(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の抵抗と第2の抵抗とに分配比が可変に構成された可変抵抗、及び交流磁気を励磁可能なコイルを備えた基準検出器、及び交流磁気を励磁可能なコイルを備えた検査検出器、を備える交流ブリッジ回路と、前記交流ブリッジ回路に交流電力を供給する交流電源と、前記交流ブリッジ回路からの出力信号に基づいて熱処理を含む表面処理を施した鋼材製品の表面特性を評価する評価装置と、を備える表面特性検査装置を用いて、前記鋼材製品の熱処理の程度を検査する表面特性検査方法であって、
熱処理が施された鋼材製品、及び該鋼材製品と同一構造の基準検体、及び前記表面特性検査装置を準備する準備工程と、
熱処理が施された鋼材製品の電磁気特性を前記表面特性検査装置によって検出する予備検出工程と、
該予備検出工程の後に該鋼材製品にショットピーニング処理を施すショットピーニング工程と、
前記基準検出器のコイルを前記基準検体に渦電流が励起するように配置すると共に、前記検査検出器のコイルを前記鋼材製品に渦電流が励起するように配置する配置工程と、
前記交流ブリッジ回路に交流電力を供給する交流供給工程と、
前記基準検出器のコイル及び前記検査検出器のコイルにそれぞれ交流磁気を励磁して、前記基準検体及び前記鋼材製品にそれぞれ渦電流を励起させると共に、前記基準検出器が基準状態を検出している状態における前記鋼材製品の電磁気特性を第1の出力信号として検出する検出工程と、
前記第1の出力信号に基づいて前記評価装置により演算した値を、第1の閾値と比較して前記鋼材製品に施されている熱処理の程度を評価する熱処理評価工程と、
を含み、
前記検出工程は、熱処理後にショットピーニング処理が施された鋼材製品に対して実行され、前記第1の出力信号は、熱処理後にショットピーニング処理を施された鋼材製品の電磁気特性であり、
前記予備検出工程は、前記基準検出器及び前記検査検出器のコイルに交流電圧を供給して、前記基準検出器及び前記検査検出器のそれぞれに配置された前記基準検体及び熱処理が施された鋼材製品にそれぞれ渦電流を励起させると共に、前記基準検出器が基準状態を検出している状態における該鋼材製品の電磁気特性を第2の出力信号として取得するものであり、
前記評価装置は、前記熱処理評価工程において、前記第1の出力信号及び前記第2の出力信号に基づいて前記鋼材製品の熱処理の程度を評価し、
前記基準検出器及び前記検査検出器の各コイルの励磁周波数は500Hz〜10×103Hzに設定されることを特徴とする表面特性検査方法。
前記第1の閾値は、前記表面処理を施していない未処理の鋼材製品の電磁気特性と、該未処理の鋼材製品に熱処理のみを適正に施した鋼材製品の電磁気特性と、に基づいて算出された値であり、
前記評価装置は、前記熱処理評価工程において、前記第1の出力信号及び前記第2の出力信号に基づいて算出された値を当該第1の閾値と比較することにより前記鋼材製品の熱処理の程度を評価することを特徴とする請求項1に記載の表面特性検査方法。
前記評価装置は、前記熱処理評価工程において、前記第1の出力信号と前記第2の出力信号との比を演算し、この値と前記第1の閾値と比較することにより前記鋼材製品の熱処理の程度を評価することを特徴とする請求項1または2に記載の表面特性検査方法。
前記第1の出力信号及び前記第2の出力信号は、共に前記基準検出器及び前記検査検出器間の電位差であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の表面特性検査方法。
前記評価装置は、前記熱処理評価工程において、更に、前記第1の出力信号を第2の閾値と比較して、前記ショットピーニング工程においてショットピーニング処理が適正に行われていたか否かを評価することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の表面特性検査方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、熱処理はSPに比べて影響層が深く、従来の表面特性検査方法では、熱処理の程度を精度よく測定することは困難であった。本発明は、表面処理として、少なくとも熱処理が施された鋼材製品を検査し、この熱処理が適正に行われたか否かを精度よく検査する方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面の表面特性検査方法は、熱処理を含む表面処理を施した鋼材製品の熱処理の程度を評価する表面特性検査方法である。この表面特性検査方法は、交流ブリッジ回路と、交流ブリッジ回路に交流電力を供給する交流電源と、交流ブリッジ回路からの出力信号に基づいて、熱処理を含む表面処理を施した鋼材製品の熱処理の程度を評価する評価装置と、を備える表面特性検査装置を用いる。交流ブリッジ回路は、第1の抵抗と第2の抵抗とに分配比が可変に構成された可変抵抗と、交流磁気を励磁可能なコイルを備えた基準検出器と、交流磁気を励磁可能なコイルを備えた検査検出器と、により構成されたブリッジ回路である。そして、この表面特性検査方法は、下記1〜5の工程を備える。これらの工程は、別々に行っても良いし、2以上を同時に行ってもよい。
(1)準備工程:少なくとも熱処理を施した鋼材製品、及び該鋼材製品と同一構造の基準検体、及び表面特性検査装置、を準備する工程。
(2)配置工程:基準検出器のコイルを前記基準検体に渦電流が励起するように配置すると共に、検査検出器のコイルを前記鋼材製品に渦電流が励起するように配置する工程。
(3)交流供給工程:交流ブリッジ回路に交流電力を供給する工程。
(4)検出工程:基準検出器のコイル及び前記検査検出器のコイルにそれぞれ交流磁気を励磁して、基準検体及び前記鋼材製品にそれぞれ渦電流を励起させると共に、基準検出器が基準状態を検出している状態における前記鋼材製品の電磁気特性を第1の出力信号として検出する工程。
