(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態を説明する。
図1(a)は、本発明に係るX線分析システム100を上面から見た図である。
図1(b)は、本発明に係るX線分析システム100を側面から見た図である。X線分析システム100は、搬送装置102と、気相分解装置104と、X線分析装置106と、を有する。なお、
図1に示した配置レイアウトは一例に過ぎず、他の配置レイアウトであってもよい。また、一体となったシステムとして説明しているが、独立した各装置が直接またはホストコンピュータ等を介して通信し、連動動作していてもよい。
【0018】
搬送装置102は、測定対象となる測定試料108を搬送する。具体的には、例えば、搬送装置102は、高さを変化できる台座部110と、台座部110を移動させるレール部112と、測定試料108を配置するハンド部114と、伸縮する伸縮部116と、とを有する。搬送装置102は、台座部110と、レール部112と、伸縮部116が動作することにより、測定試料108を気相分解装置104と、X線分析装置106と、の間で搬送する。
【0019】
気相分解装置104は、乾燥部117及び試料設置台118を有する気相分解部120と、気相分解部120を制御する制御部132と、を有する。また、回転台122、回収アーム124、ノズル126及びヒーター128を有する回収部130を有してもよい。
【0020】
気相分解部120は、測定試料108表面に形成された薄膜を気相分解する。具体的には、まず、測定試料108は、搬送装置102によって気相分解部120の内部に搬送され、試料設置台118に配置される。測定試料108は、例えばシリコン(Si)基板の表面に、酸化ケイ素(SiO
2)の薄膜が形成された基板である。
【0021】
その後、導入管を介して気相分解部120の内部に、測定試料108の表面に形成された薄膜と反応する気体が導入される。当該気体が薄膜に曝されることにより、薄膜は溶解される。例えば、導入管を介して気相分解部120の内部に、フッ化水素が導入される。当該フッ化水素は、シリコン基板の表面に形成された酸化ケイ素(SiO
2)の薄膜を溶解する。気相分解部120の内壁や試料設置台118は、例えばポリテトラフルオロエチレン等のフッ化水素により腐食しない材料で形成される。
【0022】
乾燥部117は、気相分解により測定試料108に生じる液滴を乾燥させ、被測定物を基板の表面に保持する。具体的には、例えば、乾燥部117は、不活性ガス導入配管および排出配管を有する。乾燥部117は、不活性ガス導入配管を介して気相分解部120内に不活性ガスを導入し、フッ化水素を追い出す。不活性ガスは、例えば、清浄な窒素である。これにより、乾燥部117は、測定試料108に生じた液滴を乾燥させる。なお、乾燥部117は、不活性ガスを流す代わりに、または不活性ガスを流すことに加えて、気相分解部120の内部を減圧して、さらには試料設置台118に内蔵されたヒーターにより加熱して、測定試料108に生じた液滴を乾燥させてもよい。
【0023】
回収部130は、気相分解部120で薄膜が溶解・乾燥された後に、被測定物を取り込む回収液を基板表面で移動させて、濃縮回収する回収動作を行う。具体的には、まず、気相分解部120によって薄膜が溶解・乾燥された後、測定試料108は、搬送装置102によって回収部130の内部に搬送される。測定試料108は、回転台122の回転軸に中心を合わせて配置される。
【0024】
次に、ノズル126は、測定試料108に回収液を滴下する。回収アーム124は、ノズル126が回収液を保持した状態で、回収液を基板の中心から基板端部に向かって移動させる。回収アーム124が液滴を移動させる際、回転台122が測定試料108を回転させることで、回収液は測定試料108全体に付着した被測定物を取り込む。
【0025】
回収アーム124は、基板上の被測定物を回収液に回収した後、測定試料108の予め設定した位置で回収液をノズル126から離す。これにより、被測定物が取り込まれた回収液が基板上の所定の位置に残される。回収液は、例えば、フッ化水素酸溶液である。
【0026】
