特許第6618072号(P6618072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618072
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 3/43 20060101AFI20191202BHJP
   E02F 9/24 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
   E02F3/43 A
   E02F9/24 H
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-169136(P2015-169136)
(22)【出願日】2015年8月28日
(65)【公開番号】特開2017-44027(P2017-44027A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】方尺 翔太
(72)【発明者】
【氏名】村田 康一
(72)【発明者】
【氏名】柴田 雅史
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−214406(JP,A)
【文献】 特許第3145027(JP,B2)
【文献】 特開平06−280282(JP,A)
【文献】 特開平10−204925(JP,A)
【文献】 特開昭62−214407(JP,A)
【文献】 特開平05−321290(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0103247(US,A1)
【文献】 特公平03−024535(JP,B2)
【文献】 特開2010−053588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/42〜 3/85
E02F 9/00〜 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体、および、この下部走行体上に旋回可能に設けられた上部旋回体を備えた機体と、
上部旋回体に上下動可能に軸連結されたブーム、および、先端部に作動可能に設けられ荷を受け入れる作業部を備えた作業装置と、
オペレータの操作に応じて少なくとも上部旋回体の旋回およびブームの上下動を制御するコントローラとを具備し、
コントローラは、作業部により受け入れた荷をブーム上げおよび上部旋回体の旋回により運搬して荷受け体へと投入する持ち上げ旋回動作の少なくとも1回分の作業装置の先端側の一部の軌跡に基づき、その後の持ち上げ旋回動作時のオペレータの操作により作業装置が荷受け体に干渉する位置に移動しようとしたときにブーム上げ動作と上部旋回体の旋回動作との少なくともいずれかを規制することで作業装置の荷受け体への干渉を防止する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
コントローラは、持ち上げ旋回動作の少なくとも1回分の作業装置の先端側の一部の軌跡に基づいて荷受け体の存在範囲を推定する推定マップを生成し、その後の持ち上げ旋回動作時にオペレータの操作により作業装置がこの推定マップに推定する荷受け体の存在範囲内に移動しようとしたときにブーム上げ動作と上部旋回体の旋回動作との少なくともいずれかを制御して作業装置の荷受け体への干渉を防止する
ことを特徴とする請求項1記載の作業機械。
【請求項3】
コントローラは、荷の投入位置からブーム下げおよび上部旋回体の旋回により作業部を移動させる動作の作業装置の先端側の一部の軌跡が持ち上げ旋回動作での作業装置の先端側の一部の軌跡よりも荷受け体寄りであるときに、推定マップの荷受け体の存在範囲を縮小するように更新する
ことを特徴とする請求項2記載の作業機械。
【請求項4】
作業部は、荷の受け入れ位置が掘削位置となる掘削用のバケットである
ことを特徴とする請求項1乃至3いずれか一記載の作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷を受け入れる作業部を備えた作業装置を有する作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下部走行体上に旋回可能に軸支された上部旋回体に、例えばブーム、スティックおよびアームからなる作業装置を備える油圧ショベルなどの作業機械において、オペレータの操作に伴う上部旋回体の旋回や作業装置の各部の動作により、作業装置が各部に干渉(接触)することを防止する機能を備えたものがある。