(5)熱処理評価工程:評価装置によって、第1の出力信号より演算した値を第1の閾値と比較して前記鋼材製品に施されている熱処理の程度を評価する工程。
そして、前記基準検出器及び前記検査検出器の各コイルの励磁周波数を500Hz〜10×10
3Hzに設定する。
【0008】
基準検出器及び前記検査検出器の各コイルの励磁周波数を500Hz〜10×10
3Hzの範囲で設定することで、コイルより発生する渦電流が被検体に浸透する深さを熱処理の影響層の深さに合わせて設定することができる。その上で鋼材製品の電磁気特性を検出し、この結果に基づいて演算することで熱処理の程度を精度よく評価することができる。
【0009】
ここで、「表面特性」とは、被検体の最表面から内面の影響層までの特性のことをいう。また、「同一構造」とは、材質、形状が同一のことを意味し、表面処理の有無は問わない。従って、表面処理の有無に関わらず、材質、形状が同一の鋼材製品を基準検体として使用することができる。
【0010】
本発明の一実施形態の表面特性検査方法において、検出工程は、熱処理に後にショットピーニング処理が施された鋼材製品に対して実行してもよい。そして、前記第1の出力信号は、熱処理後にショットピーニング処理を施された鋼材製品の電磁気特性としてもよい。
【0011】
通常、熱処理はバッチ処理により行われるため、被検体ごとにバラツキが生じやすいと共に、表面処理の中でも影響層が深く、熱処理の程度を非破壊で精度良く評価することは困難であった。一方、SP処理はSP処理条件を制御することで、比較的安定して処理を行うことができる。このような状況において、本件発明者は、熱処理及びSPを施した後の鋼材製品の電磁気特性を評価することで、熱処理の直後に測定した場合に比べて熱処理の程度を更に精度良く評価できることを見出した。また、その評価結果を熱処理工程にフィードバックすることができる。その為、熱処理不良による製品歩留まりの低下を抑制することができる。
【0012】
本発明の一実施形態の表面特性検査方法において、前記準備工程で準備する鋼材製品は熱処理が施され、ショットピーニング処理が施されていない鋼材製品としてもよい。そして、この熱処理が施された鋼材製品の電磁気特性を前記表面特性検査装置によって検出する予備検出工程と、該予備検出工程の後に該鋼材製品にショットピーニング処理を施すショットピーニング工程と、を更に含んでも良い。前記予備検出工程は、前記基準検出器及び前記検査検出器のコイルに交流電圧を供給して、前記基準検出器及び前記検査検出器のそれぞれに配置された前記基準検体及び被検体にそれぞれ渦電流を励起させると共に、前記基準検出器が基準状態を検出している状態における前記被検体の電磁気特性を第2の出力信号として取得するものであり、前記評価装置は、前記熱処理評価工程において、前記第1の出力信号及び前記第2の出力信号に基づいて前記被検体の熱処理の程度を評価することもできる。
そして、本発明の一実施形態の表面特性検査方法における前記熱処理評価工程は、第1の出力信号と第2の出力信号との比を演算し、この値と前記第1の閾値と比較することにより前記鋼材製品の熱処理の程度を評価する工程を含んでもよい。第2の出力信号によって、鋼材製品の個体差による第1の出力信号のバラツキを少なくすることができるので、測定精度をさらに向上させることができる。
【0013】
本発明の一実施形態の表面特性検査方法における前記第1の出力信号及び前記第2の出力信号は、共に前記基準検出器及び前記検査検出器間の電位差としてもよい。閾値の設定時や検査時の周囲環境(温度、湿度、ノイズ、等)の影響を低減することができる。また、前記交流ブリッジ回路の下流に差動アンプを設けることで、電位差を増幅することができる。これにより、精度の高い検査ができる。
【0014】
一実施形態の表面特性検査方法における前記第1の閾値は、熱処理及びSP処理を施していない、即ちいずれの表面処理を施していない未処理の鋼材製品(以降、「未処理品」と記す)の電磁気特性と、この未処理の鋼材製品に熱処理のみを適正に施した鋼材製品(以降、「熱処理基準品」と記す)の電磁気特性と、に基づいて算出される値としてもよい。そして、前記熱処理評価工程は、前記第1の出力信号及び前記第2の出力信号に基づいて算出された値を当該第1の閾値と比較することにより前記鋼材製品の熱処理の程度を評価してもよい。鋼材製品の固体差による測定値のバラツキを少なくすることができるので、閾値を適切に設定することができる。
【0015】
本発明の一実施形態の表面特性検査方法における前記熱処理評価工程は、前記第1の出力信号を演算して、その値を第2の閾値と比較して前記被検体に対してSP処理が適正に行われているか否かを評価することを更に含んでもよい。SP処理に対する評価結果をSP処理にフィードバックできるので、安定したSP処理を行うことができると共に、熱処理の程度を評価する精度が向上する。即ち、熱処理不良による製品歩留まりの低下をさらに抑制することができる。
【0016】
一実施形態の表面特性検査方法における前記第2の閾値E
th2は、熱処理及びショットピーニング処理を施していない未処理の被検体を前記検査検出器に配置したときの出力信号E
A、及び前記熱処理及び前記ショットピーニング処理が適正に行われた被検体を前記検査検出器に配置したときの出力信号E
Cに基づいて下式により計算された値であり、この第2の閾値を初期値として、前記評価装置は前記熱処理評価工程を繰り返し実行してもよい。ただし、下式においては、E
Aav:出力信号E
Aの平均値、E
Cav:出力信号E
Cの平均値、σ
A:出力信号E
Aの標準偏差、σ
C:出力信号E
Cの標準偏差、とする。
【0017】
