃以下である。また、その範囲としては、例えば、10℃以上47℃以下であり、また例えば、10℃以上45℃以下、さらに例えば、15℃以上45℃以下、さらにまた例えば、20℃以上42℃以下、また例えば、25℃以上42℃以下である。
【0112】
また、こうした生育温度を付与する期間は、その生育温度条件や本タンパク質の至適温度にもよるが、例えば、数分以上〜1時間以下程度とすることができる。また例えば、10分以上50分以下、さらに例えば、15分以上45分以下とすることができる。また、例えば、1時間以上10時間以下とすることもでき、さらに例えば、1時間以上6時間以下、さらにまた例えば、1時間以上4時間以下、また例えば、1時間以上3時間以下とすることができる。
【0113】
(2)また、例えば、本ポリペプチドを直接的に又は本発現ベクター等により一時的に植物体に導入する。すなわち、本ポリペプチドを一時的に植物体内で存在するように直接導入するか、又は誘導的プロモーターに一時的に誘導条件を付与して本ポリペプチドを合成させるようにする。かかる一時的に導入と同時又は該ポリペプチドが植物体内に存在する一定期間内に、本ポリペプチドのDNA二本鎖切断活性ポリペプチドに適用した制限酵素の至適温度により近い高温の生育温度で所定期間生育させる。これにより、本ポリペプチドの組織間移動活性及びDNA二本鎖切断活性は意図した期間作用又は向上される。この場合、所定期間経過後に、生育温度を本来の生育温度に復帰させる。
【0114】
以上説明した、本ポリペプチドの活性を作用させる態様は、例示であってこれに限定するものではない。意図する活性を作用させるための各種条件は、当業者であれば、本ポリペプチドに適用したDNA二本鎖切断活性を有する制限酵素等の種類その量(発現ベクターを用いる場合には、各種制御因子により設計した発現強度)、植物体の種類、植物体の生育状況、ゲノムシャッフリングの効果等を考慮して適宜決定することができる。
【0115】
なお、ゲノムシャッフリングの効果は、レポーター遺伝子を用いた評価や公知の染色体の評価技術等を用いて決定することができる。また、ゲノムシャッフリング効果は、植物体の生育状態(生育の遅延・抑制、生存率の低下)を指標とすることもできる。DNA二本鎖切断活性が発揮されてゲノムシャッフリング効果が推定される場合、生物体の生育の遅延又は抑制や生存率の低下が観察されるからである。
【0116】
また、ゲノムシャッフリング効果は、植物体におけるBRCA1遺伝子などのDNAの修復に関する遺伝子の発現量の増大やGUSレポーター遺伝子を用いた相同組換えのレベルを指標とすることもできる。
【0117】
このようなゲノムシャッフリング方法によれば、細胞障害を低減して効率的にゲノムシャッフリングされて多様な変異を有する1又は2以上の植物体(集団)を生育させて、種子などのその繁殖用材料を得ることができる。繁殖用材料を栽培等し、その表現型や遺伝型を解析することにより、有利な変異を有する植物体を取得することができる。
【0118】
フロリゲンタンパク質などの組織間移動活性を有する本ポリペプチドを用いることで、遺伝子組換えによらないでゲノムシャッフリングを経た植物体を得ることもできる。また、植物体の生長を早めることもできる。
【0119】
本ゲノムシャッフリング方法は、遺伝子組換えによりあるいはよらないで、ゲノムに変異を有する植物体又はその集団の製造方法としても実施できる。また、本ゲノムシャッフリング方法は、遺伝子組換えによりあるいはよらないで、有性生殖又は無性生殖の繁殖用材料の製造方法としても実施できる。
【0120】
本明細書によれば、本ポリペプチド又は本ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現可能に保持する、植物体も提供される。また、本明細書によれば、遺伝子組換えによらないでゲノムに変異を有する植物体又はその集団も提供される。また、本明細書によれば、遺伝子組換えによらないでゲノムに変異を有する繁殖用材料も提供される。
【実施例】
【0121】
以下、本明細書の開示を具現化した実施例について説明する。なお、以下の実施例は、本開示を説明するものであってその範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0122】
[フロリゲンタンパク質(FT)と制限酵素(TaqI)をコードするポリペプチドを発現する植物体を得るためのコンストラクトの作製]
コンストラクトpBI 35SΩ: FT-TaqI 及び pBI HSP18.2: FT-TaqI を作製するために、まず、Arabidopsis thaliana (Col-0) のゲノムをテンプレートにして、プライマー (XhoI-HSP18.2-F:5′-actcgagtctggtggtttcaacttggg-3′(配列番号5)、 HSP18.2-SalI-BamHI-R: 5′- aggatccgtcgactgttcgttgcttttcgggag-3′)(配列番号6)でPCR増幅し、 HSP18.2 のプロモーター領域を含む DNA 断片を単離した。この DNA 断片 pBI 101N2 ベクター (Sugimoto et al.(2014) J. Exp. Bot., 65, 5385-5400) へクローニングし、pBI HSP18.2: GUS とした。
【0123】