【0003】
例えば、作業装置の高さを検出し、上部旋回体の旋回中に作業装置の高さが所定以下になったら旋回を停止する構成が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、トラックなどの荷受け体に荷を積み込むときの干渉防止に関する技術で、上部旋回体に距離測定器を設け、上部旋回体の旋回操作時に、距離測定器により測定した距離に基づき、上部旋回体が荷受け体に接近しすぎた場合に、その旋回を停止させる構成が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
さらに、障害物に対する作業装置の接触防止のために、作業機械の上方、下方、前方などに危険領域を設定し、作業装置をその手前で減速させた後停止させる構成が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平3−24535号公報
【特許文献2】特開2010−53588号公報
【特許文献3】特開平5−321290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の作業機械では、距離測定器などの専用のセンサ類による検出により干渉防止を行うため、これらセンサの設置が別途必要になるだけでなく、センサ類の汚れなどによっては干渉防止の精度が低下するおそれがある。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、専用の装置を別途用いることなく作業装置を荷受け体に対して精度よく干渉防止できる作業機械を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、下部走行体、および、この下部走行体上に旋回可能に設けられた上部旋回体を備えた機体と、上部旋回体に上下動可能に軸連結されたブーム、および、先端部に作動可能に設けられ荷を受け入れる作業部を備えた作業装置と、オペレータの操作に応じて少なくとも上部旋回体の旋回およびブームの上下動を制御するコントローラとを具備し、コントローラが、作業部により受け入れた荷をブーム上げおよび上部旋回体の旋回により運搬して荷受け体へと投入する持ち上げ旋回動作の少なくとも1回分の作業装置の先端側の一部の軌跡に基づき、その後の持ち上げ旋回動作時のオペレータの操作により作業装置が荷受け体に干渉する位置に移動しようとしたときにブーム上げ動作と上部旋回体の旋回動作との少なくともいずれかを規制することで作業装置の荷受け体への干渉を防止する作業機械である。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の作業機械におけるコントローラが、持ち上げ旋回動作の少なくとも1回分の作業装置の先端側の一部の軌跡に基づいて荷受け体の存在範囲を推定する推定マップを生成し、その後の持ち上げ旋回動作時にオペレータの操作により作業装置がこの推定マップに推定する荷受け体の存在範囲内に移動しようとしたときにブーム上げ動作と上部旋回体の旋回動作との少なくともいずれかを制御して作業装置の荷受け体への干渉を防止する作業機械である。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の作業機械におけるコントローラが、荷の投入位置からブーム下げおよび上部旋回体の旋回により作業部を移動させる動作の作業装置の先端側の一部の軌跡が持ち上げ旋回動作での作業装置の先端側の一部の軌跡よりも荷受け体寄りであるときに、推定マップの荷受け体の存在範囲を縮小するように更新する作業機械である。