ヒーター128は、回収液を乾燥させ、基板の全面から回収した被測定物を基板の表面上の1点に保持させる。具体的には、例えば、ヒーター128は、ハロゲンランプである。ヒーター128は、ノズル126から離された回収液を加熱し、乾燥させる。
【0027】
制御部132は、膜厚又は付着量に基づいて、気相分解時間を決定する。具体的には、例えば、制御部132は、PC(Personal Computer)などの情報処理装置である。気相分解に必要な時間は、薄膜の材料、膜厚、密度及び付着量等によって異なる。制御部132は、後述する方法によって、適切な気相分解時間を決定する。
【0028】
X線分析装置106は、測定試料108の表面に形成された薄膜の膜厚又は付着量を算出する。具体的には、例えば、X線分析装置106は、蛍光X線の強度に基づいて元素分析を行う蛍光X線分析装置106である。X線分析装置106は、試料台134と、X線源136と、検出器138と、計数器140と、演算部142と、を有する。
【0029】
試料台134は、測定試料108が配置される。具体的には、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、測定試料108が搬送装置102によって搬送されることで、試料台134は、測定する薄膜が形成された面を上側に測定試料108が配置される。
【0030】
X線源136は、表面に薄膜が存在する測定試料108に1次X線を照射する。具体的には、例えば、X線源136は、測定試料108の全反射臨界角度を跨いで、測定試料108の表面に対する入射角度を変えながら1次X線を照射する。X線源136は、測定試料108の表面に対して、全反射臨界角度の前後0.3度の角度範囲で、照射する(説明上、実際の照射角度より大きい角度で図示している)。ここで、全反射臨界角度は、測定試料108に固有の角度である。角度範囲は、後述する微分曲線から全反射臨界角度を取得できる範囲で設定される。1次X線が照射された測定試料108は、蛍光X線を発生する。
【0031】
検出器138は、1次X線により発生した蛍光X線の強度を測定する。具体的には、例えば、検出器138は、SDD検出器等の半導体検出器である。検出器138は、蛍光X線の強度を測定し、測定した蛍光X線のエネルギーに応じた波高値を有するパルス信号を出力する。検出器138は、X線源136が測定試料108に対する蛍光X線の入射角度を変えるごとに蛍光X線の強度を測定する。
【0032】
計数器140は、検出器138の測定強度として出力されるパルス信号を、波高値に応じて計数する。具体的には、例えば、計数器140は、マルチチャンネルアナライザであって、検出器138の出力パルス信号を、蛍光X線のエネルギーに対応したチャンネル毎に計数し、蛍光X線の強度として演算部142に出力する。
【0033】
演算部142は、反射X線または蛍光X線の強度に基づいて、測定試料108に含まれる分析元素を含む薄膜の膜厚又は付着量を算出する。具体的な、演算部142が行う処理は、気相分解時間及び乾燥時間を決定する方法とともに説明する。
【0034】
図2は、本発明に係る気相分解時間及び乾燥時間を、膜厚又は付着量に基づいて決定する方法を示すフローチャートである。まず、X線分析装置106は、膜厚又は付着量と、X線強度と、の関係を取得する(S202)。具体的には、X線分析装置106は、膜厚又は付着量が既知である試料の膜厚又は付着量と、当該試料から発生する蛍光X線の強度と、の関係を取得する。例えば、演算部142に含まれる記憶部(図示なし)に、膜厚又は付着量と、蛍光X線の強度と、の関係を示す情報が記憶されることで、X線分析装置106は、膜厚とX線強度の関係を取得する。
【0035】
なお、気相分解装置104が記憶部を有する構成としてもよい。具体的には、気相分解装置104に含まれる制御部132が、膜厚又は付着量とX線強度との関係を示す情報を記憶する記憶部を有する構成としてもよい。また、X線分析装置106と気相分解装置104が分離された構成とする場合には、当該記憶部は、X線分析装置106及び気相分解装置104の双方と情報の送受信を行うホストコンピュータに含まれてもよい。
【0036】
図3は、シリコン基板の表面に形成された酸化ケイ素(SiO
2)の薄膜の膜厚と、X線強度比率と、の関係を示す図である。薄膜が形成されていない基板のX線強度を基準にするため、