次に、Arabidopsis thaliana (Col-0) のcDNAをテンプレートにして、プライマー (ApaI-NdeI-SalI-FT-F:5′-agggccccatatggtcgacatgtctataaatataagagaccctc-3′(配列番号7)、 FT-KpnI-R:5′-aggtaccaagtcttcttcctccgcagc-3′(配列番号8))でPCR増幅し、FTのORFのDNA断片を単離した。このDNA断片をpGEM(登録商標)−T Easyベクター (Promega) へクローニングし、pGEM FTとした。プライマー (KpnI-G-TaqI-F:5′-aggtaccggaggtggaggtgcaatggcccctacacaagccca-3′(配列番号9)、 TaqI-SacI-R: 5′- agagctctgtacctcacgggccggtgagggc-3′(配列番号10)) でPCR増幅し、TaqIの ゲノムDNA断片を単離した。このDNA断片を pGEM(登録商標)−T Easyベクターへクローニングし、pGEM TaqIとした。
【0124】
次に、pGEM FTをApaIとKpnIで処理することにより、得られたFT ORFを含む DNA断片をApaIとKpnIで処理したpGEM TaqIにクローニングし、pGEM FT−TaqIとした。pGEM FT−TaqIをテンプレートにして、プライマー (SalI-FT-F:5′-aattactatttacaattacagtcgacatgtctataaatataagagaccctc-3′(配列番号11)、 KpnI-BsrGI-R: 5′-agccgggcggccgctttacttgtacatgtacctcacgggccggtgagggc-3′(配列番号12)) でPCR増幅し、得られた FT-TaqI ORF を含むDNA断片をBsrGIとSalIで処理したpBI 35SΩ: AtPP2CFI (Sugimoto et al. (2014) Overexpression of a novel Arabidopsis PP2C isoform, AtPP2CF1, enhances plant biomass production by increasing inflorescence stem growth. J. Exp. Bot., 65, 5385-5400.) J. Exp. Bot. 65, 5385-5400) へ In-Fusion(登録商標) Dry-Down PCR Cloning Kit w/Cloning Enhancer (Clontech) を使用して(In-Fusion反応) クローニングし、pBI 35SΩ: FT-TaqI を得た。また、pGEM FT-TaqIをSacIとSalIで処理することにより、得られたFT-TaqIORFを含むDNA断片をSacIとSalIで処理したpBI HSP18.2: GUS にクローニングし、pBI HSP18.2: FT-TaqI を得た。
【実施例2】
【0125】
[シロイヌナズナ形質転換体の作製]
上記のベクターをシロイヌナズナの野生株 (Col-0)、あるいは1406株(Endo, M.ら、EMBO J., 25, 5579-5590)へFloral-dip 法(Clough, S.J.ら、Plant J., 16(1998), 735-743)を用いて形質転換した。なお、1406株は β-gluculonidase(GUS)遺伝子の一部が互いに重なるように二分割された遺伝子断片が direct orientation に配置された改変型GUSレポーター遺伝子がCol-0株に導入された株である。改変型GUSレポーター遺伝子はそれ自身では機能的なGUSを生産できないが、改変型GUSレポーター遺伝子内で相同組み換えが生じると正常なGUS遺伝子へと変換され、機能的なGUS を生産できるようになる。T1植物の選抜はカナマイシン(終濃度30μg/mL) と カルベニシリン (終濃度100μg/mL) を含むMS培地で行った。その後、スーパーミックスA (サカタのタネ) を使用して鉢上げした。
【実施例3】
【0126】
[1406株/ pBI 35SΩ: FT-TaqI の表現型観察]
コントロール株(1406株)と35SΩ: FT-TaqI 株の種子を3日間、春化処理を行った。その後、スーパーミックスA (サカタのタネ) に播種し、長日条件(16時間明条件/8時間暗条件、およそ50μmol m-2 s-1の白色蛍光灯) 下の人工気象室 (22℃、湿度約60%) で生育させた。 第一花茎が10mmに達するまでに要した時間とその時の葉の枚数を測定した。結果を図3に示す。
【0127】
フロリゲンタンパク質と制限酵素を連結した融合タンパク質を作製するにあたって、フロリゲンタンパク質としてシロイヌナズナのフロリゲンタンパク質 (FT、At1g65480)、制限酵素として TaqIを使用することにした。また、融合タンパク質を FT-TaqI と命名した。
FTタンパク質 (Wigge, P.A. (2011) FT, A Mobile Developmetal Signal in Plants. Curr. Biol., 21, R374-R378.) は葉組織で合成され、師部組織を経由して茎頂まで移動し、花芽組織の分化を誘導(開花の誘導)する。