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3いずれか一記載の作業機械における作業部が、荷の受け入れ位置が掘削位置となる掘削用のバケットである作業機械である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、専用のセンサなどの装置を別途用いることなく、持ち上げ旋回動作時に少なくとも1回は作業装置が荷受け体に対して干渉しなかった軌跡を基準としてブーム上げ動作と上部旋回体の旋回動作との少なくともいずれかを規制することで作業装置の荷受け体への干渉を防止し、作業装置を荷受け体に対して精度よく干渉防止できる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、必要以上に複雑な計算などを用いることなく、ブーム上げ動作と上部旋回体の旋回動作との少なくともいずれかを規制することで作業装置の荷受け体への干渉を防止するための基準を設定できる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、荷の投入位置からブーム下げおよび上部旋回体の旋回により作業部を移動させる動作を利用して荷受け体の存在範囲をより精度よく設定でき、作業装置を荷受け体に対して、より効果的に干渉防止できる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、バケットにより掘削した土砂などの荷を、作業装置を荷受け体と接触させることなく効果的に荷受け体に投入できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る作業機械の一実施の形態を示す作業機械および荷受け体の側面図である。
図2】同上持ち上げ旋回動作時の荷受け体に対する作業機械の作業装置の先端側の軌跡を模式的に示す説明図である。
図3】同上作業機械の概要図である。
図4】同上作業機械の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、図1乃至図4に示された一実施の形態に基いて詳細に説明する。
【0019】
図1は、油圧ショベル型の作業機械10を示し、下部走行体11aに対し上部旋回体11bが旋回可能に設けられた機体11に対し、流体圧シリンダ(油圧シリンダ)としてのブームシリンダ12bmによって上下動される作業装置13が搭載されている。そして、この作業機械10は、トラックなどの荷受け体Tに対して、荷(土砂)を運搬して投入(排土)する作業などに用いられる。
【0020】
機体11は、上部旋回体11bが下部走行体11aに対して、流体圧モータ(油圧モータ)としての旋回モータ14(図3)により旋回される。また、機体11には、下部走行体11aに対する上部旋回体11bの旋回位置(旋回角度)を検出する旋回センサ15(図3)が設けられている。本実施の形態では、この旋回センサ15(図3)は、例えば角度センサが用いられる。なお、この機体11には、例えば機体11の傾斜などの姿勢を検出する機体姿勢センサ(傾斜センサ)などが設けられていてもよい。
【0021】
作業装置13は、上部旋回体11bにブーム13bmの基端が上下方向に回動自在に軸支され、このブーム13bmの先端にスティック13stが回動自在に軸支され、このスティック13stの先端に掘削用の作業部としてのバケット13bkが回動可能に軸支され、ブーム13bmはブームシリンダ12bmによって回動され、スティック13stは流体圧シリンダ(油圧シリンダ)としてのスティックシリンダ12stにより回動され、バケット13bkは流体圧シリンダ(油圧シリンダ)としてのバケットシリンダ12bkにより回動される。
【0022】
また、作業装置13には、ブーム13bm、スティック13stおよびバケット13bkの姿勢を検出するブーム姿勢検出手段、スティック姿勢検出手段およびバケット姿勢検出手段としてのセンサ17bm,17st,17bkがそれぞれ取り付けられているとともに、バケット13bkに受け入れた荷の重量(ペイロード)を検出する重量センサ18が取り付けられている。そして、これらセンサ17bm,17st,17bkにより、作業装置13の姿勢を検出する姿勢センサ17が構成されている。すなわち、姿勢センサ17は、作業装置13を構成するブーム13bm、スティック13stおよびバケット13bkのそれぞれの角度(位置)を検出する。
【0023】
センサ17bm,17st,17bkとしては、例えばポテンショメータなどとも呼ばれる角度センサや、位置を検出する位置センサなどが任意に用いられるが、本実施の形態では、例えばセンサ17bm,17stとして角度センサが用いられ、センサ17bkとして位置センサが用いられる。
【0024】
