(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6618106
(24)【登録日】2019年11月22日
(45)【発行日】2019年12月11日
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20191202BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20191202BHJP
H01G 9/035 20060101ALI20191202BHJP
【FI】
H01G9/028 F
H01G9/028 G
H01G9/00 290C
H01G9/035
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-528175(P2014-528175)
(86)(22)【出願日】2013年7月30日
(86)【国際出願番号】JP2013070631
(87)【国際公開番号】WO2014021333
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2016年7月11日
【審判番号】不服2018-12767(P2018-12767/J1)
【審判請求日】2018年9月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-169629(P2012-169629)
(32)【優先日】2012年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(72)【発明者】
【氏名】黒田 宏一
(72)【発明者】
【氏名】川上 淳一
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 正郎
【合議体】
【審判長】
井上 信一
【審判官】
石坂 博明
【審判官】
山澤 宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−66502(JP,A)
【文献】
特開2001−185458(JP,A)
【文献】
特開昭61−182212(JP,A)
【文献】
特開2003−109880(JP,A)
【文献】
特開2012−124239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G9/00
H01G9/028
H01G9/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性ポリマーの粒子または粉末と溶媒とを含む分散体を含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成するとともに、該固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、エチレングリコール及びγ−ブチロラクトンを含む混合溶媒と、有機酸、無機酸、及び有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、及びアミン塩から選ばれる溶質と、を含むイオン伝導性物質を充填させた固体電解コンデンサであって、前記エチレングリコールは、混合溶媒に対して10〜60wt%添加し、前記γ−ブチロラクトンは、混合溶媒に対して40wt%以下添加したことを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記イオン伝導性物質の混合溶媒に、更にスルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホランから選ばれる少なくとも1種の溶媒を含むイオン伝導性物質を充填させたことを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記分散体の溶媒がエチレングリコールを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性ポリマーの粒子または粉末と溶媒とを含む分散体を含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成する工程と、該固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、混合溶媒に対して10〜60wt%のエチレングリコール及び混合溶媒に対して40wt%以下のγ−ブチロラクトンを含む混合溶媒と、有機酸、無機酸、及び有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、及びアミン塩から選ばれる溶質と、を含むイオン伝導性物質を充填させる工程と、を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ及びその製造方法に係り、特に、耐電圧特性が良好な固体電解コンデンサ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用を有する金属を利用した電解コンデンサは、陽極側対向電極としての弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にして誘電体を拡面化することにより、小型で大きな容量を得ることができることから、広く一般に用いられている。特に、電解質に固体電解質を用いた固体電解コンデンサは、小型、大容量、低等価直列抵抗であることに加えて、チップ化しやすく、表面実装に適している等の特質を備えていることから、電子機器の小型化、高機能化、低コスト化に欠かせないものとなっている。
【0003】
