(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施例1〕
[制動制御装置の構成]
図1は制動制御装置1のシステム図である。実施例1の制動制御装置1は、駆動源としてエンジンとモータを有するハイブリッド車両、または駆動源としてモータのみを有する電気自動車に用いられる。制動制御装置1は、ブレーキペダルのストローク量を検出するブレーキペダルストロークセンサ2と、車両の各車輪の車輪速を検出する車輪速センサ3と、駆動源のモータにより回生制動を行う回生制動装置4と、ブレーキ液圧よる摩擦制動を行う摩擦制動装置5と、回生制動装置4および摩擦制動装置5を制御するコントロールユニット6を有している。
コントロールユニット6は、ブレーキペダルストロークに応じた目標制動力を算出する目標制動力算出部60と、車輪のアンチロックブレーキ制御を行うアンチロックブレーキ制御部61と、回生制動装置4および摩擦制動装置5に指令制動力を出力する制動制御部62とを有している。
制動制御部62は、目標制動力算出部60が算出した目標制動力を発生するように、回生制動装置4に指令回生制動力を、摩擦制動装置5に指令摩擦制動力を出力する。
【0009】
[各制動装置の動作]
図2はブレーキペダルストローク、車速、回生制動力、摩擦制動力、減速度のタイムチャートである。
制動時には、電力の回収量を増大するため出来るだけ回生制動装置4による制動を行う。しかし、モータの慣性力があるため回生制動装置4の制動力のみで車両を停止させようとすると制動距離が長くなる。そのため、車両停止前に回生制動装置4による制動から摩擦制動装置5による制動に切り替えるすり替え制御を行う必要がある。
すり替え制御の開始(ts)は、すり替え制御を完了するすり替え終了車速となる時間(te)に対して所定時間前に設定される。言い換えると、すり替え制御の開始(ts)は、所定時間後(時間(te))にすり替え終了車速となるときに設定される。つまり、すり替え制御の開始は車速と減速度から決めることができる。
図2の回生制動力のタイムチャートに示すように、回生制動力がすり替え終了時間teまでに回生制動力をゼロにするすり替え基準値を設定している。制動制御部62は回生制動力がすり替え基準値を超えないように制御している。
【0010】
またバッテリの充電容量等に応じ出力可能な回生制動力(出力可能回生制動力)が設定されている。制動制御部62は回生制動力が出力可能回生制動力を超えないように制御している。
図2では出力可能回生制動力は一定としている。
時間t1において、運転者がブレーキペダルを踏み込み、ブレーキペダルストロークが発生する。時間t2まではブレーキペダルストロークがブレーキON判定閾値を超えていないため、目標制動力算出部60は目標制動力としてゼロを出力する。
時間t2においてブレーキペダルストロークがブレーキON判定閾値を超えると、目標制動力算出部60はブレーキストロークが大きくなるのに応じて目標制動力を大きくなるように設定する。
すり替え制御前(時間t2〜ts)では、指令回生制動力は目標制動力に設定される。指令摩擦制動力は目標制動力と実回生制動力との差分に設定される。つまり、回生制動力により目標制動力を実現するように制御するとともに、目標制動力に対して実回生制動力が不足する分を摩擦制動力により補償するようにしている(時間t3〜t4)。
【0011】
すり替え制御時(時間ts〜te)には、指令回生制動力はすり替え基準値に設定される。指令摩擦制動力は、指令摩擦制動力は目標制動力に対して減少した回生制動力に合わせて設定される。言い換えると、指令摩擦制動力は目標制動力とすり替え基準値の差分に従って設定される。しかし、指令摩擦制動力に対する実摩擦制動力の応答性が低いため、実摩擦制動力は指令制動力に対してずれることがある。そのため、すり替え制動時においては、目標制動力と実摩擦制動力との差分の制動力を指令回生制動力として設定する。つまり、指令摩擦制動力に対する実摩擦制動力の変動分を回生制動力により補償するようにしている。これにより、実回生制動力がすり替え基準値を超えることもあるが、実摩擦制動力が指令摩擦制動力に追従しないことによる減速度の変動を抑制することができる。
【0012】
[作用]
図3はすり替え制御時に、回生制動力により指令摩擦制動力に対する実摩擦制動力の変動分を補償しなかったときのタイムチャートである。
図3に示すように、指令摩擦制動力に対して実摩擦制動力の変動するため、その変動分が減速度の変動となる。そのため運転者に違和感を与えるおそれがあった。