センサ17bmは、例えばブーム13bmを機体11(上部旋回体11b)に対して軸支するブームフートピン19bmに取り付けられている。
【0025】
センサ17stは、例えばスティック13stの基端側をブーム13bmの先端側に対して軸支する(スティック基端側)軸支ピン19stに取り付けられている。
【0026】
センサ17bkは、例えばバケットシリンダ12bkのロッドに取り付けられたマーカMの位置を、スティック13stの側部に取り付けられた検出部本体(レーザキャッチャ)Cにより検出することでバケットシリンダ12bkの伸縮を検出することにより、スティック13stに対するバケット13bkの位置(回動角度)を検出する。
【0027】
なお、センサ17bm,17st,17bkにより検出する回動角度としては、本実施の形態では、例えばボディチルトセンサを搭載することで絶対角度を検出することが可能となっているが、例えばブーム13bm、スティック13stおよびバケット13bkの機体11、ブーム13bmおよびスティック13stに対する相対角度をそれぞれ検出するようにしてもよい。
【0028】
重量センサ18は、任意の構成とすることができるが、例えばセンサ17bm,17stにより検出したブーム13bmおよびスティック13stの姿勢と、ブームシリンダ12bmのヘッド側圧およびロッド側圧を検出する圧力センサ18bmhおよび圧力センサ18bmrとから、モーメントの釣合を計算して、バケット13bk内の荷の重量を演算する。
【0029】
また、上部旋回体11bの一側部にはオペレータの作業空間を保護するキャブ20が搭載されている。このキャブ20内には、運転席21の左右部にそれぞれ設けられたコンソール22の上部に操作部としての操作レバー23が設けられている。また、このキャブ20内には、入力手段および表示手段の機能を有するモニタ29が設置されている。
【0030】
各操作レバー23は、図3に示されるように、その上部の前面部にプッシュボタン式のスイッチ25および親指操作輪式のスイッチ27が設けられている。これらのスイッチ25,27、または、図1に示されるモニタ29への入力操作のいずれかを、荷を受け入れたバケット13bkをブーム上げにより持ち上げつつ上部旋回体11bを下部走行体11aに対して旋回させる、持ち上げ旋回動作時の作業装置13の荷受け体Tへの干渉を自動防止する干渉防止機能の切替スイッチとして用いる。この干渉防止機能を有効としたときの動作および制御については後述する。
【0031】
そして、図3は、作業装置13を制御する制御回路の概要を示し、車載エンジン31により駆動されるメインポンプ32からシリンダ12bm,12st,12bkおよび旋回モータ14に供給される作動流体である作動油を制御する制御弁としてのスプール33bm,33st,33bk,33swが、ブロック35の内部に、それぞれ移動自在に設けられている。なお、このブロック35の内部には、その他に、走行モータ制御用スプールなどがそれぞれ移動自在に設けられているが、説明を明確にするために図示を省略する。
【0032】
ブームシリンダ12bmは、作業装置13(図1)を上下方向に作動する片ロッド型の油圧シリンダであり、操作レバー23により、伸び方向に作動されて図1に示される作業装置13(ブーム13bm)を機体11(上部旋回体11b)に対して上げ方向に動作させる(ブーム上げ)とともに、縮み方向に作動されて作業装置13(ブーム13bm)を機体11(上部旋回体11b)に対して下げ方向に動作させる(ブーム下げ)。
【0033】
スティックシリンダ12stは、スティック13stをブーム13bmに対して前後方向に作動する片ロッド型の油圧シリンダであり、操作レバー23(図3)により、伸び方向に作動されてスティック13stをブーム13bmに対して前方、すなわちオペレータから離反する方向に動作させる(スティックアウト)とともに、縮み方向に作動されてスティック13stをブーム13bmに対して後方、すなわちオペレータに接近する方向に動作させる(スティックイン)。
【0034】
バケットシリンダ12bkは、バケット13bkをスティック13stに対して前後方向に作動する片ロッド型の油圧シリンダであり、操作レバー23(図3)により、伸び方向に作動されてバケット13bkをスティック13stに対して前方に作動させる(バケットアウト)とともに、縮み方向に作動されてバケット13bkをスティック13stに対して後方に動作させる(バケットイン)。