この種の固体電解コンデンサにおいて、小型、大容量用途としては、一般に、アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極箔と陰極箔をセパレータを介在させて巻回してコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子に駆動用電解液を含浸し、アルミニウム等の金属製ケースや合成樹脂製のケースにコンデンサ素子を収納し、密閉した構造を有している。なお、陽極材料としては、アルミニウムを初めとしてタンタル、ニオブ、チタン等が使用され、陰極材料には、陽極材料と同種の金属が用いられる。
【0004】
また、固体電解コンデンサに用いられる固体電解質としては、二酸化マンガンや7、7、8、8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られているが、近年、反応速度が緩やかで、かつ陽極電極の酸化皮膜層との密着性に優れたポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDOTと記す)等の導電性ポリマーに着目した技術(特許文献1)が存在している。
【0005】
このような巻回型のコンデンサ素子にPEDOT等の導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成するタイプの固体電解コンデンサは、以下のようにして作製される。まず、アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極箔の表面を塩化物水溶液中での電気化学的なエッチング処理により粗面化して、多数のエッチングピットを形成した後、ホウ酸アンモニウム等の水溶液中で電圧を印加して誘電体となる酸化皮膜層を形成する(化成)。陽極箔と同様に、陰極箔もアルミニウム等の弁作用金属からなるが、その表面にはエッチング処理を施すのみである。
【0006】
このようにして表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔とエッチングピットのみが形成された陰極箔とを、セパレータを介して巻回してコンデンサ素子を形成する。続いて、修復化成を施したコンデンサ素子に、3,4−エチレンジオキシチオフェン(以下、EDOTと記す)等の重合性モノマーと酸化剤溶液をそれぞれ吐出し、あるいは両者の混合液に浸漬して、コンデンサ素子内で重合反応を促進し、PEDOT等の導電性ポリマーからなる固体電解質層を生成する。その後、このコンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに収納して固体電解コンデンサを作製する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−15611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、上述したような固体電解コンデンサが車載用や一般電源回路用として用いられるようになり、25Vや63V程度の高耐電圧が要求されるに至っている。このような用途に使用すべく、高温下での熱安定性や、低温での充放電性能、更なる低ESR化などの要求項目を満たす固体電解コンデンサが要望されている。
【0009】
また、近年、環境問題から高融点の鉛フリー半田が用いられるようになり、半田リフロー温度が200〜220℃から230〜270℃へとさらに高温化している。このような高温下におかれる半田リフローを行う場合、電解質層の熱劣化又は結晶化によるものと思われるが、耐電圧が低下する。なお、このような問題点は、重合性モノマーとしてEDOTを用いた場合に限らず、他のチオフェン誘導体、ピロール、アニリン等を用いた場合にも同様に生じていた。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、鉛フリーリフロー等による耐電圧特性の劣化を防止することができる高耐電圧の固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
さらに、本発明の目的は、低温での充放電性能を確保しつつ、ESRを低減し、高温において長寿命な固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、種々検討を重ねた結果、以下の結論に達したものである。
【0013】
通常、導電性ポリマーを形成した後のコンデンサ素子内には、導電性ポリマーの他に、重合反応に関与しなかったモノマーや酸化剤及びその他の反応残余物が存在している。そして、これらの導電性ポリマー以外の物質の耐電圧は導電性ポリマーの耐電圧より低いため、これらの物質が固体電解コンデンサの耐電圧を低下させていると考えられる。そこで、本発明者等は、導電性ポリマーの粒子または粉末と溶媒とを含む分散体を含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成することで、これらの反応残余物自体が混入しないようにすると共に、鉛フリーリフローによる耐電圧特性の劣化を防止すべく検討を重ねた結果、本発明を完成するに至ったものである。
【0014】
すなわち、本発明の固体電解コンデンサは、陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性ポリマーの粒子または粉末と溶媒とを含む分散体を含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成するとともに、該固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、エチレングリコール及びγ−ブチロラクトンを含む混合溶媒と、有機酸、無機酸、及び有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、及びアミン塩から選ばれる溶質と、を含むイオン伝導性物質を充填させ