そこで実施例1では、すり替え制御時には、算出された目標制動力となるように摩擦制動力を変化させ、実摩擦制動力と目標制動力との差分の制動力を回生制動力として発生させるようにした。これにより、目標制動力に対する実回生制動力と実摩擦制動力とを合わせた制動力の変動を抑制することができ、車両の減速度の変動を抑制することができる。
また実施例1では、すり替え制御時には、摩擦制動力を増加させ、回生制動力を減少させるようにした。これにより、車両停止時には摩擦制動力により停止することができ、車両停止距離を短縮することができる。
また実施例1では、すり替え制御時には、指令摩擦制動力の増加勾配を指令回生制動力の減少勾配に合わせて設定し、実摩擦制動力の変動分を回生制動力により補償するようにした。これにより、目標制動力に対する実回生制動力と実摩擦制動力とを合わせた制動力の変動を抑制することができ、車両の減速度の変動を抑制することができる。
また実施例1では、すり替え制御前では、目標制動力と実回生制動力との差分の制動力を指令摩擦制動力とした。これにより、回生制動装置4によりできるだけ制動力を発生させるようにして、エネルギの回収効率を向上させることができる。
また実施例1では、すり替え制御は、所定時間経過後の車速が予め決定した車速以下になったときに開始するようにした。これにより、エネルギの回収効率を高めつつ、車両停止距離を短縮することができる。
【0013】
[効果]
(1) 車輪に対して回生制動力(電気制動力)を発生させる回生制動装置4(電気制動装置)と、作動することによって車輪に対して摩擦制動力を発生させる摩擦制動装置5と、
を備えた車両の制動制御装置1であって、目標制動力を算出する目標制動力算出部60と、所定の条件が成立すると、算出された目標制動力となるように摩擦制動装置5により発生させる制動力を変化させ、摩擦制動装置5により発生する制動力と目標制動力との差分の制動力を回生制動装置4により発生させる制動制御部62と、を設けた。
よって、目標制動力に対する実回生制動力と実摩擦制動力とを合わせた制動力の変動を抑制することができ、車両の減速度の変動を抑制することができる。
(2) 制動制御部62は、所定の条件が成立すると、摩擦制動装置5により発生させる制動力を増加させ、回生制動装置4により発生させる制動力を低下させるようにした。
よって、車両停止時には摩擦制動力により停止することができ、車両停止距離を短縮することができる。
【0014】
(3) 制動制御部62は、所定の条件が成立すると、摩擦制動装置5により発生させる制動力の増加勾配を回生制動装置より発生させる制動力の減少勾配に合わせて設定し、摩擦制動装置5の変動分を回生制動装置4により発生させる制動力により補償するようにした。
よって、目標制動力に対する実回生制動力と実摩擦制動力とを合わせた制動力の変動を抑制することができ、車両の減速度の変動を抑制することができる。
(4) 制動制御部62は、所定の条件が成立する前は、算出された目標制動力と回生制動装置4により発生させる制動力との差分の制動力を摩擦制動装置5によって発生させるようにした。
よって、回生制動装置4によりできるだけ制動力を発生させるようにして、エネルギの回収効率を向上させることができる。
(5) 所定の条件は、車速が予め決定した車速以下になったときとした。
よって、エネルギの回収効率を高めつつ、車両停止距離を短縮することができる。
【0015】
(6) 車輪に対して回生制動力を発生させる回生制動装置4と、作動することによって車輪に対して摩擦制動力を発生させる摩擦制動装置5と、と備えた車両の制動制御装置1であって、運転者のブレーキ操作量に応じた目標制動力を算出する目標制動力算出部60と、算出された目標制動力となるように、回生制動装置4と摩擦制動装置5を作動させ、所定の条件が成立すると、算出された目標制動力となるように摩擦制動装置5により発生させる制動力を増加させ、摩擦制動装置5により発生させる制動力と目標制動力との差分の制動力を回生制動装置4により発生させるすり替え制御を行う制動制御部62と、を設けた。
よって、目標制動力に対する実回生制動力と実摩擦制動力とを合わせた制動力の変動を抑制することができ、車両の減速度の変動を抑制することができる。
(7) 制動制御部62は、すり替え制御が開始すると、摩擦制動装置5により発生させる制動力の増加勾配を回生制動装置4により発生させる制動力の減少勾配に合わせて設定し、摩擦制動装置5により発生させる制動力の変動分を回生制動装置4により発生させる制動力により補償するようにした。