【0035】
図3に戻って、電磁比例弁38bm,39bm,38st,39st,38bk,39bk,38sw,39swは、パイロットポンプ40から供給されたパイロット1次圧を、コントローラ37からの制御信号に応じたパイロット2次圧に変換して、各スプール33bm,33st,33bk,33swのパイロット圧作用部に作用させる減圧弁である。
【0036】
コントローラ37は、入力部が、旋回センサ15、姿勢センサ17(センサ17bk,17bm,17st)、重量センサ18および各操作レバー23と電気的に接続され、出力部が、電磁比例弁38bm,39bm,38st,39st,38bk,39bk,38sw,39swの各ソレノイドとそれぞれ電気的に接続されて、シリンダ12bm,12st,12bkおよび旋回モータ14を動作させる電気信号を出力する。なお、このコントローラ37は、電磁比例弁38bm,39bm,38st,39st,38bk,39bk,38sw,39swにより変換されたパイロット2次圧をそれぞれ電気的に検出してもよい。
【0037】
次に、図示された実施の形態の動作を説明する。
【0038】
作業機械10は、掘削によりバケット13bkに荷(土砂)を受け入れ、その荷を受け入れたバケット13bkをブーム上げにより持ち上げるとともに上部旋回体11bを下部走行体11aに対して旋回させて運搬する持ち上げ旋回動作を行い、荷をトラックなどの荷受け体Tに投入(排土)する一連の作業を繰り返すことで、所定量の荷を荷受け体Tに移送する。例えば、図1に示されるように、作業機械10の前方に荷受け体Tの後部が位置する場合、作業機械10は、バケット13bkにより掘削した後、バケットインしつつ上部旋回体11bが略90°旋回してこの一連の作業において、オペレータは、干渉防止機能を有効とするか否かを、例えばスイッチ25,27(図3)の切替え操作、またはモニタ29への入力などによって手動により設定できる。
【0039】
干渉防止機能が有効であるとき、コントローラ37は、1回目の荷の受け入れ位置、すなわち掘削位置(掘削ポイント)P1(図2)から、荷の投入位置、すなわち排土位置(排土ポイント)P2(図2)までの作業装置13の先端側の最小高さ、例えばバケット13bkまたはスティック13stの最低部の位置を順次記録することで、この作業装置13の先端側の軌跡T1(図2)を記録し、この軌跡T1(図2)に基づいてその後(2回目以降)の持ち上げ旋回動作時のオペレータの操作に対して作業装置13が荷受け体Tに干渉しないようにブーム上げ動作および上部旋回体11bの旋回動作を制御する。
【0040】
すなわち、1回目の作業の持ち上げ旋回動作時に作業装置13が荷受け体Tに対して干渉しないようにオペレータが慎重に操作をすることで、このときの作業装置13の先端側の軌跡を含みこの軌跡より外側、すなわち荷受け体Tから離隔される側の位置を移動する限り、作業装置13は荷受け体Tと干渉しないことが想定される。そのため、2回目以降の持ち上げ旋回動作において、1回目の軌跡の内側、すなわち荷受け体T側に作業装置13が入り込まないようにブーム上げおよび上部旋回体11bの旋回を制御することで、作業装置13の荷受け体Tへの干渉を防止できることが想定される。
【0041】
具体的に、コントローラ37は、まず、1回目の荷の受け入れ、すなわちバケット13bkによる掘削に続いて持ち上げ旋回動作を検出すると、姿勢センサ17のセンサ17bkにより検出するバケット13bkの最低部の位置、またはセンサ17stにより検出するスティック13stの最低部の位置、すなわち作業装置13の先端側の位置を、荷受け体Tへの荷の投入、すなわち排土を検出するまで記録する。なお、掘削の検出、持ち上げ旋回動作の検出、および、排土の検出は、それぞれ例えば操作レバー23の操作入力、重量センサ18(センサ18bmh,18bmr)により検出する荷の重量(ブームシリンダ12bmのヘッド圧およびロッド圧)、その変化の速度、旋回センサ15により検出する上部旋回体11bの旋回角度、その変化の速度および方向、姿勢センサ17(センサ17bk,17bm,17st)により検出するバケット13bk、ブーム13bmおよびスティック13stの位置、その変化の速度および方向などの少なくともいずれかに基づいて行われる、既知の任意の方法が用いられる。