この式により、少ない測定数でも精度の高い適切な初期閾値を設定することができる。
【0018】
本発明の別の側面は、少なくとも熱処理を含む表面処理を施した鋼材製品における熱処理の程度を評価する表面特性検査装置である。この表面特性検査装置は、可変抵抗と基準検出器と検査検出器を備える交流ブリッジ回路と、前記交流ブリッジ回路に交流電力を供給する交流電源と、前記交流ブリッジ回路からの出力信号に基づいて前記鋼材製品の熱処理の程度を評価する評価装置と、を備える。可変抵抗は、第1の抵抗と第2の抵抗とに分配比が可変に構成されている。基準検出器は交流磁気を励磁可能なコイルを備えている。検査検出器は交流磁気を励磁可能なコイルを備えている。そして、前記基準検出器及び前記検査検出器の各コイルの励磁周波数は500Hz〜10×10
3Hzに設定される。
【0019】
基準検出器及び前記検査検出器の各コイルの励磁周波数をこの範囲で設定することで、コイルより発生する渦電流が被検体に浸透する深さを熱処理の影響層の深さに合わせて設定することができる。その上で鋼材製品の電磁気特性を検出し、この結果に基づいて演算することで熱処理の程度を精度よく評価することができる。
また、この表面特性検査方法に用いる表面特性検査装置は、検出信号として出力する際に被検体と同一構造の基準検体を用いていることから、測定時期の違いによる周囲の環境(温度や湿度)の影響を受けにくい。その為、測定精度を高くすることができる。
【0020】
本発明の一実施形態は、前記表面処理を施した鋼材製品を、熱処理後にショットピーニング処理を施した鋼材施品としてもよい。熱処理及びSPを施した後の鋼材製品の電磁気特性を評価することで、熱処理の直後に測定した場合に比べて熱処理の程度を精度良く評価できる。
【発明の効果】
【0021】
一側面及び一実施形態により、鋼材製品に対して少なくとも熱処理を施す表面処理が良好に行われたか否かの検査を精度よく行うことができる表面特性検査方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
本発明において表面特性を検査される鋼材製品に施されている表面処理は、鋼材製品に熱処理(焼き入れ、焼き戻し、焼き鈍し、窒化処理、オーステンパー処理等)を施した後、SP処理を施している。この表面処理を施した鋼材製品の表面特性検査方法の一側面の実施形態を第1実施形態として、図を参照して説明する。なお、以下の説明における上下左右方向は、特に断りのない限り図における方向を指す。
【0024】
(表面特性検査装置)
図1Aに示すように、本発明の実施形態による表面特性検査装置1は、交流電源10、交流ブリッジ回路20及び評価装置30を備えている。
【0025】
交流電源10は、交流ブリッジ回路20に周波数が可変の交流電力を供給可能に構成されている。
【0026】
交流ブリッジ回路20は、可変抵抗21、基準検出器22、検査検出器23、を備えている。検査検出器23は、被検体Mに渦電流を励起するようにコイルを配置可能に形成されている。また、基準検出器22は、被検体Mと同一構造の基準検体Sを配置可能に形成されている。ここで、「被検体Mと同一構造」とは、材質、形状が同一のことを意味し、表面処理の有無を問わない。
【0027】
可変抵抗21は、抵抗R
Aを分配比γで抵抗R
1と抵抗R
2とに分配することができるように構成されている。分配比γは任意に設定することができる。抵抗R1、抵抗R2は、基準検出器22及び検査検出器23とともにブリッジ回路を構成している。本実施形態では、抵抗R1と抵抗R2とを分配する点A及び基準検出器22と検査検出器23との間の点Bが表面特性検査装置1の交流電源10に接続され、抵抗R
1と基準検出器22との間の点C及び抵抗R
2と検査検出器23との間の点Dが評価装置30の増幅回路31に接続されている。また、ノイズの低減のため、基準検出器22と検査検出器23の接続点Bが接地されている。なお、基準検出器22及び検査検出器23の詳細は後述する。
【0028】
評価装置30は、増幅回路31、絶対値回路32、ローパスフィルタ(LPF)33、位相比較器34、周波数調整器35、判断手段36、表示手段37、温度測定手段38、を備えている。また記憶手段を、判断手段36の内部又は図示しない領域に備えている。
【0029】
増幅回路31は、点C及び点Dに接続され、点Cと点Dとの間の電位差、即ち、基準検出器22と検査検出器23の間の電位差が入力され、この電圧信号を増幅する。そして、増幅回路31より出力された信号は、この信号を全波整流する絶対値回路32に入力され、絶対値回路32から出力された信号は、この信号を直流に変換するLPF33を介して判断手段36に接続されている。
【0030】
位相比較器34は、交流電源10及び増幅回路31及び判断手段36に接続されており、交流電源10から供給される交流電圧と増幅回路31から出力される電圧の位相を比較し、その結果を判断手段36に出力する。
【0031】
周波数調整器35は、交流電源10及びLPF33の出力側に接続されており、LPF33の出力に基づいて交流電源10から供給される交流電圧の周波数を調整する機能を備えている。
【0032】
判断手段36は、制御信号を出力することで、交流ブリッジ回路20の点Aの位置、即ち、抵抗R
1と抵抗R
2の分配比γを変更することができるように構成されている。これにより、R
1とR
2の分配を最適化する非平衡調整(後述の可変抵抗設定工程)を行うことができる。また、LPF33からの出力に基づいて被検体Mの表面状態の良否を判断する。
【0033】
表示手段37は、判断手段36による判断結果の表示又は警告を行う。
【0034】
温度測定手段38は、評価位置の温度、即ち被検体Mの表面の温度を検出し、その温度信号を判断手段36に出力する。温度測定手段38として、非接触式の赤外センサや熱電対などを用いることができる。