よって、目標制動力に対する実回生制動力と実摩擦制動力とを合わせた制動力の変動を抑制することができ、車両の減速度の変動を抑制することができる。
【0016】
(8) 運転者のブレーキ操作量に応じて目標制動力を算出する目標制動力算出部60と、算出した目標制動力になるように車両に設けられた回生制動装置4および/または摩擦制動装置5に制動力指令を与え、所定の条件が成立する前は、算出された目標制動力となるように回生制動装置4により発生させる制動力を変化させ、回生制動装置4により発生させる制動力と目標制動力との差分の制動力を摩擦制動装置5により発生させ、所定の条件が成立すると、算出された目標制動力となるように摩擦制動装置5により発生させる制動力を変化させ、摩擦制動装置5により発生させる制動力と目標駆動力との差分の制動力を回生制動装置4により発生させてすり替え制御を行う制動制御部62とを備えた。
よって、目標制動力に対する実回生制動力と実摩擦制動力とを合わせた制動力の変動を抑制することができ、車両の減速度の変動を抑制することができる。また、回生制動装置4によりできるだけ制動力を発生させるようにして、エネルギの回収効率を向上させることができる。
(9) 目標制動力は、運転者のブレーキ操作量に応じて算出され、制動制御部62は、すり替え制御開始後にブレーキ操作量が増加したときは摩擦制動装置5により発生させる制動力を増加させ、回生制動装置4より発生させる制動力を低減するように制御するようにした。
よって、車両停止時には摩擦制動力により停止することができ、車両停止距離を短縮することができる。
【0017】
〔実施例2〕
実施例2では、すり替え制御開始前にアンチロックブレーキ制御が介入したときの回生制動力と摩擦制動力の制御について説明する。制動制御装置1のシステム構成は実施例1と同じであるが、制御の内容が一部異なる。以下では、実施例1と異なる部分のみ説明する。
図4はブレーキペダルストローク、車速、回生制動力、摩擦制動力、減速度のタイムチャートである。
時間t5において、アンチロックブレーキ制御が介入すると、すり替え制御前であっても回生制動力を減少させる。このとき、回生制動力の減少率に対して摩擦制動力の増加率が追従できるように、回生制動力の減少率を設定する。摩擦制動力が目標制動力付近まで上昇するとアンチロックブレーキ制御部61の指令に従って、アンチロックブレーキ制御の対象の輪のブレーキ液圧の増減を行う。
[効果]
(10) アンチロックブレーキ制御部61を備え、制動制御部62は、アンリロックブレーキが介入すると、回生制動装置4により発生させる制動力を低減し、摩擦制動装置5によりアンチロックブレーキ制御を行うようにした。
よって、アンチロックブレーキ制御中は回生制動装置4による制動をやめ、摩擦制動装置5のみによって制動を行うことにより、アンチロックブレーキ制御を容易に行うことができる。
【0018】
〔実施例3〕
実施例3では、運転者により急制動操作が行われたときの回生制動力と摩擦制動力の制御について説明する。制動制御装置1のシステム構成は実施例1と同じであるが、制御の内容が一部異なる。以下では、実施例1と異なる部分のみ説明する。
図5はブレーキペダルストローク、車速、回生制動力、摩擦制動力、減速度のタイムチャートである。
時間t6において運転者がブレーキペダルを踏み増し、時間t7において目標制動力が急制動判断閾値を超え、急制動操作が行われたと判断される。急制動操作が行われたと判断されると摩擦制動力を増加させる。
時間tsにおいて、目標制動力が基準回生制動力を超え、すり替え制御が開始させる。すり替え制御開始後も運転者によるブレーキペダルの踏み増しが行われている。指令回生制動力は回生制動力を減少させるように設定される。指令摩擦制動力は、目標制動力と実回生制動力との差分の制動力を出力するように設定される。このとき、指令回生制動力は実摩擦制動力の変動を補償するように設定される。
[効果]
(11) 目標制動力は、運転者のブレーキ操作量に応じて算出され、制動制御部62は、所定の条件が成立後に、ブレーキ操作量が増加したときには、摩擦制動装置5により発生する制動力を増加させ、回生制動装置4により発生する制動力を低減して目標制動力を達成するようにした。
よって、すり替え制御開始後のブレーキペダル踏み増しに対しても、目標制動力を達成することができる。
【0019】
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施例1〜3に基づいて説明してきたが、各発明の具体的な構成は実施例1〜3に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