そして、コントローラ37は、上記の記録した位置を連続的にプロットすることで算出した作業装置13の先端側(バケット13bkの最低部、またはスティック13stの最低部)の軌跡T1に基づき、荷受け体Tの存在範囲(位置)を推定した推定マップを生成する。そして、2回目以降の荷の受け入れ(掘削)から荷の投入(排土)の一連の作業の際には、持ち上げ旋回動作時のバケット13bkの最低部の位置、またはスティック13stの最低部の位置、すなわち作業装置13の先端側の位置、速度および方向を監視し、この作業装置13の先端側の位置が推定マップ中の荷受け体Tの存在範囲に接触しようとすると、オペレータの操作を無視してこの接触を回避するように、スプール33bmおよび/またはスプール33swの開度を制御することで、ブーム上げおよび上部旋回体11bの旋回動作を制御する。
【0042】
なお、1回目の排土が終了すると、オペレータは、ブーム下げおよび上部旋回体11bの下部走行体11aに対する旋回(逆方向への旋回)を行うことで、バケット13bkを掘削位置に戻し、2回目の掘削を開始する。ここで、干渉防止機能が有効であるとき、コントローラ37は、1回目以降の排土以降の動作において、排土位置から掘削位置に戻るまでの作業装置13の先端側、例えばバケット13bkまたはスティック13stの最低部の位置を順次記録することで、この作業装置13の先端側の軌跡T2を記録し、この軌跡T2に基づいて推定マップを更新してもよい。
【0043】
すなわち、排土位置は、作業機械10と荷受け体Tとの相対位置が変化しない限り、基本的に毎回ほぼ同じ位置となることが想定されるものの、排土位置から戻した掘削位置は毎回変わることも想定される(例えば図2の掘削位置P1,P1a)。また、作業装置13の先端側(バケット13bkの最低部、またはスティック13stの最低部)の軌跡T2が軌跡T1よりも内側、すなわち荷受け体T寄りに入り込んだにも拘らず作業装置13が荷受け体Tと干渉しなければ、荷受け体Tの存在範囲が現在の推定より小さいことが想定される。このため、軌跡T2のうち、軌跡T1よりも荷受け体T寄りとなった位置に対応させて、荷受け体Tの存在範囲を縮小するように推定マップを更新することで、以降の持ち上げ旋回動作時の干渉防止機能の精度の向上が期待できる。
【0044】
具体的に、コントローラ37は、排土を検出すると、姿勢センサ17のセンサ17bkにより検出するバケット13bkの最低部の位置、またはセンサ17stにより検出するスティック13stの最低部の位置、すなわち作業装置13の先端側の位置を、荷の受け入れ、すなわち掘削を検出するまで記録する。そして、コントローラ37は、上記の記録した位置を連続的にプロットすることで算出した作業装置13の先端側(バケット13bkの最低部、またはスティック13stの最低部)の軌跡T2のうち、軌跡T1よりも内側である荷受け体T寄りの位置、換言すれば荷受け体Tの存在範囲内に入り込んだ部分がある場合には、この部分において荷受け体Tの存在範囲を縮小する。
【0045】
このコントローラ37による制御を図4に示すフローチャートも参照しながら詳細に説明する。なお、フローチャート中の丸数字は、ステップ番号を示す。
【0046】
(ステップ1)
コントローラ37は、干渉防止機能が有効であるか否かを判定する。このステップ1において、干渉防止機能が有効でない(無効である)と判定した場合にはステップ1を繰り返し、干渉防止機能が有効であると判定した場合にはステップ2に進む。
【0047】
(ステップ2)
コントローラ37は、掘削を検出したか否かを判定する。このステップ2において、掘削を検出していないと判定した場合にはステップ2を繰り返し、掘削を検出したと判定した場合にはステップ3に進む。
【0048】
(ステップ3)
コントローラ37は、排土を検出したか否かを判定する。このステップ3において、排土を検出したと判定した場合にはステップ2に戻り、排土を検出していないと判定した場合にはステップ4に進む。
【0049】
(ステップ4)
コントローラ37は、持ち上げ旋回を検出したか否かを判定する。このステップ4において、持ち上げ旋回を検出していないと判定した場合にはステップ3に戻り、持ち上げ旋回を検出したと判定した場合にはステップ5に進む。
【0050】
(ステップ5)