判断手段36は、温度測定手段38で検出された被検体Mの温度が所定範囲内である場合に、被検体Mの表面処理状態の良否を判断する。また、温度測定手段38で検出された温度が所定範囲外である場合に、被検体Mの表面処理状態の良否の判断を行わない。後者では、被検体Mの温度が検査の精度に影響を及ぼすような場合に被検体の表面処理状態の良否の判断を行わないようにすることができるので、精度の高い検査を行うことができる。ここで、熱電対などで評価位置の温度を測定し、被検体Mの表面の温度を代表する温度として被検体Mの表面処理状態の良否を判断するか否かの判断を行う構成を採用することもできる。
【0035】
次に、基準検出器22及び検査検出器23について説明する。基準検出器22及び検査検出器23は同様の構成であり、被検体Mの評価部を挿通可能なコアの外周にコイルが巻回されて形成され、コイルを被検体Mの表面と対向させて近接させ被検体Mに渦電流を励起可能に構成された検出器とした。即ち、このコイルは、被検体の表面特性検査領域を囲むように対向されて巻回されている。ここで、被検体の表面特性検査領域を囲むとは、少なくとも表面特性検査領域の一部を包囲する(包むよう囲む)ことで、表面特性検査領域に渦電流を励起することを含むことを意味している。
【0036】
ここでは、被検体Mとして歯車部を備えたギヤGの表面特性を検査するために用いる検査検出器23について説明する。検査検出器23は、
図1Bに示すように、ギヤGの歯車部を覆うように形成された円筒状のコア23aと、コア23aの外周面に巻回されたコイル23bと、を備えている。コア23aは非磁性材料(例えば、樹脂)により形成されている。なお、コア23aの形状は、ギヤGを内側に配置できれば円筒状に限らない。なお、表面特性の検査時においては、基準検出器22には、被検体Mは配置されず、基準出力を出力するための基準検体Sを配置して検査を行うことができる。
【0037】
本実施形態の検査検出器23は、表面特性を検査したい領域に渦電流が流れるように、被検体Mに対して配置することが好ましい。つまり、コイル23bの巻方向が渦電流を流したい方向と同方向となるように配置することが好ましい。この構成により、渦電流の反応を高精度に捉えて表面特性を評価することができる。
【0038】
ギヤGはSP処理により歯車部に残留応力層が形成される。被検体MとしてギヤGを評価する場合には、歯先だけではなく、歯面及び歯底の表面特性を評価することが好ましい。そのため、コイル23bの巻方向がギヤGの回転軸とほぼ直交するようにコイル23bを配置するとよい。これにより、回転軸の方向に磁界ループが発生するため、ギヤGの回転方向に渦電流を励起させることができるので、歯先だけではなく、歯面及び歯底の表面特性を評価することができる。従来の接触型の検出器では、歯の形状に合わせて数種類の検出器を用意する必要があるとともに、接触部近傍の表面特性しか検査することができなかった。これに対し、本実施形態の表面特性検査装置1は、単一の検出器で広い範囲の表面特性を一度に検査することができる。
【0039】
検査検出器23は、コイル23bが形状を維持できればコア23aを備えていなくてもよい。このようなコイル23bは、例えば、硬化性のエポキシ樹脂等にて、空芯にて巻回したエナメル銅線を接着して形成し、若しくは、熱にて硬化する作用のある融着エナメル銅線を用いて空芯にて巻回した後に熱風や乾燥炉等の熱にて硬化させて形成してもよい。
【0040】
コイル23bが被検体Mの検査対象面を囲むように対向させて検査検出器23を配置し、交流電源10によりコイル23bに所定の周波数の交流電力を供給すると交流磁界が発生し、被検体Mの表面に交流磁界に交差する方向に流れる渦電流が励起される。渦電流は被検体Mの表面特性によって変化する。したがって、増幅回路31から出力されるC−D間の電位差の変化により電磁気特性を検出して、熱処理の程度に関する検査を行うことができる。
【0041】
また、渦電流はSP処理後の残留応力層の特性(表面処理状態)に応じて、増幅回路31から出力される出力波形(電圧波形)の位相及び振幅(インピーダンス)が変化する。この出力波形の変化により表面処理層の電磁気特性を検出し、表面処理全体の程度に関する検査を行うことができる。
【0042】
検査検出器23には、磁気シールド23cを設けてもよい。本実施形態では、磁気シールド23cを、検査検出器23の外方に被検体Mを囲むように配置した。磁気シールド23cにより、外部磁気を遮蔽することができるため、誤検知を防止することができる。
【0043】
次に、非平衡状態に調整された交流ブリッジ回路20からの出力について、
図2の等価回路を参照して説明する。基準検出器22には基準出力を出力するための基準検体Sが近接するように配置され、検査検出器23には表面処理状態の良否を判定すべき被検体Mが近接するように配置されている。ここで、基準検体Sは被検体Mと同一構造であり、好ましくは表面処理を行っていない未処理品を用いる。
【0044】
可変抵抗R
Aの分配比をγとした場合、抵抗R
1はR
A/(1+γ)、抵抗R
2はR
Aγ/(1+γ)となる。基準検出器22のインピーダンスをR
S+jωL
S、検査検出器23のインピーダンスをR
γ+jωL
Tとする。また、点Aの電位をEとし、基準検出器22、検査検出器23に各検体(基準検体S、被検体M)を近接させていないときのブリッジの各辺に流れる励磁電流をそれぞれi
1、i
2、各検体を基準検出器22、検査検出器23に近接させることにより磁気量が変化し、その変化量に応じて流れる電流をそれぞれi
α、i
βとする。このときの基準検出器22及び検査検出器23の電位E
1、E
2及び励起電流i
1、i
2は以下の式(1)〜(4)で表される。
【0049】
増幅回路31に出力される電圧はE
1、E