図3(A) は播種後 24日目のコントロール株 (1406株) と1406株/ 35SΩ: FT-TaqI 株の写真である。1406株は抽苔していないのに対し、1406株/ 35SΩ: FT-TaqI 株は抽苔し花茎を伸長させていた。また、第一花茎が10mm に達した時点を開花と定義し、それまでに要した時間とその時点のロゼット葉の枚数を測定した。1406株/ 35SΩ: FT-TaqI 株はコント―ロール株 (1406株) と比較して、開花日数が7〜10日間早く、ロゼット葉の枚数も6枚程度少なかった (図3B, C)。したがって、1406株/ 35SΩ: FT-TaqI 株は生育時間と発生ステージの両面からも早期に開花していることが明らかとなった。このことから、FT-TaqI には フロリゲンタンパク質と同様の機能があり、開花を誘導できることが明らかとなった。
【実施例4】
【0128】
[Col-0/pBIHSP18.2:FT-TaqIからのnle変異株の単離]
実施例2で作製したpBIHSP18.2:FT-TaqIを導入したCol-0をMS培地(1%Sucroseを含む)(GellanGum(終濃度0.5%))に播種し、3日間、春化処理を行った。その後、人工気象室(22℃、湿度約60%)に移し、長日条件(16時間明条件/8時間暗条件、およそ50μmolm-2s-1の白色蛍光灯)下で生育させた。20〜26日間(春化処理の期間を含む)生育させた植物体はスーパーミックスAを使用して鉢上げし、種子が結実するまで栽培した。T2植物の中から、narrow leaf(nle)変異株を単離した。これらの変異株の写真を図3に示す。
【0129】
図4は変異株の播種後21日目の植物体の写真である。図4に示すように、野生株 (Col-0)と比較して、nle変異株は細長いロゼット葉を展開した。このように、FT-TaqIを植物体内で機能させることにより、次世代で表現型が変化した植物体を創出できることが明らかとなった。
【0130】
また、nle変異株の自家交配により得られたF1植物集団、および野生株とnle変異株との交配により得られたF1植物集団からはともに、nle変異株と同じ表現型を示す株と野生株と同じ表現型に復帰する株に分離する(図4)。そこで、nle変異株と同じ表現型を示す株をnarrow leaf-mutant (nle-m)、野生株と同じ表現型に復帰した株を narrow leaf-revartant(nle-r)と名付けた。上記のnle変異株の遺伝的特徴はnle変異株の原因変異がヘテロ状態で維持されていることを示す。
【実施例5】
【0131】
[nle変異株の原因変異の特定]
nle変異株の原因変異を特定するため、遺伝地図の作成を行った。nle変異株(バックグラウンドCol-0)と野生株(Ler)を交配させて得られた植物体からF1種子を得た。F1植物のうち、nle変異の表現型を示す株を自家交配させ得られたF2植物集団をマッピング集団とした。nle-r表現型(=野生株の表現型)を示すF2株を使用して、各染色体の任意の位置の核型を決定したところ、どの染色体上にもnle変異をマップすることができなかった。
【0132】
しかしながら、以下の表2に示すDNAマーカーを用いてnle-mの表現型を示すF2株を使用して核型を決定すると、解析に使用したDNAマーカーのうち、第3染色体上のマーカーChr.3_10.4MbとChr.3_23.0MbおよびChr.5_1.0MbではLerホモの核型は検出されないことがわかった。この結果は、nle-m変異株ではこれらのゲノム領域が重複している可能性を示すものである。
【0133】
【表2】
【0134】
上記の可能性を検討するため、タイリングアレイ(染色体コピー数解析)解析を行った。シロイヌナズナのタイリングアレイはアジレント社のeArrayシステムを用いて設計した。381,815個の鎖長60merプローブをシロイヌナズナゲノム上に平均空間解像度約314ntに配置したAt_tilling_400K_v3.2を設計した。また同様に177,170個の鎖長60merプローブをシロイヌナズナゲノム上に平均空間解像度約677ntに配置したAt_tilling_180K_v4を設計した。タイリングアレイはアジレント社プロトコールに従い行った。タイリングアレイのスキャニングはAgilentG2565CAマイクロアレイスキャナ(アジレント社)を用いて行った。蛍光シグナルの抽出と数値化はFeature Extractionソフトウェアを用いて行った。Relativelevelは以下の計算式で求め(Relativelevel=Log10(Cy5サンプル/Cy3コントロール)、さらに染色体上の連続する20プローブのRelative levelの平均値を求めた。nle変異株のタイリングアレイ解析結果を図5に示す。
【0135】
図5に示すように、nle-r変異株では全染色体において野生株と同じ染色体コピー数であったのに対し、nle-m変異株では第3染色体の下腕側、および第5染色体の上腕側において染色体の部分コピー数の増加(重複)が確認された。この結果はnle-m変異の遺伝地図の結果とも一致した。したがって、nle-m変異株ではFT-TaqIにより誘導されたゲノムの再編成(この場合は重複)が細い葉の表現型につながったと考えられた。
【配列表フリーテキスト】
【0136】
配列番号5〜12:プライマー
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]