図3の縦軸は、X線強度ではなくX線強度比率としている。X線強度比率は、シリコン基板上に薄膜が形成されていない試料を測定した場合と、シリコン基板上に薄膜が形成されている試料を測定した場合と、におけるSi元素に起因する蛍光X線であるSi−Kα線の強度の比率である。
【0037】
図3に示すように、薄膜の膜厚が厚くなるほど、X線強度比率は低下する。酸化ケイ素(SiO
2)の薄膜に起因するSi−Kα線の強度は、薄膜の膜厚が厚くなるほど強くなるが、当該事象は、シリコン基板から発生するSi−Kα線が、酸化ケイ素(SiO
2)の薄膜によって吸収されることに起因する。薄膜を構成する元素が、基板を構成する元素と異なる場合は、薄膜を構成する元素に起因する蛍光X線の強度を用いてもよい。この場合、薄膜の膜厚が厚くなるほど薄膜を構成する元素に起因する蛍光X線の強度は強くなる。X線分析装置106は、薄膜の膜厚又は付着量が既知である試料から発生する蛍光X線の強度を予め測定することによって、膜厚又は付着量とX線強度(またはX線強度比率)との関係を取得する。なお、X線分析装置106は、文献値に基づいて膜厚又は付着量とX線強度(またはX線強度比率)との関係を取得してもよい。ここでは蛍光X線分析装置を例に説明しているが、一般的には、X線反射率計やエリプソメータを用いて膜厚又は付着量を測定することも多い。
【0038】
次に、試料台134に測定試料108が配置される(S204)。以下において、測定試料108は、シリコン基板の表面に酸化ケイ素(SiO
2)の薄膜が形成された基板であるとして説明する。測定試料108は、搬送装置102によって試料台134に配置される。
【0039】
次に、演算部142は、計数器140が計数した蛍光X線の強度を取得する(S206)。具体的には、X線源136は、1次X線を測定試料108に照射する。演算部142は、検出器138で検出して計数器140が計数したSi−Kα線の強度を取得する。さらに、演算部142は、シリコン基板上に薄膜が形成されていない試料に対して1次X線を照射した場合に測定されるSi−Kα線の強度と、取得したSi−Kα線の強度と、の比率を算出する。
【0040】
次に、演算部142は、膜厚又は付着量を算出する(S208)。具体的には、演算部142は、S206で算出したX線強度比率と、S202で取得した膜厚又は付着量とX線強度比率との関係と、に基づいて測定試料108に形成された薄膜の膜厚を算出する。
図3に示すように、膜厚とX線強度比率は比例関係にあるため、演算部142は、S206で算出したX線強度比率によって、膜厚を算出できる。
【0041】
なお、X線分析装置106は、先に付着量を測定した上で、当該付着量に対して、所定の密度(後述のρ
0)で除算することで膜厚を算出してもよい。この場合、まず、X線分析装置106は、付着量と、X線強度(またはX線強度比率)と、の関係を取得する(S202)。次に、演算部142は、S206で算出したX線強度(またはX線強度比率)と、S202で取得した付着量とX線強度(またはX線強度比率)との関係と、に基づいて測定試料108に形成された薄膜の付着量を算出する。さらに、演算部142は、当該付着量を所定の密度で除算することで膜厚を算出してもよい。
【0042】
次に、制御部132は、膜厚又は付着量に基づいて、気相分解時間及び乾燥時間を決定する(S210)。具体的には、例えば、制御部132は、予め設定された膜厚又は付着量と気相分解時間との関係に基づいて、S208で算出した膜厚又は付着量と対応する時間を測定試料108に適用する気相分解時間として決定する。
【0043】
また、制御部132は、予め設定された膜厚又は付着量と乾燥時間との関係に基づいて、S208で算出した膜厚又は付着量と対応する時間を測定試料108に適用する乾燥時間として決定する。予め設定された膜厚又は付着量と気相分解時間の関係、及び、予め設定された膜厚又は付着量と乾燥時間の関係は、例えば、実験的に求められる。当該関係は、記憶部に記憶される。記憶部は、制御部132、演算部142又はホストコンピュータに設けられる。ホストコンピュータは、X線分析装置106及び気相分解装置104と情報の送受信を行う情報処理装置である。
【0044】