2の差分であり、次式で表される。
【0051】
式(5)に式(3)及び式(4)を代入して得られた式の右辺を次の成分A、Bに分けて差分電圧の各成分について考える。
成分A:
成分B:
【0052】
成分Aは、各検出器成分:(R
S+jωL
S)、(R
γ+jωL
T)、各検出器に各検体が近接したときに変化する電流量:i
α、i
βにより構成される。i
α、i
βは各検体の透磁率、導電率などの電磁気特性に起因する検体を通る磁気量によって大きさが変化する。このため各検出器から発生する磁気量を左右する励磁電流i
1、i
2を変えることでi
α、i
βの大きさを変化させることができる。また、式(3)、式(4)より、励磁電流i
1、i
2は可変抵抗の分配比γによって変わるので、可変抵抗の分配比γを調整することにより成分Aの大きさを変化させることができる。
【0053】
成分Bは、各検出器成分:(R
S+jωL
S)、(R
γ+jωL
T)、可変抵抗の分配比γで分けられた抵抗のパラメーターにより構成される。このため、成分A同様に可変抵抗の分配比γの調整により成分Bの大きさを変化させることができる。
【0054】
被検体Mを所定の位置に配置し、交流電源10により検査検出器23のコイル23bに所定の周波数の交流電力を供給すると、被検体Mの表面に交流磁界に交差する方向に流れる渦電流が励起される。渦電流は残留応力層の電磁気特性に応じて変化するため、残留応力層の特性(表面処理状態)に応じて増幅回路31から出力される出力波形(電圧波形)の位相及び振幅(インピーダンス)が変化する。この出力波形の変化により残留応力層の電磁気特性を検出し、表面処理層の検査を行うことができる。
【0055】
ブリッジの増幅回路31から出力される信号は、基準検出器22及び検査検出器23の電圧波形の差分面積を抽出した信号であり、検出器を流れる電流(励磁電流)を一定にする回路構成になっている。また、抽出された電圧信号は電力信号として考えることができる。また、検出器へ供給する電力は常に一定となる。これにより、被検体Mへ供給する磁気エネルギーも一定とすることができる。
【0056】
(表面特性検査方法)
次に、表面処理特性検査装置1による鋼材製品の表面特性検査方法について、さらに
図3を参照して説明する。
【0057】
<S01:準備工程>
表面特性検査装置1、基準検体S、未処理品、熱処理のみを施した鋼材製品(以降、「熱処理品」と記す)、を用意する。
【0058】
<S02:可変抵抗設定工程>
まず、交流電源10から交流ブリッジ回路20に交流電力を供給する。この状態で、表面特性検査装置1による検体の検出感度が高くなるように、可変抵抗21の分配比γを調整する。即ち、基準検出器22及び検査検出器23に、基準検体S、被検体Mを夫々近接させずに、交流ブリッジ回路20の出力信号が小さくなるように、可変抵抗21の分配比γを調整する。このように可変抵抗21を設定しておくことにより、検査検出器23に近接した表面処理を施した鋼材製品(以降、「表面処理品」と記す)の表面処理状態が不良である場合と、表面処理状態が良好である場合の出力信号の差異が大きくなり、検出精度を高くすることができる。具体的には、オシロスコープなど波形表示機能を持つ表示装置(例えば、判断手段36が備えている)にて交流ブリッジ回路20からの出力信号の電圧振幅、またはLPF33からの電圧出力をモニターし、出力が小さくなるように分配比γを調整する。好ましくは、出力が最小値又は極小値(局所平衡点)をとるように、可変抵抗21の分配比γを調整して、設定する。
【0059】
可変抵抗21の分配比γの調整は、増幅回路31の出力電圧(E
2−E
1)を小さくすることにより表面状態の差異に応じた出力差を増大させ、検査精度を向上させるために行われる。上述したように成分A、Bは分配比γを調整することにより変化するため、基準検出器22、検査検出器23のインピーダンス(R
S+jωL
S)、(R
γ+jωL
T)に応じて、可変抵抗21の分配比γを調整し、交流ブリッジ回路20からの差分出力である増幅回路31の出力電圧(E
2−E
1)を小さくすることができる。これにより、基準検出器22と検査検出器23との特性の違いを軽減して、被検体Mの本来の特性を少しでも大きく抽出することができるので、検査精度を向上させることができる。
【0060】
<S03:周波数設定工程>
基準検体Sを基準検出器22に近接させた状態で、交流電源10から交流ブリッジ回路20に交流電力を供給し、周波数調整器35により交流ブリッジ回路20に供給する交流電力の周波数を変化させて交流ブリッジ回路20から電圧振幅出力またはLPF33からの電圧出力をモニターする。
【0061】
周波数調整器35は、周波数調整器35において設定された初期周波数f
1になるように交流電源10へ制御信号を出力し、周波数f
1における増幅回路31からの出力電圧E
f1が周波数調整器35に入力され、記憶される。続いて、周波数f
1よりも所定の値、例えば100Hz高い周波数f
2になるように交流電源10へ制御信号を出力し、周波数f
2における増幅回路31からの出力電圧E
f2が周波数調整器35に入力され、記憶される。続いて、E
f1とE
f2との比較を行い、E
f2>E
f1であれば、周波数f
2よりも所定の値だけ高い周波数f
3になるように制御信号を出力し、周波数f
3における増幅回路31からの出力電圧E
f3が周波数調整器35に入力され、記憶される。そして、E
f2とE
f3との比較を行う。これを繰り返し、E
fn+1<E
fnとなったときの周波数f
n、つまり出力が最大となる周波数f