コントローラ37は、作業装置13の先端側(バケット13bkの最低部、またはスティック13stの最低部)の位置と上部旋回体11bの旋回角度との記録を開始し、ステップ6に進む。
【0051】
(ステップ6)
コントローラ37は、排土を検出したか否かを判定する。このステップ6において、排土を検出していないと判定した場合にはステップ5に戻り、排土を検出したと判定した場合にはステップ7に進む。
【0052】
(ステップ7)
コントローラ37は、作業装置13の先端側(バケット13bkの最低部、またはスティック13stの最低部)の位置と上部旋回体11bの旋回角度との記録を終了し、この記録から算出される軌跡T1に基づいて推定マップを生成し、ステップ8に進む。この段階で、1回目の掘削、持ち上げ旋回および排土の一連の作業が終了する。
【0053】
(ステップ8)
コントローラ37は、掘削を検出したか否かを判定する。このステップ8において、掘削を検出していないと判定した場合にはステップ9に進み、掘削を検出したと判定した場合にはステップ10に進む。
【0054】
(ステップ9)
コントローラ37は、作業装置13の先端側(バケット13bkの最低部、またはスティック13stの最低部)の位置と上部旋回体11bの旋回角度とを記録し、ステップ8に戻る。
【0055】
(ステップ10)
コントローラ37は、記録した作業装置13の先端側(バケット13bkの最低部、またはスティック13stの最低部)の位置と上部旋回体11bの旋回角度とから算出される軌跡T2に基づいて、すなわち現在の作業装置13の先端側の位置に基づいて、必要に応じて推定マップを更新し、ステップ11に進む。すなわち、軌跡T2が軌跡T1よりも荷受け体Tの存在範囲寄りにある場合には、推定マップを更新し、そうでない場合には推定マップを更新しない。
【0056】
(ステップ11)
コントローラ37は、排土を検出したか否かを判定する。このステップ11において、排土を検出したと判定した場合にはステップ8に戻り、排土を検出していないと判定した場合にはステップ12に進む。
【0057】
(ステップ12)
コントローラ37は、持ち上げ旋回を検出したか否かを判定する。このステップ12において、持ち上げ旋回を検出していないと判定した場合にはステップ11に戻り、持ち上げ旋回を検出したと判定した場合にはステップ13に進む。
【0058】
(ステップ13)
コントローラ37は、現在の作業装置13の先端側(バケット13bkの最低部、またはスティック13stの最低部)の位置、速度および方向と推定マップとを比較して、ブーム上げおよび/または上部旋回体11bの旋回の制御をするか否かを判定する。すなわち、コントローラ37は、作業装置13の先端側の位置、速度および方向が推定マップ中の荷受け体Tの存在範囲内に移動しようとしている場合には、オペレータの操作を無視してこの荷受け体Tの存在範囲を回避するようにブーム上げおよび/または上部旋回体11bの旋回を制御すると判定する。このステップ13において、制御をすると判定した場合にはステップ14に進み、制御をしないと判定した場合にはステップ15に進む。
【0059】
(ステップ14)
コントローラ37は、スプール33bmを介してブームシリンダ12bmのヘッド側またはロッド側に供給する作動油の流量および方向、および/または、スプール33swを介して旋回モータ14に供給する作動油の流量および方向を制御することにより、ブーム上げおよび/または上部旋回体11bの旋回を制御し、ステップ15に進む。
【0060】
(ステップ15)
コントローラ37は、排土を検出したか否かを判定する。このステップ15において、排土を検出していないと判定した場合にはステップ13に戻り、排土を検出したと判定した場合にはステップ16に進む。
【0061】
(ステップ16)
コントローラ37は、干渉防止機能が無効であるか否かを判定する。このステップ16において、干渉防止機能が無効でない(有効である)と判定した場合にはステップ8に戻り、干渉防止機能が無効であると判定した場合には制御を終了する。
【0062】