図4は、予め設定された膜厚と気相分解時間との関係の一例を示す図である。薄膜の膜厚が大きい程、気相分解に要する時間は長くなる。従って、
図4に示すように、膜厚に対応する気相分解時間は、膜厚が大きくなるにつれて長くなるように設定される。各膜厚に対応する気相分解時間は、測定結果に基づいて薄膜が十分に溶解される時間がそれぞれ設定される。
【0045】
図5は、予め設定された膜厚と乾燥時間との関係の一例を示す図である。薄膜の膜厚が大きい程、気相分解により基板上に生じる液滴が多くなり、乾燥に要する時間は長くなる。従って、
図5に示すように、膜厚に対応する乾燥時間は、膜厚が大きくなるにつれて長くなるように設定される。各膜厚に対応する乾燥時間は、測定結果に基づいて液滴が十分に乾燥する時間がそれぞれ設定される。
【0046】
なお、制御部132は、薄膜の材料ごとに異なる関係に基づいて、気相分解時間を決定してもよい。具体的には、薄膜の膜厚が同一であっても材料が異なる場合、気相分解に要する時間は異なる。そこで、制御部132は、薄膜の材料ごとに、当該材料と対応する関係を用いて、気相分解時間を決定してもよい。同様に、制御部132は、薄膜の材料ごとに異なる関係に基づいて、乾燥時間を決定してもよい。
【0047】
また、制御部132は、S208で算出した膜厚に、予め設定された定数を乗ずることによって、気相分解時間及び乾燥時間を決定してもよい。また、薄膜の材料によって必要な気相分解時間及び乾燥時間は異なるため、制御部132は、算出した膜厚に薄膜の材料ごとに異なる定数を乗じて気相分解時間及び乾燥時間を決定してもよい。さらに、膜厚が厚くなるほど、必要な気相分解時間及び乾燥時間は長くなる計算方法であれば、制御部132は、単に算出した膜厚に定数を乗じるのではなく、他の計算方法によって気相分解時間及び乾燥時間を算出してもよい。
【0048】
さらに、予め設定された膜厚と気相分解時間との関係、及び、予め設定された膜厚と乾燥時間との関係は、薄膜の密度が所定の値であることを想定して決定されることが望ましい。例えば、
図4に示す膜厚と気相分解時間との関係、及び、
図5に示す膜厚と乾燥時間との関係は、酸化ケイ素(SiO
2)の密度がρ
0であることを前提として決定された関係である。
【0049】
以上のように、単に膜厚又は付着量のみを測定することによって、適切な気相分解の条件を簡便に算出することができる。これにより、未熟な技術者であっても、適切な気相分解の条件を算出することができるようになる。
【0050】
図2に示すフローチャートでは、膜厚又は付着量に基づいて気相分解時間及び乾燥時間を算出する方法について説明したが、薄膜の密度に基づいて気相分解時間及び乾燥時間を補正してもよい。
【0051】
図6は、本発明に係る気相分解時間及び乾燥時間を、密度に基づいて決定する方法を示すフローチャートである。なお、前提として、
図2に示すフローによって、気相分解時間及び乾燥時間が算出されているものとして説明する。
【0052】
まず、試料台134に測定試料108が配置される(S602)。S204と同様、測定試料108は、搬送装置102によって試料台134に配置される。
【0053】
次に、X線分析装置106は、蛍光X線強度の入射角度依存性を測定する(S604)。具体的には、X線源136は、測定試料108の全反射臨界角度を跨いで、測定試料108の表面に対する入射角度を変えながら1次X線を照射する。演算部142は、1次X線の測定試料108への入射角度ごとに、計数器140が計数した蛍光X線の強度を取得する。
【0054】
図7は、薄膜が形成されていないシリコン基板に対して測定された、入射角度と基板の構成元素であるSiの蛍光X線(Si−Kα線)の強度との関係を表す一例である。
図7に示すように、入射角度が大きくなると、特定の角度を境界に蛍光X線の強度が急激に増加する。また、入射角度と蛍光X線の強度との関係は変曲点を有する。変曲点より大きい角度では、蛍光X線の強度の傾きは徐々に緩やかになる。
【0055】