nを、閾値設定工程S04及び交流供給工程S05で用いる周波数として設定する。これにより、表面処理状態、形状などが異なりインピーダンスが異なる被検体Mに対応して交流ブリッジ回路20からの出力を大きくする周波数を一度の操作により設定することができる。最適な周波数は、被検体の材料、形状、表面処理状態により、変化することとなるが、これがあらかじめわかっている場合、周波数の設定は不要である。これにより、表面処理状態の変化に出力が敏感に対応し、検査の感度を向上させることができる。ここで、周波数設定工程S03は、可変抵抗設定工程S02よりも先に実施することもできる。
【0062】
<S04:第1の閾値設定工程>
表面処理品の表面状態の良否を判断するために用いる閾値を設定する。ここでは、表面処理品の評価開始時に用いるために予め設定しておく閾値(以下、「第1の初期閾値」と記す)の設定方法について説明する。まず、基準検体Sを基準検出器22に近接させ、周波数設定工程S03において設定された周波数の交流電力を交流電源10から交流ブリッジ回路20に供給する。交流ブリッジ回路20から出力された電圧出力は、増幅回路31で増幅され、絶対値回路32において全波整流を行い、LPF33において直流変換を行い、判断手段36へ出力される。被検体Mとして未処理品(熱処理又はSP処理のいずれも施されていない鋼材製品)及び熱処理基準品(熱処理のみを適正に施した鋼材製品)をそれぞれ10〜数10個程度用意し、まず、各未処理品を検査検出器23に近接させて、全ての未処理品の出力値E
Aを計測し、その平均値E
Aavを算出する。次いで、各熱処理基準品を検査検出器23に近接させて出力値E
Bを計測し、未処理品の出力値の平均値に対する熱処理基準品の比E
B/E
Aavを算出する。これより得られた値の最小値が第1の初期閾値E
th1となる。
【0063】
これにより、少ない測定数により精度の高い適切な閾値を設定することができる。この初期閾値E
th1を閾値として設定し、記憶手段に記憶させておく。
【0064】
また、第1の初期閾値E
th1を設定する別の方法として、例えば、未処理品の出力値E
A及びその標準偏差σ
A、適正に熱処理基準品の出力値E
B及びその標準偏差σ
Bに基づいて、次式によって定めることができる。この式によって第1の初期閾値を定めた場合には、後述する評価工程において、第2の出力信号である電圧値と第1の初期閾値を比較することにより、良否を判断することができる。
【0066】
また、適当な閾値が予め判っている場合には、その値を第1の閾値E
th1とすることもできる。
【0067】
更に、第1の閾値設定工程S04では検査検出器23に被検体Mが近接していない状態での出力信号を第1の初期オフセット値E
i1として記憶手段に記憶させておく。
【0068】
<S05:交流供給工程>
周波数設定工程S03において設定された周波数の交流電力を交流電源10から交流ブリッジ回路20に供給する。ここで、基準検体Sは基準検出器22に近接している。
【0069】
<S06:熱処理品配置・予備検出工程>
熱処理品(熱処理のみを施した鋼材製品)を被検体Mとして検査検出器23に近接させ、被検体Mに渦電流が励起されるように配置する。同時に、基準検体Sを基準検出器22に近接させている状態で、交流ブリッジ回路20のC−D間の電位差の信号を出力させる。この信号は、増幅回路31で増幅され、絶対値回路32において全波整流され、LPF33において直流変換された電位差の信号が第2の出力信号として予備的に検出される。ここで、基準状態とは検査検出器23からの出力と比較する為の基準となる状態のことを指す。
【0070】
この時、温度測定手段38は、被検体Mが検査検出器23に近接する前、または被検体Mの配置後に被検体Mの表面の温度を測定し、その温度の信号を判断手段36に出力する。
【0071】
<S07:検査状態判断工程>
被検体Mの検査状態の良否を判定する。位相比較器34により交流電源10から供給される交流電力の波形と交流ブリッジ回路20から出力される交流電圧波形を比較し、それらの位相差を検出する。この位相差をモニターすることにより、検査状態が良好である(例えば、検査検出器23と被検体Mの位相ずれがない)か否かを判断することができる。交流ブリッジ回路20からの出力が同じであっても、位相差が大きく変化した場合には、検査状態に変化があり、検査が適正に行われていない可能性があると判断することができる。
【0072】
また、判断手段36は、温度測定手段38で検出された被検体Mの温度が所定範囲内である場合に、被検体Mの表面処理状態の良否を判断し、温度測定手段38で検出された温度が所定範囲外である場合に、被検体Mの表面処理状態の良否の判断を行わない。ここで、所定の温度範囲は、被検体Mの温度変化が検査に実質的に影響を及ぼさない温度範囲であり、例えば、0〜60℃と設定することができる。被検体Mの表面の温度が所定の温度範囲外であった場合には、被検体Mが所定の温度範囲内になるまで待機する、被検体Mにエアを吹き付ける、被検体Mの検査を行わず別のラインに移動させる、などを行うことができる。
【0073】
<S08:熱処理品の電位差信号記憶工程>
検査状態判断工程S07で被検体Mの検査状態が「良」と判定された場合、熱処理品配置・予備検出工程S06においてLPF33で直流変換された電位差の信号を第2の出力信号として記憶手段で記憶する。
【0074】
<S09:SP処理工程>
電位差E
hを測定した熱処理品に対して、SP処理を施す。SP処理は、高硬度(例えば、ビッカース硬さHvが500〜850)のショット(略球形若しくは切断された線材を丸め加工したもの)などを高速度で被処理材に衝突させて行う。なお、上述のビッカース硬さの数値はJIS Z2244(2009)により記載された試験方法で測定されたものである。
【0075】
投射材は、粒径0.5〜4.0mmの範囲から適宜選定することができる。また、投射条件としては、例えば、直圧式ショットピーニング装置を用いた場合、投射圧は0.05〜0.7MPa、投射量は最大20kg/min、という高強度の条件を採用することができる。