上述したように、上記一実施の形態によれば、バケット13bkにより受け入れた荷をブーム上げおよび上部旋回体11bの旋回により運搬して荷受け体Tへと投入する持ち上げ旋回動作の少なくとも1回分の作業装置13の先端側の一部の軌跡T1に基づき、その後の持ち上げ旋回動作時のオペレータの操作に対して作業装置13が荷受け体Tに干渉しないようにブーム上げ動作と上部旋回体11bの旋回動作との少なくともいずれかを制御するので、専用のセンサなどの装置を別途用いることなく、持ち上げ旋回動作時に少なくとも1回は作業装置13が荷受け体Tに対して干渉しなかった軌跡T1を基準としてブーム上げ動作と上部旋回体11bの旋回動作との少なくともいずれかを制御することができ、作業装置13を荷受け体Tに対して精度よく干渉防止できる。
【0063】
すなわち、一般的な作業機械10は、その姿勢や動作、および、荷の重量などを監視するために、旋回センサ15、姿勢センサ17および重量センサ18などを通常備えているので、これらのセンサ15,17,18を用いて上記の制御を行うことができ、追加のセンサなどが不要であるとともに、例えばバケット13bkやスティック13stの先端側に、その前方の物体との距離を測定する測距センサなどを用いる場合のように、掘削作業などによる測距センサへの土砂の付着などが生じにくく、センサの汚れに起因する精度の低下などを招きにくい。
【0064】
具体的に、持ち上げ旋回動作の少なくとも1回分の作業装置13の先端側の一部の軌跡T1に基づいて荷受け体Tの存在範囲を推定する推定マップを生成することで、必要以上に複雑な計算などを用いることなく、その後の持ち上げ旋回動作時にオペレータの操作に対して作業装置13がこの推定マップに推定する荷受け体Tの存在範囲内に移動しないようにブーム上げ動作と上部旋回体11bの旋回動作との少なくともいずれかを制御するための基準を設定できる。
【0065】
また、持ち上げ旋回動作以外の動作時には、ブーム上げ動作および上部旋回体11bの旋回動作などを制御しないので、干渉防止機能を有効としている場合でも、作業装置13を移動させる範囲の自由度を確保できる。
【0066】
さらに、荷の投入位置からブーム下げおよび上部旋回体11bの旋回によりバケット13bkを移動させる動作の作業装置13の先端側の一部の軌跡T2が持ち上げ旋回動作での作業装置13の先端側の一部の軌跡T1よりも荷受け体T寄りであるときに、推定マップの荷受け体Tの存在範囲を縮小するように更新することで、荷の投入位置からブーム下げおよび上部旋回体11bの旋回によりバケット13bkを移動させる動作を利用して荷受け体Tの存在範囲をより精度よく設定でき、作業装置13を荷受け体Tに対して、より効果的に干渉防止できるとともに、作業装置13が荷受け体Tと干渉することなく、かつ、コントローラ37によるブーム上げ動作や上部旋回体11bの旋回動作の制御を受けることなく作業装置13を荷受け体Tに対して動作可能な範囲を広げることができる。
【0067】
そして、作業部としてバケット13bkにより掘削した土砂などの荷を、作業装置13を荷受け体Tと接触させることなく効果的に荷受け体Tに投入できる。したがって、バケット13bkを作業装置13に備える油圧ショベルなどの作業機械10に好適に用いることができる。
【0068】
この結果、バケット13bkを用いた掘削から持ち上げ旋回および排土までの一連の作業を高い安全性で容易に行うことができて作業装置13の荷受け体Tとの干渉のリスクを低減できるとともに、バケット13bkによる掘削位置が変更になっても対応できる。
【0069】
なお、上記一実施の形態において、コントローラ37は、持ち上げ旋回動作の少なくとも1回分の作業装置13の先端側の一部の軌跡T1に基づいて荷受け体Tの存在範囲を推定する推定マップを生成したが、この構成に限定されず、持ち上げ旋回動作の少なくとも1回分の作業装置13の先端側の一部の軌跡T1と現在の作業装置13の先端側の位置とを直接比較してブーム上げ動作および/または上部旋回体11bの旋回動作を制御することなどもできる。
【0070】
また、作業部としては、バケット13bkに限らず、例えば荷を掴むグラップルなど、荷を荷受け体Tに運搬して投入することができる任意のものを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、油圧ショベル型作業機械に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0072】
T 荷受け体
10 作業機械
11 機体
11a 下部走行体
11b 上部旋回体
13 作業装置
13bk 作業部としてのバケット
13bm ブーム
37 コントローラ
図1
図2
図3
図4