当該蛍光X線強度の変化は、以下の現象により起こる。入射角度が全反射臨界角度より小さい場合、1次X線は、測定試料108表面で全反射することにより測定試料108内部には侵入しない。そのため、当該入射角度において発生する蛍光X線は非常に小さい。一方、入射角が全反射臨界角度より大きくなると、1次X線は、測定試料108内部に進入する。測定試料108内部に1次X線が進入すると、内部に進入した1次X線により励起された蛍光X線が発生し、その結果検出器138が検出する蛍光X線が増加する。
【0056】
次に、演算部142は、蛍光X線の強度と入射角度との関係を、入射角度について微分することによって微分曲線を取得する(S606)。具体的には、演算部142は、S604で取得した蛍光X線(Si−Kα線)の強度と入射角度との関係に対して、入射角度について微分することによって、
図8に示すような微分曲線を取得する。
【0057】
図8は、2種の測定試料108に対して、蛍光X線(Si−Kα線)の強度に基づいて取得した微分曲線を示す図である。2種の測定試料108は、シリコン基板、及び、表面に酸化ケイ素(SiO
2)薄膜が形成されたシリコン基板である。
【0058】
次に、演算部142は、微分曲線から全反射臨界角度を取得する(S608)。
図7に示すように、入射角度と蛍光X線の強度との関係が変曲点を有する。そのため、
図8に示すように、微分曲線はピークを有する。また、ピークの位置は測定試料108ごとに異なっている。演算部142は、S606で取得した微分曲線のピークにおける角度を全反射臨界角度として取得する。ここで
図7の横軸は、光学的に較正された入射角度である。
図7に示す実験結果は、シリコン基板を測定したものであり、全反射臨界角度である0.18°に変曲点を有する。また、
図8の横軸は、実際の装置で機械的に設定した入射角度である。すなわち、
図8の横軸は、光学的に較正される前の入射角度である。
図8に示す実験結果は、表面に酸化ケイ素(SiO
2)薄膜が形成されたシリコン基板(以下、試料SiO
2とする)と、既知の全反射臨界角度(0.18°)を有するシリコン基板(以下、試料Siとする)と、を測定したものである。
【0059】
なお、実際の装置を作製するにあたって、1次X線を照射する光学的原点角度に対して、試料台134を厳密に水平に設定することは困難である。また、試料載置時に、僅かではあるが角度誤差を生じる場合がある。そのため、取得した全反射臨界角度には、測定試料108の傾きによる誤差が含まれている。演算部142は、実際の装置により測定されたピーク角度に対して、当該誤差を考慮した補正を行って全反射臨界角度を算出してもよい。具体的には、例えば、
図8において、試料SiO
2の微分曲線のピークにおける入射角度は、0.06°であり、試料Siのピークにおける入射角度である-007°より0.01°大きい。これより、試料SiO
2の全反射臨界角度は、0.19°と算出される。
【0060】
次に、演算部142は、全反射臨界角度と1次X線の波長とに基づいて、測定試料108の密度を算出する(S610)。具体的には、演算部142は、S608で算出した全反射臨界角度及び測定試料108に照射した1次X線の波長を、全反射臨界角度と密度との関係を表す数1に適用することで測定試料108の密度を算出する。
【0062】
ここで、φcは全反射臨界角度である。αは、定数である。λは、測定試料108に照射した1次X線の波長である。Zは、原子番号である。Aは、質量数である。例えば、Tiの原子番号は22、質量数は48、Coの原子番号は27、質量数は59とする。1次X線としてW−Lβ線を用いる場合、λ=0.1282nmとする。これらの数値が用いられる単位系ではα=1.33を用いる。数1の右辺に含まれる未知数は、1次X線が照射された測定試料108の表面の密度ρ(g/cm3)のみである。また、左辺の全反射臨界角度は、S608において算出されている。従って、演算部142は、数1により密度を算出できる。
【0063】
次に、制御部132は、気相分解時間と乾燥時間を補正する(S612)。具体的には、演算部142は、S210において決定した気相分解時間及び乾燥時間を、数2を用いて補正する。
【0065】
ここで、tは、補正後の気相分解時間または乾燥時間である。ρはS610で算出された密度である。ρ
0は、予め設定された膜厚と気相分解時間との関係、及び、予め設定された膜厚と乾燥時間との関係を設定する際に、前提とした密度である。
【0066】