【0076】
例えば、粒径0.6mm、ビッカース硬さHv700のスチール製のショットを用い、噴射圧力を0.3MPa、噴射量を13kg/min、投射時間を10秒としてSP処理を行うことができる。
【0077】
<S10:表面処理品配置・検出工程>
表面処理品(SP工程後の鋼材製品)を被検体Mとして、熱処理品配置・予備検出工程S06と同様の工程を行い、LPF33において直流変換された電位差の信号が第1の出力信号として検出される。
【0078】
<S11:検査状態判断工程>
被検体Mの検査状態の良否を判定する。この工程は、検査状態判断工程S07と同様の工程である。
【0079】
<S12:表面処理品の電位差信号記憶工程>
検査状態判断工程S11で被検体Mの検査状態が「良」と判定された場合、表面処理品配置・検出工程S10においてLPF33で直流変換された電位差の信号を第1の出力信号として記憶手段で記憶する。
【0080】
<S13:熱処理の評価工程>
鋼材製品に適正に熱処理が施されているか否かを判定する工程である。まず、第2の出力信号である出力電圧値E
Hに対する第1の出力信号である出力電圧値E
Sの比(出力電圧比:E
S/E
H)を判断手段36にて演算する。この出力電圧比を第1の閾値E
th1とを比較し、熱処理が適正に施されているか否かを判断手段36によって判定する。例えば、後述の実施例の場合、出力電圧比が第1の閾値E
th1を下回っていたら「熱処理が適正に施されていた(良品)」と判断し、出力電圧比が第1の閾値E
th1以上の場合は「熱処理が適正に施されていない(不良品)」と判断する(
図4参照)。判断手段36による判断結果は、表示手段37により表示され、「熱処理が適正に施されていない」と判定した場合には警告を発する。
【0081】
熱処理品配置工程S06及び表面処理品配置工程S10において被検体Mに渦電流を励起させた際の基準検出器22及び検査検出器23の各コイルの励磁周波数を500Hz〜10×10
3Hzに設定することができる。コイルより発生する渦電流が被検体Mに浸透する深さを熱処理の影響層の深さに合わせて設定することができるので、熱処理の条件にあわせて適切な評価を行うことができる。
【0082】
なお、上述のSP処理工程で、予め見出した最適なSP処理の条件で常に適切なSP処理を行った場合は、熱処理の程度のみが表面処理が適正に行われているか否かの判定に影響を及ぼす。この場合は、熱処理の評価工程S13により、表面処理全体の評価を兼ねることができる。
【0083】
また、自動化可能なシステムとして構築した際に、前述の熱処理の評価工程S13において「熱処理が適正に施されていない(不良品)」と判断された結果を熱処理工程にフィードバックするシステムを構成することもできる。検査結果に応じて熱処理条件を修正することができるので、熱処理不良による鋼材製品の不良品発生率を低減することができる。
【0084】
(実施例)
一実施形態の表面特性検査方法を用いて、ギヤGの表面特性を検査した結果について説明する。クロムモリブデン鋼材で構成され、適正な条件にてガス浸炭焼き入れを行ったギヤG(良品)と、不適正な条件で熱処理を行ったギヤG(不良品)をそれぞれ用意する。ここでの、「不適正な条件」とは、適正な条件で2度ガス浸炭焼き入れを行った。SP処理は、粒子径600μmの鉄系ショット(新東工業株式会社製)をエア式のショットピーニング装置(新東工業株式会社製)を用いて、0.3MPaの噴射圧力にて行った。
【0085】
図4に、熱処理品を測定した場合における出力値E
Hに対する表面処理品を測定した場合における出力値E
Sの比(出力電圧比:E
S/E
H)を演算した結果を示す。熱処理が適正に行われているか否かによって、出力電圧比に差異が生じている。第1の閾値E
th1を適切に設定することで、熱処理が適切に行われたか否かを判定することができる。
【0086】
次に、別の実施形態を第2実施形態として説明する。なお、以下の説明では第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0087】
別の実施形態では、第1実施形態と同様の表面特性検査装置を用い、熱処理が適正に行われたか否かの判定と、SP処理が適正に行われたか否かの判定と、の双方を行う。
【0088】
図5に、第2実施形態の表面特性検査方法のフロー図を示す。
【0089】
準備工程S101、可変抵抗設定工程S102、周波数設定工程S103、第1の閾値設定工程S104、は順に第1実施形態におけるS01〜S04と同じである。
【0090】
<S105:第2の閾値設定工程>
熱処理及びSP処理による表面処理全体の程度に関する検査を行う際の、表面処理品の表面状態の良否を判断するために用いる閾値を設定する。ここでは、表面処理品の評価開始時に用いるため、あらかじめ設定しておく閾値(以下、「第2の初期閾値」と記す)の設定方法について説明する。まず、基準検体Sを基準検出器22に近接させ、周波数設定工程S103において設定された周波数の交流電力を交流電源10から交流ブリッジ回路20に供給する。交流ブリッジ回路20から出力された電圧出力は、増幅回路31で増幅され、絶対値回路32において全波整流を行い、LPF33において直流変換を行い、判断手段36へ出力される。未処理品と適正に表面処理(熱処理及びSP処理)された良品と判断されるものとをそれぞれ10〜数10個程度用意し、検査検出器23にそれぞれの被検体を近接させたときに判断手段36へ出力された出力値から、出力値の分布データを取得する。
図6に模式的に示す。
【0091】
第2の初期閾値E
th2は、検査検出器23に未処理の被検体Mを配置したときの出力信号E
A及び検査検出器23に良品である表面処理後の被検体Mを配置したときの出力信号E