た固体電解コンデンサであって、前記エチレングリコールは、混合溶媒に対して10〜60wt%添加し、前記γ−ブチロラクトンは、混合溶媒に対して40wt%以下添加したことを特徴とする。
【0015】
また、前記のような固体電解コンデンサを製造するための方法も本発明の1つである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鉛フリーリフロー等による耐電圧特性の劣化を防止することができる。また、本発明によれば、高耐電圧特性を有し、低温での充放電性能を確保しつつ、低ESRで、高温においても長寿命な固体電解コンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る固体電解コンデンサを製造するための代表的な製造手順を開示しつつ、本発明を更に詳しく説明する。
【0018】
(固体電解コンデンサの製造方法)
本発明に係る固体電解コンデンサの製造方法の一例は、以下の通りである。すなわち、表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子に修復化成を施す(第1の工程)。続いて、このコンデンサ素子を、導電性ポリマーの粒子または粉末と溶媒とを含む分散体に含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成する(第2の工程)。その後、このコンデンサ素子を所定のイオン伝導性物質に浸漬して、コンデンサ素子内の空隙部にこのイオン伝導性物質を充填する(第3の工程)。そして、このコンデンサ素子を外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着して、加締め加工によって封止した後、エージングを行い、固体電解コンデンサを形成する(第4の工程)。
【0019】
(第1の工程における修復化成の化成液)
修復化成の化成液としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液を用いることができるが、なかでも、リン酸二水素アンモニウムを用いることが望ましい。また、浸漬時間は、5〜120分が望ましい。
【0020】
(第2の工程における導電性高分子化合物分散体)
導電性高分子化合物分散体は、PEDOTの粉末とポリスチレンスルホン酸からなるドーパントの固形分を混合したものが好ましい。また、導電性高分子化合物分散体の溶媒は、導電性高分子化合物の粒子または粉末が溶解するものであれば良く、主として水が用いられる。ただし、必要に応じて分散体の溶媒としてエチレングリコールを用いてもよい。分散体の溶媒としてエチレングリコールを用いると、製品の電気的特性のうち、特にESRを低減できることが判明している。なお、導電性高分子化合物分散体の含浸性、電導度の向上のため、導電性高分子化合物分散体に各種添加剤を添加したり、カチオン添加による中和を行っても良い。
【0021】
(導電性高分子化合物分散体への含浸)
コンデンサ素子を導電性高分子化合物分散体に含浸する時間は、コンデンサ素子の大きさによって決まるが、φ5×3L程度のコンデンサ素子では5秒以上、φ9×5L程度のコンデンサ素子では10秒以上が望ましく、最低でも5秒間は含浸することが必要である。なお、長時間含浸しても特性上の弊害はない。また、このように含浸した後、減圧状態で保持すると好適である。その理由は、揮発性溶媒の残留量が少なくなるためであると考えられる。また、導電性高分子化合物分散体の含浸ならびに乾燥は、必要に応じて複数回行ってもよい。
【0022】
(第3の工程におけるイオン伝導性物質)
コンデンサ素子内で導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成した後、コンデンサ素子内に充填するイオン伝導性物質としては、通常の状態ではイオン解離している(解離定数を有する)電解質溶液(電解コンデンサ用電解液)を用いることができる。電解質溶液に使用できる溶媒としては、その沸点が、寿命試験温度である120℃以上の溶媒を用いることが好ましい。溶媒の例としては、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール、スルホラン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。特に、エチレングリコールおよびγ−ブチロラクトンからなる混合溶媒を用いると、初期のESR特性が良好となり、さらに高温特性も良好となる。
【0023】
即ち、エチレングリコールおよびγ−ブチロラクトンからなる混合溶媒を用いた場合、後述する実施例からも明らかな通り、エチレングリコールを含まない溶媒を用いた場合と比較して、初期のESRが低下するとともに、長時間の使用において静電容量の変化率(ΔCap)が小さいことが判明している。その理由は、エチレングリコールは、導電性ポリマーのポリマー鎖の伸張を促進する効果があるため、電導度が向上し、ESRが低下したと考えられる。また、γ−ブチロラクトンやスルホランよりも、エチレングリコールのようなヒドロキシル基を有するプロトン性溶媒のほうがセパレータや電極箔、導電性ポリマーとの親和性が高いため、電解コンデンサ使用時の電解質溶液が蒸散する過程において、セパレータや電極箔、導電性ポリマーと電解質溶液との間で電荷の受け渡しが行われやすく、ΔCapが小さくなると考えられる。また、混合溶媒中におけるエチレングリコールの添加量は、好ましくは10〜80wt%である。
【0024】