気相分解及び乾燥に要する時間は、膜厚だけでなく密度によっても変化する。上記方法によれば、気相分解時間及び乾燥時間を決定する際に、膜厚に加えて密度を考慮することで、より正確な気相分解時間及び乾燥時間を決定することができる。
【0067】
なお、密度は、膜厚だけでなく、付着量及び定数を補正するために用いてもよい。具体的には、例えば、S208において付着量を算出した場合には、上記と同じt値を用いて付着量を補正してもよい。そして、S210において、補正後の付着量に基づいて気相分解時間及び乾燥時間を決定してもよい。
【0068】
また、例えば、算出した膜厚に薄膜の材料ごとに異なる定数を乗じて気相分解時間及び乾燥時間を決定する場合には、当該定数を上記t値によって補正した上で、気相分解時間及び乾燥時間を決定してもよい。具体的には、算出した膜厚に上記定数及び上記t値を乗算することで気相分解時間及び乾燥時間を決定してもよい。
【0069】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上記蛍光X線分析システム100の構成は一例であって、これに限定されるものではない。上記の実施例で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成する構成で置き換えてもよい。
【0070】
例えば、上記において、X線分析装置106が蛍光X線分析装置である場合について説明した。しかし、X線分析装置106は、反射X線の強度に基づいて、薄膜の膜厚又は付着量を算出するX線反射率測定装置として構成してもよい。この場合、検出器138は、1次X線が測定試料108の表面または界面で反射した反射X線の強度を測定する。そして、S208やS610で算出する薄膜の膜厚や密度を、X線反射率測定によって取得してもよい。
【0071】
また、X線分析装置106及び気相分解装置104がそれぞれ独立した装置として構成される場合には、各装置は通信部を有するようにしてもよい。
【0072】
具体的には、例えば、気相分解装置104は、演算部142が算出した膜厚又は付着量を、当該X線分析装置106から直接またはホストコンピュータを介して取得する通信部を有してもよい。
【0073】
また、例えば、X線分析装置106が気相分解時間及び又は乾燥時間を決定し、決定した時間を、気相分解装置104に送信する構成としてもよい。具体的には、X線分析装置106は、に含まれる演算部は、予め設定された膜厚又は付着量と、気相分解時間または乾燥時間と、の関係を記憶する記憶部を有してもよい。そして、演算部142は、膜厚又は付着量を算出するだけでなく、算出した膜厚又は付着量と、予め設定された膜厚又は付着量と気相分解時間または乾燥時間との関係と、に基づいて、測定試料の気相分解時間または乾燥時間を決定してもよい。また、X線分析装置106は、演算部142が決定した気相分解時間を、測定試料108を気相分解する気相分解装置104またはホストコンピュータに送る通信部を有してもよい。また、気相分解装置104は、演算部142に決定された気相分解時間または乾燥時間を、当該X線分析装置106から直接またはホストコンピュータを介して取得する通信部を有してもよい。
【0074】
さらに、気相分解装置104は、エリプソメータや反射率計等の他の膜厚を測定する装置と組み合わせてもよい。この場合、気相分解装置104は、エリプソメータや反射率計によって測定された測定試料108の表面に存在する薄膜の膜厚又は付着量を、当該X線分析装置106から直接またはホストコンピュータを介して取得する通信部を有してもよい。
【解決手段】X線分析システムであって、X線分析装置と、気相分解装置と、を有するX線分析システムであって、前記X線分析装置は、表面に薄膜が存在する測定試料に1次X線を照射するX線源と、前記1次X線が前記測定試料の表面または界面で反射した反射X線の強度、または、前記1次X線により発生した蛍光X線の強度を測定する検出器と、前記反射X線または前記蛍光X線の強度に基づいて、前記薄膜の膜厚又は付着量を算出する演算部と、を有し、前記気相分解装置は、前記薄膜を気相分解する気相分解部と、前記演算部に算出された膜厚又は付着量に基づいて、気相分解時間を決定する制御部と、を有する。