Cに基づいて、それぞれの出力信号のばらつきを考慮し、次式により定める。
図6に未処理の被検体の出力信号E
A及び表面処理後の被検体の出力信号E
Cの分布を模式的に示す。
【0093】
これにより、少ない測定数により精度の高い適切な閾値を設定することができる。この第2の初期閾値E
th2を閾値として設定し、判断手段36に記憶させておく。ここで、第2の初期閾値E
th2は、出力信号E
Aの最大値E
Amax及び出力信号E
Cの最小値E
Cminとの間に、
の関係を持つ。
【0094】
なお、上記関係が成立しない場合にも、出力信号E
A及び出力信号E
Cのばらつき、分布から大きく外れた特異的な測定値がないか、など考慮して、適切な第2の初期閾値E
th2を設定することができる。例えば、同じ被検体の未処理状態、表面処理状態を複数個測定し、これを用いて初期閾値E
th2を再度算出する等の方法がある。
【0095】
また、適当な閾値があらかじめわかっている場合には、その値を第2の閾値E
th2とすることもできる。
【0096】
更に、第2の閾値設定工程S105では検査検出器23に被検体Mが近接していない状態での出力信号を第2の初期オフセット値E
i2として記憶手段に記憶させておく。
【0097】
交流供給工程S106は第1実施形態におけるS05と同じである。
【0098】
<S107:未処理品配置・予備検出工程>
未処理品を被検体Mとして、第1実施形態における熱処理品配置工程S06と同様の工程を行う。
【0099】
<S108:検査状態判断工程>
被検体Mの検査状態の良否を判定する。この工程は、第1実施形態における検査状態判断工程S07と同様の工程である。
【0100】
<S109:未処理品の電位差信号記憶工程>
検査状態判断工程S108で被検体Mの検査状態が「良」と判定された場合、未処理品配置工程S107においてLPF33で直流変換された電位差の信号を記憶手段で記憶する。
【0101】
熱処理品配置工程S110、熱処理品の検査状態判断工程S111、熱処理品の電位差信号記憶工程S112、SP処理工程S113、表面処理品配置工程S114、表面処理品の検査状態判断工程S115、表面処理品の電位差信号記憶工程S116、熱処理の評価工程S117、は順に第1実施形態におけるS06〜S13と同じである。
【0102】
<S118:表面処理全体の評価工程>
表面処理品が適正に表面処理が施されているか否かを判定する工程である。第1の出力信号である出力電圧値E
sと第2の閾値E
th2を比較し、出力電圧値E
sが第2の閾値E
th2を下回っていたら「表面処理が適正に施されていた(良品)」と、出力電圧値E
sが第2の閾値E
th2以上の場合は「表面処理が適正に施されていない(不良品)」と、判断手段36によって判断する。判断手段36による判断結果は、表示手段37により表示され、「表面処理が適正に施されていない」と判定した場合には警告を発する。
また、熱処理の評価工程S117において「熱処理が適正に施されている」と判定され、表面処理全体の評価工程S118において「表面処理が適正に施されていない」と判定された場合には、SP処理が適正に施されていない可能性があるため、その旨を警告すると共に、このとこをSP処理にフィードバックすることもできる。
【0103】
(第1の閾値及び第2の閾値の更新)
第1実施形態及び第2実施形態において、第1の初期閾値E
th1は、検査検出器23に未処理の被検体Mを配置したときの出力信号E
A及び検査検出器23に表面状態が良好である表面処理後の被検体Mを配置したときの出力信号E
Bの差が大きい場合などには、出力信号E
Aの平均値E
Aav側に近づいて、良品と判定される出力の幅が大きくなる可能性がある。第2の初期閾値E
th2も同様である。そのため、更に精度の高い閾値を設定したい場合には、第1の初期閾値E
th1及び第2の初期閾値E
th2を用いて繰り返し測定を行うことにより蓄積された数多くの検査データに基づいて、閾値を設定し直すことができる。
【0104】
(測定値の校正)
第1実施形態及び第2実施形態において、前述した第1の初期オフセット値E
i1及び第2の初期オフセット値E
i2と、第1の検査オフセット値E
ik1及び第2の検査オフセット値E
ik2と、を用いて測定値の校正を行うことができる。
また、未処理品配置・予備検出工程S107において取得され、未処理品の電位差信号記憶工程S109において記憶された検出信号を利用して、第1又は第2の閾値を修正し、又は、熱処理評価及び/又は表面処理評価の信頼度を評価することもできる。
【0105】
(第1実施形態及び第2実施形態の効果)
以上のように、表面処理として熱処理及びSP処理を行った鋼材製品に対する、表面処理が適正に行われたか否かの評価は、SP処理後の鋼材製品の測定を行うことで、良好に評価できる。この事項について
図7A及び
図7Bを用いて説明を加える。
【0106】
図7A及び
図7Bは、いずれも前述の実施例のギヤGを測定した結果を編集したグラフである。
図7Aは、SP処理前後におけるギヤG(良品)及びギヤG(不良品)それぞれの測定電圧を示す。SP前におけるギヤG(良品)及びギヤG(不良品)の測定値の差ΔE1と、SP後におけるギヤG(良品)及びギヤG(不良品)の測定値の差ΔE2と、を比較すると、明らかにΔE2の方が大きい。これは、SP処理後のギヤGを測定する方が、より精度の高い判定を行うことができることを示唆している。
【0107】
図7Bは、SP処理前後におけるギヤG(良品)及びギヤG(不良品)それぞれの測定電圧の比(1−(ギヤG(良品)/ギヤG(不良品))×100)を示す。SP後の値の方が明らかに大きくなっていることから、
図7Aと同様にSP処理後のギヤGを測定する方が、より精度の高い判定を行うことができることを示唆している。