また、電解質溶液の溶媒としてγ−ブチロラクトンを所定量添加させることで、電解質溶液のコンデンサ素子への含浸性を改善できる。比較的粘性の高いエチレングリコールと粘性が低いγ−ブチロラクトンを用いることで、コンデンサ素子への含浸性を高め、初期特性及び長時間の使用での良好な特性を維持とともに、低温での充放電特性が良好となる。なお、混合溶媒中のγ−ブチロラクトンが多いと電解液の蒸散性が高まり、期待される特性が維持されにくいため、混合溶媒中におけるγ−ブチロラクトンの添加量は、好ましくは、10〜60wt%である。
【0025】
さらに、イオン伝導性物質のエチレングリコールおよびγ−ブチロラクトンからなる混合溶媒に、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホランから選ばれる少なくとも1種の溶媒を追加的に用いてもよい。これらスルホラン系の溶媒は高沸点であるため、電解質溶液の蒸散を抑制し、高温特性が良好になる。混合溶媒中のこれらスルホラン系の溶媒の添加量は、好ましくは、10〜50wt%である。
【0026】
電解質溶液としては、上記の溶媒と、有機酸、無機酸ならびに有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩等の溶質とからなる溶液を挙げることができる。上記有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6−デカンジカルボン酸、1,7−オクタンジカルボン酸、アゼライン酸等のカルボン酸、フェノール類が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸エステル、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。
【0027】
また、上記有機酸、無機酸、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩として、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩等が挙げられる。4級アンモニウム塩の4級アンモニウムイオンとしてはテトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。アミン塩のアミンとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミンが挙げられる。1級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなど、2級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミンなど、3級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0028】
さらに、電解質溶液の溶質として、ボロジサリチル酸の塩を使用すると、後述する実施例からも明らかな通り、−40℃でのESR特性が良好となる。また、電解質溶液の添加剤として、ポリオキシエチレングリコール、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物、ニトロ化合物(o−ニトロ安息香酸、m−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、o−ニトロフェノール、m−ニトロフェノール、p−ニトロフェノールなど)、リン酸エステルなどが挙げられる。
【0029】
(イオン伝導性物質の充填条件)
上記のようなイオン伝導性物質をコンデンサ素子に充填する場合、その充填量は、コンデンサ素子内の空隙部に充填できれば任意であるが、コンデンサ素子内の空隙部の3〜100%が好ましい。
【0030】
(作用・効果)
上記のように、コンデンサ素子内に導電性ポリマーを形成した後、このコンデンサ素子を所定のイオン伝導性物質に浸漬して、コンデンサ素子内の空隙部にこのイオン伝導性物質を充填することにより、鉛フリーリフローによる耐電圧特性の劣化を防止することができる。
【0031】
この理由については、上記のとおり作製したコンデンサ素子内には従来のような重合反応残余物がそもそも存在せず、導電性ポリマーの耐電圧より低い反応残余物による耐電圧の低下を抑制できる結果、耐電圧を向上させるためと考えられる。また、鉛フリーリフローによる耐電圧特性の劣化を防止することができる理由は、上記のイオン伝導性物質は熱的に安定であるので、鉛フリーリフロー条件下でも、前述の耐電圧向上効果は低下しないためであると考えられる。
【0032】
さらに、イオン伝導性物質として、エチレングリコール及びγ−ブチロラクトンを含む混合溶媒と、有機酸、無機酸、及び有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、及びアミン塩から選ばれる溶質と、を含むことにより、低温での充放電性能を確保しつつ、低ESR化、高温での長寿命化を達成することができる。
【実施例】
【0033】
続いて、以下のようにして製造した実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
【0034】