ブレーキパッドとブレーキロータとの間に隙間があるため、ブレーキ液圧が発生しても実摩擦制動力が発生しない液圧の範囲がある。すり替え制御開始後であっても、ブレーキ液圧が実摩擦制動力が発生しない液圧の範囲にあるときには、回生制動力を減少させないようにしても良い。
図6はブレーキペダルストローク、車速、回生制動力、摩擦制動力、減速度のタイムチャートである。
すり替え制御開始後(時間ts後)、ブレーキ液圧が制動力無効液圧を超えるまで(時間t8まで)は、回生制動力を減少させないようにする。これにより、実摩擦制動力が発生していないときも回生制動力により制動力を確保することができる。
【0020】
またすり替え制御前に、目標制動力が出力可能回生制動力を超えたときには、すり替え制御前であっても回生制動力を減少させ、摩擦制動力を増加させるようにしても良い。
図7はブレーキペダルストローク、車速、回生制動力、摩擦制動力、減速度のタイムチャートである。
図7では出力可能制動力に対して一定の制動力分低い値を補償回生制動力として設定している。補償回生制動力は、実回生制動力が出力可能制動力を超えることがないように、指令回生制動力が出力可能制動力を超える前に回生制動力に制限するために設定されている。
時間t9において、出力可能制動力が減少を始め、それに伴い補償回生制動力も減少を始める。出力可能制動力は例えば、バッテリの充電容量に応じて設定され、バッテリの充電容量が満充電に近くなるほど出力可能制動力は小さな制動力に設定される
時間t10において、目標制動力が補償回生制動力を超える。回生制動力を減少させるため指令摩擦制動力が増加するが、実摩擦制動力は指令摩擦制動力に対して遅れて増加する。このとき指令回生制動力は、実摩擦制動力が増加し始めるまで回生制動力が減少しないように設定される。指令回生制動力は、実摩擦制動力が増加し始めると、その増加に合わせて回生制動力が減少するように設定される。
これにより、回生制動力が出力可能回生制動力(補償回生制動力)を超える場合であっても、摩擦制動力の応答遅れを回生制動力で補償することができる。
【0021】
〔請求項以外の技術的思想〕
更に、上記実施例から把握しうる請求項以外の技術的思想について、以下に記載する。
(A) 請求項8に記載の車両の制動制御装置において、
前記制動制御部は、前記すり替え制御が開始すると、前記摩擦制動装置により発生させる制動力の増加勾配を前記回生制動装置により発生させる制動力の減少勾配に合わせて設定し、
前記摩擦制動装置により発生させる制動力の変動分を前記回生制動装置により発生させる制動力により補償することを特徴とする車両の制動制御装置。
(B) 上記(A)に記載の車両の制動制御装置において、
前記制動制御部は、前記所定の条件が成立する前は、前記算出された目標制動力と前記回生制動装置により発生させる制動力との差分の制動力を前記摩擦制動装置によって発生させていることを特徴とする車両の制動制御装置。
(C) 上記(B)に記載の車両の制動制御装置において、
前記所定の条件は、車速が予め決定した車速以下になったときであることを特徴とする車両の制動制御装置。
【0022】
(D) 請求項9に記載の車両の制動制御装置において、
前記制動制御部は、前記すり替え制御が開始すると、前記摩擦制動装置により発生させる制動力の増加勾配を前記回生制動装置により発生させる制動力の減少勾配に合わせて設定し、
前記摩擦制動装置により発生させる制動力の変動分を前記回生制動装置により発生させる制動力により補償することを特徴とする車両の制動制御装置。
(E) 上記(D)に記載の車両の制動制御装置において、
前記所定の条件は、車速が予め決定した車速以下になったときであることを特徴とする制動制御装置。
(F) 上記(E)に記載の車両の制動制御装置において、
前記目標制動力は、運転者のブレーキ操作量に応じて算出され、
前記制動制御部は、前記すり替え制御開始後に前記ブレーキ操作量が増加したときは前記摩擦制動装置により発生させる制動力を増加させ、前記回生制動装置により発生させる制動力を低減するように制御することの特徴とする車両の制動制御装置。
(G) 上記(E)に記載の車両の制動制御装置において、
アンチロックブレーキ制御部を備え、
前記制動制御部は、アンチロックブレーキ制御が介入すると、前記回生制動力により発生する制動力を低減し、前記摩擦制動装置によりアンチロックブレーキ制御を行うことを特徴とする車両の制動制御装置。