まず、表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔に電極引き出し手段を接続し、両電極箔をセパレータを介して巻回して、素子形状が6.3φ×6.1Lのコンデンサ素子を形成した。そして、このコンデンサ素子をリン酸二水素アンモニウム水溶液に40分間浸漬して、修復化成を行った。その後、PEDOTの微粒子とポリスチレンスルホン酸を水溶液に分散した導電性高分子化合物分散体に浸漬し、コンデンサ素子を引き上げて約150℃で乾燥した。さらに、このコンデンサ素子の導電性高分子化合物分散体への浸漬−乾燥を複数回繰り返して、コンデンサ素子に導電性高分子からなる導電性高分子層を形成した。その後、このコンデンサ素子に、表1に示す電解質溶液を充填した。そして、このコンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着して、加締め加工によって封止した。その後に、電圧印加によってエージングを行い、固体電解コンデンサを形成した。なお、この固体電解コンデンサの定格電圧は35WV、定格容量は27μFである。
【表1】
EG:エチレングリコール
GBL:γ−ブチロラクトン
TMS:スルホラン
3MSN:3−メチルスルホラン
PEG:ポリオキシエチレングリコール
PhA:フタル酸
BSalA:ボロジサリチル酸
AzA:アゼライン酸
BeA: 安息香酸
TEA:トリエチルアミン
TMA:トリメチルアミン
EDMI:1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム
NH
3:アンモニア
【0035】
表1で作製した固体電解コンデンサの初期のESR特性および125℃、1500時間無負荷放置試験を行ったときのESR特性、電解質溶液の抜け量、ΔCapの結果を表2に示す。なお、本明細書において、ESR特性はすべて100kHz(20℃)における値を示している。また、電解質溶液の抜け量は、初期の製品重量と上記放置試験後の製品重量との差で測定している。
【表2】
【0036】
表2の結果より、比較例1と実施例1、または比較例2と実施例2を比較すると、エチレングリコールおよびγ−ブチロラクトンの混合溶媒を用いた実施例1及び実施例2は、初期のESRが低く、さらに高温試験後においても特性劣化が小さいことが分かった。また、実施例3〜7のとおり、溶質のアニオン成分やカチオン成分を変化させたり、添加剤としてポリオキシエチレングリコールを添加しても同様の効果が得られることが分かった。
【0037】
ここで、実施例1および実施例2の固体電解コンデンサの低温充放電特性(100000サイクル、−40℃)を行い、ESR特性を測定した。その結果、実施例1は50mΩ、実施例2は37mΩであった。このことから、溶質としてボロジサリチル酸塩を用いることによって、低温特性が良好であることが分かった。低温における劣化は、低温での電解質溶液の凝固や粘度上昇によって電導度が悪化することにより導電性ポリマーに電流集中が生じて、導電性ポリマーの過酸化が起こってしまうため、ESRが上昇する。実施例2で用いたボロジサリチル酸の酸化電位は、導電性ポリマーの酸化電位よりも貴方向にあるため、酸化防止剤として働き、これにより導電性ポリマーの酸化を抑制していると考えられる。
【0038】
次に、表3に、エチレングリコール及びγ−ブチロラクトンの添加量を変化させたときの電解質溶液の組成、初期のESR特性、125℃、1500時間無負荷放置試験後のESR特性、ΔCap及び低温充放電特性(100000サイクル、−40℃)を示す。
【表3】
【0039】
表3の結果より、エチレングリコールの添加量を増加させることにより、初期のESR特性および高温におけるコンデンサ特性が良好になることが分かった。しかしながら、エチレングリコールの添加量を90wt%とした
比較例8においては、低温充放電特性が上昇する結果となった。また、γ−ブチロラクトンの添加量を60wt%とした
比較例6は、γ−ブチロラクトンの添加量を100wt%とした比較例1や90wt%とした
比較例4に比べて初期のESR特性および高温におけるコンデンサ特性が良好になることが分かった。
【0040】
次に、PEDOTの微粒子とポリスチレンスルホン酸を水溶液に分散したものにエチレングリコールを10%添加し、導電性高分子化合物分散体を作製し、電解質溶液としては実施例2と同様の組成とし、固体電解コンデンサを作製した(実施例16)。この固体電解コンデンサの初期のESR特性、125℃、1500時間無負荷放置試験後のESR特性およびΔCapを表4に示す。
【表4】
【0041】
表4の結果より、導電性高分子化合物分散体にエチレングリコールを添加することにより、初期のESRが低下することが分かった。さらに、高温無負荷放置試験後においても、ESR特性が良好である。
【0042】
次に、比較例2および実施例2の電極箔及びエージング条件を変更して固体電解コンデンサを作製し、各々を比較例3および実施例17とした。また、イオン伝導性物質を充填しないこと以外は実施例17と同様の方法で固体電解コンデンサを作製し、従来例1とした。なお、これら固体電解コンデンサの定格電圧は63WV、33μFである。
【0043】
上記のとおり作製した固体電解コンデンサの耐電圧特性の検証を行った。表5に、従来例1、比較例3および実施例17のリフロー前の耐電圧上昇率およびリフロー後の耐電圧下落率を示す。リフロー前の耐電圧上昇率とは、従来例1のリフロー前の耐電圧を基準とし、比較例3および実施例17の耐電圧上昇率を示すものである。一方、リフロー後の耐電圧下落率とは、各固体電解コンデンサのリフロー前の耐電圧を基準とし、リフローを行うことによる耐電圧の下落率を示すものである。ここで、リフローのピーク温度は260℃とした。
【表5】
【0044】
表5に記載のとおり、従来例1に対する比較例3のリフロー前の耐電圧上昇率は5%であったのに対し、実施例17は11%と大きく上昇していることが分かる。また、従来例1および比較例3のリフロー後の耐電圧下落率はそれぞれ10%、4%と大きく減少し、劣化しているのに対し、実施例17は1%未満とほぼ変化せずに維持している。この結果より、本発明の固体電解コンデンサは高耐電圧特性を有し、リフロー温度が高温であっても耐電圧特性の劣化を防止できることが分かった。